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東京地方裁判所 平成13年(ワ)13877号 判決 2001年12月17日

主文

1  東京地方裁判所平成13年(リ)第3008号配当等手続事件につき、平成13年6月27日に作成された配当表のうち、被告への配当額が2720万5268円とあるのを1972万8674円に、原告への配当額が3790万4170円とあるのを4538万0764円に、それぞれ変更する。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを各自の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

東京地方裁判所平成13年(リ)第3008号配当等手続事件につき、平成13年6月27日に作成された配当表のうち、被告への配当額が2720万5268円とあるのを1489万7653円に、原告への配当額が3790万4170円とあるのを5021万1785円に、それぞれ変更する。

第2  事案の概要

1  争いのない事実

(1)  債務名義の成立

1) 本訴原告を原告、サンウッド株式会社(以下「サンウッド」という。)を被告とする東京地方裁判所平成7年(ワ)第5681号貸金請求事件について、サンウッドは、平成7年11月10日の弁論期日において、1億9498万4964円とこれに対する平成6年10月14日から支払済みまで年30パーセントの割合による金員の支払を求める請求を認諾し、その旨の認諾調書(以下、「原告側債務名義」という。)が作成された。

2) 本訴被告を原告、サンウッドを被告とする東京地方裁判所平成7年(ワ)第19529号貸金請求事件につき、平成7年11月21日、1億0585万7989円及び内金3306万3652円に対する平成3年7月9日から、内金6933万4084円に対する平成2年10月10日から、各支払済みまで年14パーセントの割合による金員の支払を命じる判決がされ、同判決は確定した(以下、「被告側債務名義」という。)。

(2)  債権執行の手続

1) 原告は、東京地方裁判所に対して、平成7年11月30日、原告側債務名義により、請求債権を同債務名義に表示された主たる債権1億9498万4964円と附帯債権6616万8046円(主たる債権に対する平成6年10月14日から申立ての日である平成7年11月30日まで年30パーセントの割合による損害金)、差押債権を別紙差押債権目録記載1の債権とする債権差押命令の申立をし(東京地方裁判所平成7年(ル)第7785号)、同裁判所がした平成7年12月7日にした債権差押命令は同月11日に第三債務者である東北ホモボード工業株式会社(以下「東北ホモボードという。)に送達された。

2) 被告は、東京地方裁判所に対して、被告側債務名義により、請求債権を同債務名義に表示された主たる債権1億0585万7989円と附帯債権7481万8145円とし、差押債権を別紙差押債権目録2記載の債権とする債権差押命令の申立をし(東京地方裁判所平成8年(ル)第1874号)、同裁判所が平成8年3月25日にした債権差押命令は同月28日に第三債務者である東北ホモボードに送達された。

3) 東北ホモボードは平成13年5月1日、被差押債権相当額6511万1648円(別紙差押債権目録記載のうち平成13年4月30日に支払日が到来した債権)を山形地方法務局米沢支局に供託し、同月7日、東京地方裁判所に上記供託書正本を添付して事情届を行い、これにより事情届に基づく配当手続事件(平成13年(リ)第3008号、以下「本件配当事件」という。)が開始した。

4) 本件配当事件について、東京地方裁判所は平成13年6月27日に配当期日を開き、配当表(以下、「本件配当表」という。)を作成したが、本件配当表には被告への配当実施額を2720万5268円、原告への配当実施額を3790万4170円と記載されていた。

(3)  債権執行手続における債権計算書の提出

原告は、上記配当期日以前に、東京地方裁判所に対して、原告の債権額が、主たる債権1億9484万4964円と附帯債権3億5076万3865円を合計した5億4574万8829円であるとする債権計算書を提出した。

本件配当表の配当額の記載は、上記原告が提出した債権計算書記載の債権額から差押命令申立の日から配当期日までの附帯債権を除外して算出された額を原告の債権額とするものであった。

(4)  前回配当

なお、原告及び被告は、本件に先立って、東北ホモボードが平成12年5月1日に供託した6017万1649円(上記各差押債権のうち平成12年4月30日に支払期限が到来した債権)についての事情届に基づく配当事件(平成12年(リ)第3881号)において、原告が4141万5569円、被告が1876万6484円の配当を受けている。

なお、上記配当事件について東京地方裁判所が平成12年8月30日の配当期日に作成した配当表記載の配当額は原告が3557万3064円、被告が2460万8989円であったところ、原告は上記配当表について配当異議訴訟を提起し(東京地方裁判所平成12年(ワ)第18448号事件)、同事件につき、原告への配当額を4141万5569円、被告が1876万6484円に変更する判決がされ、同判決が確定した結果、配当額が上記のとおりとなったものである。

2  争点

債権差押命令申立てにおける請求債権額について、附帯債権の範囲を同申立ての日までの債権と記載した場合、配当実施に際して債権計算書を提出することにより配当期日までの附帯債権について配当を受けることができるか

3  争点に関する当事者の主張

(1)  原告

1) 債権執行事件において、附帯債権を差押命令申立時点までのものに限定するのは、専ら、裁判所の事務取扱の便宜を考慮したものであり、当事者の公平という観点を無視するものである。

また、法令の規定も、民事執行規則(以下、「規則」という。)145条、60条は、債権執行事件につき債権計算書には配当期日までの利息等を記載するよう定め、また、民事執行法(以下「法」という。)166条、88条2項は未到来の確定期限のある債務について配当期日から期限到来までの中間利息を控除することとしているのであって、これらの各規定は配当期日までの附帯債権を基礎として配当を行うべきことを当然の前提としている。

2) また、実質的にも、債権差押命令申立の日から配当期日までの附帯債権を配当の基礎となる債権から除外するとすると、債権差押が競合する場合、遅れてその申立をした債権者の方が有利に取り扱われることになって、当事者間の均衡を著しく失する結果を招く。

(2)  被告

1) 規則145条が準用する規則60条は、不動産執行事件において、競売申立時点から配当期日までに一定の時間が経過することを予定し、申立時における請求債権の範囲として附帯債権については不確定時点までの分を含むことができることを前提に、配当期日までに、請求債権の範囲内で計算書の提出により附帯債権の範囲を確定させる取扱を認めるものである。これに対して債権執行においては、差押命令が第三債務者に送達された日から1週間を経過した時点で債権者に取立権限を付与し(法155条1項)、また、第三債務者が供託をした場合には供託時までに差押等をした債権者だけに配当適格を認めるなど(法156条)、不動産執行に比較して、申立から配当までが長期の時間が経過しないで終局することを予定している。したがって、規則60条が計算書に「配当期日までの利息その他の附帯債権を記載する」としているのは規則145条による準用の範囲から除外されているものと解される。

3) また、そもそも、規則132条、規則21条4号によると、執行申立書には「金銭債権を命じる債務名義に係る請求権の一部について強制執行を求めるときはその旨及び範囲」を記載することを規定しているところ、債権執行申立書に申立日までの附帯債権が記載されているならば、それは上記にいう一部の請求権の記載に該当するものである。

そして、債権に対する強制執行においては、差押命令記載の請求債権と取立権が付与される債権及び第三債務者が供託できる債権(法155条及び法158条にいう「差押えにかかる金銭債権」)は同額であるべきものであるから、上記のように一部の請求権を記載してなされた債権執行において、計算書により配当期日における請求債権を補充することは請求の拡張であり、禁反言の原則から言って許されるべきではない。

3) 原告が主張するような当事者間の不均衡の問題については、法155条、157条により取立権限が付与され、取立訴訟が提起された場合には、法165条により取立訴訟の訴状が第三債務者に送達された後は、他の債権者は差押や配当要求をすることができなくなるのであるから、全体としては、債権差押の先後による債権者間の公平は確保されているものというべきである。

4) なお、前回配当を前提とした場合、平成13年6月27日の配当期日当日の被告の債権額は別表平成13年6月27日時点の被告欄記載のとおりである。

第3  争点に対する判断

1  法30条1項は「請求が確定期限の到来に係る場合においては、強制執行は、その期限が到来後に限り、開始することができる。」と規定しているが、本条項は請求の強制的実現を目的とする執行手続はその請求が即時履行を求めうる場合に限られるとする強制執行制度の当然の前提を明らかにするものであり、この強制執行制度に内在する要請は基本たる請求において充たされていれば足り、附帯する請求についてまでも必要なものということはできないから、附帯請求については基本たる請求とともに執行開始申し立てる場合には、基本たる請求が履行期にある以上、附帯請求について履行期が未到来のものも執行開始することができるのである。この点は、法令上、規則60条が、不動産執行手続について、債権者が提出する債権計算書に「配当期日までの利息その他の附帯の債権」の額を記載するものとしていることからも明らかというべきである。

そして、不動産執行においては、実務上も、上記のような解釈に沿って、不動産競売申立書に記載するべき請求債権の表示において、附帯請求についてはその起算点のみを記載すれば足りるものとする取扱いがなされていることは顕著な事実である。

これに対して、債権執行においては、上記不動産執行に関する取扱いと異なり、実務上、債権差押命令申立書に記載するべき請求債権の表示において、附帯請求について当該申立ての日まで確定金額に限定する取扱いがなされていることもまた当裁判所に顕著な事実である。この点は、債権執行手続においては、第三債務者が存在する結果、債権差押命令中に請求債権として期限未到来の附帯請求が記載されると、第三債務者が民事執行法156条1項に基づく供託を行う場合に、供託するべき附帯債権額を計算しなければならないという点で第三債務者に過重な負担を強いることとなり、ひいては、第三債務者の供託があった場合、事情届に基づく配当事件(法166条1項1号)により債権執行事件を簡易かつ迅速に処理するという差押債権者及び配当債権者の利益にも沿った制度の目的を阻害することを考慮したものであり、その取扱いには、前記法30条1項の趣旨を考慮したとしても、十分な合理性が認められるものというべきである。

2  しかしながら、他方では、上記のような債権執行における実務は、同手続では、債権差押命令発令時点以後、第三債務者に対して同命令が送達された場合には、送達の日から1週間を経過した時点で債権者に取立権限が付与され(法155条1項)、または、第三債務者の供託による配当がされ、配当適格債権者の範囲が供託時までに差押等をした債権者に限定することを通じて、不動産執行手続に比較した場合、申立時点から配当までの期間が短期間であること(したがって、同期間に発生する附帯債権の金額が比較的少額であること)を前提とするものと見なければならない。すなわち、申立時点から配当期日までの期間が相当期間に及んだ場合(したがって、附帯債権の金額が基本債権の額に比べて無視できない程度に高額となった場合)に、配当の前提となる債権額を申立て時点のものに限定することは、前記法30条1項に関する基本的な立場を没却することとなり、差押債権者の利益を不当に無視する結果を招来するものである。

以上のような事情を考慮すると、債権差押命令申立時点における請求債権中の附帯債権の範囲は起点から当該申立時点までに限定する取扱い自体を前提に、これにしたがった記載がなされた場合にあっても、配当に先立って債権者が提出する計算書記載の附帯債権については配当期日までの金額の記載を容認することにより、これを前提として配当を実施するべきものと解するのが相当である。

3  被告は、債権差押手続では、申立から配当までが短期間に終局することを予定していることを前提に、規則60条が計算書に「配当期日までの利息その他の附帯債権を記載する」としているのは規則145条による準用の範囲から除外されていることを主張するが、前記のとおり、現に上記の期間が長期間に及び、それによって附帯請求の金額が高額になる事態があり得るものであることを考えると、上記の主張はいささか本末転倒であって、説得力を欠くものというべきである。

また、被告は原告が申立てにおいて請求債権の範囲を同時点までの附帯債権に限定して記載している点を規則21条4号いう請求権の一部について強制執行を求める場合に該当するというが、債権差押申立時点における請求債権のうち附帯請求にかかる部分の額の範囲を同時点までに期限が到来した部分に限定するという取扱いそのものに合理性を認める以上、これにしたがった請求債権額の記載をもって請求権の一部について強制執行を求める場合であるとするのは妥当ではないものというべきである。

4  以上検討したところによると、本件においては、原告が提出した計算書記載の金額に基づいて、配当を行うべきである。

他方、被告は、前回配当及び今回の配当のいずれについても、計算書においても申立時点までの附帯債権額のみを記載し、配当期日までの附帯債権額を記載していないことが認められるところ、これは被告が東京地方裁判所の実務上の取扱いに従ったものであると認められるから、原告について計算書による配当の基礎となる請求債権額の範囲を配当期日までのものとする取扱いを認める以上、被告についても同様の扱いを認めないことは債権者間の均衡を失するものと考えられる。

そこで、原告及び被告双方について、本件の配当期日当時の債権額を前提として、配当額を算出すると別表の配当額欄記載のとおりとなる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 神坂尚)

(別紙)差押債権目録<略>

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