東京地方裁判所 平成12年(行ウ)90号 判決 2004年3月02日
原告 甲
原告 乙
原告 丙
原告 丁
原告ら訴訟代理人弁護士 鳥飼重和
同 多田郁夫
同 森山満
同 村瀬孝子
同 今坂雅彦
同 橋本浩史
同 吉田良夫
同 権田修一
同 内田久美子
同 高田剛
鳥飼重和訴訟復代理人弁護士 間瀬まゆ子
同補佐人税理士 原木規江
被告 芝税務署長
寺口正治
同指定代理人 西村圭一
同 信本努
同 鍋内幸一
同 實川嘉晴
同 為我井利昌
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告が、原告甲に対し、平成7年6月9日付けをもってした、平成3年12月13日被相続人Oの相続開始にかかる相続税の更正処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)のうち、課税価格38億5018万8000円、納付すべき税額25億5542万7700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)を取り消す。
2 被告が、原告乙に対し、平成7年6月9日付けをもってした、平成3年12月13日被相続人Oの相続開始にかかる相続税の更正処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)のうち、課税価格45億6741万7000円、納付すべき税額60万6200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)を取り消す。
3 被告が、原告丙に対し、平成7年6月12日付けをもってした、平成3年12月13日被相続人Oの相続開始にかかる相続税の更正処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)のうち、課税価格3億5826万9000円、納付すべき税額2億3765万7800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)を取り消す。
4 被告が、原告丁に対し、平成7年6月12日付けをもってした、平成3年12月13日被相続人Oの相続開始にかかる相続税の更正処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)のうち、課税価格3億5826万9000円、納付すべき税額2億3765万7800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、被相続人が保有していた同人が代表者を務めていた株式会社の株式を有限会社設立の際に時価を下回る低額で現物出資して出資口を取得し、その後、同有限会社の出資口の52パーセント相当を同株式会社の取引先に売却した後、その8日後に同被相続人が死亡したために発生した相続について、相続人である原告らが、同有限会社が保有する資産のうち前記株式の評価額を配当還元方式で評価して純資産の評価額を算出した上、これから評価額と各資産の帳簿価額との評価差額に対する51パーセント相当の法人税額等に相当する金額を控除して、同有限会社の出資1口当たりの評価単価を算定し、同被相続人が保有する同有限会社の出資の相続税評価額を算出して、これを前提とした相続税の申告を行ったところ、被告が、同有限会社が保有する資産のうち前記株式の評価額を類似業種比準方式で評価して純資産の評価額を算出した上、これから評価額と各資産の帳簿価額との評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除せずに同有限会社の出資1口当たりの評価単価を算定し、同被相続人が保有する同有限会社の出資の相続税評価額を算出するなどして、これを前提とした更正処分を行うとともに、過少申告加算税賦課決定処分をしたことに対して、原告らが更正処分(裁決により取り消された部分を除く。)のうち原告らの申告額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(裁決により取り消された部分を除く。)の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実等(なお、証拠により認定した事実については、末尾に括弧書きで証拠を掲示した。)
(1) 当事者等
被相続人O(以下「被相続人」という。)は、平成3年12月13日に死亡した。
原告乙(以下「原告乙」という。)は被相続人の配偶者、同甲(以下「原告甲」という。)、同丙(以下「原告丙」という。)及び同丁(以下「原告丁」という。)は被相続人の子である。
(2) 有限会社Aの設立等
被相続人は、平成2年6月8日、当時所有していたB株式会社の株式200万3640株のうち200万株(残りの3640株は、平成3年4月5日に当時B株式会社の社長室に勤務していた戊に対して額面金額の1株当たり50円で売却されている。)と、東京都中央区日本橋所在の土地144.46平方メートル(持分7分の6。
以下「本件土地」という。)及び同土地上に存する建物769.81平方メートル(持分7分の6。以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件土地建物」という。)を有限会社A(以下「本件有限会社」という。)を設立すると同時に同社に対して現物出資し、本件土地建物に付随する被相続人にかかるC銀行本店からの借入金4億円(以下「本件借入金」という。)を同社に承継し、金員4600万円を払い込み(以下、これら出資財産を総称して「本件財産」という。)、同社の出資9万9995口(1口当たりの金額1000円)を取得した。また、原告甲は、金員5000円を払い込み、同社の出資5口を取得した。
本件有限会社はB株式会社の株式200万株を、1株当たり25円、合計金額5000万円で受け入れ、また、本件土地建物を、4億0399万5000円で受け入れており、前記4600万円及び5000円の払い込み及び本件借入金の承継と合わせて、資産の合計を5億円、負債の合計を4億円、資本金を1億円とし、出資口数を10万口として設立されたものである。
なお、被相続人が本件有限会社に出資した本件財産について、当時、被相続人が認識していたB株式会社の株式200万株の時価は、1株当たり3200円、総額64億円であり、また、本件土地建物の時価は、13億2226万4698円であった。
(3) B株式会社及び本件有限会社の業務内容等
B株式会社は、酒類・食料品卸売業を全国ネットで営み、その創業は西暦1712年という歴史のある会社であり、同業界においては日本国内では首位にある会社であって、東京都中央区日本橋に本店を有し、本件有限会社が設立された年の平成2年12月期における資本金額は3億5000万円、同期における前1年間の営業収益(不動産賃貸料収入約8億円を含む。)は約7014億円であり、期末の総資産価額は約2190億円である(乙7)。
また、本件有限会社は、東京都中央区日本橋に本店を有する資本金1億円の会社であり、同社の定款2条によれば、同社の事業目的は、同条1号に「不動産の管理、賃貸借及び仲介」、2号に「損害保険代理業」、3号に「前記各号に付帯する一切の業務」である旨記載されているが、同社の平成2年12月期における営業収益は、被相続人から現物出資を受けた本件建物を賃貸することにより発生する家賃収入のみであり、その後の営業期においても同様である(乙6)。
(4) 本件有限会社の出資の譲渡
被相続人は、D病院に入院中の平成3年12月5日に、B株式会社の取引会社のうちの有力な取引先であるE株式会社ほか12社(以下「本件各取引会社」という。)に対し、被相続人が保有していた9万9995口の本件有限会社の出資(以下「本件出資」という。)のうち各4000口ずつ(合計5万2000口、同社の総出資口数の52パーセント相当)を1口当たり額面額の1000円、売買代金各400万円(売却代金総額5200万円)で一斉に売却し(以下「本件譲渡」という。)、その結果、被相続人名義の本件有限会社に対する出資口数は4万7995口となり、原告甲の出資口数5口と併せると甲一族の同社への出資割合は48パーセントとなった。
(5) 相続の発生
被相続人が本件譲渡によりその保有する本件出資のうち5万2000口を本件各取引会社に売却した8日後の平成3年12月13日、被相続人は84歳で死亡した。
(6) B株式会社の株主構成等
被相続人が死亡した平成3年12月13日におけるB株式会社の株主構成は、被相続人が本件譲渡により本件各取引会社に対して本件出資の一部を売却した同月5日直前の段階においてと同様であるところ、同売却直前の段階における後記評価通達188項に定めるB株式会社の「同族株主」は、本件有限会社(28.6パーセント保有)、F合名会社(26.6パーセント保有)、被相続人の弟G(8.8パーセント保有)及び原告甲(7.9パーセント保有)の4者であり、B株式会社の発行済株式数700万株に占めるこれらの同族株主4者合計の株式保有割合は、71.9パーセントであった。
また、被相続人死亡時点におけるF合名会社の出資者及びその出資割合は、被相続人が2.3パーセント、原告甲が64.4パーセント、Hが33.3パーセントであり、平成11年12月31日現在におけるそれは、原告乙が2.3パーセント、原告甲が64.0パーセント、Hが33.3パーセント、Iが0.4パーセントとなっている。
(7) 相続税の申告及び更正処分等の経緯
原告らは、平成4年6月12日、被相続人の死亡により開始した相続(以下「本件相続」という。)にかかる相続税につき、別紙一ないし四の期限内申告欄各記載のとおり期限内申告を行った。
その後、被告は、原告甲及び同乙につき平成7年6月9日付けで、また、原告丙及び同丁につき同月12日付けで、別紙一ないし四の更正・賦課決定欄各記載のとおり相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課処分」という。)を行った。
これに対して、原告らは、平成7年8月1日、別紙一ないし四の異議申立欄各記載のとおり異議申立てを行ったが、同年10月26日、異議を棄却する旨の決定がなされたため、同年11月24日、国税不服審判所長に対し、審査請求を行った。
そして、国税不服審判所長は、平成12年1月18日、本件更正処分及び本件賦課処分をそれぞれ一部取り消す旨の裁決を下したため、最終的に、原告甲の課税価格は38億5018万8000円、納付すべき税額は25億9395万9400円、過少申告加算税は385万3000円、原告乙の課税価格は80億3736万円、納付すべき税額は11億6912万2600円、過少申告加算税は1億7524万6500円、原告丙及び同丁の課税価格はいずれも3億5826万9000円、納付すべき税額はいずれも2億4137万3900円、過少申告加算税はいずれも37万1000円とされた。
(8) 相続財産・債務の内容等
本件相続により原告らは、土地・家屋等の財産を相続しており、有価証券以外の相続財産の相続税法22条にいう価額は、土地の価額が別表1の順号1欄、家屋の価額が同順号2欄、現金・預貯金の価額が同順号4欄、家庭用財産の価額が同順号5欄、その他の財産の価額が同順号6欄各記載のとおりである。
また、原告らが相続した有価証券の内容及び価額は、本件出資を除いて別表4記載のとおりである(本件出資の価額については、後記のとおり争いがある。)。なお、本件有限会社の資産及び負債の内容並びに相続税評価額及び帳簿価額は、有価証券の相続税評価額を除いて別表5の上段記載のとおりである(本件有限会社が有する有価証券の相続税評価額については、後記のとおり争いがある。)。
さらに、相続税法22条にいう控除すべき債務の金額は、別表1の順号10欄記載のとおりである。
(9) 遺産分割による原告ら各人の相続財産の価額
本件相続にかかる遺産分割により原告ら各人が取得した相続財産の価額は、原告甲、同丙及び同丁につき、別表1の順号11の各人の欄記載のとおりである(原告乙の価額については、後記のとおり争いがある。)。
なお、被相続人が有していた本件出資4万7995口は原告乙が取得している。
2 評価通達の規定の内容
国税庁長官が各国税局長宛てに発した「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和39年4月25日付け直資56、直審(資)17国税庁長官通達(平成3年12月18日付け課評214・課資1-6による改正前のもの)。以下「評価通達」という。)には、取引相場のない株式・出資の評価方法につき、以下の規定が設けられている。
(1) 有限会社に対する出資の価額の算定は、評価通達178項ないし193項において定められた取引相場のない株式の評価方法に関する定めが準用される(評価通達194項)。
(2) ここに、取引相場のない株式とは、上場株式及び気配相場等のある株式以外の株式をいい、その価額は、銘柄の異なるごとに1株単位で評価する(評価通達168項)。
そして、取引相場のない株式については、評価通達178項により、評価しようとするその株式の発行会社(以下「評価会社」という。)が同項の表に定める大会社、中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて、それぞれ同通達179項の定めによって評価することを原則とするが、例外的に、同族株主以外の株主等が取得した株式の価額は、同通達188-2項の定めによって評価することとされる。
(3) 評価通達179項は、大会社の株式の価額は、類似業種比準価額によって評価し(以下、この方式を「類似業種比準方式」という。)、また、納税義務者の選択により、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価する(以下、この方式を「純資産価額方式」という。)ことができるとしている。そして、評価通達180項によれば、類似業種比準価額は、類似業種の株価並びに1株当たりの配当金額、年利益金額及び純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)を基とし、同項に定める算式によって計算した金額とすることとされている。また、評価通達188-2項は、「同族株主以外の株主等が取得した株式」の価額は、「その株式に係る年配当金額(183(評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)の(1)に定める1株当たりの配当金額をいう。ただし、その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とする。)を基として、(その株式に係る年配当金額÷10パーセント)×(その株式の1株当たりの資本金の額÷50円)との算式によって計算した金額によって評価する(以下、この方式を「配当還元方式」という。)が、その金額がその株式を179(取引相場のない株式の評価の原則)の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合には、179の定めにより計算した金額によって評価する旨定めている。
なお、ここにいう「同族株主以外の株主等が取得した株式」とは、評価通達188項により、次のいずれかに該当する株式をいうものとされている。
ア 同族株主のいる会社の株主のうち、同族株主以外の株主の取得した株式この場合における「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の30パーセント(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する株式の合計数が最も多いグループの有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の50パーセント以上である会社にあっては、50パーセント)以上である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう(評価通達188項(1))。
イ 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の取得後の株式数がその会社の発行済株式数の5パーセント未満であるもの(課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令71条1項1号及び3号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得した株式この場合における「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の25パーセント以上である会社を含む。)の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の25パーセント以上である場合におけるその株主をいう(評価通達188項(2))。
ウ 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の15パーセント未満である場合におけるその株主の取得した株式(評価通達188項(3))
エ 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の15パーセント以上である場合におけるその株主で、その者の取得後の株式数がその会社の発行済株式数の5パーセント未満であるもの(前記イの役員である者及び役員となる者を除く。)の取得した株式この場合における「中心的な株主」とは、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の15パーセント以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独でその会社の発行済株式数の10パーセント以上の株式を有している株主がいる場合におけるその株主をいう(評価通達188項(4))。
そして、ここにいう「同族関係者」の判定については、法人税法施行令4条の規定を準用することとされているが、法人税法施行令4条2項1号に準じれば、法人たる同族関係者については、「株主等の1人が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が、当該他の会社の発行済株式数の総数又は出資金額の50パーセント以上に相当する場合の当該他の会社」が同族関係者とされることとなっている。
(4) 開業後3年未満の会社等の株式の評価は、評価通達189-3項本文により、同通達185項本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価することとされている。
そして、評価通達185項によれば、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、課税時期における各資産を評価通達の定めるところにより評価した価額(この場合、評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という。)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとし、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする。)の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び評価通達186-2項(評価差額に対する法人税額等に相当する金額)により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とするとされている。
なお、ここにいう「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」は、評価通達186-2項において、①課税時期における各資産をこの評価通達に定めるところにより評価した価額の合計額(以下「課税時期における相続税評価額による総資産価額」という。)から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額から、②課税時期における相続税評価額による総資産価額の計算の基とした各資産の帳簿価額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額を控除した金額、を控除した残額がある場合におけるその残額に51パーセント(清算所得に対する法人税、事業税、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合)を乗じて計算した金額とする旨定められている。
3 争点
本件の争点は、原告らの相続税額及びそれを算定する前提となる被相続人が保有していた本件有限会社の4万7995口の出資口の評価額如何である。具体的には、
(1) 本件有限会社が保有するB株式会社の株式200万株の評価方法は、いかなる方式によるべきか。
(2) 本件出資4万7995口の評価方法は、いかなる方式によるべきか。仮に、純資産価額方式によるとした場合、「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」を控除すべきか。
(3) 原告らが納付すべき相続税及び過少申告加算税の各税額
の各点である。
4 当事者の主張
本件各争点に関する当事者の主張は次のとおりである。
(1) 争点(1)(本件有限会社が保有するB株式会社の株式200万株の評価方法は、いかなる方式によるべきか。)について
ア 被告の主張
(ア) 評価通達によらないことが正当と是認される特別な事情の存在
a 評価通達の意義
課税実務において評価通達に基づく評価方法が妥当性を有するものとされている所以は、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から見て合理的であるからである。かかる評価通達の趣旨からすると、評価通達を形式的に適用した場合、評価通達を画一的に適用することにより実現しようとした「納税者間の負担の公平」をむしろ著しく害し、相続税負担の公平上看過し難い事態を招来する結果となる場合には、出資の評価に当たり評価通達によらないことが正当と是認される特別な事情があることになる。
b 評価通達188項の趣旨と本件の実状
ところで、評価通達188項が、「同族株主以外の株主等」が取得した株式につき特例的な評価方法である配当還元方式による評価方法を定めたのは、その株式を保有する株主の持つ経済的実質が、配当を受領するという期待以外に存しないことを配慮した結果であり、会社経営に参画したり、会社に対して支配的でない、いわゆる零細・少数株主の所有する株式に限って、特例的にその受け取る配当金から還元して元本たる株式の評価額を算定しようとするとともに、併せて、少数株主に限っては、複雑な計算過程を経てなされる原則的な評価方法によらずに、評価手続を簡便に行い得るように配慮したものである。
そして、評価通達上は、188項が法人税法施行令4条を準用することで、一族で発行済株式数の50パーセント未満の株式しか所有していない会社は、その一族株主が同族株主となっている他の会社に対して支配的でなく、その会社から配当を受領する期待のみしか有しない株主と同等に取り扱うこととされている。
ところが、本件では、平成3年12月5日の本件各取引会社への本件出資の譲渡前の段階で被相続人の保有する本件出資を評価通達の定めによって評価すると、まず、本件有限会社の保有するB株式会社の株式200万株は、B株式会社の発行済株式数700万株に占める割合が28.6パーセントであることから、評価通達188項の定めによれば、本件有限会社単独ではB株式会社の同族株主とはならないものの、被相続人及び原告甲の2者が本件出資を100パーセント保有していることから、F合名会社、G及び原告甲との関係において、同通達の定める法人税法施行令4条に規定する特殊の関係のある法人に該当する「同族株主」となることにより、本件有限会社の保有するB株式会社の株式200万株は、評価通達の定める原則的な評価方法である類似業種比準方式によって評価されることとなるはずであった。しかし、被相続人が、本件各取引会社に対して、本件有限会社の総出資口数の52パーセントに相当する5万2000口を売却したことにより、B株式会社の株主たる原告甲及びその同族関係者が本件出資の50パーセント以上を保有しないこととなったので、本件有限会社は、B株式会社の同族株主であるF合名会社、G及び原告甲らとの関係において、評価通達188項に定める法人税法施行令4条に規定する特殊関係のある法人に該当しなくなった結果、本件有限会社の保有するB株式会社の株式200万株は、評価通達の定める「同族株主以外の株主等が取得した株式」として評価されることとなり、評価通達188-2項の定める配当還元方式によって、1株当たり50円、総額1億円(被相続人の現物出資時に同人が認識した時価である64億円のわずか1.56パーセント)と評価されることとなってしまい、その結果、被相続人が、その死亡の約1年半前の本件有限会社の設立に際して、正味73億6826万4698円の本件財産を出資したものであるにもかかわらず、本件財産を「有限会社の出資」という資産に化体させ、かつ、その総出資口数の過半数を超える5万2000口を1口当たり1000円で売却するという行為を経た結果、同売却からわずか8日後の本件相続時点における本件財産の化体財産たる本件出資及び5万2000口の売却代金が本件相続にかかる相続税の課税価格に占める価額は、原告らが申告した本件出資4万7995口の価額1億4988万8385円(1口当たり3123円)と同売却代金の5200万円との合計額2億0188万8385円となり、本件有限会社に対する本件財産の出資時の正味価額73億6826万4698円と比較してみれば、実にそのわずか2.7パーセントにすぎない価額に評価されてしまうのである。
評価通達は、評価の対象となる会社の子会社が、評価対象会社の同族関係者となるか否かを、評価対象会社が子会社の株式を半数以上保有しているか否かによって判定することとしているが(評価通達188項(1)、法人税法施行令4条)、これは、評価通達において原則的評価方法を適用すべき場合の判定基準(評価通達188項)からすれば例外である。この趣旨は、すべての場合に親会社と同様の判定基準を適用することとすると、たとえ、わずかな株式しか保有していない子会社であっても、当該会社の株主のみならず株主の親族関係等のすべてを把握する必要が生じるため、株式の評価に多大な労力を要することとなり、申告納税制度における納税者の便宜及び課税実務上の観点から好ましくない結果を招くこととなるからである。原告らは、この趣旨を逆手にとったものである。
c 原告らによる本件有限会社の支配の事実
本件において、本件出資を取得した本件各取引会社の出資口数の合計5万2000口は、本件有限会社の総出資口数10万口の52パーセントであり、50パーセントを上回るという事実が存すること自体は確かである。しかしながら、それぞれ酒類等の製造販売を営業の主体とし、相互に競争関係にある本件各取引会社が「(現物出資を受けた)不動産の賃貸」を行うにすぎない本件有限会社の経営そのものに関心や興味を持つものとは到底考えられず、また、共同して経営に参画するというのでもないのであるから、本件各取引会社が本件出資を各4000口ずつ買い取ることとしたのは、同各出資それ自体にメリットや必要性があったからというものではなく、本件各取引会社の過去長年来の有力な取引先であるB株式会社において、代表取締役社長等の重要な地位にある被相続人や原告甲らからの要請があったこと、従来からの有力な取引先であるB株式会社との取引関係を守り継続させたいとの意図があったこと、加えて、総額各400万円という本件各取引会社にとってみればそれほど多額とは思われない買取り代金であったことを考慮し、各出資を買い受けたものであると容易に推認できる。
そして、本件有限会社の営業収益は、被相続人から現物出資を受けた本件建物をB株式会社等に対して賃貸することにより発生する家賃収入のみであり、本店に店舗を構えているわけでもなく、その取締役は原告甲及びI(被相続人生前は、被相続人)のみであり、雇用契約のある従業員はおらず、平成3年12月25日、平成4年2月26日及び平成5年2月25日開催の本件有限会社の社員総会に当たり、本件各取引会社はそろって賛成あるいは白紙委任する形で議決権を行使する旨の委任状を提出し、その提出先もB株式会社又は同社の社長室宛てとされているなどの事実に照らせば、本件各取引会社はおよそ本件有限会社に対して支配的でない社員であることが明らかである。
そもそも、B株式会社は、本件各取引会社にとって重要な会社であり、それぞれにその販売市場の確保拡大にしのぎを削る本件各取引会社にとっては、その経営内容などにもともと関心もない本件有限会社の社員総会で、何らかの反対をするなどしてB株式会社に反旗を翻すようなことなど、できるはずもなく、また、する必要もなく、仮に反対の立場を表明したとしても、当該会社と競争関係にある他社がそうした機会を捉えてむしろB株式会社に従うことは明々白々である。
また、本件有限会社の定款には、平成3年12月5日の本件各取引会社に対する出資の売却に当たり、同社の出資口の譲渡制限が新しく設けられており、具体的には、第7条で「本会社の出資口数の譲渡については、取締役会の承認をよう(ママ)する。」とし、同取締役については、第14条において「取締役2名以内を置く。」とされ、本件有限会社の設立当初は、被相続人と原告甲が、被相続人の死亡後は、原告甲と同人の長男であるIがその取締役に就任している。
このことから、本件出資につき、原告甲らの保有割合が、総出資口数の48パーセントであって、50パーセント未満の保有割合であるとはいっても、本件有限会社の事実上の支配権は、本件相続開始日を含めて現在までB株式会社の代表取締役社長である原告甲、被相続人の妻である原告乙(本件相続により本件出資4万7995口は、原告乙が相続している。)及びIに存することは明らかであり、さらにまた、本件有限会社は、原告甲及びI(被相続人生前中は、被相続人)が取締役を務めており、本件各取引会社13社が合計して52パーセントの出資を保有しているとしても、それによって原告甲らが同社を支配している事実は何らの影響を受けることがないのである。
d 本件譲渡の意図
本件譲渡が被相続人の多額な相続税額の圧縮を目的としたものであることは、以下の事実からも明らかである。
すなわち、被相続人は、本件相続開始直前までに、B株式会社の株式及びF合名会社の持分について、Pから承継した株式等及び自らが保有していた株式等のほとんどをB株式会社の持株会社であるF合名会社及び本件有限会社に移転しているが、これらの株式の移転は、Pの相続開始以後、毎年徐々に行われていたが、平成元年5月に被相続人がD病院に入院した日を境に、本件土地建物が取得され、本件有限会社の設立、本件土地建物及びB株式会社の株式200万株の現物出資へと加速された。
他方で、昭和63年に旧租税特別措置法69条の4が創設され、借入金で土地を購入することによって、借入金と土地の評価差額を利用して相続財産の圧縮を図るという従来よく用いられていた相続税額の圧縮手法が規制され、その後、平成2年8月3日付けで評価通達が改正され、①純資産価額方式で評価する場合、評価会社の保有する土地、建物についても原則として「通常の取引価額」で評価されることとなり、②株式保有会社、土地保有会社及び開業後3年未満の会社の株式については、原則として、大会社であっても、類似業種比準方式ではなく、純資産価額方式で評価されることとなった。この改正は、個人の保有する土地や株式を現物出資して、形式上、資本金1億円以上の大会社を設立し、その会社の株式の評価を当該会社が営む業種に類似する類似業種比準方式を適用することにより、その評価額を大幅に引き下げる(当該会社が利益もなく、配当も行わなければ当該会社の株式の評価額は保有資産の額に比べて非常に低いものとなる。)ことを防止するために定められたものである。
この法令・通達の改正により、まず、個人が借入金によって土地・建物を購入することによってその評価差額を利用する相続税の圧縮方法が効果を失い、次に、個人で所有していた土地、建物及び株式を法人所有とすることによって可能であった借入金と土地の評価差額を利用する相続税の圧縮方法も効果を失うこととなった。さらに、資本金1億円以上の大会社を設立し、土地、建物及び株式を現物出資し、その会社の株式の評価をその会社が営む業種に類似する類似業種比準方式を適用することにより、評価額を大幅に引き下げるといった相続税の圧縮方法までもが効果を失うこととなった。このように平成2年8月の評価通達の改正によって防止されることとなった相続税の圧縮方法は、いずれも平成元年から平成2年にかけて被相続人が行った行為そのものにほかならない。しかしながら、前記通達改正によって、従前、行われていた相続税の圧縮方法が効を奏しなくなったため、被相続人は、新たな相続税の圧縮方法として、本件相続開始直前の平成3年12月5日に本件各取引会社の13社に対し、本件出資の過半数を譲渡することを企てたものである。
以上のような平成元年から平成2年にかけて繰り返し行われた被相続人の一連の行為と法令・通達の改正経緯からすれば、被相続人の行ったこれらの行為が、原告らの主張するB株式会社の株式公開を目的としたものではなく、単に多額な相続税額の圧縮を目的としたものであったことは明らかである。
e 結論
したがって、本件有限会社が保有するB株式会社の株式200万株は、形式的には評価通達188項の定めに該当して配当還元方式によって評価することになるとしても、実質的には、本件有限会社に対する原告らの支配関係が存在していることから、本件有限会社は、B株式会社の同族株主である原告甲らとの関係において特殊関係のある同族関係者であるので、B株式会社の同族株主と認めるのが相当であり、加えて、他の納税者との相続税負担の公平を確保するとの見地から、評価通達による評価方法を画一的に適用して評価することは、極めて不適当なものであるといわざるを得ない。
(イ) 本件有限会社が保有するB株式会社の株式の評価方法
前記(ア)によれば、大会社の株式の例外的評価方法である配当還元方式は採用できないから、本件有限会社が保有するB株式会社の株式200万株の評価方法は、評価通達178項、179項により、大会社の株式の価格の原則的評価方法である類似業種比準方式によるべきである。
また、仮に、評価通達を離れたとしても、同株式の評価に当たっては、類似業種比準方式によるべきである。
すなわち、相続税法22条は、「この章で特別の定めのあるものを除く外、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によ」ると規定するところ、同条にいう時価とは、当該財産の客観的交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解される。
そして、取引相場のない株式の場合は、市場価格が存在しないため、どのような間接事実に基づいて客観的交換価値を推認するのが最も合理的であるかが問題となるのであり、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式、収益還元方式などは、いわば客観的交換価値を推認するに当たって準拠すべき間接事実の選択方式ということができる。
ところで、原告らの保有する本件出資の保有割合は、同人らが単独で代表取締役、取締役を選任できる50パーセント超ではないものの、前記(ア)のように、原告らの出資保有割合を上回る出資者グループが存在せず、本件各取引会社の出資の保有割合は各4パーセントであることなどからすれば、原告らが実質的に支配している本件有限会社の本件出資は、単なる受動的な利益配当証券ではなく、支配証券、財産証券としての強い性質をも有するものであり、支配証券、財産証券及び利益配当証券としてのいずれの要素をも含んだ評価方法によって評価することが最も合理的であり、B株式会社が大企業であることに鑑みれば、本件有限会社が保有するB株式会社の株式の価額は、上場会社を比較の対象とした類似業種比準方式によって算定するのが最も合理的であるといえる。
この点、原告らは、B株式会社の株式の取引事例の有無についての検討をしていない評価書をもとに、配当還元方式によるのが妥当としているようであるが、類似業種比準方式により算定された価額によって取引されたものと推認できるB株式会社の株式の取引事例は多くあるのであり、そもそも、同人らによる本件有限会社の支配の事実を誤認し、かつ、かかる取引事例について考慮していない前記評価書には合理性が欠ける。また、収益還元方式も資本還元率の設定如何でその価額が大きく異なるものとなるので、採用されるべきではない。
イ 原告らの主張
(ア) 評価通達による評価方法である配当還元方式の適用
本件有限会社の保有するB株式会社の株式の評価方法は、本件有限会社がB株式会社の同族株主である場合には、評価通達にいう原則的評価方法である類似業種比準方式で評価することになるが、本件有限会社がB株式会社の同族株主でない場合には、例外的評価方法である配当還元方式で評価すべきこととなる(評価通達188項、188-2項)。
そして、評価通達によれば、本件有限会社がB株式会社の同族株主といえるためには、B株式会社の同族株主であるF合名会社、G、原告甲及びこれらと同族関係のある個人または会社が本件有限会社の50パーセント以上の出資を保有していなければならない(評価通達188項)。
ところが、B株式会社の同族株主が保有する本件有限会社の出資は48パーセントにすぎない。したがって、本件有限会社は、B株式会社の同族株主でないことになるから、本件有限会社の保有するB株式会社の株式の価額の評価方法は、配当還元方式によることになる。
しかし、本件更正処分は、本件有限会社を強引な論理でB株式会社の同族株主だとして本件有限会社の保有するB株式会社の株式の価額を類似業種比準方式で評価している。これは評価通達188項に違反し、違法である。
(イ) 評価通達によらないことが正当と是認される特別な事情の不存在
a 一連の行為の社会的合理性
被告は、本件有限会社の出資の52パーセントを譲渡したという行為を相続税の軽減を目的とした不自然不合理な行為と決めつけて、原告らがなした評価通達185項による本件出資の評価を認めようとしないが、被告のこのような決めつけは、経済的実態、ことに、先祖代々の家業を守ってきたオーナー企業のオーナーの心情を無視した、常に人のやることを租税回避と疑う心根に基づくものである。
被相続人は、B株式会社の存続発展を念願し、一方で公開企業にする必要性と、他方で、公開企業となることによる株式分散化による安定株主の不在の危険性とを考えざるを得なかった。その結果、B株式会社を公開企業としつつ、他方において、B株式会社の安定株主を作ることの工夫をしたのである。そこで、B株式会社の安定株主工作の1つとして、被相続人の所有していたB株式会社の株式を1つのまとまりを持ったものとして存続させることを考えた。その方策が本件有限会社を設立し、そこに被相続人の所有していたB株式会社の全株式を保有させることである。その上で、本件有限会社が真にB株式会社の安定株主たりえることを考えると、甲一族による本件有限会社の過半数支配は望ましくないことが分かる。なぜなら、将来において甲一族において相続争いが起こらないという保障はなく、本件有限会社の主導権争いがB株式会社の安定を害するおそれが生じるからである。そこで、被相続人は、むしろ、本件有限会社の持分の過半数をB株式会社の有力な取引先とすることにより、本件有限会社が真のB株式会社の安定株主たりえるように工夫したのである。したがって、被相続人の心情からすれば、同人の所有株式を本件有限会社に現物出資すること及び本件有限会社の出資の52パーセントをB株式会社の有力取引先に譲渡することは自然であり合理性があるというべきである。
また、たとえ、ある一連の行為によって税額が軽減されることがあったとしても、社会的に自然かつ合理的な行為のたまたまの結果ということがあることを忘れてはいけない。
b 原告らの本件有限会社の支配の事実の不存在
相続税の相続財産の評価は、基本的には評価通達によることとして、評価の統一と便宜を図っているところであり、被告のいう「納税者間の負担の公平」のためには、評価通達による評価額によることが、評価の統一と課税の公平を担保することになることは、相続税法22条を受けた評価通達が当然に予定するところである。
被告は、出資の譲渡制限条項の存在を自己に有利に援用するが、これは当該出資の譲渡についての制限であり、本件有限会社の意思決定、つまり、同社の社員総会において、本件出資を譲り受けた13社の法人の意思決定までも制限するものでないことは法的に明白である。しかるに、被告の主張は、当該出資の譲渡制限条項をもって、実質的に本件有限会社の法人としての意思決定は原告らが行い、その支配は原告らに属しているという法的実態を認定していることにほかならないが、かかる被告の主張は論理的に破綻を来たしているということは明白である。
また、本件有限会社の取締役が原告甲及びその関係者であることは、多数株主の関係者が役員に就任するという当然のことである。従業員がいないというのも、不動産賃貸業を行う上で支障がないというものにすぎない。過去の社員総会で白紙委任がなされたこと等は、本件各取引会社が原告甲らに将来に渡って議決権自体を譲渡したことを意味するものではなく、将来、特定の経営上の問題について、社員総会において本件各取引会社が反対意見を表明することは当然にありうることである。本件各取引会社がそれぞれ4パーセントの出資を有しているにすぎないからといって、原告甲らが50パーセントを有していないにもかかわらず、本件有限会社の実質的な支配関係を有しているとの証左になるはずもない。他の株主が経営そのものに興味や関心を持っているかといった内心までもが、同族関係者の判定に必要となるとするのは不合理であり、また、そもそも、有限会社に出資する者全てが会社の経営に参画する意思で出資するものではなく、配当を期待して出資する者もいることは当然のことである。
特に、現在では、メーカーにとって問屋の存在が大きく問屋との取引がなくなればメーカーが潰れるほどであったかつての時代とは立場が逆転しており、メーカーはたとえ問屋1社との関係が切れたとしても、他の問屋との取引を増やせば市場はカバーできるようになってきており、B株式会社と本件各取引会社とは商取引上の緊張関係が続いているのであって、本件各取引会社が原告甲らに従わなければならないような関係にはないのである。
そうすると、本件譲渡は形式に過ぎず、本件譲渡の事実自体が認められないというならば格別、被告において、譲渡を前提としながら、単なる安定株主対策としての本件出資の譲渡制限条項等をもって、原告らが本件有限会社を100パーセント支配しているというがごとき主張は、飛躍した誤った論理であるといわざるを得ない。
c 財産の現況の変化の存在
仮に、たとえ相続開始前後の一連の行為に経済的合理性が認められないとしても、当該行為により財産の現況が現実に変容しているのであれば、その財産の現況に即して課税価格が評価されることも、また、当然のことであり、その変容後の財産の現況に即して、評価通達の評価方法を適用して相続財産の課税価格を評価すべきである。
そして、本件においては、本件譲渡前の財産の現況と、譲渡後の財産の現況とでは異なっており、本件有限会社の経営支配権の喪失という本件有限会社の保有出資にかかる現況の変動により、同社が保有するB株式会社の株式の時価の評価方法が配当還元方式に変動したものであって、正に財産の客観的現況の変動に即した時価の変動が生じているものにすぎない。
(ウ) 評価通達によらない場合の本件有限会社が保有するB株式会社の株式の評価方法仮に、本件有限会社が保有するB株式会社の株式の価額の評価方法につき、評価通達に従うべきではなく、他の合理的な方法により評価すべきであるとしても、本件出資のうち、原告甲らが保有するのは50パーセント未満にすぎず、また、本件各取引会社が原告甲らに服従しなければならないような関係にないことからすれば、本件有限会社は原告甲らが支配する会社ではなく、同社はB株式会社の同族株主とはなりえず、また、本件有限会社が保有するB株式会社の株式の割合は28.6パーセントにすぎないので、本件有限会社はB株式会社の少数株主にとどまるのであるから、会社の経営支配力を有しない株式の評価は配当還元方式によるのが合理的であると考えられるので、本件においても、配当還元方式により評価すべきであり、類似業種比準方式によりこれを上回る金額で評価した被告の本件更正処分は違法である。
(2) 争点(2)(本件出資4万7995口の評価方法は、いかなる方式によるべきか。仮に、純資産価額方式によるとした場合、「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」を控除すべきか。)について
ア 被告の主張
(ア) 本件出資の評価方法
本件出資のように取引相場のない株式は、自由な取引市場に投入されておらず、本件においては評価方法として参考となる適切な売買実例も存しない(被相続人の死亡の8日前に行われた本件各取引会社との売買契約内容は、単に本件出資の金額を定款に定めた1口当たり1000円という金額でなされたものであって、参考とすべき適切な売買実例などとは到底いえるものではない。)ことから、合理的であると認められる限り評価通達の定めに準じながら、相続税法22条の規定する時価としての本件出資の価額を算出すべきである。
そして、評価通達189-3項によれば、開業後3年未満の会社の株式の評価は、純資産価額方式によって評価されることとされている。この趣旨は、類似業種比準方式は、比較対象の会社(以下「標本会社」という。)として採用されている上場会社に匹敵する評価会社について、配当、利益及び純資産価額(帳簿価額)という3つの比準要素により、業種別の上場会社の平均株価に比準して評価会社の株価を算定する評価方法であることから、かかる評価方法により適正に評価会社の株価を算定するためには、評価会社が、標本会社である上場会社と同様に正常な営業活動を行っていることが前提条件となるところ、開業後3年未満の評価会社は、その経営状況や財務指標がいまだ安定的でないと認められ、かかる前提条件を欠くと認められるからである。
そうすると、本件有限会社も開業後3年未満の会社であるから、評価通達185項本文の定める1株当たりの純資産価額(評価通達189-3項本文)によって評価するのが合理的である。なお、同社の資本金額が1億円であることから、評価通達178項の定めによれば「大会社」に該当することとなるが、同社の実態が、本件土地建物の管理とB株式会社の株式200万株を所有するのみの会社であることに鑑みれば、類似業種比準方式により評価することは、合理的でないと認められる。
なお、本件出資の評価において、純資産価額方式が採用されるべきである点に関しては、当事者間に争いはない。
(イ) 評価通達によらないことが正当と是認される特別な事情の存在
a 画一的に適用すると不合理となる評価通達の規定
原告らは、本件出資の1口当たりの純資産価額の計算上、評価通達186-2項に定める評価差額(なお、本件においては、争点(1)で配当還元方式を採用する原告らの計算過程においても、4億7406万2000円という多額の評価差額が発生している。)に対する51パーセントの法人税額等相当額2億4177万1000円を同通達185項の定めにより控除することにより、本件出資を1口当たり3123円と評価している。これは、後記のように、原告らが、評価通達186-2項を画一的に適用し、評価したがためになるのであり、その結果、本件出資にかかる原告らの申告額のみがこのような低額な評価額となるのである。
b 評価差額の意図的発生
被相続人は、本件有限会社にB株式会社の株式200万株及び本件土地建物をそれらの時価を著しく下回る価額で現物出資することにより、このような多額の評価差額を意図的に発生させ、評価通達185項に定める1口当たりの純資産価額の計算上、評価差額に対する法人税額等相当額51パーセントを控除することを可能とさせたものであるが、前記争点(1)と併せて、被相続人及び原告甲のこうした一連の行為は、評価通達の定めの存在を奇貨として、多額の相続税の負担を回避すべく、本件出資を低く評価できる状態をことさら人為的・意図的に作り上げるために行われたものであり、結果としてそこに評価通達の定めを当てはめたにすぎないというべきものであって、評価通達の定めに従って正しく申告したというものでは全くない。そもそも、評価通達は、本来、実質的租税負担の公平を実現するために定められているものであるところ、本件出資の評価額が、かかる極端極まりない低額なものとして算出されることを評価通達それ自体も予定するものとは思料されず、したがって、本件は、形式的には評価通達に従ってはいても、その実際は、かかる一連の行為を経由して「作り上げられた(相続)財産状態」に対して評価通達を画一的に適用したことにより得られた、評価額(原告らの申告額)なのであって、同通達の期待している評価額とはるかに乖離したいわゆる「作出された評価額」が出現しているにすぎないのである。この意味から、同評価額は、「客観的交換価値」などと到底いえるものではなく、相続税法22条に規定する時価と認めることはできないのである。
c 評価差額に対する法人税額等相当額控除の趣旨と本件への適否
評価通達が、純資産価額の計算上評価差額に対する法人税額等相当額を控除することとしたのは、個人が株式の所有を通じて会社の資産を間接的に所有している場合と個人事業主として直接に事業用資産を所有する場合とでは、その所有形態の差異によりその処分性等に差があるものと認められるので、両者の評価上の均衡を図ろうとする配慮に基づくものである。したがって、法人税額等相当額を控除することが、純資産価額方式による評価の際に、理論上当然にその配慮がなされるべきとする趣旨のものではないことは明らかである。しかるに、原告らは、評価通達が、純資産価額の計算上、評価差額に対する法人税額等相当額を控除することとしていることを利用して、被相続人において、本件有限会社の設立と同時にB株式会社の株式200万株及び本件土地建物をそれらの時価を著しく下回る価額で現物出資する等、経済的合理性のない行為をすることにより、ことさらに多額の評価差額を人為的・意図的に発生させて相続税の負担を回避しようとしていたのであり、このような場合にまで、この評価通達の定めを形式的・画一的に適用して同法人税額等相当額を控除することは、評価通達の本来の趣旨に沿わないものであり、また、かかる一連の行為をして相続税の負担の回避を図ろうとした被相続人や原告らと、かかる行為を採らなかった、あるいは、採り得なかった他の納税者との実質的な租税負担の公平を著しく害する結果となることは明白である。したがって、本件出資の評価に当たっては、この評価通達の定める評価差額に対する法人税額等相当額を控除すべきものではない。
実質的に見ても、法人税額等相当額は、会社が清算あるいは解散するとした場合における法人所得(会社が所有する資産の含み益)に対して課されると認められる税額であるから、当該会社の事業が継続するとの前提で行われる株式等の売買においては、原則としてこれを控除すべき合理性は認められないこととなり、例外的に、当該会社が保有する(含み益を有する)資産の売却を目的として株式等の売買が行われる場合には、当該資産の含み益に対して課されると認められる税額を控除した上で、売買価額の算定を行うことに合理性を認めることができるものである。したがって、本件出資の評価について、非上場株式等の価額を純資産価額方式に基づき算定する場合においては、近い将来において解散又は保有資産の売却予定があるため当該資産の含み益に対する法人税額等相当額の負担が現実のものとなる蓋然性が高く、そのため法人税額等相当額を控除することが合理的であると判断されるような場合を除き、通常、将来発生するか否かが未確定である清算所得に対する法人税額等相当額を控除しないで売買価額を算定すべきこととなる。そして、本件において、被相続人が現物出資したのは、B株式会社の安定株主工作の1つとして、被相続人の所有していたB株式会社の株式を1つのまとまりを持ったものとして存続させるためというのであるから、現物出資を行った時点で、将来、本件有限会社を清算する予定がなかったことは明らかであり、また、現物出資で受け入れたB株式会社の株式200万株等の資産を譲渡する意思がなかったこともまた明らかである。そうすると、本件出資の売買金額を純資産価額方式により算定するとした場合においては、法人税額等相当額を控除しないこととするのが合理的である。
そして、そもそも評価通達が、純資産価額の算定に当たって法人税額等相当額を控除するに至った背景には、「相続による事業の円滑な承継に配意し、相続を起因とする中小企業の事業承継につき、非上場株式の評価についてできるだけ緩く評価できる方法があるとの政策的な配慮が存在した」のであって、その理由付けとして、事業用資産を個人が直接支配している場合と会社組織として間接支配している場合との差異に関する説明が行なわれるようになったのである。このような政策的な配慮の上に、評価差額に対する法人税額等相当額を控除することとなった事情を考えた場合、評価通達が法人税額等相当額を控除することとしたのは、個人事業主とほとんど変わらない状況にある会社組織において、長年にわたり事業が営まれてきた結果、その所有する事業用資産の土地等が値上がりした場合に発生した評価差額に対する法人税額等相当額を控除することを意図していることは明らかであり、本件出資のように、意図的に作り出された評価差額までをも含むものではないのである。
本件においては、評価差額に対する法人税額等相当額を控除する評価通達の政策的配慮それ自体を逆手にとって、解散を基本的に予定しない本件有限会社につき、ことさらに評価差額を作出しただけであり、やむを得ず会社を解散する場合におけるいわば「自然発生している評価差額」について控除を想定している評価通達186-2項の適用範疇にはないものである。
d 評価通達の改正等の影響
本件相続後の平成6年及び平成11年の評価通達186-2項の改正により、著しく低い帳簿価額による現物出資の受け入れによって発生した評価差額に対する法人税額等相当額を控除しない旨が定められたが、これは、各改正時点において、かかる取扱いを明示的に定めたものにすぎず、もともと、かかる改正を待たずとも、評価通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって、実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなど、当該評価方法によらないことが正当と是認されるような特別の事情が存する場合には、相続税法22条の定める「時価」に立ち返って評価すべきものであるとする解釈は、既に前記通達改正前から存するものである。国税庁長官が、改正通達の適用時期を特定しているのは、単に改正通達の適用時期の統一を図る等の趣旨によるものにすぎない。
e 他の事例との不均衡の不存在
被告は、これまでも、評価通達の定める評価方法によらないことが正当として是認されるような特別な事情が存する場合には、これを画一的・形式的に適用して評価することなく、相続税法22条の定める「時価」に立ち返って評価してきたのであり、本件と課税上の公平を失するような取扱いを他にしたことはない。
(ウ) 評価通達189-3項本文第2文について
なお、評価通達189-3項本文第2文は、持株割合の合計が50パーセント未満である同族株主グループに属する株主の取得株式を、純資産価額方式により評価する場合には、20パーセントの評価減をすることを定めているが、同通達の趣旨が、過半数に満たない株式を保有する同族株主グループの会社に対する支配力が小さいというその実態に即して、その評価額を減じることとしていることに照らせば、形式的に持株割合が50パーセント未満である同族株主グループにとどまるとしても、なお、その実態において、会社を支配しているなどの事情がある場合には、同通達を適用して株式の評価減を行うことは相当ではない。
そして、すでに主張したとおり、本件有限会社は、原告らの属する同族株主グループが実質的に支配力を有する会社と認められるのであるから、本件出資の評価に際して、同通達を適用することはできない。
イ 原告らの主張
(ア) 本件出資の評価方法
相続財産の時価を客観的に評価することは必ずしも容易なことではなく、特に取引相場のない株式等の評価は困難であり、他方で、納税者間で財産の評価がまちまちになることは公平の観点から好ましいことではないことから、評価通達が制定され、現実の評価事務はこの通達に従って行われているのであって、判例上も、評価通達に定められた画一的かつ詳細な評価方法によって相続財産を評価することは、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であり、これ以外の方法によって評価を行うことは原則として許されないものとされてきたのである。無論、相続税の算定のための相続財産の評価に当たって根拠となるのは相続税法の規定であり、ある財産について評価通達と異なる評価がされたからといって、直ちにそれが違法となるわけではないが、現実の評価事務が評価通達に従って行われている実態がある以上、納税者の予測可能性を担保するため、評価通達による評価を上回る評価が安易に行われることは絶対に許されてはならないのである。
そして、本件有限会社は、財産の保有を主たる業務とする有限会社として、本件相続開始の約1年半前に設立されたものである。
そうすると、評価通達189-3項によれば、開業後3年未満の会社の株式の評価は、純資産価額方式によって評価されることとされているから、本件出資の評価においても、純資産価額方式が採用されるべきである。この点に関しては、当事者間に争いはない。
(イ) 評価通達によらない本件更正処分の違法性
a 評価通達上の原則と本件更正処分の誤り
評価通達上は、株式を純資産価額方式で評価する際には、185項、186-2項により、評価差額に対する法人税額等相当額が控除されることとされている。
しかし、本件更正処分は、本件有限会社の保有する資産における含み益に関する法人税額等相当額の控除を認めないという誤まりを犯している。
b 一連の行為の社会的合理性
前記(1)イ(イ)aと同様、被相続人がB株式会社の株式等を時価よりも低い価格で現物出資を行なうことにより本件有限会社を設立し、その後に本件有限会社の出資の52パーセントを譲渡したという一連の行為は、自然であり合理性があるというべきである。
c 財産の現況の変化の存在
被告は、現物出資により低額で受け入れて発生した評価差額についての法人税額等相当額の控除は適用しない旨主張する。確かに、一連の行為を行う前と後で、その財産の現況の経済的実態がほぼ同様であるという事実があれば、同一の経済的実態にある納税者間の課税の不公平を捉えて、「実質的負担の不公平」というならば理解できる。しかし、仮にたとえ相続開始前後の一連の行為に経済的合理性が認められないとしても、当該行為により財産の現況が現実に変容しているのであれば、その財産の現況に即して課税価格が評価されることも、また、当然のことであり、その変容後の財産の現況に即して、評価通達の評価方法を適用して相続財産の課税価格を評価すべきである。
そして、本件においては、現物出資前の財産の現況と、現物出資後の財産の現況とでは異なっており、現物の時価と受入価額とに開きがある結果、本件有限会社を解散した場合には、解散による清算所得の法人税が課税され、また、本件有限会社が現物出資により低額受け入れした本件土地建物及びB株式会社の株式を他に譲渡した場合には、譲渡価額と低額な取得価額との差額について、法人税の譲渡益課税が行われるのである。また、被相続人が現物出資により本件有限会社を設立した後に出資対象の本件土地建物及びB株式会社の株式を、被相続人が個人で保有する現状に復する場合にも同様のことが生じるのである。つまり、本件出資を低額で受け入れた結果、当該資産を被相続人が直接所有するためには、法人税の清算所得課税又は譲渡益課税の洗礼を受けることにより、本件有限会社の財産は当該法人税額等相当額だけ減少し、その結果、相続人らの本件出資の価額も低落するという状況にあるのである。被告は、現実に存在しない無意味な現物出資前の財産の現況による相続税額に未練を抱いて、現実に発生している現物出資及び争点(1)における本件譲渡後の財産の現況に基づく相続税額とを比較して、その相続税負担額の減少を論難するが、かかる無意味な比較論は、もはや、議論に値しない評価理論といわざるを得ない。
d 通達改正前の低額現物出資による評価差額は許容されていること著しく低い帳簿価額による現物出資の受け入れによって発生した評価差額に対する法人税額等相当額を控除しない旨の取扱いがなされたのは、平成6年及び平成11年の評価通達の改正によるものであり、本件相続が平成3年12月であることからして、改正通達の遡及適用は認められない。
また、そもそも、平成3年当時は、現物出資の低額受け入れの評価差額にかかる法人税額等相当額の控除は問題なく容認されていたのであり、原告らにのみこれを否定することは、課税の公平に反するものである。
e 評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないことの不合理性
評価通達が、純資産価額の計算上評価差額に対する法人税額等相当額を控除することとしたのは、個人が株式の所有を通じて会社の資産を間接的に所有している場合と個人事業主として直接に事業用資産を所有する場合とでは、その所有形態の差異によりその処分性等に差があるものと認められるので、両者の評価上の均衡を図ろうとする配慮に基づくものである。含み益を算定するに当たり、評価益にかかる清算所得に対する法人税額等相当額を控除するのは、株式の実現可能価値を把握するという観点から、会社の解散の場合に資産の評価益に対して課される法人税額等相当額を純資産額から控除した額を基礎にしてその額を算定する趣旨であり、相当の合理性があるものである。また、相続税法22条の「時価」は正味実現可能価額、すなわち、売却を予測した見積りによる価格と解されており、売却を予想した場合法人税額等相当額を控除した価額が見積価額となるはずである。本件においても、これらの理はそのまま当てはまるものであり、当然に、法人税額等相当額が控除されるべきである。
仮に、法人税額等相当額の控除を否認する場合には、本件有限会社を解散した場合には、現物出資を受けたB株式会社の株式や本件土地建物の時価と低額な帳簿価額との差額に対する清算所得にかかる法人税課税等は発生しないという取扱いをしなければならないところ、被告がかかる取扱いを考えているとは思えない。もともと、個人が財産を直接保有する場合と法人の出資を通じて間接的に所有する場合の財産の現況は明らかに異なるものであるから、その異なる現況を考慮して斟酌されたものが法人税額等相当額の控除であり、法人の解散に際して法人税額等相当額の課税がされる制度を改正しない限り、財産の減少は不可避なものであるから、これが人為的・意図的に作り出されたとしても、法人所有と個人所有の財産の現況に相違がある以上、これを斟酌する法人税額等相当額の控除が許容されることは明らかである。
また、会社とは通常解散を予定しないで活動するものであることから、解散を予定していないという法人の特性は、法人税額等相当額の控除を否定する根拠とはなり得ないものである。
f 第三者間の取引という観点からみた時価
第三者間の取引では、売主と買主の交渉により価格が形成されていくところ、売主は「買収対象企業と同じ企業を、今設立するとしたらいくらかかるかという考え方に立って算出する方法」のような、また、買主は「買収対象企業の資産をすべて売却し、負債と税金を完全に支払って残った財産を株主に分配するとすればいくらになるか、という考え方に立って算出する方法」のような、それぞれ自己に有利な方法を主張する。理論的には、前記のように、法人税額等相当額を控除すべきではあるが、現実の売買価格が合意に至るまでの交渉は非論理的になることもしばしばであるため、実際の取引の場面では、法人税額等相当額を控除しないという場面も出てくることになる。したがって、第三者間の客観的な取引において必ず法人税額等相当額を控除するともしないとも断定できないというのが実情である。
しかしながら、通常、法人税額等相当額を控除しない純資産価額方式は、その会社の最も高い株価等を表すことになり、したがって、売主が主張する自己に最も有利な価格がこの方式に基づいて算出された価格である以上、それがそのまま売買価格に反映されることは極めて少なく、買主との交渉の結果、最終的には、純資産価額方式で評価しつつ法人税額等相当額を控除するか、あるいは他の評価方法を併用することによって売主と買主の両者にとって妥当な金額が決定されていくことになるものである。
相続税の評価の場面においても、同様に、法人税額等相当額を控除しない純資産価額方式を採用するということは、国が当該財産を取引価格のうち想定しうる最も高い価格で評価して課税を行うことに等しく、そこには何らかの控除がされてしかるべきであり、実務上、法人税額等相当額が控除されることが多いのである。
g 客観的な財産評価について主観等を考慮すべきではないこと相続開始時の不特定多数の間で成立する客観的交換価値という時価の意義からすると、財産評価はその財産の置かれた客観的現況に基づいて評価されるものであり、原告らの主観的意図や客体たる財産に関わる行為に着目するのは誤りである。被告の主張は、本来、客観的な財産の現況に基づいて、不特定多数の独立した当事者間で成立する客観的交換価値である時価の理論とは無関係な要素をもって、評価差額に対する法人税額等相当額の控除を否認するものにすぎない。本来、評価差額が人為的に発生しようと自然発生しようと、その客観的な交換価値は同一である。
h 被告の主張の論理的一貫性の欠如
非上場株式等においては適切な取引事例がない。一方、純資産価額方式は、会社の純資産を株主又は出資者が所有しているものとみなして株価又は出資を評価する方式である。よって、評価通達において、株式又は出資の時価たる客観的交換価値を純資産価額方式により評価すること自体がそもそも一種の擬制であり、便宜的な方法なのである。原告らはこれ自体を否定するものではないが、被告が、非上場株式等の取得目的が非上場株式等の取得を通じた間接的な事業用資産の支配や事業用資産の活用による事業の継続・発展にある場合には、純資産価額方式の具体的適用において法人税額等相当額の控除はされないというのであれば、それ以前に、そもそも評価対象会社の株式等を取得する目的を一切考慮しない純資産価額方式を用いるべきではないことになる。しかし、本件において、被告は、本件出資の評価方法として純資産価額方式を主張しており、前記のような結論はとっていないのである。このように被告の主張は、本件出資の評価に際して純資産価額方式を採用するかどうかを判断するに際には取得目的を考慮せず、純資産価額方式を採用した後、法人税額等相当額を控除するかどうかを判断する際になって、突如として取得目的により控除の適否が異なると主張するのである。このような被告の主張に、論理的な一貫性というものは全く認められない。
(ウ) 法人税等相当額を控除しない場合
仮に、法人税等相当額を控除しないとなると、複数の評価手法の併用方式を用いた取引価格よりも高い価格を算出することになるのであり、これはすなわち、一般的な取引価格より高い評価をすることになるから、相続財産は時価(すなわち客観的交換価値)により評価すべきとする相続税法の規定に違反するものであって違法である。
本件出資の評価においても、これを配当還元方式によって評価した場合は一口当たり500円、収益還元方式によって評価した場合は一口当たり2446円となるところ、純資産価額方式を採用し、法人税等相当額を控除しなかった場合は、B株式会社の株式を配当還元方式によって評価した場合で一口当たり5541円、類似業種比準方式によって評価した場合で一口当たり75421円となるのであり、他の評価方法による評価額を大幅に上回ることは明らかであるから、このような場合は、そもそも純資産価額方式ではなく、複数の評価手法の併用方法を採用すべきである。
(3) 争点(3)(原告らが納付すべき相続税及び過少申告加算税の各税額)について
ア 被告の主張
(ア) 本件出資の評価
本件有限会社の保有するB株式会社の株式200万株は、類似業種比準方式によると、1株当たり3544円(原告らにおいて計算されたものであるところ、本件出資にかかる同人らの申告額の基礎とはされていないものの、F合名会社の出資を評価するに当たり、同社が保有するB株式会社の株式の評価の基礎とされており、本件相続開始日におけるB株式会社の類似業種比準価額を正しく計算したものであり、被告の主張する評価方法並びに評価額と同額である。)、200万株で70億8800万円と評価するのが合理的である。
また、本件出資の純資産価額の計算上は、B株式会社の株式200万株及び本件土地建物につき時価を著しく下回る価額により現物出資したことにより意図的に作り出されてしまう評価差額については、評価通達186-2項に定める評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除しないで評価すべきものである。
したがって、別表5記載のとおり、本件有限会社の純資産価額は75億4213万4000円となり、本件出資は1口当たり7万5421円、4万7995口の総額で36億1983万0895円と評価すべきものである。
(イ) 原告らの相続税等の価額
以上を前提にして算定すると、原告らの相続税及び過少申告加算税の各税額は、別表1ないし5各記載のとおりの根拠で、本件更正処分及び本件賦課処分(いずれも、平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)と同額となる。
イ 原告らの主張
(ア) 本件出資の評価
本件出資の評価にあたっては、本件有限会社の保有するB株式会社の株式の価額は配当還元方式により1株50円、総額1億円と評価すべきであり、また、評価差額に対する法人税額等相当額の控除をすべきであって、本件出資は1口当たり3123円となるものである。
(イ) 原告らの相続税等の価額
以上を前提にして算定すると、原告らの相続税の価額は原告らの申告額の範囲内に収まるものであり、本件更正処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)は前記第1請求記載の限度内で取り消されるべきであり、また、本件賦課処分は、違法な本件更正処分をもとにされているから違法であり、取り消されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 本件争点(1)(本件有限会社が保有するB株式会社の株式200万株の評価方法は、いかなる方式によるべきか。)について
(1) 本件において、被告は、本件有限会社が保有するB株式会社の株式200万株の評価方法は、類似業種比準方式によるべきである旨主張し、原告らは、配当還元方式によるべきである旨主張するので、以下、検討する。
(2) 相続税法22条の時価
相続税法22条は、相続により取得した財産の価額は、同法第3章で特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価により評価するものと規定している。ここに、時価とは、相続開始時における当該財産の客観的交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解される。そして、相続税法第3章には、有限会社の出資の評価に関する特別の定めはないから、本件出資の価額は、相続税法22条に規定する時価により評価することとなる。
ところで、客観的交換価値は必ずしも一義的に明確に確定されるものではないことから、課税実務上は、評価通達に定められている評価方法により相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法をとると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、回帰的、かつ、大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものである。
したがって、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これは、時価の評価方法として妥当性を有するものと解される。
かかる評価通達の趣旨からすれば、評価通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって、実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなどこの評価方法によらないことが正当と是認されるような特別な事情がある場合には、他の合理的な方法により評価をすることが許されるものと解される。このことは、評価通達自体も、その6項において、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」旨定められていること(乙1。なお、国税庁長官の指示は、国税庁内部における処理の準則を定めたものにすぎず、同指示の有無が、更正処分の効力要件となっているものではないと解される。)からも明らかである。かかる場合には、評価通達の定める評価方法によることなく、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮しつつ、相続税法22条の規定する「時価」を算定すべきこととなる。
(3) 非上場株式の評価方法
評価通達は、非上場株式の評価方法について、その178項、179項において、評価会社の規模に応じて場合分けし、評価会社が大会社の場合においては、それが上場会社や気配相場等のある株式の発行会社に匹敵するような規模の会社であることに鑑み、その株式が通常取引されるとすれば上場株式や気配相場等のある株式の取引価格に準じた価額が付されることが想定されることから、原則として、現実に流通市場において価格形成が行われている株式の価額に比準して評価する類似業種比準方式(株価形成要素のうち基本的かつ直接的なもので計数化可能な1株当たりの配当金額、年利益金額及び純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)の3要素につき、評価会社のそれらと、当該会社と事業内容が類似する業種目に属する上場会社のそれらの平均値とを比較の上、上場会社の株価に比準して評価会社の1株当たりの価額を算定する方法)により評価するものとしている。このような類似業種比準方式による株式評価は、評価通達上、非上場株式についての原則的な評価方法であり、現実に取引が行われている上場会社の株価に比準した株式の評価額が得られる点において合理的な手法といえ、非上場株式の算定手法として最も適切な評価方法であるといえる。
ところで、評価通達188-2項は、このような原則的な評価手法の例外として、「同族株主以外の株主等」(評価通達188項)が取得した大会社の株式については、配当還元方式によって評価することを定めている。当該通達の趣旨は、通常、いわゆる同族会社においては、会社経営等について同族株主以外の株主の意向はほとんど反映されずに事業への影響力を持たないことから、その株式を保有する株主の持つ経済的実質が、当面は配当を受領するという期待以外に存しないということを考慮するものということができる。そして、客観的に当該会社への支配力を備えているものか否かという点で当該株式の評価額に差異が生じることには合理性があるといえるから、当該通達は、こうした趣旨において合理的な株式の評価方法を定めるものと認められる。
すなわち、原則的にいえば、少数株主といえども少数株主権等の共益権的側面を有し、さらに各種の株式買取請求における価格決定手続が定められ(商法245条の3、349条、408条の3等)、たとえ譲渡制限株式であっても譲渡承認請求に次ぐ売買価格の決定等の手続(商法204条の2ないし5)において客観的時価をもって換価する方策もないわけではないのであるから、標本会社と評価会社との間に事業内容、会社の規模、収益の状況等に類似性がある限りにおいて、このような場合であっても類似業種比準方式による評価に本来的な通用性を見出すことは不可能ではないといい得るものの、当該通達は、同族株主以外の株主等が取得した取引相場のない株式は、その多くの場合が当面の期待を配当に置いているにすぎないという経済的実質をとらえて、配当以外の株式の機能を捨象して相続税評価額を算出することを認めた例外的な算定方法と見られるのであり、この点で合理性が認められるのである。このことは、評価通達188-2項において、配当還元方式により株式の価額を算定した場合に、評価通達上の原則的評価方法である類似業種比準方式(評価会社が大会社の場合。評価通達179項)により算定した価額を超える場合には、当該原則的評価方法で算定した価額により評価することとされていることからも明らかである。
このように、評価通達における例外的評価方法たる配当還元方式は、評価会社に対する影響力を持たず支配力がないことからその経済的機能が当面は配当への期待しか認められないと特に認められる範囲を規定して、その限りで適用されるべきものであって、その反対に、その当面の経済的機能が配当への期待しか認められないわけではなく、評価会社に対する影響力を持ち支配力がある株式に対しては原則的な評価手法である類似業種比準方式が採用されるべきであるといえる。
この点、原告らは、評価会社に対する影響力を持ち確定的な支配力があると認められる株式に対してのみ類似業種比準方式が採用されるべきであり、その他の株式については配当還元方式が採用されるべきものであるから、形式的に出資割合が50パーセントを下回る場合は当然に配当還元方式を採用すべきであると主張する。
しかし、評価通達188項(1)においては、同族株主は、その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する株式の合計数が最も多いグループの有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の50パーセント以上でない場合には、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の30パーセント以上である場合におけるその株式及びその同族関係者をいうものと規定され、株主及びその同族関係者の有する株式が50パーセントに満たず、それのみでは確定的な支配権を有しない場合であっても、その有する株式の評価方法は類似業種比準方式によることとされているのであり、また、同項(3)、178項、179項においては、同族株主のいない会社であれば、株主の1人及びその同族関係者の有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の15パーセント以上であれば、類似業種比準方式によることとされているのであって、50パーセントに満たないから会社に対する確定的な支配がなく、その株式の評価方法は配当還元方式とされるといった解釈がなされているわけではない。そして、前述のとおり、非上場会社の株式の原則的な評価方法は類似業種比準方式であって、この手法は広く通用力を有する合理的な評価方法であると認められるところ、評価通達188-2項は、会社に対する支配力を持たない株式の経済的実質を前堤として例外的な評価方法である配当還元方式を採用すべきものとしているにすぎないのであるから、原告らの主張は当を得ないものといわざるを得ない。
(4) 本件有限会社とB株式会社の関係
評価通達上は、188項が法人税法施行令4条を準用することで、一族で発行済株式数の50パーセント未満の株式しか所有していない会社は、その一族の支配が及ばず、したがって、その一族株主が同族株主となっている他の会社との関係でも当該同族株主と同様に支配的であるとはいえないことから、その会社から配当を受領する期待のみしか有しない株主と同等に取り扱うこととされているところ、本件有限会社は、本件譲渡により、被相続人が本件各取引会社に対して、本件有限会社の総出資口数の52パーセントに相当する5万2000口を売却したことにより、被相続人及び原告甲が有する本件有限会社の出資口数は、総出資口数の48パーセントに相当する4万8000口にとどまることとなったため、B株式会社の同族株主たる原告甲及びその同族関係者が本件有限会社の出資口数の50パーセント以上を保有しないこととなったので、B株式会社の同族株主であるF合名会社、G及び原告甲ら(以下本項において「甲一族」という。)との関係において、評価通達188項に定める法人税法施行令4条に規定する特殊関係のある法人に該当しなくなり、評価通達上は、本件有限会社はB株式会社の同族株主ではなくなることとなった。
しかしながら、甲一族は、本件有限会社の総出資口数の48パーセントという50パーセントに極めて近い出資口を保有する一方、他の52パーセントは、B株式会社の本件各取引会社合計13社が、各4パーセントずつを保有しているのに過ぎず、甲一族と個々の取引会社とを比べれば、その保有出資口割合において48パーセント対4パーセントという圧倒的な差が生じていることは明らかである。そして、甲一族としては、本件各取引会社のうち1社でも味方に付ければ本件有限会社の出資口数の50パーセント以上を支配することが可能になる一方、本件各取引会社が、本件有限会社の支配を甲一族から奪うためには、13社全社が結束する以外にはないところ、本件有限会社は、被相続人の資産を保持し続けることを除いては、実質的には本件建物を賃貸することのみを業務内容とし、それにより得られる不動産賃料収入のみを現実の収入源とする会社であって、投機的価値があるとは考えられないことからすると、本件各取引会社が、そのような会社の僅か4パーセントに相当する出資口を保有することに独自の意味があるとは思われず、むしろ、B株式会社との良好な取引関係を継続するために出資口を譲り受けたものと考えられることや、本件各取引会社が相互に競争関係にあることなどをも考え併せると、議決権行使に関する建前論(甲2の1、2、甲3、4、甲5の1、2、甲6ないし9、甲10の1、2、甲11ないし13)にかかわらず、本件各取引会社全社が一致結束して甲一族に反旗を翻すという事態はほとんど想定し得ないものというべきであり、被相続人も、このことを前提とした上で、本件有限会社を甲一族の実質的な支配下に置きつつ、形式上、保有出資割合を50パーセント未満にとどめるための手段として、本件各取引会社への出資口の譲渡を行ったものと考えざるを得ない。また、本件有限会社の定款には、新たに同社の出資口の譲渡制限が設けられ、取締役である被相続人(同人の死亡後は、I)と原告甲の意思に反した譲渡がなしえなくなったことから、甲一族の保有出資割合が48パーセントであっても本件有限会社の支配ができる態勢が将来的にも維持されているといえる。
かかる本件譲渡の目的や態様、B株式会社及び本件有限会社を取り巻く卸売り業界の状況やこれらと本件各取引会社との関係等からすれば、本件譲渡によって形式的に原告甲らが保有する本件有限会社の保有出資割合が50パーセントをわずかに下回る48パーセントとなったとしても、実質的には、本件有限会社の支配権は、原告甲らの手中にあるものということができる。
(5) 原告らの主張に対する判断
この点、原告らは、B株式会社と本件各取引会社とは商取引上の緊張関係が続いており、本件各取引会社が原告甲らの意思に従わなければならないような関係にはない旨主張し、本件各取引会社がそれぞれ4パーセントの出資を有しているにすぎないからといって、将来、特定の経営上の問題について、社員総会において反対意見を表明することは理論上は当然にありえ、原告甲らが50パーセントを有していないにもかかわらず、本件有限会社の実質的な支配関係を有していることにはならない旨主張し、これに沿う証拠として陳述書(甲14)を提出するが、たとえ、本件各取引会社の全てが甲一族の意向に追従する保証がないとしても、被相続人らの意向で相互に競争関係にあるB株式会社の取引会社が平等の割合で少数ずつの出資を保有するに至った本件事案においては、前記のとおり、本件各取引会社が一丸となって甲一族に反旗を翻すような事態は想定できず、その48パーセントの出資を保有するだけでも十分に本件有限会社の経営を意のままに支配することは可能であると認められるから、原告らの主張は採用できない。
また、原告らは、本件譲渡が認められないならば格別、譲渡を前提としながら、出資の譲渡制限条項をもって、原告らが本件有限会社を支配しているという認定をすることは、出資の譲渡制限と社員総会での意思決定を混同しており妥当ではない旨主張するが、本件では、前記のように、出資の譲渡制限は、既にある原告甲らの本件有限会社の支配の事実を今後とも固定するための手段であると認定しているものであるから、原告らの批判は当たらない。
さらに、原告らは、仮に相続開始前後の一連の行為に経済的合理性が認められないとしても、当該行為により財産の現況が現実に変容しているのであれば、その変容後の財産の現況に即して、評価通達の評価方法を適用して相続財産の課税価格を評価すべきである旨主張するが、本件では、本件譲渡後の現況に即して原告甲らがなお本件有限会社を実質的に支配しており、財産の現況に現実の変容は生じていないとの前提に立って本件有限会社を原告甲と特殊関係のある法人として同族関係者と認定しているものであって、原告らの批判は当たらない。
(6) 本件有限会社の有するB株式会社の株式の評価方法
そうすると、本件有限会社においては、原告甲らにおいて、50パーセント以上の出資割合を有していなくても、なお本件有限会社を実効的に支配しうる地位にあると認められるところ、前記のとおり、類似業種比準方式による株式評価を原則とし、経済的に配当を期待する程度の価値のみ把握しているにすぎない少数株主についてのみ配当還元方式を採用すべきとする評価通達の趣旨からすれば、本件有限会社が保有していたB株式会社の株式を例外的評価手法である配当還元方式で評価することは相当でないと解されるのであり、本件においては、評価通達を画一的に適用することが著しく不適当と認められる特別の事情があるものと認められる。
そして、本件においては、本件有限会社が保有するB株式会社の株式は、評価会社に対する影響力を持たず支配力がないことからその経済的機能が当面は配当への期待しか認められないと特に認められる範囲に該当する場合を除き、B株式会社が大会社であることから類似業種比準方式により価額を算定するのが合理的であるところ、前記のように、本件有限会社はB株式会社の同族株主であるF合名会社、原告甲らとの関係において、特殊関係のある法人にあたり、その同族関係者として、B株式会社の同族株主に当たることが認められるのであるから、その保有する株式の評価は類似業種比準方式によるべきである。
この点、原告らは、評価通達188項が準用する法人税法施行令4条の規定で同族関係者を認定する点につき、仮に、評価通達に従うべきではなく、他の合理的な方法により評価すべきであるとしても、原告甲らは本件有限会社の経営支配力を有しないから、F合名会社や原告甲らがB株式会社の同族株主であることを考慮しても本件有限会社がB株式会社の同族株主になく、本件有限会社はB株式会社の経営支配力を有せず、配当のみを期待する立場にしかないから、その株式の評価方法は配当還元方式によるのが合理的である旨主張するが、前記認定のとおり、原告らの主張にはその前提に誤りがあるものであって、採用できない。
よって、本件有限会社が保有するB株式会社の株式の価額の評価方法は、類似業種比準方式によるべきである。
2 争点(2)(本件出資4万7995口の評価方法は、いかなる方式によるべきか。仮に、純資産価額方式によるとした場合、「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」を控除すべきか。)について
(1) はじめに
前提事実において認定したとおり、被相続人は、本件有限会社に対し、B株式会社の株式及び本件土地建物を低額で現物出資したため、本件有限会社の出資(本件出資)を評価通達185が定める純資産価額方式をそのまま適用して評価する場合には、上記株式や本件土地建物の時価と現物出資額との差額(評価差益)に対して課せられるべき法人税額等に相当する金額を控除する必要が生ずることになる(以下、これを第2項において「法人税額等控除」という。)。そして、被告は、被相続人は、納付すべき相続税額を圧縮するために経済的合理性のない操作をしたものであるから、上記の法人税額等控除を行う必要はないという趣旨の主張をするのに対し、原告らは、法人税額等控除は、純資産価額方式によって出資の評価をする際には当然に行われるべきものであって、いわば財産が個人所有から会社所有に変更されたことによって必然的に生じる価値の減少というべきものであるから、これを否定する理由はないという趣旨の主張をする。
ところで、相続税額算定の根拠となるべき相続財産の価額とは、あくまでも適正な時価をいうのであり、たとえ経済的合理性のない行為によって相続税額が減少する事態が生じたとしても、それに対する懲罰として、適正な時価を超える価額を基準とした相続税額の算定を行うことを許容する法律の規定は存在しない。そして、法令としての効力さえも有しない評価通達によって、法律に定めのない懲罰的な課税を行うことが許されるものではないことも当然なのであるから、本件の問題は、第一には、本件有限会社が有する純資産の価額を基準として出資を評価するという方式(純資産価額方式)を採用する一方で、評価差益に対する法人税額等控除を行わないことに、相続財産の適正な時価を評価する方法として合理性が認められるかどうかという問題であることになる。また、仮に上記のような評価方式に合理性が認められるとしても、評価通達が法人税額等控除を行うことを原則としているにもかかわらず、本件において、その原則を適用しないことが許されるかどうかという第二の問題がなお残ることになる。以下これらの点について検討する。
(2) 法人税額等控除を行わない評価方法の合理性について
純資産価額方式による評価方法は、企業が保有するストックとしての純資産に着目して企業の価値や株式を評価する手法であり、基本的には、会社の収益性や将来性等を考慮することなく、株主等が会社の残余財産分配請求権を有することに照らし、会社を解散し、資産を売却した場合に株主が得る利益を算出することによって株式を評価する手法であるといえ、このような手法は、清算手続中又は清算を予定している企業の清算価値を算出するのに適した評価手法であるということができる。
ところが、評価通達189-3項本文は、設立後3年未満の会社の株式については、それが清算手続中又は清算を予定しているかどうかを問わず、評価通達上の原則的な評価手法である類似業種比準方式ではなく、純資産価額方式を採用することとしており、このような評価手法を採用することにそもそも合理性が存するのかどうかという疑問が生じないではない。しかしながら、類似業種比準方式は、標本会社として採用されている上場会社に匹敵する評価会社について、配当、利益及び純資産額(帳簿価格)という3つの比準要素により、業種別の上場会社の平均株価に比準して評価会社の株価を算定する評価方法であるから、かかる評価方法により適正に評価会社の株価を算定するためには、評価会社が、標本会社である上場会社と同様に正常な営業活動を行っていることが前提となるところ、開業後3年未満の会社の場合には、その経営状況や財務指標が未だ安定的ではないと認められるため、その前提条件を欠くことになり、類似業種比準方式によって適正な株価を算定することには困難があるものといわざるを得ない(この観点からすると、他の評価手法である収益還元方式や配当還元方式を採用することにも問題があるものといわざるを得ない。)。そこで、評価通達189-3本文は、いわば次善の策として純資産価額方式によって株価を算定することとしたものであり、そこには一応の合理性があるものといえるし、同通達それ自体に合理性があることについては当事者間にも争いがない。
ところで、純資産価額方式は、上記のとおり、基本的には、会社の清算価値に着目した株価の評価手法であるといえるのであるから、これによって会社の価値を算定するのに当たっては、会社の清算に伴って当然に負担することが予想される法人税額等を控除するのが評価方式の基本的な思想に整合するものというべきである。評価通達185が法人税額等控除をすべきことを定め、被告が、法人税額等控除の趣旨を「個人が株式の所有を通じて会社の資産を間接的に所有している場合と個人事業主として直接に事業用資産を所有する場合とでは、その所有形態の差異によりその処分性等に差があるものと認められるので、両者の評価上の均衡を図ろうとする配慮に基づくものである。」と説明しているのも、同様の理解に基づくものであるといえる。もっとも、このように純資産価額方式においては、法人税額等控除を行うのが理論的には正当であるとしても、当面清算を予定していない会社の場合には、会社を清算し、それに伴って法人税等を負担するという事態が生ずるのは遠い将来の事柄であるため、控除すべき法人税額等の現在価値は極めて小さなものになることも考えられる。このようなことから、一般的な株式価格の評価理論においても、会社の存続が予定されているかどうかを問わず常に法人税額等控除を行うべきであるとする見解のほか、清算が予定されている会社の株式評価に当たって法人税額等控除を行うが、清算が予定されていない会社の株式評価に当たっては控除を行う必要はないとする見解も有力に主張されているところである。また、評価通達についてみても、もともとは、純資産価額方式を採用する場合であっても法人税額等控除を行わないこととされていたのが、中小企業の株式を相続した場合の税負担を合理的な理由に基づいて軽減するという政策的な目的もあって、昭和47年の通達改正により法人税額等控除制度が導入されたという経緯があることからもうかがえるとおり、純資産価額方式を採用する以上、事情のいかんを問わず、法人税額等控除を行うべきであるという思想に基づいているものとは考えられないところである。
以上のように考えていくと、少なくとも、清算が予定されておらず、相当程度長期間にわたって存続することが予想される会社の株価を純資産価額方式によって評価するのに当たっては、控除すべき法人税額等の現在価値はゼロに等しいものとして、その控除をおこなわないこととするのにも一応の合理性があるものというべきである。そして、本件有限会社の設立目的はB株式会社の経営を安定させることにあることは原告らが自認するものであるところ、そのような設立目的や既に認定した本件有限会社の業務内容等に照らしてみれば、本件有限会社は相当長期間にわたって存続することが予想されるものといえ、この観点からすれば、その出資を純資産価額方式によって評価する場合、法人税額等控除を行わないこととしたとしても、その評価手法には一応の合理性が認められるものというべきである。
(3) 評価通達185を適用しないことの合理性について
以上のとおり、本件有限会社の出資を純資産価額方式によって評価するのに当たり、法人税額等控除を行わないこととしても、そのこと自体には一応の合理性が認められるものというべきであるが、評価通達185は、株式評価の対象となる会社が清算を予定しているかどうかを問わず法人税額等控除をすべき旨を定めているにもかかわらず、本件有限会社の出資の評価に当たっては法人税額等控除を行わないことに、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から画一的な評価方法を定めた評価通達制度の趣旨に照らし合理性が認められるかどうかという点はなお問題になり得るものというべきである。
そこでこの点について検討してみると、評価通達185が導入された趣旨は、(2)項において指摘したとおりであって、中小企業の株式を相続した場合の税負担を合理的な理由に基づいて軽減するという目的に基づくものであり、ここでは、個人事業主とほとんど変わらない状況にある会社組織において長年にわたり事業が営まれてきた結果、その所有する事業用資産である土地等が値上がりした場合、純資産価額方式によって株価の評価を行うと多大な相続税負担が生じるため、値上がりによって生じた評価差益に対する法人税額等を控除するという名目で相続税負担の軽減が図られたものであるといえる。これに対し、争いのない事実等において認定したとおり、本件においては、相続が発生する直前といえる時期に本件有限会社が設立され、これに対し、総額64億円に相当するB株式会社の株式を僅か5000万円で、また、時価13億円を超える本件土地建物を僅か4億円余りでそれぞれ出資するという明らかに経済的合理性を欠く現物出資がされた結果、多額の評価差益が発生し、これに対する法人税額等の控除が問題とされるに至ったものであり、これらの行為は、評価通達185が存在することを利用して、意図的に多額の評価差益を作出した上、これに対する法人税額等控除を行うことによって相続税額の負担を軽減させようと画策したものと評価されてもやむを得ないものなのであるから、このような場合には、評価通達185に定める原則とは異なる評価手法が採用されたとしても、上記の評価通達制度の趣旨に反するものではないというべきである(なお、評価通達185の趣旨が上記のようなものであるとすると、それは、存続を予定した会社の株式評価に関する限り、法律上の根拠がないにもかかわらず、通達限りで政策的な租税負担軽減措置を設けたこととなり、そのような行為は適正な時価に対する課税を求める相続税法の規定に違反し、違法なのではないかという別個の問題が生じないではないように思われる。
しかしながら、仮にこのような問題があるとしても、それは、評価通達185の適法性に問題を生じさせるのにとどまるのであって、違法な通達の定めを本件に拡張して適用すべきであるということにはならないのであるから、結論に影響を及ぼすものではない。)。
なお、原告らは、「仮に本件有限会社に対する現物出資が経済的合理性を欠く行為であったとしても、それによって財産が会社所有に変容している以上、評価通達185が適用されるべきである。」と主張し、経済的合理性を欠く行為に対して懲罰的な課税を行うことが許されないことは既に説示したとおりであるが、以上の判断は、懲罰的な課税を認めるものではなく、本件においては、評価通達185を適用するのではなく、別の評価手法によって相続財産の適正な価額を評価すべきであるとするものであるから、原告らの上記批判は当たらない。
(4) 結論
以上によれば、本件出資の評価に当たっては、評価差額に対する法人税額等相当額を控除すべきではない。
(5) なお、評価通達189-3項2文は、開業後3年未満の会社等の株式の評価について、当該株式の取得者とその同族関係者(188の(1)に定める同族関係者をいう。)の有する当該株式の合計数が開業後3年未満の会社等の発行済株式数の50パーセント未満である場合においては、185項本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額に100分の80を乗じて計算した金額をその純資産価額とする旨定めている(乙1)が、争点(1)において判断したとおり、B株式会社の同族株主たる原告甲及びその同族関係者が保有する本件有限会社の出資口数が48パーセントであるとしても、実質的には、本件有限会社の支配権は、原告甲らの手中にあるものということができるから、かかる100分の80の減額をする必要はないものというべきである。
3 争点(3)(原告らが納付すべき相続税及び過少申告加算税の各税額)について
(1) 以上を前提に、前記争いのない事実等記載のとおりの相続財産・債務の内容及び遺産分割による原告ら各人の相続財産の価額を踏まえて原告らが納付すべき相続税及び過少申告加算税の各税額について検討する。
(2) まず、本件有限会社が保有するB株式会社の株式の本件相続開始時点における評価額は、類似業種比準方式を適用すると、1株当たり3544円となることは当事者間に争いがなく、200万株で70億8800万円となる。
そして、これを前提にして本件有限会社の出資の価額を純資産価額方式で算定し、その際、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないこととすると、本件出資1口当たりの評価額は、別表5記載のとおり、7万5421円となる。
そうすると、本件相続開始時点において被相続人が保有していた有価証券の価額は、別表4記載のとおり、本件出資4万7995口を含めた総額で43億9487万6719円となり、原告らが相続により取得した財産の総額は、別表1の順号7の合計欄記載のとおり127億6656万6469円となる。
ここから、別表1の順号10の合計欄記載のとおり控除すべき債務の金額1億6247万8584円を控除した後の金額(但し、国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項の規定により原告らの課税価格の1000円未満の端数を切り捨てた後の額)は、126億0408万6000円となり、原告らの課税価格は、別表1の順号12の各人の欄記載のとおり、原告甲が38億5018万8000円、原告乙が80億3736万円、原告丙及び同丁がいずれも3億5826万9000円となる。
そして、相続税法15条ないし17条、同法19条の2の各規定(但し、同法15条及び16条については、平成4年法律第16号による改正前のもの、19条の2については、平成6年法律第23号による改正前のもの)に基づき、原告ら各人の納付すべき税額を計算すると、別表2の順号2の合計欄記載のとおり、遺産にかかる基礎控除額が7200万円(4000万円と800万円に法定相続人の数4を乗じて算出した金額3200万円との合計額)となるから、原告らの課税価格の合計額からこれを控除した課税遺産総額は別表2の順号3の合計欄記載のとおり125億3208万6000円となり、原告ら各人の法定相続分(原告乙が2分の1、原告甲、同丙及び同丁がいずれも6分の1)に応ずる取得金額が、別表2の順号5の各人の欄記載のとおり、原告乙が62億6604万3000円、原告甲、同丙及び同丁がいずれも20億8868万1000円となり、相続税の総額は別表2の順号6の合計欄記載のとおり84億9166万0200円となるから、原告ら各人の相続税額は、かかる相続税の総額に課税価格の合計額のうちに各人にかかる課税価格が占める割合を乗じて算出した金額となり、別表1の順号13の各人の欄記載のとおり、原告甲が25億9395万9466円、原告乙が54億1495万2740円、原告丙及び同丁はいずれも2億4137万3997円となる。ここから別表1の順号14の各人の欄記載の税額控除額(原告乙の税額控除額は、別表3記載のとおり42億4583万0100円、その余の原告らの税額控除額はいずれも0円である。)をそれぞれ控除し、通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てると、原告らの納付すべき相続税額は、別表1の順号15の各人の欄記載のとおり、原告甲が25億9395万9400円、原告乙が11億6912万2600円、原告丙及び同丁がそれぞれ2億4137万3900円となる。
そうすると、原告らの相続税の各税額は、本件更正処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)と同額となる。
(3) 以上のように、原告らは、相続税の課税価格及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、かかる過少申告について通則法65条4項に規定する正当な理由は認められないから、通則法65条1項及び2項の規定により、原告らの過少申告加算税額は、次のとおりとなる。
ア 原告甲
385万3000円通則法65条1項の規定により、本件更正処分によって原告甲が新たに納付すべきこととなった税額3853万円(前記25億9395万9400円から同人の申告額25億5542万7700円を差し引いた金額。但し、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。
イ 原告乙
1億7524万6500円通則法65条1項の規定により、本件更正処分によって原告乙が新たに納付すべきこととなった税額11億6851万円(前記11億6912万2600円から同人の申告額60万6200円を差し引いた金額。但し、通則法118条2項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて算出した金額1億1685万1000円及び通則法65条2項の規定により、新たに納付すべきこととなった税額11億6851万6400円のうち同人の申告額60万6200円を超える部分に相当する金額である11億6791万円(但し、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に1010分の5の割合を乗じて算出した金額5839万5500円を合計した金額である。
ウ 原告丙
37万1000円通則法65条1項の規定により、本件更正処分によって原告丙が新たに納付すべきこととなった税額371万円(前記2億4137万3900円から同人の申告額2億3765万7800円を差し引いた金額。但し、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。
エ 原告丁
37万1000円通則法65条1項の規定により、本件更正処分によって原告丁が新たに納付すべきこととなった税額371万円(前記2億4137万3900円から同人の申告額2億3765万7800円を差し引いた金額。但し、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の10の割合を乗じて算出した金額である。
そうすると、原告らの過少申告加算税の各税額は、本件賦課処分(平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)と同額となる。
(4) よって、本件更正処分及び本件賦課処分(いずれも、平成12年1月18日付け裁決により取り消された部分を除く。)は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも適法であるものと認められる。
第4 結論
以上のとおりであって、原告らの本訴請求には理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 新谷祐子)
裁判官 加藤晴子は差支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
別紙1
原告 甲
本件更正処分等の経緯
file_2.jpgfF A E 2 ‘ii 4 | F< 2 8 w/o > oF em RR 4+ 6-12 3, 850,188, 000| 2, 555 7 7+ 6+ 9 4,559, 608, 000] 3, 100, 366, 300 54, 493, 000 7+ 8+ 1 3, 850,188, 000] 2, 555 700 710-26 a # s1ie24 3, 850, 188, 000 558, 427, 700 - 12+ 1-18 850,188, 000] 2, 593, 959, 400 3, 853, 000
別紙2
原告 乙
本件更正処分等の経緯
file_3.jpg& 3 alm ® ‘ii + @ ma] iB ne Ea 4+ 612 4,567, 417 606, 200 - RE + BARD 7+ 6+ 9 9, 946, 306, 000| 1,187, 534, 200 178, 008, 000 Rm fs aol 4, 567, 417, 000 606, 200 - RoR 10-26 EB # = £m OR Te1ie24 4, 567, 417, 000 606, 200 - Sz RR 12+ 1-18 8, 037, 360, 000] 1, 169, 122, 600 175
別紙3
原告 丙
本件更正処分等の経緯
file_4.jpggz 5 A Ce ee ee : 8 # # m RB Ea a+ 6512 358, 269, 000 237 800 HE 6-12 1, 011, 918, 000 688 100 55, 677, 500 Rm tt 7 aed 358, 269, 000 237, 657, 800 - RoR 7+10+26 % # rE: ES T+11+24 358, 269, 000 287, 657, 800 - eH ® 2 ee 358, 269, 000 241 900 371, 000
別紙4
原告 丁
本件更正処分等の経緯
file_5.jpgK A ‘ii G + = 8 w/e em RR Ea 4+ 612 358, 269, 000 237 7, 800 - HE + MRR 7+ 6+12 011, 918, 000 688, 067,100 55, 677, 500 Rm gel 358, 269, 000 237 . 800 - Rm 7+10+26 % # # # 11-24 3 269, 000 237 800 - € # & 12+ 1-18 858, 269, 000 241 900 371, 000
別表1 課税価格等の計算明細表
file_6.jpg10% 2 # z 1 it 1 i i 2,098 385,800 658,269, 640 8,288, 639 bil 2 |ele ® 0 0 METS 0 o Ele me mom 5 2, 000,000 ° o 2, 000,000 6 |@|zowonm 268,413,925 198,682,750 0 0 06, 7 * Co» H ) 3, 850, 188, 337 358, 269, 640 2, 766, 566, 469 ¢ Tule % o 0 5 58, 02 o|o/# x ® m o 0 0 10 C# #) o 0 5 ti [a om mm ie | __ 0,060, 188,507 va[m@ aw | __ 8.860, 186, 00 2,604,086, 000 ii & 8 @ 269,959, 466 60,200 14/8 @ © @ 0 830, 100 0 0 830, 100 15[W > <= @ | __2,500,050,000| 1,100,122, 600 2, 373, 200 a a7s, 000 | ___a, 245,029,600 BD 1 M1 SOFADSMT, BRMORM GIE2OMF 6 OSHMOSE (, FADTAGH (REI 20EADMOSM) LAFEL, TR ROOT WF 1 2OGRHMOLM) LHL LCROLMGERERRETH S SOMES 1 4 OBUBEDRIEIL, BIR 3 OME 7 DBRECH 5.
別表2 税額算出表
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別表3 配偶者の税額軽減額の計算書
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別表4 有価証券の価額の明細
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別表5 有限会社Aの出資の評価明細書
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