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東京地方裁判所 平成13年(ワ)23980号 判決 2003年5月12日

原告 X

上記訴訟代理人弁護士 伊東眞

同 西坂信

同 桝田裕之

同 浅野貴志

同 甲村文亮

被告 Y1

被告 Y2

上記2名訴訟代理人弁護士 加々美博久

同 西内岳

同 上原恭典

同 荻野明一

被告補助参加人 株式会社トーモク

上記代表者代表取締役 Y1

上記訴訟代理人弁護士 上野久德

同 安藤信彦

同 田中秀一

主文

1  原告の被告Y1に対する請求を棄却する。

2  原告の被告Y2に対する訴えを却下する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告らは、連帯して、補助参加人株式会社トーモク(以下「トーモク」という。)に対し、金1億5000万円及びこれに対する平成13年12月13日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、トーモクの株主である原告が、トーモクの取締役であるか又はあった被告らに対し、トーモクと訴外a製罐株式会社(以下「a製罐」という。)が訴外株式会社b(以下「b社」という。)の完全子会社として営業を継続するという取り決めを撤回し、b社を解散することによってトーモクに損害を与えたと主張して、その賠償を求める株主代表訴訟である。

1  争いのない事実等

(1)  原告は、トーモクの株式72万7211株を平成13年3月末日以前から引続き所有する者であり、平成12年6月29日まではトーモクの代表取締役であった。

被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、平成10年4月1日から現在に至るまでトーモクの代表取締役である。

被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、平成12年6月29日までトーモクの代表取締役であり、同年10月5日までb社の代表取締役であった者である。

(2)  トーモクは、平成9年5月5日、a製罐とb社を設立し、トーモクとa製罐は、将来的にb社の完全子会社に移行することを計画した。b社の株主は、トーモク及びa製罐の2社のみであった。また、b社は、代表取締役として、原告、被告Y2、訴外A(以下「A」という。)及び訴外Bをそれぞれ選任し、平成14年4月に上場を企図していた。

(3)  しかし、トーモクは、平成12年9月25日に取締役会を開催して、b社を持株会社とする持株会社移行に参加しない旨の決議し、同年10月5日、トーモク及びa製罐は、b社の臨時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催し、満場一致でb社の解散決議を行った。

(4)  その後、Aは、平成13年4月16日、a製罐の代表取締役であるC(以下「C」という。)に宛て、原告が①トーモク役員会の議事録閲覧と瑕疵の検討、②被告Y2のb社代表取締役としての背任行為の追及、③株主代表訴訟及び④株主提案権の行使の検討をしていると思われる旨の記載のある書簡(以下「A書簡」という。)を送付した。また、同書面には、原告を①正式に特別顧問(あるいは名誉顧問)として就任させること、②これまでに築き上げた人脈への対応、書面の発信その他の仕事をするための事務室及び労務の提供、③外部的に世代交代と評価されるに足りる報酬の提供及び④これらの要請を平成13年7月10日より実施すべきであるとの記載もなされていた。

(戊10、弁論の全趣旨)

2  争点

(1)  争点1=本案前の抗弁1-被告Y2に対する訴え提起の適法性

(被告らの主張)

商法267条の株主代表訴訟は、いわゆる株主の監督是正権のひとつとして商法が明文をもって株主に認められた権利であるところ、同条は、「取締役ノ責任ヲ追求スル訴」と規定しており、訴訟の相手方を「取締役」に限定している。また、取締役以外の者に対して株主代表訴訟が準用される場合として、発起人(商法196条)、監査役(商法280条1項)、清算人(280条1項)のほか、取締役と通謀して不公正な発行価額で新株を引き受けた者の会社に対する公正価額との差額に相当する金額の支払義務の追及(商法280条の11第2項)、株主の権利行使に関して財産上の利益の供与を受けた者の会社に対する返還義務の追及(商法294条の2第4項)の場合を定めているにすぎない。

このように、商法では、株主代表訴訟の相手となるべき者を当該規定の範囲内に限定する趣旨であることが明らかである。特に、取締役の行為の相手方(第三者)に対し、株主代表訴訟によって責任追及できるのは、前記のとおり、取締役と通謀して不公正な発行価額で新株を引き受けた者や株主の権利行使に関して財産上の利益の供与を受けた者に対する場合に限られており、それ以外の第三者が株主代表訴訟において相手方足りえないことは明らかである。

したがって、被告Y2に対する本件訴えは原告適格を欠き不適法である。

(トーモクの主張)

被告Y2の主張に加え、被告Y2は、b社解散の決議がなされた時以前から、トーモクの取締役ではなく、b社解散の問題については、トーモクの取締役会等の決議には参加せず、その意思決定には何らの関与もしていないことからすれば、被告Y2に対する訴えが却下されるべきである。

(原告の主張)

被告Y2は形式的にはトーモクの取締役を退任しているが、後記のとおり、本件代表訴訟によって損害賠償責任を負担すべきことは明らかである。

地方自治法第242条の2第1項第4号は、代位請求訴訟として、「普通地方公共団体に代位して行う当該職員に対する損害賠償の請求若しくは不当利得返還の請求又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に対する法律関係不存在確認の請求、損害賠償の請求、不当利得返還の請求、原状回復の請求若しくは妨害排除の請求」として、職員のみならず、「怠る事実に係る相手方」にまで被告適格を拡大して規定している。

また、最高裁昭和53年6月23日判決は、地方自治法第242条の2第1項第4号による代位請求訴訟において、被告たる職員と共同不法行為者の地位に立つ相被告につき、代位請求訴訟は、地方公共団体が、職員又は違法な行為若しくは怠る事実に係る相手方に対し、実体法上同号所定の請求権を有するにもかかわらず、これを積極的に行使しようとしない場合に、住民が地方公共団体に代位し、上記請求権に基づいて提起するものであって、このような代位請求訴訟の構造に鑑みれば、上記訴訟の被告適格を有する者は上記訴訟の原告により訴訟の目的である地方公共団体が有する実体法上の請求権を履行する義務があると主張されている者であると解するのが相当である旨判示した。

株主代表訴訟の趣旨は、取締役等の責任を追及する訴えについて、会社が積極的に訴えを提起しないおそれが定型的にあることに鑑み、株主に訴えを提起する資格を認めることで会社の利益を確保することとしたものであるから、その制度理念は、地方自治法における上記代位請求訴訟と同一である。上記のとおり、地方自治法が、職員以外の第三者たる「怠る事実に係る相手方」にまで被告適格を拡張することを認める以上、同法上の代位請求訴訟と全く同一の理念と制度趣旨を有する株主代表訴訟においても、同様に取締役以外の共同不法行為者たる第三者に対する請求権を否定すべき理由はないと言わざるを得ない。また、上記判例が代位請求訴訟の構造に鑑みて、直接に不法行為を行った職員以外の第三者についても被告適格を認める以上、代位請求訴訟と共通の理念を有し、かつ、同一の構造を有する株主代表訴訟においても、同様に訴訟の目的である株式会社が有する実体法上の請求権を履行する義務があると主張されている者が被告適格を有すると解すべきことは明らかである。

さらに、株主代表訴訟の趣旨が、上記のとおり、会社と被告たる者との密接な関係から会社の利益を損なう事態を防止する点にあることに鑑みれば、本件についてもその制度が想定する事態と利益状況は同一であって、代表訴訟を提起すべき必要性は明らかである。すなわち、被告Y2は平成12年に至るまでの多年に亘り、トーモクの取締役の地位にあり、取締役退任後も同社特別顧問として同社から報酬の支払いを受ける地位にある。そうであれば、トーモクが被告Y2に対してその損害の回復を請求すべきことは到底期待しえず、現に同社監査役からは同人に対して訴えを提起する意思がない旨の回答がなされている。

したがって、本件においても、被告Y2は形式的にはトーモクの地位を退いたとはいえ、被告Y1の共同不法行為者として会社に不当に損害を与えたにもかかわらず会社がその責任追及をなす見込みがない場合として、代表訴訟をもって被告Y2の責任を追及すべき必要性は極めて高いといわざるをえない。

よって、被告Y2は、被告Y1らの取締役としての善管注意義務に違反するb社解散決議によってトーモクが被った損害につき、代表訴訟の被告として、被告Y1と連帯して損害賠償の責めを負うと解するべきである。

(2)  争点2=本案前の抗弁2-被告Y1に対する訴え提起が権利濫用に該当するか

(被告らの主張)

被告Y1に対する請求は、原告が代表取締役を務めていたb社が原告の意思に反して解散したことを奇貨として、b社の株主として解散決議をしたトーモクの代表取締役を務める被告Y1に対する私怨を晴らすことを目的としたものであり、さらに、原告がトーモクの代表取締役である被告Y1の責任に事実的、法的根拠を欠くことを知りながら、トーモクの株主たる地位に名を借りて不当に個人的利益を追求することを目的としてなされたものであって、株主権の濫用として、本件訴えは却下されるべきである。

すなわち、b社の解散決議は、b社の株主であるトーモク及びa製罐の取締役会においてb社解散の決議がなされ、これに基づいてトーモク及びa製罐の代表者が本件株主総会において解散の決議をなしたものであって、b社の解散は法的手続を履践してなされたものであって適法である。しかも、トーモク及びa製罐はいずれも取締役会においてb社の解散を決議したにもかかわらず、トーモクの代表取締役である被告Y1のみが代表訴訟の相手とされており、このような態様には合理的な理由は見いだせない。さらに、株主代表訴訟である本件訴訟についてトーモクの取締役でもない被告Y2までが被告とされていることなどに照らすと、原告は、原告の意に沿わないb社の解散決議が行われたことを奇貨として、私怨を晴らすために被告Y1及び被告Y2を被告として本件代表訴訟を提起したと言わざるを得ない。くわえて、A書簡によれば、トーモクとしての株主としての権利を越えた要求を意図しているものであり、株主の権利行使に関連して財産上の利益(利益供与)を要求しているものであり、商法494条、497条に該当する疑いが濃厚である。

以上の点からして、原告がトーモクの代表取締役である被告Y1の責任に事実的、法的根拠を欠くことを知りながら、トーモクの株主たる地位に名を借りて不当に個人的利益を追求することを目的として本件代表訴訟を提起したことは明らかである。よって、被告Y1に対する本件代表訴訟は、訴権の濫用に該当する。

(トーモクの主張)

A書簡によれば、トーモクとしての株主としての権利を越えた要求を意図しているものであり、株主の権利行使に関連して財産上の利益(利益供与)を要求しているものであり、商法494条、497条に該当する疑いが濃厚である。

(原告の主張)

争う。

(3)  争点3=b社の解散決議につき、被告ら2名の善管注意義務又は忠実義務違反が認められるか

(原告の主張)

ア 被告らのb社解散の目的

トーモクにおいては、原告が昭和37年の社長就任時より平成12年に代表取締役を退任するまで、原告に対する社内及びトーモクグループの株主や従業員並びに取引先からの人望と信頼も厚く、原告の後任を狙う被告らにとっては、いつまでも経営の中枢で陣頭指揮を執る原告は重大な障碍であったのであり、原告が自らトーモクの経営から手を引かない限り、被告らがトーモクグループの経営権を手に入れることは不可能であるという事態が続いていた。

原告は、平成12年6月、b社の経営に専念するためトーモクの取締役を退任し、そのため、被告Y1は、単独代表取締役の地位に就くことができ、被告らの野望が実現する機会が訪れてきた。そこで、被告Y1は、トーモク及びグループ企業すべての支配権を取得することを意図したが、当時進行中であったb社をトーモクグループの持株会社とするとの構想(以下「b社構想」という。)により、トーモクグループがその下に位置してしまい、b社の中枢にいる原告からの支配を免れることができないと考えた。このため、被告Y1は、b社の取締役であった被告Y2を実質的な首謀者として、原告をb社からも放逐することを計画し、本件株主総会においてb社を解散することに成功した。

このように被告らのb社解散の行為は、まったく私利私欲によるものであって、b社やトーモクグループの経営の発展などという動機などはまったく念頭になかったのであり、この解散にあたっては「経営判断」など入る余地などあり得なかった。

イ b社解散前までの経緯

(ア) b社の設立目的は、大きく分けて①トータルパッケージ事業の展開と②グループ経営の効率化を図ることにあった。グループ経営の効率化の細目については、雇用創出と解雇なきリストラ、スリム化による各社経営基盤の強化、金融の一元化、技術の集約化と新技術の開発、市場調査と新商品の開発などというものである。

また、トータル・パッケージ・システムとは、顧客に対して単なる包装資材・飲料充填の機能提供にとどまらず、その周辺機能も含めて、「マーケッティング(商品開発)―設備設計―パッケージ提供―飲料充填―物流―環境対応リサイクル」という一連のプロセスをトータルで提供することによって、コストダウン・高付加価値の実現を図り、顧客のニーズに応えていくシステムである。そして、その方法としては、飲料充填工場隣接地に大規模物流センターを設置し、生産と物流を結ぶことにより、サービスの格段の向上を図り、包装資材、飲料充填等の生産設備の拠点集約化を図ることが構想された。

b社は、このトータル・パッケージ・システム実現に向けて、毎年その事業推進に邁進し、例えば、平成11年度業務方針として、アサヒビール飲料(AD)700万ケース、ダイドードリンコ300万ケースのトータルパッケージを実現し、最小限としても300万ケース、トータルで1000万ケースを目標とするなどとしていた。また、物流グループでは上記各社に対する最適物流システムの完成を目指したり、ネッスルジャパン、サントリー、コカコーラ、日本たばこなどの容器のデザインに乗り出していた。さらに平成12年度では、上記各社などのシステム完成へ向けての年間計画作成、各種ボトル、缶、キャップの実用化に向けての相互研究を重ねていた。

また、グループ経営の合理化を目指すべく、いろいろな事業推進を行っており、例えば、平成11年度は、グループ各社において、主要資材調達の検討、業務簡素化の推進、各社の賃金制度、労務問題の検討を始め、平成12年度では、資金一元管理、経理事務一元化、運営基盤準備などの準備、一部実施を行っている。また、商品開発戦略の立案・計画推進、情報収集その他のさまざまなグループ全体の経営の合理化に向けて事業の進行を始めており、これらは、激変しつつある経済状況を乗り切るために、個々の小さな企業では極めて困難であることから、グループを一層緊密に結束し、しかも新たな付加価値を創出する目的を有していたものである。

(イ) このような企業活動を前提に、平成11年11月17日、a製罐、トーモク及びb社は、将来的にb社をa製罐及びトーモクの完全親会社である持株会社に移行し、両グループを統合することに合意したことを発表した。さらに、平成14年4月に上場する予定としていたが、順調に事業が推移し、当初目標より1年早い平成13年4月に上場予定とし、それを受けて野村総合研究所も鋭意上場に向けて努力をしていた。

(ウ) 以上のようなb社構想は、原告、被告Y2及びAの間で議論を交わしたのが発端であるが、bグループ幹部300名余の構想支持も存在した。

被告Y2は、平成9年3月22日、トーモクの社内報において、「今こそグループの核として機能する会社を」と題して、b社の設立に全力をあげることを誓っていたし、被告Y1は、平11年3月6日、b社を戦略的頭脳集団として位置付けすることについてはグループ間では確立されており、その成果として、トータルパッケージ構想を設立の動機としたことについては、その洞察に深く敬意を表するとした上、さらに、①b社を世に公表すべきであり、②戦術検討会を経営すべきであるとの意見を表明した。また、被告Y1は、平成12年5月、トーモクの50周年記念誌の巻頭言として、「50年の集大成が、トータルパッケージとしての「b社」の誕生です。<省略>国際的に存在感のある企業体として、bグループの中心企業のひとつとして、さらに良い「ものづくり」に徹した会社であるよう、皆さんと共に努力したいと考えております」と述べ、同月頃までb社設立に強い意欲を示していたものである。

さらに、トーモクは、平成12年6月29日の株主総会において、「当社及びa製罐両グループは、このような変化の方向性をいち早く予測し、両グループ一体となって競争力強化を図るための戦略・企画会社として、1997年5月には、当社、a製罐の折半出資により株式会社bを設立しました。<省略>そこで、①持株会社による効率的なグループの経営、②トータル・パッケージ・システム事業戦略の推進、③グループ事業ポートフォリオを確立する事業戦略を企図して、両グループを統合する持株会社を置くことが最適なグループ経営戦略体制であるとの合意に至りました。」と報告している。

くわえて、b社は、被告Y2は勿論のこと、解散の約40日前である平成12年8月25日、被告Y1も取締役として列席の上、取締役会を開催し、b社の発展存続を前提に、満場一致で定款の一部変更、規則類を制定することで合意をした。

(エ) 以上のとおり、解散40日前までは、b社上場に向けて全員何らの異議もなく進行していたものである。また、被告Y1はb社の取締役の1人として、その内容を十分把握していたものであり、また、トーモクも、株式の2分の1を所有するものとして、当然のことながら、毎年の決算はもとより事業の進行を十分把握していたものである。

ウ b社解散の不合理性

b社構想におけるトータル・パッケージ・システム及びグループ経営の合理化及び効率化を追求するための状況は、その後も何らの変化はなかった。そもそも段ボール業界における再編案は、平成10年前後から問題となっていたのであり、b社構想は、段ボール業界の第三勢力の結成ということを視野に入れながら、bグループの形成を進めていたものである。実際にも、原告及びその意向を受けた被告Y2は、極秘裡に、訴外東缶興業、訴外日本製紙などと折衝を重ねていた。

しかし、トーモクでは、平成12年9月25日に取締役会においてb社構想に対する不参加を決議し、同月27日にb社取締役解任の決議を行った。ただし、この段階でも、b社の存続自体はその前提となっていた。

しかるに、平成12年10月5日、突如として事態が変化したわけではないにもかかわらず、本件株主総会を開催し、強引に被告Y2が議長席について、b社解散の決議を行った上、15分弱で閉会するという事態に至った。

以上の状況からすれば、b社を解散するための合理的理由は何ら見いだすことができないことは明らかであって、被告らのb社解散の目的が、上記ア記載のとおりであることが認められる。

エ また、本件株主総会は、その取締役会において開催の決議を行っておらず、かつ、本件株主総会開催通知を各株主に発したこともない。したがって、平成12年10月5日に開催された本件株主総会における決議には、取消ないし無効事由が存在するにもかかわらず、被告らは、あえて違法な株主総会を開催し、b社を解散させた。

オ なお、原告は、グループ各社の自主性を徹底して尊重してきており、それらの経営に口出しをするようなことはなかった。さらに、b社は、被告ら及びトーモクも関与の上、上場を目前にした基盤整備の時期において、長期的視野に立って経営を行ってきていたのであり、トーモクの主張するような短期的な視点で損害が発生したかのような結論を導くことは誤りである。

また、トーモクは、b社が解散時点において債務超過に陥っていたと主張するが、これは、清算に至ったことを原因とするものであって、それ以前にb社が債務超過に陥っていたとはいえない。

カ 平成12年9月末日から同年10月5日にかけてのb社の株式価額は、1株あたり金26万4680円であったところ、トーモクの有していたb株式3000株の価額は、金7億9404万円であったことが認められる。

一方、この解散によりb社の残余財産は、ほとんど存在しないことが判明しており、上記b社の株式の価額は、この解散により無価値となった。

このように、トーモクは、b社を解散させてしまったことにより、7億円を超える会社資産を喪失させたことになる。もし、トーモクがこの株式を換金ないし吸収合併していたならば、このような多額の損失を発生させることはなかった。

したがって、このような結果を招くようなb社解散決議を率先して賛成したトーモクの代表取締役である被告Y1と、同被告を唆し、b社を解散させた被告Y2は、トーモクに対し、連帯してこの損失発生についての損害賠償義務を負うのであり、原告は損害の一部である金1億5000万円の支払いを求める。

(被告らの主張)

ア 平成9年5月にb社が設立された当時の目的は、トーモク及びa製罐等の事業会社に対するコンサルティングを行うというものであった。しかし、平成12年春先以降、製紙・段ボール・流通の各分野で再編の動きが顕在化し、製紙業界の合併・統合を端緒に段ボール業界の勢力関係が激動して合従連衡の様相を呈することとなった。トーモクとしても、この業界再編の機会を逃さないことが自社の利益に資するものと判断し、同年夏ころ極秘に再編案についての協議を進め、具体化しつつあった。他方、他業種も含めたbグループに参加することは、この段ボール業界において中心的な地位を占める機会を逃すことになり、特に、b社の完全子会社となった場合には、機動的な経営の裁量、会社としての自主性が失われるおそれがあった。現に、b社は当初の構想に反して、事業会社であるトーモクやa製罐等の人事、報酬、組織や事業活動自体にまで介入するようになったため、現場の混乱や得意先等の困惑など多くの問題を生じていたため、トーモクやa製罐等からはb社に対し、事業会社の事業領域には介入しないよう改善の申し入れをしてきたが、受け容れられなかった。

イ 以上のような状況を踏まえて、トーモクは平成12年9月16日から17日にかけて取締役及び執行役員が泊まりがけで徹底的に議論を行うなど、繰り返し内部で話し合いを行ったところ、トーモクの株主の利益と、業界におけるトーモクの主体性を発揮するためには、持株会社bの完全子会社となった上でのスキームはどうしても考えられず、また、b社設立以来相当の資金をb社に投入してきており、それは構想当初の状況を前提としては意義があったものの、状況変化に伴う方針変更がなされ、また、これ以上b社構想を継続すると、トーモクとしてはスキーム的取り返しがつかなくなる上に、リターン・メリットの見込めない構想に更なる膨大な資金の投入を余儀なくされることになるのではないかとの懸念が顕在化し、その結果、b社構想への不参加の方向が固まった。

ウ そこで、トーモクは、平成12年9月25日午後1時15分から開催した取締役会において、b社構想について審議した結果、同構想への不参加を決議した。これを受けてトーモクの代表取締役である被告Y1は、被告Y2立会いのもとに、同日、2時間余りにわたって事情を説明し、原告の了解を求めたが、原告は激怒し、到底話し合いにならなかった。

上記面談の結果を受け、被告Y1は、同日、トーモクの取締役会において原告との面談の結果を報告した。そして、審議の結果、今後も原告からは理解を得るよう努力するが、万一理解が得られない場合には、b社からの出資の引上げ等を含め、b社と絶縁する旨が決議された。

これに対し、原告は、翌9月26日、被告Y1に対し、業界再編に関して話し合いが進んでいた相手方の会社への訪問の禁止を申し渡すなど、露骨にトーモクの経営内容に介入してきた。

エ このような状況の中、a製罐においてもb社が当初の構想に反して事業活動に介入してきていることなどを理由に、b社の常勤取締役8名を解任するための臨時株主総会を招集することとする取締役会決議がなされたとの連絡がトーモクに入った。

そこで、トーモクにおいても、平成12年9月27日、取締役会において、原告を含むb社の常勤取締役8名を解任する手続を取ること並びにその執行の判断及び権限は被告Y1に一任することが決議された。

オ 被告Y1は、同日、a製罐のC社長とともに、b社の社長であるAと面談し、上記取締役会議事録の写しを交付してトーモク及びa製罐のb社構想不参加の意思を明示した。なお、その際に示されたトーモク取締役会の議事録には、b社常勤取締役8名の解任事由として、

(ア) b社の経営方針及び行動がトーモクの経営方針と会わなくなった。

(イ) b社がトーモクの重要な経営方針に対し、妨害かつ抑圧的な言動をなした。

(ウ) 環境が激変し、業界再編成の進む中、外に向かった経営施策が採られねばならない時期であるにもかかわらず、グループ経営の戦略会社としての機能を果たしていない。

と記載されていた。

カ トーモクでは、原告が、OBとしてなお事実上の絶大な影響力を有していたことから、b社が存続すれば原告らがいかなる策を講ずるかわからず、そうなるとトーモクが進めていた段ボール業界での再編ができなくなるおそれが高いこと、b社設立後、b社はトーモクをはじめとするグループの各関係会社から業務委託料名義で莫大な委託料を取り上げるのみで一日も早くb社を解散することがグループ全般にとって無駄な費用を支出しないで済むこと、また、原告ら常勤取締役を解任することはb社にとってもトーモクにとっても対外的イメージがマイナスとなる(これに対しb社の解散であれば、業界再編に伴う経営戦略の変更であるからマイナス・イメージはない)ことなどから、b社を解散するのが最良の方策であると考えられるようになった。

そこで、トーモクは、平成12年10月5日、取締役会を開催し、被告Y1を含む取締役9名全員及び監査役3名全員が出席して、従前の議論を踏まえてb社の解散につき十分審議し、その結果、全員が異議なく、承認可決した。

次いで、同日、b社の株主であるトーモクとa製罐は、本件株主総会の開催を協議決定し、同日午前11時30分から、全株主が出席の上、本件株主総会を開催し、b社の株主として、b社の解散及び解散にともなう清算人の選任を決議した。なお、前記のとおり、本件株主総会には、b社の取締役12名中、原告を含む11名が出席した。

キ 以上のとおり、被告Y1は、トーモクの代表取締役として、トーモクの取締役会において、取締役会の構成員1人として、b社の解散の審議に参加して、承認決議し、さらに、トーモクを代表して、b社の株主として、もう1人の株主であるa製罐とともに本件株主総会の開催を協議決議し、本件株主総会において、トーモクの取締役会の決議にしたがってb社の解散を決議したものであって、些かも私利私欲を追及したものではなく、被告Y1に代表取締役としての忠実義務に違反する行為はない。

なお、原告は、本件株主総会における解散決議について招集手続を欠くことを理由に取消ないし無効事由が存在すると主張するが、いわゆる全員出席株主総会における決議が有効であることは最高裁の判例であり、主張自体失当である。

ク 損害論

(ア) 原告は、b社の株式評価を収益還元法で算定しているが、このような算定方法は正しくない。b社は自らの収益事業を持たず、各社からの業務委託料という名の上納金によって運営される会社であった。したがって、意図的に多めに集めた上納金収入の余剰をもってこれを収益と称し、かつ、これが将来にもわたって安定的に発生するものと仮定して、収益還元法により企業価値を計算することは誤りである。

(イ) 原告は、b社の株式を処分したり、トーモクらが吸収合併していれば損失が軽減するか発生しなかったと主張する。しかしこのような主張には理由がない。

すなわち、トーモクやa製罐が参加しないb社は、事業の実態がなく、自ら収益を生み出すことができない抜け殻の状態であり、b社に残されたものは、投資有価証券(銀行の優先株や劣後債)や豪華なオフィスのみであった。このうち、投資有価証券は、第三者への売却が難しいことから、清算手続において株主であるトーモク及びa製罐が引き継いだ。また、b社のオフィスはトーモクらにとって事業を継続していく上で必要性のない不要品であったのであり、仮にトーモクらがb社を吸収合併したとしても、不必要な贅沢品であるオフィスは不稼働資産として処分する必要が生じ、清算の場合と同様の損失が発生することが明らかであった。

ケ 被告Y2の主張

上記アないしクの主張を援用する。

(トーモクの主張)

ア b社解散に至る前提状況は以下のとおりである。

(ア) b社は、当初、トータル・パッケージ・システムを推進すること及びbグループ12社の連絡を密にするためのコンサルタント業(戦略会社)を主たる目的としていた。

しかし、平成9年5月から平成11年3月までを経過した後は目的が変わっていき、b社親会社構想が顕在化した。また、業務面においては、b社は次第にグループ12社の経営に口を出して、その自主性に影響を及ぼし、更に平成12年4月には定款にもない営業部門を持つようになる等、発足当時は予想もしない変貌を遂げていった。この上、b社が完全親会社となれば、各社とも完全に自主性を失い、それぞれの業界において生き残ることについての不安が感じられるようになっていた。

また、b社の収入は、グループ各社からの委託費名目の上納金であったが、その金額はウ(ア)記載のとおり、年々膨張していった。このような巨額の支出が必要とは発足当時は予想できなかった。

また、トータル・パッケージ・システムも、実際は、顧客サイドの有するプロ的機能に、質的にも量的にもスピード的にも、全く太刀打ちできず、営業活動は奮わず、のみならず、bグループ12社の個別の営業と二重構造を持つこととなり、結局、平成12年9月頃には無駄と混乱を生じつつあった。

そして、トータル・パッケージ・システムの構想は、アイデアとしては、多年グループ12社の考えていたところであるが、b社に統一するとなると、上記のように解決すべき問題が多かったため、むしろグループ12社が各プロセスにおいてそれぞれ担当することが効果的であるとの見方が生ずるに至っていた。

(イ) また、b社親会社構想とは、商法352条以下の規定により、b社がグループ12社(a製罐グループ7社、トーモクグループ5社)の完全親会社となり、12社は完全子会社となるので、その交換比率が重大な問題であった。そして、一旦、この交換比率を発表してしまえば、各社はそれに縛られ、後には引けない状態となるので、その交換比率を「どのように定めるか」及び、それを「何日頃発表するか」がb社構想を円滑に実施する為の問題点であった。

b社構想は、専らb社役員(特に原告)が中心となり、専門家の野村證券関係者に委嘱して極秘裡に交換比率の案を作り、平成12年10月ころには発表する予定であった。しかし、これが発表されれば、グループ12社は、それぞれの業界において独自の行動が出来なくなることが明らかであり、発表以前にそれぞれの業界における独自性を維持する為の施策を講ずる必要があった。そこで、トーモクとしても交換比率の発表は延期して、諸準備の進捗状況を確かめることや12社の意思の合致を待つべきであると、b社に要請したが、受け入れられなかったので一層の不安と危惧感を持つに至っていた。

イ b社解散に至る経緯は被告Y1の主張を援用するが、トーモクとしては、原告側に対し、様々な解決案を示し、業界再編成の進む情勢下で、トーモクを中心とする段ボール業界及び製紙業界の統合の方向を見極める必要がある旨の説得を行ったものの、原告には受け入れられなかった。そこで、b社設立以降、当初の期待と異なり、b社の実体が、グループ各社にとって業務的にも財務的にも利益とならず、却って重荷と感じされるような状況にあったこともあり、被告Y1の主張の経緯でb社解散の結論に至ったのであるが、これは経営戦略による選択の問題であり、些かも私利私欲で決定されたものではなく、適法な手続きを経ている以上、原告の主張するような忠実義務違反を構成しない。

ウ 損害論

(ア) b社は、その定款における目的が示すとおり、グループ会社の為のコンサルティングやソフトウェア開発等を事業目的とする会社であり、その収入のほとんど全額をトーモク及びa製罐グループ12社からの「業務委託料」に頼っていた。b社は収入の大半を人件費及び外部流出経費として費消し続けており、収入である業務委託料はこのような運営費から逆算され、その額は12社合計で、平成10年3月期は金3億5500万円、平成11年3月期は金6億4300万円、平成12年3月期は金8億4000万円、平成12年4月から9月の半期では金9億6000万円と年々膨張しており、b社設立以来わずか3年余で合計約金28億円にものぼっていた。

トーモクはその約3割を負担していて、業務委託料の負担はトーモクの収益を次第に圧迫するものとなっており(トーモクの平成12年3月期の経常利益は金13億3000万円)、他方で支払った業務委託料に見合うリターンもなく、また3年余を経ても改善もなく、将来も見込めない状態であった。

このような負担があるだけの株式は無価値すなわち不良資産というほかなく、b社の解散によりトーモクが損害を受けたということは全くない。むしろ、莫大な業務委託料名義の金をb社に支払うことを止めたことによる被害の拡大をくい止めたメリットが大きいというべきである。

(イ) なお、平成12年11月30日時点において作成された、b社が解散した当時である平成12年10月5日における清算貸借対照表によれば、b社の資産処分見込額は金16億4561万円であるところ、負債は金17億7466万円と推定され、金1億2905万円の債務超過となっている。また、その後の平成13年3月末日時点の清算貸借対照表及び平成14年3月末日時点の清算貸借対照表のいずれを見ても債務超過となっている。

以上によれば、b社は解散当時、既に債務超過の会社であったということができ、その解散時期が遅れれば遅れるほど、グループ会社の負担が大きくなっていたものと解される。

第3争点に対する判断

1  争点1について

甲第2号証及び弁論の全趣旨によれば、被告Y2は、平成12年6月29日までトーモクの代表取締役であり、同日、トーモクの代表取締役及び取締役を退任していること、原告は、その請求の原因として、平成12年10月5日にb社を解散したことが取締役の善管注意義務に違反するとして、被告Y2の責任追及の根拠としていることが認められる。

そうであれば、被告Y2は、b社解散当時、トーモクの取締役でなかったことは明らかであるから、原告の被告Y2に対する本件株主代表訴訟の提起は不適法であるといわざるを得ない。原告は、被告Y2に対する本件株主代表訴訟の提起が適法であることを縷々主張するが、当裁判所の採用するところではない。

2  争点2について

被告らは、本件株主代表訴訟の提起が被告Y1に対する私怨を晴らすこと及び不当に個人的利益を追求することを目的としてなされたものであると主張し、その根拠としてb社の解散は法的手続を履践してなされていること、トーモク及びa製罐の取締役会においてb社解散を決議した際に、これに参加した取締役は被告Y1以外にも多数存在するにもかかわらず、これらの取締役の中で被告Y1のみが本件株主代表訴訟の被告とされていること、トーモクの取締役ではない被告Y2も被告とされていること及びA書簡の記載を指摘している。

確かに、弁論の全趣旨によれば、被告らの指摘する事実はすべて認めることができるが、これら事実によっても、原告の本件株主代表訴訟の提起が、被告Y1に対する私怨を晴らすこと及び不当に個人的利益を追求することを目的としてなされたものであるとまでは評価することはできない。

よって、本件株主代表訴訟の提起が権利濫用であるとの被告らの主張には理由がない。

3  争点3について

(1)  原告は、被告Y1らがb社を解散した理由は、トーモク及びグループ企業の支配権を取得するという私利私欲に基づくものであって、被告らは、b社解散につき善管注意義務違反ないし忠実義務違反の責任を負うと主張し、これに沿う甲第21号証ないし甲第23号証を提出し、同旨の証人Aの証言及び原告本人尋問の結果が存在する。

しかし、上記各証拠は、後記認定の事実に照らして信用することができず(後記採用する部分を除く。)、他に原告主張事実を裏付けるに足りる証拠はない。

よって、この点についての原告の主張には理由がない。

(2)  また、原告は、本件株主総会はb社の取締役会が開催を決議したものではなく、かつ、本件株主総会開催通知を各株主に発していないことからして、本件株主総会の決議には取消ないし無効事由が存在するにもかかわらず、あえて違法な株主総会を開催したのであるから、b社解散につき善管注意義務違反ないし忠実義務違反の責任を負うとも主張する。

しかし、上記争いのない事実等記載のとおり、本件株主総会は、株主であるトーモク及びa製罐が出席して開催されたいわゆる全員出席総会であり、その決議の内容も株主が一致して賛成したというものであって、原告の主張する取消ないし無効事由は存在しないというべきである。

よって、本件株主総会決議の瑕疵を理由とする原告の主張には理由がない。

(3)  却って、証拠(後掲)に弁論の全趣旨を併せれば、以下の事実が認められる。

ア 原告は、トーモクの株主であり、平成12年6月29日までトーモクの代表取締役であり、平成12年10月5日までb社の代表取締役であった者である。原告は、昭和37年にトーモクの代表取締役社長に就任して後、平成12年6月に退任するまで中心的な人物としてトーモクの経営にあたってきた。

トーモクは、昭和15年12月23日に設立された、段ボール事業及び紙器の製造販売業等を目的とする株式会社である。被告Y1は、平成10年4月1日以降、トーモクの代表取締役であり、被告Y2は、平成12年6月29日までトーモクの代表取締役であり、平成12年10月5日までb社の代表取締役であった者である。

(甲1から甲3まで、弁論の全趣旨)

イ 原告、A及び被告Y2は、平成5、6年ころから、トーモクグループの競争力強化を目的として、b社の設立を構想していた。被告Y2は、b社構想を積極的に推進し、b社設立直前の平成9年3月22日、グループによるトータルパッケージ新会社の構想を社内に向けて発表し、その後発表された社内報において、b社のイメージについては、グループの強調と発展のために、その核として機能し、全体の経営戦略を考え、グループを牽引、先導する戦略会社であり、グループの1社ではなく、グループを牽引する親会社的な会社であるとの見解を示していた。

(甲17、甲21、原告本人尋問の結果、被告Y1本人尋問の結果)

ウ トーモクとa製罐は、平成9年3月24日、b社設立のための発起人会を開催したが、その際b社の目的としては、パッケージのデザイン及びロジスティックス(物流)システムの企画・研究・開発及びマーケティング・生産・環境等の企業経営に関するコンサルティング等が挙げられ、これは、b社の原始定款においても同様であった。そして、トーモクとa製罐は、平成9年5月5日、資本金1億5000万円(3000株)ずつを拠出し、b社を設立した。そして、b社は、原告、被告Y2、A及びBをそれぞれ代表取締役に選任した。また、b社は平成14年4月に上場を企図していた。

被告Y1は、平成10年3月、アメリカから帰国したが、b社については、当初コンサルティング会社と認識し、その後はトーモク及びa製罐の持株会社として認識していた。

(甲1、甲19、甲21、乙5、原告本人尋問の結果、被告Y1本人尋問の結果、弁論の全趣旨)

エ トーモクの属する段ボール業界においては、平成11年初めころ、東洋製罐株式会社(以下「東洋製罐」という。)が、レンゴーの株式を手放すとの情報が流れるなど、業界の各グループなどで統合を進める動きが加速した。

このような状況の下、b社をトーモクグループの持株会社とするとのb社構想が顕在化し、被告Y1は、平成11年3月6日、b社への提言2と題する書面を作成し、その中で、積極的にb社を外部に公表していくことを提言した。また、トーモクは、平成11年4月1日、b社を持株会社としていくことについて、組織を再編成して営業部隊を明確化するなど、ビジョンを明示した。

但し、被告Y1は、平成11年夏ころからb社構想が、当初のグループ各社の裁量が認められていた内容からb社の統制が強化される内容に変容しつつあったことから、b社構想に期待を抱きながらも同時に不安を感じるようになっていた。

トーモク、a製罐及びb社は、平成11年11月17日、東京証券取引所において、「平成14年4月を目処として、b社をa製罐及びトーモクの完全親会社とする。」とのプレスリリースを発表した。

そして、b社は、平成11年12月16日に取締役会を開催し、b社構想を推進する計画を1年間前倒しして平成13年4月とすることとし、同月20日には、平成12年度経営・組織グループ業務計画を策定して、業務管理の統制を始めるようになり、平成12年4月からはb社が自ら営業部隊を持つようになるなど、トーモクやグループ会社に対する管理を強化するようになってきた。しかし、営業の現場においては、トーモクとb社の営業が競合したり、b社の営業がまだノウハウを十分に習得していなかったことから顧客の満足を得られるような対応ができず、不評を買うような状況が生じていた。

被告Y1は、平成12年5月、トーモクの50周年記念誌の巻頭言において、b社構想に対する支持を表明し、トーモクは、平成12年6月14日開催の第61回定時株主総会において、株主に対し、平成14年4月を目途にb社を完全親会社である持株会社とし、a製罐と統合することに合意していることを報告するなど、外部的にはb社構想を否定するような行動を見せることはなかった。しかし、被告Y1は、b社の支配権強化によりトーモクの利益も限定され、成長を拡大させることは期待できそうもなく、かつ、b社が独自の営業部隊を持つようになるなどしたことから、b社の人件費、特に役員報酬を中心とする運営費用が当初の6倍程度に膨れあがり、トーモクがそのうち約3分の1の負担を強いられる状況にあったことなどから、b社構想の現状及び将来に危機感を抱いていた。

(甲6、甲10の1及び2、甲14、甲15、甲16、甲21、甲27、証人Aの証言、原告本人尋問の結果、被告Y1本人尋問の結果)

オ 製紙業界においては、平成12年夏ころ、製紙業界の合併・統合を端緒に段ボール業界の勢力関係が激動して合従連衡の様相を呈していたところ、トーモクは、段ボール加工業会社中、唯一の東証一部上場会社であったことから、業界再編の中心となっており、トーモクとしても、この業界再編の機会を逃さないことが自社の利益に資するものと判断し、極秘に再編案についての協議を進めていた。

b社は、平成12年8月25日、被告両名も出席の上取締役会を開催し、持株会社化するための定款変更や上場に向けての進捗状況などが議論された。その結果、法的な定款変更手続は取られていないものの、会社の目的に「販売」が追加された。被告らは、この取締役会において、まだb社構想を推進する態度を取っていた。

(甲1、甲18、乙6、弁論の全趣旨、証人Aの証言、原告本人尋問の結果、被告Y1本人尋問の結果)

カ しかし、被告Y1は、平成12年8月末から9月初旬ころ、b社が平成12年10月に統合比率を公表するという情報をつかんだため、トーモクがb社構想に参加するのか否かについての決断をする必要があると考えた。そこで、被告Y1は、平成12年9月16日及び17日にかけて、トーモクの役員とともに合宿を行い、トーモクの将来に向かっての基本戦略やb社構想への参加によるメリット及びデメリットについての検討を行った。その結果、トーモクの役員らは、原告に対し、b社の統合と統合比率の対外発表の延期を説得し、この説得が不成功に終わった場合にはb社から離脱するとの結論を確認した。また、被告Y1も統合比率の公表が避けられない場合には、そのようなことになる前に、b社構想の具体的な内容が不明確なまま再統合するよりも、トーモク単独での組織の維持を選択することとし、b社構想から離脱することを決意した。

(乙5、被告Y1本人尋問の結果)

そこで、トーモクは、平成12年9月25日午後1時15分から取締役会を開催し、製紙業界の合併・統合を端緒に進展する段ボール業界再編の動きの中で、トーモク自らを核とする統合が具体化してきたが、b社構想に参加すると経営の裁量を失うものと判断されるとの理由で、出席者全員の賛成でb社を持株会社とするb社構想に参加しない旨の決議を行った。この取締役会において、被告Y1は、トーモクにとって段ボール業界を主業として、将来の生き残りと発展を期すためには、外に向かった業界視野で経営施策がとられなければならないと説明した。

(甲7、戊3の1ないし2)

被告Y1及び被告Y2は、同日、原告と面談し、平成12年9月16日及び17日の取締役及び執行役員による研修会において、最近の段ボール業界再編の経緯の中で、トーモクは、その生き残りと将来の発展を期してb社構想に参加しないことを確認し、本日の取締役会において、同旨の決議を行ったことを説明したが、原告は、これに納得しなかった。

そこで、トーモクは、同日午後6時から取締役会を開催し、原告から理解を得られなかったことから原告による妨害行為が取られることに備えて、b社への出資及び人材の引上げ等を予め決議した。

(乙5、戊4、被告Y1本人尋問の結果、弁論の全趣旨)

a製罐は、平成12年9月26日、取締役会を開催し、原告を含むb社の常勤取締役8名を解任する手続を取る旨の決議を行い、Cは、被告Y1に対し、その結果を伝えた。

(証人Aの証言、被告Y1本人尋問の結果)

そこで、トーモクは、a製罐の取締役会決議を受け、翌27日、取締役会を開催し、①トーモクの経営方針と合致しなくなったこと、②トーモクの重要な経営方針に対して妨害かつ抑圧的言動がなされたこと及び③環境が激変して業務再編成の進む中、外に向かった経営施策がとられねばならない時期であるにもかかわらず、グループ経営の戦略会社としての機能を果たしていないことを理由として、a製罐と共同して原告を含むb社の常勤取締役8名を解任する手続きを取ること、その執行の判断及び権限は被告Y1に一任する旨の決議を行った。

そして、被告Y1は、同日、CとともにAと原告に面談し、上記取締役会の議事録を示しつつ、トーモクがb社構想には参加しない意思を有していることを説明したが、原告は納得しなかった。

(甲8の1ないし4、戊6の1ないし4、被告Y1本人尋問の結果、弁論の全趣旨)

Aは、平成12年10月2日、原告と被告らの紛争を解消するために、A、被告ら両名及びCによる4者会談を呼びかけ、翌3日には、b社の経営体制と経営方針の再検討やトーモクのb社構想への不参加についての結論を出すなどの解決案を記載した書面を作成し、翌4日に4者会談を実施した。しかし、話し合いは物別れに終わり、被告Y1は、b社の解散を決意した。

(乙5、乙8、乙9、証人Aの証言、被告Y1本人尋問の結果)

トーモクは、平成12年10月5日、取締役会を開催し、トーモクがおかれている企業環境及びその将来の見通しを判断した結果、現時点においてb社を解散してその後のトーモクの経営構想について再構築を図ることが株主の利益を守り、今後のトーモク及びa製罐の企業活動に有効であるとの理由で、a製罐とともにトーモクの臨時株主総会を迅速に開催し、b社を解散する件について、全員一致で可決した。

そして、トーモク及びa製罐は、同日、本件株主総会開催の招集を通知した上ただちに同総会に入り、満場一致でb社の解散決議を行った。

(甲9、乙5、戊1、原告本人尋問の結果、被告Y1本人尋問の結果)

(4)  上記認定の事実によれば、被告Y1は、b社構想の内容が変更していく中、他の取締役らとも議論を尽くし、トーモクの今後の経営戦略及び成長もふまえた上でb社構想からの離脱を決意し、かつ、b社を存続させることによる社内及び社外に対する悪影響を勘案して、b社を解散することを決定し、トーモク及びa製罐の両株主がb社の解散を決議したというのであり、被告Y1の判断は、トーモクの将来を踏まえて、その利益の追求を目指したものであって、取締役の裁量の範囲内のものであるというべきである。

したがって、被告Y1の判断は善管注意義務ないし忠実義務に違反しないことが明らかであり、その余の点を判断するまでもない。

4  よって、被告Y1に対する原告の主張には理由がないからこれを棄却し、また、被告Y2に対する訴えは不適法であるからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 新田和憲)

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