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東京地方裁判所 平成13年(ワ)16442号 判決 2004年7月13日

原告

X1

ほか二名

被告

主文

一  被告は、原告X1に対し、金九〇四二万六七七七円及び内金八六二三万〇八八七円に対する平成一〇年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、金一四三万円及びこれに対する平成一〇年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X3に対し、金一四三万円及びこれに対する平成一〇年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1に対し、金二億一六四六万五三二五円及び内金二億一二二六万九四三五円に対する平成一〇年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、金五五〇万円及びこれに対する平成一〇年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X3に対し、金五五〇万円及びこれに対する平成一〇年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二請求の原因

一  交通事故の発生(争いがない。)

(1)  日時 平成一〇年五月一日午後三時五五分ころ

(2)  場所 千葉県佐原市<以下省略>先

(3)  加害車両 普通乗用自動車(<番号省略>、以下「被告車」という。)

運転者 被告

(4)  被害車両 原動機付自転車(<番号省略>、以下「原告車」という。)

運転者 原告X1

同乗者 A

(5)  事故の概要 上記場所の信号機の設置されていない十字路交差点(以下「本件交差点」という。)において、一時停止規制のある道路から交差点に進入した被告車と右方交差道路から交差点に進入した原告車が出合頭に衝突した。

二  責任原因(争いがない。)

被告は、被告車を自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償責任を負う。

三  傷害の内容、程度

(1)  傷病名

脳挫傷、左肋骨骨折

(2)  症状経過

四六日間深昏睡、脳浮腫、重症肺炎、気管切開術施行、気管損傷、咽頭気管狭窄、腕頭動脈出血、外傷性てんかん、心不全、肝機能障害、腎不全、外傷性クモ膜下出血、外耳道湿疹等

(3)  治療経過

ア 佐原病院に平成一〇年五月一日から同年九月一一日まで入院(一三四日)

イ 同病院に平成一〇年九月一六日から同一二年六月二八日まで通院(実通院日数三四日)

ウ 千葉大学医学部附属病院に平成一〇年九月一一日から同一一年九月二日まで入院(三五七日)

エ 同病院に平成一〇年九月九日通院(一日)

オ 同病院に平成一一年九月三日から同一二年六月二八日まで通院(実通院日数八日)

(4)  後遺障害

ア 原告X1の症状は、平成一二年六月二八日に固定し、自賠責保険後遺障害等級併合第一級の認定がされた。その認定理由の概要は、頭部外傷後の四肢体幹失調、精神的易興奮性等による日常生活への支障により、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないこと(第三級三号)、永久気管孔造設に伴う発声不能による言語機能廃止(第三級二号)、醜状痕(第一四級一一号)により併合第一級とするが、腎機能、心機能低下は評価困難とするものである。

イ 後遺障害は基本的に脳挫傷によるもので回復可能性はなく、気管挫傷に伴う傷害については、今後も入院の上で何回かの手術による現状維持のためのケアが必要である。いずれにせよ終生にわたり定期的な脳神経外科、内科、整形外科、耳鼻科等の受診を欠かすことはできない。

また、原告X1は、高度の記銘力障害、知能低下を残しており、精神的には易興奮性を残している。さらに身体的にも失調性の歩行障害、右下肢の失調症が残っている。

四  原告X1の損害

(1)  治療費 一五万〇七七七円

(2)  入院雑費 六三万七〇〇〇円

(一三〇〇円×四九〇日)

(3)  栄養補助食品代 八二万六五〇〇円

(4)  入院寝台寝具使用料 九万七四六一円

(二七三円×三五七日)

(5)  付添食費 三〇万三三九〇円

(6)  入院付添費 四九〇万円

(一万円×四九〇日)

(7)  通院交通費 五五万二五六五円

高速料金一四万二七六〇円及びガソリン代四〇万九八〇五円

(8)  治療器具費 二二万三七三四円

(9)  住宅改造費 七七五万六五〇七円

(10)  将来の交通費 三三九万七五〇〇円

年額一八万円(ガソリン代+高速料金)×一八・八七五(五九年ライプニッツ係数)

(11)  将来の介護費 七六三三万一七九三円

ア 一九年間(母の年齢が六七歳に達するまでの期間)は父母の介護費用日額一万円として計算する。

1万円×365日×12.0853=4411万1345円

イ 二〇年目から原告X1の余命四〇年(平成一〇年簡易生命表による一八歳の平均余命五九・七七から一九年を控除した期間)は職業付添人費用日額一万三〇〇〇円として計算する。

1万3000円×365日×(18.8757-12.0853)=3222万0448円

(12)  逸失利益 九六〇九万二二〇七円

原告X1は症状固定時一八歳であり、平成一〇年賃金センサス男子労働者高卒計年収五二八万八八〇〇円を基礎とし、労働能力喪失率一〇〇パーセント、喪失期間四九年間で計算する。

528万8800円×18.169=9609万2207円

(13)  入通院慰謝料 五〇〇万円

(14)  後遺障害慰謝料 二六〇〇万円

(15)  確定遅延損害金 四一九万五八九〇円

原告X1は、平成一三年二月一六日自賠責保険金三〇〇〇万円を受領したが、事故時から支払の前日までの間(二年と二九一日)に生じた年五分の割合による確定遅延損害金の額は四一九万五八九〇円である。

(16)  弁護士費用 二〇〇〇万円

(17)  填補額 三〇〇〇万円(自賠責保険金)

(18)  合計 二億一六四六万五三二五円

前記(1)ないし(16)の合計額から(17)の額を控除すると、残額は二億一六四六万五三二五円となる。

五  原告X2及び原告X3の損害

(1)  近親者慰謝料 各五〇〇万円

(2)  弁護士費用 各五〇万円

(3)  合計 各五五〇万円

第三争点及び当事者の主張

一  事故態様及び過失相殺

【原告らの主張】

(1) 信号機の設置されていない十字路交差点(本件交差点)において、被告車が一時停止標識が設置された狭路から原告車進行の優先道路に進入するに際し、一時停止を怠り、かつ、右方交差道路の確認をしないまま交差点内に進入した結果、被告車を原告車に衝突させて、原告X1をはね飛ばして傷害を負わせたものである。

(2) 本件は、被告が右方確認をせずに原告車直前に原告車が走行できないように道路を塞いだ結果の事故であり、原告X1がハンドル、ブレーキ操作を誤ったとか制動距離が延びた等の証拠は一切ない。

被告は、右方の視認不十分のまま、自分が先に行けると勝手に思いこみ、その後の原告車の動向に全く注意することなく交差点に進入し、衝突するまで原告車の進行状況を見ていないというものであって、これで事故が発生しない方が不思議である。

(3) 仮に、被告車が本件交差点手前で一時停止したとしても、原告X1は、被告車が出てくることはないと信じて進行を続けた結果、直前で前方に進出してきた被告車と衝突したものであり、右方を見ないで交差点に入った被告の過失がすべての事故原因である。

(4) 本件は、被告車の進行妨害行為により、原告車が被告車右側面に衝突し、原告X1は被告車の右ドア窓に胸部付近を衝突させてから、被告車方向に五メートルも飛ばされて路上に衝突させられた大事故であり、ヘルメットを装着していたとしても、衝突の際にどこかに飛んでいってしまった可能性が高く、かつ、道路に飛ばされて頭部を打った際にはヘルメットが受傷を軽くする役目は果たさないものである。仮に、原告X1が本件事故当時ヘルメットを着用していなかったとしても、過失相殺の対象とされるべきではない。

【被告の主張】

(1) 被告車は、本件交差点手前で一時停止を行い、その発進直後に原告車と衝突したものである。

(2) 原告車の走行状況

ア 本件事故現場は、幅員三・一メートルと幅員三・八メートルのアスファルト舖装の市道が交わる交差点であり、被告車が進行していた幅員三・一メートルの市道には一時停止の標識が設置されているが、停止線は設置されておらず、本件交差点南東側は駐車場となっていて見通しは良好であった。

イ 原告X1は、本件事故発生当時、原告車を運転し、後部にAを乗車させて二人乗りをし、両名ともヘルメットを着用していなかった。

ウ 原告車は、A同乗の二人乗り運転により、他に気を取られたまま、法定速度三〇キロメートルを超えた時速四〇キロメートル以上の速度で走行し、本件交差点手前約一〇メートルの地点に至ってわずかに減速しただけで、同交差点に差し掛かり、先に交差点に進入していた被告車右側面の運転席ドア付近に体当たりするように衝突した。

(3) 被告車の走行状況

ア 被告は、教会を訪問するため、自家用乗用自動車を運転し、時速約一〇キロメートルで走行して本件交差点に差し掛かり、一時停止の標識に従って本件交差点手前で一旦停車した。

イ 被告は、一時停止後に、右方約五〇メートル先に原告車が走行しているのを認めたが、まだ距離があり、先に被告車が交差点を通過できると判断して、左方の安全を確認しながら時速約五キロメートルで交差点に進入したところ、右方から交差点に進入してきた原告車が、被告車右側面の運転席ドア付近に体当たりするように衝突したものである。

(4) 原告X1の過失

ア 本件事故の衝突形態は、原動機付自転車の原告車が自家用乗用自動車の被告車右側面の運転席ドア付近に体当たりするように衝突したものであり、四輪車が単車に衝突あるいは接触した形態とは全く異質の事故形態であり、仮に原告X1が少しでも前方を確認しておれば、被告車の走行してきた左前方の見通しが良好であったこともあり、被告車の存在に気付いてその右側面に体当たりするということはあり得なかったはずである。

イ 原告X1は、本件事故当時、道路交通法五七条一項、同法施行令二三条一号に違反して原動機付自転車に二人乗りをしており、そのため同乗者との会話などにより注意力が散漫になり、また、同乗者の体重分だけ慣性が強く働くため、危険を察知してから停止までの距離が伸び、減速が遅滞しやすくなるなどの弊害が生じる一方、一人乗りであれば後部同乗者の身の安全に配慮する必要もなかったから、急ハンドルあるいは急ブレーキにより、被告車両との衝突を回避することや、少なくとも被告車に体当たりするように衝突することは避けられた可能性は高い。

(5) 事故発生に対する原告X1及び被告の寄与度

ア 本件は、単車対四輪車の間で、交通整理の行われていない交差点において、一方に一時停止の規制がある場合の事故であるが、被告車が一時停止の標識に従って一時停止を行っていることから、過失の基本割合は、原告X1三五:被告六五である。

イ しかし、原告X1による二人乗り、速度超過等の危険走行が、本件事故発生の大きな要因となったことは明らかというべきであり、この点は、少なくとも二〇ないし三〇パーセント程度、被告に有利に修正されるべきである。

ウ また、原告X1は、道路交通法七一条の四第二項で原動機付自転車の運転者に乗車用ヘルメットの着用が義務づけられているにもかかわらず、ヘルメットを着用せずに原告車を運転していたことにより、頭部外傷による比較的重度の後遺障害を発生させ、本件事故による損害をより拡大させてしまったのであり、原告X1のヘルメット不着用は損害拡大に極めて大きく寄与している。このような場合には、被害者に対し、一般的におおむね一〇ないし三〇パーセント程度の割合の過失相殺がされている。

エ 以上によれば、仮に被告に過失が認められるとしても、その割合は多くとも三〇パーセントに止まるものである。

二  原告X1の症状の経過及び後遺障害について

【原告らの主張】

前記第二、三記載のとおり

【被告の主張】

(1) 原告X1は、平成一二年六月二八日(受傷から約二年二か月後)を症状固定日として、自動車保険料率算定会(当時の名称)から、精神・神経系の障害(第三級三号)、永久気管孔に伴う発声不能(第三級二号)、永久気管孔に伴う頸部の醜状障害(第一四級一一号)の併合による第一級の後遺障害が認定されている。

しかし、原告X1は、その後も千葉大学医学部附属病院の耳鼻咽喉科で追加治療を受けており、同病院の教授、医局長、担当医ら作成による平成一五年一月一七日付調査報告書によると、「気管形成術・気管孔縮小術により、左手指による気管孔閉鎖により多少の発声は可能となっている」とされ、さらに、「今後一年以内に一ないし二回の気管形成術を追加実施することにより気管孔を閉鎖できる可能性が大きい。気管孔を完全閉鎖できれば手指で塞ぐ必要がなく、常時発声可能となる」状態にあるとの見解であり(甲二八)、「今後、二回程度の手術にて気管孔完全閉鎖ができる見込みです」との見解(乙一七)もある。

(2) 原告X1の後遺障害は、精神・神経系の障害と考えられるところ、原告X2作成の平成一二年一一月一五日付生活状況報告書によると、右手に時々振戦があることで困難が伴うにしても、同人は両手利きであり左手の動作で補完可能であり、日常生活動作はほぼ自立可能と評価できるうえ、将来「軽作業か整理作業」の職業につけると思うと述べていることに加えて、原告X1に対する各種の知能検査結果を基にした、千葉大学医学部附属病院の医師B作成による平成一五年一月一五日付診断書によれば、原告X1は就業「不能」まで至っておらず、就業「困難」と判定されているにすぎないこと、同病院の教授らの同年同月一七日付調査報告書でも、「日常生活における種々の動作の訓練を積み重ねることで自立できる可能性がある」ことからすれば、原告X1の障害の程度を十分に理解し、同人の能力に応じた業務内容を提供できるような恵まれた就業環境においては、ある程度の軽作業なら遂行しうる能力は十分あると考えられる。

したがって、原告X1の後遺障害等級は、第五級二号(終身にわたり極めて軽易な労務のほか服することができないもの)と判定されるべきであり、同人の労働能力喪失率は、近い将来の実態に合わせて、第五級相当の喪失率と同じ約七九パーセント程度とみるのが相当である。

三  原告X1の損害の算定について

【原告らの主張】

前記第二、四記載のとおり

【被告の認否及び主張】

(1) 治療費については、否認する。

原告X1は、居住地の千葉県佐原市において実施する「重度心身障害者医療費等助成制度」の申請をし、健康保険の自己負担分等の給付を受けているから、上記損害はそもそも発生していないか、あるいは、損害填補を受けているというべきである。

(2) 入院雑費は、認める。

(3) 栄養補助食品代については、否認する。

担当医師の指示ないし許可がないから、必要性、相当性がない。

(4) 入院寝台寝具使用料については、入院雑費に含まれるものであり、否認する。

(5) 付添食費については、否認する。

本件事故と相当因果関係がない。

(6) 入院付添費については、否認する。

原告X1の入院した千葉県立佐原病院と千葉大学医学部附属病院は、いずれも完全看護体制の大病院であり、診断書上も介護の必要性については全く触れられていない。

(7) 通院交通費については、否認する。

高速代やガソリン代が真に付添費用のためにのみ支出されたといえるか疑問である。

(8) 治療器具費については、否認する。

各器具購入の必要性、購入目的、医師からの指示の有無等が明らかでない。

(9) 住宅改造費については、すべて否認する。

原告X1は、前記のとおり、日常生活動作はほぼ自立可能であり、具体的には一人歩きも、階段の上り下りも独力で可能と思われるので、住宅改造の必要性はないと考える。しかも、原告らは、実際に現在に至るも住宅の改造をしておらず、むしろ、築七〇年超の老朽化した家屋に代えて、家屋の新築を予定しているのである。

仮に、本件で住宅改造費が支出され実際に原告宅が改造された場合には、<1>築七〇年超の原告宅の交換価値を不必要に増大させるだけでなく、<2>老朽化して近年では特殊な構造及び形状ともいうべき原告宅の利便性が増大して、原告X1の損害の回復というよりも、むしろ、同居する家族の利便性の増進が主たる効果となって不公平であること、<3>住宅改造費がバリアフリーとは無関係な新築の住宅の建築費に充てられる可能性も考えられるので、結局のところ、住宅改造費の認定は不相当である。

(10) 将来の交通費の発生は、否認する。

(11) 将来の介護費の発生は、すべて否認する。

ア 原告X1は、日常生活上の諸動作をほぼ自立して行うことが可能と評価でき、前記平成一五年一月一七日付調査報告書によれば、「日常生活における種々の動作の訓練を積み重ねることで自立できる可能性がある」とのことであるから、介護の必要性自体に疑問がある。

原告らの主張する「介護」の内容が、原告X1の日常生活上の動静を看視することだとしても、原告X2の本人尋問における供述にもかかわらず、かかる看視の必要性を裏付けるだけの事情が認められず、この意味での介護の必要性も首肯することができない。

イ 仮に、原告X1に対する看視の必要性がなおも否定できない等の理由により、将来の介護費の発生が認められた場合でも、原告の請求額(当初一九年間は一万円、その後の二一年間は一万三〇〇〇円)は高額に過ぎる。原告X1に対しては、本来の介護である日常生活動作の補完がほとんど不要であること、日額三〇〇〇円とした裁判例もあること等を考慮して、相当な介護費の日額が設定されるべきである。

ウ 中間利息の控除について

将来の介護費の計算にあたっても、事故時から遅延損害金が付されることとの均衡から、事故時(平成一〇年五月一日)から将来の介護費の終期までの係数から、事故時から症状固定時(原告らの主張によると平成一二年六月二八日)までの係数を差し引いたものを中間利息控除係数とすべきである。

(12) 逸失利益について

ア 基礎年収について

賃金センサスの階級区分のうちの男子高卒年収を用いる点は認めるが、賃金センサスの年度については、事故日の属する平成一〇年度のもの(五二八万八八〇〇円)を用いるのではなく、症状固定日の属する平成一二年度のもの(五一九万三三〇〇円)を用いるのが相当である。

イ 労働能力喪失率

前記のとおり、第五級に対応する七九パーセントを喪失率として逸失利益を算定すべきである。

ウ 中間利息の控除方法について

原告らは、原告X1の基礎年収に対応して、単純に一八歳から六七歳までの四九年間のライプニッツ係数一八・一六八七を乗じて逸失利益を算出するようであるが、不法行為による損害は事故時に発生するものであり、事故時から遅延損害金が付されることとの均衡から、本件事故時からのライプニッツ係数(一六歳から六七歳の五一年間)から、症状固定時までの同係数(一六歳から一八歳の二年間)を差し引いたライプニッツ係数一六・四七九五として逸失利益を算定すべきである。

(13) 入通院慰謝料の発生は認めるが、原告主張の金額は否認する。入院一六月分の慰謝料として三一三万円が適正額である。

(14) 後遺障害慰謝料の発生は認めるが、原告主張の金額は否認する。第五級の慰謝料として一三〇〇万円が適正額である。

(15) 確定遅延損害金及び弁護士費用については争う。

四  原告X2及び原告X3の損害の算定について

【原告らの主張】

前記第二、五記載のとおり

【被告の認否及び主張】

(1) 原告X2及び原告X3の慰謝料の発生は、否認する。

近親者の慰謝料請求は、生命侵害の場合以外、最高裁判例のいうところの「死亡に比肩するような精神的苦痛」を受けた場合にも認められるが、本件では、原告X1は日常生活動作はほぼ自立しており、同人の発声障害は近い将来軽快、解消されるから、同人の近親者である原告X2及び原告X3の受けた精神的苦痛は「死亡に比肩する」まで至っていないので、慰謝料請求権は発生していない。

(2) 弁護士費用については争う。

五  弁済の抗弁(被告) 四八五万九八二〇円

被告は、原告X1の入院期間(平成一〇年五月一日から同一一年九月二日までの四九〇日分)の治療費として四八五万九八二〇円を支払った。

第四争点に対する判断

一  事故態様及び過失相殺について

(1)  証拠(乙二~七、一一、証人A、被告本人)によれば、以下の事実が認められる。

ア 本件事故現場は、佐原市水郷町方面から利根川方面に向かう幅員三・一メートルの南北道路と、同市佐原イから佐原ホに向かう幅員三・八メートルの東西道路が交わる交差点であり、南北道路には、一時停止標識が設置されているが、停止線は標示されていない。

イ 被告は、被告車を運転し、キリスト教会を探しながら、南北道路を利根川方面に向けて時速約一〇キロメートルで進行して本件交差点手前に差しかかったが(なお、当日の天候は晴れで、路面は乾燥していた。)、交差点の南東側は屋外の広い駐車場であり、駐車車両があったものの東西道路の東側は見通しは良く、遠くに原告車の姿を発見したが(運転者は黒色の服、後部座席の者は白色の服に見えた。)、まだ近づいて来るものとは思わなかった。他方、交差点の南西角に工業所の塀があり左方の見通しが悪いので、被告車は、一時停止標識に従って一旦停止した(被告は、停止したとき、まだ、原告車は四〇ないし五〇メートル先だと思った。)。そして、被告は、東西道路の西側から来る車両の有無を確かめるために、被告車を発進させそろそろと交差点内に進入し、再度停止して左側から来る車両がないことを確認したが、原告車よりも先に交差点を通過できるものと軽信し、右側を再確認することなく、原告車に気づかないまま、アクセルを踏んで発進したため、折から間近に迫っていた原告車前部が被告車の右側面に突っ込むように衝突し、原告X1が運転席側窓ガラスを破って運転席の被告のところに飛び込んできたように感じた(被告も顔面血だらけになった。)。

ウ 被告車は、発進直後に原告車と衝突し、その衝撃で被告はブレーキもかけられずに走行を続けたため、衝突地点から一八メートル走行した後に停止した。

本件衝突の際の衝撃で、原告車は衝突地点から二・七メートル先に、また、原告X1は五・〇メートル先に飛ばされ、地面に転倒した(なお、Aも原告車とは反対の方向に、衝突地点から三・〇メートル飛ばされ、地面に転倒した。)。

エ 被告車の破損状況は、右側ドアー部凹損及び運転席側窓ガラス破損等であり、原告車の破損状況は、前輪及びハンドル曲損等である。

(2)  原告車の本件事故当時の速度については正確には認定できない(なお、Aは、原告車は時速約四〇キロメートルで走行していたが、本件交差点に進入する際に少し減速したという。他方、乙一〇(私的鑑定書)には、衝突時の速度は時速三八ないし四四キロメートルと推定されるとの記載もある。)。しかし、被告の認識からすれば、被告が最初に一時停止したときの原告車までの距離は四〇ないし五〇メートルとかなり遠方に見えたこと、その後、被告車が交差点内にそろそろと入り、左方の安全確認をしている間に原告車が間近に迫ってきたこと、原告車が被告車右側面に衝突後、原告X1は跳ね上げられるように被告車の運転席側窓ガラスに衝突してきたこと等を考慮すると、原告車の速度は、原動機付自転車の法定速度(毎時三〇キロメートル)を相当上回っていたものと推定できる(なお、Aの事故後の供述によっても一〇キロメートル前後の超過となる。)。

(3)  以上認定の事実によれば、本件事故の原因の大半は、原告車がまだ近づかないものと軽信したため、本件交差点内に入り、左方の安全確認ばかりに気を取られ、右方の安全を再確認しなかった被告にあるものといえる。

この点に関し、被告は、本件交差点における交通規制の状況、単車対四輪車の事故であること、被告が一時停止したこと等から、類型的な過失割合の基本は三五対六五であると主張するが、前記認定の事実関係によれば、原告車が四、五秒で接近してくる可能性が予想されるのであって、原告車よりも先に交差点を通過できるものと軽信した被告の判断は甘すぎたといわざるを得ず、類型的な割合以上に、被告には著しい過失があるというべきである。

なお、原告X1が本件事故当時ヘルメットを着用していたか否かについては、客観的な決め手となる証拠はないが(なお、甲一六の写真から原告X1が本件事故当時ヘルメットを着用していたことまでは推定できない。)、原告車後部に同乗していたAは、事故後間もない時期に警察で取り調べを受けた際に、原告X1はヘルメットを着用していなかった旨を述べていること(乙六)からみて、この点はヘルメットを着用していなかったものと判断せざるを得ない(なお、Aは、本件における証人尋問においては、記憶にないとしてその点を明確に証言しなかったが、着用していたとも証言しなかった。)。

また、原告車に二人乗りをしていたことが事故の発生に影響を与えたかについては、これを認めるに足りる的確な証拠がない。

(4)  過失相殺について

前記認定の事実関係によれば、四輪車である被告車側に一時停止規制があるところ、被告車は一時停止後、発進し、交差点内でも再停止していること、もっとも、責任の大半が被告が右方の安全の再確認を怠ったことにあり、被告に著しい過失があることは、前記のとおりであること(なお、被告車が一旦停止後発進し、交差点内で再停止したことが原告X1の判断を誤らせたことも考えられる。)、他方、原告X1からも、本件交差点南東側の駐車場の自動車越しに、被告車の見通しは悪くはないはずであり、少なくとも交差点手前においては、前方交差点に少し進入して停止している被告車の動静を注視して、十分減速すべきであったが、これを怠ったものというべきであること、原告X1には約一〇キロメートル程度の速度超過(なお、これは著しい過失とまではいえない。)のほか、ヘルメット不着用による損害の拡大の可能性が考えられること、これに加えて被害の重大性をも併せ考えると、本件においては過失相殺率を三五パーセントとするのが相当である。

二  原告X1の症状の経過及び後遺障害について

(1)  証拠(甲七の一・二、八、二六の一~六、二七の一~六、二八ないし三〇、三三ないし三五、乙八、一二、原告X2本人)によれば、以下の事実が認められる。

ア 原告X1は、本件事故により、脳挫傷、左肋骨骨折等の傷害を負い、佐原病院に平成一〇年五月一日から同年九月一一日まで入院(一三四日)したが、当初は、脳挫傷、外傷性クモ膜下出血等による意識不明(四六日間深昏睡)が続いた。また、同年五月二二日には気管切開術を施行したが、意識障害は続き、その後七月になって意識の回復がみられ、リハビリを始めるようになった。なお、佐原病院には平成一〇年九月一六日から同一二年六月二八日まで治療及びリハビリのため通院(実通院日数三四日)している。

イ 原告X1は、気管再建術を受けるため、千葉大学医学部附属病院に平成一〇年九月九日に初診、同月一一日から同一一年九月二日まで入院(三五七日)し、その間、気管の再建手術を実施したが、術後創部の感染による発熱が続き、創を開放し、また、閉鎖するという手術が行われた。さらに、右腕頭動脈からの大出血により緊急手術を受け、生命危険にて約一年の入院をし(そのうち三か月以上を救急救命センターで集中治療をした。)、計三回の手術が追加されるという状況であり、何度となく生死の境をさまよった。

ウ 原告X1は、以上のとおり入院が長期化したものの、その後リハビリが進められ、平成一一年九月二日(受傷から約一年四か月後)、同病院を退院したが、その後、治療及びリハビリのため、同病院に平成一一年九月三日から同一二年六月二八日まで通院(実通院日数五日)している。

(2)  証拠(甲七の一・二、八、二六の一~六、二七の一~六、二八ないし三〇、三三ないし三五、乙一二、原告X2本人)によれば、以下の事実が認められる。

ア 原告X1の症状は、平成一二年六月二八日に固定し、頭部外傷後の四肢(特に右上肢)、体幹の失調が著しいこと、右手に強い振戦があること、精神的易興奮性等による日常生活への支障により、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないこと(第三級三号)、頸部中央の永久気管孔造設に伴う発声不能による言語機能廃止(第三級二号)、醜状痕(第一四級一一号)により併合第一級と認定されている。

イ 他方、千葉大学医学部附属病院耳鼻咽喉科の照会回答(甲二八)には次のような記載がある。

<1> 四肢(特に右上肢)・体幹の失調が著しく、右上肢の失調は、今後の回復の可能性は極めて低い。

<2> 永久気管孔による発声不能の点については、これまで実施した気管形成術・気管孔縮小術により、左手指による気管孔閉鎖により多少の発声は可能となっている(ちなみに、今後二回程度の手術で気管孔完全閉鎖ができる見込みとの所見(乙一七)もある。)。

<3> 精神的な易興奮性については、程度や頻度は改善傾向にあるが、まだ、看護師や家族に対しては残っている。

<4> 現在の日常生活動作については、着替え、大・小便、入浴等における日常生活上の介助が必要な点があると考えられる。また、多少自制がきかないときがあるので、目が離せず監視が必要なこともある。

現在は日常生活のほとんどの行為について適度な介助をすれば実施可能となっており、リハビリテーション指導する必要性はなくなっていると考えられる。どの時点で日常生活の諸動作が独力でできるようになるかは現時点では予測不可能である。もっとも、将来において、日常生活における種々の動作の訓練を積み重ねることで自立できる可能性があると考えられる。

(3)  これに対し、被告は、原告X1は適切な就労環境が与えられればごく軽易な就労遂行能力は残されており、後遺障害等級は第五級二号相当で、介護の必要がない旨主張する。

確かに、将来の可能性として、上記(2)イ<4>の記載はあるものの、被告の援用する証拠(乙一二)によっても、原告X1には中等度以上の高次脳機能障害があり、労働能力が相当程度喪失していることは明らかであり、右上肢の高度振戦・失調と下肢失調のため肉体労働は不可能であり、事務的労働も相当に困難といえること、また、知能障害がみられ、知能検査結果も最低ランクの数値を示しており、今後授産施設などの恵まれた就業環境において極めて軽易な作業はこなせると思われるものの、社会的生産的な活動として就労することは困難であり、仮に敢えて労働能力を数値として表すとしても、かなり限られた条件の下でのわずかな労働能力(一〇パーセント程度)であるというべきである、とされている。

なお、平成一二年一一月一五日付の原告X2の「生活状況報告書」(甲二六の三)中には、座っての作業は「可能と思慮します」とか、今後、「軽作業か整理作業」につけると思うとの記載がある。しかし、これは、質問事項に対して簡潔に回答を記載したもので、十分な根拠があるものとは認めがたく、このことから直ちに第五級二号相当とはいえない。

(4)  以上の点を総合して判断すると、原告の後遺障害等級は併合第一級(なお、気管の手術による発声の回復が見込まれるとしても、少なくとも第三級)に該当するものであるが、将来の蓋然性として、労働能力喪失率については九五パーセントと認定するのが相当である。また、前記認定の後遺障害の内容・程度、現在までの原告X1の日常生活における介助、看視の必要性等を総合して判断すると、随時介護を要する程度であると認めるのが相当である。

三  原告X1の損害の算定について

(1)  治療費 五〇一万〇五九七円

ア 証拠(甲九の一~五一)により、一五万〇七七七円を損害と認める。

イ 既払治療費四八五万九八二〇円(千葉県立佐原病院及び千葉大学医学部附属病院分)については、明らかに争いがない。

ウ 以上を合計すると、五〇一万〇五九七円となる。

(2)  入院雑費 六三万七〇〇〇円

日額一三〇〇円、入院期間四九〇日について、相当と認める。

(3)  栄養補助食品代 四一万三二五〇円

原告らは、病院の勧めもあり栄養補助食品を摂取させたと主張しており、原告X2も、栄養補助食品の摂取を千葉県立佐原病院の脳神経外科のC医師から指示あるいは許可されたと述べるが、C医師としてはそのような指示はした記憶も、許可した記憶もないと述べている(乙二三)。

もっとも、同医師は、患者側から病院食以外の飲食物を患者へ与えたいという希望があり、その飲食物が特に治療の妨げとならないと判断した場合においては、患者側の希望に添う場合があると述べているところ(乙二三)、原告X1は、入院当時、生命維持、回復に有効との判断で栄養補助食品が投与されていたものと解することも不合理ではなく、必要性、相当性の見地から、実費の五割の限度で認めることとする。

証拠(甲一〇の一~二一)によれば、栄養補助食品代として八二万六五〇〇円を要したことが認められるので、その五割に当たる四一万三二五〇円が本件事故と相当因果関係のある損害となる。

(4)  入院寝台寝具使用料 〇円

原告らは、支出の証拠(甲一一の一~九)を提出するが、弁論の全趣旨によれば、これらの支出は、前記入院雑費ないし後記入院付添費に含まれるものと解されるので、独立の損害と認めることはできない。

(5)  付添食費 〇円

原告らは、付添介護の必要性を主張し、その付添人の食費についても損害である旨主張する。

しかし、入院付添費については、別途認める余地があるが、それ以上に付添食費まで損害と認めるに足りる根拠はないので、原告らの主張は採用できない。

(6)  入院付添費 二九四万円

被告らは完全看護体制であることを理由にこれを否認するが、証拠(甲二九、三〇、三三~三五)によれば、原告らは、原告X1が死亡の危機から脱した後といえども、意識が回復し、徐々にではあるが回復基調にある間家族が励まし、あるいは少しでも知能を高め、正常な精神状態に戻るよう、また、身体的な苦痛、要求に応じてやる等家族の付添が不可欠であると考え、原告ら家族は必死に付添をしていたものであることが認められるところ、これらの事実関係に照らして、近親者付添費として日額六〇〇〇円の限度で相当と認める。

6000円×490日=294万円

(7)  通院交通費 五五万二五六五円

証拠(甲一三の一~七)により、高速料金一四万二七六〇円及びガソリン代四〇万九八〇五円の合計五五万二五六五円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(8)  治療器具費 二二万三七三四円

証拠(甲一四)により、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(9)  住宅改造費 四六五万三九〇四円

証拠(甲三一、三二)によれば、住宅改造費の見積額として七七五万六五〇七円が計上されていることが認められるところ、前記認定の後遺障害の内容・程度に照らして必要性を認めるが、家屋を新築した場合に家族の得られる利便性等の利得を控除すべきことを考慮して、六割の限度で相当と認める。

775万6507円×0.6=465万3904円

(10)  将来の交通費 〇円

原告らは、将来の交通費として、年額一八万円(ガソリン代+高速料金)を前提に五九年間の損害を主張するが、将来の蓋然性としても不確実なところがあり、これを認めるに足りる的確な証拠はないといわざるを得ない。

(11)  将来の介護費 四一三三万七七八三円

ア 自賠責保険後遺障害等級第三級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの)であり、常時介護ないし随時介護の必要性の認定がされているわけではない。

しかし、前記認定、説示のとおり、随時介護を要する程度であると認めるのが相当であり、証拠(甲二九、原告X2本人)によれば、現在まで、原告X1の祖母(七二歳)が看護している状況であることが認められる。

イ 原告らは、将来の原告X1には常時介護が必要であり、症状固定後一九年間(母の年齢が六七歳に達するまでの期間)は父母の介護費用として日額一万円、二〇年目以降は職業付添人費用として日額一万三〇〇〇円を請求している。

しかし、前記認定の原告X1の症状に照らして判断すると、精神疾患として後遺障害等級第三級三号の認定を受けており、その余の後遺障害と併せても、前記認定、説示のとおり、随時介護を要する程度のものというべきであり、将来の介護費用としては、症状固定後の全期間を通して日額六〇〇〇円と認めるのが相当である。したがって、原告ら主張の平均余命五九年間の介護費用は、次の計算式のとおり、四一三三万七七八三円となる。

6000円×365日×18.8757(59年ライプニッツ係数)=4133万7783円

(12)  逸失利益 八九六三万七七三四円

ア 原告X1は症状固定時(平成一二年六月二八日)一八歳であり、平成一二年賃金センサス男子労働者高卒計年収五一九万三三〇〇円を基礎とし、前記のとおり、労働能力喪失率を九五パーセントとし、喪失期間四九年間、ライプニッツ方式で中間利息を控除して計算する。

519万3300円×0.95×18.1687=8963万7734円

なお、原告X1は軽易な作業につくことが可能である旨の被告の主張に対しては、既に説示したとおりであり、将来原告X1の肉体的・精神的状況が改善されることは望ましいところであるが、現在の生活状況に照らして、前記のとおり、労働能力喪失率を九五パーセントとして算定するものである。

イ 中間利息の控除について

被告は、将来生ずるべき逸失利益や介護料等の損害の計算にあたっては、事故時から遅延損害金が付されることとの均衡から、事故時を基準としなければならない旨主張する。

確かに、不法行為に基づく損害は、不法行為時に発生すると解され、交通事故による損害賠償債務についても、附帯請求として事故時からの遅延損害金が原則として認められるところである。

しかし、事故時に発生する人身損害の内容の一つとして算定される後遺障害逸失利益及び将来の介護料の額は、裁判所において諸般の事情を考慮して合理的な相当額を定めれば足りると解されるところ、後遺障害逸失利益や将来の介護料の算定にあたり中間利息をどのように控除するかという問題と、損害賠償額全体についての遅延損害金の発生の問題とは必ずしも厳密な論理的関連性があるとはいえないのであって、実務上、後遺障害逸失利益や将来の介護料の算定に当たって、その最初の発生時と解される症状固定時の現価をもって損害と認定することに、さほどの不合理があるとはいえない。

また、従来、治療費のほか、休業損害や付添費についても、現実の発生期間が相当長期間にわたる場合であっても、その損害額に事故時からの遅延損害金が付されるからといって、厳密に中間利息を控除して事故時の現価を算出することはしておらず、単純に積算した額をもって事故時に発生する損害と認定してきているところである。そして、休業損害と後遺障害逸失利益、あるいは、付添費と将来の介護費は、症状固定時という時期を挟んで分かれてはいるものの、それぞれ性質上、同質性・連続性を有するものと解されるところ、後遺障害逸失利益あるいは将来の介護料についてのみ厳密に事故時から症状固定時までの中間利息を控除することは均衡を失することになる。したがって、後遺障害逸失利益や将来の介護費を算定する場面においてのみ厳密な論理を適用し、事故日から症状固定日までの中間利息を控除することを求めることが相当であるとはいえない。

なお、損害賠償額の算定において被害者が不当に利得することがないよう留意する必要はあるものの、遅延損害金が単利式で計算して付加されるのに対し、後遺障害逸失利益や将来の介護費については長期間にわたり複利式で中間利息が控除されることになるから、事故時から症状固定時まで(本件の場合は約二年)の中間利息を控除しないことから直ちに被害者が不当に利得するものともいえない。

以上によれば、結局、被告の主張を採用することはできない。

(13)  入通院慰謝料 四五〇万円

前記原告X1の傷害の内容・程度、入通院治療の経過、特に意識障害や度重なる手術等のために生死の境をさまようという重傷であったこと等を考慮して、四五〇万円が相当と認める。

(14)  後遺障害慰謝料 二六〇〇万円

原告X1の後遺障害は、自賠責等級第三級二号及び第三級三号の併合第一級に該当するものであり、後遺障害の程度・内容等を考慮して、二六〇〇万円が相当と認める。

(15)  確定遅延損害金 四一九万五八九〇円

原告X1は、平成一三年二月一六日自賠責保険金三〇〇〇万円を受領したが、事故時から支払の前日までに生じた年五分の割合による確定遅延損害金の額は、次の計算式のとおり、四一九万五八九〇円である。

3000万円×0.05×(2年+291/365日)=419万5890円

(16)  合計 一億八〇一〇万二四五七円

以上(1)から(15)を合計すると、一億八〇一〇万二四五七円となる。

(17)  過失相殺後の残額 一億一七〇六万六五九七円

上記一億八〇一〇万二四五七円について、前記認定、説示した三五パーセントの過失相殺をすると、残額は一億一七〇六万六五九七円となる。

(18)  損害の填補後の残額 八二二〇万六七七七円

原告X1は、自賠責保険金三〇〇〇万円の支払を受けていること、また、被告が治療費として四八五万九八二〇円を支払っていることから、その合計三四八五万九八二〇円が損害の填補となる。

よって、前記一億一七〇六万六五九七円からこれを控除すると、残額は八二二〇万六七七七円となる。

四  原告X2及び原告X3の損害の算定について

本件事故により、原告X1は、前記のとおり、意識障害や度重なる手術等のために生死の境をさまようという重傷を負い、後遺障害等級併合第一級の障害が残ったこと等の諸般の事情を考慮すると、原告X2及び原告X3は、原告X1の死にも比肩すべき精神的苦痛を被ったというべきであり、近親者固有の慰謝料として、各一三〇万円が相当と認める(なお、更に過失相殺はしない相当額である。)。

五  損害賠償額

(1)  原告X1については、前記八二二〇万六七七七円となるところ、これに対する相当な弁護士費用八二二万円を加算すると、合計九〇四二万六七七七円となる。

(2)  原告X2及び原告X3については、前記各一三〇万円となるところ、これに対する相当な弁護士費用各一三万円を加算すると、合計各一四三万円となる。

六  結論

よって、原告らの請求は、被告に対し、原告X1が前記九〇四二万六七七七円及び内金八六二三万〇八八七円(確定遅延損害金を除いた額)に対する不法行為日である平成一〇年五月一日から、原告X2及び原告X3が前記一四三万円及びこれに対する同年同月同日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文)

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