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東京地方裁判所 平成13年(ワ)18792号 判決 2002年3月15日

原告

株式会社ユーエフジェイ銀行

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

小沢征行

秋山泰夫

吉岡浩一

北村康央

小野孝明

安部智也

御子柴一彦

上野和哉

山崎篤士

平賀敏秋

上枝賢太郎

德田琢

神原宏尚

被告

主文

1  被告は、原告に対し、金一六一万八一九〇円及び内金一五九万九六七四円に対する平成一三年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2事案の概要

本件は、被告の依頼により現金振込みの組戻しをした原告が、その組戻しに際し、被告が、受取人から振込金の返還請求等があった場合には、①その金員の返還ないし②原告が受取人に支払った金員の補償をする旨約した旨主張して、被告に対し、上記返還ないし補償の合意に基づき、原告が受取人に支払った二〇〇万円の内金一五九万九六七四円と、上記金員に対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金として、上記二〇〇万円に対する平成一三年一月五日から同月一八日までの金三八三五円、内金一五九万九八七三円に対する同月一九日から同月二三日までの金一〇九五円、内金一五九万九六七四円に対する同月二四日から同年三月二六日までの金一万三五八六円(合計一万八五一六円)及び同月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める事案である。

1  前提事実(争いのない事実及び証拠上容易に認めることができる事実)

(1)  被告は、原告(旧商号 株式会社三和銀行)に対し、平成一二年七月一一日、原告新宿新都心支店のATM処理機を利用して、振込金額 合計二〇〇万円(一〇〇万円の二件)、受取人 B(以下「B」という。)、受取人口座 原告新小岩支店の普通預金口座への振込みを依頼し、原告は、その振込手続(以下「本件振込み」という。)をした。

(2)  被告は、原告に対し、平成一二年七月一二日、原告新宿新都心支店において、本件振込みの組戻しを依頼し、原告は、同日、その組戻手続(以下「本件組戻し」という。)を行い、受取人に対する本件振込みを取消し、被告の預金口座(原告日比谷支店の貯蓄預金口座)に二〇〇万円を入金した。

(3)  Bは、原告に対し、平成一二年一二月四日ころ、本件振込みに係る二〇〇万円の返還を請求し(≪証拠省略≫)、原告は、Bに対し、同月二〇日、その金員を支払った(≪証拠省略≫)。

(4)  原告は、被告に対し、平成一二年一二月二七日到達の書面で、原告がBに支払った二〇〇万円を同書面の到達後三日(銀行営業日)以内に支払うよう請求した(≪証拠省略≫)。

2  争点(返還ないし補償の合意)

(原告の主張)

被告は、本件組戻しに際し、原告との間で、組み戻す本件振込金につきBから返還請求があった場合に、①被告がBに二〇〇万円を支払うなどして解決し、その解決をしないときは、被告が原告に二〇〇万円を支払う旨ないし②原告がその解決のためにBに金員を支出したときは、これを被告が原告に補償して支払う旨約した。

第3争点に対する判断

1  前提事実(第2の1)、証拠(≪証拠省略≫)、証人C、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  被告は、原告に対し、平成一二年七月一一日一六時二四分及び同時三二分、原告新宿新都心支店のATM処理機を利用して、本件振込みを依頼した。

原告は、被告の本件振込依頼に基づき、遅くとも翌一二日午前七時〇分ころまでに、受取人Bの預金口座に本件振込金二〇〇万円を入金し、本件振込手続は完了した。

(2)  被告は、D(以下「D」という。)と共に、翌一二日午前八時過ぎころ、原告新宿新都心支店に赴き、応対した同支店の預金等の管理者(支店長代理)であるC(以下「C」という。)に対し、「ご利用明細」(≪証拠省略≫)を示し、「昨日一〇〇万円を二回振り込んだが、その後、誤りに気付いて、原告の本部に連絡したら、『明日午前八時三〇分までに支店に連絡すれば、振込みの取消しをすることができる』と言われたので、その手続をとって返金してほしい。」旨申し出た。Cが、被告らに対し、「この振込みは、既に受取人の預金口座に入金処理されているはずであるから、返金の申出は、振込みの組戻しになるので、受取人の了解を得なければならない。」などと述べたところ、被告らは、「午前八時三〇分までに支店に行けば振込みの取消しをすることができると原告の本部が約束してくれている。早く取り消さないと、受取人が預金を引き出してしまうので、問題が生じれば、こちらで受取人と話をつけるから、早く取り消してほしい。」と述べた。

(3)  Cは、被告らを待たせて、別室において、本部(お客さまサービスセンター)に電話し、本件の照会や約束があったかを照会したが、その確認を得ることができなかったことから、上司であるEに相談したところ、問題が生じれば、被告側で受取人と話をつけるとの申出であり、急いでいるようであるから、申出に応ずるほかないとの結論になった。

そこで、Cは、原告新小岩支店に本件振込金が受取人の預金口座に残っていることを確認した上、同支店に資金を原告新宿新都心支店に返却するよう依頼した後、被告から「私が依頼した振込は都合により組戻しいたしたく、組戻しにより処理してください。本件に関しては、私がその責に任じ貴行には迷惑をかけません。」との記載のある振込組戻し依頼書(≪証拠省略≫)に署名捺印をしてもらって、本件組戻しの手続をした。

(4)  なお、被告は、その本人尋問において、Dらが、本件振込みの当日、原告の本部(お客様サービスセンター)に電話し、間違った振込みの取消しの取扱いにつき照会したところ、翌日の営業時間前(午前八時三〇分以前)であれば、当該支店において振込みの取消しをすることができる旨の回答があった旨供述し、Dの陳述書(≪証拠省略≫)には、その電話番号等を明らかにした同旨の記載があるが、証拠(≪証拠省略≫)によれば、Dの陳述書に記載された原告の本部(お客様サービスセンター)の電話番号は、原告新宿新都心支店の代表電話番号であることが認められる上、(1)ないし(3)で認定した事実及び証拠(≪証拠省略≫)に照らすと、被告の上記供述及びDの陳述書の記載は、措信することができない。

2  1(1)ないし(3)で認定した事実及び前掲証拠によれば、被告は、原告新宿新都心支店のATM処理機を利用して本件振込みを原告に依頼し、その手続が完了して受取人の預金口座に入金がされた後に、同支店に赴き、本件振込みに係る金員の返還を申し出たが、同支店担当者から、その申出は、振込みの組戻しにあたるので、受取人の同意がなければ、これに応ずることはできない旨回答されたことから、受取人との間で問題が生じれば、被告らが受取人と話をつけると述べて、上記振込組戻し依頼書により、本件組戻しを依頼したのであって、被告は、本件組戻しに際し、原告との間で、受取人であるBから本件振込金の支払の請求等があった場合には、被告において、受取人Bの請求等に係る問題を解決するとともに、原告がその問題の解決のために受取人Bに金員を支出したときは、これを被告が原告に補償して支払う旨を約したと認めることができる。

したがって、被告は、原告が本件振込みに係る二〇〇万円の受取人Bの返還の請求により受取人Bに支払った二〇〇万円につき、上記補償の合意に基づき、これを原告に支払うべきである。

3  そうすると、原告の被告に対する上記補償の合意に基づく二〇〇万円の内金一五九万九六七四円並びに上記二〇〇万円ないしその内金に対する催告の期限の翌日である平成一三年一月五日から同年三月二六日までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金合計一万八五一六円及び上記内金一五九万九六七四円に対する同月二七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由がある。

第4結論

よって、原告の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 下田文男)

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