大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成13年(ワ)20251号 判決 2001年12月19日

原告

株式会社 対木一級建築士事務所

上記代表者代表取締役

野田秋雄

上記訴訟代理人弁護士

齋藤重也

被告

社団法人 全国宅地建物取引業保証協会

上記代表者理事

藤田和夫

上記訴訟代理人弁護士

佐久間豊

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、別紙記載の取引に関し、原告が金二〇〇万円の債権を有することを認証せよ。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告(宅地建物取引業法上の宅地建物取引業保証協会に該当する社団法人)の社員である訴外株式会社五大(以下「訴外会社」という。)に対し、同社との宅地建物取引業に関する取引により生じた債権を有するとして、宅地建物取引業法六四条の八第一、二項の規定に基づき、被告が供託した弁済業務保証金から弁済を受けるため認証の申出をしたところ、被告がその認証を拒否したため、被告に対し上記債権につき認証することを求めた事案である。

一  争いのない事実等(特に摘示のない限り当事者間に争いがない。)

(1)  原告は、土木建築測量及び建築設計管理並びにコンサルタント業務を目的とする株式会社である。

被告は、宅地建物取引業法上の宅地建物取引業保証協会(以下「保証協会」という。)に該当する社団法人であり、訴外会社は、宅地建物取引業者(以下「業者」という。)であって、被告の社員である。

(2)  原告は、平成四年一月八日、訴外会社との間で、岐阜県土岐市《番地省略》所在の区分所有建物(共同住宅「DUKE土岐」C1タイプ一〇六号室)を、次の約定で買い受ける旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、訴外会社に対し手付金一〇〇万円を支払った(《証拠省略》)。

代金一一七五万円

特約 訴外会社が契約に違反し、かつ、期限を定めた履行の催告に応じない場合には、原告は契約を解除することができる。この場合、訴外会社は原告に対し手付金を返還するとともに手付金相当額を違約金として支払う。

(3)  原告は、訴外会社に対し、相当期間を定めて上記建物を引き渡すよう催告した上、平成四年二月一二日ころ、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした(《証拠省略》)。

(4)  これにより、原告は、訴外会社に対し、本件売買契約の特約に基づき、上記支払済みの手付金一〇〇万円と違約金一〇〇万円の合計金二〇〇万円の支払を請求する債権(以下「本件債権」という。)を取得したが、遅くとも平成九年二月末日の経過により、本件債権の消滅時効が完成した。

(5)  原告は、名古屋地方裁判所に対し、訴外会社を被告として、本件債権の支払を求める訴訟を提起したところ、平成一一年一二月三日、訴外会社が適式な呼出を受けながら口頭弁論期日に欠席したため、同裁判所において原告の請求を認容する旨の判決の言渡しがあり、同判決は平成一二年一月四日の経過により確定した(《証拠省略》)。

(6)  原告は、被告に対し、平成一二年一月七日、宅地建物取引業法六四条の八第二項に基づき、本件債権について認証の申出をした。

(7)  被告は、原告からの上記申出に対し、平成一三年七月一〇日付で、本件債権の消滅時効を援用して、その認証を拒否した。

二  争点

保証協会である被告は、その社員と宅地建物取引業に関し取引をした原告に対し、その取引により生じた社員の債務につき、社員が消滅時効を援用していないにもかかわらず、消滅時効を援用して認証を拒否することができるか。

第三争点に対する判断

一  宅地建物取引業法(以下「法」という。)は、従来から存在していた営業保証金制度に加え、昭和四七年の第七次改正により弁済業務保証金制度を設け、両制度を併存させている。両制度は、業者との宅地建物取引により債権を取得した消費者の保護を目的とする点では共通であるが、営業保証金制度では、一業者が出捐した営業保証金が上記取引によって生じた債務の引当てとされるのに対し、弁済業務保証金制度においては、多数の業者が営業保証金の額よりも少ない弁済業務保証金分担金の出捐をして保証受託者たる保証協会を結成し、対外的に集団保証する形態が採られている。

そのため、会員である各業者から弁済業務保証金分担金の納付を受けた保証協会は、これを弁済業務保証金として供託所へ供託するものとされており、業者と宅地建物取引をした消費者は、保証協会の認証を受ければ、直ちに供託所において還付請求権を行使して、弁済業務保証金から弁済を受けることができる(法六四条の七第一項、六八条の八第一項、二項)。

このように、社員と取引した消費者は、保証協会の認証があれば保証協会が供託した弁済業務保証金から社員の債務の弁済を受けることができるという直接的な関係があり、これによって社員の債務の履行が担保されていることに鑑みれば、保証協会は、社員の債務について保証人あるいは物上保証人的な地位に立つというべきであって、社員が消滅時効を援用するか否かに関わりなく、独自の立場で社員の債務に対し消滅時効を援用することができると解するのが相当である。

二  原告は、保証協会の社員が宅地建物取引により債務を負っていることが確定判決によって明らかになっているにもかかわらず、保証協会が消滅時効を援用して認証を拒否することができるとすると、社員と取引した消費者は業者が営業保証金を供託していれば受けられたはずの弁済を受けられないことになって、弁済業務保証金制度の立法趣旨に反する旨主張する。

しかしながら、上記説示のとおり、営業保証金制度では、一業者が供託した営業保証金が債務の引当てとされているのに対し、弁済業務保証金制度においては、弁済業務保証金は取引した社員だけではなく、他の社員の出捐した分担金によって組成され、しかも、供託者である保証協会が弁済業務の実施機関として弁済額を認証する権限を付与されているのであるから、保証協会は、消費者から認証の申出があった場合、弁済業務保証金から弁済を受ける権利が存在するか及びその額につき、取引した社員の認識・判断や両者間の確定判決に拘束されることなく、独自に事実認定と法律判断を行うことができるというべきであって、社員が主張しない抗弁を主張することも許されると解される。

このように解しても、両制度によって保護される債権の範囲については異なるところがなく(法二七条一項、六四条の八第一項)、保証協会の社員と宅地建物取引をした消費者としては、その取引により生じた債権の存在を主張立証し、社員や保証協会から出された抗弁を排斥することができれば保証協会の認証を受けることができ、その結果、営業保証金相当額の範囲内で弁済業務保証金から弁済を受けられるのであるから、営業保証金制度の代替的制度として設けられた弁済業務保証金制度の消費者保護の趣旨に反することにはならない。原告が主張するように、社員に対する請求を認容した確定判決がある以上、保証協会が独自に抗弁を主張することは許されないとすると、社員が認証申出人と通謀して取引上の債権を仮装したような場合にも認証しなければならないことになり、不合理である。

三  以上によれば、保証協会である被告は、その社員である訴外会社と取引をした原告に対し、訴外会社の債務につき、消滅時効を援用して認証を拒否することができるというべきである。

第四結論

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大嶋洋志)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例