東京地方裁判所 平成13年(特わ)5769号 判決 2002年5月01日
主文
被告人株式会社Aを罰金2900万円に,被告人株式会社Bを罰金300万円に,被告人Cを懲役2年及び罰金2100万円に,それぞれ処する。
被告人Cにおいてその罰金を完納することができないときは,金20万円を1日に換算した期間,同被告人を労役場に留置する。
被告人Cに対し,この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人株式会社A(以下「被告会社A」という)は,東京都目黒区Da丁目b番c号(平成13年6月1日,東京都世田谷区Ed丁目e番f号に本店移転)に本店を置き,企業の宣伝等を目的とする株式会社であり,被告人C(以下「被告人」という)は,同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが,被告人は,同会社の業務に関し,法人税を免れようと企て,架空給料手当を計上するなどの方法により所得を秘匿した上,
1 平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度における同会社の実際所得金額が1億319万9999円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成10年6月1日,東京都目黒区Fg丁目h番i号所轄I税務署において,同税務署長に対し,所得金額が零で,納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同会社の同事業年度における正規の法人税額3793万9600円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた
2 平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度における同会社の実際所得金額が1億5255万2491円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成11年5月31日,上記所轄I税務署において,同税務署長に対し,所得金額が2568万1378円で,これに対する法人税額が793万2100円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同会社の同事業年度における正規の法人税額5170万2600円と上記申告税額との差額4377万500円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた
3 平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度における同会社の実際所得金額が1億3191万1139円(別紙4の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成12年5月30日,上記所轄I税務署において,同税務署長に対し,所得金額が2150万3196円で,これに対する法人税額が308万8600円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同会社の同事業年度における正規の法人税額3621万1000円と上記申告税額との差額3312万2400円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた
第2被告人株式会社B(以下「被告会社B」という)は,東京都目黒区Da丁目b番c号(平成13年6月1日,東京都世田谷区Ed丁目e番f号に本店移転)に本店を置き,運動用具の輸入等を目的とする株式会社であり,被告人は,同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが,被告人は,同会社の業務に関し,法人税を免れようと企て,架空給料手当を計上するなどの方法により所得を秘匿した上,平成10年7月1日から平成11年6月30日までの事業年度における同会社の実際所得金額が4124万3885円(別紙5の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成11年8月31日,上記所轄I税務署において,同税務署長に対し,所得金額が零で,控除所得税額を控除すると199万9998円の還付を受けることとなる旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同会社の同事業年度における正規の法人税額1146万8800円と上記還付所得税額との合計1346万8700円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れた
第3被告人は,東京都世田谷区Ed丁目e番f号に居住し,タレント業等を営んでいたものであるが,自己の所得税を免れようと企て,架空衣装費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上,
1 平成9年分の実際総所得金額が9599万3269円(別紙7の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成10年3月16日,東京都世田谷区Gj丁目k番l号所轄J税務署において,同税務署長に対し,平成9年分の総所得金額が5687万3269円で,これに対する所得税額が120万2400円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同年分の正規の所得税額2076万2400円と上記申告税額との差額1956万円(別紙8のほ脱税額計算書参照)を免れた
2 平成10年分の実際総所得金額が1億2145万5409円(別紙9の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成11年3月15日,上記所轄J税務署において,同税務署長に対し,平成10年分の総所得金額が6614万7409円で,これに対する所得税額が282万8000円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同年分の正規の所得税額3048万2000円と上記申告税額との差額2765万4000円(別紙8のほ脱税額計算書参照)を免れた
3 平成11年分の実際総所得金額が9767万4004円(別紙10の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成12年3月15日,上記所轄J税務署において,同税務署長に対し,平成11年分の総所得金額が5154万2004円で,源泉徴収税額等を控除すると519万350円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の7)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同年分の正規の所得税額1187万8400円と上記還付所得税額との合計1706万8700円(別紙8のほ脱税額計算書参照)を免れた
第4被告人は,東京都世田谷区Ed丁目e番f号に居住してプロ野球監督業等を営んでいた夫のHから所得税確定申告手続の委託を受けていたものであるが,Hの業務または財産に関し,所得税を免れようと企て,架空接待交際費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上,
1 平成9年分の実際総所得金額が4751万3106円(別紙11の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成10年3月16日,上記所轄J税務署において,同税務署長に対し,平成9年分の総所得金額が3480万3486円で,源泉徴収税額を控除すると250万6751円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同年分の正規の所得税額384万8200円と上記還付所得税額との合計635万4900円(別紙12のほ脱税額計算書参照)を免れた
2 平成10年分の実際総所得金額が5509万2914円(別紙13の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成11年3月15日,上記所轄J税務署において,同税務署長に対し,平成10年分の総所得金額が3687万1594円で,源泉徴収税額等を控除すると128万2905円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の9)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同年分の正規の所得税額782万7500円と上記還付所得税額との合計911万400円(別紙12のほ脱税額計算書参照)を免れた
3 平成11年分の実際総所得金額が5600万7557円(別紙14の所得金額総括表及び修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成12年3月15日,上記所轄J税務署において,同税務署長に対し,平成11年分の総所得金額が4108万238円で,源泉徴収税額等を控除すると297万3299円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同年分の正規の所得税額254万9600円と上記還付所得税額との合計552万2800円(別紙12のほ脱税額計算書参照)を免れた
ものである。(別紙添付省略)
(量刑の理由)
本件は,(1)プロ野球球団への監督派遣等の業務をしていた被告会社A及び被告人のテレビ出演契約等に関する業務をしていた被告会社Bの代表取締役である被告人が,架空経費を計上するなどの方法により両社の所得を秘匿するなどしてその法人税を免れたという事案(判示第1,第2),(2)タレント業等を営む被告人が,架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿するなどして自己の所得税を免れたという事案(判示第3),(3)プロ野球監督業等を営んでいた夫から所得税確定申告手続の委託を受けていた被告人が,架空経費を計上するなどの方法により夫の所得を秘匿するなどして同人の所得税を免れたという事案(判示第4)である。
本件のほ脱額は,被告会社Aにつき合計約1億1500万円,被告会社Bにつき約1300万円,被告人につき合計約6400万円,被告人の夫につき合計約2100万円といずれも高額であり,その合計は2億1300万円余の多額にのぼる。ほ脱率をみると,被告会社Aにつき通算約89パーセント,被告会社Bにつきほぼ100パーセント,被告人につき通算約50パーセント,被告人の夫につき通算約39パーセントといずれも相当程度に及んでおり,とりわけ,各被告会社についてはかなりの高率である。犯行態様等をみると,被告人は,被告会社Bが海外で所有する不動産の賃貸料収入を秘匿して同社の収入から除外したほか,各被告会社につき,親族の名義を利用して架空給料手当を計上したり,被告人個人の宝飾品等購入費を被告会社Aの経費として計上するなどして法人所得の圧縮を図っており,試算によって相当額の納税が必要であることが判明すると,架空経費を一括計上して納税すべき法人税及び所得税の額を減少させ,所得税については源泉徴収分の還付まで受けていたというものであり,しかも,途中,関与税理士らに上記のような脱税工作を止めるように忠告されていたのに,架空経費の計上等を強行して虚偽の税務申告を繰り返したものである。このように,本件は,意欲的かつ大胆な犯行というべきであり,その犯情は悪質である。また,被告人は,将来の備えとして蓄えを残したいと考えて本件に及んだ旨を述べているが,そのような身勝手な動機に何ら酌量の余地はない。加えて,被告人は,上記海外の不動産を管理していた実子に対し,国税当局から質問があっても上記不動産収入の存在を明かさないように命じて証拠の隠滅を図ったもので,犯行後の事情も芳しくない。
以上によれば,被告人及び各被告会社の刑事責任を軽くみるわけにはいかない。
しかしながら,他方で,被告人がいずれの事実も認め,当公判廷において反省の弁を述べていること,いずれの事案についても既に修正申告が行われ,本税及び延滞税が完納されていること,被告人には前科がないこと,夫が被告人の寛大な処分を求める旨の嘆願書を提出していること,被告人が贖罪の趣旨で500万円を財団法人法律扶助協会に寄附していることなど被告人及び各被告会社に有利な情状も存する。
そこで,以上の事情を総合考慮し,主文の刑を量定した上,被告人についてはその懲役刑の執行を猶予するのが相当と判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑-被告会社Aにつき罰金3500万円,被告会社Bにつき罰金400万円,被告人につき懲役2年及び罰金2600万円)
(裁判長裁判官 池田耕平 裁判官 中島経太 裁判官 富張邦夫)