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東京地方裁判所 平成13年(ワ)5866号 判決 2002年4月22日

主文

1  被告らは、原告に対し、それぞれ別紙議事録等目録記載の議事録を、同目録記載の閲覧等の場所において、営業時間内に原告またはその代理人に対し閲覧謄写をさせよ。

2  被告らは、原告に対し、それぞれ別紙議事録等目録記載の計算書類等を、同目録記載の閲覧等の場所において、営業時間内に原告またはその代理人に対し閲覧させ、または、各被告の定めた費用の支払いを受けてその謄本を交付せよ。

3  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実及び理由

第1  請求

(第1事件ないし第6事件)

被告ポーラ化成工業株式会社を除く被告らは、原告に対し、その本店及び支店において、それぞれ別紙会計帳簿等目録記載の会計帳簿等を営業時間内に閲覧及び謄写させよ。

(第7事件ないし第13事件)

主文第1項及び第2項と同じ

第2  事案の概要

本件は、被告らの株主であると主張する原告が、被告らに対し、それぞれの会計帳簿等及び株主総会議事録を閲覧謄写させ、並びに、計算書類等を閲覧させ謄本を交付するよう求めた事案である。これに対し被告らは、原告が被告らの株主であることを争うとともに、原告の請求は権利の濫用であると主張する。

1  前提となる事実(争いのない事実)

(1)  被告株式会社ポーラ化粧品本舗(以下「被告ポーラ化粧品本舗」という。)は、化粧品、石けん及び医薬品の販売等を目的とする資本金8億円の株式会社である。被告株式会社ポーラベニベニ(以下「被告ポーラベニベニ」という。)は、家具、民芸品、革製品及び毛皮の輸入販売等を目的とする資本金2億円の株式会社である。被告株式会社ポーラ印刷は、各種印刷及び図案紙器の製作並びに一般和洋紙の販売等を目的とする資本金1000万円の株式会社である。被告ポーラデイリーコスメ株式会社は、日用品雑貨、服飾品の製造、販売及び輸出入、食料品の販売及び輸出入等を目的とする資本金1000万円の株式会社である。被告有限会社忍総業(以下「被告忍総業」という。)は、化粧品事業への投資、不動産の取得、所有、管理、処分及び賃借等を目的とする資本の総額4億円の有限会社である。被告オルビス株式会社は、日用雑貨、服飾品等、食品の製造販売等を目的とする資本金1000万円の株式会社である。被告ポーラ化成工業株式会社(以下「被告ポーラ化成工業」という。)は、化粧品、石けん、医薬品、医薬部外品の製造販売等を目的とする資本金16億円の株式会社である。被告らのうち、被告ポーラ化粧品本舗は、約70社に及ぶいわゆるポーラグループの商品販売部門における中核会社であり、被告ポーラ化成工業は、商品製造部門における中核会社である。また、被告忍総業は、ポーラグループ全体の持株会社の役割を果たしている。

(2)  A(以下「A」という。)は、Aの父であるDから被告忍総業の持分、被告ポーラ化粧品本舗の株式及び被告ポーラ化成工業の株式を相続し、その後も多数の関連会社を設立して、化粧品の製造販売、下着・宝飾品・アパレル等の販売を主たる事業とするポーラ・グループを発展させてきたオーナー経営者であった。原告は、昭和39年3月25日にAと婚姻したAの妻である。

(3)  Aは、少なくとも平成12年10月12日までは、別紙株式等目録記載の株式及び持分(以下「本件株式等」という。)を所有していた。

(4)  Aは、平成12年11月15日に死亡した。

(5)  Aの法定相続人及び法定相続分は、次のとおりである。

相続人の名     続柄  相続分

X(原告)    妻   4分の3

E        義兄  12分の1

F        姉   12分の1

G        妹   12分の1

(6)  原告は、被告らに対し、平成13年2月4日付内容証明郵便によって、本件株式等について株主もしくは社員の権利行使をする者を自己に選定した旨を通知した。

2  原告の主張

(1)  Aの死亡により、同人が所有していた本件株式等は、上記相続人らが相続分に応じて相続し、現在、相続分の割合により共有している。原告は、本件株式等の4分の3の持分を有しているが、上記のとおり原告は、株主もしくは社員の権利行使をする者を自己に選定した旨被告らに通知したから、本件株式等の権利行使者は原告である。被告らが主張するような、Aが死亡前に本件株式等を死因贈与したことはない。

(2)  原告とAとの間には子がなく、上記共同相続人であるFとEの子であるB(以下「B」という。)が被告ポーラ化粧品本舗の代表取締役を務め、ポーラグループを掌握している。原告が本件株式等の4分の3を法定相続分として相続しているにもかかわらず、ポーラグループは原告に対立する関係になっている。

(3)  会計帳簿閲覧謄写の目的、必要性

ア 相続税支払資金の不正貸付

本件株式等がAの遺産であるとした場合、原告以外のAの共同相続人(以下「血族側」という。)の相続税額は56億円以上もの莫大な額にのぼる。血族側がこのような多額の相続税を納税することは不可能であり、融資を受けるとしても借入先はポーラグループ各社しか考えられない。

被告ポーラ化成工業は、平成13年9月14日、株式会社ポーラ不動産(以下「ポーラ不動産」という。)に123億5000万円を貸し付け、ポーラ不動産は、平成13年9月17日、Bに対し122億円、Fに対し9946万円、Gに対し4973万円をそれぞれ貸し付けた。これらの貸付は、Bらの相続税納付資金を融資するためであり、会社の目的の範囲外の行為であるから、他に理由を付すまでもなく違法である。そのうえ、被告ポーラ化成工業が123億5000万円を貸し付けたポーラ不動産は、貸付時において245億円の債務超過になっていたのであり、このようなポーラ不動産に融資をなすことはたとえ担保を設定したとしても違法である。ポーラ不動産からの担保としてB所有の株式、出資口に質権を設定したとしてもその担保価値は貸付総額に遠く及ばない。そのためBは、Aの遺産であり共同相続人の共有財産である被告忍総業の持分をも担保提供しているが、これは持分が共同相続人の所有に属する以上無効である。

結局、被告ポーラ化成工業は、血族側の相続税納税という個人的な使途のために莫大な資金をポーラ不動産に貸し付け、従前被告ポーラ化成工業がポーラ不動産に貸し付けていた106億円の回収を不可能にし、さらに被告ポーラ化粧品本舗や被告忍総業のポーラ不動産に対する貸付金99億5000万円などポーラグループ関連会社のポーラ不動産に対する貸付金の回収を不可能にして、ポーラグループ関連会社に損害を生じさせている。このような不正融資をただすために別紙会計帳簿等目録記載の会計帳簿等(以下「本件帳簿等」という。)を閲覧謄写することは株主の当然の権利である。

イ 株価時価算定の必要性

原告は、Aの相続に関し相続税として200億円の納税義務を負うこととなったところ、原告は200億円もの個人資産を有していない。原告が税務当局からの滞納処分を回避するためには、遺産分割協議を早急に成立させて、配偶者に対する相続税の軽減措置を受けるしか方法がない。そのためには、遺産たる本件株式等の価値を評価しなければならず、原告は、閉鎖会社である被告らの株式の評価のため、会計帳簿を閲覧謄写する必要がある。原告は、ポーラグループの実質的オーナーであったAの遺産の4分の3を相続する者であり、次期ポーラグループの実質的オーナーとなる者であるところ、このような原告に会計帳簿の閲覧謄写が認められないことは明らかに不合理である。

ウ 帳簿改ざんの可能性及び責任追及

平成13年10月31日、原告が被告ポーラベニベニに関する東京高裁第16民事部の仮処分命令に基づき同社の会計帳簿の閲覧を行ったところ、平成8年6月から9月までの総勘定元帳のうち「現金」「普通預金」「定期預金」の各勘定部分、平成8年10月の総勘定元帳のすべての勘定部分、平成8年9月から12月分の現金出納帳、平成8年10月から12月分の銀行別預金勘定帳は、当時コンピューターからアウトプットしたものは紛失したとの説明を受け、その代替物として平成13年10月25日にアウトプットしたとされる総勘定元帳等の開示を受けた。しかしながら、総勘定元帳という重要な帳簿を紛失することは考えられず、一定時期の帳簿をまとまって紛失することも考えられないのであって、コンピューターに入力されていた帳簿を改ざんした結果であることは明白である。

平成8年5月22日には財団法人ポーラ美術振興財団が設立され、ポーラグループの組織構造が変化した時期であること、同財団設立に際しては多額の資金調達の必要性があったと考えられることからすると、この時期に帳簿上の操作がなされた可能性が極めて高く、同時期にはポーラグループ各社においても被告ポーラベニベニと同様帳簿改ざんが行われている可能性は極めて高い。

原告としては、このような改ざん行為を特定したうえ、損害の拡大防止、証拠隠滅を防ぐとともに、改ざんに関与した取締役に対して責任追及をなす必要があり、本件帳簿等の閲覧謄写を受ける必要性が極めて高い。

エ Aの借入金等を明らかにする必要性

原告は、早急にAの遺産分割協議を了する必要性があり、Aの遺産の全容を把握する必要があるが、そのためには積極財産のみならず消極財産の把握も当然必要である。被告忍総業は、Aに対する貸付金94億4000万円のうち原告の相続分約68億円の一部10億円を返還するよう原告に対して請求しているが、その貸付金の存在には非常に疑念があり、また、その他ポーラグループ関連会社からの借入等の有無も判明していない。したがって、Aとポーラグループ各社の貸付金、仮払、仮受、その他の貸借関係を明らかにし、遺産分割を了するためには、本件帳簿等の閲覧謄写が必要である。

オ Aの個人財産が関係会社の財産として帳簿上あげられている可能性

Bは、Aの死亡から7か月以上も経過した平成13年6月27日に至って初めて、Aの所有財産である36億4470万円もの割引債券を所持していたことを明らかにした。このようなBの不審な態度からして、これ以外にも被告らが占有しているAの財産が存在する可能性は極めて高い。

本来Aの個人財産であるものが被告らその他関連会社の財産として帳簿上も処理されている可能性があり、原告はこれを明らかにするために本件帳簿等の閲覧謄写をする必要がある。

カ 株式評価の不自然な低下

平成6年6月に被告ポーラ化粧品本舗の専務取締役Hが作成した「事業承継計画(相続税対策)の枠組み」と題する書面によれば、A所有財産について、当時Hがポーラグループの株式・持分だけでも相続税上の評価で1000億円を超えると認識していたことが示されている。しかしながら、A死亡後に血族側が作成を依頼した「株価算定書」によれば、平成6年6月当時のAが所有被告忍総業持分の評価額は平成6年時点でHが認識していた評価額の約71パーセントにとどまり、平成6年6月当時にAが所有していた株式数を前提とするその他のポーラグループの株式の評価額は合計75億円となる。

原告は、ポーラグループ株式・持分評価の不自然な低下の原因を調査するため、本件帳簿等の閲覧謄写をする必要がある。

(4)  総会議事録、計算書類の閲覧謄写等

原告は、本件株式等の4分の3を共有し、その権利行使者として定められた者であるから、被告らの営業時間内の何時にても別紙議事録等目録記載の株主総会議事録(以下「本件議事録」という。)の閲覧謄写を求めることができ、別紙議事録等目録記載の計算書類等(以下「本件計算書類等」という。)の閲覧及び謄本交付を求めることができる。

3  被告らの主張

(1)  原告が株主ではないこと

Aは、平成12年10月12日、財団法人伝統文化振興財団、財団法人ポーラ美術振興財団及びBに対し、本件株式等を死因贈与した(以下「本件死因贈与」という。)。したがって、本件株式等はAの遺産ではない。

Aは、ポーラグループの株式等は散逸させずにAの血族が承継すること、財団法人を設立して公益事業及び助成活動を行い、そのための基本財産としてA所有の株式等の寄付を検討することという事業承継の基本方針を定め、その方針に従ってBに対しポーラグループ株式等を譲渡するなど事業承継を進めていた。ところが、自宅の火災により気道熱傷等の重傷を負って入院する事態になり、それを契機として事業承継が道半ばで挫折するのではないかとの焦燥感にかられ、見舞いに来たBに対し、筆談により、確定的かつ最終の意思表示として本件死因贈与の意思を表示したのである。

したがって、原告及び他の相続人は本件株式等を相続しておらず、原告は被告らの株主、社員の地位を有しないから、本件帳簿等、本件議事録、本件計算書類等の閲覧、謄写、謄本交付を求める権利をそもそも有しない。

(2)  権利の濫用

仮に原告が被告らの株主、社員としての地位を有するとしても、原告の本件帳簿等閲覧請求は権利の濫用であり、被告らはこれを拒否できる。

すなわち、原告の本件帳簿等閲覧請求は、株式の時価算定という純個人的利益のためになされたもので、共益権に基づく閲覧等請求権の目的に合致しないし、被告ら及び血族側に不正行為のおそれがないにもかかわらず、これがあるとしてなされたものである。また、原告と被告らの交渉により、被告らは、本件株式等の時価算定という原告の目的を達成するに十分な株価算定書、参考資料、会社関係書類等を任意に交付してあり、原告が本件帳簿等を閲覧謄写する必要性は全く存しない。

4  争点

(1)  本件死因贈与の有無

(2)  本件帳簿等閲覧謄写請求は権利濫用か。

第3  争点に対する判断

1  争点(1)(本件死因贈与の有無)について

証拠(乙3、8)によれば、平成12年10月4日、Aは自宅マンションで火災にあい、気道熱傷等の重傷を負って慶応病院に入院したこと、平成12年10月12日にBが見舞い等のため入院中のAの病室を訪ねた際、Aは、気管切開をしていて声を出すことはできなかったため、病室に備え付けられていたノートと鉛筆でBと筆談し、火災についてのマンション住民への対応等を打ち合わせたこと、その後Aは、ノートに「俺の持株を出来る丈財団と美術振興―――へ移す事 残は全部B(不明)移す事 そこで問題はX 遺留権だ 遺留内はだ俺の場合Xしかいない 遺留をかいても半分しか相続自由にならない」と読める記載(以下「本件筆談メモ」という。)をしてBに示したことが認められる。

被告らは、本件筆談メモ(乙3)によってAが本件死因贈与の意思を確定的かつ最終に表示した旨を主張するが、本件筆談メモの体裁、記載内容等に照らし、これをもってAが本件株式等を死因贈与する旨を確定的に意思表示したものと認めることはできず、他に本件死因贈与の存在を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件株式等はAの遺産に属するものであると認められる。

Aが死亡したこと、原告が法定相続分4分の3を有するAの相続人であること、原告が本件株式等の権利行使者として自己を指定しその旨を被告らに通知したことはいずれも当事者間に争いはなく、Aの遺産分割が未了であることは弁論の全趣旨により認められるから、原告は、本件株式等について、被告らに対し株主としての権利を行使しうる地位にある。

2  争点(2)(権利濫用)について

(1)  株式会社の所有者たる株主に対する、会社財務内容に関する情報開示の必要性と、所有と経営を分離させて機動的な経営を可能とした株式会社の理念の調和に鑑みれば、株主が会計帳簿の閲覧を求める場合には、株主は、会社に対し、閲覧の対象となる帳簿を特定できる程度に当該帳簿の閲覧を求める理由を具体的に示すことが必要であり、かつ、その理由を基礎づける事実が存在していることが必要であると解される。また、会計帳簿等は一般的に企業秘密にわたる事項が記載されている可能性が高いことなど、会計帳簿等の開示により会社が多大な不利益を被りかねないことを考慮して、法が株主からの閲覧請求を拒みうる場合を規定し、株主の権利と会社の利益の調和を図っている趣旨に鑑みると、株主が正当な権利行使のために必要な程度を超えて会計帳簿等の閲覧請求をすることは権利の濫用にあたり「株主の権利の確保もしくは行使に関し調査をなすため」とはいえないと解すべきである。

このような観点から、原告が主張する本件帳簿等の閲覧謄写の必要性について検討する。

(2)  不正貸付

原告は、相続税納税資金捻出のため、被告ポーラ化成工業からポーラ不動産を通じて血族側に不正な貸付がなされていると主張する。証拠(乙102ないし108)によれば、平成13年9月14日、被告ポーラ化成工業がポーラ不動産に対して123億5000万円を貸し付け、同日、ポーラ不動産がBに対して122億円、Fに対して9946万円、Gに対して4973万円を貸し付けた事実を認めることができる。

ところで、原告が総株主の議決権の100分の3以上を有する株主として会計帳簿等の閲覧謄写を求めうる地位を有するのは、被告ポーラ化成工業を除く被告各社に対してであり、被告ポーラ化成工業についてはその資格を有しないところ、上記の貸付が違法なものか否かは措くとしても、いずれも被告ポーラ化成工業以外の被告らには関わりのないものである。

そして、血族側の相続税納税資金の手当ては上記の貸付によりなされたと推認できる以上、多額の相続税支払い資金が必要な状況であるとの事実のみによって被告ポーラ化成工業以外の被告らから血族側に対して不正な貸付がなされた可能性があるとは認められないし、他に不正な貸付がなされた可能性を窺わせる証拠はない。

とすれば、原告らが被告ポーラ化成工業を除く被告らに対して、不正貸付の調査のために本件帳簿等の閲覧謄写を求めることは、不正貸付のおそれが認められない以上その前提事実を欠くものであり、理由がない。

(3)  株価の時価算定及び評価変動理由の調査

原告は、Aの遺産分割協議を成立させるために、分割の対象となる本件株式等の評価をすることが必要であり、そのために本件帳簿等の閲覧謄写が必要であると主張する。

しかし、少数株主の地位に基づく会計帳簿等の閲覧謄写請求が、株主の共益権行使のためのみならず、自益権行使のためにも認められる場合があると解するとしても、それはあくまでも会社に対する株主の自益権の確保または行使に関し調査するため、会計帳簿等の閲覧謄写が認められると解するべきであって、本件のように、株主たる地位を離れた純枠に個人的な遺産分割協議に役立てる目的による閲覧謄写請求は株主としての権利行使のためとはいえない。

さらに、上記のような閲覧謄写請求の目的に加えて、証拠(甲5の1ないし4、乙11ないし13、14の1ないし11、24ないし26、41の1ないし3、65の1ないし3、66、67、76、77、93の1ないし3、94)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、遺産分割協議の前提として、基礎資料を添付した被告各社の株式・持分の株価算定書、ポーラグループ各社の所有する不動産の調査報告書、被告各社の計算書類等、本件株式等の評価資料をすでに相当程度入手していることが認められ、それに加えて本件帳簿等の閲覧謄写をする必要性が大きいとは思われないことや、原告が閲覧謄写請求する本件帳薄等の範囲、量に鑑みると、本件株式等の評価算定の必要性を理由とする原告の閲覧謄写請求は、株主としての正当な権利行使にはあたらないと認めるのが相当である。

また、原告が主張する「株式評価の不自然な低下」とは、結局のところ平成6年当時のHの認識が後の株価算定結果とは異なっているとの主張に帰着するものであるところ、その不自然であるとする理由は抽象的であるうえ、本件帳簿等を閲覧してもHの認識が明らかになるわけではないので、本件帳簿等の閲覧謄写を求める理由とはなりえない。

(4)  帳薄の改ざん

原告は、東京高裁第16民事部の仮処分命令に基づき原告が被告ポーラベニベニの会計帳簿の閲覧を行ったところ、平成8年6月から12月にかけてコンピューターからアウトプットされた帳簿類の一部が紛失したとの説明を受け、その代替物として平成13年10月25日にアウトプットした総勘定元帳等の開示を受けたので、被告ポーラベニベニの帳簿は改ざんされた可能性が高いと主張する。しかしながら、コンピューターで管理している会計システムのデータについて、出力印刷した紙の一部が紛失しているからといってそれだけでデータが改ざんされていると推認することは到底できない。そして、被告ポーラベニベニの採用している会計ソフトにおいては、帳薄の改ざんを防ぐシステムがとられていることが認められる(乙98の1)ところ、原告提出の意見書(甲33、38)はこの認定を覆すに足りないし、また、被告ポーラベニベニの帳薄について不自然な修正がなされていることを窺わせる証拠はない。

したがって、被告ポーラベニベニにおいて帳簿が不正に改ざんされたおそれがあることは認めることができず、その他の被告らについても帳簿の改ざんのおそれを認めるに足りる証拠はないので、帳簿の改ざん及びその責任追及のための調査を理由として本件帳簿等の閲覧謄写をする必要性は認められない。

(5)  Aの借入金及び個人財産の調査

原告は、Aと被告らとの間の金銭等の貸借関係を明らかにしてAの消極財産を把握し、Aの個人財産が被告らの資産とされているものの中に混入していないかを調査して、もってAの遺産の全容を早期に把握する必要があるから、本件帳簿等の閲覧謄写をする必要性があると主張する。しかし、Aの相続人としてAの遺産内容を把握することは、被告らの株主としての権利とは無関係のことであるから、これは本件帳簿等の閲覧謄写を求める理由とはなりえない。

3  以上によれば、原告の本件帳簿等の閲覧謄写請求は、いずれも理由がない。

4  上記認定のとおり、原告は本件株式等のついて株主権を行使しうる地位にあり、被告らに対し、株主として、それぞれ本件議事録の閲覧謄写及び本件計算書類等の閲覧、謄本交付を求めることができるから、これらを求める原告の請求には理由がある。

5  結論

よって、原告の請求は、本件議事録及び本件計算書類等の閲覧及び謄写あるいは謄本交付を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

議事録等目録

第7事件

被告     株式会社ポーラ化粧品本舗

議事録    平成8年1月1日以降に開催された株主総会議事録(ただし平成12年3月27日開催分を除く)

計算書類等  平成8年度以降の各決算期における貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、付属明細書、監査報告書(ただし、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、監査報告書については、第55期(平成11年1月1日から同年12月31日までの間の会計年度)を除く)

閲覧等の場所 束京都品川区西五反田2丁目2番3号 被告事務所

第8事件

被告     株式会社ポーラベニベニ

議事録    平成8年1月1日以降に開催された株主総会議事録(ただし平成12年2月25日開催分を除く)

計算書類等  平成8年度以降の各決算期における貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、付属明細書、監査報告書(ただし、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、監査報告書については、第24期(平成11年1月1日から同年12月31日までの間の会計年度)を除く)

閲覧等の場所 東京都品川区西五反田8丁目9番5号 被告本店

第9事件

被告     ポーラデイリーコスメ株式会社

議事録    平成8年1月1日以降に開催された株主総会議事録(ただし平成12年2月25日開催分を除く)

計算書類等  平成8年度以降の各決算期における貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、付属明細書、監査報告書(ただし、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、監査報告書については、第7期(平成11年1月1日から同年12月31日までの間の会計年度)を除く)

閲覧等の場所 東京都品川区西五反田2丁目2番3号 被告本店

第10事件

被告     オルビス株式会社

議事録    平成8年1月1日以降に開催された株主総会議事録(ただし平成12年2月25日開催分を除く)

計算書類等  平成8年度以降の各決算期における貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、付属明細書、監査報告書(ただし、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、監査報告書については、第40期(平成11年1月1日から同年12月31日までの間の会計年度)を除く)

閲覧等の場所 東京都品川区平塚2丁目1番14号 被告本店

第11事件

被告     株式会社ポーラ印刷

議事録    平成8年1月1日以降に開催された株主総会議事録(ただし平成12年2月25日開催分を除く)

計算書類等  平成8年度以降の各決算期における貸借対照表、損益計算盲、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、付属明細書、監査報告書(ただし、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、監査報告書については、第40期(平成11年1月1日から同年12月31日までの間の会計年度)を除く)

閲覧等の場所 東京都品川区西五反田8丁日9番5号 被告事務所

第12事件

被告     ポーラ化成工業株式会社

議事録    平成8年1月1日以降に開催された株主総会議事録(ただし平成12年4月28日開催分を除く)

計算書類等  平成8年度以降の各決算期における貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、付属明細書、監査報告書(ただし、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、監査報告書については、第61期(平成11年1月1日から同年12月31日までの間の会計年度)を除く)

閲覧等の場所 東京都品川区西五反田2丁日2番3号 被告事務所

第13事件

被告     有限会社忍総業

議事録    平成8年1月1日以降に開催された社員総会議事録(ただし平成12年4月28日開催分を除く)

計算書類等  平成8年度以降の各決算期における貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、付属明細書、監査報告書(ただし、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分または損失の処理に関する議案、監査報告書については、第47期(平成11年1月1日から同年12月31日までの間の会計年度)を除く)

閲覧等の場所 東京都品川区西五反田2丁目2番3号 被告本店

(別紙)

会計帳簿等目録

第1事件被告  株式会社ポーラ化粧品本舗

第2事件被告  株式会社ポーラベニベニ

第3事件被告  株式会社ポーラ印刷

第4事件被告  ポーラデイリーコスメ株式会社

第5事件被告  有限会社忍総業

第6事件被告  オルビス株式会社

会計帳簿等

いずれも平成3年1月1日以降作成にかかる

1 仕訳帳

2 会計伝票

3 総勘定元帳

4 補助元帳

5 預金出納帳

6 現金出納帳

7 売掛金台帳

8 買掛金台帳

9 手形台帳

10 固定資産台帳

11 有価証券台帳

12 絵画台帳

(別紙)

株式等目録

会社名       株式数    発行済総数に占める割合

1 株式会社ポーラ化粧品本舗 77万4800株(4.6%)

2 ポーラ化成工業株式会社 65万1560株(2%)

3 オルビス株式会社 42株(21%)

4 ポーラデイリーコスメ株式会社 90.4株(45%)

5 株式会社ポーラ印刷 45株(22.5%)

6 株式会社ポーラベニベニ 15万8100株(39.5%)

会社名   出資口数

7 有限会社忍総業 15万3720口(38.4%)

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