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東京地方裁判所 平成13年(特わ)2822号 判決 2001年9月28日

主文

被告人を懲役六年及び罰金一五〇万円に処する。

未決勾留日数中一六〇日を懲役刑に算入する。

罰金を完納できないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある大麻九袋(平成一三年押第一三〇九号の一ないし九)及び千葉地方裁判所で押収中の大麻草四五袋(同裁判所・平成一三年押第六号の一ないし四五)を没収する。

理由

[罪となる事実]

被告人は、

第一  B、C、Dらと共謀の上、みだりに、営利の目的で、大麻を本邦に輸入しようと企て、C及びDにおいて、平成一二年一〇月二三日(タイ王国の現地時間)、タイ王国のバンコク国際空港において、日本航空第七一八便に搭乗するに当たり、航空会社従業員に対し、大麻である大麻草二七九一・四一グラム(千葉地方裁判所・平成一三年押第六号の一ないし四五は、この鑑定残余)をそのシャフト内に隠匿したゴルフクラブを収納したゴルフバッグ各一個を千葉県成田市所在の新東京国際空港までの機内預託手荷物として運送委託し、一〇月二四日午前六時二五分ころ新東京国際空港に運送させ、情を知らない同空港関係の作業員らをして航空機から機外に搬出させて、本邦内に持ち込み、もって、大麻を本邦に輸入するとともに、Dにおいて、同日午前六時四〇分ころ、Cにおいて、同日午前六時四八分ころ、同空港内東京税関成田税関支署第二旅客ターミナルビル旅具検査場において、それぞれ、携帯品検査を受けるに際し、ゴルフバッグ内に大麻を携帯しているにもかかわらず、同支署税関職員に対し、その事実を秘して申告しないまま、検査場を通過して関税定率法上の輸入禁制品である大麻を輸入しようとしたが、両名とも同支署税関職員に発見されたため、その目的を遂げなかった。

第二  Eらと共謀の上、みだりに、営利の目的で、大麻を本邦に輸入しようと企て、平成一三年一月三〇日、タイ王国内の郵便局において、大麻を含有する乾燥植物細片一〇五三・七八八グラム(平成一三年押第一三〇九号の一ないし九は、この鑑定残余)を隠匿した国際スピード郵便物一個を、東京都豊島区池袋二丁目四一番一号所在の池袋ロイヤルホテル本館内の「F」あてに発送し、一月三一日、タイ王国のバンコク国際空港において、インド航空第三〇二便に搭載させ、同日、千葉県成田市所在の新東京国際空港第八六番駐機場に到着させ、情を知らない同空港関係の作業員らをして航空機から機外に搬出させて、本邦内に持ち込み、もって、大麻を本邦に輸入するとともに、同日、東京都千代田区大手町二丁目三番三号所在の東京国際郵便局に搬入させ、同年二月一日、同郵便局内において、東京税関東京外郵出張所職員の検査を受けさせた上、二月三日、情を知らない郵便配達員をして、前記国際スピード郵便物一個を前記池袋ロイヤルホテル本館フロント係員に配達させ、関税定率法上の輸入禁制品である大麻を輸入した。

第三  法定の除外事由がないのに、平成一三年二月二日ころ、東京都新宿区《番地省略》所在のホテル「サン」内において、覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を加熱し気化させて吸引し、もって、覚せい剤を使用した。

[証拠] 《省略》

[大麻の営利目的所持について]

平成一三年二月二三日付け起訴状記載の公訴事実の要旨は、「被告人は、営利の目的で、平成一三年二月三日、池袋ロイヤルホテル本館一階ロビーにおいて、大麻含有の乾燥植物細片一・〇五三七八八キログラムを所持した」というものである。検察官は、東京高判昭和四九・六・一八刑裁月報六巻六号六三八頁を引用して、この大麻の所持罪と輸入罪(平成一三年三月一六日付け起訴状記載の公訴事実第一)とは併合罪の関係にある旨主張している(論告第一参照)。

そこで、検討すると、前掲の判示第二の事実関係の証拠によれば、①この所持の対象の大麻は被告人が判示第二の罪によって国際郵便物として輸入したものと同一物であること、②被告人は、Gに郵便物の名宛人である「F」になりすまして受け取らせようと企て、報酬五万円を支払う約束で、同人を名宛人住所の池袋ロイヤルホテル本館七二三号室に宿泊させるなどして待機させたこと、ただし、同人は郵便物の中身については被告人から聞かされていなかったこと、③他方、東京税関においては、平成一三年一月三一日東京国際郵便局航空通常郵便課に到着した本件郵便小包内に大麻が隠匿されているのを発見し、警視庁生活安全部薬物対策課及び愛宕警察署と共同捜査本部を設置し、ライブ・コントロールド・デリバリー捜査を実施することとし、二月三日午前九時五分ころホテル内の「F」に配達されることを確認し、七二三号室に対する捜索差押許可状の発付を得るなどして準備を整え、同日午前八時ころからホテル及びその周辺に捜査員を配置して張り込みを開始したこと、④豊島郵便局の配達員は、同日午前九時八分ころ、本件郵便小包を女性ホテルフロント係員に手渡し、同女から連絡を受けてフロントに来たGが午前九時一四分ころ本件郵便小包を受け取り、エレベーターに乗って七二三号室に戻ろうとしたこと、捜査員は、一般宿泊客を装ってGを追尾し、同人が同室を開けた時点で、同人を呼び止め、午前九時二一分捜索差押許可状を示して捜索を開始したこと、午前九時三〇分ころ大麻ようの物を発見し、大麻試薬による予試験を実施し陽性反応を得て、午前九時四〇分にGを大麻取締法違反(所持)の現行犯人として逮捕したこと、⑤Gは、自分は郵便物の受け取りを頼まれただけだと弁解し、受け取り後被告人が指示した携帯電話の番号に連絡することになっていると話したことから、捜査員は、Gに電話をするように依頼し、午後三時一〇分ころ、ホテル近くに現れた被告人に職務質問を実施し、本件郵便物の真の受取人であることを自認したことなどから、午後三時三六分に被告人を大麻取締法違反(所持)で緊急逮捕したことが認められる。

この認定事実によれば、本件の国際航空郵便による大麻の輸入は、大麻取締法上は判示のとおり、航空機外に搬出された時点で既遂になるものの、関税法上は郵便配達員がホテルフロント係員に手渡した時点で既遂になったのであり、被告人から依頼されたGが大麻を所持してから、捜査員が発見するまでにはわずか約一六分しか経過しておらず、場所的にも同一のホテル内にとどまったのであるから、被告人がGを介しての本件大麻の所持は、輸入に伴う必然的な結果としてのそれであって、この所持は大麻輸入罪に吸収されて別罪を構成しないと解するのが相当である。そして、このことは罪数評価の問題であって、所持の事実が証明されない場合ではないから、主文で無罪を言い渡すことはしない。なお、検察官引用の判例は、本件とは事案を異にする。

[法令の適用]

罰条

判示第一及び第二の各行為中、大麻取締法上の大麻を輸入した点は刑法六〇条、大麻取締法二四条二項、一項に、判示第一の行為中、関税法上の大麻輸入未遂の点は、刑法六〇条、関税法一〇九条三項、一項、関税定率法二一条一項一号に、判示第二の行為中、関税法上の大麻輸入の点は、刑法六〇条、関税法一〇九条一項、関税定率法二一条一項一号に、判示第三の行為は覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条にそれぞれ該当。

科刑上一罪の処理

判示第一及び第二につき、刑法五四条一項前段、一〇条(いずれも重い大麻取締法上の大麻輸入罪の刑で処断)

刑種の選択等

判示第一及び第二の各罪につき、情状により、懲役刑と罰金刑を併科

併合罪加重

以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定加重し、罰金刑については、同法四八条二項により多額を合計する。

未決勾留日数算入

刑法二一条

労役場留置

刑法一八条

没収

大麻取締法二四条の五第一項本文

[量刑理由]

被告人は、二回にわたり、タイ王国から合計三・八キログラムもの大量の大麻を密売目的で輸入し、さらに、覚せい剤の使用にまで及んでいる。大麻輸入の方法は巧妙であり、加えて、被告人は、平成一〇年一二月には東京高等裁判所で大麻輸入の罪等で懲役二年六月・四年間執行猶予の判決を受けているのであって、被告人の供述によれば、一審で実刑判決を受けてその控訴中にも社会に出た場合には次の大麻輸入を目論んでいたというのであるから、規範意識が鈍麻していたことは否定できず、犯情は芳しくなく、被告人の刑責は重いといわざるを得ない。

そこで、大麻輸入の関係では仲間間の主従関係が必ずしも明白ではないこと、被告人が、本件につき素直に事実関係を認め、今後は薬物との関わり合いを絶つ旨述べて反省の情を示していること等を十分考慮の上、主文のとおり量刑した。

[検察官小島達朗、弁護人内藤寿彦各出席。求刑 懲役八年及び罰金二〇〇万円並びに大麻の没収]

(裁判官 長岡哲次)

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