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東京地方裁判所 平成13年(ワ)3938号 判決 2001年7月31日

原告

飯田浩一

ほか二名

被告

宮原倫生

主文

一  被告は、原告飯田浩一に対し、一億八二六五万〇二四七円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告飯田芳郎に対し、二七五万円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告飯田希和子に対し、二七五万円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告飯田浩一のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、被告の負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告飯田浩一に対し、一億八九九一万五二七一円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告飯田芳郎に対し、二七五万円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告飯田希和子に対し、二七五万円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の普通乗用自動車が追越しのため対向車線にはみ出して走行したところ、自動二輪車を運転して対向車線を走行してきた原告飯田浩一(以下「原告浩一」という。)が、被告車両との衝突を避けるためにハンドルを左に転把して急制動の措置をとったものの、自動二輪車が転倒し、原告浩一が自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表一級に該当する後遺障害を残す傷害を負った交通事故に関し、同原告及びその両親である原告飯田芳郎(以下「原告芳郎」という。)及び原告飯田希和子(以下「原告希和子」という。)が、被告に対し、自賠法三条及び民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  原告らの請求の原因

別紙訴状の「請求の原因」のとおり

二  被告の認否

(一)  請求の原因一ないし五の事実は認める。

(二)  請求の原因六ないし八の事実は争う。

第三当裁判所の判断

一  請求の原因一(当事者)、同二(交通事故の発生)、同三(責任原因)、同四(原告浩一の受傷及び治療状況)、同五(原告浩一に残存している後遺障害)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、以下、請求の原因六(原告浩一が蒙った損害)及び同七(両親固有の損害)について判断をする。

(原告浩一の損害)

(一) 入院雑費 五四万二一〇〇円

原告浩一の入院期間四一七日間につき、一日一三〇〇円の割合による入院雑費を損害と認める。

1300円×417日=54万2100円

(二) 介護費用 四〇五〇万〇五四六円

前記のとおり、原告浩一には、第五胸髄以下完全麻痺の後遺障害が残存し、他人の介護を要する状態にあり、その介護には少なくとも一日六〇〇〇円を要するものと認められる。そして、原告浩一は、症状が固定した平成一一年一一月一〇日当時二五歳であり、平成一一年簡易生命表によれば二五歳男性の平均余命は五二・九三年である。したがって、五三年間にわたる原告浩一の介護費用の現価は、四〇五〇万〇五四六円となる。

(6000円×365日)×18.4934(53年間のライプニッツ係数)=4050万0546円

(三) 自動車購入・改造費用 八五二万一六八〇円

前記のとおり、原告浩一は、胸から下が完全に麻痺した状態であるため、外出するには、原告浩一が運転できるように特別の改造を施した自動車を用いる必要がある。甲四の一、二及び弁論の全趣旨によれば、原告浩一は、平成一一年一一月に自動車を購入し、その購入代金及び改造費用として一九一万四八八〇円を支払ったことが認められる。

また、原告浩一は、平均余命までの間、五年後、一〇年後、一五年後、二〇年後、二五年後、三〇年後、三五年後、四〇年後、四五年後及び五〇年後と、五年ごとに自動車を買い換える必要があると認められる。自動車の購入代金及び改造費用は、その都度二〇〇万円を下回らないと認められるから、ライプニッツ係数を用いてその現価を計算すると、次のとおり、六六〇万六八〇〇円となる。

200万円×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872)=660万6800円

(四) 逸失利益 一億二〇〇八万五九二一円

弁論の全趣旨によれば、原告浩一は、本件事故当時、西九州大学家政学部に在学中であったが、本件事故により、その労働能力を一〇〇%を喪失した。したがって、原告浩一の症状固定時から六七歳までの逸失利益は、平成一〇年賃金センサスによる大学卒男子労働者の全年齢平均年収六八九万二三〇〇円を基礎に算定すると、次のとおり、就労可能年数四二年間のライプニッツ係数一七・四二三二を乗じた一億二〇〇八万五九二一円となる。

689万2300円×17.4232(42年間のライプニッツ係数)=1億2008万5921円

(五) 傷害慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円

一四か月の入院治療を要する傷害に対する慰謝料として、三〇〇万円を相当と認める。

(六) 後遺障害慰謝料 三〇〇〇万〇〇〇〇円

原告浩一は、本件事故により、一級の後遺障害を負い、希望していた管理栄養士の仕事に就くことができなくなったこと、被告の加入していた任意保険の限度額は五〇〇〇万円であり、治療費等に充てられた残額は二〇〇〇万円程度にすぎないこと、いまだ被告から損害の賠償について十分な誠意が示されていないこと等の事情を考慮すると、原告浩一の後遺障害に対する慰謝料として、三〇〇〇万円を相当と認める。

(七) 小計 二億〇二六五万〇二四七円

(八) 損害の填補

原告浩一は、自賠責保険より保険金として三〇〇〇万円の支払を受けたことを自認しているから、(七)の損害額から三〇〇〇万円を控除すると、残額は一億七二六五万〇二四七円となる。

(九) 弁護士費用

本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、一〇〇〇万円と認める。

(一〇) 損害合計額 一億八二六五万〇二四七円

(原告芳郎及び原告希和子の損害)

(一一) 固有の慰謝料 各二五〇万〇〇〇〇円

原告芳郎及び原告希和子は、被告の一方的過失により、その一人息子である原告浩一が二五歳の若さで一級の後遺障害を負い、今後介護を続けていかなければならなくなったこと等を考慮すると、同原告らの慰謝料として、各二五〇万円を相当と認める。

(一二) 弁護士費用 各二五万〇〇〇〇円

原告芳郎及び原告希和子については、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、各二五万円と認める。

(一三) 損害合計額 各二七五万〇〇〇〇円

第四結論

以上によれば、原告浩一の請求は、被告に対し、一億八二六五万〇二四七円及びこれに対する本件事故発生の日である平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は失当として棄却し、原告芳郎及び原告希和子の各請求は理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 河邉義典)

訴状

東京地方裁判所

民事部 御中

平成一三年三月 日

原告ら訴訟代理人

弁護士 東谷隆夫

同 相川裕

同 吉田修

同 渡部直樹

同 鈴木由美

同 久保田有子

当事者の表示:別紙当事者目録記載のとおり

損害賠償請求事件

訴訟物の価額 金一億九五四一万五二七一円

貼用印紙額 金七〇万五六〇〇円

請求の趣旨

一 被告は、原告飯田浩一に対して、金一億八九九一万五二七一円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え

二 被告は、原告飯田芳郎に対して、金二七五万円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え

三 被告は、原告飯田希和子に対して、金二七五万円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え

四 訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求める。

請求の原因

一(当事者)

原告飯田浩一は、昭和四九年六月二六日生まれの男子であり、原告飯田芳郎は原告飯田浩一の父、原告飯田希和子は原告飯田浩一の母である。

二(交通事故の発生)

別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件交通事故」という。)が発生した。

三(責任原因)

一 被告は、加害車両を保有してこれを自己の運行の用に供していたものである。

二 本件交通事故現場付近の道路は、制限速度時速五〇キロメートル、追い越しのための右側はみ出し通行禁止の交通規制がなされていたが、被告は、加害車両を運転して本件交通事故現場付近を走行した際、加害車両の前を進行していた車両を追い越すため時速七〇キロメートルを超える速度で、且つ反対車線を走行した一方的な過失により本件交通事故を惹起したものである。

三 よって、被告は、自動車損害賠償保障法第三条及び民法第七〇九条に基づき原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

四(原告飯田浩一の受傷及び治療状況)

原告飯田浩一は、本件交通事故により第五・第八胸椎破裂骨折、脊髄損傷等の傷害を負い、さらに上記各傷害を原因とする合併症として神経因性膀胱・直腸障害が発生したため、平成一〇年一二月一〇日から同月一六日まで佐賀医科大学附属病院に入院して治療を受け、同月一六日より平成一一年五月三一日まで労働福祉事業団総合せき損センター病院に入院して治療を受け、同年六月一日より平成一二年一月三〇日まで国立身体障害者リハビリテーションセンター病院に入院して治療を受けた。

五(原告飯田浩一に残存している後遺障害)

一 原告飯田浩一は、平成一一年一一月一〇日、上記国立身体障害者リハビリテーションセンター病院において症状固定の診断を受け、原告飯田浩一には、脊髄損傷による体幹・両下肢機能障害(第五胸髄以下完全麻痺)、門歯折損、左肩関節可動域制限、膀胱直腸機能障害、及び下肢、背部、両胸部醜状障害の後遺障害が残存しており、これらの後遺障害が存することにより原告は労働能力の全てを喪失した。

二 原告飯田浩一は、被告が契約している自賠責保険に被害者請求を行い、自算会により後遺障害等級第一級の認定を受け、平成一二年二月七日、一級の自賠責保険金三〇〇〇万円の支払を受けた。

六(原告飯田浩一が蒙った損害)

一 入院雑費 金五四万二一〇〇円

原告飯田浩一は、事故日から平成一二年一月三〇日まで病院に入院して治療を受け、その期間中、身の回りの日用品等を購入したりするために費用を支出したが、これら雑費のうち一日あたり金一三〇〇円が本件交通事故と相当因果関係を有する損害である。

したがって、金一三〇〇円に入院日数の四一七日を乗じた金五四万二一〇〇円が入院雑費の金額となる。

二 介護関係費用

<1> 介護費用 金四〇五〇万〇五四六円

前記のように原告飯田浩一には第五胸髄以下完全麻痺の後遺障害が残存しており、原告飯田浩一は独りで日常生活を営むことが著しく困難である。そのため、原告飯田浩一は介護人を依頼して日常生活の世話をうけており、その費用は日額金六〇〇〇円である。

そこで、上記日額に三六五を乗じた金二一九万円(年額)に退院時から平均余命まで五三年間のライプニッツ係数一八・四九三四を乗じた金額が介護費用の金額となる。

<2> 自動車購入・改造費用 金八五二万一六八〇円

(一) 原告飯田浩一は、上記のとおり胸から下が完全に麻痺した状態であるため、一人で電車やバス等を利用して外出することはできず、外出するには原告飯田浩一が運転できるように特別な改造を施した自動車を用いなければならない。

原告飯田浩一は、平成一一年一一月に自動車を購入し、その際、業者に自動車代金及び改造費用として金一九一万四八八〇円を支払った。

(二) 原告飯田浩一は、自動車を五年毎に買い換える予定であり、平均余命までの間、五年後、一〇年後、一五年後、二〇年後、二五年後、三〇年後、三五年後、四〇年後、四五年後及び五〇年後の一〇回買い換えることとなる。

上記各買換え時の自動車代金及び改造費用の合計額は金二〇〇万円を下回ることはない。

したがって、金二〇〇万円に五年、一〇年、一五年、二〇年、二五年、三〇年、三五年、四〇年、四五年及び五〇年のライプニッツ係数の和である三・三〇三四を乗じた、金六六〇万六八〇〇円が、原告が今後自動車を買換えるのに必要な費用である。

(三) 上記(一)と(二)の金額の和が自動車購入・改造費用である。

三 逸失利益 金一億二〇〇八万五九二一円

原告飯田浩一は、本件交通事故当時西九州大学家政学部食物栄養学科管理栄養士専攻に在学中であり、平成一一年三月に上記大学を卒業した後は管理栄養士として働くことが決まっていた。

原告飯田浩一には脊髄損傷による体幹・両下肢機能障害(第五胸髄以下完全麻痺)、門歯折損、左肩関節可動域制限、膀胱直腸機能障害、及び下肢、背部、両胸部醜状障害の後遺障害が残存し、前述のとおり後遺障害第一級の認定を受けており、原告は本件交通事故により労働能力の一〇〇パーセントを喪失した。

したがって、平成一〇年賃金センサス大卒男子の平均給与額金六八九万二三〇〇円に、症状固定時から満六七歳までの就労可能年数四二年間のライプニッツ係数一七・四二三二を乗じた一億二〇〇八万五九二一円が本件交通事故による逸失利益の額である。

四 傷害慰謝料 金三〇〇万円

原告飯田浩一は本件交通事故により、極めて重篤な傷害を負い、その治療のために約一四ケ月間入院した。

したがって、傷害慰謝料の金額としては金三〇〇万円が相当である。

五 後遺障害慰謝料 金三〇〇〇万円

本件交通事故により、原告飯田浩一は上記四に記載したとおりの極めて重篤な傷害を負い、希望していた職種に就くことも不可能となった。

このように、自身には全く落ち度がないにもかかわらず、若くして事故後の生活設計の全てを台無しにされた原告飯田浩一の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は、金三〇〇〇万円を下らない。

六 損害の填補(控除) 金三〇〇〇万円

原告飯田浩一は、被告が契約している自賠責保険より保険金として金三〇〇〇万円の支払を受けた。

七 損害額小計

上記一ないし六に記載した損害額の合計は、金一億七二六五万〇二四七円となる。

八 弁護士費用 金一七二六万五〇二四円

原告飯田浩一は、本件交通事故により蒙った損害の賠償請求につき、本件訴訟代理人弁護士に訴訟の追行を委任した。原告飯田浩一が上記弁護士に支払うべき弁護士費用のうち本件交通事故と相当因果関係があると認められるのは、上記損害額小計の金額の一割に相当する金一七二六万五〇二四円である。

九 原告飯田浩一の損害額合計 金一億八九九一万五二七一円

七(両親固有の損害)

一 両親固有の慰謝料 各金二五〇万円

上記に述べてきたように、原告飯田浩一は本件交通事故により極めて重篤な傷害を負い、しかも極めて重大な後遺障害を負っているところ、原告の両親は、一人息子である原告が被告の一方的な過失による交通事故により負傷し、その結果希望していた職業に就くことも出来なくなったことにより深刻な精神的苦痛を受けた。

原告の両親である原告飯田芳郎及び原告飯田希和子の上記精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の額は、各金二五〇万円を下らない。

二 弁護士費用 各金二五万円

原告飯田芳郎及び原告飯田希和子は、本件交通事故により蒙った損害の賠償請求につき、それぞれ本件訴訟代理人弁護士に訴訟の追行を委任した。上記原告らが上記弁護士に支払うべき弁護士費用のうち本件交通事故と相当因果関係があると認められるのは、上記固有の慰謝料の金額の一割に相当する各金二五万円である。

三 両親の損害額合計 金五五〇万円(各金二七五万円)

八(結語)

よって、原告飯田浩一は、被告に対して、損害賠償として金一億八九九一万五二七一円及びこれに対する本件交通事故の日である平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告飯田芳郎は、被告に対して、損害賠償として金二七五万円及びこれに対する本件交通事故の日である平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告飯田希和子は、被告に対して、損害賠償として金二七五万円及びこれに対する本件交通事故の日である平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、各支払を求める。

交通事故目録

発生日時 平成一〇年一二月一〇日午前五時二〇分ころ

発生場所 佐賀県佐賀市久保泉町大字川久保四三九六番地東方約一〇〇メートル先路上

加害車両 普通乗用自動車(佐賀三三た七二一九)

所有者 被告

運転者 被告

被害車両 自動二輪車(一佐賀え二一七六)

所有者 原告飯田浩一

運転者 原告飯田浩一

事故態様 被告が、加害車両を運転して右発生場所付近の片側一車線の道路を走行中に、加害車両に先行していたダンプカーを追い越すために、加速して反対車線にはみ出して走行したところ、対向車線を被害車両を運転して進行してきた原告飯田浩一がこれを発見し、正面衝突を避けるためにハンドルを左に転把して急制動の措置をとったが被害車両が転倒し、原告飯田浩一が道路左側の縁石に上半身を強打した。

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