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東京地方裁判所 平成13年(ワ)21874号 判決 2002年9月02日

原告

A

被告

NTT東京電話帳株式会社

同代表者代表取締役

B

同訴訟代理人弁護士

上杉雅央

中原健夫

同訴訟復代理人弁護士

岩知道真吾

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  被告は、原告に対し、原告が被告の従業員の地位にあることを確認する。

2  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成一三年九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

1  請求原因

(給与又は給与相当の得べかりし利益関係)

(1) 原告は、被告との間で、平成九年一月六日、電話による広告販売を実施する業務のために、期間を同日から同年四月二五日まで、報酬時給一七〇〇円、勤務時間午前九時から午後五時まで(休憩一時間)の約定で、雇用契約を締結した。この契約は、同月二八日、期間を同年九月五日として、更新された。

(2) 被告は、原告に対し、平成九年八月二七日、(1)の契約を更新しないと通告した。

(3) (2)は、次のとおりの事情で、権利濫用であって違法なものである。

ア 原告は、被告との間で、平成七年五月二五日から同年九月八日までの間、四か月の雇用契約を締結し、この契約は、二度更新し、原告は、平成八年四月二六日まで就労した。

イ 被告は、(2)の通告の際、何ら原告の納得のいく理由を示すことができなかった。

ウ 被告の本社総務部長によれば、原告は、(1)の契約期間中の勤務として、業務成績、出席率、ノルマをクリアしており、契約更新は問題ないとの評価を受けていた。

エ 原告が当時の上司であるK所長に、解雇予告のない不当解雇だと抗議したところ、K所長は、三〇日間、勤務することができると前言を翻した。

(4) 原告は、被告の責に帰すべき以下のとおりの事情により、就労することができない。

ア (2)、(3)のとおり、違法な契約不更新の通告を受けたこと。

イ (3)エのとおり、三〇日間勤務できると通告されたが、平成九年九月八日に休みの連絡を事務所に入れると、スーパーバイザーから原告が辞めたはずだといわれ、そのまま就労しなかったところ、一、二日後、被告から契約満了終了の雇用保険被保険者離職票が送付された。

ウ 被告の事務所においては、後記(7)のとおり、社会的相当性を逸脱する行為が行われている。

(5) 原告の被告における一か月の平均給与は、三〇万四四八〇円であった。

(6) よって、原告は、被告に対し、次のアとイを選択的に次の請求をする。

ア 雇用契約による賃金として、平成九年九月八日から平成一〇年九月二三日までの給与(一二か月分)三六五万三七六〇円

イ 不法行為による損害賠償として、給与相当額の不法解雇による原告の得べかりし利益一二か月分三六五万三七六〇円

ウ ア又はイに対する調停申立の日である平成一三年九月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(慰謝料関係)

(7) 原告は、被告の職場において、次のとおりの行為をされ、精神的苦痛を味わった。

ア (2)、(3)のとおり、被告から違法な契約不更新の通告を受けた。

イ 平成九年六月ころ、当時の上司であるK所長が、既に連絡済みの顧客リストを故意に原告に渡し、自らこの行為を故意に行ったと原告に告げた。

ウ 被告の勤務状況票に、欠勤扱いにされていた箇所を年休と訂正されている。また、被告の当時の勤務状況と異なる記載が多い。

エ 顧客に対して、辞めた人について告げるときに、事の真偽を問わず、体調を崩して辞めたと告げることになっていた。

オ 平成九年五月ころの職場の座席が、コピー機とコーヒーメーカーの隣にあり、左後ろに自動販売機があり、同僚の声がしたり、話しかけてくるため、声が聞き取りにくく、集中できない席にあった。

カ 平成九年九月五日付けの被告の離職票が、全く誤った記載がされている。

キ 就労しなくなってから半年後に、被告が原告に対して、被告の社員証を返還するようにとの趣旨の用紙を送付した。被告のことをもう忘れようとしている時期にこのような送付を受けたことに精神的苦痛を受けた。

(8) 以上の行為によって受けた原告の精神的苦痛を補填するための慰謝料額は、一〇〇万円を下らない。

(9) よって、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として一〇〇万円及びこれに対する調停申立の日である平成一三年九月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  請求原因(1)の事実中、原告と被告との間で二つの雇用契約が存在したことは認めるが、それが雇用契約の更新であるとの主張は争う。

(2)  請求原因(2)の事実は否認する。被告は、原告に対し、契約が終了することを告げたのである。

(3)  請求原因(3)アの事実中、原告と被告との間で三つの雇用契約が存在したことは認めるが、それが雇用契約の更新であるとの主張は争う。

同(3)イ、ウの事実は否認する。同(3)エの事実中、Kが原告に対して三〇日間だけ働いて良いと告げたことは認め、その余の事実は否認する。

(4)  請求原因(4)の各事実は全部否認する。同(5)の事実は認否しない。

(5)  請求原因切(7)事実中、ア~カの各事実は全部否認する。

同キの事実中、平成一〇年ころに原告が、財団法人電気通信共済会より交付されていた電話帳広告販売員証明書の返還を求められた事実があることは認め、その余の事実は争う。

3  抗弁

(1)  賃金債権の消滅時効

ア 請求原因(6)アの雇用契約に基づく賃金請求については、支払時期が最も遅いものについても、二年後である平成一二年一〇月二五日が経過した。

イ 被告は、原告に対して、本件第五回弁論準備手続において、賃金請求権について、消滅時効を援用するとの意思表示をした。

(2)  不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効

ア 請求原因(6)イの不法行為に基づく損害発生時については、退職日から三年後である平成一二年九月五日が経過した。

イ 被告は、原告に対して、本件第五回弁論準備手続において、上記不法行為に基づく損害発生時賃金請求権について、消滅時効を援用するとの意思表示をした。

(3)  不法行為に基づく慰謝料請求権の消滅時効

ア 請求原因(9)の不法行為に基づく慰謝料請求権については、請求原因(7)ア~カの行為は、原告の就労中の不法行為であるから遅くとも就労関係が終わったときから三年後である平成一二年九月五日が経過した。

また、請求原因(7)キの行為は、退職日から半年後の行為、つまり、平成一〇年三月頃の行為であるから、それから三年後である平成一三年三月は経過した。

イ 被告は、原告に対して、本件第五回弁論準備手続において、上記不法行為に基づく慰謝料請求権について、消滅時効を援用するとの意思表示をした。

4  抗弁に対する認否及び反論

(1)  抗弁は全て争う。

(2)  給与相当額の不法行為が成立しているという点については、不法行為は継続しているから、消滅時効は成立していない。

(3)  原告は、平成一一年五月に労政事務所に相談し、そのころ、被告に対して解雇予告手当の請求をした。

(4)  被告は、平成一一年七月に新たに見解を述べているから、消滅時効の主張はできない。

(5)  平成一三年七月五日、原告は、被告に対して催告をしているから、消滅時効は中断している。

第三判断

1  雇用契約上の地位の存在について

証拠(略)によれば、次の事実を認定することができる。

(1)  原告は、被告との間で、<1>平成七年五月二五日、電話による広告販売を実施する業務のために、期間を同日から同年九月八日まで、報酬時給一七〇〇円、勤務時間午前九時から午後五時まで(休憩一時間)の約定で雇用契約を締結し、<2>同月一一日、期間を同日から同年一二月二七日までとし、その余の約定は<1>と同じ雇用契約を締結し、<3>平成八年一月五日、期間を同日から同年四月二六日までとし、その余の約定は<1>と同じ雇用契約を締結し、<4>平成九年一月六日、期間を同日から同年四月二五日までとし、その余の約定は<1>と同じ雇用契約を締結し、<5>同月二八日、期間を同日から同年九月五日までとし、その余の約定は<1>と同じ雇用契約を締結した。

(2)  原告が被告において従事していた業務は電話帳広告の販売業務であり、電話帳の発行エリアごとの発行周期にあわせて、四か月ごとに電話帳の各発行エリアの顧客に集中販売している(原告の<1>と<5>は東京二三区、<2>は多摩地区、<3>と<4>は神奈川地区)。各地区により顧客の数に差があるため、被告は、販売員の数を四か月ごとに調整する必要があり、広告販売業務を経験した販売員の再雇用も含めて、販売員の採用を行っていた。

(3)  平成九年八月二七日、被告の原宿テレホンサービスセンタ所長であるKは、原告に対して、<5>の雇用契約を終了する旨告知した。原告は、それに対して、被告に継続して働きたい、三〇日前の解雇予告がないのは不当である、三〇日間分の解雇予告手当が支払われるべきであると抗議したところ、Kは、それではあと三〇日だけ働いてもよいと原告に告げ、週明けの同月八日、原告の席を準備していた。しかし、原告は、同日、被告に電話をして出勤する意思をなくして出勤せず、それ以降、被告に出勤することはなかった。原告は、その後、被告との雇用関係は終わっていたと認識していたが、雇用関係が終了した平成一〇年四月ころ、原告の言によれば、被告から身分撤回用紙を送るように連絡があった(趣旨は明確でないが、財団法人電気通信共済会が原告に交付していた電話帳広告販売員証明書を返還するように求めたことと考えられる)ため、被告の行為が許せないと思い返すにいたり、平成一一年五月に被告に連絡して解雇予告手当の請求をした。

短期の期間の定めのある雇用契約であっても、当該雇用の臨時性等の客観的な状況、更新の回数や雇用の通算期間等を総合考慮して、実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならず、労働者が継続雇用の期待を持つことが首肯できるような状況下では、期間の定めのない雇用契約の解雇権濫用法理を類推適用することが適当であると解すべきである。しかしながら、上記認定事実を前提とすれば、原告については、この法理を適用する余地を認めることはできないと判断できる。なぜなら、第一に、電話帳の広告販売員の仕事自体が、販売対象地区が四か月ごとに替わることから、業務量の変化によって販売員数が当然に変動することが予定されている職場であり、販売員として短期労働契約を締結したからといって、直ちに継続雇用を期待するような客観的状況と乖離している。第二に、上記認定事実(1)のとおり、原告は、合計五回にわたって被告との間で短期の雇用契約を締結しているが、その間には八か月間の中断があり、原告の言によれば仕事がきつく体調が優れないという理由でこのような中断を原告の意思によりしたというのであるからこの事実自体、この雇用が臨時的なものであって、期間の定めのない雇用契約に準じて考えるのが困難であることを裏付けている。また、第三に、前記認定事実(3)のとおり、原告は契約を継続しないと告げられた後にKに抗議をし、三〇日間働いてもよいといわれたのに、原告の言によれば、職場に行く意思を阻喪させる電話の応答があったというだけで出勤せず、これで被告との雇用関係を終わらせようと考えたというのであるから、この事実もまた、原告と被告との雇用契約が、労働者に当然に継続雇用の期待をもつような状況のものではなかったことを窺わせる。以上の判断によれば、原告と被告との雇用契約は、平成九年九月五日に終了したと認定するのが相当であって、この契約終了の違法を前提とした請求原因(6)アイの原告の各請求にはいずれも理由がないことになる。

2  慰謝料請求について

原告は、請求原因(7)により精神的苦痛を受けたとして、慰謝料請求をするが、原告の主張事実が仮に認定できたとしても、不法行為を構成するだけの行為と評価できるか自体、疑問とするところである。また、原告は、請求原因(7)の各行為時に行為者と精神的苦痛という損害を知ったと認められるから、請求原因(7)ア~カの行為については、遅くとも就労関係が終わったときから三年後である平成一二年九月五日が経過し、平成一〇年四月ころの行為と認められる同(7)キの行為については、その三年後である平成一三年四月は経過し、被告が本件第五回弁論準備手続において、この慰謝料請求権について消滅時効を援用するとの意思表示をした事実は当裁判所に顕著であり、慰謝料請求権について消滅時効が成立しているから、いずれにしても原告の請求には理由がないことになる。なお、原告は、抗弁に対する認否及び反論(2)~(5)に記載したとおり、消滅時効の成立を否定する事実があると主張するが、これらは、いずれも時効中断事由に該当しないから理由がないことは明らかである。

以上のとおり、原告の慰謝料請求もまた、理由がないことになる。

第四結論

以上のとおりであるから、原告の請求には、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邉弘)

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