東京地方裁判所 平成13年(刑わ)2820号 判決 2002年3月28日
被告人 A
生年月日
昭和18年9月26日
本籍
熊本県
住居
東京都渋谷区
職業
会社役員
被告人 B
生年月日
昭和42年6月18日
本籍
熊本県
住居
東京都渋谷区
職業
会社役員
被告人 C
生年月日
昭和10年7月31日
本 籍
神奈川県
住 居
神奈川県
職 業
経営コンサルタント
弁護人
被告人A及びBにつき
山田有宏(主任)
戸谷勝壽(副主任)
中島真紀子
被告人Cにつき
久保田敏夫
検察官
古崎孝司
主文
被告人Aを懲役9年に処し,被告人B及び被告人Cをそれぞれ懲役3年に処する。
未決勾留日数中120日をそれぞれその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人3名は,金融機関から中小企業金融安定化特別保証制度等による信用保証協会の信用保証を利用した事業資金融資名下に金員を詐取しようと企て,
第1D有限会社代表取締役Eと共謀の上,平成11年8月11日ころ及び12日ころの2回にわたり,東京都港区ab丁目c番d号所在の株式会社F銀行赤坂支店(以下「F銀行赤坂支店」という。)おいて,同支店融資担当者Gらに対し,真実は,D有限会社の営業が著しく不振で平成10年12月期決算において営業損失を計上したのに,同社の経営が順調であり,仕入れ等のために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成10年12月期の売上高が3874万9706円にすぎず,営業損失575万7836円を計上したのに,同期の売上高が2億0980万3577円で営業利益が5965万6376円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「Dは,店舗の改装工事を行っており,現在,受注も多く,業績も伸ばしています。ただ,今回,事業を更に拡大するために,渋谷から赤坂へ事務所を移転させました。その際,移転費用を自己資金で賄ったのですが,その分運転資金が必要になりました。」,「確実に返済できますから,融資の方をどうかよろしくお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,D有限会社への合計9000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Gをしてその旨誤信させ,Gらから同支店支店長Hにその旨を報告させ,Hを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成11年8月13日,Hの指示を受けた同支店従業員をして同支店に設けられた被告人Aが管理するD有限会社名義の普通預金口座に,融資金名下に合計8980万8425円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第2共謀の上,
1 平成11年10月21日ころ及び26日ころの2回にわたり,F銀行赤坂支店おいて,Gらに対し,真実は,I有限会社が全く営業をしていない休眠会社であったのに,同社が海外に現地工場を設けて中華料理店向けのテーブル等を製造しこれを本邦において販売する業務を営んでいて経営が順調であり,仕入れ等のために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成11年8月期の売上高及び営業利益が無かったのに,同期の売上高が3億0853万5740円で営業利益が477万0771円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「Iという会社で信用保証協会に安定化等が付いた融資2口合計1億円をお願いしました。Iでは,主に中国料理店で使うテーブルや室内装飾を製造,販売しており,海外に工場もあって手広くやっています。どうか信用保証協会から保証が付いた折には,ご融資お願いします。返済は,全く心配ありませんので,どうかお願いします。」,「信用保証協会のあっ旋状をお持ちしました。ついては,Iは,返済に何の懸念もない会社ですので,速やかにご審査いただいて,すぐにご融資いただくようお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,I有限会社への合計1億円の事業資金融資の実行を申し込み,Gをしてその旨誤信させ,GらからHにその旨を報告させ,Hを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成11年10月28日,Hの指示を受けた同支店従業員をして同支店に設けられた被告人Aが管理するI有限会社名義の普通預金口座に,融資金名下に合計9966万6577円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
2 平成13年2月26日ころ,東京都新宿区ef丁目g番h号所在のJ信用組合本店において,同店融資担当者K(以下「K」という。)に対し,第2の1同様に偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,I有限会社の平成12年8月期の売上高及び営業利益が無かったのに,同期の売上高が2億4763万3723円で営業利益が172万6369円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「Iで1000万,融資を申し込みたいと思います。売上から確実に返済できますから,融資のほどよろしくお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,I有限会社への合計1000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Kをしてその旨誤信させ,Kらから同信用組合理事長Lにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成13年3月5日,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理するI有限会社名義の普通預金口座に,融資金名下に合計996万2521円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第3株式会社M代表取締役Nと共謀の上,平成12年1月19日ころ,東京都港区ij丁目k番l号所在のO信用組合飯倉支店において,同支店融資担当者Pに対し,真実は,株式会社Mが全く営業をしていない休眠会社であったのに,医療用具販売業等の業務を営んでいて経営が順調であり,仕入れ等のために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成11年2月期の売上高及び営業利益が無かったのに,同期の売上高が2億7647万3074円で営業利益が565万2706円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「このたび当社では,特殊な内視鏡を仕入れて販売することになりましたが,その仕入れ資金に充てる資金を融資願いたいと思います。融資は売上から確実に返済致しますのでご融資いただけますようよろしくお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,株式会社Mへの合計1億円の事業資金融資の実行を申し込み,Pをしてその旨誤信させ,Pらから同信用組合常務理事Qにその旨を報告させ,Qを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年1月28日,Qの指示を受けた同支店従業員をして同支店に設けられた被告人Aが管理する株式会社M名義の普通預金口座に,融資金名下に合計9719万3404円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第4共謀の上,
1 平成12年4月28日ころ,東京都中央区mn丁目o番p号所在のR信用金庫日本橋支店において,同支店融資担当者Sに対し,真実は,有限会社T商事が全く営業をしていない休眠会社であったのに,東京都新宿区において中華料理店を営業し,平成11年7月からはUの名称で八重洲店の営業も開始して経営が順調であり,仕入れのための資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成11年12月期の売上高及び営業利益が無く,かつ,Uの平成11年7月から同年12月までの6か月間の合計売上高も1200万円程度にすぎず営業利益もほとんど無かったのに,同社の同期の売上高が2億1315万0420円で営業利益が415万1076円に上る旨記載した内容虚偽の法人税修正申告書控えの写し等を提出し,「当社では中華料理店を営んでいますが,平成11年7月から日本橋に「U」の店名で八重洲店をオープンし,自己資金をずいぶん使いました。そのため,八重洲店での仕入資金が不足していまして,今回,安定化で5000万円の融資を申し込むことに致しました。当社は,年商が2億円を超えていますし,業績堅調です。」,「今後の売上もどんどん伸びる予定であり,融資していただいたお金は売上代金から絶対に返済できますから,どうか5000万円の融資のほど,よろしくお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,有限会社T商事への5000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Sをしてその旨誤信させ,Sらから同信用金庫本部審査部長Vにその旨を報告させ,Vを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年5月12日,Vの指示を受けた同支店従業員をして同支店に設けられた被告人Aが管理する有限会社T商事名義の普通預金口座に,融資金名下に4923万1850円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
2 平成12年6月16日ころ,J信用組合本店において,同店融資担当者Wに対し,前記第4の1同様に偽り,さらに,有限会社T商事が新店舗を開業するのに自己資金を使ったため運転資金が必要になったように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,前記第4の1同様の内容虚偽の法人税修正申告書控えの写し等を提出し,「当社では,中華料理店を営んでいますが,今度,赤坂に支店を出すことになり,内装工事等を行ったのですが,そこへ自己資金を使ったため,仕入資金が不足してしまいました。このたび,X保証協会から長期1で4700万円を保証してもらえることになりました。当社は,年商が2億円を超えていますし,融資は確実に売上から返済できます。」などと虚構の事実を申し向けて,有限会社T商事への4700万円の事業資金融資の実行を申し込み,Wをしてその旨誤信させ,WらからLにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年6月20日,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理する有限会社T商事名義の普通預金口座に,融資金名下に4682万2317円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第5株式会社Y代表取締役Zと共謀の上,
1 平成12年5月18日ころ,F銀行赤坂支店において,Gらに対し,真実は,株式会社Yの営業が著しく不振であったのに,健康器具等の製造販売を業務としていて経営が順調であり,仕入れ等のために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成12年3月期の売上高及び営業利益が無かったのに,同期の売上高が2億3681万4300円で,営業利益が1316万3195円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「保証が付いて,あっ旋がF銀行赤坂支店へ来ればよろしくご融資願いたい。返済は確実にできますので,5000万円の融資,よろしくお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,株式会社Yへの5000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Gをしてその旨誤信させ,GらからHにその旨を報告させ,Hを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年5月31日,Hの指示を受けた同支店従業員をして同支店に設けられた被告人Aが管理する株式会社Y名義の普通預金口座に,融資金名下に4983万6679円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
2 平成12年6月2日ころ,F銀行赤坂支店において,Gに対し,前記第5の1同様に偽り,さらに,株式会社Yが多額の受注をしてそのための仕入れの資金が必要であるように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,「YではA1玉川温泉から,サンド・サウナの注文を受けました。その材料の仕入れ資金が必要ですので,ご融資をお願いします。保証協会の方へ小企で5000万円の融資を申込みました。保証が付きましたらよろしくご融資のほどをお願いします。サンド・サウナの売上も入りますから,必ず,融資は,返済できます。」などと虚構の事実を申し向けて,株式会社Yへの5000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Gをしてその旨誤信させ,GらからHにその旨を報告させ,Hを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年6月16日,Hの指示を受けた同支店従業員をして同支店に設けられた被告人Aが管理する株式会社Y名義の普通預金口座に,融資金名下に4980万3562円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
3 平成13年2月26日ころ,J信用組合本店において,Kに対し,前記第5の1同様に偽るとともに,融資金を約定どおり確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,前記第5の1同様の内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「Yで600万円の融資を申し込ませてもらいます。健康器具の販売をしていますが,売上も好調であり,仕入資金が必要になり,売上から確実に返済できますので,融資のほどよろしくお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,株式会社Yへの600万円の事業資金融資の実行を申し込み,Kをしてその旨誤信させ,KらからLにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成13年3月5日,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理する株式会社Y名義の普通預金口座に,融資金名下に596万5222円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第6株式会社B1代表取締役C1と共謀の上,
1 平成12年8月10日ころ,J信用組合本店において,Wに対し,真実は,株式会社B1が全く営業をしていない休眠会社であったのに,同社が店舗用装飾品等を製造販売する業務を営んでいて経営が順調であり,仕入れのために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成12年5月期の売上高及び営業利益が無かったのに,同期の売上高が2億2914万9033円で営業利益が208万6296円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「当社は,高級中華料理店で使う室内装飾品等の輸入,販売をしています。最近,業績を伸ばしており,年間売上も2億円を超えています。今回,海外から装飾品,絵画等を仕入れる資金として,信用保証の融資を安定化で5000万円,長期1で3000万円お願いしたいと思います。売上も伸びていることから,返済は,心配ありません。」などと虚構の事実を申し向けて,株式会社B1への合計8000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Wをしてその旨誤信させ,WらからLにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年8月15日,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理する株式会社B1名義の普通預金口座に,融資金名下に合計7969万5179円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
2 平成12年10月23日ころ,J信用組合本店において,Wに対し,前記第6の1同様に偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,「B1では,年末商戦に向けて,秋のうちに仕入れをしておこうと思っています。ついては,活力で,1000万円の融資をお願いします。返済は,確実にしますから。」などと虚構の事実を申し向けて,株式会社B1への1000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Wをしてその旨誤信させ,WらからLにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年10月31日,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理する株式会社B1名義の普通預金口座に,融資金名下に997万7261円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
3 平成12年11月10日ころ,J信用組合本店において,Kに対し,前記第6の1同様に偽り,さらに,株式会社B1が多額の受注をしてそのための仕入れの資金が必要であるように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,「qのD1というところから急な発注を受けまして,その仕入資金がどうしても間に合いません。活力で1000万円ご融資お願いします。D1からの代金も入りますし,必ず返します。」などと虚構の事実を申し向けて,株式会社B1への1000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Kをしてその旨誤信させ,KらからLにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年11月15日,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理する株式会社B1名義の普通預金口座に,融資金名下に997万7261円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第7E1株式会社代表取締役F1と共謀の上,
1 平成12年8月30日ころ,東京都港区rs丁目t番u号所在のO信用組合本店において,同店融資担当者G1に対し,真実は,E1株式会社が全く営業をしていない休眠会社であったのに,同社が内装家具を販売する業務を営んでいて経営が順調であり,仕入れのために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成12年2月期の売上高及び営業利益が無かったのに,同期の売上高が2億2092万4834円で営業利益が304万2624円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「当社は,室内装飾品の販売をしています。これから秋口にかけては,店舗等の模様替えをするところも多いので,当社にとっては,かき入れ時です。そこで,仕入れを増やしたいので,信用保証付きの融資を安定化で5000万円お願いしたいと思います。当社は,昨期も売上が2億円を超えており,売上から返済は確実にできます。」などと虚構の事実を申し向けて,E1株式会社への5000万円の事業資金融資の実行を申し込み,G1をしてその旨誤信させ,G1らから同店営業部長H1にその旨を報告させ,H1を同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年9月14日,H1の指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理するE1株式会社名義の普通預金口座に,融資金名下に4903万0471円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
2 平成12年9月18日ころ,O信用組合本店において,G1に対し,前記第7の1同様に偽り,さらに,E1株式会社が多額の受注をしてそのための仕入れの資金が必要であるように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,「今度,当社では,秋田県のA1という温泉施設を経営する会社から室内装飾品の注文を大口で受けました。その商品の仕入資金として3000万円を保証協会の長期1を利用して融資していただきたいとお願いに上がりました。A1から代金も支払わせますので,融資は,確実にお返しできます。」などと虚構の事実を申し向けて,E1株式会社への3000万円の事業資金融資の実行を申し込み,G1をしてその旨誤信させ,G1らから同信用組合本部融資部長I1にその旨を報告させ,I1を同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年9月26日,I1の指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理するE1株式会社名義の普通預金口座に,融資金名下に2918万8114円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第8J1興産株式会社代表取締役K1と共謀の上,
1 平成12年11月22日ころ,J信用組合本店において,Wらに対し,真実は,J1興産株式会社の営業が著しく不振であって年間売上高も1000万円から5000万円程度にとどまっていたのに,同社の経営が順調であり,具体的な販売計画に基づく仕入れのために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成12年5月期の売上高が4998万6280円にすぎず,営業利益も453万1398円を計上したのみであったのに,同期の売上高が2億6525万3574円で営業利益が2326万9813円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「J1興産は,不動産仲介,販売業者です。業績も堅調で,年商は,直近の決算期で2億円を超えていますし,最近6か月の月商の平均も2000万円を超えています。このたび,渋谷の物件の仕入れ費用に充てるため5000万円が必要になりました。安定化を利用させていただき,5000万円の融資をお願いします。また,これから暮れにかけて,諸支払が増加しますので,年末資金として2000万円を別途信用保証付きでご融資お願いします。ご融資いただければ,さらに業績は向上して,月商も2500万円に伸びる見通しですし,その売上から確実に返済できますので,融資をお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,J1興産株式会社への合計7000万円の融資の実行を申し込み,Wをしてその旨誤信させ,WらからLにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年11月30日,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理するJ1興産株式会社名義の普通預金口座に,融資金名下に,合計6978万2138円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
2 平成12年11月27日ころ,東京都中央区vw丁目x番y号所在のO信用組合銀座支店において,同支店融資担当者L1に対し,前記第8の1同様に偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,前記第8の1同様の内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「J1興産は,不動産仲介,販売業者で,主として販売で売上を上げており,業績もよく,年商は,直近の決算期で2億円を超えていますし,最近6か月の月収の平均も2000万円を越えています。今回,北区の不動産の仕入資金として,どうしても3000万円が必要になりました。信用保証協会の保証付きで3000万円のご融資をお願いします。ご融資いただいた資金は,確実に返済しますので,どうかよろしくお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,J1興産株式会社への3000万円の事業資金融資の実行を申し込み,L1をしてその旨誤信させ,L1らから同支店支店長M1にその旨を報告させ,M1を同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年12月8日,M1の指示を受けた同支店従業員をして同支店に設けられた被告人Aが管理するJ1興産株式会社名義の普通預金口座に,融資金名下に2971万5856円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第9N1株式会社代表取締役O1と共謀の上,
1 平成12年12月20日ころ,J信用組合本店において,Wに対し,真実は,N1株式会社の営業が著しく不振であって,平成12年4月期決算において年間売上高として5335万8000円を計上したものの,その後は全く売上がなく,本店事務所も引き払っているほどであったのに,同社の経営が順調であり,具体的な販売計画に基づく仕入れのために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成12年4月期の売上高が5335万8000円にすぎず,営業利益も802万0541円を計上したのみであったのに,同期の売上高が2億6556万0900円で営業利益が866万8459円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「当社は,不動産業をしておりまして,不動産の買取り,販売にも力を入れています。このところ,業績も順調です。直近の決算期の売上は2億6500円となっていますし,利益だって1000万円近く出ています。現在もいくつか不動産を当社で仕入れないかと引き合いがきているのですが,物件の仕入費用が足りなくなりました。それで安定化などを利用させていただき,2000万円の融資を2口お願いに上がりました。ご融資いただければ,さらに業績が向上することは確実ですので,売上から確実に返済ができます。」などと虚構の事実を申し向けて,N1株式会社への合計4000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Wをしてその旨誤信させ,WらからLにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年12月28日,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理するN1株式会社名義の普通預金口座に,融資金名下に合計3983万1151円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
2 平成12年12月22日ころ,O信用組合飯倉支店において,同支店融資担当者P1に対し,前記第9の1同様に偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,前記第9の1同様の内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「当社は,不動産業を営んでおりますが,このたび仕入れる予定の物件の代金を用意しなくてはならなくなりました。ついては,こちらで安定化の保証が付いた融資で3000万円をぜひともお願いします。当社は直近の決算期の売上も2億円を超えていますし,利益だって1000万円近く出しています。ご融資いただいた上は,業績が更に伸びますから売上から確実に返済します。」などと虚構の事実を申し向けて,N1株式会社への3000万円の事業資金融資の実行を申し込み,P1をしてその旨誤信させ,P1らから同支店支店長Q1にその旨を報告させ,Q1を同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成12年12月28日,Q1の指示を受けた同支店従業員をして同支店に設けられた被告人Aが管理するN1株式会社名義の普通預金口座に,融資金名下に2943万4409円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第10有限会社R1代表取締役S1と共謀の上,
1 平成13年1月22日ころ及び24日ころの2回にわたり,O信用組合銀座支店において,同支店融資担当者T1に対し,真実は,有限会社R1の営業が著しく不振で平成12年10月期決算において営業損失を計上したのに,同社の経営が順調であり,店舗改装のために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成12年10月期の売上高が1351万5770円にすぎず,営業損失505万5317円を計上したのに,同期の売上高が2億0273万6550円で営業利益が408万7432円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「当社で経営する焼き鳥店のU1の店舗が老朽化したため,厨房やテーブルも含めて一新することになりました。その費用に充てるため,信用保証協会の保証の付いた事業資金の融資が必要です。業績の方も年商2億円を超えて順調に業績を伸ばしていますから,売上を返済に回していけば,確実に返せます。」などと虚構の事実を申し向けて,有限会社R1への5000万円の事業資金融資の実行を申し込み,T1をしてその旨誤信させ,T1らからM1にその旨を報告させ,M1を同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成13年2月15日,M1の指示を受けた同支店従業員をして同支店に設けられた被告人Aが管理する有限会社R1名義の普通預金口座に,融資金名下に4856万4936円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
2 平成13年1月22日ころ,J信用組合本店において,Wに対し,前記第10の1同様に偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,前記第10の1同様の内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「店を新装開店すれば業績がもっと上がって,5000万円くらい確実に返せますから,融資の方を,どうかよろしくお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,有限会社R1への5000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Wをしてその旨誤信させ,WらからLにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,平成13年1月31日,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理する有限会社R1名義の普通預金口座に,融資金名下に4981万9083円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
第11W1株式会社代表取締役X1と共謀の上,平成13年3月23日ころ,J信用組合本店において,Kに対し,真実は,W1株式会社の営業が著しく不振で平成12年12月期決算において営業損失を計上したのに,同社の経営が順調であり,具体的な販売計画に基づく仕入れのために資金を必要としているように偽るとともに,融資金を約定どおりに確実に返済する当てもないのにこれあるように装って,同社の平成12年12月期の売上高が886万7422円にすぎず,営業損失596万3879円を計上したのに,同期の売上高が2億0886万7422円で営業利益が53万6121円に上る旨記載した内容虚偽の法人税確定申告書控えの写し等を提出し,「W1は,年間2億円以上の売上を上げている不動産会社です。現在はちょうど相模原の物件を手掛けていまして,仕入資金が必要になりました。相模原の物件の売却により,融資金は確実に返済できます。ですから,安定化で4500万円の融資をお願いします。」などと虚構の事実を申し向けて,W1株式会社への4500万円の事業資金融資の実行を申し込み,さらに,平成13年3月28日ころ,J信用組合本店において,Kに対し,「相模原の物件を仕入れるための資金が4500万円では足りなくなり,2000万円の決済資金が必要になりました。売上が出て,確実に返済できますから,その4500万円のほかに,2000万円も追加で融資してください。」などと虚構の事実を申し向けて,W1株式会社への2000万円の事業資金融資の実行を申し込み,Kをしてそれぞれその旨誤信させ,KらからLにその旨を報告させ,Lを同様に誤信させて融資実行を決定させ,よって,Lの指示を受けた同店従業員をして同店に設けられた被告人Aが管理するW1株式会社名義の普通預金口座に,平成13年3月30日,融資金名下に4482万4110円を振替入金させ,さらに,平成13年4月4日,融資金名下に1992万0548円を振替入金させ,人を欺いて財物の交付を受けた。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人3名が共謀し,あるいは他の共犯者とも共謀した上,休眠中の会社や利益がないか,あまり上がっていない会社を利用し,複数の金融機関から21回にわたって合計10億円余りもの金員を詐取したという事案である。
2 被告人らは,多額の融資を受けるべく,休眠中の会社などを融資の受け皿として利用しようとして,内容虚偽の法人税確定申告書控え等の写しやそれを裏付ける架空の注文書・事業計画書等を作成・提出して,その会社が利益を上げているかのごとく見せかけ,金融機関等による実地調査に備えて事務所を準備したり,つじつまを合わせるため商号,目的,所在地等商業登記簿の変更登記手続まで行うなど周到に準備を整え,本件一連の犯行を実行したものであり,その犯行態様は極めて計画的かつ巧妙である。また,本件一連の犯行が1年7か月余りの間にわたり,同様の手口で多数回繰り返されたものであることにかんがみると,本件犯行は常習的職業的なものというべきである。被害金額は,被告人らが一部返済した金額を除外した実損額だけでも9億円余りに上り,詐欺事犯としてはまれにみる多額のものであって,本件犯行の結果は極めて甚大である。それにもかかわらず,被告人Cがごく一部を弁償したのを除き,そのほとんどは,現在に至るまで被害弁償がなされておらず,その具体的な目途も立たない状況にある。本件犯行は,中小企業金融安定化特別保証制度等に基づくX保証協会の信用保証による事業資金融資が比較的緩やかな審査で実行されることを悪用してなされたものであるところ,このような犯行が横行すれば信用保証協会及び金融機関は信用保証制度を利用した事業資金融資に慎重にならざる得ず,その結果,中小企業の円滑な資金調達を妨げるおそれも十分あるのであって,被告人らの行為は強い社会的非難を免れない。犯行動機についてみても,被告人らは,被告人Aが実現困難な事業等に具体的な見通しもないまま多額の資金を投入するため,あるいは本件犯行の発覚を防ぐため,同様の手口で詐欺を繰り返したのであって,酌量すべき点は見当たらない。
3 被告人3名の個別の事情についてみるに,被告人Aは,受け皿として利用する会社を探し出し,その会社の代表取締役等に借金の肩代わりなどを条件にその会社名義で融資を受けることを了承させるなどした上,被告人Aに恩義を感じている甥の被告人B及び被告人Cに虚偽の書類の作成等を指示し,自らも金融機関に赴き虚偽の説明するなどしていたのであり,被告人Aが本件犯行において主導的役割を果たしていたことは明らかである。しかも,詐取した金員の大部分は被告人Aが事業資金などとして費消したことをも併せ考えると,その刑事責任は極めて重大である。
被告人Bは,法人税確定申告書控えの写しの表題部分の数字を改ざんするなど被告人Cの書類作成を補助したり,融資を受ける際の必要書類をそろえたり,実際に金融機関に対し虚偽の説明をして融資を申し込むことなどを分担していたもので,本件犯行において相応の役割を果たしており,その刑事責任は重い。
被告人Cは,経営コンサルタントとして培った経理の知識を利用して,被告人Aが探してきた会社を分析し,その名義で金融機関から融資名下に金員を詐取できるかどうかを判断した上,内容虚偽の法人税確定申告書控え等の写しを作成し,受け皿会社の業種に応じて,もっともらしい融資金の使途や実地調査に対する対策等を被告人Aらに教示するなどしていたものであるし,金融機関の担当者に対し,受け皿会社の経理部長などを装い,言葉巧みに虚偽の説明をして融資を申し込んだりするなどしたもので,本件犯行において必要不可欠な役割を果たしたといえ,その刑事責任はかなり重いというべきである。
4 したがって,被告人3名とも,当公判廷において事実を認め,反省の態度を示していること,それぞれの被告人につき情状証人が出廷し,今後の監督を誓約していることなどに加えて,被告人Aについては,公判廷において,一応被害弁償したい旨述べていること,罰金刑の前科以外の前科がないこと,被告人Bについては,本件犯行により得た利益は900万円程度であり,それ自体多額ではあるものの,被害総額に比べれば小さいこと,恩義のある被告人Aの指示に従って本件犯行に加担し,そこから抜け出せなくなってしまったという面もあること,自分が得た利益分については弁償したい旨述べていること,前科がないこと,被告人Cについても,本件犯行で得た利益は600万円程度と被害総額に比せば少額といえること,被害弁償のため,親族らの助力を得て300万円を調達し,被害弁償に充てたほか,自分の貯金でも被害弁償する旨述べていること,前科前歴がないことなどそれぞれ酌むべき諸事情が認められるものの,それぞれの責任の程度を考慮した上,主文の刑に処するのが相当と判断した。
(裁判長裁判官 秋葉康弘 裁判官 宮武芳 裁判官 須田雄一)