東京地方裁判所 平成13年(ワ)20847号 判決 2003年2月27日
原告
X1
ほか三名
被告
Y
主文
一 被告は、原告X1に対し、七一七一万六九九四円及びこれに対する平成一一年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2、同X3及び同X4に対し、各二〇〇万円及びこれらに対する平成一一年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告X1のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告X1と被告との間においては、これを三分して、その一を同原告の負担とし、その余を被告の負担とし、その余の原告らと被告との間においては、全部被告の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告X1に対し一億一〇二二万八五〇九円、同X2、同X3及び同X4に対し各二〇〇万円並びにこれらに対する平成一一年八月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、自動二輪車を運転して走行中、信号機による交通整理の行われていない十字路交差点(以下「本件交差点」という。)において、被告運転の普通乗用自動車と出合い頭に衝突して受傷し、後遺障害等級一級三号に該当する後遺障害を負った原告X1が、民法七〇九条、自賠法三条に基づき、被告に対して損害賠償の請求をし、また、原告X1の妻である原告X2、長女である原告X3及び長男である原告X4が、原告X1の受傷により著しい精神的苦痛を被ったとして、民法七〇九条、七一〇条に基づき、被告に対して慰謝料の請求をした事案である。
本件の主たる争点は、過失相殺の成否ないし双方の過失割合である。
一 前提となる事実(当事者間に争いがない。)
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成一一年八月一三日午前八時〇〇分ころ
(二) 場所 東京都品川区戸越二丁目六番一号先路上
(三) 原告車両 原告X1が運転する普通自動二輪車
(四) 被告車両 被告が運転する普通乗用自動車
(五) 態様 原告X1が原告車両を運転して本件交差点に差し掛かったところ、被告が被告車両を運転して本件交差点に進入してきたため、原告車両と被告車両とが出合い頭に衝突し、原告X1が受傷した。
2 責任原因
被告には、左右の安全を十分に確認することなく本件交差点に進入した過失があり、また、被告は、被告車両を自己のために運行の用に供していたものであるから、民法七〇九条、七一〇条、自賠法三条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
3 原告X1の受傷内容
第七胸椎粉砕骨折(対麻痺)、第三・四頸椎中心性脊髄損傷
4 原告X1の治療経過
(一) 入院四一五日間
ア 平成一一年八月一三日~同年九月一三日 昭和大学病院
イ 平成一一年九月一三日~平成一二年三月二七日 東京労災病院
ウ 平成一二年三月二七日~同年九月三〇日 国立療養所箱根病院
(二) 通院八八日間(症状固定時まで)
平成一二年一〇月一日~同年一二月二七日 東京労災病院
5 原告X1の後遺障害
原告X1は、平成一二年一二月二七月に症状固定し、自動車保険料率算定会から、自賠法施行令二条別表(平成一三年政令第四一九号による改正前のもの)の後遺障害別等級表一級三号に該当する後遺障害の認定を受けた。
二 本件の争点
1 過失相殺の成否ないし双方の過失割合
(被告の主張)
(一) 本件事故の発生についての被告の過失は、以下に述べるとおり、到底、重大なものということができず、反面として、原告X1にも本件事故の発生・損害の拡大について相応の過失の認められる事案であり、その割合は四〇%を下回るものではない。
(二) 本件事故現場(本件交差点)は、信号機による交通整理の行われていない交差点であり、被告側に一時停止が義務付けられている。被告は、本件交差点に進入するに当たり、停止線で一時停止をして左方を確認したが、左方からの進行車両はなかった。そこで、被告は、ゆっくりと発進し、本件交差点進入前に左側から前照灯の光が見えたため停止し、一台の単車をやり過ごした。
その後、被告は、被告車両を発進させ、アクセルとブレーキを小刻みに踏みながら本件交差点に進入したところ、突然左側から原告車両が進行してきたためブレーキを踏んだが、被告車両の前部左角付近に原告車両が接触した。原告車両が被告車両に接触する前の被告車両の速度は、時速五km以下程度であった。なお、被告が本件交差点に進入した際、本件交差点左側入口部分に幌付きの普通貨物自動車が停止しており、被告の本件交差点進入時における左側の安全確認を妨げた事実がある。
このような本件事故発生の経緯によれば、被告に本件交差点進入時の安全確認に不十分な点があったとはいえ、被告は、本件事故現場のような商店街の交差点に進入する際の通常の安全確認義務を尽くしているというべきであり、さらに、被告の安全確認を妨げたのが前記幌付きトラックの存在であることを考えた場合、被告に重大な過失があるとはいえない。
(三) これに対し、原告X1は、本件事故現場付近に居住し、本件交差点の状況をよく知っていたと思われるが、本件交差点進入時に道路中央寄りを進行して交差点に進入していること、本件交差点角の株式会社東京電板の建物の前に二台の駐車車両があり、これが本件交差点の右側部分の進入路の視界を妨げていたにもかかわらず、交差道路の安全を全く注意しておらず、十分な減速もしなかったこと、本件交差点進入時の被告車両の速度は時速五km以下という低速であったのであるから、前方をよく注意し被告車両の存在を確認すれば、被告車両との接触を回避することができたであろうこと等の事情を考慮すると、本件事故の発生については、原告X1の過失にもそれ相応のものがあったというべきである。
また、被告車両の原告車両への衝突は、実際には「接触」程度のものであったにもかかわらず、原告車両が接触後に転倒し、滑走していることを考えると、当時の原告車両の速度は時速二〇kmどころではなく、制限速度である時速三〇kmを優に超過していたことも考えられる。本件の接触態様からいって、原告車両の速度がそれほど出ていなければ、原告X1の受傷内容・程度も重大なものとはならなかった可能性が大きい。
特に、前記のとおり、本件交差点角に二台の駐車車両があることを考えたとき、原告X1は、被告車両のような車両が本件交差点に徐行状態で進入してくることを予見し、同車両等との衝突を避けるために十分な減速を行い、道路左側に進行位置を変える等の措置を採るべきであった。
(四) 以上のとおり、原告車両の速度が制限速度である時速三〇kmを上回っていたと考えられること、原告X1が被告車両を発見するのが遅れたこと、原告X1において、自車進行道路が優先道路というわけではなく、絶対的な優先通行を保障されているのでないにもかかわらず、被告車両がよもや本件交差点に進入することなどないと勝手に思い込んだこと、その結果、道路中央寄りを走行していたこと等の事情を考慮すると、原告X1に著しい過失又は重大な過失に準ずる過失が存するものというべきである。このような観点から、本件事故の発生・損害の拡大については、原告X1にも四〇%以上の過失が認められるべきである。
(原告らの認否及び反論)
(一) 原告X1は、原告車両を運転し、本件交差点に差し掛かった際、同交差点の見通しが良くなく、また、横断歩道が設置されていることから、同交差点の少し手前で、通行人がいないことを確認した上で、自車の速度を時速約二〇kmに減速させて同交差点を通過しようとした。その際、原告X1は、本件交差点の手前で被告車両の存在を目の端でチラッと確認したが、自車の走行している道路が優先道路であることから、被告車両が突然発進することなど予想できず、そのまま同交差点中央付近にまで進行した。
しかるに、被告車両が原告車両の右方から突然スーッと進行してきたため、原告X1はとっさにブレーキを踏み、ハンドルを左に切って衝突を避けようとしたものの、間に合わず、原告車両の右側面と原告X1の右足に被告車両の左前部が衝突し、本件事故に至った。そして、その衝撃により、原告X1は、被告車両のフロント上に落下した後、被告車両の前方の道路に落下し、その後、うつ伏せのまま原告車両から見て左前方に路上を滑走し、アーケードの鉄柱に激しく打ち付けられた。
被告が主張しているように、被告がアクセルとブレーキを小刻みに踏みながら本件交差点に進入したということは、明らかに事実に反する。
(二) 被告としては、左方の安全を確認することができる位置まで進行し、十分に左方の安全を確認してから本件交差点内に進入すべきであったにもかかわらず、原告車両の前を走行していた単車をやり過ごした後、左方の安全を確認することなく、しかも、必要な減速ないし停止をせずに、左方より接近してきた原告車両に気付かないまま、自車を本件交差点内に漫然と進行させたために、本件事故に至ったもので、本件事故は被告の一方的な過失によって惹起されたものである。
被告は、幌付きトラック越しに身を乗り出すようにして左方道路の安全を確認したと供述しているが、このような主張は本件訴訟になって初めて出されたもので、捜査段階での刑事記録中には、そのような供述は見いだせない。被告は、捜査段階では、これとは逆に、被告が左方の安全確認を怠ったことを明確に認めていた。付言すれば、被告は、当初、カーブミラーを確認したが左方からの車両の進行はなかったと主張し(答弁書)、また、捜査段階においてもカーブミラーで左方を確認したかのような供述をしていたが(甲一六)、その後、当該カーブミラーが壊れていたことが判明するやいなや、それまでの主張を撤回している。被告が左方の安全確認をしなかったことを取り繕おうとしていることは、明らかである。
また、被告は、本件交差点の左側に並列に駐車していた二台の車両(幌付きトラックと窓ガラスにフィルムを貼った乗用車)の存在、さらに、訴訟の途中からは、左方を確認するためのミラーの破損等を理由に、十分な安全確認は困難であったかのように主張している。しかしながら、運転者が尽くすべき安全確認義務の内容は、その時々の道路や周囲の状況等に応じて具体的に決せられるもので、安全確認が困難な状況であったならば、それだけ事故が予想されるわけであるから、より慎重に対応し、注意義務を尽くすべきであったことはいうまでもない。被告としては、見通しの悪い左方から進行してくる車両を想定して、そのような車両を発見したならば、直ちにその場に停止できる程度の速度、すなわち最徐行をするか、少なくとも、被告車両の先端がセンターラインを越える手前で一時停止して、左方より接近してくる車両の有無等を確認すべきであった。
(三) 被告は、原告車両が本件交差点に進入した時に道路中央寄りを進行していたことをもって原告X1の過失の一要素であると主張しているが、この点は争う。そもそも本件事故当時において原告車両の進行道路は空いており、もちろん対向車も全く走行していなかったこと、及び原告車両から見て道路左側部分を通行人が相当数歩行していたことから、原告車両が道路中央寄りを走行していたことについて、何ら責められる点はない。
他方、前記のとおり、原告X1は、被告車両の存在を認識しつつ、自車が走行していた道路が優先道路であることから、当然被告車両がそのまま停止しているものと信じ、自車の速度を時速約二〇kmに減速させて本件交差点に進入したので、この点からも原告X1に過失はない。
2 原告らの損害額
(原告らの主張)
(一) 治療費及び薬代 二九八万九九七八円
本件事故による原告X1の治療費及び薬代(社会保険負担分を除く。)は合計二九八万九九七八円であり、そのうち二九五万四八〇一円は被告側から支払われたが、残金三万五一七七円は原告X1が支払った(甲七)。
(二) 付添看護費 二七八万九八二二円
本件事故の結果、原告X1は、前記のとおり重大な傷害を負ったため、医師の指示により、職業付添人を依頼せざるを得なかった。その付添費の総額は、二七八万九八二二円である。
(三) 入院雑費 五三万九五〇〇円
四一五日間の入院に伴う雑費は、一日当たり一三〇〇円として計算すると、次のとおり五三万九五〇〇円となる。
1300円×415日=53万9500円
(四) 付添交通費 五二万九四九〇円
本件事故の結果、原告X1は前記のとおり重大な傷害を負ったため、職業付添人の付添いだけでは足らず、特に職業付添人の勤務時間の前後には、常に妻である原告X2や長女である原告X3が交代で付き添わざるを得なかった。そのための交通費として、原告X1は五二万九四九〇円を支出した(甲八)。
(五) 退院後の通院交通費 六万三八二〇円
原告X1は、退院後も、東京労災病院泌尿器科に定期的に通院し、診察及び投薬を受け、症状固定後においても、医師の指示により、月一回程度の頻度で通院を続けて検査、投薬等を受けている(甲一四の一・二)。そのための交通費として、原告X1は、本件訴え提起時点までに限定しても六万三八二〇円を支出している(甲九)。
(六) 装具・リハビリ用具代等 五六万一六三二円
原告X1は、本件事故の結果、装具・リハビリ用具等の代金として五六万一六三二円を負担した。そのうち二三万〇一八六円は被告側から支払われたが、残金三三万一四四六円はまだ支払われていない(甲一〇)。
(七) 家屋改造費 八〇八万六五〇〇円
原告X1は、本件事故により後遺障害等級一級三号に該当する後遺障害を残し、その結果、日常生活の大半をベッドで過ごすことを強いられるとともに、移動に際しては車椅子によらざるを得なくなった。
しかるに、本件事故当時、原告X1が居住していた居宅(木造スレート葺二階建て。以下「旧居宅」という。)は、一、二階の床面積がそれぞれ二八m2と狭く、一階出入口にスロープを設置する奥行きもないこと等から(甲一一の一・二、一五)、原告X1の使用が可能となるように旧居宅を改造するためには約一七一一万五〇〇〇円を要するとされている(甲一九の一ないし五)。その上、仮に上記改造を行ったとしても、旧居宅に電動ベッドを設置する等した場合には原告X1が車椅子で動くための空間がほとんどなくなるため、旧居宅に居住することは困難であった。
そこで、原告X1は、旧居宅の代わりに、現住所地に新たに六四八〇万円で居宅(甲一一の三。以下「新居宅」という。)を購入するとともに、その新居宅もそのままでは使用できないため、その出入口、洗面所、トイレ等の改造を余儀なくされ、改造費用一六〇万六五〇〇円を要した(甲一一の四・五)。新居宅は、原告X1が本件事故により重大な後遺障害を負わなかったとすれば購入する必要はなかったもので、少なくともこの購入代金の一〇%に相当する六四八万円は、本件事故との間に相当思果関係がある。この六四八万円に新居宅の改造費用一六〇万六五〇〇円を加えても、合計金額は八〇八万六五〇〇円であり、旧居宅の改造費用見積金額に満たない。したがって、本件事故による家屋改造等に関する原告X1の損害は、上記八〇八万六五〇〇円を下回ることはない。
(八) 文書料(甲一二) 三万一五〇〇円
(九) 将来の付添費用 三二九四万八七六九円
原告X1は、後遺障害等級一級三号に該当する後遺障害を残し、トイレや車椅子、ベッドに移乗するときなどに介助が不可欠な状態であり、その際、介助者に相当の負担が強いられ、このような状態が終生続くことが明らかである(甲一八、二〇)。したがって、近親者付添いを前提としても、将来の付添費用は一日につき六〇〇〇円を下回ることはない。
平成九年簡易生命表によれば、昭和○年○月○日生まれの原告X1の今後の生存期間は二三年を下回らない。したがって、将来の付添費用は次のとおりとなる。
6000円×365日×15.0451(新ホフマン係数23年分)=3294万8769円
(一〇) 将来のおむつ代 一六四万七四三八円
原告X1は、常時、大人用おむつ、尿取りパッドの着用を余儀なくされ、一日につき紙おむつ一枚(一枚一四〇円)、尿取りパッド四枚(一枚四〇円)が必要である(甲一八)。したがって、将来のおむつ代は、次のとおりとなる。
300円×365日×15.0451(新ホフマン係数23年分)=164万7438円
(一一) 休業損害 九六七万六二六一円
原告X1の平成一〇年の年収は七一五万七六〇〇円であり、原告X1は本件事故日である平成一一年八月一三日から症状固定日である平成一二年一二月二七日までの合計五〇三日間休業した。原告X1が当時の勤務先から平成一一年一二月分の賞与として支給を受けた一八万七五〇〇円を控除すると、原告X1の休業損害は、次のとおりとなる。
715万7600円÷365日×503日-18万7500円=967万6261円
(一二) 逸失利益 五六八六万六四一六円
原告X1は、本件事故により後遺障害等級一級三号に該当する後遺障害を残すに至った(労働能力喪失率一〇〇%)。原告X1の平成一〇年の年収七一五万七六〇〇円を基に、原告X1が六七歳になるまで一〇年間稼働できるものとして計算すると、その逸失利益は次のとおりとなる。
715万7600円×7.9449(新ホフマン係数10年分)=5686万6416円
(一三) 入通院慰謝料 四〇〇万〇〇〇〇円
原告X1は、前記のとおり、本件事故の結果、入院四一五日間、通院八八日間を要する治療を余儀なくされた上、症状固定後も、医師の指示により定期的な通院が必要とされ、生涯にわたり通院、投薬を続けざるを得ない状況にある。これらを考慮するならば、入通院慰謝料は四〇〇万円を下回ることはない。
(一四) 後遺障害慰謝料 二六〇〇万〇〇〇〇円
原告X1は、後遺障害等級一級三号に該当する後遺障害を残し、終生、日常生活において車椅子を使用しなければならないほか、自力での排尿、排便も不可能となった。そのため原告X1が日常的に想像を絶する苦痛を強いられていることを考慮すると、その後遺障害慰謝料は二六〇〇万円を下回ることはない。
(一五) 物損(原告車両の損害) 二九万〇〇〇〇円
原告X1が本件事故の際に乗車し、本件事故により全損となった自動二輪車の本件事故当時の時価は、二九万円である(甲二二)。
(一六) 弁護士費用 八〇〇万〇〇〇〇円
(一七) 小計((一)~(一六)の計) 一億五五〇二万一一二六円
(一八) 損害填補後の損害残額 一億一〇二二万八五〇九円
原告X1の損害については、自賠責保険から三〇〇〇万円、被告の任意保険から一四七九万二六一七円が支払われた。したがって、(一七)の損害額からこれらを控除した一億一〇二二万八五〇九円が損害填補後の原告X1の損害残額となる。
(一九) 原告X2、原告X3及び原告X4の損害
前記のとおり、原告X1は一命こそ取りとめたものの、極めて重度の後遺障害を残すに至った。その結果、妻の原告X2のほか、長女の原告X3と長男の原告X4は、原告X1が死亡した場合にも比肩すべき重大な精神的苦痛を被った。その慰謝料としては、各二〇〇万円が相当である。
(被告の認否及び反論)
(一) 治療費及び薬代について
被告側で既に支払っている二九五万四八〇一円と、原告X1の立替支払分のうち症状固定日までの分一万三三二七円との合計二九六万八一二八円の限度で争わない。
(二) 付添看護費について
特に争わない。
(三) 入院雑費について
入院雑費の単価一三〇〇円は争う。
(四) 付添交通費について
職業付添人の存在の関係で、家族付添いの必要性・合理性を争う。
(五) 退院後の通院交通費について
その必要性・合理性・相当性を争う。
(六) 装具・リハビリ用具代について
被告側で既に支払済みの二三万〇一八六円の限度では争わない。その余は、必要性・相当性を争う。
(七) 家屋改造費について
原告らは、新居宅購入費の一割相当額をもって家屋改造費としての損害と主張するが、新居として六四八〇万円もの高額な居宅を購入する必要性があるかどうかは大いに疑問であり、新居宅購入後の修繕費用の限度をもって損害と見るべきである。なお、原告らは、旧居宅を他人に賃貸して家賃収入を得ている事実がある。
(八) 文書料について
甲一二の二の文書の意味が不明である。その余は特に争わない。
(九) 将来の付添費用について
原告X1の将来の付添看護の必要性・程度を考えた場合、その単価は一日五〇〇〇円を限度として認定すべきであり、中間利息の控除はライプニッツ係数をもって行うべきである。
(一〇) 将来のおむつ代について
将来の付添費用と別個に認定する必要性・合理性を争う。
(一一) 休業損害について
争う。
(一二) 逸失利益について
原告X1の勤務先からの給与の支払が、就労可能年齢である六七歳まで毎年七一五万七六〇〇円の金額をもって継続・維持されるとは到底考えられない。少なくとも六〇歳以降は低減し、六五歳以降は退職となるので、六〇歳以降は賃金センサス等の合理的な年収基準により算定すべきである。また、中間利息はライプニッツ係数をもって控除されるべきである。
(一三) 入通院慰謝料について
症状固定日までの入院四一五日間、通院実日数八八日間を総合すると、三〇〇万円程度をもって限度とするのが相当である。
(一四) 後遺障害慰謝料について
金額の相当性を争う。
(一五) 物損(原告車両の損害)について
原告車両は、平成元年に製造されたものであり、本件事故当時、製造時から一〇年以上が経過していることになる。ちなみに、平成二年度のレッドブック(乙七)によると、原告車両と同型車の新車価格は三九万九〇〇〇円となっている。
(一六) 弁護士費用について
不知ないし争う。
(一七) 小計((一)~(一六)の合計)について
不知ないし争う。
(一八) 損害填補後の損害額残額について
原告らの主張する自賠責保険及び被告の任意保険からの填補額のほか、被告側から健康保険組合に対し原告X1の治療費として五四五万九六五四円を支払っている(乙三の一ないし三)。
その余は、否認ないし争う。
(一九) 原告X2、原告X3及び原告X4の損害について
原告X1に通常の基準どおりの慰謝料を認定するのであれば、原告X2ら家族の固有の慰謝料を認定すべきではない。もし、これら家族にも固有の慰謝料を認定するのであれば、原告X1の慰謝料額を減額して認定すべきである。
第三争点に対する判断
一 過失相殺の成否ないし双方の過失割合(争点1)について
1 甲一六ないし一八、乙一の一・二、四ないし六、原告X1本人、被告本人及び弁論の全趣旨によれば、本件事故発生に至る経過として、次の事実を認めることができる。
(一) 本件交差点は、三ツ木通り方面から第二京浜国道方面に至る東西道路(以下「第一道路」という。)と、大崎方面から補助二六号線方面に至る南北道路(以下「第二道路」という。)とが交わる十字路交差点である。本件交差点では、信号機による交通整理が行われていない。
(二) 第一道路は、「戸越銀座商店街通り」と呼ばれている片側一車線の道路であり、車道の幅員は合計四・五mである。車道の両側には、それぞれ幅員一・〇mの路側帯が設けられている。第一道路の最高速度は、時速三〇kmに規制されている。
(三) 第二道路は、大崎方面から補助二六号線方面へ通行するための一方通行道路である(以下、大崎方面から進行することを前提として左右の関係等を記載する。)。車道の幅員は四・九mであって、センターラインの標示はない。第二道路の左側には路側帯が設けられており、その幅員は、本件交差点手前の部分が一・一mである。
第二道路から本件交差点に至る手前には、一時停止の道路標識が設置されており、路上に停止線が標示されていた。この停止線は交差点入口からかなり離れた所に標示されており、停止線の手前に停止した場合に、第二道路を走行する車両の有無等を確認することはできない。また、第二道路から本件交差点に進入する車両が左右の安全を確認することができるように、本件交差点出口の道路角にはカーブミラーが設置されていた。しかし、本件事故当時、カーブミラーは一部壊れていて、大崎方面から本件交差点に至った場合には、右方道路(第一道路の第二京浜国道方面)の安全を確認することはできたが、左方道路(第一道路の三ツ木通り方面)の安全を確認することはできなかった。
(四) 本件交差点は、戸越銀座商店街の中心部にあり、平素は、通行人、車両等が頻繁に通行しているが、本件事故が発生した平成一一年八月一三日午前八時ころは、商店街の開店前の時間であり、また、当日がお盆の初日に当たることもあって、交通は比較的閑散としていた。
(五) 本件交差点においては、第一道路、第二道路とも道路幅員が狭い上、角の建物の多くが敷地一杯に建てられているため、第一道路の側からも、第二道路の側からも、交差道路の見通しは悪い。原告X1も被告も、平素から本件交差点を通っており、このことはよく知っていた。特に、本件事故当日は、本件交差点の北東角にある株式会社東京電板の建物の前の第一道路側に、二台の車両が横方向に並び、車道側の車両が車道に一・二mくらいはみ出すような形で駐車しており、そのため、後記の原告車両進行側と被告車両進行側からの相互の見通しは、大変悪かった。
(六) 原告X1は、原告車両を運転して、時速約三〇kmの速度で第一道路を走行し、本件事故発生時刻ころ、三ツ木通り方面から本件交差点に差し掛かった。原告X1は、本件交差点の手前で、自車の速度を時速約二〇kmに減速させた。原告X1は、道路左側の路側帯付近を歩行者が通行しており、また、対向車がなかったことから、自車線の中央寄りを走行していた。
原告X1は、本件交差点に進入する前に、前記の二台の駐車車両越しに、右側の第二道路から本件交差点に進入しようとしている被告車両の存在を認めたが、自車の走行している第一道路に優先的な通行権があるから被告車両が道を譲ってくれるものと考えて、そのままの速度で本件交差点内に進入した。
(七) 一方、被告は、被告車両を運転して第二道路を走行し、本件事故発生時刻ころ、大崎方面から本件交差点に差し掛かった。被告は、停止線の手前で一時停止し、カーブミラー(前記のとおり、一部破損していて、本件交差点の右方道路しか見通すことができない。)で第一道路を走行する車両の有無を確認した。
被告は、その後、本件交差点の入口手前まで徐行して進行したが、左方に前照灯の光が見えたので停止したところ、左方道路から一台の単車が交差点を通過していった。被告は、その後、交通量が少なかったこともあって、左方道路から本件交差点に進入する車両はないだろうと考え、時速数km程度の速度で本件交差点に進入したところ、左方道路から本件交差点に進入してきた原告車両を左前方約九mの地点に発見し、急制動の措置を採ったが間に合わず、自車前部左角付近を原告車両の右側面に衝突させた。
2 被告本人の供述中、以上の認定に反する部分は、捜査段階における被告の供述内容(甲一六のうち、被告の司法警察員及び検察官に対する各供述調書参照)に照らして採用し難い。
3 ところで、車両等は、道路標識等により一時停止すべきことが指定されているときは、停止線の直前で一時停止しなければならず、かつ、交差道路を通行する車両の進行を妨害してはならない(道路交通法四三条)。したがって、停止線の直前で停止しただけでは左右の安全を十分に確認することができないときは、当該交差点の具体的な状況に応じて、徐行をして進行し、安全確認が可能な場所で改めて一時停止するなどしで、左右の安全を確認する必要があるというべきである。
前記の認定事実によれば、一時停止規制のある第二道路から本件交差点に進入しようとする場合には、もともと本件交差点の左右の見通しが悪いことに加えて、本件事故当時は、カーブミラーでは左方道路から走行してくる車両の有無を確認することができず、さらに、本件交差点角に駐車していた二台の車両のため、左方道路の見通しが極めて悪い状況となっていたものである。したがって、第二道路から本件交差点に進入しようとする車両の運転者としては、停止線の手前で一時停止した後、左方道路の見通しのきく場所まで進行し、さらに一時停止するなどして、左方道路から本件交差点に進入してくる車両の有無を十分に確認すべき注意義務があったというべきである。しかるに、被告は、停止線の手前で一時停止をした後、徐行をして進行し、停止して左方道路から進入してくる車両の有無を確認したところ、一台の単車が本件交差点を通過していったことから、交通閑散であったこともあり、その後を左方道路から走行してくる車両はないだろうと軽信し、左方の安全をさらに十分に確認することのないまま本件交差点に進入したため、原告車両と衝突したものである。
したがって、本件事故発生の主たる原因は、被告が本件交差点に進入するに当たり左方の安全を十分に確認しなかったことにあり、被告において、一台の単車が本件交差点を通過していった後、改めて左方の安全を十分に確認していたならば、進行してくる原告車両を発見することができ、これとの衝突を回避できたことは明らかである。被告は、本件交差点角に駐車していた幌付きの普通貨物自動車のため左方の安全確認が困難であったというが、このような事情は、被告に対してより慎重な左方の安全確認を求める理由にこそなれ、被告の安全確認の注意義務を軽減するものではない。
4 一方、第一道路を走行していた原告X1としても、本件交差点は左右の見通しがきかないのであるから、徐行をして進行すべき注意義務があり、このことは、交差道路に一時停止規制がある場合でも異なるものではない(道路交通法四二条一号参照。ちなみに、第一道路は優先道路とされていない。)。取り分け、本件交差点は、角に駐車車両が存在していた関係で右方の見通しが極めて悪かったのであるから、交差道路から本件交差点に進入しようとする車両を発見したらいつでも停止することができるよう、十分な減速をして本件交差点に進入すべきであったのに、原告X1は、第一道路を走行する側に優先的な通行権があるものと考え、時速二〇km程度に減速したままで本件交差点を通過しようとした過失がある。
なお、第一道路は路側帯を含めても幅員が六・五mしかなく、前記のとおり路側帯付近を歩行者が通行していたことを考慮するならば、原告X1が自車線の中央寄りを走行していたことは、本件事故発生に関して、特に過失と評価すべきものではない。
5 以上の事情のほか、単車と四輪車とが衝突した場合には、ほぼ例外なく単車の運転者の側に重大な被害が生じており、また、四輪車に比して単車の事故回避可能性が低いことからすれば、単車に対する関係では四輪車の注意義務をより加重すべきであることも併せ考慮すると、本件事故発生についての過失割合は、原告X1二〇:被告八〇とするのが相当である。
二 原告らの損害額(争点2)について
1 治療費及び薬代 二九八万九九七八円
本件事故による原告X1の治療費及び薬代(社会保険負担分を除く。)のうち、二九五万四八〇一円が被告側から支払われたことは、当事者間に争いがなく、甲七によれば、これ以外に、原告X1において三万五一七七円の治療費及び薬代を支払っている事実が認められる。この原告X1の負担分のうち一万三三二七円については、症状固定日までの分であるとして被告もその必要性を争っておらず、その余の二万一八五〇円についても、後記5のとおり、原告X1には症状固定後も治療を続ける必要性があるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるべきである。
2 付添看護費 二七八万九八二二円
当事者間に争いがない。
3 入院雑費 五三万九五〇〇円
前記第二の一4のとおり、原告X1は本件事故後四一五日間の入院治療を余儀なくされたものであるところ、この間の入院雑費は一日一三〇〇円の割合で算定するのが相当である。
1300円×415日=53万9500円
4 付添交通費 五二万九四九〇円
甲八、二〇及び弁論の全趣旨によれば、<1> 原告X1が東京労災病院に入院していた平成一一年九月一三日から平成一二年三月二七日までの間、毎日、原告X1の妻である原告X2又は長女である原告X3が交代で同病院を訪れ、原告X1の看護に当たっていたこと、<2> 日曜祭日などには、原告X2及び原告X3と共に、長男である原告X4も同病院を訪れていたこと、<3> 平成一二年三月二七日に原告X1が国立療養所箱根病院に転院した後は、土曜・日曜を中心に、週一、二回、原告X2又は原告X3が同病院を訪れ、原告X4も、月二回前後、同病院を訪れていたこと、<4> これらの交通費として、合計五二万九四九〇円を支出したこと、が認められる。
ところで、原告X1については、その入院期間中、医師の指示により職業付添人を依頼したことは、当事者間に争いがない(前記2)。しかし、後記7のとおり、原告X1が極めて重大な傷害を負ったことにかんがみると、東京労災病院においては、特に職業付添人の勤務時間の前後に、原告X1の妻や長女が補助的に付添いをする必要があったものと認められる。また、一週間に一回程度、原告X4が原告X1の容体を気遣って見舞いに訪れることは、肉親として当然のことであるし、国立療養所箱根病院に転院後は、付添看護の必要はなかったとしても、原告X1の家族が一週間に一、二回見舞いに訪れることは、社会通念上相当な範囲のものであって、これらの付添い及び見舞いに要した交通費は、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。
5 退院後の通院交通費 六万三八二〇円
甲九、一四の一・二、一八、原告X1本人によれば、原告X1は、本件事故の後遺障害により排尿機能を失い、症状固定後も、泌尿器科の医師の指示により、月一回程度通院して検査、投薬を受けていること、本件訴え提起時点までに、そのための通院交通費としてタクシー代六万三八二〇円を支出したことが認められる。そうすると、原告X1は、症状固定後も症状の悪化を防ぐために治療を続ける必要性があり、また、タクシーによる通院はやむを得ないものと認められるから、上記タクシー代六万三八二〇円は、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。
6 装具・リハビリ用具代等 五六万一六三二円
原告X1の装具・リハビリ用具代等として被告側から二三万〇一八六円が支払われた事実は、当事者間に争いがなく、甲一〇によれば、これ以外に原告X1は装具・リハビリ用具代等として三三万一四四六円を支払っている事実が認められる。そして、後記7のような原告X1の後遺障害の程度にかんがみると、これらも必要かつ相当な支出と認めることができる。したがって、装具・リハビリ用具代等の合計は、五六万一六三二円となる。
7 家屋改造費 八〇万六五〇〇円
甲五の一ないし三、六の一・二、一八、二〇、乙二、原告X1本人に前記第二の一の事実を総合すると、<1> 原告X1は、本件事故により、第七胸椎粉砕骨折(対麻痺)、第三・四頸椎中心性脊髄損傷の傷害を負い、その結果、全下肢麻痺、排尿障害等の後遺障害が残り、後遺障害等級一級三号に該当すると認定されたこと、<2> 原告X1の下肢は全面的に麻痺しており、その運動機能は失われ、歩行は不可能であって、室内及び室外での移動は車椅子によっていること、<3> 原告X1は、入浴、外出、その他日常生活の多くの面で、家族の介助を必要とすること、<4> 原告X1は、尿が常に出ている状態であり、常時、尿取りパッドや大人用おむつを使用していること、また、一日数回、自ら導尿管を尿道に挿入して尿を排泄していること、さらに、排便は自己摘便によっていること、<5> もっとも、上肢については、軽度の知覚障害又はしびれ感があるものの、現在のところ運動機能は正常であることから、食事は自分で取ることができ、車椅子を使用して移動することができること、が認められる。以上の事実によれば、原告X1が自宅で生活するためには、段差の解消等の家屋改造を加える必要のあることが明らかである。
そして、甲一一の一ないし五、一五、一九ないし二一によれば、<6> 本件事故当時、原告ら家族が居住していた旧居宅は、敷地の面積が四七・〇五m2であり、建物(木造スレート葺二階建て)の一、二階の床面積はそれぞれ二八・〇〇m2にすぎなかったこと、<7> 原告X1が旧居宅で生活することができるようにするため、屋外リフト取付工事、一階段差解消機取付工事、一階浴室・便所・洗面所工事、二階洋室フローリング工事、二階押入れ改装工事、水廻り天井走行リフト工事を行った場合には、一七一一万五〇〇〇円の改造費用が必要との見積りが提出されていること、<8> しかし、この改造工事を行い、さらに電動ベッド等を設置した場合には、原告X1が車椅子で動くための空間がほとんどなくなり、他の家族三名が生活する空間もなく、実際上、原告ら家族が旧居宅に居住するのは不可能であったこと、<9> そこで、原告X1と原告X2は、平成一二年三月、現住所地に六四八〇万円で新居宅(マンション)を購入するとともに、玄関の段差解消スロープの設置等のバリアフリー工事を行い、これに一六〇万六五〇〇円を要したこと、<10> 新居宅の購入費用は、うち二三六〇万円を住宅金融公庫からの融資に、三三二〇万円を東京労働金庫からの融資によっていること、が認められる。
そこで、検討するに、旧居宅は大変狭く(<6>)、必要な改造を加えたとしても、原告X1とその家族が旧居宅に居住することは実際上不可能であったから(<8>)、本件事故を契機として、原告らにおいて、より広い家屋を購入する必要が生じたことは明らかである。もとより、広い家屋の購入は原告ら家族の利便と生活の向上をもたらすものであるが、原告X1が本件事故により重大な後遺障害(<1>ないし<5>)を負わなければ、当面、新居宅を購入する必要もなかったことからすれば、新居宅の購入費用の一部は、本件事故と相当因果関係を有する損害に当たると認めるのが相当である。そして、<7>の事実からすれば、仮に旧家屋を改造して原告X1が旧家屋で生活することとしたとしても、少なくとも数百万円の改造費用を要したものと認められるから、原告らの主張するように、新居宅の改造費用一六〇万六五〇〇円に加えて、新居宅の購入費用六四八〇万円の一〇%に相当する六四八万円を本件事故と相当因果関係を有する損害と認めるのが相当である。
したがって、家屋改造費としては、八〇八万六五〇〇円が認められる。
8 文書料 三万一五〇〇円
甲一二の一ないし三によれば、原告X1が文書料として少なくとも三万一五〇〇円を支払った事実を認めることができる。
9 将来の付添費用 二五一八万二四四五円
前記7のとおり、原告X1の後遺障害は後遺障害等級一級三号に該当するものであり、原告X1は、入浴、外出、その他日常生活の多くの面で、家族の介助を必要とする状態にある。もっとも、原告X1は、現在のところ、上肢の機能は正常であることから、食事を自分で取ることができるほか、身の回りのことをある程度自分で行うことができるから、原告X1については、常に介護を必要とするとはいえない。他方、その介護は、今後、原告X1及び原告X2が高齢化するに従って困難さが増すであろうことを考慮すると、原告X1に対する将来の付添費用は、近親者介護を前提として一日五〇〇〇円と認めるのが相当である。
原告X1は、症状固定時五七歳であり、平成一二年簡易生命表によれば、その平均余命は二三・八〇年である。したがって、原告X1の将来の介護費用は、次のとおりとなる。
5000円×365日×13.7986(24年のライプニッツ係数)=2518万2445円
10 将来のおむつ代 一五一万〇九四六円
前記7のとおり、原告X1は、尿が常に出ている状態であるため、常時、大人用おむつ、尿取りパッドを使用せざるを得ず、甲一八及び弁論の全趣旨によれば、その費用として一日三〇〇円程度を要するものと認められる。この費用は、前記9の将来の付添費用とは別個に損害として算定するのが相当である。したがって、原告X1の将来のおむつ代は、次のとおりとなる(円未満切り捨て。以下、同じ。)。
300円×365日×13.7986(24年のライプニッツ係数)=151万0946円
11 休業損害 九六七万六二六一円
甲一三の一・二、原告X1本人及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、本件事故当時、真澄梱包株式会社に勤務し、事故前年である平成一〇年の年収は七一五万七六〇〇円であったこと、本件事故日である平成一一年八月一三日から症状固定日である平成一二年一二月二七日までの合計五〇三日間休業したこと、真澄梱包株式会社から平成一一年一二月分の賞与として一八万七五〇〇円の支給を受けたことが認められる。したがって、原告X1の休業損害は、次のとおりとなる。
715万7600円÷365日×503日=986万3761円
986万3761円-18万7500円=967万6261円
12 逸失利益 五五五一万〇一二〇円
前記7のとおり、原告X1の後遺障害は後遺障害等級一級三号に該当するものであり、原告X1は労働能力を一〇〇%喪失したものと認められる。原告X1は、症状固定時、五七歳であったから、前記平均余命二三・八〇年の約半分に当たる一二年を労働能力喪失期間とするのが相当である。そして、真澄梱包株式会社の定年であることに争いがない六五歳までの八年間は、前記11の年収七一五万七六〇〇円を基礎とし、その後の四年間は、平成一二年賃金センサスの企業規模計・産業計による六五歳以上の男性労働者の学歴計平均賃金三八五万三八〇〇円を基礎として、原告X1の逸失利益を算定すると、次のとおりとなる。
715万7600円×1×6.4632=4626万1000円
385万3800円×1×(8.8632-6.4632)=924万9120円
4626万1000円+924万9120円=5551万0120円
13 入通院慰謝料 四〇〇万〇〇〇〇円
前記第二の一4のとおり、原告X1は、本件事故により、入院四一五日間、通院八八日間を要する傷害を負ったこと、そして、前記5のとおり、症状固定後も、月一回程度の通院が必要とされていること、及び原告X1の受けた傷害の程度を考慮すると、原告X1に対する入通院慰謝料としては、四〇〇万円をもって相当と認める。
14 後遺障害慰謝料 二六〇〇万〇〇〇〇円
前記7のとおり、原告X1の後遺障害は後遺障害等級一級三号に該当するものであること、原告X1は、下肢が全面的に麻痺しているほか、高度の排尿障害があり、常時、尿取りパッドや大人用おむつを使用し、また、一日数回、自ら導尿管を尿道に挿入して尿を排泄していること等の事情を考慮すると、原告X1に対する後遺障害慰謝料としては、二六〇〇万円をもって相当と認める。
15 物損(原告車両の損害) 四万〇〇〇〇円
乙六、七及び弁論の全趣旨によれば、原告車両は平成元年の製造に係る自動二輪車であり、本件事故当時には、既に製造時から一〇年が経過していること、原告車両の平成二年当時の新車価格は三九万九〇〇〇円であることが認められる。そうすると、本件事故当時の原告車両の価格は、その約一割である四万円と認めるのが相当である。
16 小計(1~15の計) 一億三七五一万〇一四円
17 過失相殺後の損害残額 一億一〇〇〇万九六一一円
前記一5の過失割合に従い、前記16の損害額からその二〇%を控除すると、残額は、一億一〇〇〇万九六一一円となる。
1億3751万2014円×(1-0.2)=1億1000万9611円
18 損害填補後の損害残額 六五二一万六九九四円
原告X1が、以上の損害額について、自賠責保険から三〇〇〇万円、被告の任意保険から一四七九万二六一七円の支払を受けていることは、当事者間に争いがない。そこで、前記17の過失相殺後の残額からこの支払を受けた合計額四四七九万二六一七円を控除すると、残額は次のとおりとなる。
1億1000万9611円-4479万2617円=6521万6994円
ところで、被告は、以上のほかに、健康保険組合からの求償請求に応じて被告が支払った五四五万九六五四円をも損害の填補として主張するが、前記のとおり、原告X1は社会保険負担分を含めることなく損害賠償の請求をしているところ、この社会保険負担分を損害として加えるならば、健康保険組合からの求償に応じて被告が支払った分は前記17の過失相殺前に損害額から控除するのが相当であるから、結局、損害の填補後の残額は、以上の六五二一万六九九四円となることに変わりはない。
19 弁護士費用 六五〇万一〇〇〇円
本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、本件の認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、六五〇万円をもって相当と認める。この弁護士費用を加えた原告X1の総損害額は、七一七一万六九九四円となる。
20 原告X2、原告X3及び原告X4の損害
原告X1の妻である原告X2、両名の子である原告X3及び原告X4は、原告X1が、本件事故の結果、前記のような重度の後遺障害の残る体になったことにより、原告X1が死亡した場合にも比すべき精神的苦痛を受けたものと認められる。その慰謝料としては、本件事故の発生について前記のとおり原告X1にも二〇%の過失があることを被害者側の過失として斟酌しても、各二〇〇万円と認めるのが相当である。
第四結論
以上によれば、原告X1の本訴請求は、被告に対し、七一七一万六九九四円及びこれに対する本件事故発生の日である平成一一年八月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、原告X2、原告X3及び原告X4の本訴請求は、すべて理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 河邉義典 森剛 石田憲一)