東京地方裁判所 平成13年(ワ)13353号 判決 2003年1月20日
原告
ワイティシーインターナショナル株式会社
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁護士
関沢正彦
被告
株式会社三井住友銀行
代表者代表取締役
B
訴訟代理人弁護士
海老原元彦
竹内洋
馬瀬隆之
谷健太郎
野崎竜一
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は、原告に対し、金一四六七万八〇五四円及び内金四二四万六六八五円に対する平成一三年三月九日から、内金三九六万五六九三円に対する平成一三年三月一六日から、内金六四六万五六七六円に対する平成一三年三月二三日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、外国への送金を依頼したところ、被告が、外国送金の際に利用する書面の記載内容を確認する義務を怠った上、送金後に送金先及び送金内容等を報告する義務も怠るなどしたため、受取人以外の者へ現金が送金され、送金資金として原告の普通預金口座から引き落とされた金員相当額の損害を被ったと主張して、その損害の賠償を求める事案である。
1 争いのない事実等(末尾に認定の根拠の記載のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、海外から水産物を輸入する株式会社であり、被告は、銀行法にいう銀行である。
(2) 原告は、被告(当時の商号は株式会社住友銀行)に対し、平成二年五月一八日付で銀行取引約定書(≪証拠省略≫)を、同年六月一四日付で外国為替関係決済資金振替依頼書(≪証拠省略≫)及び外国関係手数料等引落依頼書(≪証拠省略≫)を差し入れ、このころから、被告築地支店に対し、外国への送金手続を依頼することを開始した。
(3) 被告における外国送金手続においては、外国送金依頼書兼告知書(以下「外国送金依頼書」という。)、支払等報告書、仕向外国送金処理要項書(以下「要項書」という。)、外国送金依頼書(告知書)控兼計算書(以下「外国送金依頼書控」という。)及び外国送金依頼書兼告知書控等がとじられた書類(以下「本件書類」という。)を使用している。本件書類はカーボン複写式でとじられているため、本件書類の一番上にとじられている外国送金依頼書に、送金外貨額、受取人等の必要事項の記載をすれば、外国送金依頼書控、外国送金依頼書兼告知書控等の書類にも、外国送金依頼書と同内容の記載がなされる仕組みとなっている(≪証拠省略≫)。
(4)ア 被告は、外国送金委託事務について、外国送金取引規定(以下「本件規定」という。)を定めており、本件規定には、以下の条項が含まれている(≪証拠省略≫)。
(ア) 送金の依頼の際には、被告所定の外国送金依頼書を使用し、送金の種類、支払方法、受取人取引銀行名・店舗名、受取人名、受取人口座番号又は受取人の住所・電話番号、送金金額、依頼人名、依頼人の住所・電話番号、関係銀行手数料の負担者区分など被告所定の事項を正確に記入し、署名又は記名押印の上提出する(本件規定三条一項二号)。
(イ) 被告は、外国送金依頼書に記載された事項を依頼内容として扱う(本件規定三条一項三号)。
(ウ) 送金委託契約は、被告が送金の依頼を承諾し、送金資金等を受領したときに成立する(本件規定四条一項)。
(エ) 送金委託契約が成立したときは、被告は、その契約内容に関して、送金依頼をした者に対し、外国送金計算書等を交付する(本件規定四条二項)。
(オ) 受取人名相違等の送金依頼人の責めに帰すべき事由により生じた損害については、被告は責任を負わない(本件規定一三条四号)。
イ また、原告は、被告に対し、平成一二年六月五日付で「外国送金に関する依頼書(電話による依頼・明細ファクシミリ方式)」と題する書面(≪証拠省略≫。以下「外国送金に関する依頼書」という。)を差し入れている。
その冒頭には、「当方から貴行に対し、外国送金の依頼を電話によって行い、その明細をファクシミリによって伝送するときは、下記のとおり行いますので、その節は当方が別に指定した口座から送金資金および関係諸手数料を引落(または払出)して送金手続をして下さい。この取扱によって万一事故がおこりましても、当方においてその責を負い、貴行にはご迷惑、ご損害はかけません。」と記載され、その下に、「1.電話による外国送金の依頼は、当方があらかじめ通知した責任者から、貴行の責任者に対して、依頼番号、件数および通貨別金額を電話により通知することによって行い、その後直ちに、送金明細(所定の外国送金依頼書)をファクシミリにより伝送します。」、「2.署名(または記名押印)済外国送金依頼書は、「FAX送信済分」と記載して、外国為替管理法令上必要な届出受理証、報告書等とともに、即刻貴行にお届け致します。」との記載がなされている(≪証拠省略≫)。
なお、原告は、被告に対し、原告代表者代表取締役および原告取締役を原告の責任者として通知している(≪証拠省略≫)。
(5) 原告は、被告に対し、平成二年六月ころ以降、継続して、外国への送金手続の依頼を行ってきたが、その際の手続は以下のように変化した。
ア 送金依頼開始時から平成一二年六月二二日までは、原告が独自に作成した外国への送金を依頼する日本円相当額、送金先を記載してある依頼書(以下「取次依頼メモ」という。)を被告築地支店にファクシミリにより送信し、被告築地支店において、原告が記名押印してあらかじめ交付しておいた本件書類中の外国送金依頼書の送金外貨額欄に、原告が送金依頼をした日本円相当額を当日の為替レートに応じて米ドル相当額に換算して記載し、原告の普通預金口座から送金額相当額の日本円が引き落とされた後、送金手続を行う方法で、外国への送金が行われていた。なお、本件書類には、あらかじめ被告銀行築地支店によって、送金先及びその口座番号等が印字されており、被告築地支店において、原告からの送金依頼のたびに、原告の依頼した受取人あての本件書類を選んで使用していた。
そして、送金後は、被告築地支店から原告に対し送金先、送金外貨額等の送金内容が電話で連絡され、また、本件書類の中の受取人及び送金外貨額が記載されている外国送金依頼書控、並びに、送金外貨額及び実際に原告の普通預金口座から引き落とされる日本円の額の記載された外国関係計算書が郵送されていた。
イ 平成一二年六月二九日から同年七月一三日の間は、取次依頼メモをファクシミリで送信するのではなく、被告から交付された「外国送金の取次に関する依頼書」(以下「取次依頼書」という。≪証拠省略≫)をファクシミリで送信する方法に変更された。
取次依頼書には、冒頭に、「本日、私が別に貴行に対して外国送金の取次を依頼した□(空欄)を受取人とする外国送金依頼書の「送金外貨額」の記入をしませんが、下記のとおり取り扱ってください。」と記載され、その下に、「1「送金外貨額」を次のとおりとします。」と記載され、送金する円貨額及び送金する外国通貨名を記載する欄が設けられている。また、取次依頼書の2では、「私は、この取扱を貴行に依頼するに際し、外国送金依頼書裏面の外国送金依頼条項に従うほか、次の各項を確約します。」との記載がされている。また、取次依頼書2(2)には、「「送金外貨額」は、貴行が決定した送金実行日における貴行所定の外国為替相場(電信売相場)を適用して貴行所定の方法によって換算して下さい。」、(3)には、「私がこの依頼をした日から貴行が決定する送金実行日までに、外国為替相場の変動があることを承知し、貴行が決定した「送金外貨額」について異議を述べません。」との記載がある(≪証拠省略≫)。
原告は、送金を依頼する際には、取次依頼書の空欄となっている日付、受取人欄、送金する円貨額及び外国通貨名を記載し、所定欄に記名押印したものを被告築地支店にファクシミリで送信したが、その余の手続は前記ア同様の方法で行われており、送金後の電話連絡、並びに外国送金依頼書控及び外国関係計算書の送付も同様に行われていた。
ウ 平成一二年七月二一日以降、原告の外国送金依頼の取扱いは、被告の東京外為事務部に移管され、その際、被告築地支店が保管していた原告の記名押印済みの本件書類は全て原告に返却された。なお、原告に返却された原告の記名押印済みの本件書類中、外国送金依頼書中の定例送金登録番号、受取人、受取人取引銀行、ご依頼人及び仕向先銀行の欄は既に被告において印字され、また、送金種類、送金方法及び支払銀行手数料の欄にはチェックがなされており、その後も、被告新橋支店においてこれらの欄に印字等されたものが原告に交付され、原告は交付された本件書類を使用して、被告に対し外国送金の依頼を行っていた(≪証拠省略≫、証人C(以下「C」という。)、証人D(以下「D」という。)、原告代表者)。
そして、外国への送金は、原告が、取次依頼書、本件書類中の外国送金依頼書及び要項書(≪証拠省略≫)を被告東京外為事務部にファクシミリで送信し、その際、原告代表者が、被告の担当者に対し前記書類をファクシミリで送信したことを電話で伝える方法により送金を依頼することになった。ただ、原告が送金を依頼する段階では、その日の外国送金に適用される為替レートが確定していないことから、原告は、外国送金依頼書の送金外貨額欄を空欄にしたままファクシミリで前記書類を送信し、被告東京外為事務部において、担当者が、取次依頼書に記載された円貨額を外国通貨の額に換算し、外国送金依頼書の空欄とされている送金外貨額欄に記載して、原告の普通預金口座から送金資金を引き落とし、送金を行っていた(≪証拠省略≫、証人D、原告代表者)。
なお、送金後、原告は、被告東京外為事務部に対し、本件書類すべてを郵送していた。また、送金後、原告に対して送金をした旨の電話連絡は特になされず、被告からは外国関係計算書のみが返送されるようになり、外国送金依頼書控の送付はされなくなった(≪証拠省略≫、証人D、原告代表者)。
(6) 原告は、被告東京外為事務部に対し、平成一三年三月八日、受取人欄にヤナギタトレーディングカンパニー(以下「ヤナギタ」という。)、送金する円貨額を四二七万〇四九〇円、外国通貨名を米ドルと記載した取次依頼書を、外国送金依頼書及び要項書とともにファクシミリで送信し、送金を依頼した。しかし、この際、原告がファクシミリで送信した外国送金依頼書の受取人欄がイーストオーシャンフードカンパニー(以下「イーストオーシャン」という。)とされ、受取人口座番号がイーストオーシャンの口座の番号になっていたため、取次依頼書に記載されたヤナギタではなく外国送金依頼書に記載されたイーストオーシャンに四二七万〇四九〇円相当の米ドルが送金され、その際、送金された米ドル相当額の四二四万六六八五円が原告の普通預金口座から引き落とされた(なお、原告が取次依頼書に記載した額四二七万〇四九〇円と、実際に原告の普通預金口座から引き落とされた額四二四万六六八五円とが異なるのは、原、被告間の契約上、原告が取次依頼書に記載した額を米ドルに換算する際に適用される為替レートと、送金する米ドル額を実際に原告の普通預金口座から引き落とす円貨額に換算する際に適用される為替レートとが異なることによる。)。
さらに、同月一五日、同月二二日にも、同様に、原告が取次依頼書にヤナギタを受取人として記載したが、外国送金依頼書にイーストオーシャンが受取人として記載されていたためイーストオーシャンに対し送金がなされ、同月一五日には三九六万五六九三円、同月二二日には六四六万五六七六円の合計一四六七万八〇五四円が原告の普通預金口座から引き落とされた(以下これら三回の送金を併せて「本件各送金」という。)。
(7) 被告は、本件各送金後、原告に対し、外国関係計算書をファクシミリで送信した(≪証拠省略≫、証人D、原告代表者)。
(8) その後、原告は、ヤナギタに送金がなされていないことを知り、平成一三年四月一〇日、被告に対し本件各送金の組戻しの依頼をしたが、結局、イーストオーシャンに送金された金銭は回収できなかった(≪証拠省略≫、原告代表者)。
2 当事者の主張
(1) 原告
ア 確認義務違反
被告は、外国送金受任者として、善良な管理者としての注意義務をもって受任事務を処理しなければならず、被告所定の取次依頼書及び外国送金依頼書に基づいて外国送金手続を行う規定となっている以上、被告は、受任者として取次依頼書及び外国送金依頼書の各受取人の記載に相違がないかどうかを確認する義務があり、双方の受取人の名前が相違している場合には、委任者である原告に対し、いずれの受取人に対する送金を依頼するのかを確認すべき義務を負う。しかし、被告はこの義務に違反し、確認を怠ったため、原告の普通預金口座から送金資金が引き落とされ本件各送金がなされたものである。
イ 報告義務違反
被告は、受任者として、送金事務を行った場合には、遅滞なく送金内容を原告に報告すべき義務がある。本件において、本件書類は、カーボン複写式になっており、外国送金依頼書控は、その書式上、原告に返還されることが予定されており、また、被告築地支店において送金の依頼がされていた際は、外国関係計算書とともに外国送金依頼書控が返送されていたのであり、原告は、このことを前提に被告に対し本件書類原本を取次依頼書原本とともに郵送していたのであるから、被告は、送金後、外国送金依頼書控を送付して、送金結果を遅滞なく原告に報告する義務があった。また、被告築地支店において送金が行われていた際は、送金後、被告築地支店から原告に対し、電話で、送金先及び送金金額について電話で報告がなされており、被告東京外為事務部移管後も、被告は、送金後電話で送金先及び送金金額について報告する義務を負っていた。
しかし、被告はその義務を怠り、外国送金依頼書を送付しただけで、外国送金依頼書控を送付して送金先の報告をせず、また、電話による報告もしなかった。遅滞なくこの報告がなされていれば、度重なる誤送金は生じず、損害が拡大することはなかったことはもとより、イーストオーシャンからの送金した金銭の回収も容易になし得た可能性がある。
ウ 送金依頼方法における注意義務違反
原告は、被告に対し、双方の責任者を決めて、責任者同士による電話での送金依頼を行い、その後ファクシミリによる送金明細(外国送金依頼書)を送信する方法により送金を行う旨取り決めた外国送金に関する依頼書を提出しており、その記載上、送金明細については、被告が受信した内容に従って取り扱われて差し支えない旨の記載があった。したがって、この外国送金に関する依頼書による送金依頼方法においては、送金依頼者が外国送金依頼書を自ら作成して、電話及びファクシミリで送金を依頼することになるのであり、専ら外国送金依頼書の記載内容が重要となる。このように、外国送金依頼書の記載内容が重要となる以上、外国送金に関する依頼書に記載された方法による送金依頼方法においては、送金外貨額についても顧客自らが記載できる方法、すなわち、送金外貨額が確定し、それを相互に確認して送金手続を行う方法が予定されていたというべきである。したがって、このような送金依頼方法を採用するなら、被告は、原告に対し、送金外貨欄も含め外国送金依頼書の内容を原告自身が記入し作成するように指導し、取次依頼書等を使用させないようにするべきであった。
ところが、実際は、原告が、被告に対し前記書類をファクシミリで送信し、その旨電話で連絡する際は、当日分の外貨に換算する際の為替レートが決定されていないため、外国送金依頼書の送金外貨額欄の記載をすることができないことから、取次依頼書の作成を原告が行い、外国送金依頼書には、原告の記名押印だけをして、外国送金依頼書の内容を被告が記載しするという方法が採られ、そのため、原告は、誰にいついくら送金されたものか、手元に資料が残らなかった。
その結果、被告東京外為事務部において送金事務を担当した者は、原告の手元に送金資料が残らないこと、したがって、送金後速やかに送金の内容を原告に知らせなくてはならないことを理解していたはずであるのに対し、被告の直接の送金担当者以外の者は、電話・FAX機扱いのスタンプが押されていることから、原告からの電話依頼による送金依頼がされ、その後原告により全て記載された外国送金依頼書に基づいた送金であると認識するはずであるから、当該作成者の手元にあるはずの外国送金依頼書により送金内容を確認することができると考えるため、原告への送金内容の報告は不要であると考えていた可能性があり、その結果、原告への送金の報告がなされなかったものである。
このように、外国送金に関する依頼書に記載された電話及びファクシミリにより送金を依頼する方法は、送金外貨額が確定している場合が予定されており、その際は、送金外貨欄を含めて顧客が全て作成した外国送金依頼書のみを使用させるべきであったにもかかわらず、送金外貨額が確定していない状態で取次依頼書を使用し、外国送金依頼書の実質的内容を被告が作成するという欠陥のある送金依頼方法を顧客に使用することを強要し、外国送金手続を受任していた被告は、送金委託契約上受任業務を遂行するための注意義務を著しく欠いているものというべきであり、その欠陥により生じた顧客の損害を賠償する義務がある。
エ 引落しにおける注意義務違反
被告は、取次依頼書と外国送金依頼書の受取人欄が異なる場合には、原告の普通預金口座から送金資金を引き落とす際、原告に対し預金の引落しを行ってよいかどうかを確認する送金契約上の義務を負っていたにもかかわらず、この確認を怠り、原告の普通預金口座から送金資金の引落しを行った。
オ 損害
原告は、被告の前記アないしエの義務違反の結果、本件各送金の際、原告の普通預金口座から、前記のとおり、平成一三年三月八日に四二四万六六八五円、同月一五日に三九六万五六九三円、及び同月二二日に六四六万五六七六円をそれぞれ引き落とされ、この引落額合計一四六七万八〇五四円の損害を被った。
なお、原告は、本件各送金によってヤナギタに支払われるはずであった金銭相当額を、後にヤナギタに支払っている。
カ 被告の主張カは争う。
本件においては、取次依頼書及び外国送金依頼書の両者があいまって送金内容を確定するものとなっており、両者の受取人の記載が異なる場合には、いずれが原告の依頼の内容であるか確定しない以上、本件規定三条一項三号の適用はない。
また、被告は、本件規定一三条四号の免責規定の適用を主張するが、被告に過失がある場合にまで免責の効力が認められるものと解するべきではなく、前記のとおりの確認義務違反及び報告義務違反が認められることからすれば、被告は、本件規定一三条四号によって免責されない。
キ 被告の主張キは争う。
原告は、取次依頼書の空欄となっている受取人欄及び送金する円貨額の記載さえ正確に行えば、この記載どおりに送金がなされるものと考えて被告に対し送金依頼を行ったものであり、外国送金依頼書及び取次依頼書の二通の書類の作成を要請したこと自体、被告の過失である。
ク よって、原告は、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償一四六七万八〇五四円及び内四二四万六六八五円に対する請求の後である平成一三年三月九日から、内三九六万五六九三円に対する請求の後である平成一三年三月一六日から、内六四六万五六七六円に対する請求の後である平成一三年三月二三日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告
ア 原告の主張アは争う。
原告は、一一年間にわたり輸入貿易の経験があり、その月商は八〇〇〇万円から一億円にも上っているのであり、被告による送金も、被告東京外為事務部移管後だけで三三回、四四件にも上っていた。このように経験豊かな原告が、外国送金依頼書を取り違えて使用するということは、被告にとって予測不能の事態であり、依頼件数が一件の場合には外国送金依頼書と取次依頼書に記載された受取人名が一致することを確認しないという取扱いも是認されるというべきである。
イ 原告の主張イは争う。
本件規定には、送金委託契約の内容に関して外国送金計算書等を交付する旨の規定があるところ、この外国送金計算書等とは、外国関係計算書のことであり、被告東京外為事務部は、原告に対し、送金処理をしたその日の夕方には外国関係計算書をファクシミリで送信しているから、報告義務を履行している。
また、本件規定には、外国送金依頼書控や外国送金依頼書兼告知書控を交付する旨の規定はないから、被告は、これらの書類を送付する契約上の義務を負わない。外国送金依頼書控は、右下に印紙貼付欄があるように、印紙を貼付して顧客に交付することが予定されたものであり、顧客に外国関係計算書を交付しない場合、顧客から領収書を要求された場合に使用することを予定しているものにすぎず、また、外国送金依頼書兼告知書控は、外国関係計算書を交付する顧客用の控えとして用意されたものであり、顧客側でこれを抜き取り控えとして保管することを予定する書類にすぎない。
さらに、外国送金に関する依頼書では、署名又は記名押印済外国送金依頼書をFAX送信済分と記載して被告に届け出ることとされていたが、外国送金依頼書兼告知書控及び外国送金依頼書控等を送付することは予定されていないのであるから、原告がこれらの書類を送付する必要はないのであり、原告がこれらの書類を被告に送付したことがあったとしても、被告はこれらの書類を返送する法律上の義務を負うことはない。なお、被告築地支店において、原告に対し、外国送金依頼書控を返送していたのは、被告築地支店が、原告の記名押印済の本件書類を保管するという異例の扱いをしていたため、原告側に控えが何も残らない状態であったから、便宜上外国送金依頼書控を郵送していたにすぎず、外国送金依頼書兼告知書控が原告のような定例送金顧客が自らの控えとして保管しておくための書類である。
実際にも、原告の主張する電話での送金の報告について、送金先が原告の意図と異なることがわかるためには、送金実行直後に送金先まで復唱する必要があるが、本件各送金のように、一回につき一件の送金依頼しかないような場合にまでそのような義務を負うとするのは失当であるし、原告が、被告に対して送付した外国送金依頼書控を再送付する義務があるとの主張についても、原告は、東京税関による定期的な監査に備えて外国送金依頼書を保管していたにすぎないから、原告が外国送金依頼書の送付を受けても直ちにこれを点検し、送金先が原告の意図と異なることに気付いたとは到底考えられない。また、原告が、被告からの電話又は外国送金依頼書控の送付による報告があれば、イーストオーシャンから送金した金銭を取り戻すことができた旨主張するとしても、これが可能であったという証拠は全くない。
ウ 原告の主張ウは争う。
原、被告間の送金委託契約において、取次依頼書を使用していたのは、原告が取次依頼書の使用を強く求めたからである。すなわち、Dが、原告に対し、平成一二年七月に原告との送金事務が被告東京外為事務部に移管された後の二回目又は三回目の送金依頼(同月二七日又は同年八月三日)の際に、原告代表者に対し、外国送金依頼書の右上の余白に○○○円相当の米ドルと記載すれば、取次依頼書をファクシミリで送信する必要はない旨申し入れたにもかかわらず、原告代表者がこれを拒否したために、取次依頼書を使用し続けることとなったのである。したがって、本件のような問題が生じたのは、原告が取次依頼書を使用することに固執したことに原因があり、取次依頼書及び外国送金依頼書を共に使用するという送金依頼方法について問題があるのではない。
また、本件各送金以前に、被告は、原告から、四四件の外国送金の依頼を受けているが、本件以外特段問題は発生しておらず、原告が外国送金依頼書を取り違えさえしなければ、何ら問題が生じなかったのであるから、送金依頼方法自体には何の問題もない。
エ 原告の主張エは争う。
オ 原告の主張オは争う。
原告は、被告は本件各送金の送金資金を原告の普通預金口座から引き落としていること自体が損害である旨主張するが、原告が本件各送金後にヤナギタに実際に支払った金額が損害というべきである。そして、原告が、ヤナギタに対し、本件各送金によって送金された金額相当額の金銭を後にヤナギタに支払ったとの立証は不十分であり、原告の主張する額の損害が発生したとはいえない。
カ 本件各送金に関し、取次依頼書にはヤナギタを受取人とする旨記載されているが、取次依頼書は、確定円貨額を記載して送金する外貨額を通知するための書類にすぎず、前記1、(4)、ア、(ア)、(イ)のとおり、原、被告間の外国送金委託においては、外国送金依頼書に記載された事項が依頼内容とされ、被告は、外国送金依頼書に記載されたイーストオーシャンに送金を行っているのであるから、何ら責任を負わない。
また、本件規定一三条四号には、受取人名相違等の送金依頼人の責めに帰すべき事由により生じた損害については、被告が責任を負わない旨規定されており、本件各送金は、原告が、ヤナギタを受取人とする意図であるにもかかわらず、自らの責めに帰すべき事由によりイーストオーシャンを受取人として送金依頼を行ったものであるから、被告は、本件規定に基づき、原告に生じた損害について責任を負わない。
キ 過失相殺
仮に被告に何らかの過失があり、原告に対し損害賠償義務を負担するとしても、以下の事情に照らすと、原告には重大な過失があるから、過失相殺がなされるべきである。
(ア) 本件各送金がヤナギタではなくイーストオーシャンになされたのは、原告が外国送金依頼書を取り違えたことにあり、これが直接的かつ最大の原因である。
(イ) 原告は、一一年間にわたり輸入貿易に従事し、月商八〇〇〇万円から一億円も上げており、外国送金は数え切れないくらい経験しているはずであり、被告東京外為事務部移管後に限定しても三三回、四四件の経験があり、自己の責任と判断において外国送金手続を行うことが期待される法人である。
(ウ) 外国送金依頼書のほかに取次依頼書を使用していたのは、原告がこの方法に固執したためである。
(エ) 原告の手元には、外国送金依頼書のコピーが残されており、いつでも受取人欄の記載が原告の認識と異なることに容易に気付く状況にあったし、三回も外国送金依頼書を取り違えるというのは著しく不注意である。
しかも、本件各送金の直後の平成一三年三月二九日の送金依頼の際にも、原告は、本件各送金の際と同様に外国送金依頼書を取り違えたが、被告担当者が取次依頼書と外国送金依頼書の受取人欄の相違に気づき、問題は生じなかったということがあり、原告としては、本件各送金がヤナギタに対してなされていないことに気付くべきであった。
3 争点
(1) 本件各送金に当たって、被告に義務違反があったか否か。
(2) 原告の被った損害の額。
(3) 過失相殺の可否。
第3争点に対する判断
1 確認義務違反について
(1) 原告は、被告が、受任者として取次依頼書及び外国送金依頼書の各受取人の記載に相違がないかどうかを確認する義務があり、双方の受取人の名前が相違している場合には、委任者である原告に対し、いずれの受取人に対する送金を依頼するのかを確認すべき義務を負うにもかかわらず、これに違反した旨主張する。
そして、被告東京外為事務部の担当者であるDは、本件各送金の際、取次依頼書の受取人欄と外国送金依頼書の受取人欄の記載が一致しているか否か確認をせず、本件各送金についてその不一致に気付かなかったことが認められる(≪証拠省略≫、証人D)。
(2)ア しかし、前判示のとおり、被告は外国送金受託事務について本件規定を定めているところ、その一条には、外国送金依頼書による外国向送金取引は、本件規定により取り扱われる旨規定されている上、原告が被告に送信した外国送金依頼書中右上の依頼人の署名又は記名押印をする部分にも、被告所定の本件規定により送金の取組みを依頼する旨記載されており(≪証拠省略≫)、取次依頼書の2において、「私は、この取扱を貴行に依頼するに際し、外国送金依頼書裏面の外国送金依頼条項に従うほか、次の各項を確約します。」と記載され、外国送金委託事務は本件規定に従って行われることが確認されていることに照らせば、原、被告間の本件各送金に係る送金事務委託契約(以下「本件送金委託契約」という。)においても本件規定が適用されるべきことが合意されていたものと認められる。
そして、本件規定には、被告が外国送金依頼書に記載された事項を依頼内容として取り扱うべき旨が定められ(三条一項三号)、原告は、被告所定の送金依頼書を使用し、受取人名など被告所定の事項を正確に記載すべき旨が定められていること(三条一項二号)からすれば、原、被告間の本件送金委託契約においては、被告は、外国送金依頼書に記載された受取人に対し送金する契約上の債務を負う一方、外国送金依頼書に記載された受取人に対し送金を行えば、その債務を履行したものとして、その不履行の責めを免れる旨の合意がされていたものというべきである。
イ もっとも、本件各送金の際、原告から被告に対し、取次依頼書が送信されたことは前判示のとおりである。
しかし、前判示のとおり、取次依頼書にも、外国送金委託事務が本件規定に従って行われるべき旨が記載されている一方、本件規定には、取次依頼書に関する定めはない。
そして、取次依頼書は、本件各送金当時、原告には外国送金依頼書の送信時の為替レートが不明であり自ら記入できないため、送金外貨額を空欄としたままの外国送金依頼書が送信される場合、これとともに送金する円貨額と外国通貨名を記入してファクシミリで送信されていたものであり、取次依頼書には、「本日、私が別に貴行に対して外国送金の取次を依頼した□(空欄)を受取人とする外国送金依頼書の「送金外貨額」の記入をしませんが、下記のとおり取り扱って下さい。」と記載され、かつ、「1「送金外貨額」を次のとおりとします。」と記載された上、送金する円貨額及び送金する外国通貨名を記載する欄が設けられ、さらに、円貨額の換算に関する記載がされており、これらの記載は、外国送金依頼書で空欄とされた送金外貨額欄の内容を補充するものとなっていることを考え併せると、取次依頼書は、原、被告間の送金委託契約において、依頼内容とされる外国送金依頼書の内容のうち、送金外貨額の内容を補充して定めるものにすぎず、外国送金依頼書の送金外貨額欄の記載を補充する限りで本件送金委託契約の内容を成すにすぎないと解するのが相当である。
したがって、取次依頼書の記載事項中、送金外貨額以外の事項に関する記載は本件送金委託契約の内容を成すものではないというべきである。
ウ 以上によれば、原、被告間の本件送金委託契約においては、被告は、取次依頼書の受取人欄の記載内容にかかわらず、外国送金依頼書に記載された受取人に対し送金すべき債務を負い、外国送金依頼書の記載に従って送金事務を行えば足りるものと認められるから、それ以上に、取次依頼書の受取人欄と外国送金依頼書の受取人欄とが一致するか否かを確認する契約上の義務を負うものと認めることはできない。
そして、本件各送金においては、被告は、取次依頼書に記載された円貨額を為替レートにしたがって米ドルに換算し、この取次依頼書とともにファクシミリで送信された外国送金依頼書に記載し、その上で、外国送金依頼書の記載内容に従い送金を行っていることが認められる。
エ 原告は、本件においては、取次依頼書及び外国送金依頼書の両者があいまって送金内容を確定するものとなっており、両者の受取人の記載が異なる場合には、いずれが原告の依頼の内容であるか確定しない以上、本件各送金においては本件規定三条一項三号の適用はない旨、取次依頼書は被告の指定した書式であり、受取人及び送金外貨額の確定方法を記載することになっており、原告は、被告に対し、ヤナギタ及びイーストオーシャンの両者へ同時に送金を依頼することも多かったのであるから、取次依頼書の受取人欄及び送金金額の記載のいずれも送金委託契約上重要な意味を持っていたのであり、取次依頼書と送金依頼書があいまって送金依頼書の内容となっていたものであるから、取次依頼書が外国送金依頼書の送金外貨額欄の補充のための書類であるということはない旨主張する。
しかし、原告の前記各主張は、アないしウ判示の点に照らしいずれも採用できないことが明らかである。
なお、一度の機会に複数の送金依頼がなされ、複数の取次依頼書及び外国送金依頼書がファクシミリで送信されるような場合には、取次依頼書と外国送金依頼書の対応関係を確認するために、取次依頼書及び外国送金依頼書の受取人欄を対比する必要が生じることが考え得る。
しかし、これは、本件送金委託契約において、被告は、取次依頼書に記載された確定円貨額を米ドルに換算して外国送金依頼書記載の受取人に送金すべき義務を負っているところ、取次依頼書及び外国送金依頼書がそれぞれ複数ファクシミリで同時に送信された場合、いずれの取次依頼書がいずれの外国送金依頼書の送金外貨額欄の補充を指示しているかという対応関係が直ちに判別できないため、本件送金委託契約上の義務を履行するためには、取次依頼書と外国送金依頼書の受取人欄を対比せざるを得ないことによるものにすぎず、したがって、送金依頼が一件であり、取次依頼書の指示の対象となる外国送金依頼書がどれであるかという対応関係が明らかであるような場合にまで、被告が取次依頼書に記載された受取人の記載と外国送金依頼書に記載された受取人の記載とが相違しないか確認する契約上の義務を負うと解することはできない。
2 報告義務違反について
(1) 原告は、本件送金委託契約上、送金後、電話で送金内容を連絡し、外国送金依頼書控を送付して、送金内容を報告する義務を負う旨主張する。
そして、本件規定四条二項には、「前項により送金委託契約が成立したときは、当行は、その契約内容に関して、外国送金計算書等を交付し、送金小切手の場合には、併せて送金小切手を交付します。」と定められていること、原告の外国送金手続が被告築地支店で取り扱われていたときは、外国送金依頼書控の送付及び電話連絡がなされていたこと、外国送金依頼書控の左下部には、「毎度お引立に預りありがとうございます。ご送金の明細は上記のとおりでございます。」と記載されていること(≪証拠省略≫)、被告は、本件各送金後、原告に対し、電話による送金内容の連絡及び外国送金依頼書控の送付をいずれも行っていないことが認められる。
(2)ア しかし、本件規定が被告が原告に対し交付すべき旨を定めるのは「外国送金計算書」等であるところ、被告は、原告に対し、本件各送金後、各外国関係計算書をファクシミリで送信したことは前判示のとおりである。そして、被告東京外為事務部に原告の依頼する送金手続の事務が移管された後、本件各送金まで、約九か月間にわたり、少なくとも三三回四四件の送金(≪証拠省略≫)について送金後、被告から原告に対し、外国関係計算書がファクシミリで送信されるのみであり、外国送金依頼書控は送付されていなかったが、原告は、この間、被告に対し多数回にわたる送金を委託し続けていたことが認められる(≪証拠省略≫、証人D、原告代表者)。
イ 本件規定中に、送金後、被告が原告に対し電話連絡をする義務を定めた規定は存在せず、被告東京外為事務部へ原告の外国送金依頼手続が移管された後、送金後の電話による送金先等の送金内容の連絡はなされていない(≪証拠省略≫、証人D、原告代表者)。
ウ 確かに、原告の外国送金事務が、被告築地支店で取り扱われていた当時、本件書類が被告築地支店において保管されていたため、原告が送金を依頼した際、自らが作成した送金依頼メモ(≪証拠省略≫)は原告の手元に残るものの、実際に依頼内容とされる事項が記載された外国送金依頼書控等の書類は全く手元に残らず、したがって、送金後に、被告が、原告に対し、送金外貨額と併せて送金先をも報告しなければ、原告が実際の依頼内容を了知できない状態であったと認められる。
これに対し、被告東京外為事務部移管後である本件各送金当時は、原、被告間においては、送金の依頼は、前判示のとおり、本件書類中の外国送金依頼書及び仕向外国送金処理依頼書(≪証拠省略≫)を被告東京外為事務部にファクシミリで送信する方法により行われ、外国送金依頼書に記載された送金外貨額、受取人等の内容が依頼の内容とされ、そのあて先へ送金される扱いであった。そして、本件送金委託契約上、ファクシミリで前記書類を送信した後、署名又は記名押印済外国送金依頼書を「FAX送信分」と記載して、被告へ直ちに送付することとされていたが(≪証拠省略≫、証人C)、本件書類中の外国送金依頼書以外の外国送金依頼書兼告知書控等の書類は、原告の手元に残ることが予定されていたことが認められる。そして、外国送金依頼書兼告知書控等には、外国送金依頼書に記載された依頼内容がカーボンで複写された内容が記載されているのであるから(≪証拠省略≫)、原告は、本件送金委託契約上、署名又は記名押印済外国送金依頼書の送付後も、受取人等原告が被告に委託した依頼内容を知ることができたものと認められる。
もっとも、本件送金委託契約の内容中送金外貨額については、前判示のとおり、原告から被告への送金依頼の際には、原告が円貨額を外貨額に換算する際の為替レートを知ることができないことから、外国送金依頼書の送金外貨額欄は空欄とされており、原告は、外国送金依頼書兼告知書控等、送金委託契約上手元に残されることが予定されている書類からも実際の送金外貨額及び原告の普通預金口座からの引落額については知ることができないこととなる。そこで、被告は、原告に対し、送金後、送金外貨額、実際に原告の普通預金口座から送金資金を引き落とす際の外貨額から円貨額への換算に使用した為替レート及び実際に原告の普通預金口座から引き落とされた円貨額等が記載された外国関係計算書を交付しており、これにより、原告は、送金外貨額欄、原告の普通預金口座からの引落額等の送金委託契約の内容についても了解できるようにされていたと認められる。
そうすると、原、被告間の本件送金委託契約においては、外国送金依頼書控は、当初から顧客である原告の手元に残されることが予定されており、したがって、外国送金依頼書控を、被告が原告に対して送金後に送付することは予定されていないものと認められる上、被告から原告に対し、送金後に外国関係計算書が送付されさえすれば、電話連絡を行ったり、外国送金依頼書控の交付をしなくても、原告は、送金委託契約の内容を了知することができたものと認められる。
エ もっとも、平成一二年一二月、被告が、原告に対し、平成一二年一〇月一二日付送金分から同年一二月七日付送金分までの間の、外国送金依頼書兼告知書控をまとめて送付した事実が認められるが、全てその送金外貨額欄が空欄のままであることに照らせば(≪証拠省略≫、証人D、原告代表者)、原告の主張する報告義務の履行としてなされたものであるとは認められない。
オ 以上判示の各点に照らすと、原告の外国送金手続の取扱いが被告東京外為事務部に移管された後である本件各送金当時、本件送金委託契約上、送金後に、被告が、原告に対し、外国関係計算書を送付すれば、本件送金委託契約に基づく報告義務の内容を履行したものと解するべきであり、前記(1)の事実をもって、本件送金委託契約上、送金後、被告が、原告に対し、電話で送金内容を連絡したり、外国送金依頼書控を送付して、送金内容を報告する義務を負うと認めるには足りず、原告の主張は理由がない。
カ(ア) 原告は、被告東京外為事務部における取扱いについて、被告築地支店の担当者であったCから、外国送金依頼書等をファクシミリで送信した後、本件書類を全て被告へ郵送するようにと説明を受けた旨主張し、原告代表者もこれに沿う供述をする。
しかし前判示のとおり、本件送金委託契約上、本件書類の全てを送付する旨が約定されたとは認められない上、本件書類の一番最後にとじられている外国送金依頼書兼告知書控は、本件規定上顧客の依頼内容とされる外国送金依頼書の控えという名称が付され、顧客の名前が複写される部分に下線が引かれているのみで「様」という記載はなく、銀行から顧客へ交付されることを予定された書類とは認め難いことも考え併せると、Cが本件書類全てを被告に郵送するように説明したとは認めるに足りず、原告の主張は採用できない。
(イ) また、原告の主張中、被告は、支店の廃止等のために、被告における送金事務の取扱い等に変更がある場合には、これを説明する義務があり、本件においても、被告は、被告築地支店においては、送金後、原告に対し電話で送金の報告があり、外国送金依頼書控が送付されたのに対し、被告東京外為事務部移管後はこれらを行わない取扱いに変更されたのであるから、この取扱いの変更について原告に対しあらかじめ説明する義務を負い、その義務違反によって原告が損害を被った旨主張するかのような部分がある。
しかし、前判示のとおり、被告東京外為事務部へ原告の送金手続が移管された後、本件各送金まで約八か月間に少なくとも三三回四四件の送金依頼について、被告から原告に対し、送金後の電話による報告及び外国送金依頼書控の送付がなされていないことに照らすと、原告において、本件各送金の際に、被告から送金後の電話連絡及び外国送金依頼書控の送付がなされない方式に変更されたことを認識していたものと認められ、被告が前記説明義務を負ったり、その不履行があるとは認められないし、仮にこの違反があったとしても、これと本件各送金との間の因果関係を認めることはできず、原告の主張は採用できない。
(ウ) なお、原告の主張中には、被告は、送金委託契約上の報告義務とは別に、民法六四五条に定められた報告義務を負い、その報告義務の懈怠がある旨主張するかのような部分があるが、同条項は任意法規であり、その内容については、当事者間の合意がある時には、報告義務の内容はその合意によって定められ、合意された内容の報告をもってその義務の履行を完了したものというべきであり、被告が、送金委託契約上の報告義務を履行していることは前判示のとおりであるから、原告の主張は採用できない。
3 送金依頼方法に関する注意義務違反について
(1) 原告は、本件各送金の際に利用された外国送金に関する依頼書に記載された電話及びファクシミリにより送金を依頼する方法は、送金依頼の際に送金外貨額が確定している場合に利用することが予定されており、送金外貨欄を含めて顧客が全てを記入して作成した外国送金依頼書のみを使用させるべきであったにもかかわらず、被告は、送金外貨額が確定していない状態で取次依頼書を使用し、外国送金依頼書の実質的内容を被告が作成するという欠陥のある送金依頼方法を顧客に強要し、外国送金手続を受任していたのであるから、本件送金委託契約における受任業務を遂行するための注意義務に違反する旨主張する。
(2) しかし、前判示の点に照らせば、本件送金委託契約上、本件各送金の際の送金依頼の方法が、同契約に違反しているとは認められず、したがって、被告の送金依頼を受任した方法が同契約に基づく受任義務を遂行するための注意義務に違反するとは認められず、原告の主張はその余の点を判断するまでもなく理由がない。のみならず、前判示の事実に照らすと、本件各送金は、いずれも原告が送付した外国送金依頼書の受取人欄が、原告の意図と異なり、イーストオーシャンとされていたことから生じたものであり、外国送金依頼書の記載が原告の意図に一致するヤナギタとされてさえいれば、原告の意図のとおり、ヤナギタに送金されたことは明らかである。したがって、外国送金依頼書の外貨欄まで被告が記入した上で送金手続が行われたとしても、外国送金依頼書の受取人欄にイーストオーシャンと記載された用紙を使用すればイーストオーシャンに送金がなされることになるのであるから、依頼時点で送金外貨額が確定しない場合に電話及びFAXによる送金依頼の方法を採用し、また、外国送金依頼書のほかに取次依頼書を使用するという送金依頼方法を採用したことと、ヤナギタではなくイーストオーシャンに対し本件各送金が行われたこととの間には因果関係の存在が認められず、原告の主張はその余の点を判断するまでもなく採用できない。
また、原告の主張中に、本件各送金の際に採られた前記の送金依頼方法においては、被告の直接の担当者以外の者が原告への送金内容の報告を不要であると考える可能性があり、送金後の原告への送金先等の報告がなされない可能性があるので、欠陥があり、この送金依頼方法が契約違反に当たる旨主張するかのような部分があるが、前判示のとおり、被告は、本件送金委託契約上の報告義務を履行していると認められるから、送金後原告への送金先等の報告がないとしても、送金依頼方法が本件送金委託契約に違反するということはできない。
なお、原告の主張中に、受取人欄等があらかじめ被告により印字されており、原告自らが記載しない方法になっていたことも送金依頼方法の欠陥であり、契約不履行に当たる旨の主張が含まれるとしても、前判示のとおり、原告の送金手続の取扱いが被告東京外為事務部に移管となった後は、本件書類が原告に返還されている以上、原告が被告に送付した外国送金依頼書は、法律上、原告作成の文書であり、その記載内容は、すべて原告の意思を表すものであって、あらかじめ受取人欄等が記載されている外国送金依頼書を使用する場合でも、原告がそれを送付した以上、その記載内容に誤りがあったとしても、原告がその記載内容の依頼をしたことになり、その記載内容に誤りがないかは原告で確認すべきことが当然であるから、原告の主張は採用できない。
4 引落しにおける注意義務違反について
(1) 原告は、被告が、取次依頼書と外国送金依頼書の受取人欄が異なる場合には、原告の普通預金口座から送金資金を引き落とす際、原告に対し預金の引落しを行ってよいか否かを確認する本件送金委託契約上の義務を負い、被告は、この義務に違反した旨主張する。
(2) 原告の前記主張は、被告担当者が本件各送金を行う際、取次依頼書と外国送金依頼書の受取人欄の記載の異同を確認する義務を負うことを前提とするものである。
しかし、被告は、本件各送金委託契約上、取次依頼書の受取人欄の記載内容にかかわらず、外国送金依頼書に記載された受取人に対し送金すべき債務を負うものであって、この受取人に対し送金すれば足り、それ以上に取次依頼書と外国送金依頼書の受取人欄の記載に相違があるか否かを確認する義務を負うものと認めることはできないことは前判示のとおりであるから、原告の主張はその前提を欠き、採用できない。
(3) よって、原告の被告の引落しにおける注意義務違反の主張には理由がない。
5 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張は理由がない。
第4結論
以上のとおり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大竹たかし 裁判官 上野泰史 神谷厚毅)