東京地方裁判所 平成13年(ワ)22110号 判決 2001年12月03日
原告
江口克彦外八名
原告ら訴訟代理人弁護士
伊藤真
被告
有限会社コメットハンター
代表者代表取締役
上地隆
主文
1 被告は、別紙各書籍要約文を自動公衆送信又は自動公衆送信可能化してはならない。
2 被告は、被告の開設するウェブサイトから、別紙各書籍要約文を削除せよ。
3 被告は、各原告に対し、それぞれ金一一〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判(訴状どおり)
主文と同旨
第2 当事者の主張(訴状どおり)
1 請求原因
(1) 原告ら及びその著作権
原告らは、それぞれ各界著名の評論家、文化人ないし経営者であって、それぞれ、大手出版社による書籍の出版などを通じ、その著作活動についても広く知られている著名人である。
原告らは、別紙書籍目録記載の各書籍(以下「本件各書籍」という。)の著作者であり、各書籍につきそれぞれ著作権及び著作者人格権を有している。
(2) 被告の行為
被告は、「速読本舗」なるウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を訴外ビックエル・グループが提供するサーバーにおいて開設して有料の会員を募り、ビジネス書を中心とした書籍を改変した要約文(以下「書籍要約文」と言う。)を作成し、これをインターネットを利用したメールサービスによって会員に公衆送信し、また、一部の書籍要約文については本件ウェブサイトにおいて公開(送信可能化)し、本件ウェブサイトにアクセスした者に対して広く公衆送信している。その概要は以下の通りである。
ア 書籍要約文送信の方法
(ア) 会員(有料)に対し、毎月四冊の新刊書籍の書籍要約文を、インターネットを利用した電子メールにより原則として有料で送信する。
(イ) 既に送信した書籍要約文についても、その後に入会した会員に対して、その希望に応じて電子メールにより有料で送信する。
(ウ) 本件ウェブサイトにおいて上記の会員を募集し、上記の会員に対し毎月送信する四冊の書籍要約文のうち一冊分については、本件ウェブサイト上にて無料サンプルとして公開(送信可能化)し、会員、非会員を問わずアクセスした者に対して広く公衆送信する。
(エ) 過去三年を経過した書籍要約文については、過去に送信したすべての書籍要約文を本件ウェブサイト上にて無料公開(送信可能化)し、会員、非会員を問わずアクセスした者に対して広く公衆送信する。
このように、(ア)及び(イ)については、有料で会員に公衆送信するとともに、(ウ)及び(エ)については会員、非会員を問わず本件ウェブサイトにアクセスした者すべてに公衆送信される状態となっている。
イ 会員の種別及び会費(購読料)
このような会員の種類は、個人及び法人の別となっており、会費については、毎月の「購読料金」として、個人については月額一〇〇〇円(半年コース)ないし一五〇〇円(一年コース)、法人については、資本金の額に応じて、一万円から一〇万円(半年コース)ないし二万円から二〇万円(一年コース)との低廉な価格設定がなされている。
また、入会以前の書籍要約文の購読料金については、さらに低廉な購読料金が設定されている。
ウ 会員数及びアクセス数
本件ウェブサイトの会員数及びアクセス数の詳細は不明であるが、本件ウェブサイトにおいて被告自身が平成一三年六月一六日発表として公開しているアンケートの結果によれば、同年五月七日から同月二〇日の期間に行われたアンケートの回答総数は四八二三名であり、うち会員は二八三六名、非会員は一九八七名であったとのことである。
アンケート非回答者の存在をも考慮すれば、わずか二週間の間に相当数のアクセスがあったのであり、本件ウェブサイト開設以来現在まで、多数の者が会員となっているとともに、会員以外にも極めて多数の者が本件ウェブサイトにアクセスし、無料公開されている書籍要約文を利用していることは明らかである。
被告は、別紙書籍目録記載の各書籍について、原告らの許諾を得ることなく、上記行為の一環として、書籍要約文の公衆送信を行っている。
被告の作成した書籍要約文は、対照表(このうち、原告江口克彦に係る対照表は別紙のとおりである。)からも明らかなとおり、一〇行程度の書籍紹介の文章を付した上で、それ以外は書籍の文章に改変、修正を施し、また、本件各書籍の文章のポイントと思われる部分を抜き書きして、その内容の要約としたにすぎないものであり、本件各書籍を翻案したといえる。そして、本件各書籍要約文においては、被告が本件各書籍を紹介する表現部分はごくわずかしか存在しないのであって、書評といいうるような書籍の評価論評など被告独自の著作物の中に従たる関係で原告らの著作物が用いられているものでは到底なく、被告の掲示行為が著作権法三二条の「引用」に該当しないことは明らかである。
以上によれば、被告の行為は、原告らが本件各書籍について有する翻案権、原著作者として有する複製権並びに公衆送信権及び公衆送信可能化権を侵害するとともに、原告らの許諾なく本件各書籍を改変しているものであるから、著作者人格権を侵害する。
(3) 損害
各原告が被った損害額は、以下のとおり、それぞれ金一一〇万円を下らない。
ア 著作権侵害による損害額
被告は、本件書籍要約文を会員に対し有料で提供するのみならず、全世界からアクセスが可能であるインターネットウェブサイトを通じて広く公衆に無料で公開してこれを自動公衆送信している。
さらに、前記(2)アないしウ記載の事実から推計される本件ウェブサイトへのアクセス数、会員数及び会費金額、並びに、原告ら著名人の知名度、本件各書籍の出版社による販売宣伝活動の成果その他の諸事情に鑑みれば、被告の行為によって、各原告が被った損害は、慰謝料を含め、少なく見積もっても、各金一〇〇万円を下らない。
イ 弁護士費用
また、各原告に生じた弁護士費用のうち、被告による著作権及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある損害額は、各原告につき金一〇万円を下らない。
(4) 結論
よって、原告らは、被告に対し、原告らが本件各書籍について有する翻案権、複製権、公衆送信権、公衆送信可能化権及び著作者人格権に基づき、本件各書籍要約文の自動公衆送信又は自動公衆送信可能化の差止め、被告の開設するウェブサイトからの本件各書籍要約文の削除、それぞれ金一一〇万円及びこれに対する平成一三年一〇月二八日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第3 理由
被告は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって、被告において請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなす。
上記の事実によれば、原告らの請求はいずれも理由がある。
(裁判長裁判官・飯村敏明、裁判官・今井弘晃、裁判官・石村智)
《和解条項》
一 AはXらに対し、YがAをインターネットプロバイダーとして本件書籍要約文を自動公衆送信等してXらの著作権及び著作者人格権を侵害していたことを認め、XらからAへの警告にもかかわらずAが適切な調査及び対応を行わなかったためにXらが本件訴訟を提起せざるを得なくなったことについて、謝罪する。
二 AはXらに対し、AがYとのインターネットプロバイダーとしての役務提供に関する契約を解除し、Aの事務所においてYが所有・管理していたサーバーとインターネットとの接続が切断されていることを確認する。また、AはXらに対し、今後、Yとの間でインターネットプロバイダーとしての役務提供に関する契約を再締結したり、インターネットへの接続を再開したりしないことを確約する。
三 AはXらに対し、本件と同様の問題が発生した場合には速やかに適切な調査及び対応を行うことを確約する。
四1 Xらは第一項乃至第三項を了とし、Aに対し本件に関し損害賠償請求を行わない。
2 XらとAとは、本件に関し、本和解条項に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。
五 Xは、その余の請求を放棄する。
六 訴訟費用は各自の負担とする。
別紙書籍要約文
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別紙
『成功の法則』と『速度本舗』の対照表
『成功の法則』江口克彦著(PHP刊)
『速度本舗』’97・1
二頁三行目~二頁六行目
きみなあ、成功の道というものは、いろいろの行き方があるけどね。でも結局のところ、おおむね同じじゃないかと思う。それは百人が百人とも持ち味があるからね、多少の違いというものはあるけれども、成功の道すじ、軌道というものは、だいたいにおいて決まっている。いわば共通性があるということや。
松下幸之助によれば、事業に成功するための法則はいかなる経営者においても同じであり、それぞれの持ち味によって多少の違いはあるけれども、成功の道筋には共通性があるというのだ。
二頁九行目~二頁一四行目
この見方が正しいものであると、私は確信を持って言うことができる。そして松下の成功理由を体系化することは、普遍的な成功の法則を明らかにすることになると思う。
その理由の第一は、松下自身が成功者であること、第二に、松下は多数の先哲諸聖の研究をしており、自身の体験をさまざまな角度からも検証していること。
そして第三に、時代の変化を迎えてますます松下の考え方が正しいと、私には実感されるからである。
この松下の見方を著者は正しいと確信を持っている。その理由は第一に松下が成功者であること。第二に松下が先哲諸聖の研究をし、自身の体験から検証していること。第三に時代の変化の中で、この考えが正しいと著者が実感しているからである。そこで松下の成功理由を体系化し、普遍的な成功法則を明らかにすることを目的として本書は執筆された。
一六頁一行目(見出し)
一七頁一五行目~一八頁七行目
熱意を持てば成功する。
松下が中小企業の経営者の方々を対象に「ダム経営」について話したことがある。ダム経営というのは、川にダムをつくり水を貯めるように、企業も余裕のある経営をしようという松下の持論であった。
話が終わって、四百人ほどいた経営者の中の一人が手をあげ質問をした。「おっしゃるとおりなのですが、なかなかそれができないのです。どうすればダムがつくれるのでしょうか」
これに対して松下は「やはりまず大切なのは、ダム経営をやろうと思うことですな」と答えた。
熱意を持てば成功する
中小企業の経営者を対象に「ダム経営」について松下が話したことがあった。余裕をもった経営という意味である。話が終わって、一人の経営者が質問した。「どうすればダムが造れるのでしょうか」。これに対する松下の答えは「まず、ダム経営をやろうと思うことですな」であった。
十八頁七行目
会場からは“なんだ、そんなことか”という失笑が起こった。
会場からは「なんだ、そんなことか」と失笑が起こった。この松下の答えの意味が理解できなかったのだ。
一八頁八行目
一八頁一一行目~一四行目
しかし、その中に一人、衝撃を受けた人物がいた。
「そのとき、私はほんとうにガツンと感じたのです。何か簡単な方法を教えてくれというような生半可な考えでは、経営はできない。実現できるかできないかではなく、まず『そうでありたい、自分は経営をこうしよう』という強い願望を持つことが大切なのだ、そのことを松下さんが言っておられるんだ。と、そう感じたとき、非常に感動したんです」
しかし、一人だけは違っていた。衝撃を受けた人物がいたのである。「何か簡単な方法を教えてくれという生半可な気持ちでは経営はできない。まず、そうありたい、こうしようという強い願望を持つことが大切なのだ。そう感じて非常に感動した」とある。
一八頁八行目~一八頁九行目
一八頁一五行目~一九頁二行目
それは京セラを創業して間もないころの稲盛和夫氏で、まだ経営の進め方に悩んでいた頃であった。
四百人の経営者が同じ話を聞いている。しかし、そのように受け取った人は一人しかいなかったと言っていい。稲盛氏には、そのように受け止めるだけの力量があったということである。のちの京セラの発展は改めて説明する必要もないと思う。
この一人とは京セラ創業間もない稲盛和夫氏である。彼には松下の答えの意味を理解するに足る力量があったということであろう。
二○頁三目
二〇頁九行目~二〇頁一〇行目
松下は、成功の条件の第一に「熱意」をあげることが多かった。
松下幸之助が成功した理由は、決して一つに帰することができるものではない。だが、もしあえて一つだけ挙げよと言われたら、私は熱意であると断言できる。
松下は成功の第一条件に「熱意」をあげている。松下幸之助の成功理由は決して一つや二つで言い表すことはできないが、もし、あえて一つだけ挙げるとすれば、それは「熱意」だと著者は断言する。
別紙書籍目録
原告 題号
江口克彦 成功の法則
落合信彦 日本の常識を捨てろ!
唐津一 松下幸之助とその社員は逆境をいかに乗り越えたか
竹村健一 二〇〇一年版世界の動きこれだけ知っていればいい
田坂広志 これから市場戦略はどう変わるのか
田原総一朗 面白い奴ほど仕事人間
中村慶一郎 総理の器
野口悠紀雄 IT時代の社会のスピード
樋口廣太郎 人材論
書籍要約文 以下のプリントアウト上の各文章をいう<一部省略>