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東京地方裁判所 平成13年(ワ)5673号 判決 2002年6月25日

原告

株式会社ディーマックスカンパニー

ほか一名

被告

株式会社グリーンキャブ

主文

一  被告は、原告株式会社ディーマックスカンパニーに対し、金三九万二〇〇〇円及びこれに対する平成一二年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告藤本成司に対し、金二七万円及びこれに対する平成一二年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告株式会社ディーマックスカンパニーと被告の間においてはこれを一〇分し、その九を同原告の、その余を被告の各負担とし、原告藤本成司と被告の間においてはこれを一〇分し、その一を同原告の、その余を被告の各負担とする。

五  この判決の一、二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告株式会社ディーマックスカンパニーに対し、金三九〇万六〇〇〇円及びこれに対する平成一二年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告藤本成司に対し、金三〇万円及びこれに対する平成一二年二月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、下記の交通事故(以下「本件事故」という。)について、原告らが加害車両運転者の使用者である被告に対し、使用者責任(民法七一五条一項)に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  基礎的事実(争いのない事実、証拠〔甲六、七、一五、原告藤本成司本人〕及び弁論の全趣旨により認定した事実)

(1)  当事者

原告株式会社ディーマックスカンパニー(以下「原告会社」という。)は、コンピュータソフトウエアの企画・制作及び販売等を目的とする会社であり、原告藤本成司(以下「原告藤本」という。)は、原告会社の取締役である。

被告は、一般乗用旅客自動車運送事業等を営むタクシー会社である。

(2)  本件事故の発生

ア 発生日時 平成一二年二月二日午後九時五〇分ころ

イ 事故現場 東京都渋谷区恵比寿南三―一先路上

ウ 加害車両 被告のタクシー乗務員である前島健一(以下「前島」という。)が運転する普通乗用自動車(練馬五六あ八九九九)

エ 被害車両 原告藤本が運転する普通乗用自動車(川崎三三み一六三四)

オ 事故態様 加害車両が、走行する車線から左側車線に進路を変更した際、同車線を走行する被害車両に衝突し、被害車両は歩道縁石に接触した上、前方に停止中の他の車両に追突した。

(3)  責任原因

前島は、加害車両を運転中左側車線に進路変更するに当たり、同車線の安全確認を怠った過失があるところ、同人は被告の業務遂行中に本件事故を起こしたのであるから、被告は、使用者責任(民法七一五条一項)に基づき、本件事故による損害を賠償する責任がある。

(4)  本件事故の過失割合

原告藤本にも、右側車線の車両の動向を注視し、適切な回避措置をとることを怠った過失があるところ、本件事故の過失割合は、前島が九割、原告藤本が一割である(過失割合については当事者間に争いがない。)。

二  争点及び当事者の主張

(1)  原告会社の損害

(原告会社の主張)

ア 原告藤本の受傷

原告藤本は、本件事故により、頸部捻挫、右肩関節捻挫、腰部捻挫の傷害を受け、平成一二年二月二日から同年三月三一日に治癒するまで、整復、テーピング、低周波電気療法等の治療を受けた(実通院日数は一七日)。

イ 外注による損害 合計三二八万六〇〇〇円

原告藤本は、原告会社においてコンピュータソフトの基本プログラムやインターネットのホームページの制作等、緻密な作業が要求される業務を担当している。特にホームページの画像処理はマウスを微妙に動かすことによってなされるものであり、マウスに置いた指先に神経を集中させることが必要とされる。また、上記業務はその性質上同一の姿勢を継続することになるため首や肩に負担がかかるところ、原告藤本は、上記受傷による首、肩等の痛みにより、本件事故から一か月間は全く上記業務に従事することができず、その後も作業能率が著しく低下し通常の四〇%程度の業務しか処理できなかった。コンピュータ業界においては、業務が細分化され、細分化された業務を遂行するために各人が求められる能力は全く異なり、自己の持たない技術を要する業務に携わることは不可能である。特に原告藤本の持つ技術レベルは高度であり、担当部門内でも最も重要な業務を担当している。また、原告藤本は、原告会社の創業者の一人であり、ウィンドウズやインターネットが日本で認知される前からこの方面の業務経験を重ねてきた。原告藤本が持つ技術レベルは、容易に他者が承継又は代替し得るものではない。したがって、原告会社の被った次の損害と本件事故の間には相当因果関係があるというべきである。

(ア) 八一万八〇〇〇円

原告会社は、マイクロソフト株式会社(以下「マイクロソフト」という。)からマイクロソフトホームページの制作を毎月受注しているが、平成一二年二月分のうち原告藤本が担当することになっていた次の業務を外部に発注せざるを得なくなり、その外注費八一万八〇〇〇円(「以下「本件外注費一」という。)の損害を被った。

マイクロソフトホームページ制作のうち、「technet showcase 名古屋事例」のデザイン管理、コーディングの部分

(イ) 二四六万八〇〇〇円

原告会社は、本件事故当時、株式会社ゼンリン(以下「ゼンリン」という。)から介護保険用カーナビゲーションソフトの制作を受注していたが、原告藤本が担当することになっていた次の業務を外部に発注せざるを得なくなり、その外注費二四六万八〇〇〇円(以下「本件外注費二」という。)の損害を被った。

「ゼンリン 取扱説明書データ」制作費のうち、

<1> アイコンデザイン 二一〇万四〇〇〇円

<2> アイコンイメージ変更 二六万四〇〇〇円

<3> 修正費(一式) 一〇万円

ウ 給与の支払による損害 六三万三四一四円

仮に、本件外注費一及び二の支出が本件事故と相当因果関係のある損害といえないとしても、原告会社は少なくとも次の損害を被った。

すなわち、原告藤本は、マイクロソフトからの受注にかかる上記イ(ア)の業務に従事したとすれば、平成一二年二月中の七日間で同業務を完了し、ゼンリンからの受注にかかる上記イ(イ)の業務に従事したとすれば平成一二年三月中の二〇日間で同業務を完了し得た。原告会社は、これらの期間中、原告藤本から労務の提供を受けなかったにもかかわらず、原告藤本に対し従前どおりの給与を支払った。原告藤本の給与は一か月七一万四四八〇円であるから、原告会社は、マイクロソフトからの受注にかかる業務については一七万二四六〇円(七一万四四八〇円÷二九日×七日)、ゼンリンからの受注にかかる業務については四六万〇九五四円(七一万四四八〇円÷三一日×二〇日)の合計六三万三四一四円の損害を被った。

エ 弁護士費用 六二万円

原告会社は、原告ら訴訟代理人に着手金二七万円を支払い、報酬三五万円の支払を約した。

(被告の主張)

ア 原告藤本の受傷について

原告らは、原告藤本の受傷の程度を示す証拠として、東京都立広尾病院の担当医師作成の診断書(甲一)と茜整骨院の担当柔道整復師作成の施術証明書(甲二)を提出する。しかし、医師の資格のない柔道整復師が作成した施術証明書に記載されている病名を基に原告藤本の受傷の程度を判断することはできない。また、本件事故直後の被害車両に目立った損傷箇所はなかったことから、本件事故による衝撃はさほど強いものではなかったといえる。このような本件事故によって、原告藤本が長期間の休業を余儀なくされるような傷害を受けたとは認められない。

仮に、原告藤本に首や肩の痛み等が生じていたとしても、コンピュータプログラマーには、業務の性質上肩こりや腰痛を持病に持つ者が多い。したがって、原告藤本自身が有していた身体的要因と本件事故が相まってそのような症状が生じたと強く推認される。むしろ、本件事故による被害車両の損傷の程度や、原告藤本が本件事故直後には医療機関による治療を受けていないことなどからすると、原告藤本の症状は同原告自身の身体的要因によって生じたものというべきである。

イ 外注による損害について

原告会社が主張する外注による損害は、いわゆる企業損害であって本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。第三者の行為によって企業の代表者等が死亡し又は傷害を受けた場合に、その企業が受けた損害につき第三者が責任を負うのは、当該代表者等に企業の機関としての代替性がなく、個人と企業とが経済的に一体の関係にある場合に限られる。

確かに原告藤本は原告会社の取締役ではあるが、原告会社の組織構成図(甲一二)によれば、原告会社には原告藤本を含めて二〇人の社員が勤務している。その中で、原告藤本は事業部内の一部門の責任者を務めているに過ぎない。原告藤本が取締役であることをもって、同原告と原告会社との間に経済的な一体関係があると認めることはできない。したがって、原告会社が主張する外注による損害と本件事故との間に相当因果関係は認められない。

ウ 給与の支払による損害について

原告会社は、給与支払による損害を主張するが、原告藤本が担当していた業務は、<1>企画及び<2>制作進行管理が全体の三割、<3>デザイン及び<4>プログラミングが全体の七割である。原告会社が、本件事故後に原告藤本が従事し得なくなったと主張する業務は、デザインしたアイコンを描くこと及びプログラムの入力作業、すなわち手作業に過ぎない。そうであれば、原告藤本が本件事故後に従事し得なくなったのは、業務全体の七割を占める作業のうちの入力作業に過ぎないから、原告藤本の作業能率が一ないし二割以上低下したとは認められない。

(2)  原告藤本の損害

(原告藤本の主張)

原告藤本は、上記(1)(原告会社の主張)アの受傷により、通院期間ほぼ二か月(実日数一七日)にわたる治療を要する肉体的苦痛、業務に従事できない苛立ち等の精神的苦痛を受けた。これを慰謝するに足りる金額は三〇万円を下らない。

(被告の主張)

原告藤本が長期間休業を余儀なくされるような傷害を受けたとは認められないこと、仮に、原告藤本に首や肩の痛み等が生じていたとしても、原告藤本自身の身体的要因によって生じたものというべきであることは上記(1)(被告の主張)アのとおりである。

第三争点に対する判断

一  原告藤本の本件事故後の治療経過、原告会社における勤務状況等

証拠(甲一ないし四、七ないし一一、一四、一六、一八、一九、二一、二二、原告藤本本人、原告会社代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  原告藤本は、本件事故直後から、右肘から右肩、首にかけて痛みや腰部の違和感を感じていたが、翌日朝から仕事の打合せ等が入っていたことなどから、本件事故当日である平成一二年二月二日及びその翌日は病院等を受診しなかった。

しかし、原告藤本は、本件事故の翌日になっても痛み等がひかなかったため、同月四日茜整骨院に行った。同整骨院(柔道整復師上田久則)は、原告藤本に頸部の旋回痛、右肩関節の自発痛、伸展・外転不良、運動痛、腰部の座位痛等の症状があるとして、頸部捻挫、右肩関節捻挫、腰部捻挫と判断した。そして、原告藤本は、同年三月三一日まで茜整骨院において整復、テーピング、低周波療法等の施術を受け(実通院日数一七日)、頸部捻挫については同月一八日、右肩関節捻挫については同月二四日、腰部捻挫については同月三一日治癒と判断された。

また、原告藤本は、同年二月一八日、東京都立広尾病院を受診し、頸椎捻挫の診断を受けた。

(2)  原告藤本は、原告会社を設立した四名のうちの一人であり、本件事故当時、原告会社において、主にプログラミング業務(ホームページの制作におけるプログラミング業務)、アイコンのデザイン業務等に従事していた。原告藤本は、本件事故後も原告会社に休まず出勤した。

(3)  原告会社は、本件事故当時、マイクロソフトからマイクロソフトホームページの制作を毎月受注していたが、平成一二年二月分のうち、原告藤本が担当することになっていた「technet showcase 名古屋事例」のデザイン管理、コーディングを株式会社デルタグラフィックス(以下「デルタグラフィックス」という。)に発注し、その制作代金八一万八〇〇〇円(本件外注費一)を同社に支払った。

また、原告会社は、本件事故当時、ゼンリンから介護保険用カーナビゲーションソフトの制作を受注していたが、平成一二年三月、その受注にかかる作業で原告藤本が担当することになっていた「ゼンリン 取扱説明書データ」制作のうち、アイコンデザイン、アイコンイメージ変更及び修正をデルタグラフィックスに発注し、その制作代金合計二四六万八〇〇〇円(本件外注費二)を同社に支払った。

原告会社が上記各作業をデルタグラフィックスに外注したのは、原告藤本が首筋に痛みを感じるなどして作業効率が落ち、業務に支障が生じる旨同原告から報告を受け、原告会社も原告藤本による業務遂行が困難であると判断したためであった。

(4)  原告藤本の給与は、本件事故当時一か月七一万四四八〇円であったところ、原告会社は、原告藤本に対し、平成一二年二月及び三月分の給与を従前と同様に全額支払った。

二  争点(1)(原告会社の損害)

(1)  原告会社は、原告藤本の持つ技術レベルは高度であり、容易に他者が承継又は代替し得るものではないから、原告会社の本件外注費一及び二の支出は本件事故と相当因果関係のある損害である旨主張する。

確かに原告藤本はホームページの制作等に関しての高度の技術を有し、原告藤本の担当業務は原告会社において重要な業務の一つであることは認められる(甲一四、一八、一九、原告藤本、原告会社代表者)。そして、原告会社がマイクロソフト及びゼンリンからの受注にかかる業務の一部につき、デルタグラフィックスに外注して本件外注費一及び二を支出したのは、原告藤本が首筋に痛みを感じるなどして作業効率が落ち、業務に支障が生じる旨同原告から報告を受け、原告会社も原告藤本による業務遂行が困難であると判断したためであった(上記一(3))。

しかしながら、後に検討する企業のいわゆる反射損害はともかく、本件外注費一及び二のような企業の固有の損害が個人の人身事故により生じたとして、企業が加害者に対しその損害の賠償を請求するためには、企業の損害が個人の損害と等価値であると認められる程度に企業と個人の間に経済的一体性が認められることを要するというべきである。これを本件についてみると、原告藤本は、原告会社を設立した四人のうちの一人であり、同社の取締役であるものの、原告会社には、原告藤本のほかに代表取締役を含めて三人の取締役がおり、この三人は社長又は各部門の責任者を務めている上、これらの者も含め本件事故当時の社員は約一一人であったことが認められる(甲一二、原告藤本本人、原告会社代表者)。このような事情に照らせば、原告会社と原告藤本の間に経済的一体性があるということは到底できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない(なお、原告会社は、原告藤本の業務に代替性がない旨主張するが、原告会社代表者自身、甲一四号証において、原告藤本が担当していた業務は、原告会社の他の人材では二人ないし三人が行って遂行できる業務であると述べ、作業効率の問題はあるとしても、業務自体に代替性があることを認めている。)。

したがって、原告会社が、被告に対し、本件外注費一及び二の支出を本件事故による損害としてその賠償を求めることはできないといわざるを得ない。

(2)  次に原告会社の給与支払による損害(いわゆる反射損害)について検討する。

上記一の認定事実によれば、原告藤本は、本件事故後も原告会社に出勤していたものの、本件事故による受傷によりマイクロソフト及びゼンリンからの受注にかかる業務の遂行に支障が生じており、原告会社に対する労務提供の相当程度が制限されていたものと認められる。しかるに、原告会社は原告藤本に対し平成一二年二月分及び三月分の給与を従前と同様に全額支払った(原告会社は役員報酬は支給していない〔原告会社代表者〕。)ところ、その支払は、就業規則等に基づく義務的なものでないとしても、原告藤本の生活状態を維持継続するなどのためにやむを得ない相当なものと認められる。また、仮に原告会社が原告藤本が労務を提供できなかった分の給与を支払わなかったとすれば、その分の給与相当額は本来原告藤本が休業損害として加害者に請求し得るものである。このような事情からすれば、原告会社が原告藤本に支払った給与のうち、原告藤本から実際に労務の提供を受けられなかった分については、原告会社が損害を受け、その損害は本件事故と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

そこで原告会社の給与の支払による損害の額につき検討するに、原告会社は、マイクロソフトからの受注にかかる業務に従事できなかった平成一二年二月中の七日間及びゼンリンからの受注にかかる業務に従事できなかった平成一二年三月中の二〇日間の給与相当額六三万三四一四円が損害であると主張する。そして、甲一七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告藤本が、マイクロソフトからの受注にかかる業務に従事していたとすれば平成一二年二月中の七日間で業務を完了し、ゼンリンからの受注にかかる業務に従事していたとすれば同年三月中の二〇日間でその業務を完了し得たものと認められるところ、この期間に対応する給与相当額は、合計六三万三四一四円(七一万四四八〇円÷二九日×七日+七一万四四八〇円÷三一日×二〇日)である。

もっとも、原告藤本は、これらの期間も原告会社に出勤し、企画、制作進行管理等の仕事をできる範囲で行っていたことが認められる(原告藤本本人)から、上記全額を原告会社の損害であると認めることはできない。そして、証拠(甲一八、一九、原告藤本本人、原告会社代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告藤本が担当していた業務の内訳は、企画、制作進行管理等が約三割、プログラミング、アイコンデザインが約七割であったこと、原告藤本は、本件事故後の平成一二年二月及び三月も企画、制作進行管理等の業務は行い、プログラミング、アイコンデザインの業務のうち入力作業等技術的な作業は外注せざるを得なかったが、デザインの指示等は行っていたこと、しかし、本件外注費一及び二の額からして入力作業等技術的作業の評価は相当高いものであることなどが認められ、これらの事情を総合すると、上記六三万三四一四円のうち原告藤本が労務を提供できなかった分は、その約六割の三八万円と認めるのが相当である。

(3)  なお、被告は、柔道整復師の施術証明書によって原告藤本の受傷の程度は判断できず、また、本件事故直後の被害車両には目立った損傷箇所はなかったから、本件事故の衝撃はさほど強いものではなく、原告藤本が長期間休業を余儀なくされるような傷害を受けたとは認められない旨主張する。

しかし、原告藤本が運転していた被害車両は、加害車両に右側から衝突された後、道路左側の縁石に接触した上、前方に停車中の他の車両に衝突したものであり、本件事故の際に原告藤本が受けた衝撃が軽微なものであったとはいえないこと、原告藤本は、本件事故直後から、右肘から右肩、首にかけて痛みや腰部の違和感を感じていたが、翌日朝から仕事の打合せ等が入っていたことなどから、本件事故当日である平成一二年二月二日及びその翌日は病院等を受診しなかったものであること(上記一(1))、その後茜整骨院において約二か月間施術を受け、その症状が改善し治癒しているところ、上記の本件事故の態様からしてもその期間が特に長期であるとはいい難い上、原告藤本の症状に特段不自然な点もないこと、原告藤本は、同年二月一八日には、東京都立広尾病院でも頸椎捻挫の診断を受けていることなどからすれば、上記(2)のように原告藤本の原告会社に対する労務提供が制限されたことは本件事故と相当因果関係があるというべきである。したがって、被告の上記主張は採用できない。

さらに、被告は、原告藤本に首や肩の痛み等が生じていたとしても、原告藤本自身の身体的要因と本件事故が相まってそのような症状が生じた旨主張する。しかし、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

他に上記認定判断を左右するに足りる証拠はない。

そして、上記(2)の三八万円について、原告藤本の過失割合一割を減額すると三四万二〇〇〇円となる。

(4)  上記(3)の損害額、本件事案の内容等を総合すると、本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用は五万円と認めるのが相当である。

(5)  被告は、前島の不法行為につき使用者責任(民法七一五条一項)を負うから、原告会社に対し、上記(3)の三四万二〇〇〇円及び上記(4)の五万円の合計三九万二〇〇〇円の支払義務を負う。

三  争点(2)(原告藤本の損害)

(1)  原告藤本の受傷状況及びその後の治療経過等を総合すると、原告藤本が本件事故により被った精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は、三〇万円と認めるのが相当である。

なお、原告藤本が長期間休業を余儀なくされるような傷害を受けたとは認められない、あるいは、原告藤本の症状が同原告の身体的要因と相まって生じた旨の被告の各主張が採用できないことは上記二(3)と同様である。

上記三〇万円について、原告藤本の過失割合一割を減額すると二七万円となる。

(2)  被告は、前島の不法行為につき使用者責任(民法七一五条一項)を負うから、原告藤本に対し、二七万円の支払義務を負う。

四  結論

以上の次第で、原告会社の請求は、三九万二〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日(本件事故日)である平成一二年二月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告藤本の請求は、二七万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるから認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本利幸)

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