東京地方裁判所 平成13年(レ)247号 判決 2001年11月29日
控訴人(附帯被控訴人)
山口博久
被控訴人(附帯控訴人)
三浦尚
主文
一 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(一) 被控訴人は、控訴人に対し、一八万七八二四円及びこれに対する平成一三年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 控訴人のその余の請求を棄却する。
二 本件附帯控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
四 この判決は、第一項(一)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
(一)本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は、控訴人に対し、五四万円及びこれに対する平成一三年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二)本件附帯控訴を棄却する。
(三)訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
(四)仮執行宣言
二 被控訴人
(一)本件控訴を棄却する。
(二)本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
控訴人の請求を棄却する。
(三)訴訟費用は、第一、二審とも、控訴人の負担とする。
第二事案の概要
請求の原因及び争点は、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
第三当裁判所の判断
一 争点(一)について
争点(一)に対する当裁判所の判断は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 判断」一のとおりであるから、これを引用する。
被控訴人は、いわゆる評価損が認められるのは、車両を修理しても技術上の限界等から回復できない顕在的又は潜在的な欠陥が車両に残存した場合を原則とすべきであり、中古市場で問題とされることのある単なる事故歴を理由とする減価をもって賠償の対象とすべきではないと主張するが、このような見解は当裁判所の採るところではない。
二 争点(二)について
控訴人は、本件事故日から事故翌日の夕方までの控訴人車の使用不能による損害として、控訴人車と同種同程度のレンタカーの利用料金相当額を認めるべきであると主張する。しかし、代車(レンタカー)を使用した費用を損害として認めることができるのは、代車使用の必要性が認められ、かつ、現実に代車を使用したときに限られるというべきである。控訴人は、事故翌日の夕方まで現実に代車を使用していないことを自認するところであるから、控訴人の請求は、いわゆる仮定的代車料の支払を求めるものであって、理由がない。
もっとも、この場合においても、バス、地下鉄などの公共交通機関の利用料金相当額は損害として認めることができるし、タクシーを利用する必要性があるときは、その利用料金が損害として認められる。甲七及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は本件事故当時六六歳の弁護士であって、その自宅は肩書住所地である東京都渋谷区恵比寿三丁目三一番一五号に所在し、その事務所は・東京都新宿区四谷四丁目二八番地に所在すること、車を利用する場合には、自宅から事務所までの所要時間は約一五分であるが、公共交通機関を利用した場合には、約四〇分であること、控訴人は、本件事故当日、事故場所から所轄警察へ、更に同所から自宅へと移動するのにタクシーを利用し、事故翌日は、自宅と事務所、事務所と新宿駅を行き来するのにタクシーを利用し、また、事務所と霞が関を往復するのにタクシーを利用したことが認められる。しかし、被害者側にも損害の拡大を防ぐべき信義則上の義務があるから、控訴人については、弁護士という職業とその年齢を考慮しても、自宅から事務所への通勤や事務所と霞が関との往復等に、当然にタクシーを利用する必要が認められるものではない。そして、本件事故当日から事故翌日の夕方までの間、控訴人においてタクシーを利用する必要性があったことについては、控訴人から、特段の主張・立証はない。
そうすると、控訴人車の使用不能による損害の賠償を求める控訴人の請求は、公共交通機関の利用料金相当額の賠償を求める限度で理由があるから、一五〇〇円をもって損害と認める。
三 弁護士費用
以上の認容額(一五万七八二四円)、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、三万円と認める。
第四結論
以上によれば、控訴人の本訴請求は、一八万七八二四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成一三年二月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきである。
そこで、本件控訴に基づき、以上と異なる原判決を本判決主文第一項のとおり変更することとし、本件附帯控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 河邉義典 村山浩昭 来司直美)