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東京地方裁判所 平成13年(ワ)13189号 判決 2001年12月18日

原告

村上淑恵

被告

黒澤一郎

ほか一名

主文

一  被告黒澤一郎は、原告に対し、二一四万九六一五円及びこれに対する平成一二年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三井住友海上火災保険株式会社は、原告の被告黒澤一郎に対する判決が確定したときは、原告に対し、二一四万九六一五円及びこれに対する平成一二年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告黒澤一郎(以下「被告黒澤」という。)は、原告に対し、七九三万三〇〇〇円及びこれに対する本件事故の後である平成一二年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三井住友海上火災保険株式会社(以下「被告三井住友海上」という。)は、原告の被告黒澤に対する判決が確定したときは、原告に対し、七九三万三〇〇〇円及びこれに対する本件事故の後である平成一二年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、駐車車両に衝突して受傷した原告が、駐車車両の運転者であり保有者である被告黒澤に対し、民法七〇九条、自賠法三条に基づき損害賠償の請求をし、また、被告黒澤との間で自動車保険契約を締結している被告三井住友海上に対し、同額の損害賠償金の支払を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は、争いがない。)

(一)  本件事故の発生

(1) 日時 平成一一年八月一三日午後八時〇〇分ころ

(2) 場所 東京都町田市忠生四丁目二一番地二六先路上(本件道路)

(3) 原告車両 原告が運転する原動機付自転車

(4) 被告車両 被告黒澤が運転し保有する普通乗用自動車

(5) 態様 原告車両が、駐車中の被告車両に衝突した。

(二)  原告の受傷内容、入通院の経過及び後遺障害

(1) 原告の受傷内容

原告は、本件事故により、頭部打撲、顔面骨骨折、腰部挫傷、両股関節捻挫、仙骨骨折、頸椎捻挫、顔面挫創等の傷害を負った(甲二<1>)。

(2) 原告の入通院の経過(甲二、八)

ア 多摩丘陵病院

入院 平成一一年八月一三日~同年九月六日(二五日)

通院 平成一一年九月一四日(一日)

イ こぶち整形外科クリニック

通院 平成一一年九月一〇日~平成一二年二月一四日(実日数八七日)

ウ 日本医科大学付属多摩永山病院

通院 平成一一年九月三日~同年一〇月一三日(実日数九日)

(3) 原告の後遺障害(甲二<1>、甲三<1>)

原告は、平成一二年二月一四日に症状固定し、自算会から、次の二つの後遺障害により併合一一級との認定を受けた。

ア 顔面挫創による外貌の醜状障害(後遺障害等級表一二級一四号)

イ 仙骨骨折に伴う骨盤骨の変形障害(同一二級五号)

(三)  責任原因

(1) 被告黒澤は、被告車両を運転し、かつ、保有している。

(2) 被告三井住友海上は、被告黒澤との間で、被告車両について自動車保険契約を締結している。

(四)  損害の填補

原告は、自賠責保険から、後遺障害保険金として二三一万七〇〇〇円、傷害保険金として九六万円の合計三二七万七〇〇〇円の支払を受けた。

二  争点

(一)  本件事故発生の責任

(1) 被告らの主張

ア 本件事故は、原告が時速約三〇kmで原動機付自転車を運転していて、駐車中の被告車両を前方約二二・三mの地点に発見したが、不用意に急ブレーキをかけたため転倒し、その結果滑走して被告車両に衝突したものである。なお、原告は、本件事故当時、原動機付自転車の運転免許を取得して三か月程度であった。

イ 原告が被告車両を発見した時、距離は二二・三mもあったのであるから、ごく通常の制動を行えば、被告車両の手前で十分に停止することができた。すなわち、道路の摩擦係数を「湿潤なアスファルト舗装」の場合の〇・三とした制動距離は一一・六mであり、これに一秒間の空走距離八・三mを加えても、総制動距離は一九・九mであり、十分安全に停止することができる。

さらに、当時、道路は空いており、原告に併走する車両も後続する車両もなかったのであるから、そもそもブレーキを使用しなくても、ハンドル操作でなんなく被告車両を回避することが可能であった。

ウ 被告黒澤の駐車していた時間は、約五分間という短時間にすぎない。また、自動車の色は白と茶のツートンカラーであって、発見が困難な色でもない。そして、現場は直線道路であって見通しは良く、かつ、街路灯は四〇m間隔で設置されていた。

エ 以上より、本件事故は、原告の未熟な操縦による一方的なしかも重大な過失によるものであって、被告黒澤には、本件事故の結果と相当因果関係のある過失はない。そして、被告車両には、構造上の欠陥も機能の障害もなかった。

よって、被告黒澤には、民法七〇九条の責任は発生せず、また、自賠法三条ただし書の免責が認められる。

オ 仮に被告黒澤に責任が認められるとしても、原告の過失は極めて大きいから過失相殺がされなければならず、その過失割合は九割を下回らないものである。

(2)原告の主張

ア 本件事故は、夜間・雨天のため視界不良の中、無灯火で反射板のない状態で、幹線道路における駐車禁止場所に違法駐車中の被告車両に、原告車両が衝突したものである。

イ 被告らの主張するように、本件道路には街路灯が設置されているが、灯火が街路樹の木の枝や葉に遮られ、部分照射程度の役割しか果しておらず、道路全面を照射していない。また、被告車両は、白と茶のツートンカラーで、衝突した後方から見ると茶と黒の部分が多く、夜間・雨天・視界不良の時、障害物として識別することは容易ではない。

被告らは、被告黒澤が駐車した時間は約五分間という短時間にすぎないと主張しているが、乙一によれば、被告黒澤は、午後七時五五分に駐車し、午後八時八分に一一〇番通報をしたとなっている。そうすると、被告黒澤は、少なくとも一三分間は駐車したことになる。被告黒澤は、本件道路を常時駐車場として使用していたものである。

乙一によれば、原告が被告車両を認識した地点は二二・三m手前となっているが、原告が障害物を認識したのは夜間・雨天で視界不良の中でのことであり、衝突地点までの距離は定かではなく、乙一に記載されている距離は推定に基づくものである。仮に二二・三mの距離があったとしても、被告らの主張では、空走距離について、夜間・雨天であり、原告車両が原動機付自転車であることへの配慮が欠けている。

ウ 被告黒澤の違法駐車行為は、危険な道路環境を作り出していることになり、重大な結果発生の危険惹起要因として本件事故との間に相当因果関係があり、被告黒澤の過失割合は五割以上である。

(二)  原告の損害額(原告の主張)

(1) 治療関係費、通院慰謝料 少なくとも九六万〇〇〇〇円

(2) 後遺症慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

(3) 後遺障害による逸失利益 八二五万〇〇〇〇円

(4) 既払金 三二七万七〇〇〇円

原告は、(1)ないし(3)の合計額一一二一万円から(4)の既払金を控除した七九三万三〇〇〇円の支払を求める。

第三争点に対する判断

一  本件事故発生の責任について

(一)  甲九の一~三、乙一、三、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の発生に至る経緯として、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、平成一一年八月一三日午後八時〇〇分ころ、原動機付自転車を運転し、東京都町田市忠生四丁目二一番二六先路上を、町田街道方面から図師町方面に向かい、時速約三〇kmの速度で走行していた。

(2) 本件道路は、町田街道のバイパス道路であり、幅員三・九mのグリーンベルトを挟んで、片側幅員は六・〇mであり、終日駐車禁止とされていた。本件道路は平坦な直線道路で、見通しを妨げるものはなかった。

(3) 被告黒澤は、同日午後七時五五分ころ、自宅近くの賃借駐車場から被告車両を出し、返却予定のビデオを取りに行くために、本件道路上の当時の自宅前に被告車両を駐車させた。被告車両は、車幅が一・六九m、高さが一・五〇mであり、色は白と茶のツートンカラーであった。被告車両は、非常点滅表示灯、尾灯その他の灯火をつけていなかった。

(4) 当時は、夜間である上、雨が少し強く降っており、視界が悪かった。ちなみに、本件事故現場に比較的近接した相模原地域雨量観測所における観測データによれば、本件事故当日の午後七時から八時までの一時間の降雨量は四mm、午後八時から九時までの一時間の降雨量は八mmであった。

(5) 本件道路の両側には、街路灯が約四〇m間隔に設置されていたが、街路樹が繁っていたため、これに遮られて、街路灯は道路全面を照射してはいなかった。

(6) 同年九月一二日に行われた実況見分の際の指示説明によれば、原告は、前方左側端に駐車している被告車両を二二・三m手前で発見し、一三・六m手前の地点で、危険を感じて原告車両のブレーキをかけたが、原告車両がバランスを崩し、転倒滑走して被告車両の後部左側に衝突した、とされている。この距離は、原告が、事故当時の記憶に基づいて、おおよその位置関係を指示説明し、これを警察官が計測したものである。

(二)  以上の事実によれば、本件事故は、駐車中の被告車両を約二二m先に発見した原告が、これとの衝突を回避しようとして原告車両のブレーキをかけた際、雨で路面が滑りやすくなっていたこともあって、原告車両がバランスを崩して転倒滑走した結果、発生したものであり、第一次的には、原告の不適切な運転操作によるものである。原告は、時速約三〇kmで走行していたものであり、被告車両を発見後、適切な減速措置とハンドル操作をとっていれば、被告車両との衝突を回避することができたと考えられる。

(三)  他方、道路交通法四五条一項は、車両は、道路標識等により駐車が禁止されている道路の部分等においては駐車してはならないと規定し、また、同法五二条一項、同法施行令一八条は、車両が夜間道路に在るときは、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならないと規定している。しかし、以上に認定したとおり、被告黒澤は、本件事故当時、駐車禁止規制のされている町田街道のバイパス道路に、夜間、非常点滅表示灯、尾灯その他の灯火をつけることなく、被告車両を駐車させていたものである。そして、本件道路では、街路樹に遮られて街路灯は道路全面を照射しておらず、被告車両が駐車していた辺りは、薄暗い状況であった(乙一・一五丁の写真参照)。また、被告車両は白と茶のツートンカラーであるが、夜間、駐車中の被告車両を後方から認識することは、必ずしも容易とはいえない(乙一・二一丁の写真参照)。加えて、本件事故当時は、本件事故現場付近は、少し強めの雨が降っており、視界が相当悪くなっていた。

このように、夜間、しかも、降雨により視界が相当悪くなっていた時に、非常点滅表示灯、尾灯等の灯火を全くつけることなく、薄暗い路上に違法に車両を駐車させることは、他車両の通行の危険を招来する行為であって、原動機付自転車を運転して道路の左端を走行してきた原告が、被告車両との衝突を避けようとして転倒した本件事故の発生については、被告黒澤の側にも少なからぬ責任がある。

(四)  したがって、被告黒澤には、民法七〇九条、自賠法三条に基づき、本件事故により原告に発生した損害を賠償する責任がある。Yらの免責の抗弁は、理由がない。そして、以上に認定した事実を総合すると、双方の過失割合は、原告六五:被告黒澤三五と認めるのが相当である。

二  原告の損害額について

(一)  治療関係費 合計三三万八五〇〇円

(1) 治療費 二二万三九四〇円

甲八によれば、原告は、治療費として、多摩丘陵病院に一五万八一四〇円、こぶち整形外科クリニックに五万四二一〇円、日本医科大学付属多摩永山病院に少なくとも一万一五九〇円の合計二二万三九四〇円を支払ったことが認められる。これに対し、町田市民病院における治療については、本件事故との相当因果関係を認めるに足りる証拠はない。

(2) 装具代 四万五五二〇円

甲八によれば、原告は、仙骨骨折により骨盤帯(軟性)の装用を必要と診断され、装具代として四万五五二〇円を支払ったことが認められる。

(3) 入院雑費 三万二五〇〇円

入院雑費としては一日一三〇〇円が相当であるから、入院二五日間の入院雑費は三万二五〇〇円となる。

(4) 通院交通費 三万六五四〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、こぶち整形外科クリニックに通院するために片道二一〇円の通院交通費を要したことが認められる(日本医科大学付属多摩永山病院への通院に要した交通費は、証拠上明らかではない。)。したがって、通院交通費としては、次のとおり三万六五四〇円を認める。

(二一〇円×二)×八七日=三万六五四〇円

(二)  入通院慰謝料 一三〇万〇〇〇〇円

入院二五日、通院五か月余り(通院実日数九七日)の治療を要する傷害に対する慰謝料としては、一三〇万円を相当と認める。

(三)  後遺症慰謝料 五五〇万〇〇〇〇円

併合一一級の後遺障害に対する慰謝料としては、後記の外貌の醜状障害を慰謝料の加算事由として評価した分を含めて、五五〇万円を相当と認める。

(四)  後遺障害による逸失利益 八三六万六一一七円

原告は、平成一二年二月一四日に症状固定し(当時一七歳)、自算会から、顔面挫創による外貌の醜状障害(後遺障害等級一二級一四号)、仙骨骨折に伴う骨盤骨の変形障害(同一二級五号)の後遺障害の認定を受けた。そして、原告本人尋問の際に当裁判所が直接見分したところによれば、現在では、顔面の傷痕はさほど目立たなくなっており、これが原告の労働能力に直接的な影響を及ぼすことはないものと考えられる。ただし、傷痕の部位、原告の年齢、原告が就労前であること等を考慮すると、これを後遺症慰謝料の加算事由として評価するのが相当であるから、前記のとおり、後遺症慰謝料として合計五五〇万円を認めることとした。

そうすると、原告については、仙骨骨折に伴う骨盤骨の変形障害により一四%の労働能力を喪失したものとして、本件事故に遭わなければ稼働し得たと考えられる一八歳から六七歳までの四九年間について逸失利益を算定するのが相当である。そして、平成一一年賃金センサスによる女子労働者の学歴計・全年齢平均賃金三四五万三五〇〇円を基礎収入として逸失利益を算定すると、次のとおり八三六万六一一七円となる(円未満切り捨て。以下同じ。)。なお、症状固定時点の現価を算定するため、ライプニッツ係数は、五〇年の係数から一年の係数を控除したものを使用した。

三四五万三五〇〇円×〇・一四×(一八・二五五九-〇・九五二三)=八三六万六一一七円

(五)  小計 一五五〇万四六一七円

(六)  過失相殺

前記の過失割合に従い、過失相殺として、(五)の損害額から六五%を控除すると、残額は五四二万六六一五円となる。

一五五〇万四六一七円×(一-〇・六五)=五四二万六六一五円

(七)  損害の填補

損害の填補として、既払の自賠責保険金三二七万七〇〇〇円を控除すると、残額は二一四万九六一五円となる。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告らに対し(被告三井住友海上に対しては、原告の被告黒澤に対する判決が確定することを条件として)、各自、二一四万九六一五円及びこれに対する本件事故の後である平成一二年四月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容することとし、その余は失当として棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 河邉義典)

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