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東京地方裁判所 平成13年(行ウ)162号 判決 2003年2月28日

原告

被告

練馬東税務署長 黒澤政夫

同指定代理人

本田利美

畑山茂樹

小宮山隆

山本雅一

野間健二郎

羽石誠

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が平成11年7月26日及び平成12年4月6日付けでした原告の平成10年分及び平成11年分所得税に係る還付金等を平成6年分所得税の過少申告加算税に充当した各処分が無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は、被告が平成11年7月26日付け及び平成12年4月6日付けで行った、原告の平成10年分及び平成11年分所得税に係る還付金等を平成6年分所得税の過少申告加算税に充当する各処分(以下あわせて「本件各充当処分」という。)につき、その前提となる平成6年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定が無効であるため、本件各充当処分も無効であるとして、同各処分の無効の確認を求めるものである。

2  法規の定め

(1)  充当

国税通則法(以下「通則法」という。)57条1項は、「国税局長、税務署長又は税関長は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、前条第1項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない。」と定めている。

(2)  青色申告及び青色申告の承認取消

所得税法143条は、「不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行なう居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出することができる。」とし、一定の帳簿書類を備え付け、正確な記帳を行っている納税者に対し、青色申告を行うことを認め、所得計算上あるいは申告や納税の手続上種々の特典を与えている。

所得税法148条は、「第143条(青色申告)の承認を受けている居住者は、大蔵省令で定めるところにより、同条に規定する業務につき帳簿書類を備え付けてこれに不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額に係る取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない。」と定めており、同法150条(平成11年法律第160号による改正前のもの)において、「第143条(青色申告)の承認を受けた居住者につき次の各号の一に該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に掲げる年までさかのぼって、その承認を取り消すことができる。」として、承認の取消事由を定め、同条1号は「その年における第143条に規定する業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が第148条第1項(青色申告者の帳簿書類)に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないこと」を挙げている。

なお、所得税法施行規則(平成12年大蔵省令69号による改正前のもの。以下同じ。)56条は、青色申告者の備え付けるべき帳簿書類について、同規則57条ないし64条に定めるところによらなければならない旨を規定し、青色申告者に対し、所得の金額が正確に計算できるように、資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引を正規の簿記に従い、整然と、かつ、明りょうに記録し、その記録に基づき貸借対照表及び損益計算表を作成すること(57条)、すべての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿(仕訳帳)、すべての取引を勘定科目の種類に分類して整理計算する帳簿(総勘定元帳)その他必要な帳簿を備え、大蔵大臣の定める取引に関する事項を記載すること(58条)、毎年12月31日において大蔵大臣の定める科目に従い貸借対照表及び損益計算書を作成すること(61条)等を義務付けている。

3  前提となる事実

(1)  練馬東税務署の乙調査官(以下「乙調査官」という。)は、同年8月22日に原告の事務所を訪れ、被告による原告の平成4年分及び5年分所得税についての調査が開始された(以下、一連の調査を「本件調査」という。)。

(2)  被告は、平成8年3月14日付けで、原告の平成4年分以降の所得税の青色申告承認の取消処分(以下「本件承認取消処分」という。)をするとともに、平成6年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。また、同日には、平成4年分及び5年分の所得税についても同様の処分がされた。

(3)  被告は、平成11年6月29日付けで行った原告の平成10年分所得税の減額更正処分により生じた還付金3万7500円及び還付加算金1200円の合計3万8700円を、通則法57条1項の規定に基づいて、同年7月26日付けで同日において納付されていなかった原告の平成6年分所得税の過少申告加算税14万円(以下「本件国税」という。)の一部に充当し、同日その旨を原告に通知した。

原告は、これを不服として、平成11年7月30日、被告に対し異議申立てをしたところ、被告は、同年10月28日付けで異議申立てを棄却する決定をしたため、原告は、同年11月2日に審査請求を行った。

(4)  被告は、原告が平成12年3月1日に平成11年分所得税の確定申告書を被告に提出したことにより生じた還付金2100円を、通則法57条1項の規定に基づいて、同年4月6日付けで本件国税の同日における未納部分に充当し、同日その旨を原告に通知した。

原告は、これを不服として、平成12年5月17日、被告に対し異議申立てをしたところ、被告は、同年8月16日に異議申立てを棄却する決定をしたため、原告は、同年8月19日に審査請求を行った。

(5)  国税不服審判所長は、上記(3)及び(4)の審査請求を併合審理し、平成13年5月17日に、原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を行った。

(6)  原告は、現在に至るまで、本件国税の納付を行っていない。

4  本件の争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、原告が無効の確認を求める本件各充当処分の前提となった本件更正処分及び本件賦課決定処分が無効なものといえるか否かである。

(1)  原告

ア 本件承認取消処分の違法及び無効

下記のとおり、本件承認取消処分が違法であり無効である以上、それを前提にした本件更正処分及び本件賦課決定処分も違法かつ無効であるといわざるを得ず、無効な本件賦課決定処分により発生した租税債務について充当を行った本件各充当処分は違法であり、無効である。

(ア) 帳簿の不提示がないこと

本件承認取消処分は、原告が帳簿を提示しなかったことを理由としてされているが、乙調査官が、平成6年10月12日に原告の事業所に臨場し、55日間にわたって帳簿一式を持ち帰って調査を行っており、また、原告は、平成7年7月7日に、弁護士及び税理士立ち会いの上、帳簿一式(既に持ち帰り調査を終えた書類を含む。)を提出して調査に応じており、その後予定された平成7年12月4日の調査は、係官の失念で調査が行われず、それ以降、調査が行われることなく、翌8年3月14日に本件承認取消処分がされたのであり、原告が帳簿を提示しなかったことはない。

(イ) 本件調査が違法であること

原告は、練馬東税務署の個室で、同署の丙統括官(以下「丙統括官」という。)及び乙調査官により、税務調査に当たっては税理士以外の立会人のないところで帳簿の提出を要求され、この要求に従わないときは、青色申告の承認を取り消し、取引先の反面調査を行い、更正処分をすると脅迫されたものであり、脅迫による帳簿の押収が行われたものといえる。また、被告は、平成6年8月22日に原告の税務調査に着手し、平成8年3月14日に本件承認取消処分をし、また、同年8月30日には再度の所得税更正処分を行い、1年7ヶ月にも及ぶ長期の調査を行っており、このような長期の調査は、所得税法234条に定める「必要があるとき」に当たるとは考えられず、公務員の権利濫用であり、精神的に無用な苦痛を与えるものであって、原告の業務に支障を来し、取引先の信用も害され、不当な徴税を無言で強いる行為であるというべきである。よって、これらの違法な本件調査に基づいてされた本件承認取消処分は違法であり無効なものである。

イ 本件更正処分が根拠を欠くこと

被告がした本件更正処分を含む3年分の更正処分については、原告には全く根拠不明の所得増がされたものであり、無効なものである。すなわち、本件更正処分の内容は、青色申告の承認が取り消されたことを前提とするものであり、その計算関係については原告も承知しているところであるが、平成6年分の所得税については、その後、平成8年8月30日に再更正処分により総所得が約400万円増加すべきものとされているのであり、その根拠は不明である。原告が被告に対して抗議しているのは、この根拠不明の所得税を内容とする再更正処分である。

ウ 調査の不存在及び本件調査の違法

上記のとおり、被告は、平成7年12月4日以降調査を行っておらず、少なくとも本件更正処分については、何らの調査がされずに行われているものであるといえ、無効であるといわざるを得ない。また、仮に調査が行われているとしても、本件更正処分及び本件賦課決定処分は、上記ア(イ)で主張したとおりの違法な本件調査に基づくものであるといえ、無効なものである。

(2)  被告

ア 原告は、被告の行った本件各充当処分はその元となった本件更正処分及び本件賦課決定処分に重大かつ明白な「無効事由」が存する無効な行政処分であるなどと主張するが、この主張の中に本件更正処分を無効ならしめる瑕疵が存することの主張がされているとは認められないし、本件更正処分について単に根拠がないというのみで、具体的にいかなる数値に重大な過誤があるかなどの主張を何ら行わないのであるから、原告の主張は、行政処分の無効を認める要件としての明白性の要件を明らかに欠いており、到底認められない。

イ 本件承認取消処分の適法性

下記のとおり、本件承認取消処分は適法なものであるから、そのことにより原告が更正処分を受けることは当然である。

(ア) 原告は、これまで青色申告者が記録及び保存を義務付けられている所得税法施行規則56条以下に規定する帳簿を提示することなく、また、平成4年分ないし同6年分について、大蔵省令で定めているいくつかの帳簿を作っていなかったところであり、そもそも提示の前提となる帳簿の存在自体認められないのであるから、それに基づいてされた本件承認取消処分は適法であり、原告の主張は失当といわざるを得ない。

(イ) 本件調査について、原告が主張するような違法な点が全くないことは、本件の証拠上明らかであり、現に、東京地方裁判所平成10年(行ウ)第42号事件(同事件における書証及び尋問調書は、本件証拠としてすべて提出済である。)においても違法な点がないことが認められている。

原告は、本件調査が1年7ヶ月に及んだ点を指摘するが、所得税法234条に規定する質問検査権につき、その範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられており、本件においては、原告が職務上の守秘義務を負わない第三者の立会いに固執し、調査が進展しなかったことによるものであるから、合理的な選択の範囲を逸脱しない、社会通念上相当なものである。

(ウ) 乙調査官は、平成7年7月7日に原告の事業所に臨場した際、平成6年分について調査を行う旨を告げた上で、調査の協力を要請し、帳簿書類の提示を求めたが、原告が要請に応じなかったため、原告の帳簿書類を調査することができなかったものであるが、調査とは、課税標準等又は税額等を認定する一連の判断過程の一切を意味すると解され、調査の方法、時期などその具体的な手続は何ら規定されていないのであるから、課税庁には広範な裁量権が認められているものと解すべきであり、課税庁が内部において既に収集した資料を検討して正当な課税標準を認定することも、通則法24条の調査に含まれるものであるから、仮に、原告の帳簿書類を調査することができなかったとしても、そのことから、直ちに、調査を全く行わずに課税したことにはならない。

ウ 本件調査の適法性

本件調査は、上記イ(イ)及び(ウ)のとおり適法であるから、そのことを理由に本件更正処分を違法又は無効なものとする原告の主張は理由がない。

エ 本件更正処分の根拠

(ア) 総所得金額 1468万4082円

下記a及びbの合計額である。

a 事業所得の金額 1229万9082円

次の(a)の金額から(b)及び(c)の各金額の合計額を控除した後の金額である。

(a) 総収入金額 6420万6050円

原告が営む司法書士業及び土地家屋調査士業に係る事業所得の平成6年分における総収入金額であり、原告が平成6年分所得税の確定申告書に添付して提出した原告の平成6年分青色申告決算書(一般用)の控え(以下「平成6年分決算書控え」という。)の「売上(収入)金額(1)」欄に記載された金額と同額である。

(b) 必要経費合計 5110万6968円

原告が営む司法書士業に係る事業所得の平成6年分における必要経費の合計額であり、平成6年分決算書控えの「計(33)」欄に記載された金額と同額である。

(c) 事業専従者控除 80万0000円

原告の配偶者に係る事業専従者控除であり、所得税法(平成6年法律第109号による改正前のもの)57条3項の規定に基づいて計算した金額である。

b 給与所得の金額 238万5000円

原告が、平成6年中に株式会社A事務所から受領した役員報酬に係る給与所得の金額であり、当該報酬額350万円から所得税法28条3項に規定する給与所得控除額を同条2項の規定に基づいて控除した後の金額である。

(イ) 原告提出の「平成6年分の所得税税額計算」(甲31)には、平成5年からの繰越損失額として199万5164円との記載があるところ、この繰越損失額がみなし法人課税制度(平成4年法律第14号による改正前の租税特別措置法25条の2)の選択者におけるみなし法人損失額の繰越控除を意味するものであるとすれば、同制度を選択した場合の課税上の特例は平成5年分以降は廃止されており、平成4年分において控除しきれなかったみなし法人損失額の繰越控除は、平成4年分及びその後連続する年分における所得税の青色申告書の提出を前提として、純損失の額とみなされ、所得税法70条1項の純損失の繰越控除が適用されることとなっていたものである。

しかしながら、原告の平成4年分以降の所得税の青色申告の承認は、平成8年3月14日付けで取り消されているのであるから、原告の平成6年分の所得税の計算において、平成4年分におけるみなし法人損失額が純損失として繰越控除される余地はない。

第3争点に関する当裁判所の判断

1  本件承認取消処分の適法性

(1)  原告は、その本人尋問において、原告が自らの事業について備え付けていた帳簿とは、収入に関しては領収証等を綴った書類を綴ったもの、経費に関しては登記関係の申請書副本への書込みを中心に補助的に伝票や金銭出納簿を用いたものであり、帳簿は、それ以外になく、仕訳帳や総勘定元帳は作成していない旨を明言しており(平成14年9月19日付け本人調書32項ないし41項、73項及び同年10月10日付け本人調書51項ないし66項)、現に、本件においてその他の帳簿は書証として提出されていない。

(2)  上記第2、2(2)記載のとおり、青色申告者は、正規の簿記に従った仕訳帳や総勘定元帳等の必要な帳簿を備え付け、保存しなければならないところ、上記(1)の原告の供述によれば、同人が帳簿と称するものは、単なる領収証の綴りや経費を書き込んだ登記申請書副本を綴ったものであると認められ、少なくとも正規の簿記に従った仕訳帳や総勘定元帳が存在しないことも自ら認めているところであって、これらの事実によれば、原告は、所得税法148条1項及び同法施行規則56条以下で定める帳簿の記録及び保存を行っていなかったものと認められ、まさに、同法150条1号が青色申告承認取消しの要件として掲げた場合に該当するといえる。

(3)  原告は、乙調査官が、平成6年10月12日に「帳簿一式」と記載した借用証(甲4)が存在することを指摘し、同指摘は、借用証が帳簿が存在したことを基礎付けるものとして主張するかのようにも読めるが、上記借用証は、その表現の当否はともかくとして、原告が帳簿と称する書類一式を乙調査官が借用したことを表すものにすぎず、原告が帳簿と称する書類が、所得税法所定の帳簿に該当しないことは上記のとおりであるから、原告の主張は失当である。

また、原告は、本件調査の際、脅迫による帳簿の押収が行われたこと、税務調査が長期にわたったこと等を指摘し、本件承認取消処分が違法かつ無効なものである旨の主張をするが、上記のとおり、本件承認取消処分の処分要件を充たす事実の存在が客観的には明らかであり、そのこと自体は原告が指摘する事実の有無にかかわりのない事柄であることからすると、本件調査の内容及び期間が本件承認取消処分の効力に影響を及ぼすことはない。

(4)  したがって、被告がした本件承認取消処分は、所得税法所定の要件を充足していることは明らかであって、少なくとも重大かつ明白な瑕疵があるとは認められないから、同処分が違法かつ無効であるとの原告の主張は採用し得ない。

2  本件更正処分及び本件賦課決定処分の適法性

(1)  調査の不存在及び調査の適否の主張について

原告は、本件更正処分及び本件賦課決定処分に当たり、調査が全く行われず、仮に、調査を行っているとしても、調査が著しく長期にわたったことや調査の過程で原告に対して脅迫がされたことによれば、調査は違法であり、それにより本件更正処分及び本件賦課決定処分も違法かつ無効なものとなる旨主張する。

しかし、原告の平成4年分や平成5年分の所得税更正処分及び平成6年分の所得税再更正処分はともかくとして、本件更正処分及び本件賦課決定処分は、原告が先に提出していた申告書の記載内容を前提として、これに青色申告承認取消処分に伴って法令上当然に発生する課税関係の変動を反映させたものにすぎないから、それ自体は何ら調査を要しないものであって、その適否は法令上当然に発生する課税関係の変動を忠実に反映しているか否かのみにかかるものである。したがって、調査の不存在との主張は、調査を要するとの前提に誤りがあるし、実際に原告に対してされた調査は他の処分のためのものであるから、仮にその内容に問題があったとしても、本件更正処分及び本件賦課決定処分の適否には無関係であったといわざるを得ず、原告の上記主張は、いずれも採用できない。

(2)  本件更正処分の適法性

被告は、前記第2、4(2)アのとおり、本件更正処分に根拠がないとの原告の主張につき、行政処分の無効を来すものではなく主張自体失当であるかのような主張をする。しかし、更正処分が何らの根拠なく行われたとすれば、当該更正処分には重大かつ明白な違法があって無効であるといわざるを得ないのであって、自分に全く身に覚えがない更正処分を受けた納税者としては、当該処分に処分理由の記載がない以上、それが全く根拠なくされたものと主張するほかないのである。

したがって、原告の上記主張は、それ自体失当とはいえないのであって、被告の上記主張は採用できない。被告としては、このような場合、更正処分の根拠をすみやかに主張すべきであって、裁判所は、その主張の適否を審理判断することとなる。

そこで、本件更正処分の適否を検討するに、上記1によれば、原告の平成6年分の所得税については、原告の青色申告承認が取り消されたことを前提に税額を計算すべきこととなり、本件更正処分で税額算出の根拠とされた事業所得と給与所得の金額は、これらの各所得の金額につき原告が自ら作成した計算書(甲31)における事業所得、給与所得と同額であって、いずれも、原告が平成6年分所得税の確定申告書に添付して提出した原告の平成6年分青色申告書の控えや原告本人尋問で原告が認めた金額により青色申告承認が取り消されたものとして算出されたものであるから、正確なものであるといえる。そして、原告が平成5年からの繰越損失額として所得から控除した金額については、その根拠となるみなし法人課税制度が平成4年分をもって廃止され、所得税における損失額の繰越控除は、青色申告書の提出を前提にしてされる純損失の繰越控除(所得税法70条1項)のみとなったところ、上記のとおり、青色申告承認が取り消されたことを前提とした場合には、純損失の繰越控除は認められず、所得税法上控除を行うことが認められないものであるから、控除を行うべきではなく、本件更正処分で税額算出の根拠とされた総所得金額は正しいものであるといえる。そして、その余の控除については原告が当初申告で記載した金額と同額で税額計算を行っているものであるから、本件更正処分は、根拠を有するものというべきであり、本件更正処分が根拠不明であるとの原告の主張は認められない。

なお、原告は、平成4年分及び5年分所得税更正処分の根拠が明らかでないことや、平成8年8月30日にされた平成6年分所得税に係る再更正処分の根拠が明らかでないことを主張するが、本件充当がされたのは、本件賦課決定処分により生じた過少申告加算税であり、その他の租税の発生根拠等に関する違法は本件各充当処分の当否に影響を及ぼすものではないから、この主張の適否については判断しない。

3  結論

以上によれば、本件更正処分及び本件賦課決定処分に重大かつ明白な違法事由があるとは認められず、本件各充当処分が無効であるとは認められない。

第4結論

以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 廣澤諭)

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