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東京地方裁判所 平成13年(ワ)10838号 判決 2001年10月31日

原告

株式会社タックス本部

訴訟代理人弁護士

田中修司

被告

株式会社タカハシ

主文

1  被告は,原告に対し,金100万円及び内金66万円に対する平成13年5月1日から,内金11万円に対する平成13年6月1日から,内金23万円に対する平成13年6月3日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金730万2960円及び内金635万0400円に対する平成13年5月1日から,内金95万2560円に対する平成13年6月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

原告は,別紙商標権目録記載の各商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有しているが,本件商標と同一の標章(以下「被告標章」という。)を使用した被告の行為が本件商標権を侵害したとして,被告に対し,本件商標権に基づき損害賠償を求めた。

1  前提となる事実(証拠等を示した事実を除き,当事者間に争いがない。)

原告は,本件商標権を有している。

原告と被告は,平成4年4月28日,中古自動車の販売に関して,原告を本部とし,被告を加盟店とする加盟店契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

本件契約に基づいて,被告は,加盟金,月会費及び広告・宣伝分担金を原告に支払う義務を負担し(タックス加盟協定書〔以下「協定書」という。〕2条及び5条),他方,本件商標,商号を一定の条件下で使用し(協定書4条1項),原告が全国規模で展開する広告,宣伝,サービス等の恩恵を受けることができる地位を取得した。同協定書には,加盟店は,本件契約の終了又は解約後は,その理由を問わず,本件商標等を一切使用することができず(同4条3項),本件商標等が表示された物件を撤去する義務を負い(同10条2項),これに違反した場合,原告からの損害賠償請求を拒否できない(同条4項)と記載されている(甲1,弁論の全趣旨)。

被告は,同協定書11条2項に基づき規定された「タックス関東ブロック会規約」10条並びにこれに基づき規定された「不正販売禁止に関する内規」1条及び2条に違反する修復歴のある中古自動車の販売をした。原告は,被告の同行為が内規に違反すること等を理由として,平成12年10月25日付で本件契約を解約し,加盟店から除名した(なお,被告は,解約及び除名の効力を争うが,解約及び除名事由が存在することは争いがなく,同主張は失当である。)。

被告は,本件契約が解約され,加盟店から除名された後である平成12年11月1日ないし同13年5月中まで,被告標章を付した看板その他の広告物の使用を継続した。そして,被告が被告標章を付した看板その他の広告物の撤去をしたのは,平成13年5月に至ってからである。

2  争点

(原告の主張)

(1) 商標権侵害による損害額

被告は,本件契約が解約され加盟店から除名された後も被告標章を使用して,中古自動車の販売を継続した。被告の販売展示場の展示車は常時300台を下らないこと,平均販売台数は回転率を35パーセントとすると月間105台となること,1台当たりの平均価格は金90万円を下らないこと,売上高に対する営業利益率は1.12パーセントであること等を前提として算定すると,被告の利益は,1か月当たり金105万8400円を下らない。

900,000円×300台×0.35×0.0112=1,058,400円

したがって,本件契約が解約され,加盟店から除名された後である,平成12年11月1日から平成13年4月31日までの間,被告が中古車販売により得た利益は合計金635万0400円を下らず,同額が本件商標権侵害により原告が被った損害額と推定される。

1,058,400円×6か月=6,350,400円

(2) 弁護士費用

被告の商標権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用損害は,金95万2560円を下らない。

(被告の反論)

原告の主張は争う。

第3争点に対する判断

商標権侵害によって原告が被った損害額について検討する。

まず,原告は,被告が被告標章を使用して,中古自動車の販売をしたことによって得た利益の額が原告の受けた損害額である旨主張する。しかし,本件全証拠によるも,被告が被告標章を使用したことにより利益を得たか否か,得たとしてそれが幾らであるかは明らかでない。したがって,被告の得た利益を原告の被った損害額とすべきであるとする原告の主張は,採用できない。

進んで,本件商標の使用料相当額について検討する。

証拠(甲1,6ないし9)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件契約に基づいて会費として月額4万円,広告・宣伝分担金として月額7万円の合計月額11万円を負担していたこと,これらの負担をすることにより,被告は,本件商標及び原告の商号を自己の中古自動車販売に関し使用することができ,原告の本部及びその支部等が企画実施する広告宣伝による利益を享受できるとされたこと(協定書4条1項及び2項,5条)等の事実を認めることができる。上記事実によれば,被告が会費及び広告・宣伝分担金の合計月額11万円を負担することにより,本件商標を使用することができたのであるから,同額をもって本件商標に対する1か月当たりの使用料相当額であるとするのが自然である。

被告が本件商標を使用した期間は,平成12年11月1日から平成13年5月に至るまで7か月間であるから,その使用料相当額は77万円となる。なお,平成13年5月は,その全期間を通じて本件商標が使用されたわけではないが,原告の被った損害額に関しては1か月を単位として算定するのが合理的である。したがって,原告は,上記使用料相当額と同額の損害を被った。

また,弁護士費用に係る損害については,本件事案の軽重,性質,審理の経過等一切の事情(なお,被告が,平成13年5月に至って,被告標章の使用を中止し,同標章を付した看板その他の広告物を撤去したのは,差止めを求める訴訟提起が契機となったことは明らかであり,この点も考慮した。)を総合勘案すると,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用に係る損害額は,金23万円が相当である。

なお,本件商標権侵害により発生した損害金に対する遅延損害金の起算日は,平成13年4月までの分については平成13年5月1日(不法行為の日の後で原告請求に係る日),同年5月分については同年6月1日,弁護士費用については同年6月3日(不法行為の日の後で原告の請求に係る日)とした。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 今井弘晃 裁判官 石村智)

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