東京地方裁判所 平成13年(ワ)15160号 判決 2002年8月21日
原告
大川高史
ほか一名
被告
川口真理子
主文
一 被告は、原告大川高史に対し、金九五万二一八七円及びこれに対する平成一三年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告寺島奈美に対し、金三四万五三五〇円及びこれに対する平成一三年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告大川高史(以下「原告大川」という。)に対し、二四〇万六四六八円、原告寺島奈美(以下「原告寺島」という。)に対し、九〇万二六二〇円及び上記各金員に対する平成一三年一月一日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、債務不存在確認請求事件を提起された原告らが、交通事故により負傷したとして、民法七〇九条に基づき、被告に対し、損害賠償を反訴請求した事案である(本訴事件は取り下げられた。)。
一 争いのない事実
(1) 本件事故の発生
ア 日時 平成一三年一月一日 午前二時五七分ころ
イ 場所 東京都千代田区九段北一丁目一〇番地
ウ 原告車両 原告大川が運転し、原告寺島が同乗する普通乗用自動車(品川三四め八六五九)
エ 被告車両 被告が運転する普通乗用自動車(多摩七一せ八八六九)
オ 事故態様 被告車両が原告車両に追突した。
(2) 責任原因
被告は、前方不注視の過失により本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害について賠償責任を負う。
二 争点
(1) 原告らの損害
(原告大川の主張)
原告大川は、本件事故により頸椎捻挫、背部打撲の傷害を負い、平成一三年一月五日、北里研究所病院で治療を受け、同月一〇日から同年六月三〇日まで、あい整骨院に通院した(実日数八九日)。
<1> 治療費 四九万一四二七円
<2> 休業損害 一四三万五〇四一円
原告の本件事故当時の年収は一七二二万五〇〇円であり、一か月休業した。
<3> 慰謝料 四八万円
<4> 合計 二四〇万六四六八円
(原告寺島の主張)
原告寺島は、本件事故により頸部捻挫、左肩部挫傷の傷害を負い、平成一三年一月五日、大坪会三軒茶屋病院で治療を受け、同月一〇日から同年六月三〇日まで、あい整骨院に通院した(実日数九〇日)。
<1> 治療費 四二万二六二〇円
<2> 慰謝料 四八万円
<3> 合計 九〇万二六二〇円
(被告の主張)
本件事故は極めて軽微な事故であり、原告らに傷害が発生したとは考えられない。
(2) 損害の填補
ア 原告大川に対する既払金は五万一五四七円(治療費四万三四六七円・交通費八〇八〇円)である。
イ 原告寺島に対する既払金は一万一四五〇円(治療費)である。
第三争点に対する判断
一 争点(1)(原告らの損害)について
(1) 前記争いのない事実並びに証拠(甲一、三ないし五、乙一、二、四の一ないし五、五の一・二、六、七、九の一ないし五、原告ら各本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 原告大川(昭和四三年一一月一一日生。事故時三二歳)は、平成一三年一月一日、助手席に原告寺島を乗せて原告車両を運転していたが、赤信号に従い停止していたところ、被告車両が原告車両に追突した。
イ 原告大川は、平成一三年一月五日、知人の紹介で北里研究所病院を受診し、頸部痛、背部痛、左上肢・左下肢のしびれを訴え、レントゲン検査を受け、頸椎捻挫、背部打撲で約三週間の安静、加療を要する見込みと診断された。同月一〇日からは、あい整骨院に通院した。
原告寺島(昭和四八年八月一八生。事故時二七歳)は、同月一日夕方から、後頸部から後頭部に鈍痛を生じ、同月五日、自宅近くの大坪会三軒茶屋病院を受診したが、他覚的異常所見はなく、頭・頸部打撲で全治二週間と診断され、湿布薬を処方された。その後、同月一〇日から、原告大川から紹介されたあい整骨院に通院した。
ウ 被告は、平成一三年二月二三日、債務不存在確認請求事件を提起し、原告大川には同年三月九日、原告寺島には同月一〇日、それぞれ訴状が送達された。
原告大川は、同年六月三〇日まで、あい整骨院に通院し(実日数八九日)電気療法等を受けたが、同年五月九日、頸部・背部痛があるとして、北里研究所病院を受診した。
原告寺島は、同年六月三〇日まで、あい整骨院に通院したが(実日数九〇日)、同年五月七日、左後頭部から頸部にかけて鈍痛が続いているとして、三軒茶屋病院を受診した。
エ 原告大川は、本件事故当時、ホストとして新宿区歌舞伎町の店で働いていたが、休業損害証明書には、愛田観光株式会社からの平成一二年一〇月から一二月までの給与合計は二六四万五〇〇〇円であり、平成一三年一月の一か月間休業したと記載されている。
(2) 被告は、本件事故は極めて軽微であり原告らに傷害が発生したとは考えられない旨主張し、鑑定書(甲二)には、原告車両及び被告車両の変形・破損状況から衝突速度は時速約六・四七km、加速度は約〇・七一Gであり、衝撃力は小さく、人体実験や他の追突事故のデータと比較しても、原告らの頸部に医師の治療が必要な傷害が生じるとは考えられない旨記載されている。しかしながら、衝突速度、加速度等の工学的検討のみから、原告らが本件事故により傷害を受けなかったと断定することは困難であるといわざるを得ない。
(3) 原告大川の損害額
<1> 治療費等 一七万一七四七円
ア 北里研究所病院 一万一七四七円
証拠(乙三の一ないし四)及び弁論の全趣旨により認められる。
イ あい整骨院 一六万円
証拠(乙四の一ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、あい整骨院の施術料は合計四七万九六八〇円であることが認められる。整骨院での施術につき医師の指示はなく、すべてを加害者の負担すべき損害とみることはできないが、施術は原告大川の症状をある程度緩和させたものと認められ、傷害の程度、内容等を考慮して、施術料の約三分の一に当たる一六万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
<2> 休業損害 五八万七七七七円
前記休業損害証明書によれば、原告大川の事故前三か月の平均給与月額は八八万一六六六円であり(円未満切捨て)、傷害の程度、内容等からすると、休業せざるを得なかったのは三週間程度とみるのが相当であるから、休業損害は、次のとおり上記金額となる(円未満切捨て)。
八八万一六六六円÷三×二
<3> 慰謝料 二〇万円
前記認定の傷害の部位、程度、通院期間等に照らすと、傷害慰謝料は上記金額が相当である。
<4> 小計 九五万九五二四円
(4) 原告寺島の損害額
<1> 治療費等 一五万六八〇〇円
ア 三軒茶屋病院 一万六八〇〇円
証拠(乙八の一ないし三)及び弁論の全趣旨により認められる。
イ あい整骨院 一四万円
証拠(乙九の一ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、あい整骨院の施術料は合計四〇万五八二〇円であることが認められる。整骨院での施術につき医師の指示はなく、すべてを加害者の負担すべき損害とみることはできないが、施術は原告寺島の症状をある程度緩和させたものと認められ、傷害の程度、内容等を考慮して、施術料の約三分の一に当たる一四万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
<2> 慰謝料 二〇万円
前記認定の傷害の部位、程度、通院期間等に照らすと、傷害慰謝料は上記金額が相当である。
<3> 小計 三五万六八〇〇円
二 争点(2)(損害の填補)について
ア 証拠(甲六)及び弁論の全趣旨によれば、被告が主張する既払金のうち原告大川の請求に対する損害の填補は七三三七円(北里研究所病院の治療費)であることが認められるから、残損害額は九五万二一八七円となる。
イ 証拠(甲七)及び弁論の全趣旨によれば、損害の填補は一万一四五〇円であることが認められるから、残損害額は三四万五三五〇円となる。
第四結論
以上によれば、原告大川の請求は、被告に対し、九五万二一八七円及びこれに対する不法行為の日である平成一三年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告寺島の請求は、被告に対し、三四万五三五〇円及びこれに対する不法行為の日である平成一三年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。
(裁判官 鈴木順子)