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東京地方裁判所 平成12年(行ウ)334号 判決 2002年2月21日

主文

1  被告らは、東京都渋谷区に対し、連帯して金7702円及びこれに対する平成12年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、被告ら及び参加人の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告らは、渋谷区に対し、連帯して、金7707円及びこれに対する平成12年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は、渋谷区民である原告が、平成9年9月に、渋谷区が区内の町会の記念行事に祝儀として渡す清酒を購入するために区長交際費7707円を支出したことが違法であるとして、渋谷区長である被告A、同区の総務部総務課長事務取扱であった被告B及び同区の収入役であった被告Cに対し、地方自治法242条の2第1項4号に基づく損害賠償請求として、渋谷区に代位して、同支出相当額の損害賠償金及び本件訴状送達の日の翌日(各被告に対する本件訴状送達日のうち最も早期の日からの遅延損害金を請求する趣旨と解する。)である平成12年11月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2  判断の前提となる事実(証拠を掲記しない事実は当事者間に争いがないか弁論の全趣旨によって容易に認められるものである。)

(1)  当事者

原告は、渋谷区の住民である。平成9年9月当時、被告Aは渋谷区長の地位に、被告Bは総務課長事務取扱総務部参事の地位に、被告Cは収入役の地位に、それぞれあったものである。

(2)  渋谷区における区長交際費の会計事務の手続及び会計事務上の権限

ア 平成9年当時、渋谷区の区長交際費は、東京都渋谷区会計事務規則(昭和39年渋谷区規則第9号、平成11年12月28日付けで改正前のもの。以下「旧会計事務規則」という。)79条1項23号により、資金前渡の方法により処理することができるとされていたので、区長交際費の支出については、資金前渡の方法により処理していた。

具体的には、①支出命令権者による、収入役等から資金前渡受者に対する資金の前渡を行う旨の支出命令、②収入役等による当該支出命令の審査、③収入役等による資金前渡受者に対する資金の前渡、④資金前渡受者による契約の締結(債務の負担)、⑤資金前渡受者による債権者に対する直接支払、⑥資金前渡受者による前渡金の清算及び収入役による清算書の審査という流れになる。(乙2)

イ 総務課長による支出命令

旧会計事務規則5条1項1号によれば、部に属する支出命令に関する事務は、当該部の予算事務を所管する課長に委任されていたので、区長交際費の支出命令に関する事務は総務課長に委任されていた。同規則79条3項2号によれば、資金前渡の方法により処理するものについて、毎月必要とする経費は、毎月分の所要額を予定して、その範囲内において前渡することとなるので、総務課長は、毎月当初、当該月分の所要額について、収入役に対して支出命令を行っていた。(乙2)

ウ 収入役らによる審査及び支出

東京都渋谷区収入役室の組織に関する規則(昭和39年渋谷区規則第15号。以下「収入役室の組織に関する規則」という。)によれば、支出命令の審査は、1件金額50万円以下のものについては副収入役が専決することとなっているので、副収入役が審査を行い、1件金額50万円を超えるものについては、収入役が審査を行っていた。旧会計事務規則79条1項23号によれば、交際費の資金前渡は所管課長宛に行うこととなるので、支出命令の審査完了後、収入役らは、総務課長宛に支出していた。(乙2、乙4)

エ 総務課長による契約の締結

渋谷区契約事務規則(昭和39年渋谷区規則第22号、平成10年3月31日付けで改正前のもの)3条2項本文によれば、資金前渡受者には、その受けた資金の範囲内で処理する売買、貸借、請負その他の契約に関する権限が委任されており、資金前渡受者は、前渡金の中からの支払を伴う契約の締結、すなわち債務の負担を行う。(丙2、3)

オ 総務課長による区長交際費の支出

総務課長は、区長が交際費の支出が必要であると判断したとき、その都度保管中の現金から支払いを行った。その際、旧会計事務規則81条によれば、前渡金から支出するときは、支出の相手方から領収書を徴する(領収書を徴し難いときは、支払済調書を作成する。)必要があったので、総務課長は、領収書の徴取又は支払済調書の作成を行っていた(乙2)。また、併せて、前渡金出納簿に、支払月日、支出金額、残金を記入し、摘要欄に渋谷区長交際費支出基準及び支出細目の分類に応じてその項目を記載していた。

カ 総務課長による区長交際費の清算

渋谷区においては、区長交際費の清算については、旧会計事務規則82条1項3号の規定により、10数年前から収入役と協議の上、以下のとおり処理を行っていた。

総務課長は、毎月、当該月の区長交際費の支出の清算を、清算書に分類された項目ごとに集計された「交際費支払済調書」を添付して行い、個々の領収書、支払済調書は、総務課長が保管していた。

なお、月末において、保管金に残金がある場合は、総務課長は、旧会計事務規則82条2項の規定に基づき、戻入を行っていた。(乙2)

キ 副収入役による清算書の審査

収入役室の組織に関する規則5条3号によれば、資金前渡清算書の審査は、副収入役が専決できる事項とされており、本件支出がされた平成9年当時も、実際に副収入役が清算書の審査を行っていた。(乙4)

(3)  本件支出の経緯

ア 被告Bは、平成9年8月22日、区長交際費の支出命令権者として、9月分60万円の支出命令を収入役に対して行った。(甲7の6)

イ 上記支出命令を受けた被告Cは、同支出命令についての審査を行い、同年同月27日、当該審査を完了したことから、翌9月1日、9月分の区長交際費60万円を資金前渡受者である被告Bに対し支出し、同日、被告B名の領収印を徴した。(甲1)

ウ 被告Bは、被告Aから、渋谷区内の2つの町会で、それぞれ記念行事が行われるので、祝儀として送るための清酒(一升瓶)2本ずつ計4本を区長交際費で購入するように指示を受け、株式会社香取屋に対し、清酒(大関慶祝)4本を注文し、平成9年9月5日、株式会社香取屋から清酒4本が納品された。この際、請求書(兼領収書)を受け取った。

エ 被告Bは、平成9年10月1日、株式会社香取屋から同年9月5日に納品された清酒の購入代金の集金の連絡を受けたので、区長交際費から7702円を支出し、前渡金出納簿上の処理を行った。

オ 被告Bは、平成9年11月6日、同年10月31日付の「交際費支払済調書」を添付し、前記エの支出を含む10月分の区長交際費56万7932円に係る前渡金支払清算書を収入役室に提出するとともに、戻入額3万2068円を返納することにより、10月分の区長交際費についての清算を行った。(甲8の7、9の7)

カ 原告は、前記エの支出から1年経過する前である平成10年7月17日に「平成8年度、平成9年度における区長交際費の支出に係る一切の書類(区長交際費支出基準、支出原議、支出命令書、前渡金出納簿、清算書、収入通知書、支出済調書及び領収書類)」について、渋谷区長に対し情報公開請求を行い、渋谷区長は、この請求について、平成10年8月7日に、区長交際費支出基準、平成9年度の支出原議、支出命令書、前渡金出納簿、清算書、収入通知書及び交際費支払済調書を公開とし、領収書類は非公開とすることを決定し、平成8年度分の書類は廃棄済により不存在である旨通知した。

原告は、前記非公開処分を不服として、平成10年11月10日に非公開決定処分の取消しを求める訴訟を提起したが、渋谷区長は、同訴訟が係属中である平成12年5月11日に、前記の平成9年度分の領収書類の非公開決定を変更し、個人名及び発行者の印影等を除いてこれを公開することを決定した。(甲3)

(4)  監査請求

原告は、本件支出が使途不明であって違法であるとして、前記(3)カの文書公開に係る変更決定から2か月余を経た平成12年7月21日に、渋谷区監査委員に対し、地方自治法242条1項に基づき監査請求を行った。同監査請求は、平成9年度における他の区長交際費に係る支出と同一の監査請求により行われたが、これに対し、渋谷区監査委員は、同監査請求は、監査請求期間経過後にされたものであるが、支出関係書類が平成12年5月に至るまで公開されなかったことにかんがみ、これらの書類が公開されるまでは、相当の注意力をもって調査しても知ることができなかったと考えられる違法事由を指摘している部分のみを受理することとし、本件支出については、使途が不明であるとの違法事由が区長交際費支出基準及び支出細則に抵触する事実を具体的に摘示したものとは認められないとして、監査請求の対象として取り扱わず、何らの判断を示さなかった。(甲3)

3  争点

原告は、本件支出の使途が不明であること、仮に被告ら主張の使途で支出されたとしても区長交際費の性格を逸脱したものであることを主張し、被告Bが支出を行ったこと、被告Aが当該支出について指揮監督権の行使を怠ったこと、被告Cは、違法な本件支出があるにもかかわらず清算手続を行ったことがそれぞれ違法であるとして、被告らに対して損害賠償請求をするものであるが、これに対し、被告Cは、本件支出につき財務会計行為の権限を有しておらず、また、清算書の審査は独自の財務会計行為ではないから、同人は地方自治法242条の2第4項の「当該職員」に該当しないこと、また、原告が監査請求において清算手続そのものを問題としておらず、被告Cに対する請求は監査請求を経ていないものといえることから、被告Cに対する訴えを不適法なものであると主張し、さらに、被告らは、本件支出が区長交際費として適正に支出されたものであるとして、原告の請求を争う。

よって、本件の争点は①被告Cの「当該職員」該当性(争点1)、②被告Cに対する訴えが監査請求を経たものといえるか(争点2)、③本件支出の違法性(争点3)、④各被告の責任原因(争点4)である。

なお、本件においては、本件訴えの前提となる本件支出についての監査請求が渋谷区監査委員により不受理の取扱いを受けているため、本件訴えが適法な監査請求を受けたといえるか否かが問題となるが、被告らは、監査請求の不受理を理由とする訴えの違法性に関する主張をしないし、原告が監査請求の理由とした使途が不明であるとの違法事由についても、支出関係書類を閲覧してはじめて判明することと考えられるから、前記2(3)カの同書類が公開されるまでの経過に照らすと、監査請求期間の徒過についても「正当な理由」があると認められる。

4  争点に関する当事者の主張

争点1(被告Cの「当該職員」該当性)

ア  被告C

本件支出は、被告Bが株式会社香取屋に対して金員を支払った時点で完結したと解すべきであり、また、同被告に対して資金前渡を行った後は、同被告の保管する前渡金についての個々の支出自体については収入役は何ら関わりを有していないのであるから、被告Cは、地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」には該当しない。

イ  原告

一般に、収入役は、支出命令を受けた場合においても、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認した上でなければ、支出をすることができない(地方自治法232条の4)とされ、会計機関が執行機関の行った支出負担行為を確認した上、支出を行うとの制度が採られている。

そして、資金前渡の場合には、資金前渡を受けた職員が、自己の責任において自己の名で正当な債権者に支払をするものであるから、収入役が個々の支出命令に基づいてこれを審査して支払をするということを認めており、この点において、会計機関による確認の制度の例外といえるが、渋谷区においても、前渡金の運用に当たっては、旧会計事務規則によって規定されている。

被告Cは、旧会計事務規則80条2項で「収入役は、資金の前渡を受けた者に対して預金通帳、証拠書類又は前渡金出納簿について、臨時に調査し又は現金の出納若しくは保管の状況について報告を求めることができる。」ものとされ、同規則82条において「用件終了後又は支払期間経過後、前渡金支払清算書を作成し、証拠書類を添え、5日以内に収支命令者を経由して、収入役に提出すること」とされていることにかんがみれば、前渡金について清算書の審査という財務会計行為によってその適正を監督する立場にあるものといえるから、地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当する。

争点2(被告Cに対する訴えの監査請求前置)

ア  原告

原告は、資金前渡による本件支出の違法性を問題としているところであるが、旧会計事務規則79条ないし83条の清算手続の規定によれば、当初の資金前渡受者に対する支出から、収入役による清算書の審査までが規定に基づいて正しく行われて初めて、財務会計上の行為が成立すると解するのが相当であり、原告が監査請求において、支出そのものを問題としている以上、清算書の審査の手続も監査請求の対象となる。

イ  被告C

仮に、前渡金の清算書に対する収入役の審査が財務会計上の行為であるとしても、本件訴えの提起に先立ち行われた原告の監査請求書によれば、区長交際費としての支出が不当であり、区に対し返還させるよう求める旨のものであって、収入役の上記審査が違法ないし不当である旨の監査請求は、一切されていない。

したがって、本件訴えのうち、被告Cによる前渡金の清算書に対する審査が違法であるから、これにより被告C個人が損害賠償責任を負うべきであるとの部分は、監査請求を経ていないというべきである。

(3) 争点3(本件支出の違法性)

ア  原告

本件支出については、領収証記載の日付け及び金額と前渡金出納簿記載の日付け及び金額との間に相違がある上、被告らはその具体的使途を明らかにしないから違法な支出といえる。

また、区長交際費は、単に執行機関としての区長にとどまらず、渋谷区という地方公共団体を代表しての区長という立場で外部との交際上要する経費に支出するためのものであって、本件の支出は区長交際費の性格から逸脱したものである。平成9年度予算についてみても、町会に対しては、様々な名目で相当額の補助金が支出されており、そのような手厚い助成を受けている町会に対して、公の事業推進に係る交渉の場合や、その町会の周年行事以外の場合に交際費を支出する正当性はない。

イ  被告ら

(ア) 前渡金出納簿上の記載は7702円とされており、他方領収書には7707円との記載があり、両記載の間には5円の誤差が生じているが、これは、当初支出する段階で7702円の支出であると誤認し、支出の準備をしたところ、支出する際、領収書に7707円との記載があったため、被告Bにおいて差額5円を負担し、再度支出手続を行うのが煩雑であると考えたため、金額が僅少であることもあって、そのまま私費負担したことによるものであり、支出が架空であることもないし、この誤差により支出が違法となるものでもない。

(イ) 渋谷区における区長交際費は、渋谷区の代表者としての区長が、渋谷区の行政の円滑運営や法人としての渋谷区がその社会的役割を果たすために社会通念上必要とされる支出に当てるものとして予定されている予算であり、その使途は、地域団体との交流等幅広く、相当な範囲の支出にわたるものである。

渋谷区には、計106の町会が組織されており、各町会は、地域活性化その他のための自発的な活動や、区と区民のつなぎ役として住民の区に対する要望のとりまとめを行うほか、町の清掃、防災活動のほか、区が主体となって、又は区と区民が一体となって行う様々な事業活動の場面において重要な役割を担ったり、区の各種付属機関等の委員として町会の代表者等が参加するなど、よりよい区政の実現に貢献する活動を行っているもので、渋谷区の行政の円滑な執行のためには、各町会との関係が円満であることが求められる。また、町会は、事実上、区と住民とのパイプ役になっており、全区民がいずれかの町会に加入しているわけではないものの、町会が民主的な運営の下に自主的に活動するものであり、区民の町会への加入が自由であって、町会が区議会や区議会議員とも異なった立場で民意を区政に反映させる機能を果たしていることなどからすれば、区が町会と協力し、ないしは区が町会を活用して行政運営を行うことは、広く区民の声を反映した区政の実現を図るという目的の下においては、住民投票の制度等と同様の効果を有するものであるといえる。

町会に対し、区長交際費を支出することは、社会的慣習に基づく儀礼としての支出であって、これにより区と町会の円満な関係の構築、維持ができ、その結果、渋谷区の行政が円滑に行われ、渋谷区の社会的役割が果たされるのであるから、交際費を町会に支出することは交際費の適切な使途といえる。

そして、本件においては、区内のある町会が行った記念行事に対し、それぞれ祝儀として贈る清酒の購入のために、各3800円強の支出を行ったものである。区としてすべての町会に祝儀等を贈ることは事実上困難であり、送り先を明らかにすることは区と各町会の協力関係、信頼関係が損なわれることとなるから、送り先となった2町会の名前や具体的な行事の内容を明らかにすることはできないが、これらの支出も、金額や使途目的などを総合的に評価すれば、社会的相当性があるといえる。

町会に支給されている各種補助金と区長交際費は、経費の性格も使途目的も全く異なるものであるから、各種補助金の存在が本件支出の違法性を基礎付けるものとはいえない。

(4) 争点4(各被告の責任原因)

ア  原告

被告Aについて

被告Aは、本件支出当時の区長であるから、区長交際費に関する支出負担行為の権限について、総務課長であった被告Bに対して委任をしたものとして受任者である被告Bを監督する義務があったにもかかわらず、自ら被告Bに本件支出負担行為及び支出の内容となる行為を指示したものであるから、区に対して本件支出相当額の損害賠償義務を負う。

被告Bについて

被告Bは、本件支出当時の総務課長であるから、資金前渡を受けた区長交際費につき、その受けた資金内で処理する売買、貸借、請負その他契約に関する権限が委任されており、また、債権者に対して前渡を受けた資金から直接支払を行う権限を有するものであるところ、本件の違法な契約の締結と支出を行ったものである。また、清算に当たって、本来は証拠書類を添付することが可能であるにもかかわらず、収入役である被告Cと協議の上、前渡金支払清算書及び交際費支払済調書のみによる清算を行い、不当に清算の際の審査を免れたものであるから、区に対して本件支出相当額の損害賠償義務を負う。

被告Cについて

本件支出に関しては、副収入役が収入役からの専決を受けて清算書の審査を行っているところ、専決させた者である被告Cは、収入役として、前渡金の清算書の審査の際に、副収入役を指揮監督する義務を負う。

旧会計事務規則82条1項では、1号から3号まで3とおりの区分で前渡金受者による清算の方法が定められており、交際費の支出については証拠書類を添えて収入役室に提出することが可能であるにもかかわらず、1号又は2号の方法によらず、証拠書類の提出が不可能な場合にのみ認められた3号の方法により清算が行われた。被告Bが証拠書類を保管しており、前渡金出納簿及び証拠書類による清算が可能であることを認識しているにもかかわらず、証拠書類による清算の方法を採らず、前渡金支払清算書及び交際費支払済調書のみで処理を行うことを認めたものであるから、区に対して本件支出相当額の損害賠償義務を負う。

イ  被告ら

本件の支出は、いずれも適法であるから、被告らには責任はない。

ウ  被告C

仮に、前渡金の清算書に対する審査によって、違法ないし不当な前渡金からの支出又はこれに係る契約が発見された場合においても、収入役等が、債権者から当該資金前渡受者が支払った金員を回収する、あるいは、当該資金前渡受者に賠償させるというような義務ないし権限は定められていないから、被告Cには損害を賠償する責任はないといえる。

第3争点に対する判断

1  争点1(被告Cの「当該職員」該当性)

(1)  地方自治法は、その170条1項において、「法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、出納長及び収入役は、当該普通地方公共団体の会計事務をつかさどる。」と規定し、地方公共団体における予算執行機関と会計機関の分離を図った上、同条2項6号で前記会計事務の一つとして「支出負担行為に関する確認を行うこと」を挙げ、さらに、同法232条の4第1項において「出納長又は収入役は、普通地方公共団体の長の命令がなければ、支出することができない。」とした上で、2項において「出納長又は収入役は前項の命令を受けた場合においても、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認した上でなければ、支出をすることができない。」と定め、支出について第一義的には首長の命令によるものとしながら、予算執行機関たる首長の行った支出負担行為の法令及び予算への適合性を会計機関である出納長又は収入役に確認させることとしている。そしてこの確認は、職員の賠償責任の対象行為(同法243条の2第1項2号)とされており、一般に、予算の適正な執行につき、会計機関たる出納長及び収入役に強い権限と義務を付与している。

一方、同法232条の5第1項は、「普通地方公共団体の支出は債権者のためでなければ、これをすることができない。」との原則を定めた上、同条2項においてその例外として、普通地方公共団体の支出は政令の定めるところにより資金前渡等の方法によって行うことができることを認めている。この規定を受けて、地方自治法施行令161条1項は、同項1号ないし14号に掲げる特定の経費について資金前渡の方法によって支出することができることを定めている。上記各規定によれば、地方自治法施行令161条1項各号に掲記された各経費については、出納長又は収入役があらかじめ普通地方公共団体の職員に所要の金額を交付して現金の支払をさせることとしたもので、資金前渡を受けた職員は、交付を受けた金額を単に保管・出納するだけではなく、交付を受けた経費の目的に沿って債務を負担し、その債務を履行するために正当な債権者に対して現金をもって支払をすることとなる。

したがって、資金前渡の方法による支出は、債権者、債権額等の確定を待って支出をすべき原則の例外であるが、そうだからといって、同方法による支出に対して、会計機関による確認が全く不要となるものとまでは解されない。前記のとおり、地方自治法の定めにおいては、予算執行機関から会計機関を分離し、会計機関たる出納長又は収入役に出納その他の会計事務の執行について独立の権限を与えるとともに、予算執行機関の行った支出負担行為の適法性等を会計機関に確認させることとして、会計機関の予算執行機関に対する内部牽制により、制度的に予算の適正な執行を確保しようとしていることからして、明示的な除外規定のない限り、出納長又は収入役の支出負担行為に対する適法性等の確認の権限及び義務は排除されないと解すべきである。そして、資金前渡の方法を許す地方自治法上の根拠規定である同法232条の5第2項は、その規定の仕方からして、資金前渡を地方自治法232条の5の債権者のための支出の原則の例外として位置付けているものと考えられるのであって、同法232条の4第2項の支出負担行為の法令及び予算適合性等を確認する権限及び義務までをも排除するものとは解されないのである。実質的にみても、地方自治法施行令161条1項各号が資金前渡を許すものとしている経費は、支出の場所、経費の性質等から、通常の支出の方法によっては事務の円滑な取扱いに支障を及ぼすおそれが大きいものであり、いわば事務取扱いの便宜の上で資金前渡の方法による支出を認められているものであって、経費の性質上適正な支払が担保されている又は担保不要であるというものではない。むしろ、同項7号の報償費等の支出については、恣意的な支出を懸念して情報公開訴訟や支出の適法性を争う住民訴訟が多数提起されていることは公知の事実であり、資金前渡を受けた職員が、前渡を受けた資金を保管の上、自己の責任において債権者に支払をするものである点で、これに対する収入役の審査が全く行われないとなると、資金前渡を受けた者が債権者に対して適正な支払をすべきことの担保を欠くことになるのであって、資金前渡のされる経費の金額や使途を制限したとしても、それだけで適正な支出を担保するための会計機関による確認が本来的に不要となるわけではないのである。

以上の観点から渋谷区における関係規則の定めをみるに、旧会計事務規則82条は、資金前渡を受けた者の清算につき、随時の費用に係るもの(同規則79条3項1号)についてはその用件終了後前渡金支払清算書を作成し、証拠書類を添えて5日以内に収支命令者を経由して収入役に提出することとし(同規則82条1項1号)、毎月必要とする経費については前渡金支払清算書を作成し、証拠書類を添えてその支払期間経過後5日以内に収支命令者を経由して収入役に提出することとし(同項2号)、これらの方法による清算が困難な前渡金については収入役と協議の上別に定める方法により清算をすることができる(同項3号)とし、前渡金の清算残金は、原則として、直ちに指定金融機関又は収納代理金融機関に納付し、その領収書を前渡金支払清算書に添付しなければならないものとしており(同条2項)、資金前渡を受けた者の清算について原則として証拠書類や清算残金の納付に係る領収書を添えて前渡金支払清算書を収入役に提出することにより清算することとしていることからすれば、収入役が前渡金支払清算書を証拠書類等と照らし合わせて審査することを当然の前提としているものと解され、収入役室の組織に関する規則5条3号が資金前渡清算書の審査を副収入役が専決できることを規定しているのも、本来は収入役が資金前渡清算書の審査をする法令上の権限を有することを前提としているものと解されるのであって、前記の観点からすれば、資金前渡清算書の審査は、地方自治法232条の4第2項の原則に従って、支出行為の完結のために必要な行為と解すべきであり、収入役により同審査がされて初めて、公金の支出が完了したものというべきであって、そう解してこそ、資金前渡受者の支出の適正が担保されるものといわなければならない。

以上によれば、資金前渡の清算書の審査行為は、同法232条の4第2項の確認の一態様として出納長又は収入役の権限であると解すべきである。

(2)  そして、地方自治法242条の2第1項4号の「当該職員」とは、当該訴訟において適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びその者から権限の委任を受けるなどして同権限を有するに至った者をいい(最高裁判所昭和62年4月10日第2小法廷判決・民集41巻3号239頁)、同権限を有する者は、自ら権限に属する財務会計行為をあらかじめ特定の補助職員に専決させることとしている場合であっても、同専決により処理された財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟において、同号にいう「当該職員」に該当すると解すべきである(最高裁判所平成3年12月20日第2小法廷判決)ところ、被告Cは、資金前渡の方法による支出について、その清算書の審査という支出行為を完結させる財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有しており、補助職員である副収入役に専決させているものであるから、本件訴訟における「当該職員」に該当するものと認められる。

2  争点2(被告Cに対する訴えの監査請求前置)

被告Cの指摘するとおり、原告は、本件訴えに先立ってした本件支出に係る監査請求の中で、収入役のする清算書の審査の内容が不当であることを対象とする旨を明示していない。

しかし、住民訴訟につき監査請求の前置を要することを定めている地方自治法242条の2第1項には、住民が、監査請求において求めた具体的措置の相手方と同一の者を相手方として同措置と同一の請求内容による住民訴訟を提起しなければならないとする規定は存在しないし、住民は監査請求をする際、監査の対象である財務会計上の行為又は怠る事実を特定して、必要な措置を講ずべきことを請求すれば足りるのであるから、住民訴訟においては、その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実について監査請求を経ていると認められる限り、監査請求において求められた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として同措置の内容と異なる請求をすることも許されると解すべきである(最高裁判所平成10年7月3日第2小法廷判決・判例時報1652号65頁)。

すなわち、問題とする財務会計上の行為又は怠る事実が同一である限り、監査請求前置の要件を判断するに当たって、監査請求書に記載された具体的な措置の内容や相手方を吟味する必要はなく、特定の公金の支出の違法を理由にその是正を求めている限り、それに関する支出負担行為、支出命令及び支出のすべて、その支出が資金前渡の方法による場合は清算手続を含めて、当該財務会計行為に伴う手続の一つ一つについてもその違法を理由として住民訴訟を提起することができると解すべきである。

したがって、本件訴えは、監査請求を経た適法なものであると認められる。

3  争点3(本件支出の違法性)

(1)  地方自治法232条1項は、地方公共団体は当該地方公共団体の事務を処理するために必要な経費を支弁するものとしており、地方公共団体の経費の性質を有する支出については支出の権限を有する者に裁量が認められ、その裁量権の逸脱又は濫用があると認められる場合に当該支出が違法となる。

そして、普通地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上、普通地方公共団体の長又はその他の執行機関が、当該普通地方公共団体の事務を遂行するために対外的折衝等を行う過程において、社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の儀礼的行為、接遇、賛助等を行うことは、同事務に随伴するものとして許容されるものというべきであるが、公的存在である普通地方公共団体により行われるものであることからすると、対外的接遇の際に行われた活動であっても、それが社会通念上の儀礼の範囲を逸脱したものである場合には、同活動は当該地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず、これに要した費用を公金により支出することは許されないというべきである。

平成2年4月1日施行の渋谷区区長交際費支出基準においても、交際費は「支出細則」に基づいて支出し、支出額は社会通念上認められる範囲でかつ必要最小限でなければならないとされ、支出細則においては、儀礼的経費、接遇経費、賛助的経費、諸費の4種について、それぞれ支出が可能な場合が定められており、具体的には、儀礼的経費として「区政協力団体等の行事に係る儀礼」との項目が存在している。

(2)  証拠(甲1、2、10、丙3)によれば、被告Bは、平成9年9月5日、区長室において株式会社香取屋から清酒4本の納品を受け、同年10月2日、集金に来た香取屋に対し、あらかじめ区長交際費から支出を予定していた7702円に自らの有する5円を加えて、計7707円を支払ったと認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

被告らは、当該清酒は、被告Aの指示により、区内の2つの町会の記念行事に祝儀として用いるために購入し、そのとおりに用いた旨主張し、被告Bの陳述書(丙3)中には、これに沿う記載があるが、他にこれを裏付ける証拠はないし、具体的な町会の名称や記念行事の内容、当該交際費の支出がいかなる具体的事務遂行のために必要であったか等の事実については、被告らは、すべての町会にこのような祝儀を行っているわけではないことなどを理由に、全く明らかにしない。

このように、区長交際費の支出の相手方(本件のように交際費によって物品を購入した上、これを贈答に用いる場合は、その贈答の相手方をいう。以下同じ。)について、具体的な主張がなく証拠上も明らかでない場合であっても、それが会計書類に記載されていて、少なくとも区の内部においてはその真偽が確認できるときや、そのような記載がなくても、他の区長交際費の支出については会計書類に具体的な記載があり、当該支出について特別の理由によって記載されていないときなどは、支出負担行為の権限を有する者が抽象的又は概括的にせよと使途を述べている以上、そのような使途に用いられたものと認められることが多いといえよう。

しかしながら、被告Bが管理している区長交際費の出納に関する前渡金出納簿(甲2)には、本件支出はもとより他の支出についても具体的な支出の相手方を示す記載はなく、儀礼的経費、接遇経費、賛助経費及び諸費という経費の種別とともに括弧書きで団体行為、慶弔等、刊行物などという使途に関する抽象的な注記が書き添えられるにとどまっており、別に保管されている領収書等により、金銭の支出の直接の相手方が判明する場合もあるものの、それが本件のように贈答品の購入に充てられている場合には、その贈答の相手方、すなわち、交際費支出の相手方は会計書類上すべて不明といわざるを得ない。さらに、毎月の前渡金支払清算書(甲8各号)に添えられる交際費支出済調書(甲9各号)には、慶弔金等といった12種類の使途別の件数とその合計金額が記載されているにすぎず、その記載によっては区長交際費のすべてについて支出の相手方が明らかにされていないのである。このことからすると、区長交際費のうち、贈答品の購入に充てられたものについては贈答品が何に用いられたか、ひいては当該交際費が何のために支出されたかが外部からはもとより区の内部においても、被告A及び被告B以外の者は収入役や監査委員も含めて全く知り得ない状況であり、両被告の意向次第では、贈答品として購入したものをいかなる使途に用いようと区の内部からはとがめを受けるおそれがない状況にあったといわざるを得ない。また、被告らは、前記清酒4本の贈答先の町会を明らかにしない理由として、すべての町会にこのような祝儀を贈っているわけではないとしており、これは訴訟手続内で町会名を明らかにすると、それが他の祝儀を受けたことのない町会の構成員の知るところとなり、そのような町会との関係に悪影響を及ぼすことを懸念する趣旨と考えられるが、前記清酒が真に町会の記念行事の祝儀として用いられたとすると、そのことは当該町会内部では広く周知されるべきことであり、それによって相当数の人々が認識した以上、それが他の町会の構成員に伝えられることを妨げるのは困難であり、このことからしても被告らが前記清酒の贈答先の町会名を明らかにしないのは不自然といわざるを得ない。

これらを考慮すると、本件交際費の支出に当たって被告Aからどのような指示があったかを含め、前記清酒4本が町会の記念行事の祝儀として用いられたとの事実を被告Bの陳述のみによって認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない以上、これらの清酒の使途、ひいてはその購入に用いられた区長交際費の使途は不明といわざるを得ず、本件支出はその使途が不明なものとして違法といわざるを得ない。

(3)  なお、町会、自治会等の地縁的住民組織は、古来、自然発生的に発達してきたものであり、戦時中の一時期、市町村の下部組織として法的に整備され、地方行政の最末端組織として利用された時期があったものの、戦後は、そのような性格は否定され(地方自治法260条の2第6項)、政府も「町内会、部落会及び隣組については、目下のところ積極的にその復活を奨励する意図もないし、また、将来恒久的にこれを禁止する考えもない」として、無干渉主義の政策を採っている。他方、町会は、事実上、広報、祭礼、防災、清掃等の分野において、各地域の公共的な活動の一端を担っているものであって、また、民生委員・保護司などの各種行政委員の推薦等を行い、これらの活動についての必要な経費は、区から補助金という形で支給されているが、町会は、当該地域に居住する住民全員が構成員となっている団体ではなく、あくまでも、任意に参加した者がその自らの意思に基づいて活動しているものにすぎず、地方自治法上もその存在を前提とした規定はあるものの、その構成や権限等についての規定は全くなく、また、区の条例上も町会の存在を根拠付けたり、権限を付与する旨の具体的規定は存在しない。

以上によれば、町会は、事実上ではあるが区内の公共的活動を担っているものであるから、区政協力団体又は区政関係団体の側面を有しており、それらの団体の一定の行事等に対して儀礼的行為を行うことが全く認められないわけではない。しかし、区民全員が加入している団体ではなく、あくまでも任意的な団体であることや公共活動の負担等が法令に基づくものでない点にかんがみれば、単純に協力関係を押し進めることのみが住民自治の実現に資する訳ではなく、区としては、一定の緊張関係を保ちながら区政の事務を行っていくべきものであって、区民全体の利益を考慮しながら、その利益に資する範囲で町会等との対外的関係の形成を行うべきであるといえる。したがって、区政協力団体の行事に対しての儀礼であるからといって、そのことのみをもって、区長交際費の支出が適法となるものではなく、当該支出が区民全体の利益の観点から、区の事務遂行のために有益なものであることを前提に、支出額が社会通念上認められる範囲でかつ必要最小限であることが適法性の条件となる。

このことからすると、仮に前記清酒4本が被告らの主張のように町会に対する祝儀として用いられたとしても、その町会や記念行事の内容が明らかにされない以上、当該町会と渋谷区とがいかなる協力関係にあるか不明であり、本件支出が区民全体の利益の観点からいかなる事務の遂行のために必要な支出であったかについては全く明らかでないといわざるを得ず、そうである以上、本件支出が社会通念上認められる範囲でかつ必要最小限のものであったと認めることも困難であり、それが社会通念上の儀礼の範囲を逸脱した違法なものであると認めざるを得ない。

4  争点4(各被告の責任原因)

(1)  被告Aについて

被告Aは、区長として、区長交際費に関する支出負担行為の権限を、被告Bに委任してさせたものであるところ、前記3のとおり違法である本件支出の支出負担行為について、被告Bに対して指揮監督権限を行使するどころか、自ら被告Bに対して清酒の購入を指示したものであって、本件支出相当額の損害賠償義務を区に対して負うべきものと認められる。

(2)  被告Bについて

被告Bは、区長である被告Aの委任を受けて区長交際費に関する支出負担行為を行い、前渡を受けた資金の中から支出を行ったものであって、前記のとおり、本件支出に当たっての区長の指示の内容及び本件支出の使途が認定できない以上、これが使途不明のものであると認識しながらあえて支出を行ったものとして、本件支出相当額の損害を賠償すべき義務がある。

被告Cについて

前記のとおり、渋谷区においては、10数年前から、当時の総務課長(被告Bではない)と収入役(被告Cではない)との間で、区長交際費の清算手続につき、旧会計事務規則82条1項3号に基づき、同号にいう「別に定める方法により」行うこととしていた。具体的には、各支出に係る領収書、支払済調書を用いることなく、毎月、当該月の区長交際費の支出につき、清算書に分類された項目ごとに集計された交際費支払済調書を添付することにより行い、月末において保管金に残金がある場合には、総務課長が旧会計事務規則82条2項に基づき戻入を行う方法によって清算を行うこととしていたもので、本件支出がされた平成9年9月分の他の支出とともに包括的に清算され、同月の交際費支払済調書において、各支出の金額が記載されることなく、類型化された総額において記載されていた。

これらの事実を前提とすると、上記の清算方法では、個別の交際費の支出につき、清算書の審査を専決している副収入役は具体的に審査を行うことを放棄しているというべきであり、それが本件のような使途不明の支出を発生させることにつながったといわざるを得ない。収入役である被告Cは、副収入役に専決させるに当たり、上記のような清算方法を前提として審査を行うことを容認していたものというべきであり、このような不正を全く発見できないような審査方法を採り、いわば審査を放棄することを容認していた点で、副収入役に対する指揮監督権限の行使を怠ったものであり、しかも、その点につき重大な過失があったというべきである。

損害額について

前記認定のとおり、本件において清酒代は7707円であったが、実際に交際費として支出された金額は7702円であり、残り5円については被告Bが自ら負担している金額であるから、本件の支出相当額は7702円ということになる。

第4結論

以上によれば、原告の請求は、被告らに対する7702円の支払を求める範囲で理由があるから、その限度でこれを認容することとし、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、64条ただし書、65条1項本文、66条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 村田斉志 裁判官 廣澤諭)

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