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東京地方裁判所 平成12年(行ウ)89号 判決 2001年3月22日

原告

今西建設株式会社

代表者代表取締役

今西恭晟

訴訟代理人弁護士

宮崎乾朗

大石和夫

林泰民

玉井健一郎

板東秀明

関聖

田中英行

松並良

河野誠司

下河邊由香

宮原正志

中西啓

北浦一郎

被告

東京都中央都税事務所長 湯浅峯彦

指定代理人

中村次良

若栗征宏

洗川文雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  争点一(本件建物の完成時における所有者は原告であるか否か)について

(一)  前記第二の二(一)及び(二)記載のとおり、本件建物は、本件請負契約の請負人である鹿島が、その材料全部を提供して、注文者である原告所有の土地上に建築したものである。

そして、建物建築の請負契約において、注文者の所有又は使用する土地の上に請負人が材料全部を提供して建築した建物の所有権は、建物引渡しの時に請負人から注文者に移転するのを原則とするが、これと異なる特約が許されないものではなく、明示又は黙示の合意により、引渡し及び請負代金完済の前においても、建物の完成と同時に注文者が建物所有権を取得するものと認めることは、何ら妨げられるものではないと解される(最高裁昭和四五年(オ)第一一一七号同四六年三月五日第三小法廷判決・判例時報六二八号四八頁参照)。

(二)  これを本件についてみるのに、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

ア  鹿島は、平成五年五月一四日、本件請負契約に基づき、原告所有の土地上に本件建物を完成させたが、原告は、契約時及び中間時に合計六億一八〇〇万円を支払ったのみで、残代金二三億九九九〇万円を建物完成時に支払うことができなかった。これは、原告があてにしていた安田信託銀行からの融資が受けられなくなったためであり、原告が前記残代金を他から工面して鹿島に支払う見込みはなかった。

イ  そこで、鹿島は、本件建物を原告に引き渡さず、その維持管理を継続したが、前記残代金及び遅延利息並びに本件建物の維持管理費の支払を確保するため、同年一一月三〇日、<1>原告は本件建物を速やかに自己名義で保存登記を行うと同時に、<2>前記残代金等を担保するため、本件建物に根抵当権を設定すること、及びその旨の覚書を締結することを、原告に対して迫った。

ウ  原告がこの要望に応じなかったところ、鹿島は、平成六年三月一日、前記残代金の支払確保のため、同残代金の支払を受けるまで本件建物の占有を留置することにした旨を伝え、本件建物の維持管理費用について速やかな清算を求める旨の内容証明郵便を原告に対して送った。

エ  原告及び鹿島らは、平成八年二月一九日、鹿島らが原告に対して有している債権額を確認し、原告の所有及び発注に係る本件建物が売却された場合、それぞれの債権額の割合に応じて売却代金を比例配分し、原告に対する債権に内入れ充当すること及びその場合には鹿島が本件建物に係る留置権を放棄すること、原告は本件建物について、鹿島らの権利に影響を及ぼす新たな抵当権設定等一切の行為を行わないこと等を内容とする本件協定書を締結した。本件協定書においては、本件建物の所有権が従前鹿島に帰属していたことをうかがわせる事情はなく、前記のとおり、何ら留保や注釈を付すことなく、本件建物の所有権が原告に帰属することを当然の前提とした合意がされた。

オ  被告は、平成八年二月二六日、原告及び鹿島に対し、本件建物の引渡し状況等を調査するため、「建物引渡し状況等について(調査)」と題する書面をそれぞれ送付した(本件照会)が、同書面では、本件建物について、不動産取得税並びに固定資産税及び都市計画税を課税するため、本件建物の引渡し状況等についての回答方を依頼する旨の記載があった。

そこで、原告は、同年三月六日、本件照会に対する本件回答書を提出したが、同回答書の建物引渡し状況の未引渡しの理由欄には「工事代金未払いのため」、建物管理責任者欄には「建物の留置権が鹿島建設(株)にあるとのことで鹿島建設(株)が建物管理をしている。」、所有者欄には「今西建設株式会社」と記載されていた。

また、鹿島の東京支店も、同月一五日、回答書の建物引渡し状況の未引渡しの理由欄には「工事代金の未払いという契約不履行に対抗して、商事留置権を行使しているためです。」、建物管理責任者欄には「建物を留置しているため、当社管理下にあります。」、所有者欄には「今西建設株式会社」と記載して被告に対して記載して回答した。

カ  原告は、平成一〇年七月六日、スミダ電機株式会社に対し、本件建物及びその敷地を二四億円で売却した。この売却代金のうち、鹿島が本件建物の維持管理に宛てた費用八七九四万四四八六円がまず控除され、鹿島に支払われた後、残代金について、鹿島らは、本件協定書に従い、各自の債権額に応じて配分した。

キ  前記アないしカの過程で、原告が鹿島らに対し、原告は本件建物の所有権を有していないなどといって抗議することはなかった。

ク  本件建物の完成後、スミダ電機株式会社に売却されるまでの間、鹿島は本件建物の占有を継続したが、これを賃貸したり売却したりして収益をあげるための行為を一切行わなかったし、行おうともしなかった。

ケ  原告は、平成八年七月一三日、本件各処分に先立ち、被告に対し「御願い書」と題する書面を提出した。原告は、その中で、本件建物は鹿島から引渡しを受けておらず使用することも賃貸することもできず、また保存登記もできない状況であり、このような状況で課税されても納付は極めて困難であるから、本件建物の引渡し又は保存登記が完了してからの課税徴収をお願いしたい旨記載した。

さらに、原告は、同年八月二八日、被告に対し「東京日本橋人形町今西ビル課税について」と題する書面を提出した。原告は、その中で、本件建物は鹿島から引渡しを受けておらず保存登記もできず、鹿島は建物を占有し留置している状態であり、建物としての機能、効用を受けることのできない状況にある中では、原告に納税義務は発生し得ないと考える旨述べ、課税根拠を被告に対し尋ねた。

しかし、そのいずれにおいても、原告は本件建物の所有権を取得していない等ということは一切述べなかった。

(三)  以上によれば、まず、本件建物の完成後、鹿島は、原告に対して有していた債権を担保するため、本件建物を商事留置権に基づいて占有・留置していたことが認められる(前記(二)アないしウ及びオの事実)ところ、商事留置権とは、商人間において、商行為によって生じた債権について、その弁済を受けるまで自己の占有に帰した債務者の物又は有価証券を留置する効力を有する法定担保物権であり(商法五二一条)、対象となる物は債務者所有の物に限られるのであるから、鹿島が本件建物につき商事留置権を有していたということは、その当時本件建物が債務者の所有物であったことを強く推認させる事情といえる。

しかも、鹿島が本件建物に根抵当権を設定するように原告に依頼していること(前記(二)イの事実)、鹿島はにわかに回収の見込みのない多額の債権を原告に対して有していながら、本件建物を使用収益してそこから債権の回収に宛てようとしていないこと(前記(二)ア及びクの各事実)及び本件建物の維持管理にかかった費用を他の債権者に優先して鹿島が回収していること(前記(二)クの事実)、本件協定書においては、原告が本件建物の所有権を有していることを前提とした合意がされ(前記(二)エの事実)、これらについて原告は本件建物の所有権を有していないなどと抗議をすることは一切なかったこと(前記(二)キの事実)は、いずれも、鹿島が本件建物の所有権を有していたとすればおよそ合理性のない行為となるのに対し、本件建物の所有者が原告であったとするならば、いずれも合理的にこれらを説明することが可能となる。

以上に加え、被告による本件照会の際に、原告及び鹿島の双方が、本件建物の所有者を原告である旨回答していること(前記(二)オの事実)、本件各処分がなされるに先立ち原告が被告に対して提出した二通の書面でも、原告は本件建物の所有者でない旨の記載が一切ないこと(前記(二)ケの事実)をも考え併せれば、本件請負契約において、本件建物の引渡し又は請負代金完済の前においても、本件建物の完成と同時に原告がその所有権を取得する旨の黙示の合意がなされていたものと認めるのが相当である。

(四)ア  これに対し、原告は、<1>原告と鹿島との間で、本件建物の完成に至るまで、所有権移転について口頭で合意がされたこともなければ話合いがもたれたこともないから、原則に従い、鹿島が本件建物の完成と同時にその所有権を取得したというべきであること、<2>本件建物は、その完成後鹿島が占有を継続しており、原告は、平成一〇年七月六日にスミダ電機株式会社に本件建物を売却するまで、鹿島からその引渡しを受けたことはなく、本件建物の使用、収益をすることは全くできない状況であったこと、<3>原告は、鹿島に対して、本件建物の完成時までに本件請負契約による代金の約二〇パーセントしか代金の支払をしていないこと、<4>鹿島は、本件建物の表示登記及び保存登記に必要な検査済証を原告に対して交付しておらず、原告は、本件建物の表示登記及び保存登記を行っていないこと等の各事実によれば、鹿島が本件建物の完成と同時にその所有権を原始取得したものである旨主張する。

しかしながら、原告が本件建物の使用、収益をすることができなかったのは、原告が請負代金を完済できなかったため鹿島が本件建物を留置したためであるから、これをもって原告が本件建物の所有権を取得していないということにはならないし、このような事情にかんがみれば、<1>、<3>及び<4>の各事実は、本件請負契約締結時において、本件建物の引渡し又は請負代金完済の前においても、本件建物の完成と同時に原告がその所有権を取得する旨の黙示の合意がなされていたことと何ら矛盾しない事柄である。

原告は、<5>本件協定書には、「戊(原告)の所有および発注の」本件建物という記載があるが、原告が本件建物を原始取得していたのであれば、わざわざ「戊(原告)の発注」等と記載する必要はない、<6>留置権の放棄に関する定め(本件協定書五条)も、鹿島は本件請負契約に基づく残代金の全額の弁済を受けなくても、本件協定書二条記載の金額の支払を受ければ本件建物を引き渡すことに主眼があり、当事者間において「留置権」という文字が重きをなすものではない、<7>本件建物を原告が売却した際には、原告の費用で表示登記を行う旨が記載されている(本件協定書六条)が、既に本件建物の所有権が原告に移転しているならば表示登記の費用が原告が負担する旨定める必要はなかったものであり、このような表示登記の費用負担の合意により、本件協定書締結時に、本件建物の所有権を原告に移転することが黙示的に合意されるとともに、本件建物の売却主を原告とする旨定められた旨主張する。

しかしながら、原告が原始取得した建物について、<5>のような記載をすることは何ら不自然ではないし、また、<6>は「留置権」の文言が用いられたことを不当に軽く評価しようとするものであって、いずれも採用できない。

また、本件協定書は、原告も認めるとおり、鹿島らが原告に対する債権を回収するため、本件建物の売却代金を債権額に応じて比例配分することを合意したものであるから、このときに本件建物の所有権が鹿島から原告に移ったとする原告の主張<7>は極めて不自然かつ不合理であるし、このような本件協定書が締結された趣旨にかんがみれば、表示登記に係る費用を原告が負担する旨の定めは、本件建物の売却代金から登記費用を控除しないことを確認するという意味で、鹿島ら債権者にとって意味のある事柄であったものである。

結局、原告の前記主張はいずれも理由がないというべきである。

イ  原告は、鹿島が原告に対して留置権を主張したり根抵当権の設定を求めたりしている等の一方当事者の単独行為によって「黙示の合意」や「所有権の移転」を認定することは不当である旨主張する。

しかしながら、このような認定は、前記(三)記載のとおり、原告は、鹿島による根抵当権設定の要求等に対して原告が本件建物の所有者でない旨の異議を唱えていないという原告の態度など種々の事情を総合的に勘案した結果に基づくものであり、一方当事者の単独行為によって認定したものではないから、原告の主張は前提を欠くというべきである。

ウ  原告は、注文者に引き渡されない未登記建物の所有者を請負人と認定し、請負人に対し固定資産税等を課税することで、これを避けようとする請負人が注文者に対して表示登記を促したり、注文者に早期に引き渡したりすることを促し、その結果として、未登記建物の出現の防止及び建物の利用促進に寄与するのであるから、政策的見地からいっても、請負人の原始取得を認めるべきである旨主張する。

しかしながら、当裁判所は、前記(一)記載のとおり、建物建築の請負契約において、注文者の所有又は使用する土地の上に請負人が材料全部を提供して建築した建物の所有権は、建物引渡しの時に請負人から注文者に移転するのを原則とするが、これと異なる明示又は黙示の合意により、引渡し及び請負代金完済の前においても、建物の完成と同時に注文者が建物所有権を取得するものと認めることは、何ら妨げられるものではないと解するものであって、このような当事者間の合意の有無の認定に当たっては、証拠に基づいて客観的に判断すべきであり、原告主張のような政策的見地を考慮すべきものであるとは解されない。

エ  原告は、物の所有者が当該物を留置できることは当然であるから、鹿島が本件建物を原告に引き渡さずにそのまま留置することと、鹿島が本件建物の所有権を取得することは、何ら矛盾しないし、鹿島の留置の法的根拠について当事者間で合意された事実はない旨主張する。

しかし、他人物の留置を内容とする商事留置権の成立に当たり当事者間の合意は不要であるところ、鹿島は本件建物を商事留置権に基づき留置していると認められることは前示のとおりであるし、鹿島が本件建物の所有権を有していたならば、およそ合理的とはいえない事実が多々認められる(前記(二)ア、イ、エ、キ、クの各事実)ことに照らし、原告の主張は理由がない。

オ  原告は、原告従業員友金基は、原告は、ビルやマンションについては全てその敷地と一体で所有しているところ、本件建物についても、その敷地が原告名義となっていたため、深く考えずに、本件回答書の所有者欄に原告の名前を記載してしまったものである旨主張する。

しかしながら、証拠(証人角本尚文)によれば、友金基は、原告の会社に約二〇年勤務し、総務関係全般の仕事をしているものであることが認められ、そのような立場の者がそのように考えたということ自体、原告及び鹿島において、本件建物の所有権を原告が原始的に取得するのが当然であると考えていたことをうかがわせる事情であるというべきであるから、原告主張のような事実があったとしても、当裁判所の認定を左右するものではなく、この点の主張は採用できない。

カ  原告は、不動産ディベロッパーであることのみを理由に、他の注文者と異なる認定をする根拠に乏しい旨主張するが、前記事実の認定は、不動産ディベロッパーであることのみを理由とするものではないことは前記のとおりである。

また、原告は、代金の支払を受けていない以上所有権を移転しないというのが建築業者の合理的意思である旨主張するが、代金未払の場合、建築業者は注文者に対して商事留置権を主張したり、注文者から抵当権の設定を受けたりすることが可能であるし、税務対策上建物の所有権を取得しない方が得策であると考えることは十分にあり得るところであり、代金の支払を受けていない以上所有権を移転しないというのが建築業者の合理的意思であると断ずることはできないというべきであるから、原告の主張は採用できない。

キ  原告は、請負契約については、所有権の帰属について特に定めがないのが通常であるし、最大手ゼネコンである鹿島は、注文者が材料を提供した場合は、建物完成と同時に請負人が所有権を原始的に取得するという判例の考え方を当然承知していたはずであるにもかかわらず、明文でこの判例の考え方を排斥していないのであり、所有権の帰属について特に記載がないということは、むしろ鹿島は、本件請負契約の締結時には、所有権の帰属については前記のような判例の考え方にゆだねる趣旨だったとみるべきである旨主張する。

しかしながら、原告が主張する判例の考え方によっても、前記(一)記載のとおり、引渡し及び請負代金完済の前においても、建物の完成と同時に注文者が建物所有権を取得する旨の黙示の合意をする場合のあることは是認されているから、本件請負契約において明示の合意により前記判例理論を排斥していないからといって、本件建物の完成時に鹿島が所有権を取得する趣旨であったとみるべきというのは論理に飛躍があり、採用できない。

二  争点二(本件各賦課期日における本件建物の所有者は原告であるか否か)について

前記一で認定したとおり、原告は、平成五年五月一四日、本件建物の所有権をその完成と同時に原始取得しているところ、平成一〇年七月六日、スミダ電機株式会社に対し、本件建物をその敷地とともに売却している(前記一(二)カ)のであり、その間、原告が本件建物の所有権を失ったことがあることをうかがわせる事情は何ら存しない。

そうすると、本件各賦課期日における本件建物の所有者は原告であるというべきである。

なお、原告は、原告は平成八年二月二六日、本件協定書の締結時に本件建物の所有権を黙示的に取得したものであり、本件各賦課期日においては本件建物の所有権を取得していなかった旨主張するが、かかる主張が採用できないことは、一で説示したとおりである。

三  争点三(本件処分一は手続的適正を欠いて行われたものとして違法となるか否か)について

(一)  原告は、<1>被告は、平成五年七月一四日には本件建物の完成を知りながら、平成八年一月に至るまで、合理的理由なく、本件建物の調査をせずに放置しており、そのため、原告は、固定資産税及び都市計画税について平成六年まで遡って課税されることとなり、使用収益できないまま過大な税負担を強いられることとなった、<2>本件照会に際し、「本件三箇年分の」固定資産税及び都市計画税の課税のための調査であるという趣旨は全く明らかにされず、原告は、本件照会がそのような趣旨の調査であるとは思いもよらなかったのであり、本件処分一は、全くの不意打ちであった、<3>本件照会においては、本件建物の所有権がいつ移転したのかについての質問がなかったし、いつ本件建物の所有権が移転しているかについて、被告から原告に対して調査した事実はうかがえないのであり、被告の調査不足により、本件処分一は、原告にとって寝耳に水の不意打ちであった等として、本件処分一は手続的適正を欠くものであるから違法である旨主張する。

(二)  しかしながら、次のとおり、原告の主張はいずれも理由がないというべきである。

まず、<1>について検討するに、法一七条の五第三項においても固定資産税及び都市計画税に係る賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して五年を経過した日以後においてはすることができないと規定されているところ、本件建物は平成五年五月一四日に新築されているから、本件三箇年分の固定資産税及び都市計画税の法定納期限は各年の四月三〇日となり(法一一条の四、法三六二条一項、法七〇二条の七第一項、東京都都税条例一二九条一項、一八八条の二九第一項)、本件処分一は平成八年一〇月一一日にされているから、法定納期限の翌日から起算して五年を経過する日より前に行われたものであって、法の定める期間内にされたものと認められるし、証拠(証人南宣彦)及び弁論の全趣旨によれば、本件処分一が行われた当時、いわゆるバブル経済の時期に大量のビルが新築されたが、被告の事務所では、八名の職員が三〇〇棟以上ある未登記建物の評価事務に当たっており、それらの物件は、他の都税事務所と比べても大きな建物が含まれていたことから、評価事務が滞っていたこと、そのため、本件建物の調査が平成八年になって行われたことが認められるのであって、被告が、合理的理由なしに本件調査への着手を放置していたものとは認められない。

次に、<2>についてみるに、前記一(二)オ記載のとおり、本件建物の引渡し状況等を調査するため、被告が原告に対して送付した「建物引渡し状況等について(調査)」と題する書面には、本件建物について、不動産取得税並びに固定資産税及び都市計画税を課税するため、本件建物の引渡し状況等についての回答方を依頼する旨の記載があったことが認められるところ、これに加えて、本件三箇年分の固定資産税及び都市計画税の課税のための調査であるということまで明らかにしなければならないと解すべき法令上の根拠はない。しかも、本件建物は平成五年五月一四日に完成しているから、本件照会が行われた時点において、調査対象となり得るのは本件三箇年分の全て又はそのうちのいずれかの年度の課税についてであることは自明であったところ、平成八年二月一九日に本件協定書を締結したことにより本件建物の所有権を初めて取得した旨の原告の立場に立てば、本件建物に関して固定資産税ないし都市計画税を課すことは、対象年度にかかわらずそもそも誤りとなるはずであるから、本件照会の対象年度に関係なく、その旨回答することによって十分に防禦を尽くすことができたというべきであり、本件照会において、本件三箇年分の課税のための調査である旨を原告に対して伝えなかったからといって、原告に何らかの防禦上の支障が生じたものとは到底認められない。

最後に、<3>についてみるに、本件照会において、本件建物の所有権の移転時期について原告に対し、質問その他の方法で直接調査をしなければならないと解すべき法令上の根拠はないし、本件照会が本件三箇年分の全て又はそのいずれかの年度の課税についてであることは自明であったから、原告の主張を前提とすれば、本件建物の所有権の移転時期に関する質問が原告にされたか否かにかかわらず、原告は十分に防禦を尽くすことができたというべきであり、かかる質問ないし調査がなかったことが原告の防禦上の支障となっていたとは認められないことは前示と同様である。

(三)  したがって、本件処分一が手続的適正を欠いて違法である旨の原告の主張は理由がない。

四  結論

そうすると、本件各賦課期日における本件建物の所有者が原告であるとして行われた本件処分一、及び本件建物完成時の所有者が原告であることを前提として原告を本件建物の取得者とみなして行われた本件処分二は、いずれも適法にされたものというべきである。

以上の次第で、原告の各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 篠田賢治)

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