大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成13年(ワ)26593号 判決 2004年4月26日

本訴原告(反訴被告)

A野a夫

(以下「原告」という。)

同訴訟代理人弁護士

安藤建治

本訴被告(反訴原告)

B野太郎

(以下「被告」という。)

同訴訟代理人弁護士

小池健治

大杉智子

主文

1  被告は、別紙物件目録1記載の土地上の別紙図面3の赤色部分に設置されている扉を撤去せよ。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  被告が、別紙物件目録2記載(2)の土地を要役地とし、同(1)の土地を承役地とする、通行及び下水道の設置利用のための地役権を有することを確認する。

4  原告は、別紙物件目録1記載の土地について、原因を昭和48年10月11日設定、目的を通行及び下水道の設置利用、範囲を別紙物件目録2記載(1)の部分、要役地を同(2)の土地とする地役権設定登記手続をせよ。

5  原告は、被告が別紙物件目録2記載(1)の土地を通行することを妨害してはならない。

6  原告は、被告が別紙物件目録2記載(1)の土地に埋設されている下水道設備を使用することを妨害してはならない。

7  訴訟費用は、本訴反訴を通じて全部原告の負担とする。

8  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

1  本訴

(1) 被告は、別紙物件目録1記載の土地に立ち入ってはならない。

(2) 被告は、別紙物件目録1記載の土地上の別紙図面1のイ、ロ、ハ、ニ及びイの各点を順次直線で結んだ線に囲まれた部分にあるコンクリートを撤去せよ。

(3) 被告は、別紙物件目録1記載の土地上の別紙図面2の青色部分にある排水管、同図面の橙色部分にある給湯管、同図面の黄色部分にある排水管及び同図面の桃色部分にある排水桝を撤去せよ。

(4) 被告は、別紙物件目録1記載の土地上の別紙図面3の赤色部分にある扉を撤去せよ。

(5) 被告は、原告に対し、金1000万円及びこれに対する平成13年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  反訴

(1) 主文第3項、第5項及び第6項と同旨

(2) 原告は、上記地役権につき、昭和48年10月11日設定、同日時効取得又は平成5年10月11日時効取得を原因とする地役権設定登記手続をせよ。

第2  事案の概要

本件は、被告において、その所有する土地(甲土地)に隣接する土地(乙土地)のうち両土地の境界付近の部分に、コンクリートを敷設したり排水管等を設置して、当該部分を通行及び下水道の設置利用のために使用しているところ、競売による売却により乙土地を取得した原告が、被告に対し、乙土地の所有権に基づいて、当該物件の撤去等を求めるとともに、所有権侵害の不法行為に基づいて、損害金及びこれに対する本訴状送達の日の翌日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴)、これに対し、被告が、当該部分につき通行及び下水道の設置利用のための地役権を有すると主張した上、反訴として、当該地役権を有することの確認や当該地役権の設定登記手続等を求めている事案であり、主として、かつて甲土地の所有者である被告と乙土地の所有者との間で黙示に当該地役権設定契約が締結されたと認められるか否か、これが認められる場合、原告が当該地役権の登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たるか否かが争われている。

第3  前提事実(証拠原因により認定した事実については、末尾にかっこ書で当該証拠原因を表示する。その余の事実は当事者間に争いがない。)

1  土地の所有者等

(1) 被告は、別紙物件目録2記載(2)の土地(以下「甲土地」という。)を所有している。

なお、被告は、甲土地上に建物(以下「甲建物」という。)を所有しており、生まれた時(昭和3年)から現在まで甲建物に居住している(乙1、3の2、29、71、被告本人)。

(2) 原告は、別紙物件目録1記載の土地(以下「乙土地」という。)を所有している。

なお、乙土地は現在更地であるが、原告は、乙土地上に居宅を建築する予定である(原告本人)。

(3) 別紙物件目録3記載(1)の土地(以下「丙土地1」という。)はC野b夫らの所有に、同(2)の土地(以下、これを「丙土地2」といい、丙土地1及び2を併せて「丙土地」という。)はC野b夫の所有に、同(3)の土地(以下「丁土地」という。)はD野一郎の所有に、同(4)の土地(以下「戊土地」という。)はE野純らの所有にそれぞれ属し、丁土地上にはD野一郎所有の建物(以下「丁建物」という。)が、丙土地及び戊土地上には両土地を敷地とするマンションがそれぞれ建っている(乙5の1・2、6の3、62)。

甲ないし戊土地の位置関係は、別紙図面4記載のとおりである。

甲ないし戊土地は、元は地番を「2番1」とする1筆の土地であった(以下、分筆前の甲ないし戊土地を併せて「旧2番1土地」という。)。

2  乙土地の現状(甲3の7、6の1、17の3・9、21の1ないし3、乙26の9ないし12、41(枝番を含む)ないし44、65、66)

(1)ア 乙土地のうち別紙図面5(乙66)のA1、K2、A5、K1、K3及びA1の各点(A5は、K1とK5を通る直線とK2とK7を通る直線の交点である。)を順次直線で結んだ線に囲まれた部分には、コンクリートが敷かれている(ただし、一部欠けている。)。

また、当該コンクリートは、乙土地と甲土地及び丁土地との境界線を跨いで甲建物及び丁建物との接点まで敷かれており、人一人程度が通行することは可能な状態にある(甲土地、乙土地及び丁土地に跨って敷設されている本項において摘示したコンクリートを、以下「敷設コンクリート1」という。)

イ 乙土地のうち別紙図面6(被告準備書面(10)別紙2)の緑色斜線部分には、コンクリート(以下「敷設コンクリート2」という。)が敷かれており、その高さは、敷設コンクリート1よりも高い(敷設コンクリート2のうち別紙図面1(原告の平成15年7月31日付の訴変更申出書別紙図面2)のイ、ロ、ハ、ニ及びイの各点を順次直線で結んだ線に囲まれた部分を、以下「本件コンクリート」という。)。

ウ 乙土地のうち別紙図面5のK9、K8、K5、A5及びK9の各点を順次直線で結んだ線に囲まれた部分には、コンクリート(以下「敷設コンクリート3」という。)が敷かれており、その高さは、敷設コンクリート2よりも高い。

(2)ア 乙土地のうち別紙図面2(原告の平成15年7月31日付の訴変更申出書別紙図面3)の青色部分には、地表に排水管(以下「本件排水管」という。)が設置されている。

イ 乙土地のうち別紙図面2の橙色部分には、地表に給湯管(以下「本件給湯管」という。)が設置されている。

ウ 乙土地のうち別紙図面2の黄色部分には、地中に排水管(以下「本件埋設排水管」という。)が埋設されている。

なお、本件埋設排水管は、甲建物及び丁建物の排水のために使用されている。

エ 乙土地のうち別紙図面2の桃色部分には、地表に排水桝(以下「本件排水桝」という。)が設置されている。

オ 乙土地のうち別紙図面3(原告の平成15年7月31日付の訴変更申出書別紙図面4)の赤色部分には、扉(以下「本件扉」という。)が設置されている。

乙土地西側の公道との境界線上には塀があるところ、本件扉には木片をその先端に結んだ紐がつながれており、この紐を塀の内側(乙土地側)に付されている金具に掛けることにより、本件扉を公道側から開けられない状態にすることができる。

なお、被告は、平成13年ころまで、本件扉に「B野勝手口」と記載した表札を掲げていたが、その後、同表札を外している。

3  甲土地及び甲建物の現状(乙39、40、41(枝番を含む)、45ないし54、63(枝番を含む))

(1) 甲建物は、2階建の建物であり、上記の北側及び南側に出入口がある。

甲建物の1階北側は賃貸用の店舗であり、北側出入口は店舗の出入口として使用されている。

甲建物の1階南側及び2階は、居住用に使用されており、上記店舗部分とは1階内部の扉により区分されている。

(2) 上記の北側出入口には、被告の表札及び郵便受けがある。

(3) 被告は、平成13年ころ、甲建物の屋外である甲土地と乙土地との境界線上に洗濯機を置いていたが、その後、同洗濯機を甲建物内に移した。

(4) 被告は、上記の南側出入口を使用して公道に出る際、敷設コンクリート1上を通行している。

(5) 被告は、乙土地北東端の東側にある甲土地上の浴室(以下「本件浴室」という。)を使用する際、本件給湯管により給湯し、本件排水管から乙土地上の排水孔(別紙物件目録2記載(1)の土地上にある。)を通じて本件埋設排水管に排水している。

4  乙土地周辺の不動産の所有権の変遷

(1) 旧2番1土地について

ア 昭和24年ころ、旧2番1土地は、X合資会社の所有に属し、F野春男が、現在の甲ないし丁土地上にそれぞれ1棟ずつ、現在の戊土地上に2棟の建物を所有し、これらの建物を賃貸していた。

同年ころにおける上記各建物の賃借人は、甲建物が被告の父であるB野次郎、現在の乙土地上の建物(以下「乙建物」という。)がG野東男、現在の丙土地上の建物(以下「丙建物」という。)がC野であった。

(乙29、被告本人、弁論の全趣旨)

イ 昭和23年1月21日、F野春男は、D野二郎に対し現在の丁土地上の建物(以下「丁建物」という。)を、E野純に対し現在の戊土地上の建物2棟(以下「戊建物」という。)をそれぞれ売った(乙7の1、31、弁論の全趣旨)。

ウ 昭和24年6月4日、X合資会社は、大蔵省に旧2番1土地を物納した(乙4の1)。

エ 昭和25年5月29日、D野二郎は、D野三郎に対し、丁建物を売った(乙7の1)。

オ 昭和27年6月30日、F野春男の子であるF野夏男は、旧2番1土地のうち現在の甲ないし丙土地に当たる部分を払下げにより取得した(乙4の1、60)。

カ(ア) 昭和27年7月15日、D野三郎は、旧2番1土地のうち現在の丁土地に当たる部分を払下げにより取得した(乙6の1)。

(イ) 同月24日、旧2番1土地から丁土地及び戊土地が分筆された(乙73)。

(ウ) 昭和28年4月1日、E野純は、戊土地を払下げにより取得した(乙62)。

キ 昭和46年4月30日、F野春男が死亡し、同年6月30日、同人の子であるF野夏男が、甲建物につき所有権保存登記を経由した(乙2、61)。

ク 昭和48年5月23日、F野夏男は、旧2番1土地のうち上記カ(イ)の分筆後の残地を、甲ないし丙土地に分筆した(乙4の2)。

(2) 甲土地及び甲建物について

昭和38年1月2日、B野次郎が死亡し、昭和48年10月11日、被告が、F野夏男から甲土地及び甲建物を買った(乙1、2、3(枝番号を含む)、8の2)。

(3) 乙土地及び乙建物について

ア 乙土地及び乙建物は、昭和48年10月11日にF野夏男からG野西男に、昭和49年4月17日にG野西男からH野C夫に、昭和50年8月26日にH野C夫からI野花子に、昭和62年3月12日にI野花子からY株式会社に順次売却された。

その後、乙建物は取り壊された。

(乙4の2、29、71、被告本人、弁論の全趣旨)

イ 原告による乙土地の競落(甲10、12、14、36、原告本人)

原告は、平成12年8月29日、競売による売却により乙土地を取得し、同月30日、その旨の所有権移転登記を受けた。その経過は、以下のとおりである。

(ア) 乙土地については、東京地方裁判所において、平成9年6月5日、競売開始決定がされ、平成12年4月、下記のとおり定めて期間入札に付された。

入札期間   平成12年5月17日から同年5月24日まで

売却決定期日 同年6月7日午前10時

(イ) 原告は、上記期間入札につき、平成12年5月24日、買受けの申出の保証として190万4000円を振り込んだ上、入札をした。

(ウ) 同年6月10日、原告は、乙土地を訪れ、本件扉の中には入らなかったが、被告が本件扉を開けて中に入るのを見た。

(エ) 同年6月26日付で、東京地方裁判所から、原告に対し、乙土地について原告に対する売却許可決定が確定した旨及び代金納付期限が同年8月29日である旨が通知された。

原告は、同日までに、その代金を納付した。

(オ) 同年8月30日、原告は、被告に対し、「越境建築物等撤去請求書」と題する内容証明郵便を出し、同月31日、同郵便が被告に到達した。

同郵便には、「貴殿の乙敷地上には、不動産登記されていない建築物が建てられ、増築等により甲敷地に越境しています。また、甲敷地を通路などとしても利用しています。」との記載がある(上記「甲敷地」は乙土地を示し、「乙敷地」は甲土地を示す。)。

(4) 丙土地について(乙5の1、5の2、29、被告本人、弁論の全趣旨)

ア 昭和48年10月11日、C野b夫は、F野夏男から丙土地及び丙建物を買った。

イ 昭和54年6月28日、C野b夫は、丙土地を、丙土地1及び2に分筆した。

ウ 昭和55年ころ、丙建物は取り壊され、丙土地及び戊土地を敷地とするマンションが建設された。

昭和55年7月29日、C野b夫は、J野b夫らに対し、丙土地2の共有持分権を売った。

(5) 丁土地について(乙6の3、7の3)

平成2年7月4日、D野一郎は、D野三郎の相続により丁土地及び丁建物を取得した。

(6) 戊土地について(乙29、被告本人、弁論の全趣旨)

昭和55年ころ、戊建物はいずれも取り壊され、丙土地及び戊土地を敷地とするマンションが建設された。

第4  当事者の主張

1  原告の主張

(1) 被告による乙土地の占有

本件コンクリート、本件排水管、本件給湯管、本件埋設排水管、本件排水桝及び本件扉は、いずれも、被告が設置したものであり、被告の所有に属する。被告は、これらの物件を所有して乙土地を占有している。

(2) 原告が被った損害

被告が乙土地を占有したため、原告は、乙土地上の建物建築工事を中断せざるを得ず、これにより経済的損失を被るとともに、精神的ストレスにより体調不良となった。

原告が被った上記損害は金1000万円に相当する。

2  被告の主張

(1) 被告による乙土地の占有について

ア 本件コンクリート、本件排水管及び本件給湯管が被告の所有物であることは認める。

イ 大正の終わりないし昭和初めころ、F野春男は、甲ないし戊土地上に建物を建設した際、各建物のために使用する設備として、本件埋設排水管及び本件排水桝を設置した。

昭和48年10月11日、F野夏男が甲土地及び甲建物、乙土地及び乙建物並びに丙土地及び丙建物を売った際、各買主は、本件埋設排水管及び本件排水桝の共有持分権を取得した。

ウ 本件扉が被告の所有物であることは否認する。

Y株式会社が乙土地を所有していたころ、不動産業者が本件扉のある場所に扉を設置していた。その扉が壊れたことから、被告が当該扉と本件扉を取り替えたにすぎない。

(2) 地役権設定契約

昭和48年10月11日、被告とG野西男との間で、黙示に、甲土地を要役地とし乙土地を承役地として通行及び下水道設置利用のための地役権を設定する旨の契約が成立した。その具体的事情は、以下のとおりである。

ア F野春男による裏路地の作成

(ア) 昭和24年ころ、東京都台東区浅草橋三丁目界隈においては、建物を建てる際、当該建物の公道に面していない側に、近隣の住民が共同で使用するための裏路地を作成して、これを通行の用に供するとともに、これに上下水道設備を埋設していた。

(イ) F野春男は、甲ないし戊建物を建築した際、丁土地と乙土地、甲土地と乙土地、甲土地と戊土地、丙土地と戊土地のそれぞれの境界線を跨ぐ裏路地を作成して、当該裏路地に排水管(その一部が本件埋設排水管である。)を埋設し、本件排水桝を設置した。

(ウ) 昭和24年ころの旧2番1土地周辺における裏路地の位置は、別紙図面4の赤線部分である。なお、実線部分が示す裏路地は現存するが、点線部分が示す裏路地は現存しない。

本件埋設排水管及び本件排水桝は、甲ないし丁建物及び戊土地上の建物(2軒)の合計6軒が利用していた。

(エ) 甲ないし丁建物等の周辺の家の玄関は裏路地に面していた上、F野春男は、乙建物を建てる際、その南側隣地上の建物と密着させており、その間に裏路地はなかった。

したがって、旧2番1土地周辺における裏路地は、民法234条の義務に基づいて作られた空き地とは異なり、通行等に利用するために作成されたものである。

イ 裏路地部分の分筆

F野夏男は、旧2番1土地を甲ないし丙土地に分筆する際、当時存在していた裏路地について、各建物の敷地とは別の1筆の土地として分筆するのではなく、別紙図面7(被告準備書面(2)別紙3)のとおり、甲土地、乙土地及び丁土地にそれぞれ一部ずつ負担させる形で分筆した。

ウ 裏路地の利用

(ア) 昭和24年ころ、B野次郎は、甲建物の1階北側部分で玩具店を経営し、1階南側部分と2階を居住のために利用していた。そのため、家族等は、公道に出るために、裏路地のうち甲建物南側出入口から本件扉に至るまでの部分(以下「本件通路」という。)を日常的に通行していた。

その後、B野次郎は、F野春男の了解の下、1階南側出入口を拡張した(時期は不詳であるが、次郎が没した昭和38年1月2日より前のことである。)。また、玩具店をB野次郎から引き継いだ被告は、昭和40年ころ、その経営を止め、甲建物1階北側部分を第三者に店舗として賃貸するようになった。

(イ) 被告及びその家族は、現在まで、本件通路を日常の出入りのために使用し続けてきた。

(ウ) したがって、被告及びその家族にとっての玄関は、昭和40年ころ以降現在まで、本件通路に面している1階南側出入口のみである。

(エ) また、本件埋設排水管は、現在でも甲建物及び丁建物のために使用されている。

エ 結論

(ア) 昭和48年10月11日、被告、G野西男及びC野b夫は、裏路地の利用関係を承認した上で、F野夏男から甲ないし丙土地及び甲ないし丙建物を買った。

したがって、同日、被告、G野西男、C野b夫は、互いに、甲ないし丙土地の各裏路地部分につき通行及び下水道の設置利用を目的とする地役権を有し合う旨の契約を黙示に締結したとみることができる。

(イ) 乙土地上における本件通路の範囲は、同土地上に残る敷設コンクリート1の状況からして、別紙物件目録2記載(1)のとおりであることが明らかである。

また、本件コンクリート、本件排水管、本件給湯管、本件埋設排水管、本件排水桝及び本件扉は、いずれも本件通路の範囲内にあり、被告は地役権に基づいてこれらの物件を設置利用していたものである。

(3) 地役権の時効取得

ア 被告は、昭和48年10月11日以降現在に至るまで、本件通路を通行するとともに、本件埋設排水管及び本件排水桝を利用してきた。

イ F野春男が乙土地上に裏路地を開設したことは、被告が自ら通路を開設したことと同視すべきである。

ウ B野次郎がF野春男から甲建物を借りたころ、近隣の土地には既に裏路地があり、その地下には排水管が埋設されていたため、被告も生まれた時から本件通路を利用していた。

そのため、被告は、F野夏男から甲土地及び甲建物を買った際、今後も本件通路について通行及び下水道の設置利用をする権利があると信じたのであり、そう信じるにつき過失はなかった。

エ(ア) 昭和58年10月11日の経過により、甲土地を要役地とし乙土地を承役地とする通行及び下水道設置利用のための地役権について、10年間の時効期間が経過した。

被告は、平成14年1月30日の本件弁論準備手続期日において、上記時効を援用する旨の意思表示をした。

(イ) 仮に10年間の時効取得が認められないとしても、平成5年10月11日の経過により、20年間の時効期間が経過した。

被告は、平成15年10月27日の本件口頭弁論期日において、上記時効を援用する旨の意思表示をした。

(4) 原告が登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に該当しないこと

ア(ア) 最高裁裁判所は、「通行地役権の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない。」(最高裁判所平成8年(エ)第2342号同10年12月18日第二小法廷判決・民集52巻1号65頁)と判断しており、競売による取得においても上記判旨が妥当する。

(イ) 競売事件における「譲渡の時」すなわち取得時は、競売代金納付時であるから、前記認識や認識可能性は代金納付時について判断すべきである。

最高価買受申出人又は買受人は、買受けの申出をした後天災その他自己の責めに帰することができない事由により不動産が損傷した場合には、執行裁判所に対し、売却許可決定前にあっては売却の不許可の申出をし、売却許可決定後にあっては代金を納付する時までにその決定の取消しの申立てをすることができる(民事執行法75条1項)上、瑕疵担保責任を追及することもできるから、代金納付時を基準とすることは不当ではない。

イ 乙土地の使用が客観的に明白であったこと

(ア) 被告及びその家族は、本件通路を継続的に利用し続けてきた。

被告は甲建物北側出入口に表札及び郵便受けを設置しているが、これは、北側出入口が唯一公道に直接面しているためである。

また、甲建物1階の北側と南側を区分する扉は、消防上の理由から作ったものであり、屈まなくては入れない大きさであって、この扉を通って1階北側出入口から外出することなど全くないと言ってよい程である。

(イ) 被告は本件扉に「B野勝手口」という表札をつけていたが、「勝手口」との表札にしたのは、建物の裏側であり、貸店舗に改造する以前の南側出入口は勝手口であったため、控えめな表札を出したにすぎない。

また、その後、表札を外したのは、原告から内容証明郵便が届いて驚いたためである。

(ウ) 敷設コンクリート1はF野春男が甲ないし丙建物を建てた際に敷いたものであるところ、同コンクリートは、かなり劣化して部分的に剥離しているとはいえ、現在も大部分が残っており、第三者が見ても、そこに通路のあることが分かる。

昭和48年に設定された地役権は当時の通路の範囲で設定されたのであるから、仮に敷設コンクリート1の一部が補修されたことがあったとしても、地役権の範囲を明確に示すものである。

(エ) さらに、昭和62年ころ、Y株式会社は、乙土地西側の道路面に塀を製作した。その際、被告及びその家族が出入りできるように本件扉と同じ場所に扉が作られ、その扉の横に被告の表札が付けられた。

(オ) このように、原告が乙土地を取得した当時、外観上、本件通路が甲土地の所有者である被告により通路として使用されていたことは、その位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明白であった。

ウ 原告の認識又は認識可能性

(ア) 前記のとおり、原告は、平成12年6月10日、被告が本件扉を開けてその中に入るのを見た。

(イ) また、本件扉は、少なくとも日中は施錠されておらず、誰でも開けて中を覗ける状況にあるところ、原告は、同年8月15日、乙土地に立ち入り、乙土地の状況をくまなく写真撮影して、本件通路が通路として利用されていることを認識した。

(ウ) 原告は、上記のとおり代金支払前に乙土地の状況を熟知していたからこそ、乙土地を取得した日の翌日である同年8月30日午前中に、乙土地を通路としても利用している旨の記載のある内容証明郵便を投函することができた。

(エ) 乙土地の現況調査報告書(乙第25号証)には、被告が裏路地を通行していることや配水管について記載されていた。

原告は、甲第24号証の現況調査報告書を見たにすぎないと主張するが、本件の期間入札の手続時に閲覧に供されていた現況調査報告書は乙第25号証である以上、競落人の認識可能性は否定されない。

なお、甲第24号証においても、境界線周辺が隣人に利用されていることは記載されている。

(オ) したがって、原告は、乙土地を取得する際、客観的に明らかであった本件通路の利用状況を認識した上で取得した。

エ 入札時における原告の認識又は認識可能性

(ア) 原告は、建築の専門家であり、当時の職場が乙土地に近く、その入札の目的が原告自身の使用する建物を建築するためであることからすれば、入札日である平成12年5月24日までの間に、少なくとも1度は乙土地及びその周辺状況を確認したことが明らかである。

(イ) 入札当時、本件扉は日中いつでも開けられる状態であり、入札希望者が乙土地を見ることは可能であった。

しかも、本件扉があり、本件扉及び甲建物北側に表札が出ていること等から、甲建物南側に出入口があり、被告が本件扉を通って公道に出ていることは容易に想像できる状態であった。

(ウ) したがって、仮に入札時を基準として判断したとしても、認識又は認識可能性がある。

オ よって、被告は、原告に対し、地役権を登記なくして対抗することができ、反訴請求の趣旨記載のとおりの登記手続請求権を有する。

(5) 権利の濫用

ア 原告が本件コンクリートの撤去を求めることは、権利の濫用である。

イ 本件埋設排水管及び本件排水枡は、被告が地役権を有する土地の範囲内に収まっており、乙土地の使用を妨げていない。他方、被告がこれらの設備を撤去するには費用がかかる。

かかる状況において、原告が本件埋設排水管及び本件排水枡の撤去を求めることは、権利の濫用である。

3  原告の反論

(1) 被告が地役権を有していないこと

ア 昭和25年5月24日に建築基準法が施行される以前に遵守すべき建築条件は民法のみであったところ、民法234条は、隣地境界線より50センチメートル離して建築物を築造することを義務づけていたため、下町では、建物の間に幅1メートル程度の空き地が生じ、その空き地を路地と呼んでいた。

本件通路も、このようにしてできた路地を通路として利用していたにすぎず、通行地役権に基づく通路とは性質が異なる。

本件通路の通行が、地役権等の権利関係を生じさせない限度で許容されていたにすぎないことは、裏路地の一部がマンションの建設により消滅していることによっても裏付けられる。

イ 被告は、甲建物北側出入口に表札及び郵便受けを設置する一方、本件扉に裏口であることを示す「B野勝手口」という表札を設置していたのであるから、被告が表玄関として利用していたのは北側出入口である。

ウ 本件排水管及び本件給湯管は、被告の浴室利用のために、乙土地の競売開始後に設置されたものである。

したがって、被告には、本件排水管及び本件給湯管を利用するために乙土地を利用する権利はない。

エ 通行地役権の時効取得が認められるためには、要役地所有者による通路の開設が必要であるところ、本件は、建物と建物の間にできた空き地を近隣住民が通行していたにすぎないから、時効取得をすることはあり得ない。

オ よって、被告が地役権を取得する根拠はない。

(2) 乙土地上のコンクリートについて

乙土地上のコンクリートには、何種類ものコンクリートが含まれており、その敷かれた時代及び範囲も特定できるものではない。

そして、敷設されているコンクリートの一部は乙建物の基礎が存在した部分にあり、当該コンクリートは、乙建物が取り壊された後に被告が敷いたものである。

したがって、既存のコンクリートは地役権の範囲を示すものではない。

(3) 原告が登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者に該当すること

ア 被告には執行官の現況調査の際などに地役権の存在を主張する機会があったが、一般人である原告が民事執行法75条1項の規定を知るはずもないから、地役権設定登記がされていないことによる不利益を原告が被るのは不当である。

したがって、地役権の存在の認識又は認識可能性の判断は、入札時を基準とすべきである。

イ(ア) 原告にとって、被告による乙土地の占有が判明したのは、乙土地を取得して正式に測量した時である。

(イ) 乙土地の物件明細書には「本件土地は更地である。」との記載しかなく、コンクリート舗装による通路が存在する旨の記載も、隣人から通行地役権を主張された旨の記載もない。

また、執行官でさえ、通路の存在など認識していなかったし、認識することもできなかったことは、現況調査報告書の記載から明らかである。

なお、乙土地の現況調査報告書には、水道の埋設は記載されているが、「下水道」の存在は記載されていない。

(ウ) したがって、平成12年5月24日時点では、被告による乙土地の利用は、その位置、形状、構造などから客観的に明らかな状況ではなかった。

ウ 乙土地の西側道路面には塀があり、本件扉は常時施錠されていたため、原告は乙土地に立ち入ることができなかった。

原告が初めて乙土地に立ち入ったのは、代金納付期限通知書が送達されて原告が乙土地を競落したことが明らかになった平成12年6月27日以後である。

したがって、原告は、被告による乙土地の利用を認識することはできなかった。

エ よって、原告は、何らの制限がないものと信じて乙土地を取得しており、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者である。

第5  当裁判所の判断

1  証拠(乙24、25、29、71、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) B野次郎は、関東大震災に被災した際、F野春男が家を建てるという話を聞き、同人が建設した甲建物を賃借するようになった。

(2) 昭和24年ころの旧2番1土地の状況は、以下のとおりであった。

ア 昭和24年ころ、旧2番1土地上の建物間には裏路地が存在しており(以下、旧2番1土地上の裏路地を、単に「裏路地」という。)、本件通路はその一部であった。

裏路地は、乙土地と丁土地との境界線上を左衛門橋通り側から東へ走り、乙土地北東端において南へ曲がり、戊土地北西端において東へ曲がり、同土地北東端において南へ曲がって、旧2番1土地南側の公道へ抜けるものであり、その大まかな位置は別紙図面4の赤線部分(実線部分及び点線部分を含む。)のとおりであった。

イ 昭和24年当時、甲建物ではB野次郎が居住して玩具商を営み、乙建物ではG野東男が居住して電気溶接業を営み、丙建物にはC野が居住し(なお、C野は、昭和48年ころには丙建物において喫茶店を営んでいた。)、丁建物にはD野三郎が居住し、戊建物のうち1棟にはE野純が居住して、もう1棟の建物は同人がK野に賃貸していた。

上記各建物には、公道に面した出入口とともに、裏路地に面した出入口も設けられていた。

ウ 裏路地にはコンクリートが敷かれており(その一部が敷設コンクリート1である。)、その地下には排水管が埋設されていた(その一部が本件埋設排水管である。)。

また、甲建物周辺においては、本件排水桝が設置されており、現在本件浴室が設置されている場所には井戸があった。

エ 近隣住民は買い物などのために裏路地を通行しており、上記井戸の周辺は子供たちの遊び場にもなっていた。

甲建物では、1階北側を玩具店の店舗として利用していたため、南側出入口を日常的に利用していた。被告も、通学時などは、南側出入口を使用し、裏路地を通って公道へ出るのが通常であった。

オ 甲ないし戊建物の住民は、裏路地に埋設された排水管を利用していた。

また、裏路地に埋設された排水管が詰まった際、近隣住民が費用を出し合って対処したこともあった。

(3) 昭和38年にB野次郎が死亡し、被告の妻が玩具店を引き継いでいたところ、昭和40年ころ、被告は、玩具店の経営を止めて、甲建物のうち1階北側の店舗部分を第三者に賃貸することとした。

そこで、被告は、甲建物を、その1階が店舗部分と住居部分に分かれた現在の構造に改装し、店舗部分を第三者に賃貸するようになった。

(4)ア 昭和55年ころ、丙土地及び戊土地上にマンションが建設された際、甲土地及び乙土地と戊土地との間に壁が製作された。

そのころ、乙土地を所有していたL野は、敷設コンクリート3を敷いた。

甲土地上の井戸はそのころまでには埋められていたところ、L野がコンクリートを敷いたのを知った被告は、L野が依頼した業者に依頼して、本件浴室の下から本件排水桝周辺までコンクリートを敷いた。敷設コンクリート2は、この時に敷かれたコンクリートの一部である。

イ その後、被告は、現在本件浴室が設置されている場所に湯船を設置し、その排水を乙土地上の排水孔から本件埋設排水管に流すようになった。

(5) 昭和62年ころ、乙建物が取り壊された後、更地となった乙土地上にごみが投棄されるなどしたことから、乙土地西側の境界線上に塀が造られた。

その際、現在本件扉がある場所に扉が設置されたが、その後、この扉が壊れたために、被告が本件扉に取り替えた。

(6) 平成12年ころ、被告は、本件浴室を設置し、本件排水管及び本件給湯管を利用するようになった。

また、同年ころ、被告は、本件通路上に、洗濯機や自転車等を置いていた。

(7) 被告は、現在も本件通路を日常的に通行している。

また、現在も、甲建物及び丁建物の排水は、本件埋設排水管及び本件排水桝を通じてなされている。

(なお、原告は、本件扉の表札に「B野勝手口」と記載されていることから、甲建物南側出入口は裏口であると主張するが、甲建物北側が店舗として利用されていること、丁土地及び乙土地上にあえて表札を掲げていることからすれば、当該表札に「勝手口」と記載されているからといって、本件通路の通行が非継続的なものであることを示すとまではいえない。)

2  被告による乙土地の占有について

上記1において認定した事実及び前記前提事実(両者を併せて、以下「前提事実等」という。)に基づき、被告による乙土地の占有について検討する。

(1) 被告が本件コンクリート、本件排水管及び本件給湯管を所有していることは、当事者間に争いがない。

(2) 本件埋設排水管及び本件排水桝について

ア 前提事実等によれば、本件埋設排水管及び本件排水桝は、昭和24年ころ既に設置されていたものである。

ところで、排水管及び排水桝が建物の利用に必要な設備であることからすれば、これらの設置は、建物の建築と同時に、当該建物の所有者によってなされたと考えるのが自然である。しかして、旧2番1土地上の建物はいずれもF野春男が所有していたものであるところ、B野次郎が甲建物を賃借するに至った経緯に鑑みると、甲ないし戊建物は、いずれも関東大震災後にF野春男が建築したと推認できる。

したがって、関東大震災の起きた大正12年から昭和初期にかけて、甲ないし戊建物が建築された際、F野春男が本件埋設排水管及び本件排水桝を設置したと推認される。

イ 本件埋設排水管及び本件排水桝は、甲ないし戊土地上の各建物の利用に必要な設備であるところ、本件埋設排水管は乙土地の地下に設置されているものの、本件排水桝は甲土地及び乙土地に跨って設置されており、甲及び乙建物以外の建物も本件埋設排水管及び本件排水桝を共同利用していたことからすれば、各建物の所有権が売買等によって移転したときは、上下水道設備を売買の対象から除いたなどの特段の事情が認められない限り、これらの物件は各建物の所有者の共有物になったと解するのが相当である。

しかして、本件においては、上記特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、F野春男又はF野夏男が甲ないし戊建物を売った際、各建物の買主は、当該建物の所有権とともに、本件埋設排水管及び本件排水桝の共有持分権をそれぞれ取得したというべきである。

なお、本件埋設排水管及び本件排水枡の設置後長期間が経過していることに鑑みると、これまでに補修等がされた可能性があることは否定できないが、かかる可能性があるからといって、これらの物件の所有権が変動したとはいえない。

ウ そうすると、被告は、昭和48年に甲建物を買った際、本件埋設排水管及び本件排水桝の共有持分権を取得したのであり、これらの物件を所有して乙土地のうち該当部分を占有しているといえる。

(3) 本件扉について

被告が本件扉を設置したことは、当事者間に争いがない。

被告の主張の趣旨は明らかでないが、被告の主張によっても、本件扉の全体を被告が設置した以上、その所有権が被告にあることは明らかであり、他に、被告から第三者へ本件扉の所有権が移転したこと等を示す事情は認められない。

よって、被告は、本件扉を所有して、乙土地のうち該当部分を占有しているといえる。

3  地役権設定契約の有無

(1) 甲ないし丙土地は、昭和48年10月11日、F野夏男から被告、G野東男及びC野b夫にそれぞれ売られているが、その際、被告の主張する地役権の設定契約が締結されたと認められるか否かについて、前提事実等を基に検討する。

(2)ア 昭和初期ころにF野春男が甲ないし戊建物を建設してから昭和48年ころまでの間、本件通路が近隣住民の通行のために使用されていたことは、前提事実等より明らかである。

その利用は、たまたま建物の裏側に回る必要がある場合等に限られるものではなく、買い物や通学のために利用されたり、子供たちの遊び場ともなるなど、日常生活の中で頻回になされていた。

また、昭和48年ころには、甲建物、乙建物及び丙建物は、いずれも公道側に店舗を構えており、日常生活上の出入りをするために本件通路を通行する必要があったと考えられる。殊に、甲建物においては、昭和40年ころに玩具店の経営を止め、1階北側の店舗部分とその他の居住部分とを分けて、店舗部分を第三者に賃貸するようになっていたことから、その後、被告及びその家族が生活する上で本件通路を利用する必要性は増していたといえる。

イ 本件埋設排水管及び本件排水桝もまた、F野春男が設置した時から昭和48年ころまでの間、旧2番1土地上の住民により共同使用されていた。

ウ 昭和48年に甲ないし丙土地を売買するに際し、F野夏男は、本件通路が甲土地、乙土地及び丁土地に分属するように分筆し(その大まかな位置は別紙図面7のとおりである(弁論の全趣旨)。)、被告、G野東男及びC野b夫も、これを前提として甲ないし丙土地をそれぞれ買っている。

したがって、当時の甲土地及び乙土地の売買当事者間においては、当時の利用関係を、単に甲土地又は乙土地の所有者が近隣住民の通行を許容するという形態ではなく、甲土地及び乙土地の各所有者が互いに通行し又は通行されるという形態で継続させようとする意思があったとみるのが相当である。

エ 原告は、かかる本件通路の通行は、民法上の相隣関係の規定により生じた空き地を通行していたにすぎないと主張するが、甲建物を始め旧2番1土地上の各建物は裏路地に面した出入口を有しており、各建物の建設時においても裏路地の通行が前提にされていたと考えられること、裏路地が上記のとおり日常的に利用されていたこと等に照らすと、民法上の規定により生じた空き地を好意により通行させていたにすぎないとみるのは相当でない。

オ そうすると、旧2番1土地を甲ないし丙土地に分筆した上で昭和48年になされた甲ないし丙土地の売買の際、被告及びG野西男を含む当該売買当事者間においては、当時の本件通路の利用状況、すなわち本件通路を近隣住民の通行及び下水道の設置利用に供する状態を継続することが前提とされていたというべきであり、甲ないし丙土地を取得した者は、本件通路につき通行及び下水道の設置利用をする地役権を取得する一方、自己の所有する土地につき同様の地役権の負担を受けるものとする旨の黙示の契約が締結されたとみるのが、当事者の合理的意思に沿うというべきである。

(3) ところで、本件通路は旧2番1土地上の各建物間を走っており、昭和48年当時もコンクリートが敷かれていたことから、敷設コンクリート1は元々乙建物とも接していたと考えられる。

しかして、乙建物は少なくとも昭和62年ころまでは建っていたこと、敷設コンクリート1は概ね直線的に残っているところ、乙建物が取り壊された後に被告が従前の通路の幅を越えてコンクリートを敷設した事実を認めるに足りる証拠はないことからすると、本件通路の範囲は、現在残っている敷設コンクリート1を基礎として、少なくとも別紙物件目録2記載(1)の土地の範囲に及ぶものと推認することができる。

(4) よって、被告は、別紙物件目録2記載(2)の土地を要役地とし、同目録記載(1)の土地を承役地とする(以下、同土地を「本件承役地」という。)、通行及び下水道の設置利用のための地役権(以下「本件地役権」という。)を有する。

4  本件地役権の対抗力について

(1) 被告は、本件地役権について登記を備えていないから、登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者に対しては、本件地役権を対抗できない。

ところで、通行及び下水道設置利用のための地役権の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、同承役地が要役地の所有者によって継続的に利用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、上記地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないというべきである(最高裁判所平成8年(オ)第2342号同10年12月18日第二小法廷判決・民集52巻1号65頁参照)。

また、承役地の所有権が競売による売却によって移転した場合において、競落人が地役権の登記の欠缺を主張する正当の利益を有する第三者に当たるか否かを判断するに際しては、上記「譲渡の時」とは、不動産の競売にあっては売却許可決定の確定をもって売買が確定的に成立することから、承役地に関する売却許可決定が確定した時と解するのが相当である。

しかして、前記第3の4(3)イの事実によれば、乙土地については、平成12年6月15日をもって売却許可決定が確定したと推認できるから、同日を基準とすべきである。

そこで、以上説示したところを前提として、本件において原告が本件地役権の登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者に当たるか否かについて検討する。

(2)ア 平成12年6月15日当時、本件通路上には被告が所有する洗濯機等が置かれていたものの、これらは敷設コンクリート1を覆うものではなかった。また、丁土地と乙土地上に本件扉が設置されており、「B野勝手口」と記載した表札が掲げられていた。

かかる状況に鑑みれば、甲建物南側出入口から本件扉に至る本件通路が被告によって通路として使用されていることは、客観的に明らかであったといえる。

このことは、昭和62年ころ乙土地西側に塀が製作された際に、被告の通行を前提として扉が設置されたこと、原告が平成12年5月に閲覧した(甲36、原告本人)現況調査報告書(甲第27号証の3)においても、現状が通路である旨が記載されていること、平成12年8月30日付で原告が出した内容証明郵便の記載からすれば、遅くとも平成12年8月ころには原告自身も本件通路が被告の通行に使用されている状況を認識していたと認められることによっても裏付けられる。

イ また、本件給湯管、本件排水管及び本件排水枡が乙土地上にあるところ、本件排水管が乙土地上の排水孔に排水するよう設置されていること、本件扉の西側にマンホールがあること(甲6の2)からすれば、平成12年6月15日当時においても、乙土地が下水道設備の設置利用に用いられていることは客観的に明らかであったといえる。

ウ しかして、同日当時、乙土地上の敷設コンクリート1のみならず、本件排水管、本件給湯管及び本件排水枡も地表上にあって見える状態にあった以上、原告において上記ア及びイのような乙土地の利用状況を認識し得たものというべきである。

エ この点について、原告は、本件扉が閉まっていたことから、本件扉を開けて中に入れなかったと主張する。

しかし、本件扉は、公道側から開けられない状態にすることができるものの、日中は開けられる様にしていることが多い(乙29、被告本人)上、乙土地を購入しようとする原告に対し、被告が乙土地及び丁土地上にある本件扉を開けることを拒む理由は特に見当たらない。

そうすると、原告が被告を訪ねるなどして乙土地の状況を確認することは可能であったといえ、本件扉の存在をもって原告の認識可能性を否定することはできない。

そして、他に、原告が本件通路の状況を認識することを妨げる事情は見当たらない。

オ よって、平成12年6月15日当時、乙土地が、被告によって通行及び下水道設備の設置利用のために継続的に利用されていることが客観的に明らかであり、かつ、原告においてそのことを認識することが可能であったといえる。

(3)  したがって、原告は本件地役権について登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないから、被告は、原告に対し、本件地役権について、登記なくして対抗することができる。

5  本訴請求について

(1) 以上によれば、被告は、通行及び下水道設備の設置利用のために、本件承役地を利用することができる。

(2)ア 本件コンクリートの敷設は、その敷設位置、範囲等を考慮すると、通行及び下水道設備の設置利用に伴う通常の管理行為ということができるから、本件地役権に基づく本件承役地の利用行為といえる。

イ 本件排水管及び本件給湯管は、本件浴室に給水し、その排水を乙土地上の排水孔を通じて本件埋設排水管に流すものであり、これを全体としてみれば、本件承役地に設置されている下水道設備の利用行為ということができるから、これらの設置・利用は、本件地役権に基づく本件承役地の利用行為といえる。

ウ 本件埋設排水管及び本件排水枡の設置・利用は、下水道設備の設置利用を目的とする本件地役権に基づく本件承役地の利用行為といえる。

エ しかしながら、本件地役権の目的に照らすと、本件扉の設置をもって本件地役権に基づく本件承役地の利用行為ということはできず、乙土地の前所有者たるY株式会社及び丁土地の所有者たるD野一郎が好意により本件扉の設置を認めていたにすぎないといえる。

(3) 上記(2)エによれば、被告が本件扉を設置していた行為は、権原なくして行われた乙土地(一部)の占有行為ということができる。

しかし、元々、更地となった乙土地上にごみが投棄されるなどしたことから、乙土地の公道面に塀を製作した際に扉が作られたものであり、第三者の侵入を防ぐという点においては、乙土地にとっても本件扉を設置する意味があったといえる。また、本件扉が占有している面積はわずかであり、かかる占有によって乙土地の利用が阻害されるとも考え難い。

したがって、被告が本件扉を設置していることにより特に原告に損害が生じたとまでは認めることができない。

(4) よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、被告に対して本件扉の撤去を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

6  反訴請求について

(1) 地役権の承役地の譲受人が地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらず、地役権者が譲受人に対し登記なくして地役権を対抗できる場合には、地役権者は、譲受人に対し、同権利に基づいて地役権設定登記手続を請求することができ、譲受人はこれに応ずる義務を負うものと解すべきである(最高裁判所平成8年(オ)第2342号同10年12月18日第二小法廷判決・民集52巻1号65頁)。

しかして、本件において、原告が本件地役権の設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらず、被告が原告に対し登記なくして本件地役権を対抗できることは、前述したとおりである。

したがって、被告は、原告に対し、昭和48年10月11日設定を原因とする本件地役権の設定登記手続を請求することができる。

(2) また、原告が被告に対し本件コンクリート等の撤去を求める本訴を提起していること、原告は乙土地上に居宅を建築する予定であることに鑑みると、被告は、原告に対し、本件地役権に基づいて、別紙物件目録2記載(1)の土地を通行すること及び同土地に埋設されている下水道設備を使用することを妨害してはならない旨の不作為を求めることができる。

(3) 本件地役権については、本件通路をめぐる将来の派生的紛争を予防する見地から、被告が本件地役権を有することを確認することが有効かつ適切である。

したがって、被告が本件地役権を有することの確認を求める利益が認められる。

7  結論

以上の次第で、原告の本訴請求については、本件扉の撤去を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、被告の反訴請求については、全部理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・貝阿彌誠、裁判官・髙田公輝裁判官・大嶋洋志は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官・貝阿彌誠)

別紙物件目録1〜4<省略>

別紙求積図

file_5.jpg図面1

file_6.jpg図面2

file_7.jpgmensn sito | see-s0me 30 aannnse2020 LEP RTRR FORE ot ual Tear hy Jem o—tweib as Hl : satan ° |図面3file_8.jpg

図面4

file_9.jpg図面5

file_10.jpgeat図面6

file_11.jpgL 9 L I PER) Re a aa 7, ROO SRE aR WH ge ROME: ROW II 79h (Rio bem Mom AMORA, SAE REAL ie deakae0Ne) REMI ROOK SOA ik ete) Co FAs: REOME AOR AT RARDIN)図面7

file_12.jpg__, (ERD ae ET) KI~K3, KS Ac AITAd AD Ik, KaRARB A OPAL 1 HEROD AE MBO AP I a oe AG The ae Ht, 200188 7 Hiseicaan Lt 7B Mele HER SRLE ORED | [SH OMAGH 1 AOL 36 Porenia *C ARCATA L MIIH Cay CHAO EMT IB NK ova. aa AMLAMLL LIGDULD ARIES 2A Toni. Fem 39, MRLTHRVO CHE ABM 52 om FORTHE. ANKDAS lm em BERLE CH COZ OA BRIE 2 WEBS RUE ACARI ae A CPA IRR LMR ThA (RY Y ae PHBARE ED BEALEOEOOT, HEH REnLTOLOeHS.) (GBs, AST RSID OREO BRET. TH)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例