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東京地方裁判所 平成13年(ワ)5641号 判決 2002年1月22日

原告

鈴木満子

ほか一名

被告

泉原秀一

ほか一名

主文

一  被告らは、原告鈴木満子に対し、連帯して、金九二六万二二六二円及びこれに対する平成一一年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告磯部豊子に対し、連帯して、金一二六七万八二六二円及びこれに対する平成一一年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、それぞれを各自の負担とする。

五  この判決の第一項及び第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、原告鈴木満子に対し、連帯して、金一九七七万九七〇〇円及びこれに対する平成一一年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告磯部豊子に対し、連帯して、金二六四九万六七〇〇円及びこれに対する平成一一年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二事案の概要

本件は、青信号に従い横断歩道を歩行中の被害者が、進行してきた大型貨物自動車に轢過されて死亡した交通事故に関し、その相続人である原告らが、加害車両の運転者及び加害車両を保有する会社に対し、民法七〇九条、自賠法三条により損害賠償を請求した事案であり、争点は損害額である。

一  前提事実(証拠摘示のないものは、当事者間に争いのない事実である。)

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成一一年七月一六日午前一〇時〇三分ころ

(二) 場所 東京都世田谷区八幡山二丁目二五番先交差点横断歩道上

(三) 加害車両 被告英運送株式会社(以下「被告会社」という。)が保有し、被告泉原秀一(以下「被告泉原」という。)が運転する事業用大型貨物自動車

(四) 被害者 亡磯部久子(以下「亡久子」という。)

(五) 態様 信号機による交通整理が行われている本件交差点において、車両渋滞のため交差点内に一時停止していた被告泉原運転の加害車両が、前車に続き発進するにあたり、車両用信号が赤色に変化していたのであるから、横断歩道上の歩行者の有無に留意し、その安全を確認して進行すべきところ、これを怠り、横断歩道上の歩行者に気付かないまま、漫然と発進進行したため、折から青信号に従い同横断歩道を左から右へ横断してきた亡久子に加害車両左前部を衝突させて路上に転倒させたうえ、左前輪で轢過した(甲三〇ないし三三の一〇―二)。

(六) 結果 亡久子は、本件事故により、頭部外傷(頭蓋骨骨折、脳挫傷)及び右肺損傷等の傷害を負い、同日午前一一時五〇分に死亡した(甲三、四)。

2  責任原因

被告泉原は、加害車両を運転して本件事故を発生させたものであるから民法七〇九条に基づき、被告会社は、本件事故当時、被告泉原を雇用し、加害車両を保有していたものであるから民法七一五条、自賠法三条に基づき、原告らに生じた損害を賠償する責任がある(甲二、五)。

3  亡久子は、大正一一年三月三日生まれの女子であり、本件事故時、年間五一万七七〇〇円の国民年金を受給していた(甲二五)。

4  損害賠償請求権の取得

原告らは、亡久子の子であり、亡久子の死亡により、その損害賠償請求権を二分の一ずつ相続した(甲一)。

5  損害の填補

損害の填補として、自賠責保険から一七一〇万九三五〇円が支払われた。

二  原告らの主張

1  原告らの損害

(一) 葬儀費用 七七一万七三六二円

(二) 逸失利益 一五三五万五三八八円

<1> 亡久子は、本件事故当時、満七七歳の女性であったが、同居する原告磯部豊子(以下「原告磯部」という。)がツアーコンダクター等の業務により多忙なこともあって、世帯の主婦として家事を切り盛りしていた。

また、亡久子は、民謡師範、三味線師範として長年にわたり多くの弟子の育成に貢献し、本件事故当時においても週に四日ほど出稽古及び自宅稽古を行い弟子の指導をしていた。殊に、民謡師範としては、浜田喜久磯という芸名のもと、昭和五八年一一月には、日本伝承芸能文化振興会発行の日本民謡民踊名鑑に日本民謡殿堂・人物三〇撰のひとりとして掲載されたばかりか、本件事故当時にも日本郷土民謡協会の幹事に委嘱され、日本武道館での春期大会でも入賞するなどの活躍をしていた。

上記のような亡久子の生活状況からすれば、その年収は賃金センサス平成一〇年第一巻第一表・企業規模計・産業計による学歴計女性労働者の全年齢平均年収である三四一万七九〇〇円を下回らない収入を得ることができたものというべきである。そして、亡久子は、少なくとも平均余命一二年の半分の六年間は就労可能であり、生活費控除率三割として六年間の逸失利益の現価を計算すると、一二一四万三五二五円となる。

三四一万七九〇〇円×(一-〇・三)×五・〇七五六=一二一四万三五二五円

<2> 亡久子は、この他に年間五一万七七〇〇円の国民年金を得ていたのであるから、死亡時から一二年間については、年金受給者として、生活費控除率三〇パーセントとして、その逸失利益を計算すると、三二一万一八六三円となる。

五一万七七〇〇円×(一-〇・三)×八・八六三=三二一万一八六三円

<3> 亡久子の逸失利益の合計は、一五三五万五三八八円になる。

(三) 慰謝料 合計三〇〇〇万〇〇〇〇円

<1> 本件事故は、加害車両が渋滞中の交差点に進入して動けなくなり、横断歩道上で停止している間に、車両用信号が赤に転じ、歩行者用信号が青になって何人もの歩行者が横断歩道上を歩行していたにもかかわらず、漫然と車両前方の歩行者の存在を確認することなく赤信号のままに発進させたことから生じたもので、悪質なものである。最大積載量一一トンに達する加害車両に押しつぶされて命を落とした被害者の肉体的、精神的な苦痛、無念さは、筆舌に尽し難いものがある。

よって、亡久子の慰謝料は二〇〇〇万円が相当である。

<2> また、亡久子は、離婚した後、幼い原告らを苦労して女手一つで育てあげてきたこともあり、母と子の絆は強く、原告らにとって亡久子は家族関係の精神的支柱的存在であった。しかるに、本件事故により掛け替えのない亡久子を失った原告ら遺族の喪失感、絶望感は癒し難いものがある。

したがって、原告両名の固有の慰謝料としては各五〇〇万円が相当である。

(四) 小計 五三〇七万二七五〇円

(五) 損害の填補

(四)の損害額から自賠責保険による填補額の一七一〇万九三五〇円を控除すると、残額は三五九六万三四〇〇円となる。

(六) 弁護士費用(損害の約一割) 三五九万六〇〇〇円

(七) 計 三九五五万九四〇〇円

(八) 原告一人あたりの損害額 一九七七万九七〇〇円

3  原告磯部固有の損害 六七一万七〇〇〇円

(一) 委託業務の解消に伴う損害 六〇〇万〇〇〇〇円

原告磯部は、本件事故当時、カリフォルニア・イングリッシュ・スクールとの間において、報酬年額六〇〇万円、一年間の予定で東南アジア諸国における英会話学校の立ち上げ等の補助業務契約を締結しており、同業務に着手するため、タイ国に出発する直前であった。しかし、本件事故により、海外出張を中止せざるを得ず、同業務契約そのものが解約されたため、年額六〇〇万円の報酬を得ることができなかった。

(二) 出張用航空券キャンセル損害 一〇万六〇〇〇円

本件事故により、海外出張を中止せざるを得ず、航空券のキャンセル代として一〇万六〇〇〇円の損害が生じた。

(三) 弁護士費用(損害の約一割) 六一万一〇〇〇円

4  よって、原告鈴木満子は、被告らに対し、連帯して、損害金一九七七万九七〇〇円、原告磯部豊子は、被告らに対し、連帯して、損害金二六四九万六七〇〇円及び各原告とも各損害金に対する不法行為の日である平成一一年七月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

三  被告らの主張

1  原告らの損害

(一) 葬儀費用は争う。

(二) 逸失利益は争う。

<1> 亡久子は、有職の家事従事者ではなく、年金生活者と解すべきである。すなわち、亡久子と同居していた原告磯部は、相応の年齢に達し、ツアーコンダクター等の職業上、家を空けることが多く、また、亡久子は、民謡師範・三味線師範としての指導や余暇活動に多くの時間を費やしていることからすると、亡久子が原告磯部のために家事従事をしていた時間的余裕はないと思料される。さらに、亡久子の民謡師範・三味線師範としての報酬を裏付ける資料はない。

したがって、亡久子は年金生活者と解さざるを得ない。

<2> 仮に、亡久子が家事従事者であったとしても、高齢であることからして、その年収は、賃金センサス第一巻第一表・企業規模計・産業計による学歴計女性労働者の六五歳以上の平均年収の五割を基礎として算定するべきである。

(三) 慰謝料は争う。

(四) 弁護士費用は争う。

2  原告磯部固有の損害

(一) 委託業務の解消に伴う損害は争う。

原告磯部とカリフォルニア・イングリッシュ・スクールとの間の東南アジア諸国における英会話学校の立ち上げ等の補助業務契約期間は一年間であることからすると、最初の東南アジア出張が不可能になったからといって、その後の業務は存在するはずである。したがって、出張が不可能になったからといって、すべての契約が解消されることは通常考えにくい。

(二) 出張用航空券キャンセル損害は争う。

(三) 弁護士費用は争う。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録を引用する。

第四裁判所の判断

一  原告両名の損害について検討する(小数点以下切り捨てる)。

1  葬儀費用 一五〇万〇〇〇〇円

証拠(甲二〇ないし二四)によれば、原告は、亡久子の葬祭費用等として、七七一万七三六二円を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては、一五〇万円をもって相当と認める。

2  逸失利益 一〇四五万三八七四円

(一) 算定の基礎となる収入

<1> 当事者間に争いのない事実、証拠(甲一、六ないし八、二六、二七、三三の五)及び弁論の全趣旨によれば、亡久子は、本件事故当時、余暇を利用してゲートボールを楽しむなど七七歳の健康な女性であったが、約三〇年間共同生活をしていた原告磯部がツアーコンダクター等の仕事で多忙であったこともあり、家事を担当していたこと(甲三三の五)、また、亡久子は、浜田喜久磯という芸名(甲二六)で民謡師範として、千藤幸磯という芸名で(甲六)三味線師範として、それぞれ活躍し、本件事故当時においても多数の弟子の指導をしていたこと(甲三三の五・一丁裏)、さらに、亡久子は、民謡師範としては喜久磯会一門を、三味線師範としては幸磯会を、それぞれ統率し弟子を育成していたこと(甲二六)などの事実が認められる。

以上認められる亡久子の生活状況、これまでの就労実績に照らすと、賃金センサス平成一一年第一巻第一表企業規模計・中卒・六五歳以上の女性労働者の平均賃金年額である二九三万八五〇〇円を基礎とすることができる。しかしながら、本件においては亡久子の民謡及び三味線師範としての収入につき的確な立証がないこと、亡久子の年齢等を考慮すると控え目に認定せざるを得ず、上記年額の七割五分の二二〇万三八七五円を下回らない年収を得ることができたものと認めるのが相当である。

そして、亡久子は、上記のとおり、七七歳の女性であったので、その平均余命は、平成一一年簡易生命表によれば、一二・二三年であるので、平均余命の二分の一の年齢に達するまでの六年間にわたり、上記年間二二〇万三八七五円の得べかりし利益を喪失したものと認められる。

<2> 次に、亡久子は、本件事故時、国民年金として、年間五一万七七〇〇円を受給していたから(甲二五)、本件事故によって、国民年金分として、平均余命の歳に達するまでの一二年間にわたり、毎年、五一万七七〇〇円の得べかりし利益を喪失したものと認められる。

(二) 亡久子の逸失利益の算定

以上によれば、亡久子の逸失利益は、以下のとおりとなる。

<1> 死亡時の七七歳から就労可能な八三歳までの六年間

年収二二〇万三八七五円と年金五一万七七〇〇円の合計二七二万一五七五円を基礎収入として生活費を三〇パーセント控除し、六年間のライプニッツ係数五・〇七五六を乗じて、その逸失利益を計算すると、九六六万九五三八円と認められる。

二七二万一五七五円×(一-〇・三)×五・〇七五六=九六六万九五三八円

<2> 就労可能年齢である八三歳を超えた後、平均余命までの六年間亡久子は、上記就労可能期間後は、国民年金のみが収入となるから、年金五一万七七〇〇円に、生活費については六〇パーセントを控除するものとし、一二年間のライプニッツ係数八・八六三二から六年間のライプニッツ係数五・〇七五六を減じた三・七八七六を乗じて、その逸失利益を計算すると、七八万四三三六円と認められる。

五一万七七〇〇円×(一-〇・六)×三・七八七六(八・八六三二-五・〇七五六)=七八万四三三六円

(三) 亡久子の逸失利益の合計は、一〇四五万三八七四円になる。

3  慰謝料 二二〇〇万〇〇〇〇円

本件事故の態様、特に、本件事故は、被告泉原の一方的な過失によって引き起こされたものであり、本件事故の発生について亡久子には落ち度はないこと、とりわけ、加害車両に轢過されて死亡するに至った亡久子の恐怖と苦痛は言葉には尽くし難いものであったというべきこと、亡久子の遺体の状況は悲惨なものであること、掛け替えのない亡久子を一瞬にして失った原告両名の悲しみと無念の気持ちは大きなものであること、その他本件記録に現われた諸般の事情を考慮すると、亡久子の慰謝料としては一九〇〇万円、原告両名の慰謝料として各一五〇万円を相当と認める。

4  損害賠償請求権の取得

原告両名が、亡久子の損害賠償請求権のすべてを相続により取得したことは、上記のとおりである。

5  小計 三三九五万三八七四円

6  損害の填補

5の損害額から自賠責保険による填補額の一七一〇万九三五〇円を控除すると、残額は一六八四万四五二四円となる。

7  弁護士費用 一六八万〇〇〇〇円

本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、本件の認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、一六八万円をもって相当と認める。

8  計 一八五二万四五二四円

9  原告一人あたりの損害額 九二六万二二六二円

二  原告磯部固有の損害について

1  委託業務の解消に伴う損害 三〇〇万〇〇〇〇円

(一) 証拠(甲一一、一三、一五、一六、一九の一、一九の二、三六、三七)

及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。すなわち、

<1> 原告磯部は、カリフォルニア英語学校を経営する大沼隆二(以下「大沼」という。)と日本大使館に勤務するジェームズ・モイニハン(以下「モイニハン」という。)と知り合いであったが、大沼は、平成一一年五月ころ、原告磯部に対し、東南アジア諸国のベトナム、ラオス、フィリピンなどに英語学校を開設するための援助業務を依頼した。

<2> 上記原告磯部が依頼を受けた業務には、同人が平成一一年七月一九日から同月二八日まで、学校等の役員に付添い上記各国の現地に同行すること、原告磯部の人脈を通じモイニハンの仲介のもと大沼を現地の大使館員や大学関係者等に紹介して学校開設の交渉を整えることも含まれていた(以下、上記職務内容と<1>の援助業務とを合わせて「本件業務」という。)。そして、契約期間は平成一一年七月一日から同一二年六月三〇日までの一年間であり、報酬は毎月五〇万円の合計六〇〇万円と定められていた(甲一六、一七)。

<3> そこで、原告磯部は、本件業務を遂行するために、平成一一年七月一九日、バンコックに向けて出発する予定であったが(甲一三)、同月一六日の本件事故により出発は取りやめとなった。そして、その後、モイニハンが原告磯部以外の人との間を仲介することにつき難色を示したことやモイニハン及び現地の関係者も多忙となったこと等の事情から、原告磯部は、大沼と話し合った結果、本件業務に関する契約(以下「本件契約」という。)自体を解消することとし、上記契約の解消に伴って内金として以前に受領していた一五〇万円を返還した(甲一六、一七)。以上のような事実が認められる。

(二) 原告磯部は、本件契約が本件事故により解約されたため、年額六〇〇万円の報酬を得ることができなかったと主張するので、検討するに、上記認定事実のとおり、原告磯部は、本件事故により平成一一年七月一九日から同月二八日までの間の英語学校の役員等に同行する業務につけなかったことは明らかである。また、原告磯部の業務内容に照らすと、モイニハンが原告磯部の不在のなかで個人的人脈のない人を介在させてまで大沼を現地関係者に紹介することに難色を示すことも理解できないことではない。そうすると、本件事故により、現地での開校準備に支障が生じたため、結局、本件契約が解約されたことによって、原告磯部は報酬を得られなかったことは、本件事故による損害と認めることができる。

しかしながら、東南アジア諸国における学校開設の事業計画自体も、将来におけるその学校、企業をとりまく経済状況、経済環境や関係者の個別的事情等によって大きく左右されるものであって、本件事故がなくとも業務が一年間遂行されることがほぼ確実であるとまではいえないこと、本件事故により引き起されたものとはいえ、原告磯部の個人的体調不良が影響したこともあり(甲三七)、モイニハンや関係者との連絡をとる時期を失し、その結果、業務計画が頓挫したことも窺えることなどの事情を考慮すると、原告磯部が得べかりし利益を得られなかった額は、一年間分の報酬の半額である三〇〇万円と認めるのが相当である。

2  出張用航空券キャンセル損害 一〇万六〇〇〇円

原告磯部が本件事故により海外出張を中止したことによって支払を余儀なくされたキャンセル損害は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められるところ、証拠(甲一一ないし一六)及び弁論の全趣旨によれば、原告磯部は、バンコック行きの航空券を一五万一〇〇〇円で購入していたが、本件事故により海外出張が中止となったため、返金を受けた四万五〇〇〇円を控除した一〇万六〇〇〇円のキャンセル損害を受けたこと、原告磯部は、本件契約当時、英語学校から三か月分の報酬として一五〇万円を受領していたが、本件契約解消に伴う清算として同額を返還し、同返還金の中には英語学校から受け取っていた航空券代も含まれていたこと(弁論の全趣旨)等の事実が認められる。

同認定事実によれば、原告磯部は、本件契約の解消に伴い自費で航空券を購入したことになるから、上記一〇万六〇〇〇円が出張用航空券キャンセル損害となる。

3  弁護士費用 三一万〇〇〇〇円

本件と相当因果関係のある弁護士費用としては、三一万円をもって相当と認める。

4  小計 三四一万六〇〇〇円

5  原告磯部の損害総額 一二六七万八二六二円

上記一9の亡久子の損害の相続分及び原告磯部の慰謝料の合計九二六万二二六二円に、上記二4の原告磯部固有の損害三四一万六〇〇〇円を加えると、原告磯部の損害総額は一二六七万八二六二円となる。

第五結論

以上によれば、原告鈴木満子の請求は、被告らに対し、連帯して損害金九二六万二二六二円及びこれに対する平成一一年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払を求める限度で理由があり、原告磯部豊子の請求は、被告らに対し、連帯して損害金一二六七万八二六二円及びこれに対する平成一一年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払を求める限度で理由があるから、それらの各限度で認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、仮執行免脱の宣言の申立ては事案の性質上相当ではないから却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡武)

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