東京地方裁判所 平成13年(行ウ)127号 判決 2002年4月24日
主文
1 被告が平成12年12月26日付けで原告に対してした,
(1) 平成8年4月1日から平成9年3月31日までの事業年度分の法人税の更正処分のうち納付すべき税額59億6536万4600円を超える部分及びその重加算税賦課決定処分
(2) 平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度分の法人税の更正処分のうち納付すべき税額9億7172万1400円を超える部分及びその重加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
2 被告が平成12年12月26日付けで原告に対してした,
(1) 平成8年4月1日から平成9年3月31日までの課税期間分の消費税の更正処分のうち納付すべき税額8億9791万7400円を超える部分及びその重加算税賦課決定処分
(2) 平成9年4月1日から平成10年3月31日までの課税期間の消費税の更正処分のうち納付すべき税額17億6814万4400円を超える部分,同課税期間の地方消費税の更正処分のうち納付すべき税額4億4442万1600円を超える部分及びその重加算税賦課決定処分
(3) 平成10年4月1日から平成11年3月31日までの課税期間の消費税の更正処分のうち納付すべき税額24億7489万0600円を超える部分,同課税期間の地方消費税の更正処分のうち納付すべき税額6億2007万1600円を超える部分及びその重加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告の請求
主文同旨
2 被告の答弁
(1) 本案前の答弁
本件訴え中,平成8年4月1日から平成9年3月31日までの課税期間の消費税の更正処分及びその重加算税の賦課決定処分,平成9年4月1日から平成10年3月31日まで及び平成10年4月1日から平成11年3月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分並びに重加算税の賦課決定処分の取消しを求める部分を却下する。
(2) 本案の答弁
原告の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
本件は,被告が,原告は,株式会社明立からパチスロ機のメイン基板合計6万6455枚(納品時期が平成8年11月から平成10年9月までの間のもの)を1枚当たり1万4000円で購入して,株式会社エレクトロコインに対してこれを1枚当たり8万円で販売する取引を行って所得を得ていたにもかかわらず,米国法人Universal Distributing of Nevada,Inc.がこれを行っていたかのように仮装し,同取引によって得た所得等を申告していなかったとして,原告に対し,法人税,消費税及び地方消費税の更正処分並びにそれらの重加算税賦課決定処分を行ったところ,原告が,上記の取引を行っていた者は,原告ではなく,上記の米国法人であると主張して,被告に対し,上記各処分の取消しを求めた事案である。(以下,上記の一連の取引を「本件取引」といい,また,そのうちの,株式会社明立からの購入を「本件明立側取引」,株式会社エレクトロコインヘの販売を「本件ECT側取引」という。)
1 前提となる事実(以下の事実は,各項末尾に掲げた証拠等により認定した。)
(1) 課税経緯
ア 原告に対する,平成8年4月1日から平成9年3月31日までの事業年度(以下「平成9年3月期」という。),平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度(以下「平成10年3月期」という。)及び平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度(以下「平成11年3月期」という。)の各法人税及び重加算税並びに平成8年4月1日から平成9年3月31日までの課税期間(以下「平成9年3月課税期間」という。),平成9年4月1日から平成10年3月31日までの課税期間(以下「平成10年3月課税期間」という。),平成10年4月1日から平成11年3月31日までの課税期間(以下「平成11年3月課税期間」という。)の各消費税,地方消費税及び重加算税の課税経緯は,下記イ記載の点を除くほか,別表1ないし6記載のとおりである。(争いのない事実)
イ 被告は,平成14年3月29日,平成11年3月期の法人税について,所得金額を595億1968万7893円,納付すべき法人税額を205億3429万2015円とする更正処分及び1億1721万6000円の過少申告加算税を賦課する旨の過少申告加算税賦課決定を行った。(当裁判所に顕著な事実)
なお,以下,次のとおり略称する。
① 平成9年3月期及び平成10年3月期を併せて「本件各事業年度」という。
② 本件各事業年度の法人税の平成12年12月26日付け各更正処分を併せて「本件法人税各更正処分」という。
③ 本件各事業年度の法人税に関する重加算税の平成12年12月26日付け各賦課決定処分を併せて「本件法人税各決定処分」という。
④ 平成9年3月課税期間,平成10年3月課税期間,平成11年3月課税期間を併せて「本件各課税期間」という。
⑤ 本件各課税期間の消費税及び地方消費税の平成12年12月26日付け各更正処分を併せて「本件消費税各更正処分」という。
⑥ 本件各課税期間の消費税及び地方消費税に関する重加算税の平成12年12月26日付け各賦課決定処分を併せて「本件消費税各決定処分」という。
⑦ 本件法人税各更正処分及び本件消費税各更正処分を併せて「本件各処分」といい,本件法人税各決定処分及び本件消費税各決定処分を併せて「本件各重加算税賦課処分」という。
(2) 原告による不服申立て
ア 原告は,平成13年2月23日,国税不服審判所長に対し,本件法人税各更正処分及び本件法人税各決定処分並びに平成12年12月26日付けで行なわれた平成11年3月期の法人税更正処分及び重加算税賦課決定処分について,審査請求した。
なお,本件法人税各更正処分及び本件法人税各決定処分は,法人税法に規定する青色申告書に係る処分である。(争いのない事実)
イ 原告は,平成13年2月23日,東京国税局長に対し,本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分についての異議申立書を提出し,同年4月27日,上記異議申立書を国税不服審判所長に対する審査請求として取り扱うことに同意し,国税通則法89条1項により,国税不服審判所長に対して審査請求がされたものとみなされた。(争いのない事実)
ウ 原告は,平成13年6月7日,本件各処分及び本件各重加算税賦課処分並びに平成12年12月26日付けで行なわれた平成11年3月期法人税更正処分及び重加算税賦課決定処分について,本件訴えを提起した。 (争いのない事実)
エ 当裁判所は,平成14年4月15日,本件訴えから,平成12年12月26日付けで行なわれた平成11年3月期の法人税更正処分及び重加算税付加決定処分の取消しを求める訴えを分離した。(当裁判所に顕著な事実)
(3) 本件の取引関係者等
ア 原告
原告は,昭和44年にP1によって設立されたユニバーサルリース株式会社をその前身とするユニバーサルテクノス株式会社が,平成10年4月に,ユニバーサル販売株式会社を吸収合併した上,商号を現在のアルゼ株式会社に変更して成立した会社であり,遊戯機器及び遊技機器の試験研究,企画,開発,製造,販売及び輸出入等を目的とする株式会社である(以下においては,原告の前身である上記ユニバーサル販売株式会社を含めて「原告」という。)。(甲7,8,乙12,13)
なお,原告は,P1及びその親族等のグループ会社が筆頭株主である同族会社であり,本件取引の全期間を通じて,P1は,原告の代表者として原告の経営に従事し,P1及びその親族等のグループは,原告の8割程度の株式を保有していた。(争いがない事実)
イ Universal Distributing of Nevada,Inc.(UDN)
米国法人Universal Distributing of Nevada,Inc.(以下「UDN」という。)は,スロットマシーンの製造販売を業とする米国法人である。
本件取引の全期間を通じて,P1が,UDNの全株式を保有し,代表者としてUDNの経営に従事していた。(争いのない事実)
UDNは,同社が100パーセント出資した子会社UDNジャパンをUDN日本支社として位置付けて,UDNジャパンを通じて日本国内での活動を行っていたほか,UDN代表取締役P1も日本に在住し,日本国内でUDN代表取締役として活動していた。(原告代表者)
なお,UDNは,本件取引開始前の時点において,債務超過状態にあった。(争いのない事実)
ウ パシフィック・ゲーミング・リミテッド(PGL)
パシフィック・ゲーミング・リミテッド(以下「PGL」という。)は,オーストラリアの法人であり,UDNの100パーセント子会社である。(原告代表者)
エ エレクトロコインジャパン株式会社(ECJ)
エレクトロコインジャパン株式会社(以下「ECJ」という。)は,イギリスにおいてエレクトロ・コイン・オートマティック社(Electro Coin Automatic.以下「ECA」という。)を所有,経営していたP2によって平成3年8月に設立された会社であり,室内電子遊戯器,遊戯機器の開発,製造,販売及び輸出入等を業としている。
本件取引の全期間を通じて,P2は,ECJの代表者として経営に従事していた。
なお,P2は,従前,ECJの全株式を保有していたが,オーストラリア法人のELECTROCOIN HOLDING PTY LTD(以下「ECH」という。)が本件取引開始前の平成8年3月末までに,ECJの全株式を取得し,P1の長男であるP3は,平成7年12月22日から平成9年8月6日までの間,ECHの共同代表の一人として役員に就任していた。
また,原告は,ECJに対し,平成8年3月末で8億円,平成9年3月末で5億9000万円の貸付金を有していた。
なお,原告は,平成11年2月にECJの全株式を取得し,平成12年4月1日付けでECJを吸収合併している。 (争いのない事実)
オ 株式会社エレクトロコイン(ECT)
株式会社エレクトロコイン(以下「ECT」という。)は,ECJからパチスロ機の組み立て加工を受託している会社であり,その売上のほとんどがECJに対するもので,平成9年3月当時,ECTの役員はECJ役員を兼務しているものが就任しており,ECJがECTの事務代行を行っていた。(甲58)
このように,ECTは,本件取引の全期間を通じて,実質的にはECJの製造部門と位置付けられていた会社であり,ECJは,ECTの全株式を保有していた。(争いのない事実)
カ 株式会社明立
株式会社明立(以下「明立」という。)は,本件取引の目的物であるメイン基板(以下「明立基板」という。)を製作していた会社である。(争いのない事実)
キ 日本電動式遊技機工業協同組合
日本電動式遊技機工業協同組合(以下「日電協」という。)は,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)の規制を受けるパチスロ機製造業者によって構成される団体であり,風営法の規制に基づいて,不正防止を目的に,ROMの一括購入,ROMへの検定済みプログラムの書き込み,ROM及び基板ケースの封印等の業務を行っている。(乙33)
ク 日本電動式遊技機特許株式会社
日本電動式遊技機特許株式会社(以下「日電特許」という。)は,パチスロ機製造業者数社から,パチスロ機についての関係特許等の工業所有権を,サブライセンス権(再実施許諾権)付きでライセンス(実施許諾)を受け,さらに,これを一定のパチスロ機製造業者に対して再許諾を実施している会社である。(甲14)
2 当事者双方の主張
(被告の主張)
(1) 本案前の主張
原告は,前記のとおり,平成13年4月27日付けで,東京国税局長に提出された本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分に係る異議申立書を審査請求として取り扱うことに同意したので,同日,上記各処分について審査請求したものとみなされる。
そうすると,本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分の取消しを求める訴えは,審査請求についての裁決を経ずに,かつ,審査請求がされた日の翌日から起算して3か月を経過する前に提起された訴えであるから,不適法なものとして却下されるべきである。
(2) 本件法人税各更正処分の根拠及び適法性について
本件各事業年度の所得金額及び納付すべき法人税額は,別表7及び8のとおりであり,これは,本件法人税各更正処分における所得の金額及び納付すべき法人税額と同額であるから,本件法人税各更正処分は適法である。
別表7及び8の各項目の内訳は次のとおりである。
ア 平成9年3月期(別表7)
a 本件更正処分前の所得金額 145億8256万3931円
上記金額は,被告が平成10年11月25日付けでした原告の平成9年3月期の法人税の更正処分における所得金額である。
b 売買利益計上漏れ 13億1920万8000円
上記金額は,当期において原告が本件取引によって得た売買利益の金額であり,当期の利益として益金の額に算入し所得金額に加算したものである。
すなわち,明立基板1枚当たりの仕入金額は1万4000円であり,明立基板1枚当たりの販売金額8万円が明立基板1枚当たりの売上金額となるから,これに当期の明立基板の販売枚数を乗じて得た金額の差益が当期の売買利益計上漏れの額であり,その具体的数値は,別表9の平成9年3月期欄記載のとおりである。
c 寄附金の損金不算入額 6億2700万円
UDNは,前提事実記載の株主構成によれば,原告にとって租税特別措置法施行令39条の12第1項2号に規定する関係にあり,したがって租税特別措置法(以下「措置法」という。)66条の4第1項に規定する国外関連者に該当するところ,上記金額は,原告からUDNに対する寄附金であり,措置法66条の4第3項に規定する国外関連法人に対する寄附金と認められることから,法人税法37条及び措置法66条の4第3項の規定に基づき寄附金の損金算入限度額を再計算した結果,新たに発生した寄附金の損金不算入額として所得金額に加算したものである。
すなわち,原告は,本件取引により,明立基板の売上対価をECTからUDNに送金させ,さらに仕入対価をUDNから明立に送金させており,その結果,UDNに売買利益を供与したものである。そうすると,原告のUDNに対する寄附金の額は,ECTからUDNに送金された日に寄附金が支出されたものとして算出すべきであり,その結果は,別表10の平成9年3月期欄記載のとおりである。
d 受取配当等の益金不算入額の過大額 9188円
上記金額は,確定申告における受取配当等の益金不算入額の計算に当たり,所得金額に加算した有価証券317万9112円が前期末現在の特定株式等以外の株式及び出資等の帳簿価額の計算に含められていなかったため,法人税法23条の規定に基づき再計算した正当額との差額を減算過大額として所得金額に加算したものである。
e 寄附金として損金の額に算入される額 6億2700万円
上記金額は,上記cのとおり,原告が当期中にUDNに対して利益供与した6億2700万円は,同社への寄附金と認められることから,損金の額に算入し所得金額から減算したものである。
f 所得金額 159億0178万1119円
上記金額は,前記aの金額にb,c及びdの金額を加算し,eの金額を減算した金額である。
g 法人税額 59億6316万7875円
上記金額は,前記fの所得金額(国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に法人税法66条(平成10年法律第24号による改正前のもの。以下,平成10年3月期について同じ。)に定める税率を乗じて計算した金額である。
h 課税留保金額 21億8132万7000円
上記金額は,次の(a)の金額から(b)の金額を控除した金額(ただし,国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(a) 留保金額 78億1759万0495円
上記金額は,平成10年11月25日付け更正処分における留保所得金額143億1673万6875円に,前記bのうち新たに留保金額となる6億9220万8000円を加算した金額150億894万4875円から,次のⅠ及びⅡの金額を控除した金額である。
Ⅰ 前記gの金額から後記kの金額を控除した金額 59億5697万8630円
Ⅱ 前記gの金額に20.7パーセントを乗じた金額 12億3437万5750円
(b) 留保控除額 56億3626万3307円
上記金額は,法人税法67条3項に規定する留保控除額である。
i 課税留保金額に対する税額 4億2976万5400円
上記金額は,前記hの課税留保金額に法人税法67条に規定する税率を乗じて計算した金額である。
j 法人税額の計 63億9293万3275円
上記金額は,前記gの法人税額59億6316万7875円に前記iの課税留保金額に対する税額4億2976万5400円を加算した金額である。
k 控除所得税額 618万9245円
上記金額は,法人税法68条に規定する法人税額から控除される所得税の額である。
l 差引法人税額 63億8674万4000円
上記金額は,前記jの金額から前記kの金額を差し引いた金額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
m 本件更正処分前の法人税額 59億6536万1600円
上記金額は,被告が平成10年11月25日付けでした原告の平成9年3月期の法人税の更正処分における法人税額である。
n 納付すべき法人税額 4億2138万2400円
上記金額は,前記lの金額から前記mの金額を差し引いた金額である。
イ 平成10年3月期(別表8)
a 本件更正処分前の所得金額 26億0499万1488円
上記金額は,被告が平成10年11月25日付けでした原告の平成10年3月期の法人税の更正処分における所得金額である。
b 売買利益計上漏れ 18億0094万2000円
上記金額は,当期において原告が本件取引により得た売買利益の金額であり,当期の利益として益金の額に算入し所得金額に加算したものである。
すなわち,明立基板1枚当たりの仕入金額は1万4000円であり,明立基板1枚当たりの販売金額8万円が明立基板1枚当たりの売上金額となるから,これに当期の明立基板の販売枚数を乗じて得た金額の差益が当期の売買利益計上漏れの額であり,その具体的数値は,別表9の平成10年3月期欄記載のとおりである。
c 寄附金の損金不算入額 23億2815万0000円
上記金額は,原告からUDNに対する寄附金であり,措置法66条の4第3項に規定する国外関連法人に対する寄附金と認められることから,法人税法37条及び措置法66条の4第3項の規定に基づき寄附金の損金算入限度額を再計算した結果,新たに発生した寄附金の損金不算入額として所得金額に加算した金額である。
すなわち,原告は,本件取引により,明立基板の売上対価をECTからUDNに送金させ,さらに仕入対価をUDNから明立に送金させており,その結果,UDNに売買利益を供与したものである。そうすると,原告のUDNに対する寄附金の額は,ECTからUDNに送金された日に寄附金が支出されたものとして算出すべきであり,その結果は,別表10の平成10年3月期欄記載のとおりである。
d 雑損の過大計上額 4991円
前記bの売買利益計上漏れにより,消費税法2条に規定する課税資産の譲渡等の対価の額が21億8296万円増加し,それに伴い消費税法30条に規定する課税売上割合が増加したことから,控除対象消費税額等を再計算した結果,新たに控除対象となった消費税相当額4991円は法人税法上損金とはならないため,所得金額に加算したものである。
e 雑収入計上漏れ 9円
上記金額は,本件更正処分における仮受消費税額に基づいて消費税及び地方消費税の納付税額の再計算を行った結果,益金に算入すべき金額9円が算出されたので,所得金額に加算したものである。
f 寄附金として損金の額に算入される額 23億2815万円
上記金額は,上記cのとおり,原告が当期中にUDNに対して利益供与した23億2815万円は,同社への寄附金と認められることから,損金の額に算入し所得金額から減算したものである。
g 貸倒引当金の繰入限度超過額の過大額 285万6954円
上記金額は,平成9年3月期において前記アbの売買利益計上漏れに係る期末売掛金とした消費税相当額4797万1200円及び前記bのうち期末売掛金とした2億円並びに消費税相当額1億914万8000円の合計3億5711万9200円の期末貸金等が増加したことに伴い,法人税法52条(平成10年法律第24号による改正前のもの)の規定に基づき貸倒引当金の繰入限度額を再計算した結果,過大となる繰入限度超過額285万6954円を所得金額から減算したものである。
h 事業税の損金算入額 1億5830万6000円
上記金額は,被告が平成12年12月26日付けでした原告の平成9年3月期の法人税の更正処分に伴って増加する事業税相当額である。
i 所得金額 42億4477万5534円
上記金額は,前記aの金額にb,c,d,eの金額を加算し,f,g,hの金額を減算した金額である。
j 法人税額 15億9179万0625円
上記金額は,前記iの所得金額(国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)に法人税法66条に定める税率を乗じて計算した金額である。
k 控除所得税額 515万0149円
上記金額は,法人税法68条に規定する法人税額から控除される所得税の額である。
l 差引法人税額 15億8664万0400円
上記金額は,前記jの金額から前記kの金額を差し引いた金額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
m 本件更正処分前の法人税額 9億7172万1400円
上記金額は,被告が平成10年11月25日付けでした原告の平成10年3月期の法人税の更正処分における法人税額である。
n 納付すべき法人税額 6億1491万9000円
上記金額は,前記lの金額から前記mの金額を差し引いた金額である。
(3) 本件法人税各決定処分の根拠及び適法性について
原告は,後記のとおり,原告の株式公開のために関連会社であるUDNの債務超過の状態を解消する必要があったことから,原告自身が本件取引を行い,原告の意思の下にUDNに利益を享受させていたにもかかわらず,当該収入金額及び仕入金額を原告の帳簿書類に記載せず,あたかも明立が明立基板をUDNに輸出し,ECTがこれをUDNから輸入したかのように取引の体裁を整えるために各売買契約書をUDN及びECTに作成させ,法人税の確定申告書を提出していた事実が認められる。
かかる原告の行為は,国税通則法68条1項の「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に該当し,重加算税の適用要件を満たすものであるから,同項の規定に基づいてされた本件法人税各賦課決定処分は適法である。
(4) 本件消費税各更正処分の根拠及び適法性について
本件各課税期間の課税標準額及び納付すべき税額は,以下のとおりであり,これは,本件消費税各更正処分における課税標準額及び納付すべき税額と同額であるから,本件消費税各更正処分は適法である。
ア 平成9年3月課税期間
原告の平成9年3月課税期間の消費税の課税標準額,課税標準額に対する消費税額,控除税額及び納付すべき税額は,それぞれ次のとおりである。
a 課税標準額 543億2420万8000円
上記金額は,原告の平成9年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された課税標準額527億2516万8000円に,当該課税期間において原告がECTに販売した明立基板の売上金額15億9904万円を加算した金額である。
b 課税標準額に対する消費税額 16億2946万5130円
上記金額は,原告の平成9年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された課税標準額に対する消費税額15億8149万3930円に,上記aで述べた明立基板の売上金額15億9904万円に消費税法29条(平成6年法律第109号による改正前のもの)の規定に基づく税率100分の3を乗じた金額4797万1200円を加算した金額である。
c 控除税額 6億8357万6491円
上記金額は,原告の平成9年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された控除税額である。
なお,消費税法30条7項は,仕入れに係る消費税額の控除(同条1項)の規定の適用において,事業者が,当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には,当該保存がない課税仕入れ等の税額については適用しない旨規定しているが,原告の帳簿書類には,明立基板の売買取引についての収入金額及び仕入金額についての記載がなく,また,同取引に係る請求書等の保存も行われていないため,明立基板の仕入れに係る消費税額の控除は認められない。
d 納付すべき税額 9億4588万8600円
上記金額は,前記bの課税標準額に対する消費税額16億2946万5130円から前記cの控除対象仕入税額6億8357万6491円を控除した金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
イ 平成10年3月課税期間
原告の平成10年3月課税期間の消費税の課税標準額,課税標準額に対する消費税額,控除税額及び納付すべき税額は,それぞれ次のとおりである。
a 課税標準額 778億4354万3000円
上記金額は,原告の平成10年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された課税標準額756億6058万3000円に,当課税期間において原告がECTに販売した明立基板の売上金額21億8296万円を加算した金額である。
b 課税標準額に対する消費税額 31億1374万1720円
上記金額は,上記aの課税標準額778億4354万3000円に消費税法29条(平成6年法律第109号による改正後のもの。以下,平成11年3月課税期間について同じ。)の規定に基づく税率100分の4を乗じた金額である。
c 控除税額 12億5828万2897円
上記金額は,次の(a)と(b)の金額の合計額である。
なお,消費税法30条7項は,仕入れに係る消費税額の控除(同条1項)の規定の適用において,事業者が,当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には,当該保存がない課税仕入れ等の税額については適用しない旨規定しているが,原告の帳簿書類には,明立基板の売買取引についての収入金額及び仕入金額についての記載がなく,また,同取引に係る請求書等の保存も行われていないため,明立基板の仕入れに係る消費税額の控除は認められない。
(a) 申告に係る控除税額 12億5827万8904円
上記金額は,原告の平成10年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された控除対象仕入税額12億5800万0693円に,返還等対価に係る税額19万4400円及び貸倒れに係る税額8万3811円を加算した金額である。
(b) 課税売上割合の増加に伴う控除対象仕入税額の増加額 3993円
上記金額は,前記aのとおり消費税法2条に規定する課税資産の譲渡等の対価の額が21億8296万円増加し,それに伴い消費税法30条に規定する課税売上割合が増加したことから,控除対象消費税額を再計算した結果,新たに控除対象となった金額である。
d 納付すべき税額 18億5545万8800円
上記金額は,前記bの課税標準額に対する消費税額31億1374万1720円から前記cの控除税額12億5828万2897円を控除した金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
e 地方消費税の課税標準となる消費税額 18億6500万1000円
上記金額は,原告の平成10年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された地方消費税の課税標準となる消費税額17億7768万6600円に,次の(a)から(b)を控除した金額を加算した金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(a) 明立基板の売上金額に対する消費税額 8731万8400円
上記金額は,前記aで述べた明立基板の売上金額21億8296万円に対する消費税額である。
(b) 課税売上割合の増加に伴う控除対象仕入税額の増加額 3993円
上記金額は,前記cの(b)で述べた金額である。
f 譲渡割額 4億6625万200円
上記金額は,上記eの地方消費税の課税標準となる消費税額に地方税法72条の83に規定する税率100分の25を乗じ,同法20条の4の2第3項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後の金額である。
ウ 平成11年3月課税期間
原告の平成11年3月課税期間の消費税の課税標準額,課税標準額に対する消費税額,控除税額及び納付すべき税額は,それぞれ次のとおりである。
a 課税標準額 1018億1435万4000円
上記金額は,原告の平成11年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された課税標準額1002億7995万4000円に,当課税期間において原告がECTに販売した明立基板の売上金額15億3440万円を加算した金額である。
b 課税標準額に対する消費税額 40億7257万1893円
上記金額は,原告の平成11年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された課税標準額に対する消費税額40億1119万5893円に,上記aで述べた明立基板の売上金額15億3440万円に消費税法29条の規定に基づく税率100分の4を乗じた金額6137万6000円を加算した金額である。
c 控除税額 15億3630万5285円
上記金額は,原告の平成11年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された控除税額である。
なお,消費税法30条7項は,仕入れに係る消費税額の控除(同条1項)の規定の適用において,事業者が,当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には,当該保存がない課税仕入れ等の税額については適用しない旨規定しているが,原告の帳簿書類には,明立基板の売買取引についての収入金額及び仕入金額についての記載がなく,また,同取引に係る請求書等の保存も行われていないため,明立基板の仕入れに係る消費税額の控除は認められない。
d 納付すべき税額 25億3626万6600円
上記金額は,前記bの課税標準額に対する消費税額40億7257万1893円から上記cの控除対象仕入税額15億3630万5285円を控除した金額(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
e 地方消費税の課税標準となる消費税額 25億4166万2500円
上記金額は,原告の平成11年3月課税期間の消費税の確定申告書に記載された地方消費税の課税標準となる消費税額24億8028万6500円に,前記aで述べた明立基板の売上金額15億3440万円に係る消費税額6137万6000円を加算した金額である。
f 譲渡割額 6億3541万5600円
上記金額は,上記eの地方消費税の課税標準となる消費税額に地方税法72条の83に規定する税率100分の25を乗じ,同法20条の4の2第3項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後の金額である。
(5) 本件消費税各決定処分の根拠及び適法性について
原告は,後記のとおり,原告自身が明立から明立基板を購入し,これをECTに販売していたにもかかわらず,当該収入金額及び仕入金額を原告の帳簿書類に記載せず,あたかも明立基板を明立がUDNに輸出し,ECTがこれをUDNから輸入したかのように取引の体裁を整えるために各売買契約書をUDN及びECTに作成させ,課税資産の譲渡等の額を過少にして消費税の確定申告書を提出していた事実が認められる。
かかる原告の行為は,国税通則法68条1項の「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に該当し,重加算税の適用要件を満たすものであるから,同項の規定に基づいてされた本件消費税各賦課決定処分は適法である。
(6) 本件取引の実質的当事者
本件取引は,実質的には,原告が明立から明立基板を購入してECTにこれを販売した取引であって,本件取引によって原告が得た利益を,原告の意思の下にUDNに享受させていたというべきである。
すなわち,以下の事実関係に照らせば,本件取引は,実質的には原告が行っていたと認められるにもかかわらず,原告は,自らの株式公開のために債務超過を解消する必要があったUDNに対して本件取引による利益を供与することを目的として,原告が経営に深く関与していたUDN及びECTに各売買契約書を作成させて,あたかもUDNが明立から明立基板を購入し,これをECTに販売したかのように体裁を整えさせた上で,明立基板の売上対価を売上先であるECTからUDNに送金させ,また,仕入対価をUDNから明立に送金させることにより,原告が得た本件取引による利益をUDNに供与したものと認められる。
ア 明立基板の加工,販売が原告の管理の下に行われていたこと
以下の事実を総合考慮すると,パチスロ機の製造ノウハウを有する原告が,明立に対し,材料を有償支給して明立基板を加工製造させたものと認められ,明立は,あらゆる意味で原告の管理の下に明立基板を加工,販売していたものと認められる。
a 明立基板を含むパチスロ機のメイン基板は,基板内のCPU,ROMなどの主要部品の不正改造や不正使用の防止策として,ケースに封止(かしめ)をして基板管理番号を張りつけ,電子回路内にセキュリティー・ワンチップを組み込むなどの対策が講じられることとされており,パチスロ機の出荷前には,封印のためにメイン基板を自社又は指定運送業者が日電協の封印作業所に搬送し,日電協職員立会いの下に封印作業を行うこととされている。
また,パチスロ機の製造業社は,パチスロ機の保管・管理の万全を期すため,自社の保管場所から設置遊技場へ本体,メイン基板とも直送しなければならず,その運送管理についても,信頼に足りる運送業者を指定し行うこととされている。
このように,パチスロ機のメイン基板である明立基板は,パチスロ機の技術情報が集約された最重要部材であり,不正改造や不正使用の防止の観点から,その製造から保管,出荷まで厳重に管理されていた。
b 明立は,原告の小山工場から明立基板製造のための部品一式,図面,及び技術情報の提供を受けていたほか,明立基板の製作数量について,UDNからではなく,原告から指示されていた。また,明立は,明立基板の試作品を製作して,原告に対して納入し,原告からそれに対する支払を受けていた。
そして,明立に対して明立基板のベースとなる生基板を納入していた九沢製作所は,原告から,生基板の設計を発注され,その設計料の支払を受けていたほか,明立に納入すべき生基板の数量について,原告から指示されていた。
そのほか,原告は,ECJに対し,明立基板の在庫について,報告を行っていた。
さらに,明立自身には,明立基板を開発,設計する技術はなく,明立は,ボードに各種部材を差し込むだけの,技術水準の低い工程を行っているにすぎなかった。その上,明立の決済条件について,明立基板の部材を明立に納入していた原告と,明立基板のための生基板を明立に納入していた九沢製作所に対する支払は,UDNからの明立基板代金入金後でよいとされていて,明立には,資金負担がなかった。
これらの事実によれば,原告は,明立における,明立基板の製造計画,管理の一切を行っていたというべきである。
c 明立基板は,明立から,日電協の封印日程に合わせて原告の小山工場に納品された後,封印作業のため日電協に持ち込まれ,同作業終了後再び小山工場に納入され,そこで封印済みの状態で検査された後,ECJの配送センターに納入されていた。そして,本件取引開始前に,そのための検査ラインが,原告の小山工場に設置されていた。
d 明立基板が現実に輸出入された事実はなく,原告が,明立から原告に納入された明立基板を,ECTに納入していた。
そして,UDNは,明立基板の製造に一切関与していなかった。
ECJも,明立基板の下請加工業者は,明立であると認識していた。
イ 原告が封印済みの明立基板の検査を行っていること
明立基板をECTに販売するのが真実UDNなのであれば,取引当事者ではない原告が封印後の明立基板の検査を行うなどということは全く考えられないはずであるにもかかわらず,前記のとおり,原告が当該検査を行っていたとの事実は,原告が,明立基板のECTへの売主であったことを裏付けるものである。
ウ 本件取引がUDNの債務超過を解消させる目的の下に行われたこと
a 原告とP1及びUDNとの関係について
原告は,前提事実記載のとおり,P1及びその親族等のグループが筆頭株主である同族会社であり,P1は,本件取引全期間を通じて,代表者として原告の経営に従事している。
そして,UDNは,P1が全株式を保有する同族会社であり,P1は,本件取引の全期間を通じて同社の全株式を保有するとともに,代表者として同社の経営に従事している。
b UDNの財務状況と原告の株式公開について
UDNは,平成8年12月期において,連結決算で約16億6000万円の債務超過となっていたところ,原告の「新株式発行並びに株式売出届出目論見書」には,UDNについて,要旨,①UDNはライセンス維持の関係からP1個人が株主となっているものであり,原告はUDNを実質的な子会社としてグループの海外戦略の拠点と位置付けていること,②UDNは,米国での販売不振から平成5年12月期で債務超過に陥り,その後リストラの実施により平成8年12月期には期間損益は黒字となったものの,なお平成9年12月期においても債務超過の状態が継続していること,③債務超過を平成12年12月期までに解消するため,新機種の投入等を内容とした事業計画を策定し,その実現に鋭意努力中であることが記載されている。
また,UDN日本支社開発担当のP4は,被告P5係官に対し,UDNの本社に工場はなく,従業員は5名程であること,UDNの販売するスロットマシーンの規格がネバタ州の検定に合格していないことから,主要販売先は南アフリカ及びヨーロッパであることを陳述している。
c しかるに,原告の平成11年3月期の有価証券報告書には,UDNは平成10年12月期に債務超過の状態が解消した旨の記載があり,また,原告は,本件取引の終了とほぼ同一時期である平成10年9月に店頭公開を行っている。
d 本件取引の目的について
以上によれば,原告と同様にP1が代表者として経営に従事しているUDNは,原告の関係会社として,原告の株式公開のためにはその債務超過を解消する必要があったところ,UDNの事業は必ずしも順調であったとは認められないにもかかわらず,本件取引が開始された平成8年12月期には単年度黒字に転換し,本件取引が終了した平成10年12月期には計画より2年も早く累積欠損を解消している。
そうすると,本件取引による利益があればこそUDNの債務超過の状態が解消されたものと認められ,これによって,原告は,店頭公開可能となった。
したがって,原告は,当初から自社の株式公開のために関係会社であるUDNの債務超過を解消させる目的で,本件取引を作出した上で,これによる利益をUDNに供与したものと認められる。
エ 原告がECJ及びECTの経営に深く関与していたこと
a ECJが平成9年8月29日付けでその所有する不動産を売却した相手方である永勝産業株式会社の取締役P6は,ECJの調査を担当した東京国税局の職員に対して,同月6日に,原告の本社ビル内で原告の社員であるP7と面談して,売主の売却意思を確認する売渡証明書を受領したこと,売買契約の場所も原告の本社ビル会議室であり,原告取締役P8及び上記P7が同席し,売主側の交渉指揮は上記P8がとっていたことを陳述している。
b 上記事実に,前提事実記載のとおり,本件取引を開始する前である平成8年3月までに,P1の長男が共同代表に就任しているECHがECJの株式のすべてを取得し,また,ECJの運転資金も原告が融資していること,ECJ所有不動産の売却等の重要事項の決定も原告が行っていること,本件取引終了後,ECJの全株式を原告が取得し,その後原告とECJが合併していることを併せ考えると,ECJの経営には原告が深く関与していたことが認められる。
また,ECTは,前提事実記載のとおり,本件取引の全期間を通じてECJがその全株式を保有し,ECJからパチスロ機の組立加工を受託し,ECJの製造部門に該当する会社であって,ECTは実質的にECJの製造部門と位置付けられていた。
オ 本件取引当初からダミー基板を輸出入することが予定されていたこと
a 原告の小山工場における明立基板の検査及び出荷体制は,以下のとおり,輸出を前提としていなかった。
すなわち,原告の小山工場には,明立基板を組み込むECJの新機種を含めたパチスロ機の生産ラインが設置され,その中には,封印基板の電気検査を行うための検査ラインも設置されていたのであって,かかる体制の下で,明立基板は,明立から日電協の封印に合わせて原告の小山工場に納品された後,封印作業のため日電協に持ち込まれ,封印作業終了後再び小山工場に納入され,そこにおいて検査された後,ECJの配送センターに納入されていた。
そうすると,原告の小山工場の検査及び出荷体制は,そもそも明立基板の輸出を前提としたものではないのであって,明立基板については,当初から,UDNに対し輸出されることなくECTに納入されることが予定されていたと認められる。
b 当初からダミー基板が輸出入されることが予定されていたことについて
以下の事実関係によれば,本件取引の当事者間においては,当初からダミー基板を輸出入することを予定していたと認められる。
(a) 税関に対して輸出申告をするには,まず貨物を保税地域等に運び込み,専門の検量業者に貨物の重量・容積などの検収を依頼し,その上で輸出申告をするものとされているにもかかわらず,明立が原告に明立基板を納品する前に,メイン基板が輸出申告のために東京税関東京航空貨物出張所に運び込まれており,また,ECTによる基板の初回輸入通関日は,明立基板が目電協において封印された日より後の日となっていた。
(b) 明立基板は4種類あるため,明立基板が輸出入されることを前提とした場合,ECTから発注を受けたUDNは,その種類を特定しなければECTに明立基板を販売することができないはずであり,また,ECJ機の組立てを行うECTにおいても,UDNから明立基板の種類を特定して引渡しを受けなければパチスロ機の組立てを行うことができないはずであるのに,ECTからUDNに対する注文書には明立基板の型番や機種コード等の記載が存在せず,かつ,明立基板の種類の特定がないことについて当事者からのクレームが出されることなく,明立,UDN及びECT名義の輸出入関係書類が作成されていた。
カ UDNは,明立基板に対して全く何の関与もしておらず,本件取引による利益がUDNに帰属する理由がないこと
本件取引の売買目的物である明立基板は,それ自体は現実に輸出入されることなく,我が国の国内のみを流通していただけであり,明立とUDN,UDNとECTという当事者間においては,売買目的物の引渡しを受けていないにもかかわらず,一切のクレームもなく代金決済だけが行われていた。そして,前記のとおり,明立基板は,全て原告の管理の下に製造が行われているのに対し,UDNは何らの関与もしていない。
そうすると,本件取引後にUDNに対し支払われた金員は,本来原告に対して支払われるべきものであった。
キ UDNに対して明立基板を売却する効果意思及びUDNから明立基板を購入する効果意思を欠いていること
前記のとおり,本件取引において,明立基板が売買目的物とされ,それを前提として代金額が確定されたにもかかわらず,現実には,明立基板ではないECJのパチスロ基板の在庫を梱包し,同じものが繰り返し輸出入されていながら,それについて当事者のいずれかからクレームがあったとの事実もない。
このような当事者の表示行為からすれば,本件取引の当事者である明立及びECTは,外形的には,UDNとの間で明立基板について売買契約を締結していたものの,当該契約を構成する意思表示において,UDNを一方の契約当事者として,明立基板を売却し,又は,購入するという効果意思を欠いていたというべきである。
ク 本件取引終了後の実体と本件取引の実体に変化がないこと
原告は,本件取引の終了後,ECJ機用メイン基板の部品一式の明立への有償支給から無償支給へ変更するとともに,発注書を発行し,明立から,ECJ機用メイン基板を購入しているが,その製造,出荷指示等には一切変更がないこと,また,本件取引終了後にECJとの間で製造販売許諾契約を締結した後は,ECJ機はすべて原告が製造し,ECJには2万円しか支払われていないことからすると,本件取引の実体は,取引終了後における実体と変わっていない。
(原告の主張)
(1) 本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分の取消請求に係る訴えの適法性
原告には,以下のとおり,上記各訴えを提起するについて,審査請求についての裁決を経ることにより生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があり,また,その裁決を経ないことにつき正当な理由があるというべきであるから,国税通則法115条1項3号により,上記各訴えは適法である。
ア 緊急の必要性
米国ネバダ州におけるスロットマシーン開発製造販売事業の許認可権を有する米国ネバダ州ゲーミング委員会は,原告が課税当局から本件各処分を受けたことを重大に受け止め,原告の米国関連会社の米国ネバダ州における事業ライセンスの申請手続を本件各処分に関する本件訴訟の判決がされるまで凍結しており,このため,原告の米国関連会社は,全米において,スロットマシーンの製造・販売の事業活動が停止されている。
したがって,原告は,本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分に対する審査請求についての裁決を待っていたのでは著しい損害を受けることになるから,裁決を経ることなく本件各訴えを提起すべき緊急の必要性があるというべきである。
イ 正当な理由
原告は,平成13年2月23日付けで,東京国税局長に対し,本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分について,異議申立てを行っており,この異議申立の理由書は,本件法人税各更正処分及び本件法人税各決定処分についての平成13年2月23日付け審査請求の理由書と実質的に同一内容であった。
ところが,本件法人税各更正処分及び本件法人税各決定処分に対する審査請求に対し,審査請求から3か月を経ても,原処分庁は何ら応答していない。
そうすると,本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分に対する審査請求手続においても,3か月以内に裁決がされないことは明らかである。
しかも,原告による本件消費税各更正処分及び本件法人税各決定処分に対する異議申立の日から1か月半も経過した後に,国税通則法89条1項に基づく合意によるみなす審査請求にかかる通知がされたために,遅延しているにもかかわらず,不服申立前置主義に反するとの主張をするのは,訴訟上の信義則にも反している。
本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分の審査請求の日から3か月経過した後においても,原告に対し,なんら裁決などされていない。
そうすると,不服申立前置主義の趣旨は,上記各訴え提起によってなんら害されていないことになる。
以上のとおり,原告には,審査請求に対する裁決を経ることなく本件訴えを提起する正当な理由があるというべきである。
(2) 本件法人税各更正処分,本件消費税各更正処分の違法性
本件取引は,明立が製造した明立基板をUDNが購入し,さらにUDNがこれをECTに売却したものである。
したがって,本件取引を行ったのは実質的には原告であるとして,原告に売却利益等があるとしてされた本件各処分はいずれも違法であり,取り消されるべきである。
また,本件各処分は,UDNが実際に負担した輸出入コストを控除せずに,UDNが原告から受けた利益供与額を算定しており,UDNが実際に得ていた利益以上の過大な利益を,原告からUDNに対する寄附金額とみなしており,この意味においても,違法である
(3) 本件取引の当事者
ア 取引全体の流れの中での本件取引の位置付け
パチスロ機の製造・販売は,大きく分けると,①ソフトの企画,開発,②パチスロ機の製造,③パチスロ機の販売という流れに従って行われており,明立基板の組立ては,上記②のパチスロ機の製造のうちの一過程である。
そして,本件における明立基板の物流過程は以下のとおりであった。
まず,明立は,原告小山工場から基板の部材一式を購入し,九沢製作所から生基板を購入して,それらを組み立てる。そして,この明立基板は,明立から原告小山工場又はECJの小山配送センターに納入され,その後UDNに対して輸出され(本件明立側取引),UDNからECJの製造部門であるECTが輸入(本件ECT側取引)することになっていた。
それから,明立基板は,ECJの指示に基づき,ECJの指定運送業者によって,日電協の封印会場に運び込まれる。
一方,明立基板の搭載されるパチスロ機に係るソフトの開発(上記①の過程)については,ECJ従業員が行っており,その開発されたソフトはROMに書き込まれ,日電協の上記封印会場において各明立基板に,上記ROMが取り付けられて封印される。
このようにしてROMが取り付けられて封印された明立基板は,ECTの下請け会社である株式会社オリモトのα工場に運び込まれ,明立基板以外のパチスロ機を構成するユニットと共に,最終的な組み立て作業が行われ,パチスロ機として完成される。
ECJは,上記のようにして完成したパチスロ機を,代理店を通じて,あるいは直接パチスロ設置店舗であるパーラー等へ出荷して利益を得ていた。
以上のとおり,本件取引は,パチスロ機の開発,製造,販売の中におけるごく一部分である,メイン基板の売買取引に係るものである。
イ UDNとECT間の明立基板売買契約の存在
被告は,明立とUDN,UDNとECTが,それぞれ独自に明立基板の売買契約を締結し,実際にそのとおりに売買代金が支払われているにもかかわらず,これを全て原告が作出した仮装の取引であると主張する。
しかし,明立とUDNとの間及びUDNとECTとの間における各売買契約は,下記のとおり,仮装ではなく,真正なものである。
そして,租税法律主義の下では,納税者には,自己が選択した法形式を税法上の明文規定がない限り,課税庁から否認され,課税庁が認定したところの法形式に従って課税されることはないという意味の私的自治が認められているから,被告の上記主張は,自らが税務上適正と判断した取引を納税者に強要するものであって,租税法律主義,私的自治の原則に反して違法である。
a 売買契約書の存在
明立とUDNとの間及びUDNとECTとの間における各明立基板売買の売買契約書は,いずれも真正に作成された。
そして,上記各売買契約書はいわゆる処分証書に該当するから,民事訴訟法上の処分証書の法理からして,当該契約書自体によって当然に,明立とUDNとの間及びUDNとECTとの間における各売買契約の成立がいずれも認められる。
そうすると,被告が,このような強固な根拠に基づき認められる売買契約の成立を否認するのであれば,これを覆すに足る,より強固な根拠を,証拠を示して主張すべきところ,被告は,そのような主張をしていない。
b 被告は,明立とUDNとの間,UDNとECTとの間における各明立基板売買が仮装であると主張するが,これが仮装であるといい得るためには,被告において,①明立は,UDNに明立基板を売る意思がなく,②UDNは,明立から明立基板を買う意思がなく,③UDNは,ECTに明立基板を売る意思がなく,④ECTは,UDNから明立基板を買う意思がないのに,⑤原告が,あたかも明立基板について,明立とUDNとの間及びUDNとECTとの間の各売買があったかのように仮装したことを主張しなければならないが,被告は,そのような主張をしていないから,そもそも,上記主張自体失当である。
c UDNとECJは,従来から,ECJの日本市場向けのパチスロ機生産に関して,ECJがUDNからパチスロ機の完成品,ないし部材を調達する継続的な取引関係にあったから,平成8年11月から平成10年9月の期間に行われたECJの子会社を通じて行われた本件取引も,ECJとUDNとの間の上記継続的取引関係の延長線上にあるにすぎない。
そうすると,被告の上記主張は,UDNとECJとの間の上記継続的取引関係の中途の一部の期間のみを取り上げて,これを外形だけで内実のない「仮装の取引」であると論難するものであって,このような継続的取引全期間にわたる取引関係を完全に無視している点において,失当である。
d さらに,被告の主張は,明立,UDN,ECTの法人格を無視している点においても失当である。すなわち,被告は,原告が,UDN及びECTに各売買契約書を作成させ,あたかも,明立とUDNとの間及びUDNとECTとの間で明立基板がそれぞれ売買されたかのような体裁を整えさせた上で,明立基板の売上代金をECTからUDN,仕入れ代金をUDNから明立にそれぞれ送金させることにより,原告が得た明立基板売買による利益をUDNに供与したと主張する。
しかし,仮に原告がECTやUDNの経営に何らかの影響を与え得たとしても,原告,ECT,UDNは互いに別人格を有する法人であるから,原告において,ECTやUDNに売買契約書を作成させたり,売買代金を送金させたりはできない。
また,明立と原告の間には,明立の経営に原告が深く関与できる関係にはないから,原告が明立に売買契約書を作成させることは到底できない。
e 被告は,本件取引により当然に利益が生じるものとして,原告がその利益をUDNに供与する目的であったように主張しているが,本件取引によって利益が生じるかどうかについては,本件取引の当初においては,予測できない事柄であったから,この点において被告の主張は失当である。
f 本件取引のための輸出入費用として,明立において,明立基板をUDNに輸出するための費用として合計4921万1172円を,UDNにおいて,明立基板を明立から輸入するための費用として1803万8875円及び明立基板をUDNからECTに輸出するための費用として946万4543円を,ECTにおいて,明立基板をUDNから輸入するための費用として2億6046万3207円をそれぞれ支出しており,このような莫大な費用をかけて本件取引を仮装,隠ぺいすべき何らの動機もない。
また,本件取引において,実際には,明立基板ではなくダミー基板が輸出入されていたことは事実であるが,これは,ECJの要求する納期に間に合わせるために,原告小山工場担当者が,原告代表者P1の指示に反して,独断で行なっていたものである。
ウ 本件取引をUDNが行わなければならなかった必然性
ECJは,下記のとおり,日電協からパチスロ機の全部又は一部を海外から輸入するよう強要されていたため,米国法人であるUDNから明立基板を輸入することとしたのであって,ECJ及びECTにおいては,原告ではなく,UDNを明立基板の購入相手としなければならない必然性があった。
a 日電協の排他的性質
日電協は,パチスロ機に関する特許を有するパテント・プール会社である日電特許を介して,パチスロ機の特許権等を管理(非組合員に対して権利行使して,市場から排除することを含む。)し,事実上,日本において,パチスロ機製造販売ビジネスを支配していた。そして,このような日電協による,対外資系企業差別は,準組合員制度が廃止された平成7年12月13日以降も継続されていた。
b 日電協のECTに対する圧力
外資系企業であるECTは,日電協からの圧力により,日本においてパチスロ機ビジネスを展開するためには,海外法人であるUDNから,明立基板を購入することが必須であった。
そして,ECJが,日電協の正組合員になってから正確に3年後である平成10年12月に,原告との間で製造販売許諾契約を締結したのは,ECJが正組合員として日電協に加入してから3年間を経過したことにより,ECJも他の国内生産業者と同様に,一切海外取引を介在させることなく,日本国内においてパチスロ機を製造販売することができるようになったからである。
c 以上のような経緯に照らすと,明立基板取引を行ったのはUDNではなく,原告であるとの被告の主張は,ECTにとって,実行不可能な取引を前提とする主張であり,失当である。
エ 明立基板売買の利益をUDNが得る正当性
a P1は,債務超過状態にあったUDNの社長として,かかる債務超過状態を解消すべく,ECJと本件取引を行うことによって,UDNの利益を上げようと考えていた。
そして,UDN社長でもあるP1の明立基板取引を行った意図がUDNの債務超過状態の解消にあったという事実は,明立とUDNとの間,UDNとECTとの間において本件取引が行われたという原告主張を裏付ける経済的動機の重要な一部を構成するものである。
b P1がECJに対して行ったソフト開発及び経営に関する指導の対価
(a) パチスロ機の製造,販売の全過程中における本件取引の位置付け
パチスロ機は,前記のとおり,基板にパチスロ機用ソフトを焼き付けられたROMが取り付けられて封印され,その他のユニット,部材と共に組立作業が行われて完成する。
本件取引は,ROMの取り付けられていない基板,すなわち,ソフトの登載されていない基板についての取引である。
(b) パチスロ機の有する付加価値の内容
原告製パチスロ機の平均価格は,約35万円である。
このうち,完成品部材一式の原価は10万円前後,日電協・日電特許に対する支払ロイヤリティは5000円程度で,その製造(組立て)工賃が1万5000円前後であり,この組立工賃のうち,基板に係る組立工賃は,1000円から2000円程度である。
そして,ECJが,同社製パチスロ機の販売をするときの平均価格は27万円前後であるので,上記原価,ロイヤルティ,組立工賃を差し引いた15万円前後のうち,5万円前後が,ECJ本社の管理費用,販売費用,開発費用であり,残り10万円前後がパチスロ機に登載されたソフトの付加価値となる。
これに対し,明立基板は,基板部材の原価に上記組立工賃1000円ないし2000円に相当する付加価値がついた価値しか有していない。
(c) P1がECJに対して行った指導内容
P1は,ECJの従業員に対し,パチスロ機用ソフト開発の技術指導や,パチスロ機ビジネスの経営指導を行っていた。
このように,P1が,人気ソフトの開発等について指導した結果,ECJは,人気機種の開発に成功し,当該人気機種を大量に販売することができ,ECJ自身は日本におけるパチスロ機ビジネスについて完全な素人であったにもかかわらず,極めて短期間に高収益を上げる企業となった。
(d) P1がECJに対して行った上記指導が,UDNの社長の立場で行われたものであること
P1が,ECJの開発部員に対して行った人気ソフトの開発に関する指導は,人気ソフトの開発が常に新規性・創造性を求められるという性質上,個人の創造性によって生み出されるアイディアを基礎として行われる行為である。
そうすると,P1個人の頭脳の中で生み出された人気ソフトの開発に係るアイディアは,原始的にP1個人に帰属するから,P1個人が,当該創造的アイディアを,誰のために利用するかは,P1個人が決定権を有する事柄である。
すなわち,P1が上記アイディアを,UDNの社長として,UDNのために使うと決めた以上,当該アイディアによって生み出された利益は,UDNに帰属するというべきである。
さらに,UDNは,過去にラスベガスのスロットマシーン市場の70パーセントを押さえたこともある実績のある会社であるところ,スロットマシーンとパチスロ機とは,ソフトの面では本質的に同一である。また,原告製パチスロ機はマニア向けの機種であったのに対し,UDNが過去に米国ネバダ州で製造販売していたスロットマシーンは,素人向けの機種が主であったが,当時のECJ製パチスロ機は,素人向けの機種であった。そして,P1がECJに提供した製造の外部委託,代理店販売を中心とする販売体制等の経営指導は,P1が米国においてUDNを経営することにより培われた経験,ノウハウに基づくものである。
このような意味からも,P1がECJの開発部員に対して行った人気ソフトの開発指導は,UDNの営業活動を通して獲得したノウハウに基づくものというべきであるから,P1がUDNの社長として上記の指導を行うことに不自然な点はなく,むしろ,UDNの社長という立場であってこそ提供し得るノウハウであった。
(e) 以上によれば,ECJが,ECTを通じて,UDNから明立基板を仕入れていた動機の一つに,その売買代金に,UDNの社長としてのP1による上記指導の対価を上乗せして,UDNにその対価を支払う意図があったことが認められ,原告ではなく,UDNが明立基板取引による代金を受け取るべき正当性があったというべきである。
なお,ECTはECJからパチスロ機の組立てを受託している会社であり,実質的にECJの製造部門と位置付けられている100パーセント子会社であるから,ECJは,ECTの購入価格を通じて上記指導の対価を支払うことが可能であった。
そうすると,本件取引によってUDNがECTから支払を受けた対価は,P1がUDNの社長として,ECJの開発部員に対して行った,極めて付加価値の高い開発指導の対価を含むものであるから,人気ソフトの生む利益額に相当する上記約10万円のうち,2分の1である約5万円(本件取引による利益6万6000円のうち,輸出入費用相当額を差し引くと,この程度の金額になる。)という利益額は,極めて合理的かつ適正な対価額である。
c ECJの代表取締役P2とUDN代表取締役P1との間の平成6年1月28日付け覚書から明らかなとおり,契約当事者であるP2も,P1も,ECJの契約の相手方の代表者は,原告の代表取締役としてのP1ではなく,UDN代表取締役としてのP1であることを,明確に意識した上で合意している。
したがって,UDNは,本件取引の利益を受け取るべき契約上の法的根拠を有しているものである。
d 明立基板取引による対価を原告が得ることに合理性がないこと
(a) ECJ製パチスロ機は素人向けの機種であるのに対し,原告製パチスロ機は極めてマニア向けの機種であり,競合する可能性が最も低かった。そこで,P1は,原告とECJの営業が競合することを避けるため,原告では開発製造販売をしていなかった素人向けの機種を,UDNとECJとの間の取引を通じて,開発,製造,販売を試みようとしたものである。
このように,ECJと原告の営業が競合を生じないようにすることは,原告の社長であり,同時にUDNの社長でもあるP1にとって,当然の経営戦略であった。なお,ECJと原告との営業が競合を生じないことは,当時,原告のパチスロ機市場のシェアが,20パーセント程度であり,他の企業と充分棲み分け可能なシェアであった事実からも明らかである。
(b) 明立基板取引の当事者である原告,明立,UDN,ECT及びその親会社であるECJはいずれも,パチスロ機ビジネスにおける製品組立行為の付加価値の低さを熟知していたのであり,単に部材供給するだけの原告が販売代金の約41%の利益の他に何らかの利益を得る理由がないことは,取引当事者全員の共通認識であった。
そして,原告は,原告小山工場において,明立基板の品質検査を行なっていたが,これは,明立基板の組立ては,ボードに各種部材を差し込むだけの技術水準の低い工程であり,その基板の不具合の原因は,原告が明立に販売している各種部材の品質に問題がある場合がほとんどであるため,原告が,直ちに,それらの部材の製造元に対し,クレームを出すことを可能にするためであった。
したがって,原告が明立基板の原材料となる各種部材の仕入販売によって,約41%の転売利益を得る他に,更に利益を得る経済的合理的理由は,全くなかった。
なお,原告が行った明立基板取引において基板の部材供給は,仮に被告の主張のとおり,原告が明立基板の組立てを完全に管理していたとしても,その組立工賃がせいぜい1000円から2000円程度にしかならない,極めて付加価値の低い取引行為にすぎない。
(4) 本件各重加算税賦課処分の違法性
重加算税を適用する要件である,「仮装又は隠ぺい」に関し,被告は,課税要件該当事実ではない明立基板の輸出入された梱包の内容物の仮装と,課税要件該当事実である明立基板の売買の仮装とを混同した主張をするものであって,原告において,明立基板の売買を仮装した事実はないのであるから,本件各重加算税賦課処分は,いずれも違法であり,取り消されるべきである。
すなわち,前記のとおり,原告に仮装・隠ぺい行為があったとする重加算税に係る原処分は,①明立基板取引についての当事者の経済的動機を説明し得ないこと,②売買契約書が,各取引当事者によって真正に作成されたこと,③原告には,仮装・隠ぺい行為を行う何らのメリットも認められないこと,④明立基板売買でUDNが収益を上げることで,原告は対UDN債権の貸倒れを免れていること,⑤被告の主張は自己矛盾を来していること等から,被告において,原告が,本件売買の契約当事者を仮装又は隠ぺいしたという事実を主張,立証し得ていない。
3 争点
(1) 本案前の争点
本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分の取消請求に係る訴えは,審査請求前置を欠く違法な訴えであるか。(争点1)
(2) 本案の争点
明立から明立基板を購入して,これをETCに売却するという本件取引を行った主体は,原告であるのか,UDNであるのか。(争点2)
第3当裁判所の判断
1 争点1について
国税通則法115条1項によれば,国税に関する法律に基づく処分で審査請求をすることができるものの取消しを求める訴えは,原則として,審査請求についての裁決を経た後であるか,審査請求をした日の翌日から起算して3か月を経過しても裁決がないときでなければ提起することができないとされているが,本件においては,原告の本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分についての異議申立てが審査請求とみなされた日からすでに3か月を経過しているにもかかわらず,原告の審査請求に対する裁決はされていない(弁論の全趣旨)。
そうすると,原告が裁決を経ていないことについての緊急の必要性及び正当な理由の有無等について検討するまでもなく,原告が審査請求に対する裁決を経ていないことが,本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分の取消しを求める各訴えを適法なものとして取り扱うについて妨げとなるものではないというべきである。
したがって,本件消費税各更正処分及び本件消費税各決定処分の取消請求に係る訴えは,適法であると認められる。
2 争点2について
(1) 証拠等によれば,以下の事実が認められる。
ア 日電協と日電特許について
a パチスロ機についての一定の関係特許を有しているパチスロ機製造業者数社は,集団的にサブライセンス権(再実施許諾権)付きで日電特許に対してライセンス(実施許諾)しているが,日電特許は,これらの関係特許等を,日電協の全ての組合員,準組合員にサブライセンスする一方で,日電協の組合委員又は準組合員以外の者に対しては,サブライセンスしないという取扱いを行っていた。(甲13ないし20)
b 日電協は,「組合加入申込に関する規則」(以下「加入規則」という。)を定めており,これによれば,日電協に加入するためには,一定の加入条件を満たした業者であることが必要とされている。
そして,外資系パチスロ機製造業者については,当初,日電協の正組合員となることが認められていなかったが,日電協は,平成3年11月6日,「国外生産業者の取扱に関する規則」を定めて,外資系パチスロ機製造業者が日電協の準組合員となることを認めることに改めた。さらに,日電協は,平成7年12月13日付けで,加入規則を改正して,上記準組合員制度を廃止し,外資系パチスロ機製造業者も日電協の正組合員となることを可能にした。
しかし,上記改正後の加入規則においては,国外生産業者の資格として「①国外生産業者は,当該本社工場で製造し,これを日本で販売する事業者であること,②国外生産業者は,日本国内にその事業者の100%出資による日本法人を有し,製造,販売に関する責任体制を保ち得る事業者であること,③国外生産業者は,前号に掲げる日本法人をもって当組合の組合員とみなすこと」と定められていた。
また,平成9年3月28日に加入規則が再度改正されるまでは,日電協に加入するためには,組合加入推薦人として日電協の理事3名の承諾を得ることが必要とされていた上,日電協理事会が組合加入申込者の審査をし,その審査結果を踏まえて理事会が加入の可否を審議し,その審議結果を理事長に報告し,その報告に基づいて理事長が加入の可否を加入申込者に通知するなどの手続を経るものとされていた。
このように,日電協への加入手続は,加入規則に従って行われていたが,既存の組合員が,新規企業の参入によって既得利益の減少が生じることを嫌うため,実際には,日電協への新規加入は,客観的な要件が備われば直ちに認められるという状況にはなかった。(甲11の1ないし3,20,48ないし50,乙18,乙35)
イ パチスロ機の開発,製造から販売に至る一般的な流れ
a パチスロ機の企画,ソフト開発
パチスロ機の開発は,まず,マーケティングに基づいて,開発指針が決定され,それを基に,ネーミング,デザイン,特性,ゲーム性などのコンセプトを含むパチスロ機の開発企画の考案が行われる。そして,このような企画に基づいて,プログラミング,サウンド,デザイン等の開発行為,試作などが行われる。
このようなパチスロ機のソフト開発には,通常,1年程度の期間を要するが,開発されたパチスロ機が売れる期間は,通常1か月から3か月程度であり,特別にヒットするもので1,2年,まれに大ヒットした場合には3年程度である。 (甲73,74,原告代表者)
b 財団法人保安電子通信技術協会における検定
上記開発されたパチスロ機については,財団法人保安電子通信技術協会に申請して,風営法に適合しているかどうかの検定を受ける必要がある(同法20条4項,5項)。
上記検定に合格すると,上記協会から,ソフトとして開発されたプログラムが書き込まれたROMを49個もらい,このうち48個は各都道府県警察から販売許可を受けるための申請用として使用され,1個がマスターのROMとして日電協に渡され,後記のとおり,日電協の封印会場で行なわれるROMの焼き付けの際に使用される。(甲73,74,乙1)
c 基板の製作
基板は,生基板に部品を挿入させ,ハンダ層に流して完成する。(甲74)
なお,上記の工程を終了し,未だROMの搭載されていない段階における基板の一般的な価格は,1万2000円から1万3000円程度である。(甲74,原告代表者)
d 基板へのROMの組込みと封印
ソフトの搭載されたマスターROMは,日電協の封印会場において,パチスロ機の製造予定台数分の新規ROMに焼き付けられ(コピーされ),焼き付けられたROMを各基板に組み込んで,封印する。そして,この封印会場には,日電協職員のほかは,当該パチスロ機の製造業者の社員だけが入ることができるものとされている。(甲74,乙1)
日電協における上記封印作業は,基板内のCPU,ROMなどの主要部品の不正改造や不正使用の防止策として,ケースに封止(かしめ)をして基板管理番号を貼り付け,電子回路内にセキュリティー・ワンチップを組み込むなどの対策を講じる作業であり,パチスロ機の出荷前には,封印のためにメイン基板を自社又は指定運送業者が日電協の封印作業所に搬送し,日電協職員立会いの下に封印作業を行うこととされているものである。(争いのない事実)
なお,ROMの組み込まれた基板の部品価格は,概ね11万円程度である。(甲81)
e パチスロ機の完成
ROMの組み込まれた基板,筐体,その他の部材ユニットが組み立てられて,パチスロ機が製品として完成する。(甲73,74)
f 出荷
製品として完成したパチスロ機は,販売代理店を通じて,あるいは直接,パチスロ機設置店舗のパーラーなどに販売,配送される。(甲73,74)
なお,パチスロ機の末端小売価格は,28万円から36万円位である。(原告代表者)
g パチスロ機ビジネスにおけるソフト開発の重要性
原告代表者は,パチスロ機の開発,製造,販売,管理の全てを業務として行っている原告における各業務内容の重要性の程度について,人気のある機種を上手に作り,それを上手に売ることが最も重要であることを理由に,開発が約40パーセント,販売が約30パーセント,管理が約20パーセント,製造が約10パーセントと評価している。(原告代表者)
ウ 本件取引の目的物と代金額
本件取引の目的物は,ソフトの搭載されたROMが組み込まれる前の段階のメイン基板であるが,明立が販売する際の価格は1万4000円,ECTが購入する際の価格は8万円であった。
なお,明立が販売してからECTが購入するまでの間においては,明立基板自体に対する加工は一切されておらず,ECTが購入する明立基板は,明立が販売した明立基板と全く同一のものであった。(争いのない事実)
エ 本件取引に至る経緯等
a ECJの日本市場参入
(a) P1は,ECJ及びECAの代表者であるP2と20年来の友人関係にあり,過去に,P1自身が海外でビジネスを行うに際してP2から協力を得たこともあったことから,平成3年ころ,P2に対し,同人が同年8月に設立したECJの日本市場参入のために協力することを約束した。(甲29,60)
そして,ECJは,その設立当初ころから,日電協に準組合員として加入するころまでの間,UDNから,スロットマシーンのリール用帯等の部材を購入し,当該部材をそのまま海外の他社に転売するという取引を行って利益を得ていた。(甲60,原告代表者)
(b) 前記のとおり,外資系パチスロ機製造業者は,平成3年11月6日以降は,日電協の準組合員となることが認められるようになっていたが,この準組合員となるためには,海外で製造された輸入機械の販売しか行わないこと(以下「輸入条件」という。)が事実上の条件とされていた。(甲21ないし29,32)
そこで,ECJは,平成5年9月14日,準組合員として日電協に加入するために,日電協に対し,部材等を輸入することを誓約し,その結果,平成5年10月,日電協の準組合員として,日電協に加入することができた。(甲10)
(c) P1は,UDNの代表者として,平成6年1月28日,ECJとの間で,覚書を取り交わして,①P1は,UDNやその子会社であるPGLなど,自己の海外関連会社を通してのみ,ECJを応援し,ECJに協力する,②UDN及びPGLは,将来ECJが独自に製造することができるようになるまで,部品又は組立品を供給することで,応援する,③UDNは,ECJが独り立ちできるまで全面的にECJを応援し,ECJに協力する,④UDNは,知り得るだけの全てのデータ及び情報を提供して,ECJが日本のプレーヤーに受け入れられるようなゲームを開発できるようにECJを応援し,努力する,⑤原告は,ECJの製品が優秀であった場合には販売の一部を引き受ける権利のみを有するが,独占的な取引はできないものとするなどを合意した。(甲5)
(d) その後,日電協は,前記のとおり,平成7年12月13日付けで,準組合員の制度を廃止したため,外資系パチスロ製造業社も日電協の正組合員となることが可能となり,ECJは,同日付けで,日電協の正組合員となった。(乙18,35)
b P1が行なったECJ従業員に対する指導等
P1は,平成4年の前半ころ,P2から依頼を受けて,そのころから,ECJの開発部員に対し,パチスロ機のソフト開発に必要な知識,技能(具体的には,開発技術の習得方法,ネーミングのポイント,リーチ目の図柄の配列,リール上の図柄の配列,ゲーム性,風営法の解釈,検定申請の書類の書き方など)の開発指導を直接行なうようになった。このような開発に関する指導は,平成8年11月から平成10年9月までの本件取引の期間中にも,多いときには週に3回位,少ないときでも月4回位行われていた。
また,P1は,ECJの従業員に対し,購買製造生産体制の確立,代理店を中心とする販売体制の確立などの経営指導も行なっていた。
なお,P1は,コンピュータ式パチスロ機の開発に初めて成功した技術者であって,人気ソフト開発に必要な知識と技術を有しており,また,原告及びUDNの経営者として,日本及び米国におけるパチスロ機やスロットマシーンの製造・販売ビジネスについての経営知識を有していた。(甲29,60,73ないし75の3,原告代表者)
さらに,P1は,上記のようなECJ内部の従業員に対する指導のほか,平成7年8月から平成9年12月まで,ECJの顧問として在籍し,販売代理店に対する指導などの対外的業務も行ない,ECJから,顧問料として月額100万円の給料及び5回の賞与を受けており,総額6400万円の報酬を得ていた。(乙34,原告代表者)
c ECJ開発部員によるソフト開発
ECJには,本件取引が行なわれていた当時,10名余りから24,5名程度の開発部員が在籍していたが,これらの開発部員は,ECJ入社当時には,いずれもパチスロ機ソフト開発の経験がない素人であった。
しかし,前記のとおり,これらの開発部員は,P1から直接指導を受けた結果,パチスロ機のソフト開発を行なうノウハウを習得し,「スーパーモグモグ」,「ゲッターマウス」,「ボーナスショップ」,「ドギージャム」,「ゲッターマウス2」などの機種にかかるソフトを開発した(なお,以下では,ECJの開発部員によって開発されたソフトの搭載されたパチスロ機について「ECJ機」というものとする。)。(甲73ないし75の3,原告代表者)
d UDN,PGL,ECJ間の取引
(a) ECJは,平成7年6月から平成8年9月までの間,UDNの100%子会社であるPGLが組み立てたパチスロ機(ECJ機)の完成品をUDNから,1台約18万円で輸入する取引(以下「PGL取引」という。)を行っていた。
P1とECJ代表者は,P1がECJに対して行っている前記開発指導及び経営指導等に対する対価として,ECJがUDNに対して上記PGL取引における販売価格に上乗せする形式で約5万円を支払う旨を合意していた。
そこで,上記合意に基づいて,UDNは,上記PGL取引において,パチスロ機に対する加工等を全く行わないにもかかわらず,1台約13万円でPGLから購入したパチスロ機を,ECJに対して約18万円で販売し,パチスロ機1台当たり約5万円の利益を得ていた。(甲73,原告代表者)
(b) PGLは,オーストラリアにおいて,日本から輸入した部材・ユニットと,オーストラリア等で調達したその他の部材・ユニットを合わせて組立てを行い,筐体に組み込んで,PGL取引の対象とされたパチスロ機を完成させていた。
なお,原告は,PGLに対して,上記パチスロ機製造に必要な部材の一部を供給していた。(原告代表者)
(c) PGL取引の対象とされたパチスロ機に搭載されていたソフトは,「スーパーモグモグ」という機種に係るものであり,同ソフトは,P1の指導を受けてECJ社員が独自に開発したものであった。
なお,PGL取引の対象であるパチスロ機の完成品に組み込まれるメイン基板に,上記ソフトが搭載されたROMを組み込んで封印する作業は,ECJ従業員が日電協の封印会場において行っていた。(原告代表者)
(d) ところが,PGL社が組み立てるパチスロ機には,寸法が規格どおりでないなどの品質上の問題や,輸出入に伴う輸送中に故障が発生するなどの問題が生じたため,ECJは,UDNに対し,品質改良を要求した。
そこで,P1は,P2に対し,パチスロ機の完成品をECJがUDNから輸入するPGL取引に代えて,ECJの製造部門であるECTが,UDNから,同社が調達した日本製メイン基板を輸入し,ECT自らが日本国内でパチスロ機を完成させることで,日電協の輸入条件を満たしつつ,パチスロ機の品質を維持する方法を提案し,P2は,これに応じ,ECJ機用メイン基板1枚当たり8万円程度を支払うことを承諾した。(甲29,60)
e 本件取引の具体的条件の決定
明立の代表取締役P9(以下「明立代表P9」という。)は,原告小山工場のP10(以下「原告担当P10」という。)から,原告が電子部品を供給するので,それを生基板に実装してメイン基板を組み立て,米国のUDNへ輸出してほしいとの話を受け,UDNの日本支店に相当するUDNジャパンの担当者であるP11(以下「UDN担当P11」という。)を紹介された。
明立には,これまで輸出の経験がなかったが,輸出関係の手続は全てUDN担当P11が行うという条件であったので,明立代表P9は,明立基板の販売を承諾した。
本件明立側取引に関する打ち合わせは,主として,原告の小山工場において,原告担当P10,UDN担当P11及び明立代表P9が行ったが,UDN担当P11が明立の事務所を訪れて行ったこともある。
本件明立側取引の具体的条件として,明立は,原告から電子部品を単価1万0100円で仕入れること,生基板はUDNの紹介で九沢製作所から単価1300円で仕入れること,副材料のビスは明立自身で仕入れ,ハンダ等の消耗品が原価となること,空港までの運賃,航空運賃,輸出手数料は明立負担とすること,輸出価額は単価1万4000円とし,UDNからの入金がされてから,原告及び九沢製作所に対し,上記の部品代金を支払うことなどが決められた。その結果,明立が得る加工賃としては諸経費を差し引いて基板1枚当たり1500円ないし1600円位とされていた。(乙2,5,21)
オ 契約書の存在
本件明立側取引については,明立とUDNとの間において,取引商品を「MIMO機」用メイン基板とすることが明記され,平成8年11月1日から発効する旨記載された売買契約書が作成されている。
また,本件ECT側取引については,ECTとUDNとの間において,取引商品をパチスロット用メイン基板とすることが明記され,平成8年11月1日から発効する旨が記載された売買契約書が作成されている。(甲3,47)
カ 金銭の流れ
本件明立側取引にかかる代金決済として,UDNから明立に対し,明立基板1枚当たり1万4000円として売却枚数相当代金額の金員が支払われ,本件ECT側取引にかかる代金決済として,ECTからUDNに対し,明立基板1枚当たり8万円として売却枚数相当代金額の金員が支払われている。(争いのない事実)
キ 物の流れ
a ECJは,原告のオフコンにパチスロ機用のメイン基板の発注数字を入れ,この数字に基づいて,原告小山工場担当者は,本件明立側取引にかかる輸出基板の数について,明立に対し,納品指示を行っていた。(乙3の1,5,6)
b 明立において製作された明立基板は,明立から,空港への出発地である配送センター等には輸送されず,全て原告小山工場に対して納入され,原告小山工場において,基板の動作確認をする検査が行なわれ,梱包された。(甲73,74,乙4,原告代表者)
c 原告小山工場に納入された明立基板は,数量確認された上,ECJの指定運送業者のトラックで,東京都文京区に所在する日電協の封印会場に運ばれ,日電協職員の立会いの下,プログラムソフト(「ゲッターマウス」,「ゲッターマウス2」,「ボーナスショップ」,「ドキージャム」,「ディージェーブロー」,「ディージェー」,「サクセション」という機種にかかるもの)の焼き付けられたROMが,ECJの従業員によって各明立基板に組み込まれ,封印された。(甲74,乙7,24の1ないし24の6)
なお,この封印会場において,明立基板に組み込まれたROMに焼き付けられたプログラムソフトの全ては,ECJの従業員が企画,開発して考案したものである。(争いのない事実)
d 封印済の明立基板は,ECJ小山配送センターからECTの下請け会社オリモトのα工場に運び込まれ,そこで,パチスロ機の筐体の組立て,メイン基板の組込み等が行なわれてパチスロ機(ECJ機)として完成された。
なお,原告は,ECTに対し,パチスロ機完成品を組み立てるために必要な各種部材,ユニットなどの一部を有償供給していた。(甲73,74)
e 原告は,上記完成されたパチスロ機(ECJ機)の一部を,買い取って販売することもあった。(原告代表者)
f 原告小山工場のP12は,ECJの担当者P13に対し,平成9年9月30日付けで,明立基板の在庫についての保管証明書を発行している。(乙27)
ク 原告による明立に対する部材供給
原告は,明立に対し,本件取引の目的物である明立基板用部材の電子部品を単価1万0100円で納入し,この電子部品取引によって,41パーセント程度の利益を得ていた。
原告が明立に納入する上記電子部品の個数は,明立が決定して原告に発注するということはなく,原告が,ECJから原告のオフコンに入った発注数字に基づいて,明立基板の生産予定数分の数量の電子部品を明立に納入していた。(甲60,乙2,3の1,4,5)
ケ 原告による明立に対する技術指導
明立は,原告小山工場から交付された図面をもとに,明立基板製作の作業指示に使用するための図面を作成した。(乙2)
明立は,原告小山工場の品質管理担当者であるP14から,本件明立側取引に係る明立基板について,技術的な指導を受けていた。また,明立基板に不良品があった場合,原告から明立に返送されていた。(乙3の2,4)
さらに,明立は,原告に対し,明立基板の試作品を平成8年11月22日に10個,平成9年2月6日に19個,同月26日に2個,同年12月12日に15個,平成10年1月19日に5個,それぞれ納品し,原告からそれらに対する支払を受けた。(乙26の1・2)
コ 九沢製作所による生基板の製作,納入
a 九沢製作所は,原告担当P10から,明立がECJ機のメイン基板を組み立て,UDNへ輸出することになったので,生基板を明立に納品し,代金を明立に請求してほしいとの話を受けた。
九沢製作所は,九沢製作所への支払が,UDNから明立への入金後という取引条件であったため,明立とUDNへの与信リスクに若干の不安を感じたものの,UDNが原告の関係会社であること,設計等の発注は原告であり,原告の保証付きのような取引なので,若干単価をアップするとの条件で,明立への生基板を納入することを引き受けた。(乙21)
b 九沢製作所は,原告から,原告が交付した電気回路図に基づく生基板のパターンの設計を依頼され,これを引き受け,原告からその設計料の支払を受けた。
九沢製作所は,上記パターンに基づいて,明立へ納入する生基板の製造を行い,これに関する技術的な指示などは,原告から受けていた。(乙21,25)
c 九沢製作所は,原告小山工場担当者から,上記明立に納入する生基板の納入個数の指示を受けていた。(乙21)
サ 明立基板の輸出入の実態
UDN担当P11は,輸出報告書・インボイスを作成し,これを明立に対して送り,明立代表P9や明立担当者P15が,これに署名して送り返していた。また,明立は,輸出代行業者から送付される請求書に従って,その請求金額を振り込んで支払っていた。(甲52の1・2,53の1・2,乙2,8)
さらに,少なくとも,平成8年に行われた初回の輸出入に関し,明立において輸出経費として108万6346円を,UDNにおいて輸入経費として約42万5103円を,UDNにおいて輸出経費として約19万5417円を,ECTにおいて輸入経費として387万9119円をそれぞれ現実に支払っている。(甲62ないし65)
しかし,実際に,明立から米国のUDN本社に対し航空便によって運ばれていたのは,明立基板ではなく,ダミーとして用意されたパチスロ用基板の中古在庫品であり,またUDNからECTに対し航空便によって運ばれていたものも,上記のダミーである中古在庫品であって,このダミー基板が梱包され繰り返し往復していたにすぎず,明立基板自体が,UDNに対して輸送,納入されたものではなかった。(争いのない事実)
シ 本件取引終了後の事情
a 原告は,本件取引終了後,原告は,ECJを原告の100パーセント子会社とする方針を決定し,ECJ株式の買収を開始した。
そして,原告は,上記方針を前提として,平成10年12月2日及び同月25日,ECJとの間で,原告が,ECJの回転式遊技機(「ジーセブン」及び「サクセション」という機種に係るもの)を製造し,日本国内で販売する非独占的権利を許諾し,その対価として遊技機1台当たり2万円をECJに支払う旨の製造販売許諾契約を締結した。
このため,このような製造販売許諾契約が締結された機種に係るパチスロ機については,原告が,ECJ機の製造・販売を全てを行なうこととなり,ECJに対しては,製造販売許諾の対価として1台当たり2万円を支払うのみとされた。なお,ECJに支払う対価が2万円と決定されたのは,原告においては,従前から,原告の100パーセント子会社に対するロイヤリティーを2万円と決めていたからである。(原告代表者,乙11の1・2)
b 明立は,平成13年7月26日,平成13年6月25日付けでされた消費税等の更正処分に対し,異議申立てを行い,本件明立側取引が輸出取引であったと主張している。(甲41の1・2,51)
(2) そこで,まず,上記の各事実を前提として,本件取引の主体が誰であったのかについて検討する。
ア 明立の意思
明立代表P9は,本件明立側取引の相手方はUDNであるとの前提で,明立において製作した明立基板をUDNに対し,全数輸出していたと認識していた旨を陳述している(乙2)。
そして,前記認定事実によれば,①明立とUDNとの間において売買契約書が作成されていること,②明立は代金をUDNから受け取っていること,③明立において,輸出費用を負担していること,④明立は,消費税等の更正処分に対する異議申立てにおいて,本件明立側取引が輸出取引であったと主張していること,⑤明立にとって販売先がUDNではなく原告でなければならないような特段の事情も窺われないことが認められる。
そうすると,これらの各事実に上記P9の陳述を総合考慮すれば,明立は,UDNに対して明立基板を輸出する意思で,本件明立側取引を行っていたと認められる。
イ ECJ及びECTの意思
ECJの代表取締役であるP2は,ECJが,日電協の圧力により日本国外でパチスロ機を製造することを余儀なくされ,外国メーカーからメイン基板を輸入しなければならない必要性を有していたことから,米国法人であるUDNからメイン基板を輸入したものであり,UDNとECJとの取引の目的は,UDNが海外の会社であるという事実を利用すること及びP1やUDNから製造工程や部材についてのノウハウを獲得することにあったと陳述している(甲29)。
そして,前記認定事実によれば,①本件取引開始以前から,P1は,UDNの代表者として,ECTの親会社であるECJとの間に覚書を取り交わし,UDNがECJに協力することを約束していたこと,②P1は,ECJの従業員に対し,ソフト開発に必要な技術指導や効率的な販売に必要な経営指導を継続的に行っていたこと,③本件取引の目的物である明立基板が組み込まれたパチスロ機及びPGL取引の目的物であるパチスロ機完成品に係るソフトは,いずれもECJの開発部員が,P1の上記指導を受けた結果,独自に開発したものであること,④ECJは,PGL取引において,UDNからパチスロ機の完成品を輸入しており,ECJは,PGL取引において,UDNに対し,パチスロ機の完成品の対価に上乗せして,P1が行っていた上記開発指導及び経営指導の対価として約5万円を支払っていたこと,⑤本件取引は,品質上の問題が多発したPGL取引に代えて開始されたものであること,⑥パチスロ機のメイン基板の通常の価格は,1万2000円から1万3000円程度であるにもかかわらず,P2は,UDNに対して明立基板代金として8万円を支払うことを承諾していたこと,⑦UDNが本件取引によって得る利益は,6万6000円から輸出入費用等の経費を差し引いた金額であって,PGL取引においてUDNが得ていた利益とほぼ同額であること,⑧ECTは,UDNとの間において本件ECT側取引を内容とする売買契約書を作成しており,明立基板の代金は,実際に,ECTからUDNに対して支払われていること,⑨日電協が外資系企業に対して実際に輸入条件を課しており,ECJは,日電協との間で,日電協の準組合員として組合に加入するに当たり,部材の輸入等を行うことを誓約していたこと,⑩ECTは,本件ECT側取引にかかる輸入経費を負担していたこと,⑪ECTはECJの製造部門と位置付けられたECJの100パーセント子会社であること,⑫ECJ及びECTにおいて,明立基板をUDNではなく原告から購入しなければならないような特段の事情も窺われないことが認められる。
そうすると,これらの事実に上記P2の陳述を併せて考えれば,ECT及びその親会社であるECJは,日本国内で生産されて,いったんUDNに輸出された明立基板をUDNから輸入することで,日電協から課された輸入条件を満たしつつ,ECJ機の品質維持を実現し,かつ,ECTを通じて,P1がUDN代表取締役としてECJに対して行ってきた開発指導及び経営指導に対する対価を明立基板代金に上乗せした形式で支払う意図を持って,本件ECT側取引を行っていたものと認めるのが相当である。
ウ UDN及び原告の意思
UDNの代表取締役であり,原告の代表取締役でもあるP1は,平成6年1月28日付けの覚書によって,P1が原告の社長としてはECJを応援できないが,UDNの社長として応援すると約束したことの延長線上で本件取引が行われたものである,ECJは,当初,ECJが日電協に課されていた輸入条件を満たすために,UDNからパチスロ機の完成品を輸入するPGL取引を行なっていたが,PGL取引は,品質,効率面で問題が大きかったので,①平成7年当時,日電協が,通商産業省の担当者から,準組合員制度を廃止するように指導を受けるなど,外資系企業を正面から差別することが難しくなっていたこと,②ECJにおいて,パチスロ機を完成品として輸入しなくても,メイン基板だけでも海外から輸入すれば,輸出入コストをECJが負担することになるので,日電協の組合員の外資系製造業者に対する要求を一応満たせることなどを考慮して,PGL取引に代えて本件取引を行うようになったものであり,本件取引を行ったのは,原告ではなくUDNである,本件取引によって生じた利益は,P1がUDNの社長として,ECJの開発部のスタッフに,人気ソフトをいかに開発するのかを直接にアドバイスしたこと等によって生み出された利益であってUDNに帰属する利益である,UDNが本件取引により利益を得てUDNが債務超過状態を解消することができれば,UDNに対し債権を有する原告にとっても利益になると考えていた,などと陳述している(甲60)。
そして,上記陳述に加えて,前記のとおり,ECJ及びECTにおいても,日電協から課された輸入条件を満たしつつ,ECJ機の品質維持を実現し,かつ,ECTを通じて,P1がUDN代表取締役としてECJに対して行ってきた開発及び経営指導に対する対価を明立基板代金に上乗せした形式で支払う意図を持って,本件ECT側取引を行っていたと認められること,明立もUDNを取引相手として明立基板を輸出する意思で本件明立側取引を行っていたと認められること,UDNも本件取引にかかる輸出入経費を負担していること,前記アの①ないし⑤及びイの①ないし⑫記載の各事実を併せて考えると,原告及びUDN双方の代表者の地位にあったP1は,UDN代表取締役として,ECJに対し開発指導や経営指導等の協力を行ってきたものであって,その協力に対する対価を,本件取引の目的物である明立基板の対価に上乗せする形式で,ECJからECTを通じてUDNに支払わせるとともに,ECJが日電協から課された輸入条件を満たすことを意図して本件取引を行うことを決定したものと認められる。
そうであるとすれば,P1は,本件明立側取引及び本件ECT側取引のいずれについても,原告ではなく,UDNを契約当事者として,実行する意思を有していたものと認められ,これが法人としてのUDN及び原告の意思でもあったと認めることができる。
エ 以上によれば,本件取引について,明立にあっては,UDNに対し明立基板を輸出する意思を有し,UDNにあっては,明立から明立基板を購入し,これをECTに販売する意思を有し,ECTにあっては,UDNから明立基板を輸入する意思を有していたと認められ,明立とUDNの間において及びUDNとECTとの間において,それぞれ,明立基板取引についての意思が合致したことにより,本件明立側取引に係る売買契約及び本件ECT側取引に係る売買契約がそれぞれ成立し,これらの売買契約に基づいて,それぞれ明立基板の納入及び代金決済が行われていたものと認めるのが相当である。
そして,本件取引のうち,ECT側取引については,単なる明立基板の売買という意味にとどまらず,その代金額には,P1がUDN代表取締役として行っていた開発指導及び経営指導に対する対価も含まれるものであることについても,ECT(ECJ)及びUDNの意思は合致していたと認められる。
(3) これに対し,被告は,①原告が封印済みの明立基板の検査を行っていること,②明立は,あらゆる意味で原告の管理の下に明立基板を加工,販売していたと認められること,③UDNは,明立基板の引渡しも受けず,全く何の関与もしていないから,本件取引による利益がUDNに帰属する理由がないこと,④本件取引当初からダミー基板を輸出入することが予定されていたこと,⑤ダミー基板を繰り返し輸出入していたにもかかわらず,それについて当事者のいずれかからクレームがなかったこと,⑥本件取引終了後,原告が名実ともに明立基板取引の当事者となった際の実体と本件取引の実体に変化がないこと,⑦本件取引がUDNの債務超過を解消させる目的の下に行われたことなどを根拠として,本件取引当事者は,外形的にUDNとの間で売買契約を締結しているにすぎず,UDNとの間で明立基板を売却しまたは購入する効果意思を欠いていたとし,本件取引が,実質的には原告が明立から明立基板を購入し,ECTにこれを販売した取引であるにもかかわらず,明立基板の加工,製造を管理し,かつECT及びUDNに対し支配力を有する原告において,UDNが本件取引を行った実体があるかのように仮装したものであると主張する。
そこで,以下,UDNを取引当事者とすることが仮装であったと認めるに足りるような特別の事情があったか否かについて,被告の主張する上記具体的根拠事実に即して,個別に検討する。
ア 原告が封印済みの明立基板の検査を行っているとの主張について
被告は,原告が封印後の明立基板の検査を行っており,そのようなことは,原告が本件取引の当事者でなければ全く考えられないと主張する。
この点に関し,原告小山工場業務係長P16は,「この当時の基板受入から封印,製品出荷まで一連の作業の流れを説明して下さい。」との質問に対し,「メイン基板の実装は明立が行っており,当工場で受け取るのですが,受け取りの際数量チェックにP17かP12が立会い,数量確認して受取書にサインしていました。受け取った基板は,封印のためトラックに積み込み,βにある日電協に持ち込みます。封印計画書は誰からかは憶えていませんが業務からもらっていました。工場に戻った封印基板は基板室に入り,製造ラインで電気検査を行い,製品としてホール毎に振り分け,東武運輸の配送センターから出荷されます。ホール毎の振り分けは当工場で行っていました。」と供述している(乙7)。
しかし,上記供述には,基板の筐体の組立工程についての説明が省略されており,上記にいう「電気検査」が何のために行われるどの工程における検査であるのかが,上記供述自体からは明確でないところ,原告代表者P1は,基板の封印後には基板自体の検査を行うことはできないものであり,上記供述中の「電気検査」とは,基板の検査ではなく,パチスロ機の完成品出荷前の筐体の検査であって,ECJ製のパチスロ機完成品を原告が買い取って販売する場合に行われる検査である,と説明している(原告代表者)。
そうすると,上記P16が述べる「検査」が封印後の基板の検査であるのかについて疑問があり,同人の供述によって,原告が封印後の基板の検査を行っていたと認めることは困難である。
また,被告は,稟議書(乙28)によれば,平成8年8月30日付けで原告小山工場にECJ製パチスロ機を対象とした生産ライン(メイン基板の検査ラインを含む。)を設置するために起案された稟議書が承認がされていると認められ,これによれば,本件取引に先立ち,封印後の明立基板を検査するラインが原告小山工場に設置されており,原告は封印後の明立基板を検査していたと主張する。
しかし,上記稟議書(乙28)には,ECJ仕様機に関する記載部分に「他社機に変更して下さい。」との書き込みがあることからすると,実際に,同稟議書に記載されているとおり,ECJ仕様機に関する検査ラインが小山工場に設置されたのか否かについて疑問が残る。しかも,上記稟議書(乙28)に記載されている「検査」が,何のために行われる何に対する検査であるのか,同稟議書の記載自体からは必ずしも明らかではない上,同稟議書(乙28)に記載されている生産ラインは,パチスロ機を完成品として組み立てる最終工程(筐体,各部ユニット,メイン基板の組立て)に係るものであることが窺われるから,このような工程中に行われる検査が,果たしてメイン基板の検査であるのかどうかも定かとはいえない。
そうすると,上記稟議書(乙28)によっても,原告が封印後の明立基板の検査を行っていたとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告の上記主張は,前提を欠くものであって採用できない。
イ 明立基板の加工,販売が原告の管理の下に行われ,明立は,あらゆる意味で原告の管理の下に明立基板を加工,販売していたものと認められるとの主張について
被告は,①明立が原告の小山工場から明立基板製造のための部品一式,図面及び技術情報の提供を受けていること,②明立基板の製造計画,管理の一切を原告が行っていること,③明立は原告に明立基板を納入し,原告がECTに明立基板を納入していること,④ECJが日電協に提出した製造概況書には,基板関係の下請業者は明立である旨記載されていること,⑤UDNは明立基板の製造に関与していないこと,⑥明立自体には明立基板を開発,設計する技術はなく,ボードに各種部材を差し込むだけの技術水準の低い工程を行っているにすぎないこと,⑦明立には資金負担がないことを根拠として上記の主張をしている。
確かに,前記認定事実によれば,原告は,明立に対し,明立基板製造のための部品一式を有償供給し,原告小山工場から明立に対し,明立基板製作に関する図面,技術情報等が提供されていたこと,明立で組み立てられた明立基板は,明立から原告小山工場に運ばれ,同工場において,封印前の明立基板の動作検査及び梱包作業が行われていたこと,原告は,明立基板の製作数を明立に指示し,原告が明立に納入する電子部品の数量を,明立の発注に基づかずに原告自身が決定し,九沢製作所の生基板の明立への納入数を原告が指示していたこと,原告は,明立に対し,明立基板の試作品製作を依頼したり,九沢製作所に対し,明立基板の生基板の設計を依頼したりしていたことなどが認められる。
しかし,前記認定事実によれば,原告は,明立との間で,明立基板製造のための部品一式についての売買契約を締結していたことが認められるから,部品一式の有償供給は,上記売買契約の履行として行われていたものと認められる。
そして,前記認定事実によれば,ROMの組み込まれていないメイン基板の通常価格が1万2000円ないし1万3000円程度であるところ,明立が販売する際の明立基板の価格が輸出手数料等を含めて1万4000円とされ,原告が明立から受け取る電子部品の価格は単価1万0100円とされていたことが認められ,また,原告代表者の供述によれば,通常の部品取引は,10パーセント程度の利益率であるところ,上記電子部品売買契約においては,原告に約41パーセントの利益率が生じるようにその代金額が決められており,このように通常よりも高い代金額が設定されたのは,原告による動作検査や梱包作業などの協力料も含まれていたからであったことが認められる。
そうすると,図面等の技術情報の提供や動作検査,梱包作業などの原告が行った上記協力についても,上記売買契約の履行の一部として行われたと評価することは不合理とはいえない。
また,原告が,明立基板の製作数を明立に指示していたとの点についても,前記認定事実によれば,明立基板の製作数量を原告が独自に判断していたのではなく,明立基板の部材供給先である原告に対して,最終販売先であるECTの決定した必要数量が通知され,これに基づいて原告が上記明立基板製作数量を指示していたにすぎないから,原告が,明立基板の製造数を独自に決定し,管理していたとは認められない。
さらに,前記認定事実によれば,明立は,本件取引の目的物である明立基板の全ての部材を原告及び九沢製作所からの供給によって調達していたわけではなく,ビスなどの部材,ハンダ等の消耗品は明立自らの判断で調達していたと認められること,明立が生基板を購入していた九沢製作所は,明立が取引相手であるから,若干単価をアップするとの条件で,明立に対する生基板納入を引き受けたというのであるから,明立と九沢製作所との間で真正な売買契約が締結されていたと認められること,原告及び九沢製作所に対する明立の支払はUDNからの入金後でよいとされてはいたものの,UDNからの入金が確実である保証はなく,明立が負担すべき費用は,上記の支払のほか,明立自身が調達する材料費,人件費,輸出費用などがあり,明立にも本件取引について一定限度での資金負担があったと認められること,明立は,原告との間に資本関係や特殊な人的関係のない,独立の法人格を有する会社であって,明立自身,独自の立場,計算において,本件取引のリスクとメリットを判断して本件取引に参加したと認められることなどに鑑みれば,客観的な事実の面においても,明立があらゆる意味において原告の管理下で明立基板を加工,販売していたものとは到底認められず,他にこれを認めるに足りる主張,立証はない。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
ウ UDNは,明立基板の引渡しも受けず,全く何の関与もしていないから,本件取引による利益がUDNに帰属する理由がないとの主張について
a 本件取引において,明立が販売した明立基板とECTが購入した明立基板は全く同一のものであって,UDNにおいて,明立基板自体に対する加工などは一切行っていないこと及びUDNが現実に明立基板を受け取っていなかったことについては,当事者間に争いがない。
しかし,そもそも,売買の目的物の引渡しは,必ずしも,現実の引渡しによることなく,占有改定(民法183条)や指図による占有移転(民法184条)の方法によることも可能なのであるから,目的物が物理的な意味において現実に移転していないということは,直ちに売買目的物の引渡しがされていないことを意味するものではない。そして,本件においては,明立が製作した明立基板が,最終の譲渡先であるECTに納入されていることからすれば,UDNに引渡しがされていないとの被告の主張は,前提を欠いており,失当である。
b また,明立基板の引渡しの点は措くとしても,前記のとおり,ECTは,日電協から輸入条件を課されていたため,輸出入の実績を作るために米国法人であるUDNを取引相手として選んだのであって,この点においても,UDNは,本件取引において重要な役割を果たしているというべきであり,何の関与もないとは認められない。
これに対し,被告は,平成7年12月13日付け開催の日電協の臨時株主総会において,「組合加入申込に関する規則」が改正され,国内,国外企業とも同一に取り扱われることになり,ECJは,同日付けで準組合員から正組合員として承認されたため,これ以後は,ECJに対する日電協の輸入条件が自動的に撤廃されており,日電協の副理事長の職にあったP1は,その事実を知っていたと認められるから,ECJがUDNから明立基板を輸入しなければならない事情はなかったと主張し,日電協の総務課長P18はこれに沿う陳述をしている(乙33)。
しかし,正組合員となった外資系製造業者には輸入条件を一切課さないと明示した文書や決議が存在する旨の客観的証拠は提出されていない上,ECJに対する輸入条件が平成7年12月13日に撤廃されたと明示した決議や文書などの客観的証拠もなく,その旨ECJに対し通知されたとの証拠もないこと,平成11年ころ日電協に加入したアリストクラットに対しても,外国企業として制約が課されていたことが窺われること(甲48),平成7年12月13日の規則改正後に正組合員となった外資系製造業者であるバークレストについて,加入後3年が経過したことを理由に海外生産から国内生産に切り替えることが日電協の役員会議において承認されていること(甲48)に照らすと,平成7年12月13日の規則改正後は正組合員であれば当然に輸入条件が課されない取扱いに変更されたとは認められず,これに反するP18の陳述は措信できない。
そうすると,日電協において,ECJに対して課していた輸入条件が,平成7年12月13日の規則改正によって自動的に撤廃されたとの被告の主張は,本件の証拠関係の下においては,これを認めることができない。
c むしろ,前記のとおり,本件ECT側取引は,単に明立基板代金を支払うというだけでなく,ECJが,P1がUDN代表取締役として行っていたECJに対する開発指導及び経営指導等に対する対価をECTを通じてUDNに支払うという側面を有していたと認められるから,この点からも,本件取引による利益がUDNに帰属する理由があるというべきである。
これに対し,被告は,①原告の主張が,訴状では,「経営指導料」となっていたものが,原告準備書面(4)では,「開発指導に対する対価」に変遷していて不自然であり,また,原告が主張する経営指導や開発指導の内容が抽象的なものにとどまること,②P1が経営指導や開発指導を行っていたとしても,そのことに対する対価は,P1個人に対する顧問料として支払われており,明立基板に上乗せされているとは認められないこと,③ECJが,P1個人に対する顧問料以外に,P1が行った経営指導及び開発指導に対する対価をUDNに対して支払う必要性があったのであれば,UDNに対する指導料などの形式で別途支払われるべきであり,明立基板の代金に上乗せして支払うことには全く合理性がないことなどを根拠に,明立基板の価格には,P1の行った指導に対する対価は含まれていないと主張する。
しかし,原告は,訴状において,P1がECJに対して人気機種の開発方法を指導した旨の主張をしており,そのような開発指導も含めて,「経営指導」と表現していると理解することができ,原告の主張にはその趣旨において大きな変遷は認められない。また,その指導内容は,前記認定事実記載のとおり,パチスロ機開発の重要点であるリーチ目の図柄の配列,リール上の図柄の配列,ゲーム性,風営法の解釈,検定申請の書類の書き方などのソフト開発指導,代理店を中心とする販売体制の確立に必要な経営指導などであったことが認められ,これらの説明には十分に具体性もあると認められる。そして,P1個人が受け取っていた顧問料は,総額で6400万円にとどまり,本件取引によって生じた利益(明立基板1枚当たり5万円の利益とした場合で,総額33億2275万円)に比べれば極めて少額なものであること,P1が顧問としてECJに在籍していたのは平成7年8月から平成9年12月までであって,P1がECJ従業員に対する指導を行なっていた期間と完全には重ならず,原告代表者は,上記顧問料は,代理店等に対する指導など対外的業務に関するものであったと説明していることなどを併せ考慮すると,P1個人が顧問料を受け取っているとの事実があるからといって,ECJがそれ以上の対価を支払う必要がなかったとまでは認められない。また,P1が行った無形の指導に対し,どのような形式でその対価を支払うかは,当事者の合理的意思によって決められるべきものであり,本件において,明立基板代金に上乗せして支払うという方法をとることにも,前述のECJとECTとの関係を前提とすれば,一応の経済的合理性が認められる。
したがって,明立基板代金にP1が行なった指導の対価は含まれていなかったとの被告の主張は,採用できない。
d 次に,被告は,仮に,本件取引における明立基板代金にP1の指導に対する対価が上乗せされているとしても,本件取引終了後に原告とECJとの間で締結された製造販売許諾契約において,ECJの開発したパチスロ機の製造販売許諾の対価として原告がECJに対して支払うべき金額がパチスロ機1台当たりわずか2万円とされ,それ以外の利益を原告が得るものとされているのは,P1がUDN代表者としてではなく,原告代表者としてECJのソフト開発を指導したからであるとして,その対価は原告に帰属すべきであると主張する。
しかし,原告代表者の供述によれば,上記製造販売許諾契約は,原告がECJを買収して100パーセント子会社化するという方針決定を前提に締結されたものであること,これ以後は,原告がECJの親会社として製造・販売を全面的に行なうことが予定されていたこと,原告においては,100パーセント子会社に対するロイヤリティは2万円と決めていたことが認められるから,本件取引終了時と本件取引当時とでは,取引の前提を全く異にしており,上記製造販売許諾契約を根拠に,同契約締結以前にP1が行なった開発指導,経営指導が,原告代表者として行なわれたものであると認めることはできない。
ほかに,P1がECJに対して行なった開発指導,経営指導が,原告代表者として行なったものであると認めるに足りる主張,立証はない。
そうすると,P1がECJに対して行なった指導に対する対価として,本件取引において明立基板に上乗せされた対価が,原告に帰属するとの被告の主張は採用できない。
e 以上によれば,ECTは,海外から明立基板を輸入する必要性があったために,国外の会社であるUDNを取引相手として選び,その協力を求めたのであって,その対価として通常以上の代金を支払っていたのは,P1が行なった指導に対する対価を支払う意図があったと認められる。そして,P1がUDNの代表取締役であること,前記認定のようなP1がECJに協力するに至った経緯,ECJとUDNとの間における取引経緯等を総合考慮すると,P1が行なったECJに対する指導は,UDNの代表取締役として行なったものと評価することに不自然な点はなく,UDNが本件取引によって利益を得ることについて経済的合理性がなかったとは認められない。
したがって,本件取引による利益がUDNに帰属する理由がないとの被告の主張は採用できない。
エ 本件取引当初からダミー基板を輸出入することが予定されていたとの主張について
a 前記認定のとおり,本件においては,単に本件取引の目的物がUDNに移転していないというだけにとどまらず,実際には空輸されていない明立基板を空輸しているかのような輸出入手続がとられ,現実に目的物の物理的な移転があったかのように仮装されていたというという,一見,不自然な事実が認められる。そして,証拠によれば,明立が原告小山工場に明立基板を納入した初回が平成8年11月14日であるにもかかわらず,同月12日には,東京税関東京航空貨物出張所において輸出許可がされていること(乙4,31),ECTが明立基板を輸入した初回が平成8年11月26日であるにもかかわらず,同月18日から同月25日にかけて明立基板の封印作業がされていること(甲65,乙29の1)が認められるから,本件取引当初から,明立基板は,UDNに対し輸出されることなく,ダミー基板が輸出入されていたものと認められる。
他方,前記認定事実によれば,明立,ECT,UDNは,明立基板を輸出入するために必要な航空運賃,関税等の諸費用をそれぞれ負担し,輸出入に必要な書類の作成,諸手続をとっていたことも認められる。
b このようにダミー基板が輸出入されていたことについて,被告は,平成8年8月30日付け稟議書(乙28)の記載,原告小山工場業務係長P16の供述(乙7),元ECJ配送センター課長P19の供述(乙30),ECTからUDNに対する注文書に明立基板の型番や機種コード等の種類の特定事項の記載がされていないことを根拠に,本件取引当初から,本件取引当事者全員が,ダミー基板を輸出入するという事実を了知していたと主張する。
しかし,前記のとおり,平成8年8月30日付け稟議書(乙28)に記載された製造ラインが,本件取引の目的物である明立基板の組み込まれたECJ機を対象として承認されたものであるか否かには疑問があり,上記稟議書(乙28)によって,同稟議書記載通りの製造ラインが設置されたと認めることはできないし,本件取引における明立基板の輸出入体制を推認することもできないというほかない。そして,P16供述(乙7)及びP19供述(乙30)によっては,明立基板が輸出されたことがないとの事実は認められるものの,それが誰の指示によるもので,いかなる理由で実際の輸出をしなかったのかは明らかでない。また,注文書に明立基板を特定する事項の記載がないからといって,そのことから直ちにダミー基板の輸出入が予定されていたとは認められない。
そうすると,本件全証拠に照らしてみても,UDN代表者,原告代表者及びECJ代表者において,ダミー基板を輸出入することを予め容認していたと認めるに足りる証拠はなく,また,明立の代表者又は従業員が,本件取引において輸出されるのがダミー基板であるということを了知していたと認めるに足りる証拠もないから,本件取引の当事者全員が,本件取引当初から,ダミー基板を輸出入することを了知し,予定していたものとは認められない。
また,仮に,被告が主張するように当初からダミー基板を繰り返し輸出入することが計画され,UDNにおいて本件取引の目的物である明立基板を現実に受け取ることが全く前提とされていなかったとしても,目的物の現実の引渡しがなくても売買は真正に成立するものであることに鑑みれば,それだけで直ちに,本件取引当事者がUDNであることの実質性を失わせるものとまではいえない。
オ ダミー基板を繰り返し輸出入していたにもかかわらず,それについて当事者のいずれからもクレームがなかったとの主張について
前記認定事実によれば,ECJにおいては,日電協との間で誓約していた輸入条件を満たしつつ,低コストで高品質のパチスロ機を製造する必要性があったために,実際には日本国内で生産された明立基板を,いったん国外業者であるUDNに輸出した形にして,UDNからその明立基板をそのまま再度輸入するという形態の取引を行う必要性があったと認められる。
そうすると,本件取引の主たる目的は,在外法人との輸出入取引とその費用負担という実績を作ることにあったと認めるのが相当であり,もともと,本件取引に関与した者らの認識においても,UDNが明立基板に何らかの加工を行うことは予定されていなかったと認められる。
そうであるとすれば,本件取引は,輸出入の形式をとること自体に目的があるのであって,本件取引目的物である明立基板を現実に輸送することには,ほとんど意義がなかったと認められ,このような事情の下では,実際にはダミー基板が輸送されていて,本件取引の目的物である明立基板が輸送されていなかったことについて,本件取引関係者から何らクレームがなかったとの事実は,本件取引関係者においてUDNを取引当事者とする効果意思を有していたことを否定するものではない。
カ 本件取引終了後,原告が名実ともに明立基板取引の当事者となった際の実体と本件取引の実体に変化がないことについて
被告は,本件取引の終了後においては,原告はECJ機用メイン基板の部品一式の明立への支給方法を有償支給から無償支給へ変更するとともに,発注書を発効し,明立からECJ機用メイン基板を購入しているが,その製造,出荷指示等には一切変更がなく,本件取引終了後にECJとの間で製造販売許諾契約を締結した後は,ECJ機は全て原告が製造し,ECJには2万円しか支払われておらず,本件取引の実体は,取引終了後と変わっていないから,原告が本件取引開始当時から取引当事者であったことは明らかであると主張する。
この点,明立の代表取締役P9及び常務取締役P20は,「輸出取引が終了した後も,エレクトロコインのパチスロ基板を製造しており,このときは部材・部品の無償支給による外注加工取引であったが,正式にアルゼから発注書が来るようになったこと,明立は加工賃を収受するのみとなったこと以外,製造・納品指図等の管理形態は全く変わらなかった」と供述している(乙4)。
しかし,本件取引が平成10年9月に終了した後,同年12月には,原告がECJを買収する計画を前提に,原告とECJとの間で製造販売許諾契約が締結されるなど,本件取引の当時とは状況を異にしており,また,明立が受け取る代金も加工賃のみとされるなど,代金決済方法などの取引条件も変更されており,本件取引の実体に変化がないとはいえず,被告の上記主張は採用できない。
キ 本件取引がUDNの債務超過を解消させる目的の下に行われたとの主張について
被告は,原告が,本件取引開始前の時点で,原告の株式公開のために,原告の関係会社であるUDNの債務超過状態を解消する必要に迫られていたため,外形上UDNを取引相手とする本件取引を作出したものであると主張する。
しかし,前記認定のとおり,ECT及び明立において,UDNを取引相手とすることを承諾しているのであるから,UDNの債務超過を解消するためには,名実ともにUDNが本件取引を行うことによってその利益をあげることが最も簡明かつ効果的な方法であり,わざわざ原告が本件取引を行った上で,その取引当事者をUDNであるかのように仮装するという迂遠な方法を用いなければならないような事情は全く窺われない。
そうすると,原告において,UDNの債務超過状態を解消する必要があったという事実は,本件取引当事者が真にUDNであるとの事実と矛盾するものではなく,これを理由に本件取引当事者をUDNとしたことが仮装であったと認めることはできない。
(4) 結論
以上のとおり,前記認定事実の下において,UDNを本件取引当事者とすることが仮装であったと認めるに足りる事情はないというほかない。
そうすると,本件取引関係者の,UDNを本件取引当事者とするとの本件取引関係者の意思は,いずれも真正なものであったと認められ,真正に成立した売買契約に基づいて,UDNを取引当事者として,本件取引が行われていたと認められる。そして,ほかに,原告が本件取引を実質的に行っていたとの被告の主張を認めるに足りる主張,立証はない。
したがって,原告が本件取引を行なったものとしてされた本件各処分及び本件各重加算税賦課処分は,いずれも違法であるといわざるを得ない。
3 よって,原告の本件訴えはいずれも適法であり,また,本訴請求はいずれも理由があると認められるので,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明 裁判官 馬渡香津子)