東京地方裁判所 平成13年(ワ)12011号 判決 2002年7月17日
原告
A
被告
株式会社パーソンズ
代表者代表取締役
B
訴訟代理人弁護士
森本慎吾
同
吉池信也
被告
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
代表者代表取締役
C
訴訟代理人弁護士
高田昌男
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
1 被告株式会社パーソンズ(以下「被告パ社」という)及び被告カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下「被告カ社」という)は、原告に対し、連帯して五七七万九〇〇八円及びこれに対する平成一三年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告パ社は、原告に対し、二一万一二三三円及びこれに対する平成一三年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告カ社は、原告に対し、一九〇万円及びこれに対する平成一三年六月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告パ社の派遣社員として被告カ社に勤務した原告が、<1>被告らの違法な短期の労働者派遣契約締結要求により従来の安定した職を失いその賃金相当額等五六七万九〇〇八円の損害を被った、<2>被告らの面接試験実施等の派遣労働者特定行為により一〇万円の精神的損害を被った、<3>被告パ社が求人広告で契約期間を明示しなかったことにより<1>と同額の損害を被った、<4>被告パ社が求人広告で「社保完備」としながら短期の有期契約の締結を求めた行為により<1>と同額の損害を被った、<5>被告パ社が早期出社要求をしつつ短期の有期雇用契約の締結を求めた行為により<1>と同額の損害を被った、<6>被告パ社が求人広告より低い時給で労働者派遣契約をした行為により原告と同じ労働をしている者に支払われる時給との差額二一万一二三三円の損害を被った、<7>被告カ社が社員教育を要請しつつ短期の有期雇用契約の労働条件を被告パ社に提示した行為により<1>と同額の損害を被った、<8>被告カ社が早期出社要求をしつつ短期の有期雇用契約の労働条件を被告パ社に提示した行為により<1>と同額の損害を被った、<9>被告カ社が業務内容を逸脱した業務命令をした行為により二五万円の精神的損害を被った、<10>被告カ社が社員教育を要請する旨の虚偽発言をした行為により三〇万円の精神的損害を被った、<11>被告カ社が脱税の違法文書作成業務を原告に命じた行為により一三五万円の精神的損害を被ったとして、それぞれ不法行為(<1><2>につき民法七一九条、七〇九条、七一五条一項、<3>~<11>につき民法七〇九条、七一五条一項)に基づき損害賠償及び不法行為後の平成一三年六月一九日から支払済みまで民法所定の遅延損害金(<1>及び<2>の請求について被告らは不真正連帯)を求めた事案である。
1 争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実
(証拠により認定した事実は、括弧内に証拠番号を付す)
(1) 原告は、昭和一四年一月二八日に生まれ、日本コカ・コーラ株式会社の法務次長、ユニ・チャーム株式会社の法務特許室長などを勤め、平成一一年一月に同社を退職し、平成一三年二月二日当時六二歳であった(書証略)。
被告パ社は、労働者派遣法に基づく労働者派遣事業等を目的とする株式会社であり、被告カ社は、フランチャイズチェーンシステムによる書籍、事務用品、コンピュータ、音響映像媒体商品、再生機器等の販売及び賃貸についてのコンサルタント事業等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 原告は、被告パ社の東京支社の下記求人広告(以下「本件求人広告」という)に応募し、採用試験に合格して平成一三年一月二二日法務専門職の派遣社員として登録された(証拠略。一部争いがない)。
記
<1>法務職(派遣)
<2>法務事務(派遣)
<1>大手流通業・出版業における契約法務/営業現場の担当者からヒアリングをし、契約書の作成・修正
<2>法務事務/契約管理・商標管理・捺印処理等 〔必要スキル〕<1>民法・商法の基本的な理解力、コミュニケーション力、流通業での法務経験又は知識 <2>法務事務経験者〔資格〕<1>六五歳迄<2>五〇歳迄〔勤務〕九:三〇~一八:〇〇土日祝休〔勤務地〕恵比寿・多摩センター〔待遇〕時給<1>三、〇〇〇円以上<2>一、六〇〇円以上 社保、有給休完〔応募〕一月一四日(日)迄に履歴書 職歴書必着。一九日(金)登録説明会。(以下略)
(3) 平成一三年二月一三日ころ、原告と被告パ社は、次のとおり労働者派遣契約(以下「第一契約」という)を締結し、原告は約定どおりの期間勤務した(派遣期間、就業時間、業務内容を除く第一契約の内容につき書証略。業務内容については、後記のとおり争いがある)。
就業の場所 被告カ社総務グループ法務チーム東京都渋谷区恵比寿四-二〇-三恵比寿ガーデンプレイスタワー二一階
指揮命令者 参事 S(以下「S」という)
派遣期間 平成一三年二月一九日から同年三月三〇日まで
就業日 月曜~金曜(祝日を除く)
就業時間 午前九時三〇分~午後六時〇〇分(休憩時間午前一二時〇〇分~午後一時〇〇分)
給与 一時間二七二〇円
(4) 平成一三年三月二三日ころ、原告と被告パ社は、次のとおり労働者派遣契約(以下「第二契約」という。第一契約と第二契約を合わせて「本件契約」という)を締結し、原告は約定通り勤務した(書証略)。
業務内容、就業の場所、給与は第一契約に同じ
指揮命令者 F(以下「F」という)
派遣期間 平成一三年四月一日から同月三〇日まで
就業日 月曜、水曜、金曜(祝日を除く)
就業時間 午前一〇時〇〇分~午後四時〇〇分(休憩時間午前一二時〇〇分~午後一時〇〇分)
2 争点
(被告ら共通)
(1) 被告らの本件契約締結ないし締結要求による共同不法行為責任
ア 被告パ社による本件契約締結ないし締結要求はその契約期間ゆえに関係法令の趣旨等に反して違法か。
イ アが肯定されるとして、本件契約の労働条件は、被告カ社が被告パ社に提示して要求したもので、被告パ社による本件契約締結ないし締結要求につき被告カ社は共同不法行為責任を負うか。
ウ 原告の損害額
エ 本件契約締結ないし締結要求とウとの因果関係
(2) 被告らによる派遣労働者特定行為による不法行為責任
ア 被告らは共謀の上、平成一三年二月一日、被告カ社の本件契約の就業場所において原告の面接試験を行ったか。
イ 被告らは共謀の上、第二契約締結前に被告カ社が原告を指名して第二契約を締結させたか。
ウ ア又はイの行為による原告の損害
(被告パ社のみ)
(3) 被告パ社が求人広告で本件契約の契約期間を明示しなかったことによる不法行為責任
ア 被告パ社が、求人広告で本件契約の契約期間を明示しなかったことは違法か。
イ 契約期間不明示による原告の損害額
ウ 契約期間不明示とイの損害との因果関係
(4) 被告パ社が、求人広告で「社保完備」と記載しつつ本件契約の締結を求めた不法行為責任
ア 被告パ社が、求人広告で「社保完備」と記載しつつ四〇日以下の有期契約である本件契約の締結を求めたことは違法か。
イ 原告の損害額
ウ アの行為とイの損害との因果関係
(5) 被告パ社が、早期出社要求をしつつ、本件契約の締結を求めた不法行為責任
ア 被告パ社の担当者が、平成一三年二月二日、被告カ社への早期出社要求をしたか。
イ 早期出社要求をしつつ四〇日間以下の有期雇用契約である本件契約の締結を求めたことは違法か。
ウ 原告の損害額
エ アの行為とウの損害との因果関係
(6) 被告パ社が、求人広告より低い時給で本件契約を締結したことによる不法行為責任
ア 被告パ社が求人広告より低い時給の本件契約を締結したことは違法か。
イ アの行為による原告の損害
(被告カ社のみ)
(7) 被告カ社が、平成一三年二月一日社員教育を要請しつつ、本件契約の労働条件を提示した不法行為責任
ア 被告カ社社員が、原告に対し、同日「社員教育をお願いしたい」旨要請したことがあるか。
イ 被告カ社が原告に社員教育要請をしつつ、被告パ社に対し四〇日以下の有期契約である本件契約の労働条件の提示をし、被告パ社をして原告と本件契約を締結させたことは違法か。
ウ 原告の損害額
エ アの行為とウの損害との因果関係
(8) 被告カ社が、早期出社要求をしつつ、本件契約の労働条件を提示した不法行為責任
ア 被告カ社が、原告に対し、本件契約締結前、早期出社要求をしたことがあるか。
イ 早期出社要求をしつつ、被告パ社に対し四〇日以下の有期契約である本件契約の労働条件の提示をし、被告パ社をして原告と本件契約を締結させたことは違法か。
ウ 原告の損害額
エ アの行為とウの損害との因果関係
(9) 被告カ社が、本件契約の業務内容を逸脱した業務命令をした不法行為責任
ア 本件契約の業務内容
イ 被告カ社が本件契約の業務内容を逸脱した業務命令をしたか。
ウ イによる原告の損害
(10) 被告カ社が平成一三年二月一日社員教育を要請する旨発言をしたことの不法行為責任
ア (7)アに同じ
イ 原告の派遣契約の条件として四〇日以下の有期契約を提示する予定であるにもかかわらず、事前に社員教育を要請する発言をすることは判断を誤らせる情報提供として違法か。
ウ アによる原告の損害
(11) 被告カ社が脱税を隠すための違法文書作成を命じた不法行為責任
ア 被告カ社は、原告に対し、平成一三年三月中旬から下旬にかけて、子会社から被告カ社が<2>DVD、<3>ビデオ・マスターテープ、<4>ビデオ・カセットを買い取る売買契約書、寄託契約書等の作成を命じたか。
イ ア<3><4>の各売買は、被告カ社の被告カ社の子会社に対する寄付行為(法人税法三七条七項)か。
ウ ア<2>の売買は、カルチュア・パブリッシャーズ株式会社(以下「CP社」という)から被告カ社に対する贈与(法人税法二二条二項)に該当するか。
エ ア<2>の売買は、被告カ社の課税所得を減少させる目的で、転売等で今後収益を上げる目的がないのに、商品を購入する違法な取引か。
オ ア<2><3><4>の各売買は法人税法一三二条一項により否認される行為か。
カ 違法な業務命令による原告の損害
3 争点についての当事者の主張
(1) 被告らの本件契約締結ないし締結要求自体による共同不法行為責任
ア 被告カ社による本件契約締結ないし締結要求はその契約期間ゆえに関係法令の趣旨等に反して違法か。
(原告)
(ア) 本件契約(第一契約及び第二契約)は、いずれも四〇日以下の有期契約であるところ、これは、労働基準法(以下「労基法」という)一四条三号が六〇歳以上の高齢者について三年の有期契約を可能にして高齢者の安定雇用を目指した立法精神に逆行する違法な契約であり、かつ、派遣元事業主に対し派遣労働者の雇用の安定のための措置を義務付ける労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という)三〇条にも違反する。
(イ) 第一契約はフルタイム契約であるところ、フルタイムで勤務すると年金受給者の年金支給は全面停止され、一定期間勤務後は年金(厚生年金及び企業年金)支給が再開されるまでに一年以上を要し、四〇日以下の有期契約では採算がとれないことは自明の理である。したがって、年金受給者である原告に対し、第一契約のような四〇日以下の有期契約締結を要求すること自体使用者の優越した地位の濫用として許されない。
(ウ) 原告と被告パ社は、大企業対個人、使用者対労働者という対等でない者の関係であり、第一契約の締結時に契約書が印刷済みであったように、原告には契約内容決定の自由がなく、原告と被告パ社間には契約自由の原則は妥当しない。
(エ) 原告に対して圧倒的優位に立つ被告パ社が、原告に対し、(ア)のごとく関係法令に逆行する本件契約の締結を求め、(イ)のように年金生活者にとって不合理な本件契約を締結ないし締結要求することは、使用者としての優越した地位を濫用したもので公序良俗に違反し正義観念、社会倫理に反する違法な行為である。
(被告パ社)
原告の主張(ア)ないし(エ)は争う。四〇日間の有期雇用契約は適法であり、労働基準法一四条三号、労働者派遣法三〇条に違反しない。第一契約は、当事者の意思の合致により締結されたもので、原告は本件契約を締結しない自由があったし、労働契約締結前の採用のとき使用者としての地位にあるとはいえない。
(被告カ社)
争う。労基法一四条三号は、長期間の契約による不当な人身拘束を防止するための禁止規定の一部解除であり、三年の有期契約の締結を義務付けるものではない。労働者派遣法三〇条は一般条項であり、四〇日以下の契約を違法とする根拠にはならない。年金支給についても原告が自ら選択できるものであり、何ら違法はない。
イ アが肯定されるとして、本件契約の労働条件は被告カ社が被告パ社に提示して要求したものとして、被告パ社による本件契約締結ないし締結要求につき被告カ社は共同不法行為責任を負うか。
(原告)
(ア) 被告パ社が配布している「派遣ハンドブック」に「派遣はすべてオーダー次第である」と記載されているように、派遣の条件を提示するのは派遣先である被告カ社であり、被告カ社が労働条件の決定権を有していた。
(イ) しかるに、本件契約は(1)ア原告の主張(ア)(イ)に記載したとおり関係法令に逆行し、かつ、年金生活者にとって採算がとれないことが明白な契約であるところ、被告カ社が原告に対し優越的な地位を有することは被告パ社と同様である。したがって、被告カ社が四〇日以下の有期契約という本件契約の労働条件を提示したことはその地位の濫用であって違法であり、被告パ社と共同して本件契約締結ないし締結要求にかかる不法行為責任を負うべきである。
(被告パ社)
争う。
(被告カ社)
被告カ社が提示する労働条件は、被告カ社と被告パ社との間の労働者派遣契約の内容についてのものであり、被告パ社と原告との雇用契約を拘束するものではなく、経済的影響はあるが決定権はない。
ウ 原告の損害額
(原告)
(ア) 予備校賃金の逸失利益(三八七万九〇〇八円)
原告が従来勤務していた予備校に一週当たり一三時間、時給二五〇〇円の条件で勤務した場合の三年間の賃金は次の計算式により四六八万円となる。
一三(時間)×二、五〇〇(円)×四(週)×三六(月)=四、六八〇、〇〇〇
これから本件契約により得た対価である八〇万〇九九二円を差し引くと三八七万九〇〇八円となる。
(イ) 本件契約締結の精神的苦痛(三〇万円)
原告は、第一契約及び第二契約の小刻みな契約締結により安定した生活ができず、あげくに使い捨てされる精神的苦痛を被った。この苦痛の慰謝料としては三〇万円が相当である。
(ウ) 半永久的な失業状態の精神的苦痛(一五〇万円)
原告は、本件契約により、半永久的な失業状態に陥り、生き甲斐にしていた英語やビジネス法務を次の世代の人々に教えることができなくなった。この苦痛の慰謝料としては一五〇万円が相当である。
(被告ら)
争う。
エ 本件契約締結ないし締結要求とウの損害との因果関係
(原告)
(ア) 原告は、平成一二年二月一一日から平成一三年二月一〇日まで予備校の英語講師として勤務しており、同月二日の時点で同契約を更新するか否かの選択の時期を迎えていた。同日の時点では、被告カ社への派遣契約が長期契約を予想させ、かつ、被告カ社への派遣契約はフルタイム勤務で予備校との掛け持ちは無理と思われたため、原告は更新を断念した。被告カ社への派遣契約が長期契約を予想させたのは、<1>被告パ社の求人広告に「社保完備」と記載され長期契約が予定されていると思われたこと(厚生年金保険法一二条二号ロ、健康保険法一三条の二の第一項二号イ)、<2>六〇歳以上の高齢者に三年の有期契約締結を認めるよう労基法の改正が行われたこと、<3>求人広告に記載されていた契約書作成業務は労働者派遣法上のいわゆる二六業種の一つで三年契約も可能な業種であること、<4>被告カ社職員が平成一三年二月一日に「新入社員や中途入社社員の教育もお願いします」と原告に告げたところ、社員教育はOJT形式で行われて少なくとも五、六年を要するのが通常であること、<5>被告カ社の法務チームの現場責任者が、平成一三年二月一日面接試験時、「我々は大変忙しいので一日も早くAさんに出社してほしい」旨発言した上、同月二日原告に到達した面接試験の合格通知に「できるだけ早く被告カ社に出社するように」との伝言が添えられており、かつ、被告パ社のH(以下「H」という)が同月二日ころ、「早く被告カ社に出社してほしい。予備校との契約を更新しないことを確定させ、退職日を連絡してほしい」旨のEメールを原告に送信したことの各事情による。
同月一一日からは次期契約による新体制が開始するため予備校講師として勤務が不可能となったところ、原告は、同月一三日ころに至って第一契約の締結要求を受け、わずか四〇日の有期契約でもこれを受けざるを得なかった。
本件契約がなければ、原告は予備校講師の契約を更新し、長期安定的に少なくとも三年以上は勤務し得たのに、本件契約によりこの地位を失った。
(イ) 第一契約によって、(ア)のとおり予備校講師という長期安定的な職を失った原告は、第一契約の終了に伴って三〇日間の有期契約である第二契約を締結せざるを得ず、これら小刻みな有期契約を締結せざるを得ない地位におかれ精神的苦痛を味わった。
(ウ) 第一契約によって、(ア)のとおり予備校講師という長期安定的な職を失った原告は、第二契約終了後、高齢者にとって雇用情勢の厳しい今日、再就職のあてもなく半永久的な失業状態に陥った。
(被告パ社)
本件契約締結に至る原告の内心は不知。原告は自らの意思で本件契約を締結したのであり、被告パ社の本件契約締結行為と原告の損害との間には因果関係はない。
(被告カ社)
被告パ社による本件契約締結要求と原告主張の損害との間には因果関係はない。原告の主張(ア)<4>の事実は否認する。第二契約がパートタイムで期間一か月となったのは原告の希望による。被告カ社は、フルタイムで長期の派遣を望んでいた。
(2) 被告らによる派遣労働者特定行為による不法行為責任
ア 被告らは共謀の上、平成一三年二月一日、被告カ社の本件契約の就業場所において原告の面接試験を行ったか。
(原告)
被告らは共謀の上、同日、被告カ社の本件契約の就業場所において、原告の面接試験を行った。これは、労働者派遣法二六条七項、厚生労働省告示第一三七号「派遣元が講ずべき措置に関する指針」(以下「派遣元指針」という)及び同告示一三八号「派遣先が講ずべき措置に関する指針」(以下「派遣先指針」という)に違反する行為である。
(被告パ社)
二月一日に実施したのは顔合わせであり、被告パ社は、顔合わせの前に、原告に対し、「勤務を前提に、会社や担当業務についての説明を聞いて、その雰囲気を体感し、最終的に意思を固めてもらう機会である」旨説明している。
(被告カ社)
二月一日、被告カ社の東京本社を訪れた原告に対し担当業務等について説明したことはあるが、面接試験ではない。
イ 被告らは共謀の上、第二契約締結前に被告カ社が原告を指名して第二契約を締結させたか。
(原告)
被告らは共謀の上、被告カ社は、第一契約終了後に原告を指名して被告カ社で勤務することを求めた。これは、労働者派遣法二六条七項、派遣元指針及び派遣先指針に違反する行為である。
(被告パ社)
被告カ社から派遣契約更新の依頼を受けただけである。
(被告カ社)
第一契約終了後に原告を指名したことはない。
ウ ア又はイの行為による原告の損害
(原告) (一〇万円)
上記ア及びイの行為により、原告は余分な精神的負担を感じ、この苦痛の慰謝料としては一〇万円が相当である。
(被告ら)
争う。
(被告パ社のみ)
(3) 被告パ社が求人広告で本件契約の契約期間を明示しなかったことによる不法行為責任
ア 被告パ社が、求人広告で本件契約の契約期間を明示しなかったことは違法か。
(原告)
(ア) 被告パ社は、募集内容を的確に表示する義務を定めた職業安定法(以下「職安法」という)四二条により、又は、契約前段階の過程における当事者間の信義則(民法一条二項。いわゆる契約締結上の過失の理論)により、求人広告で「短期雇用」の旨を特記するなど応募者に誤解を生じないようにする義務があった。被告パ社が、平成一三年一月八日朝日新聞の本件求人広告において、契約期間について何ら明示しなかったのは違法である。
(イ) この行為は、職安法五条の三、同法施行規則四条の二にも違反する。
(ウ) 本件求人広告には、派遣労働者登録勧誘である旨の表示が全くされていないから派遣労働者登録勧誘とはいえない。原告は、登録してすぐ被告カ社へ派遣されたから、本件求人広告の「<1>法務職」は被告カ社を派遣先とする広告であった。
(被告パ社)
争う。本件求人広告は、派遣労働者の登録の勧誘である。労働者派遣における登録の呼び込み及び受付は、職安法の募集、採用には当たらず、これに準じた扱いも受けない。原告は、本件契約が四〇日以下であることを知って契約を締結しており契約締結上の過失は問題とならない。
イ 契約期間不明示による原告の損害額
(原告)
(1)ウの原告の主張(ア)(イ)(ウ)のとおり
(被告パ社)
争う。
ウ 契約期間不明示とイの損害との因果関係
(原告)
(ア) 損害(ア)について
原告は、(1)エの原告の主張(ア)のとおり、平成一二年二月二日の時点で予備校の英語教師の契約を更新するか否かの選択の時期を迎えていたところ、被告パ社の求人広告に契約期間が記載されていなかったため第一契約を長期の契約と予想し、かつ、被告カ社への派遣契約はフルタイム勤務で予備校との掛け持ちは無理と思われたため、原告は更新を断念した。
被告カ社への派遣契約が長期契約を予想させたのは、本件求人広告のほか、(1)エ原告の主張(ア)の<1>~<5>の各事情による。
そして、予備校との契約が不可能になった二月一三日に至って第一契約の締結を要求され、第一契約の契約期間が四〇日以下であることを初めて知ったものである。
(イ) 損害(イ)(ウ)については、(1)エ原告の主張(イ)(ウ)のとおり。
(被告パ社)
原告の主観は不知。損害及び因果関係は争う。
(4) 被告パ社が、求人広告で「社保完備」と記載しつつ本件契約の締結を求めた不法行為責任
ア 被告パ社が、求人広告で「社保完備」と記載しつつ四〇日以下の有期契約である本件契約の締結求めたことは違法か。
(原告)
被告パ社は、本件求人広告において「社保完備」と広告したところ、厚生年金保険法一二条二号ロ、健康保険法一三条の二の第一項二号イによれば二か月以内の有期契約の労働者には社会保険の被保険者とならないことから、この「社保完備」との記載は、長期契約を期待させる情報であるところ、被告パ社がこれと裏腹な四〇日以下の有期契約である本件契約の締結を求めることは(1)アの原告の主張(ア)~(エ)の違法事由に加えて本件契約の違法を基礎付ける事実である。
(被告パ社)
争う。「社保完備」とは、その要件を満たせば適用されるものと考えるのが普通であるし、四〇日の有期雇用契約の締結を要求することは違法ではない。
イ 原告の損害額
(原告)
(1)ウの原告の主張(ア)(イ)(ウ)のとおり
(被告パ社)
争う。
ウ アの行為とイの損害との因果関係
(原告)
(1)エの原告の主張(ア)(イ)(ウ)のとおり
(被告パ社)
(1)エの被告パ社の主張のとおり
(5) 被告パ社が、早期出社要求をしつつ、本件契約の締結を求めた不法行為責任
ア 被告パ社の担当者が、平成一三年二月二日、被告カ社への早期出社要求をしたか。
(原告)
被告パ社のHは、同日、「早く被告カ社に出社してほしい。予備校との契約を更新しないことを確定させ、退職日を連絡してほしい」旨のEメールを原告に送信した。
(被告パ社)
同日、Hは、原告に対し、契約期間は一か月であること、これをトライアル期間とし、その後、双方の意思確認ができたところで三か月程度の更新で継続してもらうことになること、時給は二七二〇円であり、トライアル期間の功績に応じて時給アップの交渉をすることを伝えている。原告は、この契約期間、時給を知りつつ本件契約を締結した。
同日のHのEメールでは、「早く仕事の調整をつけて出社してほしい」との被告カ社の要望を伝えているにすぎない。被告パ社は予備校との関係解消を何ら要請していない。
イ 早期出社要求をしつつ四〇日間以下の有期雇用契約である本件契約の締結を求めたことは違法か。
(原告)
原告は、被告カ社の早期出社要求により、重要な業務を担当する派遣契約であるとの印象をもち、被告カ社への派遣契約が長期契約であると判断した。しかるに、被告カ社は、かような判断を誤らせる情報提供を行っていながら四〇日以下の有期契約である本件第一契約の労働条件を提示し、被告パ社をして原告と第一契約の締結をさせたのであって違法である。
ウ 原告の損害額
(原告)
(1)ウの原告の主張(ア)(イ)(ウ)のとおり
(被告パ社)
(1)ウの被告パ社の主張のとおり
エ アの行為とウの損害との因果関係
(原告)
(1)エの原告の主張(ア)(イ)(ウ)のとおり
(被告パ社)
否認し、争う。
(6) 被告パ社が、求人広告より低い時給で本件契約を締結したことによる不法行為責任
ア 被告パ社が求人広告より低い時給の本件契約を締結したことは違法か。
(原告)
(ア) 本件求人広告には、「<1>法務職(派遣)」、「大手流通業・出版業における契約法務/営業現場の担当者からヒアリングをし、契約書の作成・修正」、「待遇時給三〇〇〇円以上」との記載があるところ、本件契約は時給二七二〇円であり、これは募集内容の的確な表示を定めた職安法四二条に違反するから、被告パ社による求人広告より低い時給での契約締結及び締結要求は違法である。求人広告より低額の契約締結及び締結要求が許されるのは、経営状況の急激な悪化等の合理的な理由がある場合に限られ、この理由がないのに本件契約の締結を求めたことは正義観念社会倫理に反し、公序良俗に違反する。また、求人広告で高い時給を表示しながらこれより低い金額での契約締結を求めることは、詐欺まがいの悪質な行為である。
(イ) 原告と本件契約の内容と同一労働をしている労働者の時給は三五〇〇円であり、より低額の賃金を原告に定めることは労基法三条に違反する。
(ウ) 本件求人広告で表示した事柄を変更するには、前の広告と同一方法で告知しなければ効果はないから(民法五三〇条)、平均的時給にすぎない等の被告パ社の主張は失当である。
(被告パ社)
(ア) 本件求人広告は、派遣労働者の登録の勧誘である。労働者派遣における登録の呼び込み及び受付は、職安法の募集、採用には当たらず、これに準じた扱いも受けない。
本件求人広告で三〇〇〇円以上としたのは、派遣先企業、条件で変動がある登録型派遣の時給において平均的金額を示したものである。平成一三年一月二二日にはHは原告に被告カ社への派遣となる場合は二七〇〇円となることを告げているし、時給二七二〇円と契約書に明記されており、原告はこの契約書を基に本件契約を締結した。
(イ) 労基法三条は、同一労働同一賃金を定めてはいない。
(ウ) 民法五三〇条は、同法五二九条の懸賞広告の取消についての規定であり、申込みの誘引である求人広告については適用がない
イ アの行為による原告の損害
(原告) (二一万一二三三円)
千代田工業事件における大阪高裁平成二年三月八日判決によれば、「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の定めをするなどの特段の事情がない限り、雇用契約の内容となる」ところ、本件契約は、使用者という優越的地位にある被告パ社が、労働者である原告に対し、その優越的地位を利用して、労働条件を一方的に押しつけたもので、当事者間における別段の定めとは評価できない。したがって、本件求人広告による労働条件たる「時給三〇〇〇円以上」を原告は正当な賃金請求権として有する。そして、本件契約の内容と同一労働をしている労働者の時給は三五〇〇円であるから、同一労働同一賃金の原則により原告の時給は三五〇〇円とするのが相当である。本件契約によりその権利を侵害されたので、この差額である二一万一二三三円が損害となる。なお、原告が被告カ社において勤務した時間は二六五時間で、うち二三・二五時間は時間外労働である。
(三、五〇〇-二、七二〇)×(二六五-二三・二五)+(三、五〇〇-二、七二〇)×一・二五×二三・二五=二一一、二三三
(被告パ社)
争う。原告は、自らの意思で時給二七二〇円の本件契約を締結した。
(被告カ社のみ)
(7) 被告カ社が原告に平成一三年二月一日社員教育を要請しつつ本件契約の労働条件を提示した不法行為責任
ア 被告カ社社員が、原告に対し、同日「社員教育をお願いしたい」旨要請したことがあるか。
(原告)
被告カ社社員は、原告に対し、同日の面接において、「新入社員や中途入社社員の教育もお願いします」と原告に告げた。
(被告カ社)
否認する。「原告の仕事ぶりにより、若い人に教育的効果を与えてもらえればありがたい」旨言ったことはある。
イ 被告カ社が、原告に社員教育要請をしつつ、被告パ社に対し四〇日以下の有期契約である本件契約の労働条件の提示をし、被告パ社をして原告と本件契約を締結させたことは違法か。
(原告)
社員教育はOJT形式で行われて少なくとも五、六年を要するのが通常であるから、かような被告カ社社員の発言を聞けば、被告カ社への派遣契約が長期契約であると判断するのが普通である。しかるに、被告カ社は、かような判断を誤らせる情報提供を行っていながら四〇日以下の有期契約である第一契約の労働条件を提示し、被告パ社をして原告と第一契約の締結をさせたのであって違法である。
(被告カ社)
仮に、社員教育要請をしたとしても、四〇日以上の契約でなければ違法ということはできない。
ウ 原告の損害額
(原告)
(1)ウ原告の主張(ア)(イ)(ウ)のとおり
(被告カ社)
(1)ウ被告カ社の主張のとおり
エ アの行為とウの損害との因果関係
(原告の主張)
(1)エ原告の主張(ア)(イ)(ウ)のとおり
(被告カ社)
(1)エ被告カ社の主張のとおり
(8) 被告カ社が、早期出社要求をしつつ、本件契約の労働条件を提示した不法行為責任
ア 被告カ社が、原告に対し、本件契約締結前、早期出社要求をしたことがあるか。
(原告)
被告カ社の法務チームの現場責任者が、平成一三年二月一日面接試験時、「我々は大変忙しいので一日も早くAさんに出社してほしい」旨発言した上、同月二日原告に到達した面接試験の合格通知に「できるだけ早く被告カ社に出社するように」との伝言が添えられていた。
(被告カ社)
否認する。
イ 早期出社要求をしつつ、被告パ社に対し四〇日以下の有期契約である本件契約の労働条件の提示をし、被告パ社をして原告と本件契約を締結させたことは違法か。
(原告)
原告は、被告カ社の早期出社要求により、重要な業務を担当する派遣契約であるとの印象をもち、被告カ社への派遣契約が長期契約であると判断した。しかるに、被告カ社は、かような判断を誤らせる情報提供を行っていながら四〇日以下の有期契約である本件第一契約の労働条件を提示し、被告パ社をして原告と第一契約の締結をさせたのであって違法である。
(被告カ社)
争う。
ウ 原告の損害額
(原告)
(1)ウ原告の主張(ア)(イ)(ウ)のとおり
(被告カ社)
(1)ウ被告カ社の主張のとおり
エ アの行為とウの損害との因果関係
(原告)
(1)エ原告の主張(ア)(イ)(ウ)のとおり
(被告カ社)
(1)エ被告カ社の主張のとおり
(9) 被告カ社が、本件契約の業務内容を逸脱した業務命令をした不法行為責任
ア 本件契約の業務内容
(原告)
本件求人広告にあるとおり、原告の本件契約の業務は、邦文の契約書作成業務に限定されていた。
(被告カ社)
本件契約の業務は、邦文の契約書作成業務にとどまらず、法務業務全般であり、いわゆる二六業種(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令四条)のうち一一号対外取引・国内取引の文書作成、一八号事業の実施体制にかかる法務面の企画・立案を包含するものであった。
イ 被告カ社が本件契約の業務内容を逸脱した業務命令をしたか。
(原告)
原告は、本件契約に基づいて被告カ社において勤務した際、以下のとおり邦文の契約書作成業務以外について業務命令を受けた。
<1> 競合店対策の独占禁止法、刑法及び民法上の問題点の指摘三件
<2> 中古ビデオソフト販売の可否を巡る東京高裁と大阪高裁の各判決の比較表作成
<3> 取締役の業務分担に関する所見書の作成
<4> 営業譲渡(英文契約書)の作成
<5> 外国弁護士宛て英文レターの翻訳
<6> 外国会社との取引開始に伴う英文機密保持契約の翻訳
<7> (tsutaya.com)ツタヤ・ドット・コムの管理者名義変更に係わる英文レターの作成
(被告カ社)
原告が、<1>ないし<3>、<7>の業務を行ったことは認め、その余は否認する。なお、<2>は中古ビデオソフトではなく、中古ゲームソフトである。
被告カ社が業務命令として行わせたというより、上記業務が可能かどうか原告に打診をしたところ、原告が積極的に了解して行った業務であった。
ウ イによる原告の損害
(原告) (二五万円)
原告は上記業務命令により余分な精神的負担を感じ苦痛を受けた。この損害の慰謝料としては二五万円が相当である。
(被告カ社)
否認する。前記イのとおり、原告が積極的に了解して行った業務であり、原告に苦痛を与えるようなものではなかった。
(10) 被告カ社が平成一三年二月一日社員教育を要請する旨発言をしたことの不法行為責任
ア (7)のアに同じ
当事者双方の主張も(7)アと同じ
イ 原告の派遣契約の条件として四〇日以下の有期契約を提示する予定であるにもかかわらず、事前に社員教育を要請する発言をすることは判断を誤らせる情報提供として違法か。
(原告)
被告カ社社員は、原告に対し、平成一三年二月一日の面接において、「新入社員や中途入社社員の教育もお願いします」旨原告に告げたところ、社員教育はOJT形式で行われて少なくとも五、六年を要するのが通常である。被告カ社は、四〇日以下の有期契約である第一契約の労働条件を提示したとおり、原告に社員教育など頼むつもりもないのに、かような虚偽発言を行った。これは原告の判断を誤らせる内容虚偽の情報提供を行ったもので違法である。
(被告カ社)
被告カ社が原告に社員教育を要請したことはない。
原告主張のように「OJT形式で行われて少なくとも五、六年を要する」のが社員教育なのか疑問であるし、一か月くらいの研修も社員教育に含まれるから、社員教育を要請することが長期契約につながるとはいえない。したがって、仮に社員教育を要請したとしても、判断を誤らせる内容虚偽の情報提供を行ったとはいえない。
ウ アによる原告の損害額
(原告)
この虚偽発言により、原告は精神的苦痛を味わった。この損害の慰謝料としては三〇万円が相当である。
(被告カ社)
否認し、争う。
(11) 被告カ社が脱税を隠すための違法文書作成を命じた不法行為責任
ア 被告カ社は、原告に対し、平成一三年三月中旬から下旬にかけて、子会社から被告カ社が<2>DVD、<3>ビデオ・マスターテープ、<4>ビデオ・カセットを買い取る売買契約書、寄託契約書等の作成を命じたか。
(原告)
被告カ社は、平成一三年三月中旬から下旬にかけて、ビデオ・マスターテープ、ビデオ・カセット等を子会社であるCP社から譲り受ける売買契約を締結し、同時にその商品を子会社に寄託した。
原告は、この売買契約書、寄託契約書等の作成を命じられ、作成に従事した。原告が作成したのは、<1>被告カ社とCP社間の継続的売買基本契約書、<2>CP社から被告カ社へのDVDの売買契約書、<3>CP社から被告カ社へのビデオ・マスターテープ等の売買契約書、<4>CP社から被告カ社へのビデオカセットの売買契約書、<5>被告カ社及びCP社間の<2>の商品に関する業務委託契約書、<6>被告カ社及びCP社間の<3>の商品に関する寄託契約書、<7>被告カ社及びCP社間の<4>の商品に関する業務委託契約書等である。
(被告カ社)
<7>は確認できなかったが、概ね認める。
イ ア<3><4>の各売買は、被告カ社の被告カ社の子会社に対する寄付行為(法人税法三七条七項)か。
(原告)
ア<3>の売買の「トキワ荘の青春」、<4>の売買の「エクソシスト」の各作品は、陳腐化した商品で市場価値がないため、これらの売買による支払は寄附行為(法人税法三七条七項)に該当する。被告カ社は、この支払を寄附行為として税務申告しなかった。
(被告カ社)
ア<3>の売買に「トキワ荘の青春」、<4>の売買に「エクソシスト」の各作品があったことは認める。これらの作品が陳腐化して市場価値がないことは否認する。新作と旧作の違いがあるが、それぞれ市場価値を有し、旧作も含めて過不足なく取りそろえていることがビデオレンタル業では重要である。よって、これらの売買は「寄附行為」には該当しない。
ウ ア<2>の売買は、CP社から被告カ社に対する贈与(法人税法二二条二項)に該当するか。
(原告)
ア<2>の売買は、「特価」販売と銘打っているので、市価と売買価格の差額について法人税法二二条二項の「無償による資産の譲受け」に該当し、課税所得に加算することが必要であるところ、被告カ社はそのような税務処理をしなかった。
(被告カ社)
ア<2>の売買は、契約自由の範囲での売買であり、「無償による資産の譲受け」に該当するようなものではないし、しかるべき税務処理をしていた。
エ ア<2>の売買は、被告カ社の課税所得を減少させる目的で、転売等で今後収益を上げる目的がないのに、商品を購入する違法な取引か。
(原告)
ア<2>の売買は、被告カ社が商品の転売等によって今後利益を上げる目的がないのに、商品を購入した取引である。この売買により、代金相当額は、被告カ社において、仕入原価として損金に算入され(法人税法二二条三項一号)、被告カ社の課税所得は減少し(同法二二条一項)、被告カ社が蓄積した利益のうち上記売買代金相当額は課税対象から外れることになる。この売買によって被告カ社は課税所得を減少させた。したがって、ア<2>の売買は、法人税を不当に軽減しようとする利益隠しの手段として行われた違法な取引である。
(被告カ社)
ア<2>の売買は、被告カ社において、直営店舗用、加盟店用、販売促進資材用、贈答用、転売用等として利益を得る目的で購入したものである。よって、法人税を不当に軽減する利益隠しの手段として行われた取引ではない。
オ ア<2><3><4>の各売買は法人税法一三二条一項により否認される行為か。
(原告)
(ア) 被告カ社が発行済み株式総数の一〇〇パーセントを所有するCP社は「同族会社」(法人税法二条一〇号)である。
(イ) ア<3><4>の売買について
極めて陳腐化の激しいエンターテイメント分野において今後転売の可能性がない商品を大量に購入するもので、資本関係のない会社どうしでは考えられない取引であり、「営利を目的とした合理的経済人としての行為を逸脱した行為」であって、「これを容認した場合に法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」行為として否認の対象となる。
(ウ) ア<2>の売買について
商品の購入は転売を目的にしたものでなければならず、かつ、転売目的であってもデフレーション時代の現在、余分な在庫は企業の命取りになるためかかえるべきではない。しかるに、ア<2>の売買は、被告カ社が転売を目的とするものではなく、決算期に一挙にリスクヘッジもしないで大量多額の商品を購入し、かつ、当該商品をCP社に寄託している不自然な売買である。したがって、「営利を目的とした合理的経済人としての行為を逸脱した行為」であって、「これを容認した場合に法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」行為として否認の対象となる。
(被告カ社)
(ア) 被告カ社がCP社の発行株式総数の一〇〇パーセントを所有することは認め、同族会社であることは争う。
(イ) ア<3>、<4>の売買は、イで主張したとおり、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為ではない。
ウ ア<2>の売買は、エで主張したとおりの目的でされたものである。商品の購入は転売だけを目的とするものではない。買い取った商品を売主に寄託し、入出庫、保管の業務を委託することはよくある取引であり、不自然ではない。
カ 違法な業務命令による原告の損害
(原告) (一三五万円)
ア<2><3><4>の各売買が法人税法一三二条一項により否認されることによって、原告は被告カ社とともに両罰規定により処罰されることになる(法人税法一五九条一項)。
原告はアの違法文書を作成を命じる業務命令により精神的苦痛を感じ、この苦痛の慰謝料としては一三五万円が相当である。
原告は、企業法務の責任者として予防法務や戦略法務を推進してきたものであり、脱税行為への荷担は、原告の人生に大きな汚点となってしまった。これまで長年にわたって営々と築いてきたものが一挙に音を立てて崩れさっていき、空しい。
(被告カ社)
争う。仮に、被告カ社の行為が違法であっても、原告は脱税行為に荷担したとはいえないから法人税法により処罰されることはあり得ず、原告に損害はない。
第三当裁判所の判断
1 前提とした事実
前記第二の1の事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(1) 原告は、平成一二年二月二日付けで、株式会社大学受験研究所(以下「予備校」という)との間で、予備校が原告に対し、株式会社育英の会員である受講生に対する個別指導その他の業務を委託するとの「業務委託契約書」を締結した(以下「予備校との契約」という)。予備校との契約の期間は同月一一日から平成一三年二月一〇日までの一年、時給は二五〇〇円とされていた。原告は、予備校との契約に基づき受験生に対する英語の講師等として稼働していたところ、同年一月、本件求人広告を見て、その業務の内容が、原告が森永乳業株式会社、日本コカコーラ株式会社及びユニ・チャーム株式会社において長年従事し、生き甲斐としてきた法務職であることに魅力を感じ、本件求人広告に応募した。原告は、同月一九日の登録説明会は都合が悪かったため、他の登録希望者一名とともに、同月二二日、被告パ社の法務専門職の登録説明会に出席した。
原告が被告パ社に送付した履歴書には、年齢やユニチャーム株式会社を平成一一年一月に退職するまでの職歴等の記載があったが、年金を受給していることの記載はなかった。
(証拠略)
(2) 同月二二日、登録説明会において、Hは、原告に対し、「派遣で働くあなたに」と題する労働者派遣契約一般について説明した小冊子を手渡すなどして労働者派遣契約一般の説明を行うとともに、法務専門職及び法務事務職の派遣先である株式会社ベネッセコーポレーションと被告カ社の概要について説明をした。また、Hは、原告に対し、被告カ社を派遣先とする場合の就業場所や就業時間について説明するとともに、時給については二七〇〇円からのスタートになる旨説明した。また、派遣先を被告カ社とする場合の業務内容については、「カルチュア・コンビニエンス・クラブ法務グループ勤務の場合」等と記載された文書を示しつつ説明した。その文書には、「内容」として「<1>契約法務 フランチャイズ契約・著作権
営業現場の担当者から案件のヒアリングをし、契約書の作成と修正を行う。<2>総務事務 社内規定の作成・修正・他セクションとの調整業務 株式関連業務経験あると尚可」と記載され、また、「法務事務職内容」として、「契約書作成及びチェック(簡単・定型的な)、契約書管理、捺印管理、商標管理 など法務職の補佐業務の遂行 使用パソコンソフト:ワード・エクセル・アクセス・パワーポイント」との記載がされていた。
Hは、原告に対し、被告カ社が求める法務専門職のイメージとして、被告カ社の法務チームのFから伝えられていた「メーカー、加盟店との売買契約、それらに付随するインセンティブ等を定める契約、フランチャイズ契約の条件変更覚書、インターネットのコンテンツ等の提供使用契約、秘密保持契約、営業譲渡契約等の諸契約について、担当者からヒアリングして契約書を作成、審査する能力がある者、民法、商法、倒産関係の法律に精通している方」、「被告カ社は、フランチャイズ本部だが、子会社で行っているウェブ提供や商品情報の販売等の新しい分野の法的処理を求められる会社である。これらの生の事実を法的観点から分析し契約書に落とし込む作業を短時間で完遂することが求められる」等との説明をした。
原告は、同日行われた面接において、Hら被告パ社の面接担当者に対し、恵比寿での勤務が可能なこと、勤務時間を午前九時三〇分から午後六時までとすることも可能であること、週四日が希望だが、週五日でも検討すること、予備校との契約があるので、勤務開始は二月一一日くらいからにしたいこと、英語はできることなどを伝えた。
Hら被告パ社の担当者は、原告の能力は法務専門職として十分であると判断し、原告の登録を決定した。
(証拠略。なお、書証略には、被告パ社から示された業務内容の説明書面に社員教育の記載があった旨の記載があるが、書証略の記載と対比して採用できない)
(3) 同年一月二四日、被告パ社は、原告に対し、「法務専門職での派遣登録をしてもらうことになった」旨文書で伝えるとともに、同文書で、「現在派遣先に数名紹介している状況で、派遣先の返事をまって、一回お顔合わせ(事前インタビュー)を設定することになる」旨伝えた。(書証略)
パ社は、同年二月一日、被告カ社において、原告に対し「顔合わせ」であるとの説明の下、原告と被告カ社の法務チームのF及びSを引き合わせた。(証拠略)
この会合においては、もっぱら被告カ社から原告の担当業務についての説明がされ、原告の能力を問う質問や試験などは行われなかった。この会合の際、被告カ社の法務チームのFは、原告に対し、原告の担当業務として、英文のものも含めて、契約書の作成審査等の法務業務全般を担当してほしい旨説明したが、原告は特に異論は言わなかった。Fは、原告に対し、被告カ社には若い従業員が多いので、原告の勤務によって同人らに教育的効果が生じることを期待していることや、法務チームは忙しいので一日も早く来てほしいことを伝えた。(人証略)
(4) Hは、同月二日、原告に対し、Eメールで「被告カ社から返事が来たので伝えます。・被告カ社での勤務をお願いします。・開始日につき、お仕事の調整をいただき、なるべく早くの勤務を希望します。・契約期間は、お互いトライアル期間として一か月をお願いします。その後双方意思確認できたところで三か月程度の更新で継続していただくことになります。・勤務形態は月曜から金曜で午前九時三〇分から午後六時までです(被告パ社の規定で七時間を超過した場合は、一二五パーセントの時給を支払います)。・時給は二七二〇円からとなります(トライアル期間の功績に応じて時給アップの交渉をします)。この条件で了解できる場合は、事前に被告パ社のルール説明会に出てきてもらうことになります」旨伝えた。(書証略)
第一契約の期間が一か月と提示されたのは、法務チームとの調和がはかれるか、秘密保持できる人柄か等を検討するため試用期間を設けたいとの被告カ社の要望によるものであった。(人証略)
原告は、同月三日、Hに対し、Eメールで、「予備校から二月七日に確定した退職日を連絡するといわれています。二月七日、Hさんに電話で結果報告しますが、原告の予備校での講義の関係から、限られた時間帯になります」旨伝えた。(書証略)
原告は一月末に予備校から平成一三年四月からの講義スケジュールを受け取り、平成一三年二月一二日以降も予備校との契約が更新可能であったが、同月七日か八日ころ、予備校に契約を更新しないことを伝え、同月一〇日予備校を退職した。(人証略)
(5) 被告カ社での勤務開始日は原告の都合により同月一九日からとされ、第一契約が締結された。なお、第一契約及び第二契約の各契約書には、業務内容として「ファイリング、OA機器操作」と記載されていた。(証拠略)
原告は、同日から被告カ社において勤務した。被告カ社は、派遣契約の更新をしたい旨被告パ社に伝え、被告パ社が原告に更新を打診したところ、原告は、年金が打ち切られてしまうので、就業時間を短縮し就業日を週三日にしてほしいと要望した。被告パ社は、原告が年金を受給していたことをこのとき初めて知った。被告カ社は、週の勤務日がより多い方が望ましいとしていたため、就業日が週三日であるなら期間を一か月と指定し、第二契約が締結されたが、第二契約後は原告と被告パ社との間で、派遣先を被告カ社とする派遣契約は締結されなかった。(人証略)
(6) 原告は、本件契約に基づいて被告カ社において勤務した際、<1>競合店対策の独占禁止法、刑法及び民法上の問題点の指摘三件、<2>中古ゲームソフト販売の可否を巡る東京高裁と大阪高裁の各判決の比較表作成、<3>取締役の業務分担に関する所見書の作成、<4>営業譲渡(英文契約書)の作成、<5>外国弁護士宛て英文レターの翻訳、<6>外国会社との取引開始に伴う英文機密保持契約の翻訳、<7>(tsutaya.com)ツタヤ・ドット・コムの管理者名義変更に係わる英文レターの作成に従事した。(人証略)
この業務を遂行する際、原告は、特に苦情は述べなかった。(人証略)
(7) 原告は、被告カ社において勤務していた平成一三年三月中旬から下旬にかけて、ビデオ・マスターテープ、ビデオ・カセット等を子会社であるCP社から譲り受ける売買契約を締結し、同時にその商品を子会社に寄託した。
原告は、この売買契約書、寄託契約書等の作成を命じられ、作成に従事した。原告が作成したのは、<1>被告カ社とCP社間の平成一三年三月一日付け継続的売買基本契約書、<2>CP社が被告カ社へ名作映画DVD特別セットの数量合計八〇〇セットを「特価一〇四、五〇〇円」合計八三、六〇〇、〇〇〇円で売る旨の売買契約書、<3>CP社が被告カ社へ映画「トキワ荘の青春」等のビデオ・マスターテープを売り、映画興行権、放送権、配信権、その他のメディア利用権の国内外での独占的実施権を許諾し、その対価三〇〇〇万円を支払う旨の売買契約書、<4>CP社から被告カ社へ映画「エクソシスト・トゥルー・ストーリー完全版」のビデオ・カセットを一本四〇〇〇円で、字幕版四一三四本、吹き替え版三五一七本を売る旨の売買契約書、<5>被告カ社及びCP社間の<2>の商品をCP社が保管し、被告カ社が約定の月間保管料を支払う旨の寄託契約書、<6>被告カ社及びCP社間の<3>の商品をCP社が出庫配送在庫管理し、被告カ社が約定の委託料を支払う旨の業務委託契約書、<7>被告カ社及びCP社間の<4>の商品に関する業務委託契約書を作成した。(証拠略)
このとき、原告は、Fに対し、前記<1>ないし<7>の契約が脱税のための取引と見なされる危険があることを指摘した。Fは、原告の指摘を受けて、経理担当者等の関係部署に対し、商品及び金銭の取扱いを<1>ないし<7>の契約書どおり行うよう指示した(証拠略には、「原告が、被告カ社の脱税阻止のため、契約書作成を止めるよう進言したのに対し、Fが『国税にはおみやげをもたせる覚悟だから構わない』等と答えた」旨の記載があるが、これを否定する証人Fの証言と対比して採用できない)
被告カ社においては、<1>ないし<7>の契約書について、寄附行為や無償の譲り受けとしての税務処理は行わず、契約書どおりの行為をしたことを前提として税務申告を行った。(人証略)
2 争点(1)について
(1) アについて
労基法一四条三号は、満六〇歳以上の労働者との間に締結される労働契約については、三年を超える期間について締結してはならないと定めたもので、三年以下の有期雇用契約の締結を禁止するものではないから、四〇日以下の有期雇用契約である本件契約を締結することは、何ら同法に違反するとはいえない。
原告は、労基法一四条三号は、高齢者の安定雇用を目指した立法であり、四〇日以下の有期雇用契約は、同条の精神に逆行し違法である旨主張するが、労基法は、労働者に対する不当な身分拘束を防止する趣旨で雇用期間の上限を一年としていたところ、高齢者の一定期間の就労を確保するため、三年以内の有期雇用契約の締結を自由とするべく、満六〇歳以上の労働者について上記制限を撤廃し雇用期間の上限を三年に引き上げたものであるから、原告の主張は採用できない。仮に、原告の主張のとおり、高齢者との三年に満たない有期雇用契約は違法であるとすれば、高齢者との有期雇用契約締結において雇用期間設定の自由が制限され、かえって高齢者の就労機会が減少するおそれすらあるから、原告の主張は同条の解釈として採り得るものではない。
また、労働者派遣法三〇条は、派遣元事業主に派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、派遣労働者の福祉の増進を図る努力義務を定めたものであるから、四〇日以下の派遣契約を締結することが、直ちに同条に違反するとはいえない。
原告は、年金生活者にとって、四〇日間の有期雇用では採算がとれないことは自明の理であるから、年金受給者である原告に第一契約のような四〇日以下の有期雇用契約の締結を求めることは違法であると主張する。しかし、労働者が受給している年金の有無及び額は、当該労働者の加入している年金の種類、被保険者期間、標準報酬月額等により著しい差異があるところ、これらはすべて労働者側の事情であって、使用者において通常知る得る事項でも、採用において調査すべき事項でもないことからすれば、年金受給との関係で当該労働契約が採算がとれるか否かは、労働者において判断すべきことであって、使用者において採用時に検討を要する事項ということはできない。原告の主張は採用できない。
なお、証拠(略)によれば、本件契約の契約書は、条件を被告パ社において印字したものに原告が署名する方法で作成されたことはこれを認めることができるが、あらかじめ労働条件が契約書に印刷されていることのみによって、労働者に労働条件について諾否の自由がないということはできないから、本件契約の締結に際し、原告に契約内容決定の自由がなかったということはできない。
以上検討したところにより、被告パ社が本件契約の締結要求をすることは、使用者としての優越した地位を濫用しているとも、公序良俗に違反しているとも、正義観念、社会倫理に反するともいうことはできず、違法とは評価できない。
(2) したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の争点(1)についての請求は理由がない。
3 争点(2)について
(1) アについて
労働者派遣法二六条七項は、労働者派遣先に対し、派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めるべきことを定め、これに対応するものとして、派遣元指針一一項は、労働者派遣元に対し、派遣先による派遣労働者を特定する行為に協力してはならないとしている。
前記1(3)、(4)のとおり、被告パ社が、被告カ社に法務専門職として原告を含む数名がいることを伝えた上、平成一三年二月一日、被告カ社において、原告と被告カ社の法務チームの二名とを引き合わせたこと、翌二日、Hが原告に対し「被告カ社での勤務をお願いします」旨の連絡をしていることはこれを認めることができるところ、これらの各事実は、二月一日の会合が派遣労働者を特定することを目的とする行為であったことを疑わせる事実といえる。しかし、二月一日の会合については、原告に対し「顔合わせ」であるとの説明がされていたこと、被告カ社による原告の能力についての質問や試験などが実施されず、もっぱら被告カ社の業務内容の説明が行われていたことと、原告が二月一日に来たときは原告が派遣されることが決まっており、原告以外に被告パ社に法務職の派遣労働者として引き合わされた者はいなかった旨の証人Fの証言を併せ考えると、二月一日の会合が原告の採否を決めるための面接であるなど、派遣労働者を特定することを目的とする行為であったとは、なお認めるに足りないというべきである。
なお、Hは、翌二日のEメールにおいて、原告に対し、「被告カ社での勤務をお願いします」と告げていることから、同日初めて被告カ社を派遣先とする第一契約の申込みをしたものと認められるが(証拠略)、被告パ社において、被告カ社の法務チームによる原告に対する業務説明の会合の後まで、第一契約の申込みを留保していたとしても、二月一日の会合の内容が前記のとおりであった以上、同日の会合が、被告カ社による派遣労働者特定を目的とした行為であったとはいえないというべきである。原告は、二月一日の会合の際、Fが原告の経歴を知っている様子であったこと、及び、被告カ社から二名が出席したこと等を根拠として面接であると感じたとするが(書証略)、原告の経歴について知っていたことや被告カ社から二名が出席したことが必ずしも「業務説明」や「顔合わせ」と矛盾し、面接を意味するとは限らないから、原告の主張は採用できない。
(2) イについて
本件全証拠によっても、被告カ社が、第二契約締結前に原告を派遣労働者として指名したと認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって、その余の点について判断するまでもなく、争点(2)についての原告の主張は理由がない。
4 争点(3)について
(1) アについて
労働者の募集に際し、募集内容を的確に表示する義務を定めた職安法四二条は、「第五条の三第一項の規定により当該募集に係る従事すべき業務の内容等を明示するに当たっては」と規定し、同法五条の三第一項が労働者派遣を除外していることから、同法四二条は、労働者派遣契約に係る派遣労働者の募集については直接適用されないものと解される。他方、労働者の判断を誤らせることがないよう募集内容の明示を要求した同法の趣旨は、派遣労働者の募集についても妥当するから、労働者派遣契約において、当該求人広告が、特定の派遣先に対する労働者派遣契約に係る派遣労働者募集であるときは、同条が準用されるというべきである。他方、当該求人広告が、不特定の派遣先に対する労働者派遣契約の登録の募集であるときは、派遣先に応じて労働条件の変更があり得ることにより、適正表示の前提を欠くから、同法の適用はないというべきである。職安法五条の三、同法施行規則についても、同様に解すべきである。
前記第二の1(2)のとおり、本件求人広告は、「法務職(派遣)」「大手流通業・出版業における契約法務」「〔勤務地〕恵比寿・多摩センター」などと記載され、かつ、「登録説明会」の日時の案内の記載があること、その登録説明会においては被告カ社だけでなく他社の法務職の説明もされていることから、特定の派遣先のための派遣労働者の募集ではなく、派遣労働者の登録の募集と認められる(これに反する原告の主張は採用できない)。したがって、本件契約の契約期間を明示しなかったとしても、職安法四二条、五条の三に反するとはいえない。
原告は、契約前段階の過程における当事者間の信義則により、求人広告で「短期雇用」の旨を特記するなど応募者に誤解を生じさせない義務がある旨主張する。しかし、本件求人広告は、特定の派遣先に対する派遣労働者募集ではなく、不特定の派遣先に対する労働者派遣契約の登録の募集であって、派遣先に応じて労働条件の変更があり得ることにより、期間は定まってはいなかったのであるから、被告パ社が「短期雇用」との表示をすべきであったということはできない。
(2) ウについて
仮に、本件求人広告が違法であるとしても、前記1(4)のとおり、原告は、予備校に契約更新をしない旨伝える前の平成一三年二月二日には、第一契約が四〇日の有期雇用契約であることを知っていたから、予備校との契約更新をしないとの原告の判断は、第一契約の契約期間を知った上での自由な判断であって、本件契約による賃金と予備校との契約による賃金とで差額が生じたとしても、本件求人広告に短期雇用契約であることを表示しなかった不作為によって生じた損害とはいえない。
(3) したがって、争点(3)についての原告の請求は理由がない。
5 争点(4)について
(1) アについて
本件求人広告には、「社会保険完備」旨記載されているところ、この記載は、厚生年金保険法、健康保険法の定めに基づき社会保険の被保険者となるべき労働者については被保険者とする旨の記載であるから、求人広告にこのような記載があることが長期契約を予想させるとはいえないというべきであり、原告の主張は失当である。
(2) ウについて
前記4(2)のとおり、予備校との契約更新をしないとの原告の判断は、第一契約の契約期間を知った上でされたもので、本件契約による賃金と予備校との契約による賃金とで差額が生じたとしても、本件求人広告に長期雇用を期待させる情報が記載されていたからであるとはいえないから、原告の主張はこの点においても失当である。
6 争点(5)について
(1) ア及びイについて
早期出社を求める理由はさまざまであり、早期出社を求められる仕事が重要な仕事に限るとはいえないから、早期出社要求が雇用期間について判断を誤らせる情報提供であるということはできない。したがって、早期出社要求をしつつ短期の雇用契約の締結要求をすることは違法である旨の原告の主張は失当である。
(2) エについて
前記4(2)のとおり、予備校との契約更新をしないとの原告の判断は、第一契約の契約期間を知った上でされたもので、本件契約による賃金と予備校との契約による賃金とで差額が生じたとしても、第一契約の雇用期間について判断を誤らせる情報を前記HのEメールで提供されたからであるとはいえないから、原告の主張はこの点においても失当である。
7 争点(6)について
(1) アについて
前記4(1)のとおり、本件求人広告は派遣労働者の登録の勧誘であって、職安法四二条の適用を受けるものではない。したがって、本件求人広告と契約締結時に示された労働条件が異なっていても、直ちに違法となるとはいえない。
原告は、本件契約の内容と同一労働をしている労働者の賃金は三五〇〇円である等と主張するが、これを裏付ける証拠はない。
民法五三〇条は同法五二九条の懸賞広告についての規定であり、登録申込みの誘引である本件求人広告には適用がない。
以上の各点から、原告の主張は失当である。
(2) イについて
原告は被告パ社から平成一三年二月二日に時給二七二〇円となるべきことを提示され、その後、第一契約及び第二契約の各契約書を作成しその旨合意したのであるから、本件契約において、原告が引用する大阪高裁平成二年三月八日判決の法理が適用される余地はない。原告に本件契約の諾否の自由がなかった旨の原告の主張は、契約期間を告げられた平成一三年二月二日以降において原告は予備校の契約の更新が可能であったこと、第一契約の勤務開始日及び第二契約の一週当たりの勤務日数が原告の都合により設定されたこと(1の(4)、(5))等に照らして採用できない。
8 争点(7)について
(1) ア及びイについて
社員教育といっても、短期の集中研修や長期の実務訓練などその内容はさまざまであり、一概に長期間を要するとは限らないから、「社員教育をお願いしたい」旨告げることが、雇用期間について判断を誤らせる情報提供であるということはできない。原告の主張は失当である。
また、被告カ社の者が、平成一三年二月一日、原告に対し、社員教育を要請したとの事実も認めるに足りない。
(2) エについて
前記4(2)のとおり、予備校との契約更新をしないとの原告の判断は、第一契約の契約期間を知った上でされたもので、本件契約による賃金と予備校との契約による賃金とで差額が生じたとしても、第一契約の雇用期間について判断を誤らせる情報を平成一三年二月一日の会合において被告カ社から提供されたためであるとはいえないから、原告の主張はこの点においても失当である。
9 争点(8)について
(1) ア及びイについて
早期出社を求める理由はさまざまであり、重要な仕事だからとは限らないから、早期出社要求が雇用期間について判断を誤らせる情報提供であるということはできない。
(2) エについて
前記4(2)のとおり、予備校との契約更新をしないとの原告の判断は、第一契約の契約期間を知った上でされたもので、本件契約による賃金と予備校との契約による賃金とで差額が生じたとしても、第一契約の雇用期間について判断を誤らせる情報を前記HのEメールで提供されたからであるとはいえないから、原告の主張はこの点においても失当である。
10 争点(9)について
(1) アについて
前記1(2)のとおり、被告パ社は、本件契約締結以前、原告に対し「法務専門職」に登録された旨通知していたこと、原告の出席した登録説明会において、被告カ社を派遣先とする場合の「法務専門職」の業務について、前記1(2)のとおりの説明が原告にされていたこと、二月一日の会合において、被告カ社から業務内容について英文のものも含めて法務業務全般との説明をしていたこと(1(3))、原告が業務遂行の際、特に苦情を述べていなかったこと(1(6))に照らすと、本件契約の業務内容は、邦文の契約書作成業務のみならず、英文の契約書作成業務及びこれらに付随する法務全般の業務を含んでいたと認めるのが相当である。
(2) したがって、前記1(6)のとおり原告が行ったと認められる1(6)<1>ないし<7>の業務が、本件契約の業務範囲を逸脱する業務であったということはできない。よって、原告の争点(9)の請求は理由がない。
11 争点(10)について
(1) アについて
被告カ社の社員が「社員教育をお願いしたい」旨告げたと認めるに足りる証拠はない。仮に、そのように告げたとしても、前記8(1)のとおり、社員教育が長期の雇用を前提としなければ不可能ともいえないから、虚偽発言をしたとはいえないし、判断を誤らせる情報提供をしたともいえない。
(2) したがって、争点(10)についての原告の主張は失当である。
12 争点(11)について
(1) アについて
前記1(7)のとおり、原告が1(7)の<1>ないし<7>の契約書を作成したことは、これを認めることができる(以下、第三の12の項では、1(7)の<1>ないし<7>の契約書を「<1>ないし<7>の契約書」といい、1(7)の個々の契約書については「<1>の契約書」等という)。
(2) イについて
証拠(略)を子細に検討しても、<3>及び<4>の契約書の売買契約が、被告カ社の被告カ社の子会社に対する寄付行為(法人税法三七条七項)に該当するものであるとは認めるに足りない。
原告は、<3>及び<4>の契約書の売買契約は、陳腐化した作品で市場価値がない旨主張するが、旧作に当たる作品でもビデオレンタル店の品揃えに加えたり、メディア利用権を使用して映画館で上映したり、DVD化したりする上で市場価値がある旨の証人Fの証言と対比して採用できない。
(3) ウについて
前記(2)の証拠を検討しても、<2>の契約書の売買契約が、CP社から被告カ社に対する贈与(法人税法二二条二項)に該当するものであるとは認めるに足りない。
原告は、<2>の契約書は「特価」としているから、売買価格と市場価格との間に差があり、この差額が贈与に当たる旨主張するが、市場価格が<2>の契約書の売買価格を上回ることを裏付ける証拠はなく、採用できない。
(4) エについて
前記(2)の証拠を検討しても、<2>の契約書の売買契約が、被告カ社において今後転売等で収益を上げる見込みがないのに、もっぱら被告カ社の課税所得を減少させる目的で商品を購入した売買であったと認めるに足りない。
原告は、被告カ社は<2>の契約書の対象の商品に転売のあてはなく被告カ社に利益を上げる目的がない旨主張するが、直営店舗用、加盟店用、販売促進資材用、贈答用、転売用等として利用し、収益をあげることを目的として購入した旨の被告カ社の主張と対比して採用できない。
(5) オについて
CP社は被告カ社の一〇〇パーセント子会社であるから、法人税法二条一〇号の同族会社である。しかし、本件全証拠によっても、<2>ないし<4>の契約書の売買契約が、営利を目的とした合理的経済人としての行為を逸脱した行為として「これを容認した場合に法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」行為(法人税法一三二条一項)に該当すると認めるに足りない。
前記(3)のとおり、<3>及び<4>の契約書の売買契約の対象となった商品及び権利が、今後転売、利用の可能性がなく市場価値がないものとはいえないし、前記(4)のとおり、<2>の契約書の売買契約が収益を目的とするものではないとはいえないから、第二の3(11)オの原告の主張はいずれも採用できない。
(6) したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の争点(11)の請求は理由がない。
13 以上から、原告の請求はいずれも理由がない。
(裁判官 伊藤由紀子)