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東京地方裁判所 平成13年(特わ)2315号 判決 2001年11月16日

主文

被告人両名をいずれも懲役1年に処する。

被告人両名に対し,この裁判確定の日からいずれも4年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は,いずれも平成10年10月18日施行の目黒区長選挙に際し,同選挙に立候補したCの選挙運動員であるが,共謀の上,同年11月11日ころ,東京都目黒区j町k丁目l番m号所在の目黒区役所4階D党目黒区議団議員控室において,同候補者の選挙運動者であるEほか11名に対し,同人らが同候補者を当選させるための電話による投票依頼の選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって,別紙一覧表記載のとおり,現金合計14万5500円を供与したものである。

(証拠の標目)(省略)

なお,弁護人は,本件供与が行われるに至った経緯をみると,被告人Aが被告人Bに対して供与に充てる資金の提供方を一方的に懇願し,被告人Bは被告人Aが苦境に立たされていることに同情してその懇願に応じたにすぎないから,被告人Bについて,供与罪の従犯が成立することは格別,共同正犯は成立しないと主張する。

しかしながら,供与罪の犯行実現に向けた諸行為のなかで,強く懇願されたからにせよ,供与に充てる資金の提供を引き受ける行為の重要性は決定的であり,このことの一事をもって既に被告人Bを供与罪の共同正犯者と認定評価するに十分であるというべきであるから,弁護人の上記主張は主張自体失当である。

また,弁護人は,被告人Bが被告人Aに対して現金30万円を渡したのは,本件供与の実行行為が行われ,犯罪が既遂に達してから3日後であるから,被告人Bに対して供与罪の罪責を問うことはできないとも主張する。

しかしながら,関係各証拠によれば,被告人Bは,平成10年10月29日,被告人Aから電話で,供与に充てる資金として現金30万円を提供してくれるように懇願されたのに対し,「分かりました。何とかしましょう。選挙が終わったばかりでこれからいろいろ支払いもありますので,その目処がついたら,後日連絡します。」と答え,これを受けて,同年11月7日に電話で,被告人Aに対し,「例のもの用意できました。」との連絡をし,この電話で,同日以降被告人両名に都合のよい日ということで,同月14日が現金の受け渡しをする日と決められたこと,被告人Aは,被告人Bからの上記の電話で現金30万円を渡してもらえることが確実となったことから,同月11日,自己の所持金から30万円を一時的に立て替えて本件供与の実行に及んだこと,同月14日,予定どおり被告人Bから被告人Aに現金30万円が渡されたこと,以上の各事実が認められる。そして,以上の各事実によれば,同月7日の電話によって,被告人両名の間に,選挙運動者に対する事後買収を行うことについての共謀が成立したということができるのであり,しかも,同月11日に被告人Aが自己の所持金から30万円を一時的に立て替えて行った本件供与は,これをもって上記共謀に基づき,その内容を実行に移したものと評することができる。そうすると,被告人Bに対して供与罪の罪責を問うことに問題はないというべきであるから,これに反する弁護人の上記主張は理由がないことに帰着する。

(法令の適用)(省略)

よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 川口政明)

別紙 一覧表 省略

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