東京地方裁判所 平成13年(ワ)24783号 判決 2003年4月25日
原告
X1
同
X2
上記両名訴訟代理人弁護士
伊藤皓
同
河津博史
被告
社会福祉法人Y協会
同代表者理事
G
同訴訟代理人弁護士
児玉安司
同
笠野さち子
主文
1 被告は、原告らそれぞれに対し、金八八〇万円及びこれに対する平成一一年○月○日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告らそれぞれに対し、金八二三〇万三五〇七円及びこれに対する平成一一年○月○日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告らが、被告に対し、ペリツェウス・メルツバッヘル病(以下「PM病」という。)に罹患していた疑いのあった原告らの長男A(以下「A」という。)が被告開設のaセンター(以下「被告aセンター」という。)を受診していた時に、原告らが、担当医師らに対して、次の子供をもうけることについて質問したところ、担当医師らは、PM病が典型的には伴性劣性遺伝の形式をとり、その場合、男子に二人に一人の確率でPM病の子供が生まれ、女子に二人に一人の確率でPM病の保因者の子供が生まれる危険性があるにもかかわらず、これを原告らに説明せず、その後Aが被告aセンターを受診し続けていた時にも原告らにかかる説明をしなかった結果、PM病に罹患した三男B(以下「B」という。)が生まれたとして、説明義務違反による使用者責任に基づき、それぞれ金八二三〇万三五〇七円及びこれに対する不法行為の後である平成一一年○月○日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 争いのない事実等
(1)ア 原告X1(以下「原告X1」という。)は、Bの父であり、原告X2(以下「原告X2」という。)は、Bの母である(争いのない事実)。
イ 被告は、心身障害児等の福祉の増進を図ることを目的として、被告aセンターを開設している社会福祉法人である。C医師(以下「C医師」という。)は、被告aセンター小児科に勤務する医師であり、D医師(以下「D医師」という。)は、被告aセンター耳鼻科に、月に一度診察に来ていた医師である(争いのない事実、弁論の全趣旨)。
(2) 別紙事実経過一覧表中「事実経過」及び「説明内容、カルテの記載事項等」欄のうち網掛け部分を除いた部分は、当事者間に争いがなく、別紙事実経過一覧表中の同部分及び証拠(甲A2、乙A1、2)によれば、Aの被告病院での診療経過及びBの出生経過について、以下のとおり認められる。
ア 原告らの長男Aは、平成四年○月○日に出生したが、眼振を伴った運動遅延がみられたため、平成五年六月二三日から、被告aセンター小児科においてC医師の診察を受けていた。
イ C医師は、同月二八日、Aに対し、PM病を疑い、聴性脳幹誘発反応検査(以下「ABR検査」という。)を実施し、同年七月一三日のAの受診時に、ABR検査の結果に基づき、原告らに対し、Aにおいて、PM病の可能性又は良性の眼振の可能性があることを説明した。
ウ Aは、同日以降、C医師の診察を受けた後、耳鼻科のD医師の診察も受けることになり、約二、三箇月に一回程度、被告aセンターを受診し、C医師及びD医師の診察を受けていた。
エ 原告らは、C医師及びD医師に対し、平成六年一一月八日、Aの各診察時に、それぞれ「次の子供を作りたいが大丈夫でしょうか。」との質問をして、C医師及びD医師からそれぞれ回答を得た(その内容については争いがある。)。
オ C医師は、平成七年二月二八日、Aに対し、二度目のABR検査を実施し、町田市民病院にはAのMRI検査を依頼し、同年四月、同病院からAにはPM病を含む脱髄性疾患のカテゴリーが最も疑われるとする放射線診断報告書の送付を受けた。
カ C医師は、同年六月一三日のAの受診時に、Aの病名についてPM病であると決定し、C医師及びD医師は、原告らに対し、町田市民病院のMRI検査の写真について説明をした。
キ C医師は、同年一〇月一一日に、Aの遺伝子解析のため血液を採取し、横浜市愛児センター及び横浜市立大学精神科に対し血液検査を依頼したが、同月三〇日、同検査において、Aは、陰性との結果が出た。
ク 原告らは、平成八年一月三〇日のAの受診時に、C医師及びD医師に対し、原告X2が妊娠しており、同年七月に出産予定であることを伝えた。C医師は、原告らに対し、遺伝子検査の結果について説明した(その内容については争いがある。)。
ケ 原告X2は、同年○月○日、原告らの二男F(以下「F」という。)を出産したが、Fは、健常児として生まれた。
コ Aは、その後も、C医師及びD医師の診察を受けていたが、原告らは、平成一一年七月二七日のAの受診時に、原告X2が妊娠したことをC医師に伝えた。
サ 原告X2は、同年○月○日、原告らの三男Bを出産したが、Bは、その後一箇月もしないうちに眼振を生じた。
シ C医師は、同年一一月二二日、Bを診察して、原告らに対し、Bの症状は、Aと同じ症状であること、遺伝が原因であることを説明し、同月三〇日、Bに対し、ABR検査を実施したところ、Bには異常が確認され、Bは、PM病との診断を受けた。
2 争点
(1) 平成六年一一月八日受診時のC医師の説明義務違反の有無
(2) 平成七年二月二八日以降の各受診時におけるC医師の説明義務違反の有無(判断の必要がなかった。)
(3) 平成六年一一月八日受診時のD医師の説明義務違反の有無(判断の必要がなかった。)
(4) 平成七年二月二八日以降の各受診時におけるD医師の説明義務違反の有無(判断の必要がなかった。)
(5) 因果関係及び損害
3 争点に対する当事者の主張
(1) 平成六年一一月八日受診時のC医師の説明義務違反の有無
(原告らの主張)
ア 原告らは、C医師に対し、平成六年一一月八日のAの被告aセンター小児科受診時に、「次の子供を作りたいが、大丈夫でしょうか。」と尋ねた。
イ C医師は、当時、PM病が、少なくとも典型的には、伴性劣性遺伝する疾患であること及びAがPM病である可能性が高いことを十分に認識していた。
ウ したがって、C医師は、原告らの上記質問に対して、PM病が伴性劣性遺伝疾患であること、そのため、男子に二人で一人の確率でPM病の子供が生まれ、女子に二人に一人の確率でPM病の保因者の子供が生まれる危険性があることを説明すべきであった。
エ しかしながら、C医師は、原告らに対し、「私の経験上、この症状のお子さんの兄弟で同一の症状のあるケースはありません。かなり高い確率で大丈夫です。もちろん、A君がそうであるように、交通事故のような確率でそうなる可能性は否定はしませんが。A君の子供に出ることはあるが、兄弟に出ることはまずありません。」との説明をした。
オ 原告らは、C医師の上記説明を信頼し、将来、原告らの間に、Aと同様の症状を持つ子供が生まれることはないと信じた。
(被告の主張)
ア C医師は、原告らの質問に対して、「兄弟で同一の症状のケースは、私は経験したことはありません。甲山さんの場合もご家族に類似した経過の方がおられないようなので、突然変異の可能性があり、その場合は兄弟で同一の症状の出る確率は低くなります。」と答えたのであって、第二子のPM病発症の危険性を否定していない。
イ 仮に、原告らの主張によっても、C医師は、原告らの第二子以降の子供がPM病を発症する危険性を否定したものではない。
ウ 被告aセンターは、外来で予約を受けた上で遺伝相談も行っているが、原告らの質問は、正式な遺伝相談の機会に行われたものではない。
C医師は、Aの一般診察の際に、原告らからPM病の発症原因について質問を受けたにすぎず、原告らの家族計画や遺伝についての相談を受けたものではない。
エ ところで、PM病については、発症原因からしていまだ不明な点が多く、PM病の遺伝形式は、典型的には伴性劣性遺伝とされるが、女性の発症例や突然変異で発症する場合もあることから、伴性劣性遺伝と断定することはできないし、本件については、Aの母方の家系にPM病の発症例がなかったことから、上記説明当時、AのPM病が孤発例である可能性を否定できない状況にあった。
オ したがって、上記説明当時、AのPM病が伴性劣性遺伝で発症したと断定する根拠が乏しかったのであるから、C医師は、AのPM病について、伴性劣性遺伝で発症したことを前提とする説明をする義務を負っていなかったし、AがPM病を発症したからといって、将来生まれてくるかもしれない原告らの第二子以降の子供について、男子なら二分の一が発症し、女子なら二分の一が保因者となるなどと断定することはできず、その蓋然性が強いとも判断できなかったのであり、原告らが主張する説明をすることは、PM病の特徴からすれば、かえって不正確なものである。
カ 加えて、遺伝病が発症した場合において、母方の家系が問題となる伴性劣性遺伝を示唆することは、親族間に感情的なしこりや亀裂を生ずることにもなるし、両親にとって健常児が生まれてくる可能性を放棄させ、両親の子供を産むという自己決定権を侵害することになるから、かかる説明を軽々しくできるものではなく、結局、どのような説明を行うかは、医師の裁量に任されているというべきであり、C医師の上記ア記載の説明は、裁量の範囲内で適切なものであった。
(2) 平成七年二月二八日以降の各受診時におけるC医師の説明義務違反の有無
(原告らの主張)
ア C医師は、原告らに対し、別紙事実経過一覧表原告の主張欄記載のとおり、平成七年二月二八日から平成一一年七月二七日までの間のAの受診の機会をとらえて、PM病が伴性劣性遺伝疾患であること、そのため、男子に二人で一人の確率でPM病の子供が産まれ、女子に二人に一人の確率でPM病の保因者の子供が生まれる危険性があることを告知し、説明すべきであった。
イ しかしながら、C医師は、原告らに対し、かかる説明を一切しなかった。
(被告の主張)
ア 上記(1)被告の主張エないしカ記載の各主張と同じ。
イ 原告らは、平成七年二月二八日からBが出生するまでの間、C医師に対し、一度も、次の子供をもうけることについての相談をしていない。また、遺伝形式について説明することには、家族に重大な影響を与える可能性がある一方で、PM病については当時、その遺伝形式についていまだ確立されておらず、明確に説明することは不可能であった。
ウ したがって、C医師は、原告らから何ら質問がなかったのに、明確に説明できないPM病の遺伝形式について、家族に重大な影響を与えかねない説明を積極的に行う法的義務を負ってはいなかった。
(3) 平成六年一一月八日受診時のD医師の説明義務違反の有無
(原告らの主張)
ア 原告らは、D医師に対し、平成六年一一月八日のAの被告aセンター耳鼻科受診時に、「次の子供を作りたいが、大丈夫でしょうか。」と尋ねた。
イ D医師は、当時、PM病が、少なくとも典型的には、伴性劣性遺伝する疾患であること及びAがPM病である可能性が高いことを十分に認識していた。
ウ したがって、D医師は、原告らの上記質問に対して、PM病が伴性劣性遺伝疾患であること、そのため、男子に二人で一人の確率でPM病の子供が産まれ、女子に二人に一人の確率でPM病の保因者の子供が生まれる危険性があることを説明すべきであった。
エ しかしながら、D医師は、原告らに対し、C医師の説明内容を原告らに確認した上で、「C先生がそうおっしゃるならば、そうでしょう。」と回答したにすぎなかった。
オ 原告らは、D医師の上記説明を信頼し、将来、原告らの間に、Aと同様の症状を持つ子供が生まれることはないと信じた。
(被告の主張)
ア 上記(1)被告の主張記載の各主張と同じ。
イ D医師は、そもそも耳鼻科の専門であり、脳神経の病気のことで遺伝に関する質問を受けたり、子供をもうけることに関して相談を受けたりする立場にはなかったし、専門医であるC医師の結論にあえて異を唱えるべき立場にはなかった。
(4) 平成七年二月二八日以降の各受診時におけるD医師の説明義務違反の有無
(原告らの主張)
ア D医師は、原告らに対し、別紙事実経過一覧表原告の主張欄記載のとおり、平成七年二月二八日から平成一一年七月二七日までの間のAの受診時において、PM病が伴性劣性遺伝疾患であること、そのため、男子に二人に一人の確率でPM病の子供が産まれ、女子に二人に一人の確率でPM病の保因者の子供が生まれる危険性があることを告知し、説明すべきであった。
イ しかしながら、D医師は、原告らに対し、かかる説明を一切しなかった。
(被告の主張)
上記(2)被告の主張及び(3)被告の主張イ記載の各主張と同じ。
(5) 因果関係及び損害
(原告らの主張)
ア PM病は、生涯にわたり日常生活に全面的な介護を必要とし、治療法もない重篤な神経疾患であり、患者家族の精神的、肉体的、経済的負担は極めて大きい。PM病を発症したAを既に抱えていた原告らは、C医師及びD医師が、PM病について、伴性劣性遺伝疾患であること、男子に二人に一人の確率でPM病の子供が産まれ、女子に二人に一人の確率でPM病の保因者の子供が生まれる危険性があることを正しく説明していれば、決して、Bをもうけることはなかった。しかるに、C医師及びD医師は、PM病についての正しい説明を行わず、Aの子供に出ることはあるが、兄弟に出ることはまずないとの説明をしたため、原告らは、上記説明を信頼し、将来、原告らの間に、Aと同様の症状を持つ子供が生まれることはないと信じてBを産んだものである。したがって、C医師及びD医師の説明義務違反とBの出生により原告らが受けた各損害との間には因果関係がある。また、被告に対し、Bの生命維持に必要な経済的負担の分担を命じることは、何ら生命の尊厳や生きる権利を否定するものではない。
イ Bの状態
Bは、平成一四年七月二五日現在生後二歳九箇月であるが、PM病のため、眼振のほか、首のすわりも遅れ、寝返りも自由にできない状態であり、今後も食事、入浴、排泄等、生命維持のためには全介助が必要である。
ウ 慰謝料
原告ら各自一五〇〇万円
原告らは、C医師らの説明義務違反によって、自らの権利と責任において子をもうけるか否かを選択する機会を奪われ、自らと家族の人生を真摯に決定する機会を喪失した。PM病は、生涯にわたり、日常生活に全面的な介護を要し、治療法もない重篤な神経疾患であって、患者の家族の精神的、肉体的負担は極めて大きいところ、原告らは、C医師らの説明義務違反によってPM病に罹患した子を二人も抱えることになったのであって、その精神的、肉体的負担は極めて重大である。
原告X2は、BがPM病と診断された後に、易疲労、不眠、意欲低下等の症状に陥り、うつ状態との診断を受けた。
これらの原告らの被った精神的損害を慰藉するに相当な金額は、それぞれ一五〇〇万円を下回ることはない。
エ 介護費用(平成一一年○月○日から平成一四年七月二五日まで)
原告ら各自四〇三万六〇〇〇円
Bは、PM病のため、日常生活に全面的な介護を要する状態にあるところ、介護費用一日当たり八〇〇〇円の上記期間(一〇〇九日間)相当分を原告らで二分した額が原告ら各自の損害となる。
(計算式)
8000円×1009÷2=403万6000円
オ 将来の介護費用(平成一四年七月二六日から)
原告ら各自四二六七万一九三一円
Bは、PM病のため、生涯にわたり、全面的な介護を必要とするところ、その費用については、原告らが負担せざるを得ない。現在は、原告ら自身が介護に当たっているが、今後、BのPM病の症状が進行し、身体も成長する一方、両親が高齢化することにより、職業付添人による介護が不可欠となる。そこで、職業付添人による介護費用一日当たり一万二〇〇〇円について、三六五を乗じ、Bの余命七五年間のライプニッツ係数(19.4849)を乗じた額の二分の一が原告ら各自の損害となる。
(計算式)
1万2000円×365×19.4849÷2
=4267万1931円
カ 家屋改造費
原告ら各自七五七万八五〇五円
Bの介護のためには、原告らの自宅の家屋改造及びその維持のために以下の各項目について各費用を要するところ、(ア)ないし(ク)の各費用(合計二七六二万七五二〇円)については、これらによって、Aも利益を得るので、その二分の一がBに関して要する費用として損害となり、これに(ケ)の費用を加えた合計一五一五万七〇一〇円が、原告らの損害となり、その二分の一が、原告ら各自の損害となる。
(計算式)
(2762万7520円÷2+134万3250円)÷2
=757万8505円
(ア) エレベーターの購入及び設置
四五三万八八二〇円
Bの介護のためには、一、二階を往復するエレベーターの設置が不可欠である。エレベーターの購入及び設置費用は、合計二六〇万円であるところ、Bの介護のためには、今後、Bの余命七五年間にわたって、エレベーターを使用する必要があり、エレベーターの耐用年数は一七年であるから、初回購入、設置の一七年後(ライプニッツ係数0.4362)、三四年後(同0.1903)、五一年後(同0.0830)及び六八年後(同0.0362)にも、それぞれエレベーターの購入及び設置の必要が生ずる。したがって、これらエレベーターの購入及び設置費用の合計額は、以下の計算のとおり、四五三万八八二〇円となる。
(計算式)
260万円×(1+0.4362+0.1903+0.0830+0.0362)=453万8820円
(イ) エレベーターメンテナンス
一一三万〇一二四円
エレベーターを設置すれば、当然メンテナンス費用が必要になるところ、一年間のエレベーターメンテナンス費用は、五万八〇〇〇円であるから、これにBの余命七五年のライプニッツ係数(19.4849)を乗じた一一三万〇一二四円がエレベーターメンテナンス費用として必要となる。
(計算式)
5万8000円×19.4849=113万0124円
(ウ) 高気密、高断熱工事
四〇〇万円
Bは、寒暖にあわせて衣類を着脱するなどの動作をすることができない。したがって、Bの健康維持及び介護のためには、室内の温度を一定に保つための高気密、高断熱工事が、必要である。同工事の費用としては、四〇〇万円が必要である。
(エ) 天井リフトの購入及び設置
一〇〇九万二〇八八円
今後成長するBを介護するに当たっては、移動及び入浴のため、天井にレールを設置し、Bを載せるリフトを取り付ける必要がある。
天井リフトの購入及び設置費用は、合計二二三万円であるところ、Bの介護のためには、今後、Bの余命七五年間にわたって、天井リフトを使用する必要があり、天井リフトの耐用年数は五年であるから、初回購入、設置の五年後(ライプニッツ係数0.7835)、一〇年後(同0.6139)、一五年後(同0.4810)、二〇年後(同0.3768)、二五年後(同0.2953)、三〇年後(同0.2313)、三五年後(同0.1812)、四〇年後(同0.1420)、四五年後(同0.1112)、五〇年後(同0.0872)、五五年後(同0.0683)、六〇年後(同0.0535)、六五年後(同0.0419)、七〇年後(同0.0328)及び七五年後(0.0257)にも、それぞれ天井リフトの購入及び設置の必要が生ずる。したがって、これら天井リフトの購入及び設置費用の合計額は、以下の計算のとおり、一〇〇九万二〇八八円となる。
(計算式)
223万円×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419+0.0328+0.0257)=1009万2088円
(オ) ストレッチャーの購入及び設置
二七一万五三六〇円
ストレッチャーとは、障害者を横にさせたままで入浴させるための上下可動式の寝台であって、Bの入浴介護のためには、必要不可欠なものである。
ストレッチャーの購入及び設置費用は、合計六〇万円であるところ、Bの介護のためには、今後、Bの余命七五年間にわたって、ストレッチャーを使用する必要があり、ストレッチャーの耐用年数は五年であるから、初回購入、設置の五年後(ライプニッツ係数0.7835)、一〇年後(同0.6139)、一五年後(同0.4810)、二〇年後(同0.3768)、二五年後(同0.2953)、三〇年後(同0.2313)、三五年後(同0.1812)、四〇年後(同0.1420)、四五年後(同0.1112)、五〇年後(同0.0872)、五五年後(同0.0683)、六〇年後(同0.0535)、六五年後(同0.0419)、七〇年後(同0.0328)及び七五年後(0.0257)にも、それぞれストレッチャーの購入及び設置の必要が生ずる。したがって、これらストレッチャーの購入及び設置費用の合計額は、以下の計算のとおり、二七一万五三六〇円となる。
(計算式)
60万円×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419+0.0328+0.0257)=271万5360円
(カ) ストレッチャー専用バスタブの購入及び設置 二八五万一一二八円
ストレッチャーを使用する場合、ストレッチャーを入れるための専用のバスタブが必要になる。
同バスタブの購入及び設置費用は、合計六三万円であるところ、Bの介護のためには、今後、Bの余命七五年間にわたって、バスタブを使用する必要があり、バスタブの耐用年数は五年であるから、初回購入、設置の五年後(ライプニッツ係数0.7835)、一〇年後(同0.6139)、一五年後(同0.4810)、二〇年後(同0.3768)、二五年後(同0.2953)、三〇年後(同0.2313)、三五年後(同0.1812)、四〇年後(同0.1420)、四五年後(同0.1112)、五〇年後(同0.0872)、五五年後(同0.0683)、六〇年後(同0.0535)、六五年後(同0.0419)、七〇年後(同0.0328)及び七五年後(0.0257)にも、それぞれバスタブの購入及び設置の必要が生ずる。したがって、これらバスタブの購入及び設置費用の合計額は、以下の計算のとおり、二八五万一一二八円となる。
(計算式)
63万円×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419+0.0328+0.0257)=285万1128円
(キ) バリアフリー用玄関サッシ及びはき出しサッシ 五〇万円
Bは、室内室外ともに車いすを使用するため、玄関及び室内のドアは引き戸にする必要がある。引き戸にした際に下側のレールに段差があると、車いすの通行の妨げになるとともに、レール自体が傷むことになるので、バリアフリー用サッシを使用する必要があるが、通常のサッシ代とバリアフリー用玄関サッシ及びはき出しサッシの差額は合計五〇万円である。
(ク) その他の室内特殊工事
一八〇万円
浴室は、上記(オ)(カ)のとおり、ストレッチャー用のバスタブを入れるため、通常の浴室より広くする必要がある。また排水設備にも特殊な工夫を要する。
また、上記(キ)のとおり、室内を車いすが通れるようにするため、玄関ドア、引き戸を広くし、床を滑りにくくし、段差をなくす必要がある。
これらの室内特殊工事費用は、合計一八〇万円である。
(ケ) 介護ベッドの購入及び設置
一三四万三二五〇円
Bの介護には、介護ベッドの使用が必要である。介護ベッドの購入及び設置費用は、合計三九万八〇〇〇円であるところ、Bの介護のためには、今後、Bの余命七五年間にわたって、介護ベッドを使用する必要があり、ストレッチャーの耐用年数は七年であるから、初回購入、設置の七年後(ライプニッツ係数0.7106)、一四年後(同0.5050)、二一年後(同0.3589)、二八年後(同0.2550)、三五年後(同0.1812)、四二年後(同0.1288)、四九年後(同0.0915)、五六年後(同0.0650)、六三年後(同0.0462)及び七〇年後(同0.0328)にも、それぞれ介護ベッドの購入及び設置の必要が生ずる。したがって、これら介護ベッドの購入及び設置費用の合計額は、以下の計算のとおり、一三四万三二五〇円となる。
(計算式)
39万8000円×(1+0.7106+0.5050+0.3589+0.2550+0.1812+0.1288+0.0915+0.0650+0.0462+0.0328)
=134万3250円
キ 車いす代
原告ら各自一五四万八一三二円
Bは、既に室内、室外において車いすを使用しているが、今後余命七五年間にわたって使用を続ける必要がある。常時、室内用(二七万三一九七円)と室外用(六歳まで使用するもの九万五三七八円、六歳以降使用するもの一八万九三〇三円)の二台が必要であり、それぞれ、身体的発育の続く一八歳までは二年に一回買換えの必要があり、その後も耐用年数に従い四年ごとの買換えが必要であるところ、それら費用の合計額の二分の一が原告ら各自の損害となる。
(計算式)
(ア) 室内用 一九二万四九一七円
a 一八歳まで(二年に一回買換え)
27万3197円×(0.9070+0.8227+0.7462+0.6768+0.6139+0.5568)
=118万1139円
b 一八歳から七五歳まで(四年に一回買換え)
27万3197円×(0.5050+0.4155+0.3418+0.2812+0.2313+0.1903+0.1566+0.1288+0.1059+0.0872+0.0717+0.0590+0.0485+0.0399+0.0328+0.0270)=74万3778円
c a+b=192万4917円
(イ) 室外用 一一七万一三四七円
a 三歳から六歳まで(二年に一回買換え)
9万5378円×(0.9070+0.8227)
=16万4975円
b 六歳から一八歳まで(二年に一回買換え)
18万9303円×(0.7462+0.6768+0.6139+0.5568)=49万0995円
c 一八歳から七五歳まで(四年に一回買換え)
18万9303円×(0.5050+0.4155+0.3418+0.2812+0.2313+0.1903+0.1566+0.1288+0.1059+0.0872+0.0717+0.0590+0.0485+0.0399+0.0328+0.0270)=51万5377円
d a+b+c=117万1347円
(ウ) (ア)+(イ)=三〇九万六二六四円
ク おむつ代
原告ら各自二三六万八三五〇円
Bは、今後、死亡に至るまでおむつが必要であるところ、おむつ代一箇月当たり二万〇二五八円について、一二を乗じ、Bの余命七五年間のライプニッツ係数(19.4849)を乗じた額の二分の一が、原告ら各自の損害となる。
(計算式)
2万0258円×12×19.4849÷2
=236万8350円
ケ 車いす仕様車と普通乗用自動車との購入価額差額分
原告ら各自一六〇万〇五八九円
Bの通院や通学のためには、車いす仕様車が必要であるところ、車いす仕様車の価額三七〇万二〇〇〇円と原告らの現在使用する普通乗用自動車(日産プレーリー)と同グレードの普通乗用自動車(トヨタイプサム)の購入価額二〇四万円との差額は、一六六万二〇〇〇円であって、Bの介護のためには、今後、Bの余命七五年間にわたって、車いす仕様車を使用する必要があり、自動車の耐用年数は六年であるから、初回購入、設置の六年後(ライプニッツ係数0.7462)、一二年後(同0.5568)、一八年後(同0.4155)、二四年後(同0.3100)、三〇年後(同0.2313)、三六年後(同0.1726)、四二年後(同0.1288)、四八年後(同0.0961)、五四年後(同0.0717)、六〇年後(同0.0535)、六六年後(同0.0399)、七二年後(0.0298)にも、それぞれ車いす仕様車購入の必要が生ずる。したがって、これら車いす仕様車と普通乗用自動車との購入価額差額分の合計額は、六四〇万二三五六円となるところ、車いす仕様車の購入によって、Aも利益を得るので、その二分の一がBに関して要する費用として損害となり、原告ら各自の損害は、さらにその二分の一である一六〇万〇五八九円となる。
(計算式)
166万2000円×(1+0.7462+0.5568+0.4155+0.3100+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961+0.0717+0.0535+0.0399+0.0298)÷2÷2
=160万0589円
コ 小計
原告ら各自七四八〇万三〇五七円
サ 弁護士費用
原告ら各自七五〇万円
原告らの弁護士費用のうち、少なくとも原告各自の請求額の約一〇パーセントである各自七五〇万円が、相当因果関係ある損害である。
シ 損害額合計
原告ら各自八二三〇万三〇五七円
(被告の主張)
争う。
ア C医師及びD医師は、第二子出生後は原告らから何らの相談も受けておらず、当然何ら原告らに対し誤った説明をしていないところ、第二子出生前のC医師の説明が、原告らが適切であると主張する説明であったとしても、原告らが、健常な第二子は妊娠、出産したが、第三子は妊娠、出産しなかったということは想定し難いし、また、夫婦が子供をもうけるということは、夫婦の人生観や将来の人生計画に基づき、自らの権利と責任において決定することであるから、原告らには、B妊娠以前に、PM病の長男Aと健常である二男Fがおり、障害児と健常児の親となることの意味を理解した上で、自らの決断で第三子をもうけることを決めたというべきであって、第二子出生前のC医師の説明内容と、Bの出生とは全く無関係であって、因果関係はない。
イ 原告らは、C医師に相談する以前からPM病が遺伝病であることを認識していた。また、C医師の説明も、原告らの子供にPM病の発症はないとの誤信を生じさせるものではなかったし、その後、Aは、遺伝子解析を受けており、原告らは、D医師から伴性劣性遺伝について記載されているPM病に関する文献を受領しているのであるから、原告らは、C医師の説明を聴いた後においても、第二子以下にPM病が発症する可能性を認識していた。それにもかかわらず、原告らは、自らの決断に基づいてBを出生したというべきであり、この点からも、C医師の説明内容と、Bの出生とは全く因果関係はない。
ウ Bの出生自体を損害と評価することは、子供の出生という事実と子供が出生しないという事実を比較して、出生しない方がよかったから損害が発生したというに等しく、生命の尊厳を無視するものであって、公序良俗に反し許されない。
エ 介護費用(平成一一年○月○日から平成一四年七月二五日まで)について、原告らは、一日の介護費用を交通事故にあった成人の介護費用と同様に考え八〇〇〇円と主張しているが、通常、子供が出生した直後は、健常児であっても生活をするのに親の手がかかり面倒をみる必要があるのであって、Bの世話にかかる一切がPM病を発症したことと関係があるとするのは誤りである。また、Bの介護費用については、毎日朝晩派遣されるヘルパー費用のうち、原告ら負担額(一時間当たり九五〇円)を超える部分については、町田市が負担していると考えられ、また、原告らは、平成一一年七月二七日の時点で、学童保育に補助金(月額一二万円)を受けられるとC医師に対し述べており、このように福祉から手厚いサービスを受けられるBの介護費用を、健康な成人が交通事故によって突然介護が必要になった場合と同等に評価するべきではない。
オ 将来の介護費用について、Bは、成人後は、被告aセンターのような施設において、都道府県による措置として介護を受けることができるし、その施設についての負担金も、身体障害者として受給できる障害基礎年金の範囲内で負担するにすぎない。したがって、Bが、生涯にわたり、原告らの全面的な介護を必要とすることはなく、原告らは、Bの生涯にわたる介護費用を負担する必要がない。
カ 家屋改造費については、AのPM病発症によっても必要となるものであるから、損害に当たらない。
キ 車いす代については、座位保持装置及び車いすの費用は、町田市から原告らに対して交付されるものであって、原告らの負担は全くないから、損害に当たらない。
ク 紙おむつ代についても、原告らの一箇月当たりの負担額は、一万一〇〇〇円にすぎず、これを超える額については、町田市が負担しており、原告らの損害に当たらない。
ケ 原告らは、障害児を持つ家庭に支給される学童保育手当や、将来Bに支給されるであろう障害基礎年金等について全く損益相殺しておらず、その損害の算定は誤りである。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(平成六年一一月八日受診時のC医師の説明義務違反の有無)について
(1) PM病について
証拠(甲B1、3ないし8、乙A2、B1ないし7、証人C)によれば、以下の各事実が認められる。
ア 症状及び病態
PM病は、脳内の白質(神経繊維が多くある部位を指す。)中の髄鞘(ミエリンともいう。神経線維を被う膜を指す。)の成分を構成する主な蛋白質の一つであるプロテオリピッド蛋白(以下「PLP」という。)がうまく作られないため、髄鞘が、形成不全ないし脱髄を示すという極めてまれな中枢神経系の疾患であり、多くは進行性である。
その特徴としては、出生後早期から眼振(多くは水平方向である。)が目立つこと、運動障害が続き、知的発達障害も伴いやすいこと、年を経るにしたがって、痙性も出てくること等が挙げられる。
PM病は、症状の強さ、発症時期から、①乳児期に発症し一定の発達はしながら症状もはっきりしていく古典型、②出生時から非常に重篤な障害が目立つ先天型、③①と②の中間型ないし移行型、④成人型等に分類されている。
PM病の検査方法としては、ABR検査及びMRI検査が挙げられる。
イ 原因(現在における知見)
(ア) PM病発症例の約二〇パーセントは、PLPの産生を調整するPLP遺伝子の異常によるものであると考えられている。PLP遺伝子は、X染色体の長腕のXq22という部位に存在し、そのため、PLP遺伝子の異常によるPM病は、伴性劣性遺伝の形式をとると考えられる。
PM病の典型的な例として挙げられるのは、このような伴性劣性遺伝形式によるものである。
(イ) PM病発症例の約五〇パーセントは、PLP遺伝子の重複、すなわち正常なPLP遺伝子が本来あるべき状態の倍又はそれ以上存在することによるものであると考えられている。
なお、PLP遺伝子の重複が認められる場合であっても、PM病を発症しないこともあるし、母親にPLP遺伝子の重複がある場合に、その重複状態が子孫に遺伝するか否かについては、伴性劣性遺伝の場合と同様の形式をとるが、そのような形でPLP遺伝子の重複が遺伝したときに、PM病等の発症が常に生じるのか、発症する確率がどの程度あるかについては研究が進んでおらず、いまだ不明である。
(ウ) 以上のほか、原因がいまだ不明な症例も相当数存在するが、それらについてはPLP遺伝子以外の遺伝子に異常がある可能性もある。
(エ) さらに、PM病発症例の中には、突然変異によって生じた場合もあり得る。
(オ) PM病の遺伝形式に関するその他の特徴として、伴性劣性遺伝であると考えるにしては、女性の発症例が多いことが挙げられる。
ウ 原因についての知見の発展状況
(ア) 平成六年一一月当時は、PM病の原因として最も大きなものとして、伴性劣性遺伝があり、PLP遺伝子の異常が見つかる症例は約二〇パーセントほど存在した。他方で、典型的な伴性劣性遺伝の場合と比較して男児の発症例が少なく、女性の発症例や孤発例が多いとの報告もあったが、その理由は明らかではなかった。また、突然変異によるものもあった。
また、遺伝子の重複が関係している症例もあるらしいことはわかっていたが、いまだ検査方法も確立されておらず、その意味づけもほとんど判明していなかった。
(イ) 平成八年ころは、上記(ア)の知見に加えて、PLP遺伝子の重複についての報告例が相当増えてきていたが、そのことについても一部の研究者のみが注目していたという段階であった。
(ウ) 平成一〇年から平成一一年にかけて、これらに加えて、PLP遺伝子の重複が占める割合が、PM病の症例中約五〇パーセントに相当するということがわかってきた。
(2) Aの診療経過及び原告らが出生相談をした経緯について
別紙事実経過一覧表中「事実経過」及び「説明内容、カルテの記載事項等」欄のうち網掛け部分を除いた部分並びに証拠(甲A1ないし4、乙A1、2、証人C、原告X1本人、原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
ア 原告らの長男Aは、平成四年○月○日に出生したが、出生後一箇月ほどして、水平方向の眼振が生じたため、Aを出産した国立相模原病院小児科及び同眼科、国立小児病院眼科及び同小児科並びに北里大学病院小児科で診察を受けたが、原因は不明のままであった。
イ 原告らは、平成五年からAを町田市の市立療育園に通わせていたが、同療育園に通っていた別の児童の親から被告aセンター小児科のC医師を紹介され、C医師の診察を受けることとした。
ウ C医師は、平成五年六月二三日の初診時から、Aについて、PM病を疑い、原告らに対し、その旨及びPM病について、脳神経を包む絶縁体が不十分で混線しているような状態等と説明したが、その原因については、明確に説明しなかった。
エ C医師は、同月二八日、被告aセンターにおいて、AにABR検査を受けさせ、同日、PM病の特徴である脳波のⅡ波以降の反応が弱いとの検査結果を得て、同年七月一三日のA受診時に、原告らに対し、その検査結果を説明するとともに、AについてPM病の疑いが強くなったことを説明した。
オ 原告らは、その後、ほぼ二箇月に一度、被告aセンターを受診して、Aの身体的状況及び知能の発達状況について診察を受け、日常生活の指導を受けていた。原告らは、平成六年ころ、次の子供を産みたいと考えていたが、他方で、Aが生まれつきの重篤な病気に罹患しており、この病気が遺伝する病気ではないかとの不安があったことから、同年一一月八日、Aの被告aセンター小児科受診時に、C医師に対し、「次の子供を作りたいが、大丈夫でしょうか。」との質問をした(以下「本件質問」という。)。
(3) C医師の原告らに対する説明内容、C医師の知見及び被告aセンターの体制について
ア 証拠(甲A2、乙A2、証人C、原告X1本人、原告X2本人)によれば、C医師は、原告らからの本件質問に対し、原告らの家族にAと同様の症状を持つ者がいないことを確認した上で、「私の経験上、この症状のお子さんの兄弟で同一の症状のあるケースはありません。かなり高い確率で大丈夫です。もちろん、A君がそうであるように、交通事故のような確率でそうなる可能性は否定はしませんが。A君の子供に出ることはあるが、兄弟に出ることはまずありません。」との説明をしたこと、このときC医師は、原告らの質問への回答を拒絶することも、遺伝相談等の別の機会に詳しく説明したいなどと留保をすることもしなかったこと、C医師が原告らに対し説明した時間は五分程度であったことが認められる。
被告は、C医師が「兄弟で同一の症状のケースは、私は経験したことはありません。甲山さんの場合もご家族に類似した経過の方がおられないようなので、突然変異の可能性があり、その場合は兄弟で同一の症状の出る確率は低くなります。」と答えたのであって、「交通事故のような確率」などとは言っていないと主張する。しかし、これを裏付ける証拠は何ら存在しないのみならず、かえって、証人Cは、交通事故の比喩を用いたことは記憶がないが、それ以外については、上記内容の説明を行ったことを認める陳述(乙A2)及び証言をしており、「交通事故のような確率」との発言部分についても、単に具体的記憶がないと証言するにとどまるのであって、上記証拠によれば、C医師が上記に認定した説明をしたことが優に認められ、被告の主張は認められない。
イ 証拠(乙A2、証人C)によれば、C医師は、原告らに説明を行った当時、被告aセンターにおいて、C医師及び他の医師が、それまでにA以外に、五家族の五名のPM病患者を診察していたところ、そのうち兄弟姉妹のいる男子三名、女子一名の患者について、いずれもその兄弟姉妹にPM病を発症したものはいないという経験を有していたが、一方、PM病の原因について、上記(1)ウ(ア)判示の知見を有しており、また、文献上兄弟発症例の報告があることも認識していたことが認められる。
ウ 証拠(証人C)及び弁論の全趣旨によれば、被告aセンターは、肢体不自由児を治療するとともに、独立自活に必要な知識技能を与えること、重症心身障害児を保護するとともに治療及び日常生活の指導をすることなどのほか、在宅の心身障害児等に対する相談もその事業内容としていたこと、C医師は、患者児童及びその家族と診療を通して接することによって、遺伝病を持って生まれたことが悪であるという考え方をするのではなく一人の子供として受け止められるようにカウンセリングを行い、また、次の子供をもうけることについての相談も受けていくことをも被告aセンターの医師としての役割であると認識していたこと、被告aセンターにおいては、患者児童の両親からの出生相談についても、特別の窓口を設けておらず、患者児童の担当医師が、患者児童の診察の際に対応していたことが認められる。
(4) Aの症状、病態及び養育状況について
ア 証拠(甲A2、3、C2、乙A1、原告X2本人)によれば、PM病に罹患していたAは、出生後一箇月で水平方向の眼振が出たほか、運動発達遅延及び低緊張が認められ、平成六年二月二八日(二歳一箇月)当時、重度の失調型脳性麻痺であって、定頭や座位等重力に抗して姿勢を保つ能力が不十分であり、立位や座位が不可能に近いと考えられる状態にあり、同年四月二八日(二歳三箇月)当時には、眼振を伴い、低緊張であり、失調四肢麻痺で座位、立位などの安定姿勢の保持、協調的な上肢の使用は困難な状態にあり、言語面については、簡単な会話だけを理解し、単純な返事ができる程度であったこと、Aの各症状は、悪化傾向にあり、PM病に根本的治療方法がないことからすれば、今後さらにその症状が進行していくと考えられていたこと、現時点(一一歳)においても、Aは、意思疎通が困難な上、快、不快程度しか判断できないほか、自力で立ったり歩行することはできないため、移動するときには、車いすを必要とし、食事、入浴についてもすべて介助が必要であって、排泄についてもおむつを常に必要とするという状態にあり、今後もA存命中はこれらの介助等を要することは確実であること、原告らは、いずれも実家が広島県福山市にあり、原告らの親や親族の協力が期待できないことから、ヘルパー等公的な支援のほかは、原告らのみで、Aの(B出生後はA及びBの)介護及び養育に当たっていること、原告X1は、会社員であるため、日常的にこれらの介護及び養育に当たるのは、事実上、原告X2のみであることが認められる。
イ 前記第2、1(2)イの事実及び証拠(乙A1、2、証人C)によれば、原告らが本件質問を行った平成六年一一月八日当時、Aは、PM病である可能性が高いと診断されていたが、その原因については、A自身の突然変異や、その他の原因によって生じたものである可能性があったほか、母親である原告X2がPM病の保因者であって、同原告からの伴性劣性遺伝によって発症した可能性もあり、これを特定するには至らず、いまだ原因は明確ではなかったことが認められる。
(5) 説明義務の有無について
上記(1)ないし(4)認定の各事実を踏まえて、まず、C医師が、原告らに対し、説明義務を負っていたか否かについて検討する。
ア 原告らの本件質問は、上記(2)オ認定のとおり、被告aセンターにおけるAの一般診察の際に行われたものであり、患者ではない原告らと被告との間に、診療契約が締結されていたとは認められないし、本件全証拠によるも、被告において、原告らの本件質問に対し説明を行ったことに関して診療報酬を取得していたとは認められないから、被告が、本件質問に対して説明を行う診療契約上の義務を負っていたということはできない。
イ(ア) しかしながら、上記(3)ウ認定のとおり、被告aセンターは、在宅の心身障害児等に対する相談をその事業内容の一つとしており、C医師は、患者児童及びその家族に対するカウンセリングや出生相談を行うことも被告aセンターの医師としての役割と認識しており、そして、被告aセンターにおいては、患者児童の両親からの出生相談について、患者児童の担当医師が、患者児童の診察の際に対応していたのであり、また、上記(3)ア認定のとおり、C医師は、原告らの本件質問に対して、回答を拒んだり、遺伝相談等の別の機会に詳しく説明したいなどの留保を一切つけないで、原告らの本件質問に応じて説明をしたものである。
(イ) ところで、夫婦が、どのような家族計画を立て、何人の子供をもうけるかは、まさにその夫婦の人生の在り方を決する重大事であって、本来的に夫婦が自らの権利と責任において決定すべき事柄であることはいうまでもないが、本件においては、上記(2)エ及び(4)認定のとおり、原告らは、PM病の疑いがある重篤な障害を負ったAを抱えており、既にAの介護及び養育において重い肉体的、精神的及び経済的負担を負っていたのであり、その後、第二子以降の子供がAと同様にPM病に罹患して出生するか、健常児として出生するかは、原告らの生活にとって極めて深刻な問題であり、原告らの切実かつ重大な関心事であったことは明らかである。
そして、原告らのC医師に対する本件質問は、Aの診療行為と全く関係しない事柄として行われたものではなく、出生する子供のPM病罹患の有無という点において、Aの診療行為と密接にかかわる事柄であったといえるし、上記(2)ウエオ及び(3)イ認定のとおり、C医師は、PM病についての専門的知識を有し、PM病に罹患していたAを始めとする児童の診療に当たっていた者であるから、本件質問に対し、説明を行うべき者として相応しい者であったと認められる。
(ウ) (ア)(イ)に判示した、被告aセンターの事業内容、C医師の出生相談についての役割の認識、C医師が本件質問についての説明を拒否することなく応じていること、原告らの生活にとって、本件質問に対する説明は極めて切実かつ重大な関心事であったこと、Aの診療行為と密接にかかわる事柄であり、C医師は説明者として相応しい者であったことを総合考慮すると、C医師は、原告らの本件質問に応じて説明を行う以上、信義則上、当時の医学的知見や自己の経験を踏まえて、PM病に罹患した子供の出生の危険性について適切な説明を行うべき法的義務を負っていたというべきであり、原告らに対し、不適切な説明を行って誤った認識を与えた場合には、説明義務違反として、不法行為責任を負うと考えられる。
(6) 説明義務違反の有無について
C医師は、前記(3)ア認定のとおり、本件質問に対し、「私の経験上、この症状のお子さんの兄弟で同一の症状のあるケースはありません。かなり高い確率で大丈夫です。もちろん、A君がそうであるように、交通事故のような確率でそうなる可能性は否定はしませんが。A君の子供に出ることはあるが、兄弟に出ることはまずありません。」という説明を行ったものであるが、原告らは、C医師において、PM病が伴性劣性遺伝疾患であること、そのため、男子に二人で一人の確率でPM病の子供が生まれ、女子に二人に一人の確率でPM病の保因者の子供が生まれる危険性があることを説明すべきであったのに、上記のような説明をしたため、原告らは、将来、原告らの間に、Aと同様の症状を持つ子供が生まれることはないと信じたものであって、C医師には説明義務違反があると主張し、他方、被告は、AのPM病が伴性劣性遺伝で発症したと断定する根拠が乏しかったのであるから、C医師は、AのPM病について、伴性劣性遺伝で発症したことを前提とする説明を行う義務は負っていなかったし、原告らが主張する説明内容は、PM病の特徴からすると不正確なものであるし、C医師の説明は、原告らの第二子以降の子供がPM病を発症する危険性を否定したものではないから、C医師に説明義務違反はないと主張するので、以下において、C医師の説明に不法行為上違法とすべき義務違反があったか否かを判断する。
ア 前記(2)オの事実及び証拠(証人C、原告X1本人、同X2本人)によれば、原告らは、次の子供を産みたいと考えていたが、他方で、Aの症状について遺伝する病気ではないかとの不安があったことから、本件質問をしたこと、原告らは、C医師の説明を聞いて、第二子以降にPM病が発症する可能性は、他の健常児の親の場合と同程度であると受け取って安心し、次の子供をもうけることを決断し、F及びBを出産したことが認められる。
これらの事実に、C医師の上記説明内容を考えると、C医師の説明は、原告らの立場にあったのが一般通常人であったとしても、次の子供にPM病に罹患した子供が生まれる可能性は低いという認識を与え、PM病に罹患した子供が生まれるのではないかという親の不安をかなりの程度解消するものであったと認められる。
イ(ア) ところで、前記(4)イ認定のとおり、平成六年一一月八日当時、Aは、PM病である可能性が高いと診断されていたが、その原因については、いまだ明確にされていなかったところ、前記(1)ウ(ア)認定のとおり、平成六年一一月八日当時の医学的知見は、PM病の原因として最も大きなものとして伴性劣性遺伝があること、PLP遺伝子の異常が見つかる症例は約二〇パーセントほど存在したこと、典型的な伴性劣性遺伝の場合と比較して男児の発症例が少なく、女性の発症例や孤発例が多いとの報告もあったが、その理由は明らかではなかったこと、また、突然変異による発症例もあったこと、遺伝子の重複が関係している症例もあるらしいことはわかっていたが、いまだ検査方法も確立されておらず、その意味づけもほとんど判明していなかったというものであった。
(イ) これに対し、前記(3)アイ認定のとおり、被告aセンターにおいて、五名のPM病患者を診察していたが、そのうち兄弟姉妹のいた男子三名、女子一名について、いずれも兄弟姉妹にPM病の発症がなかったことが認められ、また、C医師は、原告らの家族にAと同様の症状を持つ者がいないことを確認していたが、しかしながら、前記(3)イの事実及び証拠(証人C)によれば、被告aセンターにおける五例の症例が、平成六年一一月八日当時の上記医学的知見に変更を加えるものではないし、C医師は、文献上兄弟発症例の報告があることも認識していたこと、また、原告らの家族にAと同様の症状を持つものがいないという事実も、AのPM病が突然変異によって発症したものであり、伴性劣性遺伝によるものではないことを確定するものではなかったことが認められる。
(ウ) 以上に認定した、平成六年一一月八日当時の医学的知見としては、PM病の原因として、女性の発症例や孤発例、突然変異による発症例があることが認識されていたものの、PM病の最も大きな原因としては伴性劣性遺伝であると考えられていたこと、被告aセンターにおける五例の症例も、上記医学的知見に変更を加えるものではないこと、AのPM病については、A自身の突然変異や、その他の原因によって生じたものである可能性があったほか、母親である原告X2がPM病の保因者であって、そこからの伴性劣性遺伝によることも否定されていなかったこと、原告らの家族にAと同様の症状を持つものがいないという事実も、AのPM病が突然変異によって発症したものであり、伴性劣性遺伝によるものではないことを確定するものではなかったことからすると、AのPM病は、母親である原告X2がPM病の保因者であって、同原告からの伴性劣性遺伝によって発症した可能性も相当程度認められ、典型的な伴性劣性遺伝の場合と全く同一であるかはともかくとして、原告らの第二子以降にPM病が発症する危険性は、出生児が男子であれば、相当程度存在したと考えられる。
ウ そうすると、アに判示したとおり、C医師の説明は、原告らの立場にあったのが一般通常人であったとしても、次の子供にPM病に罹患した子供が生まれる可能性は低いという認識を与え、PM病に罹患した子供が生まれるのではないかという親の不安をかなりの程度解消するものであったと認められるのであり、かかる説明は、イに判示したとおり、平成六年一一月八日当時の医学的知見及びAのPM病の発症原因が特定されていないという当時の状況からすると、原告らの第二子以降にPM病が発症する危険性は、出生児が男子であれば、相当程度あったと考えられるから、不正確な説明であって、原告らに対し、次の子供にPM病に罹患した子供が生まれる可能性は低いという誤解を与えるものであったといわざるを得ない。そして、前記(5)(ウ)判示のとおり、C医師は、信義則上、当時の医学的知見や自己の経験を踏まえて、PM病に罹患した子供の出生の危険性について適切な説明を行うべき法的義務を負っていたというべきであるから、本件質問に対し、不正確な説明を行って、原告らに誤解を与えたC医師には不法行為としての説明義務違反が認められる。
エ(ア) 被告は、遺伝病が発症した場合において、母方の家系が問題となる伴性劣性遺伝を示唆することは、親族間に感情的なしこりや亀裂を生ずることにもなるし、両親にとって健常児が生まれてくる可能性を放棄させ、両親の子供を産むという自己決定権を侵害することになるから、かかる説明を軽々しくできるものではなく、結局、どのような説明を行うかは、医師の裁量に任されているというべきであり、C医師の説明は、裁量の範囲内であったと主張し、証人Cも、原告X2が、本件質問をする際に不安そうであったために、原告X2を絶望させないように、ある程度健常な子供を産む可能性があるにもかかわらずその可能性から逸脱してしまうことは避けようとして説明をしたこと、単純に伴性劣性遺伝の可能性を指摘して家族間に無用な紛争を招くことを危惧したこと等を証言している。
(イ) 医師が、患者に対し、診療行為等の説明を行う場合、殊に説明内容が患者の生命ないし余命にかかわる事柄であったり、遺伝にかかわる事柄であったりする場合に、誰にどこまでの範囲を説明するか、あるいはどのような表現を用いて説明するかは、医師自身の医療行為に対する考え方、患者と医師との関係についての理解、生命や健康に対する見方、人生観等に深くかかわる事柄であって、専門家たる医師としての裁量に属する部分が存することは否定できない。そして、本件のように、遺伝病という極めて微妙な問題に関して、家族又は本人に対し、どのように説明をすべきかは極めて難しい問題であると考えられる。
しかしながら、医師が説明を行う場合に、特段の事情がない限り、当時の医学的知見や患者の病気ないしは症状の状況からして、不正確な説明を行い、患者に対し、誤った認識を与えることまでもが、医師の裁量として許されるとは到底解されない。
(ウ) 前記ウに判示したとおり、C医師の原告らに対する説明内容は、当時の医学的知見及びAの状況からして、不正確な説明であって、原告らに対し、次の子供にPM病に罹患した子供が生まれる可能性は低いという誤解を与えるものであったのであり、医師の裁量の範囲として、このような説明が許されるものとは認められない。
被告は、両親にとって健常児が生まれてくる可能性を放棄させ、両親の子供を産むという自己決定権を侵害することになると主張するが、正確な説明に基づいて両親が判断することこそ、自己決定の完全な実現であって、自己決定権の侵害に当たらないのは明白であるし、かえって、正しい説明を行わずに、原告らに誤解を与える説明を行うことは、再びPM病に罹患した子供が生まれる可能性のある中で次の子供をもうけるか否かを決するという両親の自己決定に偏った影響を与えるものであるから、被告の主張は認められない。また、C医師が証言する、単純に伴性劣性遺伝の可能性を指摘して家族間に無用な紛争を招くことを危惧したという点についても、かかる配慮は、本来表現方法に注意をしながら説明及び指導助言に十分に時間をかけて行うなどの方法によって解決されるべきものと考えられるし、遺伝的情報を伝えることによって家族間に紛争を招来させる危険性は、PM病に罹患した二人の子供を抱えることが原告らの生活に対し深刻かつ重大な事態をもたらすことを考えると、正確な説明を行わないことを正当化する特段の事情には当たらないといわなければならない。
よって、いずれの観点からも、被告の主張は認められない。
(7) 以上の検討によれば、結局、C医師には、原告らに対し、誤解を与えるような不正確な説明をした不法行為上の説明義務違反が認められ、被告は、これについて使用者責任を負うというべきである。
なお、原告らは、平成七年二月二八日以降の各受診時におけるC医師の説明義務違反、平成六年一一月八日受診時のD医師の説明義務違反及び平成七年二月二八日以降の各受診時におけるD医師の説明義務違反をも主張するが、これらの主張は、C医師に平成六年一一月八日受診時の説明義務違反が認められる以上、被告の責任、そして、後記に認定する因果関係及び損害額についての当裁判所の判断に変更を加えるものではないから、判断の必要がなかった。
2 争点(4)(因果関係及び損害)について
(1) 原告らは、C医師の説明義務違反と因果関係のある損害として、B出生に伴う介護費用及び家屋改造費等の積極的損害、慰謝料並びに弁護士費用を挙げているところ、原告らが主張する損害のうち、どの範囲を、1に判示したC医師の不法行為上の説明義務違反と因果関係ある損害と認めるべきかについて検討する。
ア 前記1(2)オ、(5)ア認定のとおり、原告らは、次の子供を産みたいと考えていたが、Aの症状について遺伝する病気ではないかとの不安があったことから、C医師に対し、本件質問を行い、C医師の説明を聞いて、原告らの第二子以降にPM病が発症する可能性は、他の健常児の親の場合と同程度であると受け取って安心し、次の子供をもうける決断をして、F及びBを出産したという経過をたどったものである。
イ しかしながら、前記1(5)イ(イ)判示のとおり、夫婦が、どのような家族計画を立て、何人の子供をもうけるかは、まさにその夫婦の人生の在り方を決する重大事であって、本来的に夫婦が、種々の事項を考慮した上で自らの権利と責任において決定すべき事柄であり、何人もこれを尊重すべきものであって、この決定に容喙できるものではない。これは、AのようなPM病に罹患した障害児を持ち、次の子供をもうけることを考えていた原告らにおいても同様に妥当する事柄であり、かかる観点からすると、原告らは、C医師によって、Bを生むことを強いられたわけでもなく、最終的に、自ら決断してBをもうけたものということができる。
PM病発症の可能性は、かかる決断をするに当たって極めて重要な要素ではあるが、子をもうけるか否かは、その一点のみをもって決まる問題ではなく、原告らの子を望む思いの程度や人生に対する考え方、態度にも深くかかわるものであって、第三者たるC医師の説明のみによって左右されるとも考え難い。
ウ(ア) また、前記1(3)ア及び第2、1(2)カキの各事実並びに証拠(乙1、証人C、原告X1本人、原告X2本人)によれば、原告らは、Aが生まれつきに罹患していたと疑われていたPM病は、遺伝病ではないかとの疑問を持っていたこと、C医師の原告らに対する説明において、C医師はAが遺伝病であることを否定しておらず、Aの子供にPM病が発症する可能性があることを述べており、また、原告らの次の子供にPM病に罹患した子供が生まれる可能性は、高い確率で大丈夫というもので、しかも、交通事故のような確率などという曖昧な表現も使っており、第二子以降の子供にPM病が発症する可能性がないことを説明したものではないし、Aが遺伝病であることを否定したものでもないこと、原告らは、C医師の説明を聴いた後に、夫婦の間で話し合いを持ってC医師の説明の意味を十分検討することもしていないこと、Aは、平成七年六月一三日、確定的にPM病であると診断され、同年一〇月一一日には、遺伝子解析のための血液検査を受けたこと、原告らは、B出生前にD医師から、非常に理解度の高いPM病患者もいるという例として、PM病についての論文を渡されたが、その論文には、伴性劣性遺伝の記述があり、原告X1はこの論文を読んだにもかかわらず、原告らは、B出生前まではかかる記載について特に意識をしていなかったこと、原告らは、平成六年一一月八日にC医師及びD医師に本件質問をしたほかは、B出生まで約五年間にわたって、C医師や他の医師に対して、第二子以降の子供をもうけるべきか否かについて改めて相談をしていなかったことが認められる。
以上の事実によれば、C医師からAのPM病が遺伝病ではないと説明されたわけではなく、また、その後もAに対して、遺伝子解析の検査が行われているので、Aが遺伝病ではないかとの原告らの疑問が払拭されたとはいえないし、また、第二子以降にPM病が発症する可能性は高い確率で大丈夫というものにすぎず、可能性はないとの説明があったものではないから、前記1(6)ア判示のとおり、C医師の説明は、一般に、親がその説明を聴けば、第二子以降にPM病に罹患した子供が生まれる可能性は低いという認識を持ち、PM病に罹患した子供が生まれるのではないかという不安がかなりの程度解消されるものであったとはいえるが、それを超えて、原告らが、原告らにPM病に罹患した子供が生まれる可能性は、他の健常児の親の場合と同程度であると受け取って安心してしまったのは、いささか安易な受取り方であり、遺伝の問題についてもやや楽観的にすぎる対応であったと認められる。さらに、原告らは、その後、夫婦でC医師の説明の意味を十分検討したり、あるいは、C医師の説明からBの出生まで五年余りが経過したのに、C医師や他の医師に対し改めて相談することもしておらず、当然気がついてもよい伴性劣性遺伝という論文の記載についても意識すらしていなかったというのである。
(イ) さらに、前記1(6)に判示した当時のPM病についての学説の状況及びAのPM病の原因が明確ではなかったこと等からすると、原告らが、C医師から適切な説明を受けていたとしても、次の子供のPM病の発症率について、明確かつ具体的な確率等で説明できるものではなく、あくまで抽象的な可能性の議論にとどまるものであったと考えられること、他方で、C医師及び被告aセンター医師らの経験上は兄弟発症例がなく、AにはPLP遺伝子の異常が発見されなかったという現実があること、原告ら自身が第二子以降の子供を欲していたこと、原告らが遺伝の問題についてやや楽観的にすぎるともいえる態度をとっていたことなどの事情にかんがみると、原告らは、C医師から適切な説明を受けていたとしても、事態を楽観視して、第二子以降をもうけるという決断をしていた可能性を否定できないといわなければならない。
この点、原告X2本人は、第二子以降にPM病の子供が生まれる可能性があり、出生前検査等でそれを避けることができないことを知っていたならば、決して第二子以降の子供をもうけようとは思わなかったなどと供述するが、かかる供述自体、既にBが生まれ、原告X2が実際に二人のPM病患者を抱えるという極めて重い精神的、肉体的負担を負った後にされたものであるし、C医師の実際に行った説明によっても、程度はともかくとして原告らの第二子以降の子供がPM病を発症する可能性自体は、原告らに対し伝えられているにもかかわらず、その後原告らが、F及びBをもうけているのであるから、かかる供述をもって上記認定を覆すことはできない。
エ そして、原告らがBをもうけたのは、C医師の説明から、約五年を経過し、また第二子Fが健常児で生まれた後のことであるし、原告らのBをもうけようとした判断は、Fが健常児であったという事実からも多大の影響を受けていたものと考えられる。
オ 他方、前記1(4)判示のとおり、C医師は、原告らとの間に、診療契約を締結して、診療報酬を取得した結果、本件質問に対し適切な説明を行うべき義務を負っていたのではなく、信義則上認められる説明義務を負っていたにすぎないのであって、このような説明義務を怠ったことによる責任の範囲は、自ずから限られると解すべきである。
カ 加えて、そもそも、本来健常児として生まれるべき者が、妊娠中の薬物投与、傷害、医療事故等によって、障害を持って出生し、本来あるべき健常状態と比較して負担するに至った介護費用等を損害として賠償請求する場合などと異なり、Bは、同人が今ある姿、すなわちPM病を発症すべき状態でなくては、この世に生を受けることのできなかった存在であるところ、かかるBの出生に伴って、原告らが事実上負担することになる介護費用等を損害と評価することは、Bの生をもって、原告らに対して、健常児と比べて上記介護費用等の出費が必要な分だけ損害を与えるいわば負の存在であると認めることにつながるものといわざるを得ず、当裁判所としては、かかる判断をして、介護費用等を不法行為上の損害と評価し、これとC医師の説明義務違反との間に法的因果関係があると認めることに躊躇せざるを得ない。
キ 以上に検討したとおり、夫婦が子供をもうけることは、基本的に種々の事項を考慮した上で自らの権利と責任において決定すべき事柄であり、原告らがBをもうけるに当たっても、最終的には自らの決断によって出産をしたものと認められ、PM病発症の可能性は、かかる決断をするについて極めて重要な要素ではあるが、その一点のみをもって子をもうけるか否かが決まるわけではないこと、原告らは、C医師から適切な説明を受けていたとしても、第二子以降をもうけるという決断をしていた可能性を否定できないこと等の事情を総合考慮すると、法的観点からすると、C医師の説明義務違反によってBが出生するに至ったと評価することができず、C医師の説明義務違反とBの出生との間には因果関係があると認めることはできないし、Bの出生自体に伴う出費等を損害ととらえることはできないから、Bの出生に伴って原告らに生じた介護費用及び家屋改造費等の積極損害について、C医師の説明義務違反と相当因果関係のある損害であるとは認められない。
しかしながら、夫婦が、子供をもうけるか否かの決定をするに当たって、生まれる子供に異常が生ずるか否かは極めて切実な関心事であるとともに、重大な利害関係を有する事柄であり、これらについて質問を受けて説明義務を負担する医師は、自己決定を行う前提としての重要な情報を提供するものであるから、自己決定を行う上での情報提供である説明内容に誤りがあるときは、子供をもうけるか否かの夫婦の判断に誤った影響を与えることになり、夫婦の自己決定に不当な影響を与えたものとして、不法行為上の違法性を帯びるというべきであり、慰謝料請求の対象になると解される。
本件においては、原告らには既にAという重篤な障害を負った長男がおり、原告らは、重い肉体的、精神的、経済的負担を負っていたのであるから、その後、第二子以降の子供がAと同様の障害を負った子供として生まれるか、健常児として生まれるかは、原告らにとって極めて重大な問題であって、原告らは、かかる事項についてどのような決定をするについても、その結果について自分たちで責任を負い、納得できるような形で決断をする機会を与えられるべきところ、C医師は、本件質問に対し不正確な説明を行うという説明義務違反によって、原告らの自己決定に不当な影響を与えるとの不法行為を行ったものであり、被告は、C医師の使用者として、原告らに対し、その自己決定に不当な影響を与えたことを理由とする慰謝料の損害賠償義務を負うべきである。
(2) 原告らは、C医師の説明義務違反により、第二子以降にPM病が発症する可能性は、他の健常児の親の場合と同程度であると受け取って安心し、次の子供をもうけることを決断し、Bを出産したものであるが、その結果、BがPM病に罹患して出生するという事態に直面せざるを得なくなったと同時に、もともと重篤な障害をもつAを抱え、その介護及び養育について重い負担を負っていたにもかかわらず、Bの出生によって、さらに、より重い介護及び養育の負担を負うことになったのであり、原告らの生活は、精神的、肉体的及び経済的のいずれの面においても極めて過酷な状況に至ったことは明白である。また、証拠(甲A2、C1、2、原告X1本人、原告X2本人)によれば、原告X2は、BのPM病発症による精神的衝撃でうつ状態になり、易疲労、不眠、意欲低下等の症状が現れたことが認められる。
上記のとおり、原告らの置かれた極めて過酷な状況を考えると、本件においては、被告において、原告らの自己決定に不当な影響を与えたことに基づく精神的苦痛に対する慰謝料として相当の損害賠償を行うべきであると考えられ、原告らそれぞれについて、金八〇〇万円を認めるのが相当である。
(3) 弁論の全趣旨によると、原告らは、本訴の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任していることが認められ、本件事案の性質、審理経過、認容額等を考慮すると、原告らが要した弁護士費用のうち、原告らそれぞれについて、金八〇万円を本件不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
3 以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、民法七一五条一項の使用者責任に基づき、それぞれ金八八〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成一一年○月○日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の原告らの被告に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり、判決する。
(裁判長裁判官・前田順司、裁判官・浅井憲、裁判官・増尾崇)
別紙
事実経過一覧表
年月日
事実経過
(争いがない。)
書証
説明内容、カルテの記載事項等(下線部分は争う、その余の部分については争いがない。)
書証
原告の主張
被告の主張
平成4年
1月26日
A出産。
甲A1
平成5年
6月23日
C医師がAを診察。
乙A1・
1頁
6月28日
C医師がAを診察。AにABR検査を実施。
乙A1・
2頁
7月13日
① C医師、D医師がAを診察。
② C医師が国立相模原病院に対するMRI写真借用依頼書を作成。
①乙A1・12頁
②乙A1・9頁
① C医師から「脳波のⅡ波以降が弱い」というABR検査の結果説明あり。
② 国立相模原病院へのMRI写真借用依頼書に「脳幹を含めた脱髄性疾患(Pelizaeus-Merzbacher類似)もありますので」との記載あり。
③ C医師のカルテに「①Pelizaeusの可能性と②being type(良性タイプ)のもの ②の可能性ありますと話をする」との記載あり。
④ D医師のカルテに「①Pelizaeus-Merzbacher Dis-ease」との記載あり。
①甲A2
②乙A1・9頁
③乙A1・13頁
④乙A1・12頁
9月28日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・
14~15頁
11月30日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・
15~16頁
平成6年
1月25日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・
16~17頁
2月28日
C医師がAを診察。
乙A1・
17頁
4月26日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・
19頁
7月26日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・
20~21頁
11月8日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・
21~22頁
① 原告らがC医師に「次の子どもを作りたいが、大丈夫でしょうか」と質問したところ、C医師から「私の経験上、この症状のお子さんの兄弟で同一の症状のあるケースはありません。かなり高い確率で大丈夫です。もちろん、A君がそうであるように、交通事故のような確率でそうなる可能性は否定しませんが」「A君の子どもに出ることはあるが、兄弟にでることはまずありません」との説明あり。
② 原告らがD医師にも同様の質問をしたところ、「C先生は何と言われましたか」と言うので、原告らが上記の内容を伝えると、「C先生がそうおっしゃるなら、そうでしょう」と回答。
①甲A2
②甲A2
原告らの質問に対し、C医師、D医師は、「PM病が伴性劣性遺伝疾患であること、そのため男子で2人に1人の確率PM病の子どもが生まれ、女子で2人に1人の確率でPM病の保因者の子どもが生まれる危険性があること」(以下「本件説明内容」という)を説明すべきである。
①に対するC医師の回答は、「兄弟で同一の症状のケースは、私は経験したことはありません。甲山さんの場合もご家族に類似した経過の方がおられないようなので、突然変異の可能性があり、その場合は兄弟で同一の症状の出る確率は低くなります。」というものである。
平成7年
2月28日
① C医師、D医師がAを診察。
①乙A1・22頁26頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
② Aに対し2度目のABR検査を実施。
②乙A1・22頁
③ C医師が町田市民病院へMRI検査の依頼文作成。
③乙A1・28頁
町田市民病院へのMRI検査依頼文に「脳幹を含めたLeu-kodystrophy case(白質ジストロフィーケース)があること」という記載あり。
乙A1・28頁
4月6日
町田市民病院からC医師に「放射線診断報告書」が送付される。
乙A1・32~33頁
「放射線診断報告書」には「dysmyelinating disease(脱髄性疾患)のカテゴリーが最も疑われます。その中のleukodys-trophy(白質ジストロフィー)、adrenoleukodystrophy(副腎脳白質ジストロフィー)、pel-izeaus-merzbacher disease(PMD)、アレキサンダー病etc.考えられます」との記載あり。
乙A1・33頁
6月13日
C医師、D医師がAを診察
乙A1・31~35頁
① C医師、D医師から町田市民病院で撮影したMRI写真について説明あり(両医師にとって納得のいく画像のようであった)。
② C医師作成の小児慢性疾患医療報告書には「病名決定日 平成7年6月13日」「病名ペリツェウス・メルツバッヘル病」との記載あり。
①甲A2
②甲A3
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
9月26日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・35~36頁
C医師のカルテに「PelizaeurMか否か。10-11採血→神奈川へ」との記載あり。
乙A1・35頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
10月11日
遺伝子解析のため、Aの血液を採取。
乙A1・35頁
10月30日
横浜市愛児センター及び横浜市立大学精神科が遺伝子解析結果報告書を作成。
乙A1・42頁
遺伝子解析結果報告書には、「Aは陰性」との記載あり。
乙A1・42頁
平成8年
1月30日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・43頁66頁
① C医師のカルテに、「母親妊娠中!7月予定今からの検査では遅い」との記載あり。
② D医師のカルテに「Mother pregnant(母妊娠)」(7月出産)との記載あり。
③ C医師から、遺伝子解析結果について「遺伝子解析結果で陰性であっても、PM病でないとは言えない」との説明あり
①乙A1・43頁
②乙A1・66頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
③に加えて、C医師は、更に詳しい検査があること、今後分かってくることもあるであろうことを説明した。
7月13日
F出産。
甲A1
平成8年
12月24日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・43頁65頁
C医師のカルテに、「男子出産問題なさそう」との記載あり。
乙A1・43頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
平成9年 4月15日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・44頁64頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
7月22日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・46頁63頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
11月25日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・46頁62頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
平成10年
4月28日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・47頁61頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
9月22日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・47頁~48頁60頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
平成11年
3月23日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・50頁59頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
7月27日
C医師、D医師がAを診察。
乙A1・50頁~51頁58頁
C医師のカルテに、「母妊娠!!!知らなかった」との記載あり。
乙A1・50頁
C医師、D医師は、原告らに「本件説明内容」を説明すべきである。
10月20日
B出産。
甲A1
B出産後1ケ月もたたないうちにBに眼振があらわれたため、原告X2が、C医師に架電して「これは遺伝でしょうか」と質問したところ、C医師は「そういうことをまず思った」と回答。
①甲A2
C医師の答えは、「その可能性があると思います。」である。
平成11年
11月22日
C医師がBを診察。
甲A2
C医師が、原告らに、「Bの症状はAと同じ症状であり、遺伝が原因」と説明。
甲A2
11月30日
C医師がBを診察。BにABR検査実施。
甲A5
原告X1がC医師に「PM病は伴性劣性遺伝疾患ですか」と質問したところ、C医師は「そのとおりです」と回答。
甲A2
平成12年
2月29日
C医師が「小児慢性疾患医療意見書」作成。
甲A3
C医師作成の「小児慢性疾患医療意見書」には、「proteolipid protein gene解析では陰性、しかし、(3/5)PLP遺伝子重複例の報告もあり、現在両親の解析依頼中。ただし、本児の弟が全く同様症状を持つことから、遺伝疾患であることは明らかで、診断は確実と判断す」との記載あり。
甲A3
甲A3号証は、原告らにより依頼されてC医師が作成したものであり、第1子Aが慢性疾患であることを証し、医療費の助成を申請する目的で記載したものであるから断定的な記載となっているものである。
3月28日
C医師がBを診察。
甲A5
原告X1がC医師に「Fが生まれる前に相談した際、なぜ、PM病が伴性劣性遺伝する病気であることを教えてくれなかったのですか」と問い質したが、納得のいく説明はなかった。
甲A2