東京地方裁判所 平成12年(行ウ)51号 判決 2001年7月04日
原告
A株式会社
同代表者代表取締役
甲
同訴訟代理人弁護士
加藤豊三
被告
国税不服審判所長
島内乘統
同指定代理人
森脇江津子
同
川上昌
同
岡本亀喜
同
坂井一雄
被告
麹町税務署長
大島康照
同指定代理人
森脇江津子
同
川上昌
同
遠藤至
同
阿部豊明
同
小茄子川栄治
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟の総費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告麹町税務署長(以下「被告税務署長」という。)が平成8年12月27日付けでした、原告の平成3年8月1日から翌4年7月31日までの事業年度(以下「平成4年7月期」という。)、同年8月1日から翌5年7月31日までの事業年度(以下「平成5年7月期」という。)及び同年8月1日から翌6年7月31日までの事業年度(以下「平成6年7月期」といい、平成4年7月期及び平成5年7月期と併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の各更正処分のうち本件各事業年度の法人税確定申告書記載の所得金額及び納付すべき金額(平成4年7月期欠損金額6637万5468円、還付を受けるべき金額90万1946円、平成5年7月期所得金額0円、還付を受けるべき金額2万3247円、平成6年7月期所得金額843万7721円、納付すべき税額224万2200円)を超える部分、本件各事業年度の各法人税重加算税賦課決定処分並びに原告の平成3年8月1日から翌4年7月31日までの課税事業年度(以下「平成4年7月課税事業年度」という。)及び同年8月1日から翌5年7月31日までの課税事業年度(以下「平成5年7月課税事業年度」といい、平成4年7月課税事業年度と併せて「本件各課税事業年度」という。)の各法人特別税決定処分及び本件各課税事業年度の各法人特別税重加算税賦課決定処分を取り消す。
2 被告国税不服審判所長(以下「被告審判所長」という。)が平成10年11月20日にした、原告の本件各事業年度の各法人税更正処分及び各法人税重加算税賦課決定処分並びに本件各課税事業年度の各法人特別税決定処分及び各法人特別税重加算税賦課決定処分に対する原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を取り消す。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
第2事案の概要
1 本件は、原告の本件各事業年度の法人税について被告税務署長が平成8年12月27日付けでした各更正処分及び各重加算税賦課決定処分、本件各課税事業年度の各法人特別税決定処分及び各重加算税賦課決定処分について、原告が前記各更正処分は、本来損金の額として算入されるべき貸倒損失及び有価証券除却損をそれぞれ損金の額に算入しないものとしてされた違法なものであり、この不算入を前提にしてされた前記各法人税重加算税賦課決定処分、各法人特別税決定処分及び各法人特別税重加算税賦課決定処分もそれぞれ違法なものであるとして上記各処分の取消しを求め、また、上記の違法にもかかわらず原告の前記各処分に係る審査請求をいずれも棄却した裁決は違法であるとして、被告審判所長がした裁決の取消しを求める事案である。
本件については、平成11年7月4日に、訴えをいずれも却下するとの第一審判決がされたが、その後、控訴審において原判決を取り消し、第一審に差し戻す旨の判決がされ、当審に係属するに至っている。
2 前提事実(証拠を掲記しない事実については当事者間に争いがない。)
(1) 原告
原告は、昭和45年2月25日に設立された、不動産の売買及びその仲介業等を目的とする株式会社であり、甲(以下「原告代表者」という。)が代表取締役を、その母であるG及び妻であるH(同社の商業登記簿謄本上はHと記載されている。以下原告代表者、G及びH3名を併せて「原告代表者ら」という。)が取締役を務め、原告代表者らが株式を所有する法人税法2条10号に規定する同族会社である。原告は、原告代表者が個人で事業を行うより税率が低く、貸倒れなどの損金処理が容易であることなどから、いわゆる節税のために設立した会社であって、原告と原告代表者との間の金銭の授受が頻繁に行われていたが、それらについては現金でのやりとりが多く、しかも、それらをその都度帳簿に記載したり、領収書等の書面を作成することもなく、後日、顧問税理士において節税可能な経理処理を行い、それに必要な契約書等の書類を作成していたものである。(会社の詳細につき弁論の全趣旨)
(2) 原告の確定申告
ア 原告は、平成4年7月期の確定申告を、法定申告期限までに青色申告で行い、その際、原告が、昭和61年5月30日以前に原告代表者及びG名義でB株式会社(以下「B社」という。)に対し1億3600万円を貸し付けたとして、昭和62年8月1日から昭和63年7月31日までの事業年度(以下「昭和63年7月期」といい、他の事業年度においても同様に表記する。)において、原告の貸借対照表に短期貸付金として計上した貸付金1億3600万円(以下「本件貸付金」という。)を、平成3年7月29日付けで放棄したとして、本件貸付金に係る貸倒損失1億3600万円を損金の額に算入した。
イ 原告は、平成5年7月期の確定申告を、法定申告期限までに青色申告で行い、その際、原告が、昭和58年のB社の設立の際に原告代表者他7名の個人名義でした出資は原告がしたものであったとして昭和63年7月期において、原告の貸借対照表に有価証券として計上したB社の株式3600万円(以下「本件有価証券」という。)につき、B社が倒産状態にあるとして、同有価証券に係る固定資産除却損3600万円を損金の額に算入し、また、昭和63年7月期の確定申告に係る欠損金額のうち541万3059円及び平成4年7月期の確定申告に係る欠損金額のうち1331万3846円の合計1872万6905円を法人税法57条に基づく損金の額に算入した。
ウ 原告は、平成6年7月期の確定申告を、法定申告期限までに青色申告で行い、その際、平成4年7月期の確定申告に係る欠損金のうち5306万1622円を法人税法57条に基づく損金の額に算入した。
(3) 更正処分等の経緯
ア 被告税務署長は、平成8年12月27日付けで、原告の本件各事業年度における法人税に係る各更正処分及び各法人税重加算税賦課決定処分並びに本件各課税事業年度における各法人特別税決定処分及び各法人特別税重加算税賦課決定処分をした。
イ 原告は、被告税務署長に対し、平成9年1月24日、前記各更正処分及び各法人税重加算税賦課決定処分を不服として異議の申立てをし、同年2月10日に前記各法人特別税決定処分及び各法人特別税重加算税賦課決定処分に異議の申立てをしたが、被告税務署長は、同年4月24日に異議をいずれも棄却する旨の決定をした。
ウ 原告は、同異議棄却決定を不服として、平成9年5月21日、被告審判所長に対して審査請求をしたが、被告審判所長は、平成10年11月20日、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、同裁決書謄本は、平成10年12月7日に原告に送達された。
3 争点
原告の前記各確定申告、被告税務署長の前記各更正処分、各法人税重加算税賦課決定処分、各法人特別税決定処分及び各法人特別税重加算税賦課決定処分並びに前記各処分に対する原告の不服申立ての経緯及びその税額等は別表一ないし五記載のとおりであるところ、本件各事業年度における法人税の各更正処分における加算及び減額の内訳は次の各表のとおりである。このうち、本件各事業年度における申告額である①、⑤及び⑩の各項目、事業税の認容額として減算を行った⑧、⑫の各項目については当事者間に争いがなく、仮に本件各更正処分中の②、⑥の各項目のとおり所得税を加算した場合に⑦、⑪の項目に記載されたとおりの欠損金算入の否認が生じること、各更正処分における所得額が各表記載④、⑨及び⑬のとおりであるとした場合に原告が納付すべき法人税額、増加する法人税額に対する重加算税額、本件各課税事業年度における法人特別税法4条による法人特別税の税額並びに増加する法人特別税額に対する重加算税額が別表一ないし五記載のとおりであることは計数上明らかである。
(1) 平成4年7月期の法人税
項目
No.
金額
申告所得金額
①
△6637万5467円
加算
貸倒損失の否認額
②
1億3600万0000円
減算
欠損金の損金算入額
③
541万3059円
差引所得金額(①+②-③)
④
6421万1473円
△は欠損金の額を示す。
(2) 平成5年7月期の法人税
項目
No.
金額
申告所得金額
⑤
0円
加算
固定資産除却損の否認額
⑥
3600万0000円
欠損金の損金算入否認額
⑦
1872万6905円
減算
事業税の認容額
⑧
739万0300円
差引所得金額(⑤+⑥+⑦-⑧)
⑨
4733万6605円
(3) 平成6年7月期の法人税
項目
No.
金額
申告所得金額
⑩
843万7721円
加算
欠損金の損金算入否認額
⑪
5306万1622円
減算
事業税の認容額
⑫
532万1000円
差引所得金額(⑩+⑪-⑫)
⑬
5617万8343円
したがって、本件の争点は、
① 本件貸付金が架空のものであるとして、その貸倒損失の平成4年7月期の損失としての算入を否認することの可否(争点1)
② 本件有価証券の計上が架空のものであるとして、その除却損の平成5年7月期の損失としての算入を否認することの可否(争点2)
③ 裁決の取消請求の可否(争点3)
である。
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1
ア 被告税務署長
B社が京橋税務署長に提出した同社の昭和59年8月1日から同62年7月31日までの各事業年度に係る法人税の確定申告書に添付された附属明細書並びに借入金及び支払利息の内訳書によれば、B社には原告代表者及びGからの借入金があることは認められるものの、原告からの借入金は一切存在しない。また、原告代表者が株式会社C(以下「C社」という。)との間で締結した昭和61年5月30日付けのB社の株式並びに経営権譲渡契約(以下「本件譲渡契約」という。)からも、同社に貸付債権を有していたのは原告代表者とGであると認められる。
したがって、原告における本件貸付金の計上及び本件貸付金に係る貸倒損失1億3600万円の計上は何れも架空のものであり、同貸倒損失1億3600万円を損金の額に算入することはできない。
イ 原告
本件貸付金は、原告を貸主として存在するものである。すなわち、甲第2号証のとおりAとB社との間で金銭消費貸借契約書が作成されている上、甲第3号証及び第4号証によれば、原告は平成元年7月20日及び平成2年7月1日にB社に対して本件貸付金の支払いを求める旨の催告を行っており、本件貸付金が原告を貸主として存在したことは明らかである。
確かに、本件貸付金の原資は、原告代表者及びGが出捐しているが、原告代表者やGとB社との間で金銭消費貸借契約書等の作成はされていない上、原告代表者の母であるGが、特段の関係を有しないB社に対して、3200万円という大金を、担保を全く取らない上、証書も作成せず無利子で貸し付けることは考えられず、Gが実子である原告代表者を信用して、同人個人に貸付を行い、同人が自己の貸付分とともに原告に貸し付けたものを、原告が子会社であるB社に貸し付けたものとみるのが自然である。当時は、B社に対する他の出資者との関係で、出資者である原告代表者が個人としてB社に貸付行為をすることは妥当ではなかったし、実際に、原告は、原告代表者らに対して計1億5170万円の返済を行っているところである。そして、原告代表者は、当時B社の代表者でもあったのであるから、仮にGがB社に金銭を貸し付けたとする場合でも、原告代表者又は原告に貸し付けた場合でも、外観上は、Gから原告代表者へ金銭が手渡されることになるが、原告代表者は原告の株式のほぼ100パーセントを有しているのであるから、そのような場合、法的な形式としては、節税の観点からもっとも税負担を軽減し得る処理をするのが合理的であって、実際に、G、原告、原告代表者及びB社相互間の取引においては、借用書や領収証は作成されず、後日、経理処理上必要な書類のみを作成していたのであるから、形式的な書類の存在・不存在や他社の経理書類等によって取引の主体等を判断するのは妥当でなく、当事者の合理的意思によればB社に対する金銭の貸付けは、原告を主体として行ったとみるべきである。
そして、原告代表者がC社との間の本件譲渡契約においてした、原告のB社に対する債権の放棄の意思表示は、本件譲渡契約上必要だったため、形式上行われたものであり、真実は、原告会社からB社に対する債権の放棄は行われなかったものである。
したがって、原告における本件貸付金の計上及び本件貸付金に係る貸倒損失の計上は正当なものである。
(2) 争点2
ア 被告税務署長
昭和58年2月4日に作成されたB社の定款、B社が京橋税務署長に提出した同社の昭和59年8月1日から昭和62年7月31日までの各事業年度の法人税の確定申告書別表二「同族会社の判定に関する明細書」、本件譲渡契約の契約書、B社の昭和61年5月30日付け取締役会議事録及び本件譲渡契約に伴って作成された有価証券取引書には、本件譲渡契約の締結前後において、原告が同社の株主となっているとの記載はなく、むしろ、本件有価証券は、原告代表者らに帰属するものとの記載があるから、原告が本件有価証券を貸借対照表に計上した昭和63年7月期末の時点で、本件有価証券は原告に帰属していなかったものといえる。
また、本件譲渡契約の譲渡代金の支払に関する原告を原告代表者、被告をC社とする東京地方裁判所昭和62年(ワ)第70193号事件において、昭和63年12月19日に和解が成立したが、和解条項中には、契約を解除するとの記載はなく、和解条項に定めるほか何ら債権債務がないことを相互に確認するにとどまり、本件和解成立後、C社に対し本件譲渡契約の目的物である会員名簿、定款等の重要書類、営業用帳簿等の返還を請求している事実も認められないのであるから、この和解は本件契約を無効とするものではなく、本件譲渡契約による代金の争いが生じ、その精算を行ったものと評価すべきであるし、この訴訟においても原告代表者が原告となって訴訟が遂行されていることは、まさに、本件有価証券の所有者は原告代表者であることを基礎付ける事実といえる。
イ 原告
B社は、原告が出資して設立された原告の子会社であるが、いわゆる募集設立の便宜の観点から、個人名義を借用し設立を行ったもので、実際は、原告、戊及び丁が出資して設立されたものである。他の各個人名義が形式上のものであることは、辛の持分が丁の持分に吸収されていること、その後、G及びHの持分が原告代表者の責任の下に自由に譲渡されていることからも明らかである。原告代表者らは個人として払込金の出資をしておらず、その後の増資や譲受け等により、原告代表者名義の280株、G名義の200株、H名義の40株の計520株が割り当てられているが、これらはいずれも原告が単独で株主というべきものである。
そして、本件有価証券について、便宜上の名義人であった原告代表者が、C社との間で本件譲渡契約を締結したが、同契約に基づく売買代金がC社から支払われなかったことから、代金の支払を求める訴訟の中で、現状復帰(契約の締結がなかった状態への復帰)することを内容とする和解がされており、C社から原告に本件有価証券が復帰したものである。
したがって、本件有価証券は、昭和63年の時点でも依然として原告に帰属したものといえ、本件有価証券を経理書類に計上した行為は架空のものとはいえないし、それを前提にした固定資産除却損の損金算入も正当なものである。
(3) 争点3
ア 原告
本件裁決は、課税処分を維持すべきとの結論から事実認定を行ったものであり、裁決には理由不備かつ事実誤認が存するのであって、本件裁決は違法であり、取り消されるべきものである。
イ 被告審判所長
原告の主張は、いずれも、被告税務署長が行った処分を適法であるとして審査請求を棄却した本件裁決の判断の当否を問題とするものにほかならず、これらの違法事由の主張は、結局のところ原処分が違法である旨の主張に帰着し、本件裁決固有の違法事由ではないし、また、本件審査請求の趣旨及び理由に対して原処分を正当とする結論に到達した過程が記載され、理由が明記されていることも明らかであって、本件裁決に理由不備の違法はないから、本件裁決の取消しは認められないものである。
第3争点に関する当裁判所の判断
1 原告は、前記第2、2(1)のとおり、原告代表者が自己の事業の節税のために設立した会社であり、原告代表者は、その尋問においてもこのことを公言しているのであるから、原告の有する権利義務は法的にはともかくとして少なくとも経済的実質においては原告代表者に帰属するものといっても過言ではない。このような両者の関係からすると、特定の権利義務が法的にみて原告代表者又はその親族ではなく原告に帰属するというためには、少なくともそれに適合する法形式、例えば、相手方との間における行為主体の名義やそれに適合した帳簿処理などが採られていることが必要であって、そのような形式を備えておらず、かえって原告代表者やその親族が権利義務の主体としての法形式が採られている場合には、特段の事情がない限り、原告代表者らが名実ともに権利義務の主体であると認められるのである。
このような観点から、次の2及び3において、争点1及び2について判断する。
2 争点1
(1) 証拠(乙第1号証ないし第6号証、第13号証、第14号証、第28号証、第33号証及び第34号証並びに証人Fの証言)によれば以下の事実が認められ、これに反する原告代表者尋問の結果はこれを信用することができない。
ア B社が京橋税務署長に提出した同社の昭和60年7月期に係る法人税の確定申告書の附属明細表中の借入金欄には、甲2657万3173円、G3000万円と、同61年7月期に係る法人税の確定申告書の借入金及び支払利子の内訳書には甲8717万8122円、G3000万円とそれぞれ記載され、同62年7月期に係る法人税の確定申告書の借入金及び支払利子の内訳書には同人らの記載がない。一方、前記各申告書には原告のB社に対する貸金については全く記載がされていない。
イ 原告が新宿税務署長に提出した同社の昭和61年7月期及び同62年7月期の法人税の確定申告書添付の決算報告書における上記各期の期末における貸借対照表の短期貸付金勘定及び長期貸付金勘定にはいずれも残高がない。
ウ 原告代表者が、昭和61年5月30日にC社に対しB社の株式及び経営権を譲渡する旨の契約を締結した際、「乙(原告代表者)が丙(B社)に対して有する貸金債権金1億4143万5137円及びGが丙に対して有している貸金債権金3200万0000円をGに代理して、右両債権を丙に対して放棄する。」旨の合意をしている。また、本件譲渡契約の相手方であるC社の担当者で後に同社の代表取締役となったEは、本件譲渡契約の売主は、原告代表者であると認識しており、原告であるとは認識していなかった。それどころか、当時、原告会社の存在すら認識していなかった。
エ 原告の会計処理上、昭和61年5月30日以前に、原告がB社に対して金銭を貸し付けた旨の処理はされておらず、昭和63年7月期に至り、貸金1億3600万円を貸借対照表中の短期貸付金勘定に計上し、平成3年7月29日付けで同債権を放棄した旨の書面を作成し、平成4年7月期に1億3600万円を損金の額に算入をした。
(2) 以上の事実によれば、原告自らが貸主であると主張するB社に対する貸付金は、当初から原告代表者及びGが貸主として取り扱われていて、他にこの形式を覆すに足りる事実や証拠はないから、同貸付金の貸主は原告ではなく、名実ともに原告代表者及びGであると認めるべきである。また、同貸付金については、原告代表者が昭和61年5月30日付けでB社の新たな経営者に対して放棄の意思表示をしておりその時点で消滅しているのであるから、いずれにしても、同貸付金は本件貸付金ではなく、原告を貸主とするものではないとの被告税務署長の主張は、これを認めることができる。他方、昭和63年7月期までの間に原告がB社に対して同貸付金債権の譲渡を受けたり別口の貸付金を有するに至った旨の主張立証はなく、原告を主体とした本件貸付金の計上は、同債権について放棄の意思表示をした後である昭和63年7月期に至って突然行われたもので、このような事後的な経理処理によって本件貸付金債権の帰属を決することはできず、この昭和63年の本件貸付金の計上は実体を伴わない架空のものというほかないから、この計上を前提として平成3年になされた放棄もまた、架空のものであるというべきである。
(3) 原告は、昭和60年9月30日付けの、原告を貸主、B社を借主とする契約書(甲第2号証)が存在すること及び平成元年7月20日及び翌2年7月1日に原告がB社に対して催告書(甲第3、第4号証)を送付していることを主張し、この貸付金が本件貸付金であり、その貸主は原告である旨を主張するが、この契約書及び各催告書は、いずれも原告代表者の記名及び代表者印のみがされているか、同記名押印に加えて、原告代表者がB社の代表取締役として記名押印をした文書であって、第三者が作成に関与したものでないこと、また、原告代表者は、昭和61年5月30日にB社の経営権を譲渡しており、それ以降代表者印を使うことが困難であるところ、契約書におけるB社の代表者印が昭和60年9月30日付けの確定申告書と異なるものであり、確定申告書の押印には「B株式会社」と社名が入っている一方、契約書の代表者印には社名が入っておらず、B社の元取締役である証人Fが社名の入っていない代表者印を見たことがないと述べる一方、原告代表者は、代表者印が複数あったなどと曖昧な供述をしていること、催告書の名宛人である証人Fが、同催告書を受け取っておらず同催告書の日付の時期にはB社の代表取締役ではなかったと明言していること、これらの各書証は、確定申告時はもちろん異議申立て及び審査請求の時点においても一切提示がされていなかったにもかかわらず、本件訴訟において提出されたことの各事実に鑑みれば、これらの各書証が真正に成立したと認めることはできず、これらによって原告主張の事実を認めることはできない。
(4) 原告は、原告の母であるGがB社に対して借用証書なしに、無利子・無担保で、返済期限も定めずに金銭を貸し付けることの不自然性、代表者が実子である原告に金銭を貸し付け、原告がB社に金銭を貸し付けたとみることの合理性を述べるが、同貸金がGからB社に対してなされた当時、B社の代表取締役は、原告代表者であり、原告代表者が経営権を有していたのであって、B社に対する貸金をGが無担保・無利子で行ったとしても何ら不自然とはいえないし、現に証人Fの証言によれば、GがB社の本社に1000万円を持参し、同事務所において原告代表者に手渡して、B社に対し1000万円貸し付けたことが認められるのであるから、Gの貸金についての原告の主張はその前提を欠き失当であるといわざるを得ない。また、原告が新宿税務署長に提出した昭和61年7月期及び同62年7月期の各確定申告書によれば、昭和61年7月期末の原告の借入金残高は1070万5761円、翌62年7月期末の原告の借入金残高は990万8461円であり、原告の主張するような、G及び原告代表者の原告に対する貸金の存在は認められないのであるから、原告の主張は採用し得ない。
(5) 原告は、原告代表者が経営権を有する会社であって、税務処理の観点から原告代表者に有利な形式での経理処理を採るのが当然であって、形式上明確な書証が作成されていない以上、原告代表者個人が原告に金銭を貸し付け、原告がB社に金銭を貸し付けたと見るのが合理的である旨を述べるが、本件では、前記のとおりB社に対する貸金は、形式上明確に原告代表者及びGを主体として処理がされているのであり、書証上も両人が主体であることが明らかなのであるから、原告の主張は、その前提を欠き、失当といわざるを得ない。
(6) さらに、原告は、本件譲渡契約に伴うB社に対する債権の放棄が架空のものであった旨も主張するが、これを裏付けるに足りる証拠はない。
3 争点2
(1) 証拠(乙第2号証、第7号証、第8号証、第13号証ないし第28号証、第33号証及び第34号証並びに証人Fの証言)によれば以下の事実が認められ、これに反する原告代表者尋問の結果はこれを信用することができない。
ア B社は、昭和58年2月8日に、福島県郡山市に本店をおき、配偶者に関する情報提供業務を目的として資本金2400万円で設立された株式会社であり、同日に作成された同社の定款によれば、同社の設立時の発起人は、原告代表者、戊、丁(丁とも称していたが、後にFと改名。以下、書証等における実際の表示に関わらず、すべて「F」と表示する。)、己、庚、辛及び壬の7名で、設立の際に発行された株式480株の引受人は原告代表者、戊、F(各100株)、庚、辛、己及びHが各40株、壬が10株であり、この各株主が、作成された株主名簿に記載された。F及び辛は、それぞれが現金を会社設立の窓口となった己に支払って、現実の出資を行っており、Fは、他の発起人も現実に現金を支払った旨の認識を持っている。
イ B社は、昭和58年8月23日に3600万円に増資しているが、増資に係る取締役会議事録及び株主申込証によれば、この増資に際し発行した株式240株の引受人及びその株数は、原告代表者、F、Dが各60株、戊が40株、癸が20株とされた。Fは、この際も経理を担当した庚に対して現実の出資を行っている。
ウ B社が京橋税務署長に提出した同社の昭和59年8月1日から昭和60年7月31日までの事業年度に係る法人税の確定申告書の別表二「同族会社の判定に関する明細書」に、本件譲渡契約前のB社の株主は、原告代表者、G、H、F及び辛と記載されており、昭和60年8月1日から昭和61年7月31日までの事業年度に係る法人税の確定申告書の同表には同社の株主はC社及びFと記載され、いずれの申告書別表にも、原告は、株主としては記載されていない。
エ 本件譲渡契約の契約書には、同契約締結時のB社の株主は、原告代表者、G、H、F及び辛と記載され、原告代表者、G、Hの所有するB社株式計520株を原告代表者の責任においてC社に譲渡する旨の記載がされ、当事者間においてこの内容の約定がされている。そして、この譲渡に伴って作成された有価証券取引書には、譲渡をした者の氏名として原告代表者ら個人の名前がそれぞれ記載されている。
オ B社の昭和61年5月30日の取締役会において、原告代表者、G及びHから各所有のB社株式について、譲渡承認の請求があり、同社の取締役でもある前記3名が取締役として、株式の譲渡の承認を同人らに対して行っており、原告に対しての譲渡の承認の決議はされていない。
カ 本件譲渡契約に基づきB社の株式及び経営権を譲り受けたC社のEは、本件譲渡契約における本件有価証券の売主を原告代表者であると認識しており、原告の存在すら承知していない。
キ 原告は、昭和63年7月期において、昭和58年2月8日のB社の設立の際に原告代表者ほか7名の個人名義でした出資は原告がしたものであったとして、B社の株式3600万円を原告の貸借対照表に有価証券として計上し、B社が倒産状態にあることを理由として、本件有価証券に係る固定資産税除却損3600万円を平成5年7月期の損金の額に算入した。
(2) 以上の事実によれば、B社の設立から本件譲渡契約が締結されるまでの間、終始一貫して株主は、原告代表者、G及びHとして取り扱われたものであり、証人Fの証言によれば、現実の出資も少なくとも同人ら名義によってなされたことが推認され、他にこれを覆すに足りる証拠はないから、B社の設立当時からの株主は原告ではなく、名実ともに原告代表者ら3名であると認められ、原告が昭和58年の設立当時から本件有価証券を有していたことはないと認められる。また、本件有価証券については、昭和61年5月30日にC社に対して譲渡がされているのであるから、その時期以降、原告が本件有価証券を有しているとも認められず、いずれにしても、本件有価証券の計上とその損金算入は架空のものといわざるを得ない。
(3) 原告は、本件譲渡契約につき、後の和解によって合意解除がされ、再び本件有価証券を原告が有するに至った旨主張するが、そもそも前記認定のとおり、本件有価証券が原告代表者らの有していたものであることに鑑みれば、上記の合意解除のみでは、原告所有に至ったことは説明し得ない。また、証拠(乙第29号証ないし第32号証)によれば、本件譲渡契約においては、原告代表者はC社に対して、B社の株式及び経営権を代金3000万円で譲渡するものとし、買主であるC社は譲渡代金を約束手形で分割払いするものとされているところ、契約締結後、原告代表者は、C社から受領した約束手形のうち、昭和61年9月30日を支払期日とする額面200万円の約束手形が契約不履行という理由で支払拒絶を受けたことから、本件有価証券の買主であるC社を相手方として、手形金額の支払を求めて約束手形金請求事件を提起し、通常の手続に移行した後(東京地方裁判所昭和62年(ワ)第70193号事件)、昭和63年12月19日付けで原告代表者とC社との間で和解が成立し、同和解においてはC社(別件被告)から原告代表者(別件原告)に対しての金員の支払の約定がされているものの、株券や経営に関する書類の返還等は一切うたわれていないことが認められる。以上によれば、同和解によって契約が合意解除されたとは到底いえないのであるから、いずれにしても原告の主張は採用し得ない。
4 争点3
行政事件訴訟法10条2項は、「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」と規定して、いわゆる原処分主義を採用し、原処分が違法であるか否かの点については、専ら原処分の取消しを求める訴訟において審理判断すべきものとし、裁決の取消しを求める訴訟においては、裁決固有の瑕疵のみが審理判断の対象となる旨を明らかにしている。
しかるに、原告は、裁決の理由不備及び事実誤認の主張をするが、これらは結局のところ、原処分である各法人税更正処分、各法人税重加算税賦課決定処分、各法人特別税決定処分及び各法人特別税重加算税賦課決定処分が実体的にみて違法である旨をいうに帰着するものであり、本件審査裁決に対する固有の瑕疵を具体的に主張するものということはできない。したがって、審査裁決の取消しを求める原告の請求は理由がない。
第4結論
以上によれば、原告の貸倒損失及び固定資産除却損を否認して算出した所得金額又はその範囲内でされた本件各更正処分、各法人特別税決定処分は適法なものであり、また、原告は、各重加算税賦課決定処分につき税額以外の要件についてこれを争うものではないので、前記の損失の否認により増加した税額に係る各法人税重加算税賦課決定処分及び各法人特別税重加算税賦課決定処分も適法なものといえ、審査裁決も固有の違法があるとは認められないものであって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、67条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 村田斉志 裁判官 廣澤諭)
file_2.jpg別紙