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東京地方裁判所 平成12年(行ウ)64号 判決 2001年1月26日

原告

原告

原告

原告

右訴訟代理人弁護士

加藤晋介

被告

北沢税務署長

井上健司

右指定代理人

松下貴彦

笹崎好一郎

小林英男

松本好正

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成10年9月10日付けでした原告らの平成5年8月10日相続開始に係る相続税についての更正の請求は理由がない旨の通知処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、相続税の修正申告を行った原告らが、右修正申告の際にその計算の基礎となっていた契約が解除されたことを理由として更正の請求をしたところ、被告が、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたため、その取消しを求めている事案である。

一  法令の定め

国税通則法23条1項は、納税申告書を提出した者は、同項各号所定の事由が認められる場合には、法定申告期限から1年以内に限り、その申告に係る課税標準等又は税額等の更正の請求をすることができる旨を定めているが、同条2項は、同条2項各号所定の法定申告期限後に生じた後発的な各事由が存在する場合には、右1項の規定にかかわらず、右各事由ごとに定める一定の期間内に限り、更正の請求をすることができる旨を定めている。

そして、同項は、右の後発的事由として、①その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したこと(一号)、②その申告、更正又は決定に係る課税税標準等又は税額等の計算に当たってその申告をし、又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者についての国税の更正又は決定があったこと(二号)、③その他当該国税の法定申告期限後に生じた前二号に類する政令で定めるやむを得ない理由があること(三号)を定めているところ、同法施行令6条1項2号は、右三号の規定を受けて、右三号にいうやむを得ない理由の一つとして、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたこと」を定めている。

二  前提となる事実(各項末尾掲記の証拠等により認定した。)

1(一)  亡戊(以下「戊」という。)は、平成元年7月7日、原告甲とともに、有限会社A(以下「A」という。)を設立し、平成元年11月30日時点では、同社の資本金20億円(出資口数200万口)のうち19億9800万円を出資して199万8000口の出資持分を有していた。

(弁論の全趣旨)

(二)  本件不動産の売買

Aは、平成元年8月9日、株式会社B(以下「B」という。)から、別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)を合計15億5100万円で買い受ける旨の売買契約を締結した。

また、AとBは、同日、本件不動産の買戻しについて覚書を締結し、Bは、平成4年8月9日から同7年8月8日までの間のいつでも、A又はその承継人より申出があった時点で、本件不動産を15億5100万円で買い戻すことを合意した(以下「本件買戻特約」という。)。

なお、右売買契約後、Aは、本件不動産を同社の貸借対照表に資産として計上した。

(甲2)

(三)  原告らに対するAの出資持分の譲渡

亡戊(以下「戊」という。)は、平成元年11月30日、原告乙、同丙及び同丁(以下「原告乙ら三名」という。)に対し、右出資持分をそれぞれ66万6000口宛譲渡した(以下、右譲渡に係る持分を「本件持分」といい、右売買契約を「本件持分譲渡契約」という。)。

また、原告乙ら三名は、右譲渡に先立つ平成元年8月21日、戊に対し、本件持分譲渡代金の手付金として、各1000万円を支払った。

(争いのない事実)

なお、右持分譲渡の対価の原告らの被告に対する説明が変遷したことは、後記のとおりである。

(四)  AとBの間の和解契約の締結

Bは、平成4年11月の時点において、本件不動産の買戻しを履行することが事実上不可能な経済状態にあったところ、Aは、同年12月1日、本件買戻特約に基づく本件不動産の買戻代金債権を被担保債権として、B所有の杉並区浜田山四丁目所在の不動産について仮差押命令を取得した。

そして、Aは、同月21日付けで、B及びB代表者己との間で、同年8月9日現在において、BがAに対して本件買戻特約に基づいて金15億5100万円の支払義務があることを確認したうえ、Aは、右支払義務の履行を平成7年8月8日まで猶予し、Bは、右猶予期間中に、本件不動産を売却して、右の支払の一部に充てることなどを骨子とする和解契約(以下「本件和解契約」という。)を締結した。

(甲3ないし6)

(五)  本件和解契約の解除

しかし、Bは、平成10年、債務超過に陥り、その事業を清算・整理することとなり、B及び己は、同年3月25日、Aに対し、己が2000万円程度の金員を提供することを条件に、本件和解契約を事情変更により解除したい旨通知し、同年4月3日、A、B及び己の三者において、己がAに対して2000万円を支払うことを条件として本件和解契約を解除することが合意された。

(甲7、同8、弁論の全趣旨)

2  相続の発生

戊は、平成5年8月10日、死亡し、原告らが、その遺産を相続した。

(争いのない事実)

3  本件課税処分等の経緯

本件課税処分等の経緯は、別紙一ないし四に記載のとおりであるが、その詳細は、以下のとおりである。

(一) 期限内申告

原告らは、平成6年2月28日、被告に対し、戊の死亡による相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、右各別紙の期限内申告の欄記載のとおり申告した(以下「本件期限内申告」という。)。

(乙3、弁論の全趣旨)

(二) 修正申告

原告らは、平成7年3月6日付けで、右各別紙の修正申告欄記載のとおり修正申告をした(以下「本件修正申告」という。)。

原告らが、修正申告に及んだのは、次のような理由によるものである。

すなわち、原告らは、期限内申告においては、本件不動産のうち土地を路線価で、建物を固定資産評価額で、それぞれ評価し、本件持分の一口当たりの価格を347円と計算したうえで、各人当たりの右譲渡代金は、各2億3110万2000円(合計6億9330万6000円)であるとしていた。

しかし、東京国税局によって、平成6年11月29日及び同年12月16日、原告らの相続税に関する税務調査が行われ、その中で、国税局の職員から、原告らに対して、①本件不動産の売買については、本件買戻特約が存在すること、②本件買戻し特約について、本件和解契約において、BがAに対して15億5100万円を支払う義務があることが確認されていること、③本件不動産の取得日(平成元年8月9日)と本件持分譲渡に係る手付金支払日(平成元年8月21日)とが近接していることから、本件持分の価値の一部を構成する本件不動産の評価額は15億5100万円が相当である旨の指摘がなされた。

そこで、原告らは、平成7年3月27日、税理士を通して、東京国税局課税第一部に対し、本件出資の売買契約書に記載された売買価額は、一口当たりの本件出資の評価を誤って算定し決定したものであり、本来、本件出資の売買契約書に記載すべき売買価額は一口982円が正しかったものであり、そうすると、戊は譲受人である原告乙ら三名に対して、本件相続開始日において、本件持分譲渡価格を一口当たり347円で算定したものと982円で算定したものの差額合計である12億6873万円((982円-347円)×66万6000口×三名)の未収入金債権(以下「本件未収入金」という。)を有していたことになるから、そのような処理を行う旨を申し出て、同年3月3日付けで、本件未収入金債権を原告甲(以下「原告甲」という。)が取得する旨の遺産分割協議をしたうえで、同月6日、右の修正申告を行ったものである。

(乙3、同4、同6、弁論の全趣旨)

(三) 減額更正

本件修正申告を行った原告らは、平成7年6月13日付けで、被告に対し、戊に係る平成5年分の所得税についても修正申告書を提出し、戊の所得税についても追加納税すべきこととなった。

そこで、被告は、平成8年3月26日付けで、右所得税の追加納税分を本件相続税の課税価格の計算上控除すべき債務として、本件相続税の更正及び加算税の変更決定処分をした(以下「本件減額更正処分」という。)。

(争いのない事実)

(四) 更正の請求とこれに対する被告の応答

その後、原告らは、AとBの間の前記和解契約は解除されたから、原告らが当初主張した譲渡対価が不相当と指摘されるべき事情はなくなったと主張し、平成10年4月17日付けで、被告に対し、国税通則法23条2項3号及び同法施行令(平成6年政令第251号による改正前のもの。以下、本判決において同じ。)6条1項2号の規定に該当するとして、本件相続税について、更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)を行った。

しかし、被告は、同年9月10日付けで、原告らに対し、本件更正の請求についてはいずれも更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件処分」という。)をした。

(争いのない事実)

(五) 異議申立て及び審査請求

その後の異議申立て、異議決定、審査請求及び裁決は、いずれも別紙一ないし四記載のとおりである。

(争いのない事実)

三  当事者双方の主張

(原告らの主張)

1 後発的事由

国税通則法施行令6条1項2号の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る」とは、本件持分譲渡契約であり、右契約が解除されたり、取り消された事実はないが、被相続人又は相続人の債務不履行があるなど、解除について被相続人又は相続人に帰責性が認められる場合においても、国税通則法施行令6条1項2号が適用されることを考慮すると、本件のように、契約の対象である出資持分の評価の前提となった本件和解契約が、原告らに何の落ち度もないにもかかわらず、事情変更により解除され、本件持分譲渡の対象である出資持分の価値が著しく減少した場合は、国税通則法23条2項及び同法施行令6条1項2号に準ずるものとして、更正の請求が認められるべきである。

2 本件処分の信義則違反

そもそも、本件持分の譲渡は、平成元年3月に戊が末期癌であり、余命が半年もないことを宣告されたことから、相続税を節税するため、税理士の指導に基づいて行われたものであって、Aの財産である本件不動産が路線価及び固定資産評価額に従って評価されることを前提にしていたものである。そして、本件相続税に関する税務調査時(平成6年11月29日及び同年12月16日)においても、既に本件買戻特約及び本件和解契約の履行は困難だったのであるから、本件不動産の価値が15億5100万円であることを前提とする本件持分の評価は過大であった。

それにもかかわらず、国税局職員は、Bとの間の買戻特約及び本件和解契約が存在し、右和解契約について取消し又は解除がないことなどから、修正申告を強く指導したため、原告らは、更正申告期限(平成6年3月10日から1年以内)の直前である平成7年3月6日に至り、本件修正申告をせざるを得なかったものである。

しかし、その後、本件和解契約が解除されたことから、原告らは、本件更正の請求を行ったものであり、国税局職員による右のような指導の経過からすると、被告が、本件更正の請求について更正の理由がないとした本件処分は信義則に反する。

(被告の主張)

1 更正の請求を求める事由の不存在

戊は、平成元年7月7日、300万円を出資して、原告甲とともに、Aを設立したが、間もなく、Aの資本の額を引き上げることとし、同年8月8日、C銀行西新宿支店(当時)から21億円を借り入れて、右のうち戊の引受額である19億9500万3000円をAに払い込んだ。

Aは、同月9日、本件不動産を購入し、増資による払込金のうち15億5100万円をその代金としてBに支払ったが、右購入に際しては、本件買戻特約が締結されていた。

その後、原告乙ら三名は、戊に対し、平成元年8月21日、各1000万円の手付金を支払ったうえ、戊から、同年11月30日、本件持分譲渡を受けた。

右事実経過を前提として、国税通則法施行令6条1項2号の適用の有無について検討すると、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実」とは、戊と原告乙ら三名との間で平成元年11月30日に行われた本件持分譲渡代金の授受が一部未了であったことによって本件未収金が発生したという事実であり、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約」とは、右取引において締結された本件持分譲渡契約である。そして、本件持分譲渡契約が解除権の行使によって解除され、若しくは、右契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消された事実はないから、本件において、国税通則法23条2項3号及び同法施行令6条1項2号にいう後発的事由は存在しない。

原告らは、本件和解契約が、AとBの間で合意解除されたことが後発的事由に該当すると主張するが、右解除は、戊を被相続人とする相続の開始日現在における本件未収金の額に何ら影響を与えるものではなく、課税標準等及び税額等が過大になることはないのであるから、更正の請求が許される後発的事由には該当しない。

2 信義則違反の主張について

国税局職員は、右の事実経過を考慮したうえで、前記第二(事案の概要)二(前提となる事実)3(一)(二)記載の①ないし③の理由で、本件出資の価額を評価するために必要な本件不動産の評価額は15億5100万円が相当である旨の指摘をしたのである。

本件修正申告は、国税局職員による強制ではなく、原告らの意思に基づいて行われたものであり、原告らが、国税局職員に対して、評価の差額である本件未収金を相続財産に加算する修正申告を行いたい旨を申し出て、その旨の申述書を提出し、また、実際に本件未収金を原告甲に取得させる遺産分割協議が行われているのであることからすれば、本件未収金は、実際に存在していたものというべきである。

したがって、被告が本件処分を行うことが信義則に反するとの原告らの主張も理由がない。

四  争点

以上によれば、本件の争点は次の各点である。

1  原告らの行った相続税の修正申告につき、その後に本件和解契約が解除されたことが、国税通則法23条2項及び同法施行令6条1項2号に準ずるものとして、更正の請求が認められるべきか。

2  本件処分が信義則に反する違法な処分かどうか。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  国税通則法23条1項において、更正の請求が、原則として、法定申告期限から1年以内に限って認められているのは、税法が、一定の申告期限を設け、その期限内に納税者が十分な検討をしたうえで申告を行うことを期待するという建前をとっていることからして、いつまでも更正の請求を認めることは適当でなく、法律関係を早期安定させ、税務行政を能率的に運営する必要があるとの理由によるものであると解される。

しかし、申告時には予知することができなかった事態その他やむを得ない事由がその後において生じたことにより、さかのぼって税額の減額等をすべきこととなった場合に、これらをすべて税務官庁の一方的な更正の処分に委ねるのではなく、納税者の側からもその更正を請求し得るようにするのが相当であるとの趣旨から、同条2項においては、一定の事由がある場合に限り、例外的に、第1項所定の期限経過後においても、一定の期限の範囲内で更正の請求を認めることが定められており、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたこと」(国税通則法施行令6条1項2号)も、右の更正の請求が認められる後発的事由の一つである。

2(一)  原告は、本訴において、本件和解契約が事情変更により解除されたことは、右国税通則法施行令6条1項2号所定の事由に準ずるものであるから、本件更正の請求は認められるべきであり、本件処分は違法であると主張する。

(二)(1)  しかし、本件修正申告において、国税通則法施行令6条1項2号にいう「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実」とは、課税価格の一部を構成する本件未収金が存在するという事実であり、本件未収金発生の根拠となる契約は、本件持分譲渡の売買にほかならないから、同号の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約」とは、本件持分譲渡契約であるというべきである。

そして、本件更正の請求が行われた時点において、本件持分譲渡契約自体は解除された事実がないことは、原告らも自認するところである。

(2) にもかかわらず、原告らが、本件和解契約を国税通則法施行令6条1項2号の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約」に準じて考えるべきである旨主張する根拠は、原告らは、本件期限内申告において、本件不動産のうち、土地については路線価により、建物については固定資産評価額によりそれぞれ評価したうえ、本件持分譲渡代金を算定していたところ、国税局職員から、本件和解契約において、BがAに対して15億5100万円の支払義務があることが確認されたことを理由の一つとして、右譲渡代金の評価が不相当である旨の指摘を受けた結果、本件修正申告を行ったものであるという点にある。

しかし、後発的事由による更正の請求が、国税通則法23条1項の原則に対する例外として認められたものであることからすれば、右事由として認められる場合を定めた国税通則法23条2項及び同法施行令六条一項の各規定の趣旨はその文言どおりに解されるべきであり、安易にその準用ないし類推解釈を行うことは許されないというべきである。

また、本件修正申告は、未収金が申告漏れであったとしてされたものであるところ、戊の相続財産として本件未収金債権が存在するか否かは、戊と原告乙ら三名との間の本件持分譲渡契約において合意された本件持分の譲渡対価の額及びその後の右対価の支払の履行状況いかんによって定まるべきものであり、仮に、本件持分譲渡契約において合意された本件持分譲渡の対価が不相当に低廉であったとしても、その低額譲渡による利益について原告乙ら三名に贈与税が発生する場合があることは格別、右利益自体の存否及びその額は、相続税の課税標準及び税額を左右するものではないことは明らかである。そこで、実質的にみても、戊の相続財産として本件未収金債権が存在するか否かは、右に合意された対価の価額が本件持分の客観的価値と比べて不相当に低額であったか否かという事実とは直接のつながりを持たないのであるから、仮に、原告らの主張するとおり、本件出資の売買契約書に記載された売買価額に誤りがあったとして修正申告を行った契機となったのは、国税局職員から、本件持分の価値の一部を構成する本件不動産の評価額としては15億5100万円が相当である旨の指摘であり、その際に、右指摘の根拠の一つとして本件和解契約の存在が挙げられていたとしても、本件不動産の評価額が15億5100万円が相当であること又は本件和解契約の存在が実質的に「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実」ということは困難である。

3  したがって、いずれの点からしても、本件和解契約が解除されたとの事実をもって国税通則法23条2項及び同法施行令6条1項2号所定の事由に準ずるものとして更正の請求が認められるべきものとは解されない。

二  争点2について

原告らは、本件相続税に係る税務調査時に、国税局職員が原告らに対して強く修正申告を指導した旨主張するが、これに沿う証拠は存在しない。

むしろ、前記のとおり、原告らは、国税局職員による税務調査が行われた平成6年12月16日から二箇月以上経過した同7年2月24日付けで、東京国税局に対し、本件持分譲渡代金の一部である本件未収金が申告漏れになっている旨の申述書を提出し、また、同年3月3日には、遺産分割協議を行い、本件未収金債権については原告甲が取得する旨の遺産分割協議書を作成していること、原告らは、本件修正申告を専門家である税理士を通して行っていることからすれば、原告らは、自らの意思に基づいて、本件修正申告を行ったものであると認めるのが相当である。

したがって、本件修正申告が、国税局職員による強い指導によるものであることを前提として、被告が本件処分を行うことは信義則に反する旨の原告らの主張は理由がないというべきである。

三  なお、原告らは、本件持分譲渡は、Aの出資持分譲渡を利用した相続税の回避であり、同族会社の行為又は計算の否認を定める相続税法64条1項により否認されるべきである旨主張するが、同項は、同族会社の行為又は計算において、これを容認した場合においてはその株主若しくは社員又はその親族その他これらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合に、税務署長が、相続税又は贈与税についての更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらずにその課税価格を計算することができるということを定めたものにすぎず、出資持分の譲渡そのものが無効となるわけではないから、原告らの右主張は失当である。

四  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、同法65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 杜下弘記)

(別紙)

物件目録

(一棟の建物の表示)

所在 港区高輪

建物の番号 B高輪

(敷地権の目的たる土地の表示)

所在及び地番 港区高輪

地目 宅地

地積 1326.16平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 高輪

建物の番号

種類 居宅

床面積 四階部分 140.30平方メートル

(敷地権の表示)

敷地権の割合 100000分の4235

(一棟の建物の表示)

所在 文京区小石川

建物の番号 B小石川

(敷地権の目的たる土地の表示)

所在及び地番 文京区小石川

地目 宅地

地積 500.92平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 小石川

建物の番号

種類 居宅

床面積 二階部分 120.45平方メートル

(敷地権の表示)

敷地権の割合 100000分の14713

別紙一

本件課税処分等の経緯

原告甲分

(単位 円)

順号

区分

年月日

課税価格

相続税額

過少申告加算税

期限内申告

平成 6・ 2・28

850,758,000

60,979,000

修正申告

平成 7・ 3・ 6

2,435,371,000

444,108,600

賦課決定

平成 7・ 3・28

54,419,500

減額更正

平成 8・ 3・26

2,434,377,000

443,936,300

54,393,500

更正の請求

平成10・ 4・17

1,165,647,000

88,493,400

通知処分

平成10・ 9・10

更正をすべき理由がない旨の通知処分

異議申立て

平成10・10・ 5

1,165,647,000

88,493,400

異議決定

平成10・12・24

棄却

審査請求

平成11・ 1・11

1,165,647,000

88,493,400

10

裁決

平成11・12・22

棄却

別紙二

本件課税処分等の経緯

原告乙分

(単位 円)

順号

区分

年月日

課税価格

相続税額

過少申告加算税

期限内申告

平成 6・ 2・28

185,833,000

77,412,200

修正申告

平成 7・ 3・ 6

274,074,000

118,929,700

賦課決定

平成 7・ 3・28

4,151,000

減額更正

平成 8・ 3・26

274,074,000

118,872,500

4,146,000

更正の請求

平成10・ 4・17

274,074,000

98,734,200

通知処分

平成10・ 9・10

更正をすべき理由がない旨の通知処分

異議申立て

平成10・10・ 5

274,074,000

98,734,200

異議決定

平成10・12・24

棄却

審査請求

平成11・ 1・11

274,074,000

98,734,200

10

裁決

平成11・12・22

棄却

別紙三

本件課税処分等の経緯

原告丙分

(単位 円)

順号

区分

年月日

課税価格

相続税額

過少申告加算税

期限内申告

平成 6・ 2・28

183,652,000

76,531,900

修正申告

平成 7・ 3・ 6

240,915,000

101,103,000

賦課決定

平成 7・ 3・28

2,457,000

減額更正

平成 8・ 3・26

240,915,000

101,052,800

2,452,000

更正の請求

平成10・ 4・17

240,915,000

83,367,600

通知処分

平成10・ 9・10

更正をすべき理由がない旨の通知処分

異議申立て

平成10・10・ 5

240,915,000

83,367,600

異議決定

平成10・12・24

棄却

審査請求

平成11・ 1・11

240,915,000

83,367,600

10

裁決

平成11・12・22

棄却

別紙四

本件課税処分等の経緯

原告丁分

(単位 円)

順号

区分

年月日

課税価格

相続税額

過少申告加算税

期限内申告

平成 6・ 2・28

188,543,000

78,527,400

修正申告

平成 7・ 3・ 6

268,890,000

116,160,500

賦課決定

平成 7・ 3・28

3,763,000

減額更正

平成 8・ 3・26

268,890,000

116,104,400

3,757,000

更正の請求

平成10・ 4・17

268,890,000

96,293,600

通知処分

平成10・ 9・10

更正をすべき理由がない旨の通知処分

異議申立て

平成10・10・ 5

268,890,000

96,293,600

異議決定

平成10・12・24

棄却

審査請求

平成11・ 1・11

268,890,000

96,293,600

10

裁決

平成11・12・22

棄却

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