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東京地方裁判所 平成13年(レ)265号 判決 2001年9月27日

控訴人

高千穂商事株式会社

上記代表者代表取締役

佐伯正孝

上記訴訟代理人支配人

上野忠雄

被控訴人

甲野太郎

上記訴訟代理人弁護士

辻惠

藤田正人

三浦亜砂子

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人に対し、金八万一〇七八円及びこれに対する平成一二年七月八日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を支払え。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。

3  この判決は第一項(1)に限り仮に執行することができる。

事実

第1  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金三五万八六五八円及びこれに対する平成一二年七月八日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

本件事案の概要は次のとおりである。控訴人は、貸金業等の規制に関する法律(以下「貸金業法」という)上の登録貸金業者であるが、平成一一年三月二九日、被控訴人に対し、五〇万円を貸し付けたところ、一部弁済はあったものの、未だ残元本三六万一七六二円が残っているとして、当該残元本及びこれに対する約定の年三〇パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めている。

これに対し、被控訴人は、控訴人と被控訴人との間には、平成七年四月六日から六回にわたる貸付があり、これら六回の貸付は一体(一本の消費貸借契約)として考えるのが相当であり、この考え方に基づき支払利息を利息制限法所定の制限利率(年一八パーセント)で引き直し計算を行うと、被控訴人は、元本を完済し、逆に一万八六六二円の過払いになっており、控訴人の請求は理由がないと反論している。なお、控訴人は、前記六回の貸付に関し、利息制限法の適用はなく、貸金業法四三条一項の適用があると主張している。

第3  争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に当該証拠等を掲記する)

1  当事者

(1)  控訴人は、貸金業等を目的とし、昭和五八年一二月八日から、「高千穂商事株式会社」の商号で、貸金業法三条一項に基づき登録を受けている貸金業者である(現登録番号東京都知事(6)第〇〇四三〇号、甲3)。

(2)  被控訴人は、後記2記載のとおり、控訴人との間で、消費貸借契約を締結した者である。

2  控訴人と被控訴人との間の取引関係

(1)  平成七年四月六日付貸付(以下「本件貸付1」という、甲4、5の①ないし⑮)

ア 控訴人は、平成七年四月六日、被控訴人に対し、後記の約定で、四五万円を貸し付けた。

貸付金額 四五万円

返済方法 平成七年五月から同九年四月まで毎月二日限り元利金併せて二万円以上を計二四回にわたり弁済する。ただし、最終弁済期に残金がある場合は一括弁済とする。

利率 年36.5パーセント(年三六五日の日割計算)

支払方法 元本支払時にその経過日数分を支払う。

損害金割合 年36.5パーセント(年三六五日の日割計算)

その他特約 上記元利金の支払を一回でも怠ったときは、通知催告を要せず期限の利益を失い直ちに完済する。

イ 被控訴人は、控訴人に対し、別紙計算書1記載のとおり、分割金を弁済し、平成八年八月三〇日、本件貸付1に基づく借受金全額を弁済した。

(2)  平成九年五月三〇日付貸付(以下「本件貸付2」という、甲6、7の①及び②)

ア 控訴人は、平成九年五月三〇日、被控訴人に対し、後記の約定で、一五万円を貸し付けた。

貸付金額 一五万円

返済方法 平成九年六月から同一〇年六月まで毎月三〇日限り元利金併せて一万五〇〇〇円以上を計二四回にわたり弁済する。ただし、最終弁済期に残金がある場合は一括弁済とする。

利率 年36.5パーセント(年三六五日の日割計算)

支払方法 元本支払時にその経過日数分を支払う。

損害金割合 年36.5パーセント(年三六五日の日割計算)

その他特約 上記元利金の支払を一回でも怠ったときは、通知催告を要せず期限の利益を失い直ちに完済する。

イ 被控訴人は、控訴人に対し、別紙計算書2記載のとおり、借受金の弁済をした。

(3)  平成九年七月二二日付貸付(以下「本件貸付3」という、甲8、9の①及び②)

ア 控訴人は、平成九年七月二二日、被控訴人に対し、本件貸付2に基づく貸付金残元本及び既発生利息一四万二九一一円について、後記のとおり、書換え貸付を行い、被控訴人に対し、一〇万七〇八九円を交付した。

貸付金額 二五万円

返済方法 平成九年八月から同一一年八月まで毎月一日限り元利金併せて一万五〇〇〇円以上を計二五回にわたり弁済する。ただし、最終弁済期に残金がある場合は一括弁済とする。

利率 年36.5パーセント(年三六五日の日割計算)

支払方法 元本支払時にその経過日数分を支払う。

損害金割合 年36.5パーセント(年三六五日の日割計算)

その他特約 上記元利金の支払を一回でも怠ったときは、通知催告を要せず期限の利益を失い直ちに完済する。

イ 被控訴人は、控訴人に対し、別紙計算書2記載のとおり、借受金の弁済をした。

(4)  平成九年八月二七日付貸付(以下「本件貸付4」という、甲10、11の①ないし⑧)

ア 控訴人は、平成九年八月二七日、直前の貸金の残元本及び既発生利息二四万三九三六円について、後記のとおり書換え貸付を行い、被控訴人に対し、一〇万六〇六四円を交付した。

貸付金額 三五万円

返済方法 平成九年一〇月から同一二年八月まで毎月五日限り元利金併せて一万七〇〇〇円以上を計三五回にわたり弁済する。ただし、最終弁済期に残金がある場合は一括弁済とする。

利率 年36.5パーセント(年三六五日の日割計算)

支払方法 元本支払時にその経過日数分を支払う。

損害金割合 年36.5パーセント(年三六五日の日割計算)

その他特約 上記元利金の支払を一回でも怠ったときは、通知催告を要せず期限の利益を失い直ちに完済する。

イ 被控訴人は、控訴人に対し、別紙計算書2記載のとおり、借受金の弁済をした。

(5)  平成一〇年七月二二日付貸付(以下「本件貸付5」という、甲12、13の①及び②)

ア 控訴人は、平成一〇年七月二二日、直前の貸金の残元本三四万円について、後記のとおり書換え貸付を行い、被控訴人に対し、一六万円を交付した。

貸付金額 五〇万円

返済方法 平成一〇年八月から同一二年七月まで毎月三〇日限り元利金併せて二万五〇〇〇円以上を計二四回にわたり弁済する。ただし、最終弁済期に残金がある場合は一括弁済とする。

利率 年32.85パーセント(年三六五日の日割計算)

支払方法 元本支払時にその経過日数分を支払う。

損害金割合 年32.85パーセント(年三六五日日割計算)

その他特約 上記元利金の支払を一回でも怠ったときは、通知催告を要せず期限の利益を失い直ちに完済する。

イ 被控訴人は、控訴人に対し、別紙計算書2記載のとおり、借受金の弁済をし、平成一〇年一〇月六日、全額を弁済した。

(6)  平成一一年三月二九日付貸付(以下「本件貸付6」という、甲1、2の①ないし⑧)

ア 控訴人は、平成一一年三月二九日、被控訴人に対し、後記の約定で、五〇万円を貸し付けた。

貸付金額 五〇万円

返済方法 平成一一年四月から同一二年一二月まで毎月三〇日限り元利金併せて二万五〇〇〇円以上を計二一回にわたり弁済する。ただし、最終弁済期に残金がある場合は一括弁済とする。

利率 年30.0パーセント(年三六五日の日割計算)

支払方法 元本支払時にその経過日数分を支払う。

損害金割合 年30.0パーセント(年三六五日の日割計算)

その他特約 上記元利金の支払を一回でも怠ったときは、通知催告を要せず期限の利益を失い直ちに完済する。

イ 被控訴人は、平成一一年四月三〇日の支払を怠り、同日は経過した。その後、被控訴人は、控訴人に対し、別紙計算書3記載のとおり、弁済したが、平成一二年七月八日以降は弁済していない(甲15の1及び2、弁論の全趣旨)。

第4  争点

1  本件貸付1ないし6は一体(一本の消費貸借契約)として考慮し、利息、元本充当の計算を行うべきか。

【控訴人の主張】

本件貸付1ないし6を連続する一つの取引とみることはできない。

すなわち、被控訴人が、控訴人に対し、本件貸付1に基づく債務を全額弁済してから、本件貸付2を締結するまでに二七三日が経過している。また、本件貸付6は、前貸し完済後、一七四日が経過してからの借入である。よって、本件貸付1ないし6は、個別の契約というべきであり、本件貸付1ないし6を連続する一つの取引と見て、利息制限法所定の制限利率で引き直し計算をしている被控訴人の主張は不当である。

【被控訴人の主張】

本件貸付1ないし6は、いずれも控訴人と被控訴人との間で行われた一連の連続した貸付であり、利息、元本充当の計算においては、一つの取引として計算すべきである。

2  本件貸付1ないし6における利息の支払について、利息制限法の適用があるか、それとも貸金業法四三条一項の適用があるか。

【控訴人の主張】

控訴人は、被控訴人に対し、本件貸付1ないし6を実行するに当たり、貸金業法一七条一項所定の契約書面(以下「一七条契約書面」という)を交付し、また、被控訴人から、分割金の弁済を受けるに当たり、被控訴人に対し、同法一八条一項所定の受取証書(以下「一八条受取証書」という)を交付している。更に、被控訴人は、本件貸付1ないし6について、いずれも任意に利息を支払ったのであるから、本件貸付1ないし6の利息支払については貸金業法四三条一項の適用がある。

【被控訴人の主張】

貸金業法四三条一項が適用されるためには、控訴人は、本件貸付1ないし6について、被控訴人に対し、遅滞なく一七条契約書面が交付されなければならないが、本件では、被控訴人は、控訴人から、本件貸付1ないし6実行後、遅滞なく一七条契約書面の交付を受けていない。よって、本件貸付1ないし6については、貸金業法四三条一項の適用はなく、原則どおり、利息制限法の適用をすべきである。

ちなみに、本件貸付1ないし6に基づいて被控訴人が控訴人に対して支払った利息に関して、利息制限法所定の制限利率で引き直し計算を行うと、別紙被控訴人計算書記載のとおり、元本は完済済みであり、一万八六六二円が過払いの状態となっている。よって、控訴人の請求は理由がない。逆に、被控訴人は、控訴人に対し、過払金の返還請求権を有している。

3  期限の利益喪失の時期

【控訴人の主張】

被控訴人は、本件貸付6について、平成一一年四月三〇日に支払うべき分割金の支払を怠った。よって、被控訴人は、平成一一年四月三〇日の経過により、期限の利益を喪失した。

【被控訴人の主張】

被控訴人が、平成一一年四月三〇日に支払うべき分割金の支払を怠ったことは認める。しかし、控訴人は、平成一一年四月三〇日が経過した後も、被控訴人に対し、元本の一括返済及び遅延損害金の請求をしたことはなく、分割による元利金の支払を請求し、これを受領し続けていた。以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、黙示の意思表示により、期限の利益を再度付与し、元本の利用を許容したとみるべきである。

第5  争点に対する判断

1  争点1(本件貸付1ないし6を一つの取引とみるべきか)について

(1)  前記争いのない事実等及び証拠(甲1、2の①ないし⑧、同4、5の①ないし⑮、同6、7の①及び②、同8、9の①及び②、同10、11の①ないし⑧、同12、13の①及び②)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 被控訴人は、平成八年八月三〇日、控訴人に対し、本件貸付1について、三五万七三七二円を弁済した。当該弁済により、本件貸付1の債務は消滅した。

イ 控訴人は、平成九年五月三〇日、被控訴人との間で、本件貸付2を実行した。控訴人は、平成九年七月二二日、被控訴人との間で、本件貸付2に基づく残債務について、書換え貸付を行った(本件貸付3)。更に、控訴人は、同年八月二七日、被控訴人との間で、同時点で、控訴人と被控訴人との間に残っていた貸金残金について書換え貸付を行った(本件貸付4)。その後も、控訴人は、平成一〇年七月二二日、被控訴人との間で、同様の書換え貸付を行った(本件貸付5)。

ウ 被控訴人は、平成一〇年一〇月六日、控訴人に対し、五〇万九四七七円を支払った。当該弁済により、被控訴人が、控訴人に対して負う債務は消滅した。

エ 控訴人は、平成一一年三月二九日、被控訴人との間で、本件貸付6を実行した。

(2) 以上の認定事実を前提に、本件貸付1ないし6を連続する一個の契約であるとみなすことができるか否かについてみてみるに、本件貸付2ないし5に関しては、従前の契約に基づく借受金の弁済を前提とした貸付が行われていると認められ、本件貸付2ないし5は、連続する一つの取引と評価するのが相当である。しかし、本件貸付2は、被控訴人が、本件貸付1に基づく借受金を全額弁済した日から二七三日経過した後であること、また、本件貸付6は、被控訴人が本件貸付2ないし5に基づく借受金を全額弁済した日から一七四日が経過した後であることに照らすと、本件貸付1と本件貸付2ないし5との間及び本件貸付2ないし5と本件貸付6との間には、社会通念上、連続する一つの取引と評価する前提である社会的事実の同一性が欠けていると認めるのが相当であり、他に、これらの契約が連続する一つの取引であると認めるに足りる証拠も存在しない。

(3) 以上によれば、被控訴人の利息金の充当計算に当たっては、本件貸付1、本件貸付2ないし5、本件貸付6の三つの契約に分けて計算するのが相当である。

2  争点2(貸金業法四三条一項の適用の有無)について

(1)  消費貸借契約における利息計算にあっては、貸金業法四三条一項の適用のない限り、利息制限法が適用になる。そして、貸金業法四三条一項が適用されるためには、①貸金業者が、消費貸借契約締結の際、債務者に対し、一七条契約書面を交付していること、②債務者が、貸金業者に対し、契約に基づき債務の弁済をする際、貸金業者が、債務者に対し、直ちに、一八条受取証書を交付していること、③債務者が、利息として任意に支払っていることが必要である。そして、一八条受取証書については、利息支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってなされたときでも、特段の事情のない限り、貸金業者は、払込みを受けたことを確認した都度、直ちに一八条受取証書を債務者に交付しなければならない(最判平成一一年一月二一日民集五三巻一号九八頁)。なぜなら、債務者は、一八条受取証書の交付を受けることによってはじめて払い込んだ金銭の利息、元本等への充当関係を具体的に把握することができるからである。また、貸金業法は、貸付等における厳格な手続を履践した貸金業者につき、本来利息制限法上無効である弁済を例外的に有効な弁済とみなすとの特典を与えたものと解するべきであるから、当事者の合意やその一方の申出により要件を緩和することはできないと解するのが相当である。

(2)  これを本件についてみると、次のとおりである。

ア 本件貸付1について

本件全証拠を検討するも、控訴人が、被控訴人に対し、弁済の直後、一八条受取証書を交付したと認めるに足りる証拠はなく、また、平成七年一二月二一日分の一八条受取証書も存在しない。更に、控訴人が、被控訴人に対し、一七条契約書面を交付した根拠とする契約書(甲4)からは、控訴人が、本件貸付1実行時、被控訴人に対し、一七条契約書面を交付したとの事実を認めることもできない。よって、本件貸付1に基づく利息の支払について、貸金業法四三条一項を適用することはできない。

イ 本件貸付2ないし5について

本件貸付2ないし5に基づく利息の支払についても、前記ア認定と同様、控訴人が、被控訴人に対し、弁済の直後、一八条受取証書を交付したと認めるに足りる証拠はない。また、一七条契約書面は、消費貸借契約締結の際、交付することが必要であるところ、本件貸付2実行の際に使用された契約書(甲6)には、被控訴人による一七条契約書面を受け取った旨の署名が存在しない。よって、本件貸付2ないし5に基づく利息の支払について、貸金業法四三条一項を適用することはできない。

ウ 本件貸付6について

(ア) 証拠(甲2の①ないし⑧)によれば、本件貸付6の利息支払についての受取証書には、受取証書を受領した旨の被控訴人による署名が存在するものの、受取証書を受領した具体的な日付が被控訴人によって明記されていないことが認められる。よって、前記受取証書(甲2の①ないし⑧)が存在するからといって、被控訴人が、分割金支払の際、直ちに、控訴人から前記受取証書の交付を受けたとまで認定することは困難である。

かえって、本件貸付6実行の際に用いられた金銭消費貸借基本契約書兼借用証書(以下「本件基本契約書」という、甲1)一二条には、控訴人は、顧客から返済を受けた場合、顧客に対し、その都度必要な事項を受取証書に表示し交付するが、直接交付できないときは、顧客である借主が受取のために店頭に出向いた際に交付すると記載されており、実際も、控訴人は、そのような運用をしていたことが窺われる(弁論の全趣旨)。

(イ) しかし、前記(1)のとおり、当事者の合意により、貸金業法四三条一項の適用要件を緩和することは許されないし、本件借用証書には、被控訴人が控訴人に対し送金する場合の口座として、訴外住友銀行神田駅前支店の預金口座が記載されているから、被控訴人は、分割金の弁済を振込による方法で行ったとも考えられる。また、本件の受取証書に記載された受領の署名は、その筆跡等に照らすと、同時期にまとめて記載された可能性も否定できない(甲2の①ないし⑧)。そして他に、被控訴人が、本件貸付6に基づく分割金全てを控訴人の営業所に持参し、控訴人が、被控訴人の分割金支払の都度、直ちに、受取証書を交付したと認めるに足りる証拠は存在しない。

(ウ) 以上によれば、被控訴人の本件貸付6に基づく利息支払について、貸金業法四三条一項を適用することはできない。

(3)  以上から明らかなとおり、本件貸付1、本件貸付2ないし5、本件貸付6に基づく利息金の支払について、貸金業法四三条一項を適用することはできず、いずれも利息制限法の適用があり、同法所定の制限利率(本件では年一八パーセント)を超過した部分は、当然に元本に充当されることになる。

3  争点3(期限の利益喪失)について

(1)  証拠(甲1)によれば、本件基本契約書には、被控訴人が、返済日に元本又は利息の支払を一回でも怠ったときには、当然に期限の利益を喪失するとの文言があること(第四条一号)が認められる。また、前記のとおり、被控訴人は平成一一年四月三〇日支払分の支払を怠っており、前記条項をそのまま適用すれば、被控訴人は、期限の利益を失い、直ちに、残元本全額に遅延損害金を加算して支払わなければならないこととなる。

(2)  しかし、前記争いのない事実等及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、平成一一年四月三〇日以前にも分割金の支払を遅滞したことがあること、控訴人は、その後も、被控訴人が支払った元本等の金員を受領し、残元本全額を直ちに請求していないことが認められる。また、本件貸付1ないし6では、いずれも利息の約定利率と遅延損害金の約定利率が同率であるから、被控訴人が、支払遅滞後に受領した金員を、利息と考えていたのか遅延損害金と考えていたのか必ずしも明らかとはいえない。

(3)  そうだとすると、平成一一年四月三〇日以降、同年七月七日までの間に発生するのは、利息とみるのが相当であり、その利率は、利息制限法所定の制限利率である年一八パーセントに引き直して計算するのが相当である。

4  小括

以上1ないし3によれば、本件では、本件貸付1、本件貸付2ないし5、本件貸付6の三つに分けて利息の充当計算をするのが相当であり、その際、利息制限法を適用し、期限の利益喪失は、平成一一年四月三〇日ではなく、被控訴人が支払を停止した平成一二年七月七日の経過であるということになる。

以上に従って利息計算をしてみると、本件貸付1においては別紙計算書1記載のとおり一一万九四五四円の過払いとなり、本件貸付2ないし5においては別紙計算書2記載のとおり九万八三二円の過払いとなり、本件貸付6においては別紙計算書3記載のとおり残元本二九万一三六四円があることになる。そうだとすると、控訴人は、被控訴人に対し、二九万一三六四円の貸金返還請求権を有し、他方、被控訴人は、控訴人に対し、二一万二八六円の不当利得返還請求権を有し、これらの請求権を前記控訴人の被控訴人に対する貸金返還請求権と相殺する旨の意思表示をしたと認められるから、結局、本件において、控訴人が、被控訴人に対し請求できるのは、八万一〇七八円及びこれに対する被控訴人が控訴人に対し本件貸付6に基づく最後の分割金支払をした日の翌日である平成一二年七月八日から支払済みまでの約定遅延損害金であると認めるのが相当である。

第6  結論

以上によれば、控訴人の請求は、被控訴人に対し、八万一〇七八円及びこれに対する平成一二年七月八日から支払済みまでの約定の年三〇パーセントの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却するのが相当であるところ、これと異なる原判決は当裁判所の判断と抵触する限度で変更を免れない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・難波孝一、裁判官・足立正佳、裁判官・富澤賢一郎)

別紙

計算書1

年月日

借入金額

利率

日数

利息

弁済額

残元金

平成7年4月6日

450,000

0.18

平成7年5月2日

0.18

26

5,769

20,000

435,769

平成7年6月7日

0.18

36

7,736

20,000

423,505

平成7年7月5日

0.18

28

5,847

20,000

409,352

平成7年8月11日

0.18

37

7,469

20,000

396,821

平成7年9月8日

0.18

28

5,479

20,000

382,300

平成7年10月13日

0.18

35

6,598

20,000

368,898

平成7年11月17日

0.18

35

6,367

20,000

355,265

平成7年12月21日

0.18

34

5,956

20,000

341,221

平成8年1月19日

0.18

29

4,871

20,000

326,092

平成8年2月20日

0.18

32

5,131

20,000

311,223

平成8年4月11日

0.18

51

7,806

20,000

299,029

平成8年5月15日

0.18

34

5,000

20,000

284,029

平成8年6月18日

0.18

34

4,749

20,000

268,778

平成8年7月16日

0.18

28

3,701

20,000

252,479

平成8年8月12日

0.18

27

3,352

20,000

235,831

平成8年8月30日

0.18

18

2,087

357,372

-119,454

別紙

計算書2

年月日

借入金額

利率

日数

利息

弁済額

残元金

平成9年5月30日

150,000

0.18

150,000

平成9年7月16日

0.18

47

3,476

15,000

138,476

平成9年7月21日

0.18

5

341

142,911

-4,094

平成9年7月22日

250,000

0.18

1

245,906

平成9年8月18日

0.18

27

3,274

15,000

234,180

平成9年8月27日

350,000

0.18

9

1,039

243,936

341,283

平成9年10月28日

0.18

62

10,434

22,050

329,667

平成9年12月8日

0.18

41

6,665

17,000

319,332

平成10年1月28日

0.18

51

8,031

20,000

307,363

平成10年4月17日

0.18

79

11,974

25,000

294,337

平成10年5月13日

0.18

26

3,773

10,000

288,110

平成10年6月15日

0.18

33

4,688

17,000

275,798

平成10年7月21日

0.18

36

4,896

12,946

267,748

平成10年7月22日

500,000

0.18

1

132

340,000

427,880

平成10年9月2日

0.18

42

8,862

25,000

411,742

平成10年10月6日

0.18

34

6,903

509,477

-90,832

別紙

計算書3

年月日

借入金額

利率

日数

利息

弁済額

残元金

平成11年3月29日

500,000

0.18

500,000

平成11年5月10日

0.18

42

10,356

20,000

490,356

平成11年6月1日

0.18

22

5,320

25,000

470,676

平成11年7月7日

0.18

36

8,356

25,000

454,032

平成11年8月6日

0.18

30

6,717

20,000

440,749

平成11年9月3日

0.18

28

6,085

20,000

426,834

平成11年10月14日

0.18

41

8,630

20,000

415,464

平成11年11月5日

0.18

22

4,507

25,000

394,971

平成11年12月7日

0.18

32

6,232

18,000

383,203

平成12年1月17日

0.18

41

7,748

20,000

370,951

平成12年2月8日

0.18

22

4,024

25,000

349,975

平成12年3月17日

0.18

38

6,558

15,000

341,533

平成12年4月7日

0.18

21

3,536

15,000

330,069

平成12年5月10日

0.18

33

5,371

15,000

320,440

平成12年6月6日

0.18

27

4,266

20,000

304,706

平成12年7月7日

0.18

31

4,658

18,000

291,364

別紙

被控訴人計算書

年月日

借入額

支払額

経過日数

発生利息

未払残利息計

未払残元本

年利

平成7年4月6日

450,000

0

450,000

18

平成7年5月2日

20,000

26

5,769

0

435,769

18

平成7年6月7日

20,000

36

7,736

0

423,505

18

平成7年7月5日

20,000

28

5,847

0

409,352

18

平成7年8月11日

20,000

37

7,469

0

396,821

18

平成7年9月8日

20,000

28

5,479

0

382,300

18

平成7年10月13日

20,000

35

6,598

0

368,898

18

平成7年11月17日

20,000

35

6,367

0

355,265

18

平成7年12月21日

20,000

34

5,956

0

341,221

18

平成8年1月19日

20,000

29

4,871

0

326,092

18

平成8年2月20日

20,000

32

5,131

0

311,223

18

平成8年4月11日

20,000

51

7,806

0

299,029

18

平成8年5月15日

20,000

34

5,000

0

284,029

18

平成8年6月18日

20,000

34

4,749

0

268,778

18

平成8年7月16日

20,000

28

3,701

0

252,479

18

平成8年8月12日

20,000

27

3,352

0

235,831

18

平成8年8月30日

357,372

18

2,087

0

-119,454

18

平成9年5月30日

150,000

273

0

0

30,546

18

平成9年7月16日

15,000

47

707

0

16,253

18

平成9年7月22日

250,000

6

48

48

266,253

18

平成9年7月22日

142,911

0

0

0

123,390

18

平成9年8月18日

15,000

27

1,642

0

110,032

18

平成9年8月27日

350,000

9

488

488

460,032

18

平成9年8月27日

243,936

0

0

0

216,584

18

平成9年10月28日

22,050

62

6,622

0

201,156

18

平成9年12月8日

17,000

41

4,067

0

188,223

18

平成10年1月28日

20,000

51

4,733

0

172,956

18

平成10年4月17日

25,000

79

6,738

0

154,694

18

平成10年5月13日

10,000

26

1,983

0

146,677

18

平成10年6月15日

17,000

33

2,387

0

132,064

18

平成10年7月21日

12,946

36

2,344

0

121,462

18

平成10年7月22日

500,000

1

59

59

621,462

18

平成10年7月22日

340,000

0

0

0

281,521

18

平成10年9月2日

25,000

42

5,830

0

262,351

18

平成10年10月6日

509,477

34

4,398

0

-242,728

18

平成11年3月29日

500,000

174

0

0

257,272

18

平成11年5月10日

20,000

42

5,328

0

242,600

18

平成11年6月1日

25,000

22

2,632

0

220,232

18

平成11年7月7日

25,000

36

3,909

0

199,141

18

平成11年8月6日

20,000

30

2,946

0

182,087

18

平成11年9月3日

20,000

28

2,514

0

164,601

18

平成11年10月14日

20,000

41

3,328

0

147,929

18

平成11年11月5日

25,000

22

1,604

0

124,533

18

平成11年12月7日

18,000

32

1,965

0

108,498

18

平成12年1月17日

20,000

41

2,191

0

90,689

18

平成12年2月8日

25,000

22

981

0

66,670

18

平成12年3月17日

15,000

38

1,245

0

52,915

18

平成12年4月7日

15,000

21

546

0

38,461

18

平成12年5月10日

20,000

33

624

0

19,085

18

平成12年6月6日

20,000

27

253

0

-662

18

平成12年7月7日

18,000

31

0

0

-18,662

18

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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