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東京地方裁判所 平成13年(行ウ)19号 判決 2001年12月10日

主文

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が原告に対して平成12年11月1日付けでした、原告の異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は、東京入国管理局横浜支局(以下「横浜支局」という。)入国審査官により退去強制事由に該当する旨認定され、同支局特別審理官により同認定に誤りがない旨判定された原告が、被告に対して異議の申出をしたところ、被告から平成12年11月1日付けで同異議の申出については理由がない旨の裁決の通知を受け、在留特別許可をせずにした同裁決は誤った事実を前提とするか裁量を逸脱するものであるとして、同裁決の取消しを求めた事案である。

2  法令の定め

(1)  出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。) 24条は「次の各号の1に該当する外国人については、第5章に規定する手続により、本邦からの退去を強制することができる。」と規定し、同条各号に退去強制事由を定める。

(2)  入国警備官は、法24条各号の1に該当する疑いがある外国人(以下「容疑者」という。)があれば、これについて、調査をすることができ(法27条)、調査の上、原則として、その容疑者を収容の上(法39条)、入国審査官に引き渡さなければならず(法44条。ただし、当該容疑者につき刑事手続等が行われる場合には法63条によりその者を収容しないでも退去強制手続を行うことができる。)、入国審査官は、当該容疑者が法24条各号の1に該当するか否かについて、速やかに審査した上でこれを認定することを要する(法45条、47条)。

(3)  容疑者が、入国審査官がした法24条各号の1に該当する旨の認定に服さず、口頭審理を請求したときは、特別審理官は、口頭審理をした上で、同認定に誤りがないかどうかを判定しなければならず(法48条)、さらに当該容疑者が同認定に誤りがない旨の判定に服さず異議を申し出たときは、被告は、その異議の申出に理由があるかどうかを裁決し、その結果を主任審査官に通知しなければならない(法49条)。

被告は、裁決に当たって当該容疑者の異議の申出に理由がないと認める場合でも、当該容疑者について「特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」は、在留を特別に許可することができる(法50条1項3号)。

3  前提事実

(以下の事実は、括弧内に認定根拠を掲げた事実のほかは当事者間に争いのない事実である。)

(1)  原告は、昭和37年(1962年)○月○日、イラン・イスラム共和国で出生した同国の国籍を有する外国人である(乙1)。

(2)  原告は、平成元年11月9日、成田空港に到着し、在留期間6月の上陸許可を受けて本邦に入国し、その後在留期間更新許可、在留資格変更許可を受け、平成4年2月21日に日本人であるA(以下「妻A」という。)と婚姻の届出をしたことから、在留資格を「日本人の配偶者等」に変更する許可を受け、その後も在留期間更新許可を数次にわたって受けていた(乙3)。

(3)  原告は、平成10年10月28日、覚せい剤取締法違反等の疑いにより現行犯逮捕され、平成11年3月11日、東京地方裁判所において懲役1年8月の刑に処する旨の判決言渡しを受け、同年8月12日、同刑が確定した(乙5、7、8の1・2)。

(4)  横浜支局長は、平成11年10月12日付け文書により、横浜刑務所長から、原告に係る被退去強制容疑者通報を受けた(乙6)。

(5)  原告は、妻Aを代理人として、被告に対し、平成12年2月15日、在留期間更新許可申請をしたが(乙9の1・2)、被告は、同年3月16日、同申請に対し不許可処分をした(乙10)。

(6)  横浜支局入国警備官は、平成12年5月19日、横浜刑務所において原告に対する違反調査を実施し(乙11)、同年6月27日、原告を法24条4号チ(いわゆる薬物事犯で有罪の判決を受けた者)及びロ(不法残留)該当容疑者として同支局入国審査官に引き継いだ(乙13)。

(7)  横浜支局入国審査官は、平成12年8月30日、横浜刑務所において原告に対する違反審査を実施し(乙14)、原告について法24条チ及びロに該当する旨認定し、原告にこれを通知した(乙15)。

原告は、同日、特別審理官に対して口頭審理の請求をし(乙14)、同支局特別審理官は、同年9月18日、横浜刑務所において原告に対するロ頭審理を実施し(乙16)、同日、上記認定に誤りがない旨の判定をし、これを原告に通知したところ(乙17)、原告は、被告に対し、異議の申出をした(乙18)。

(8)  被告は、平成12年10月20日、原告からの異議の申出に関し理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし(乙20)、同裁決の通知を受けた横浜支局主任審査官は、同年11月1日、原告に同裁決を告知するとともに(乙21)、退去強制令書を発付し、同月7日、原告を同支局収容場に収容し、同年12月7日、入国者収容所東日本入国管理センターに原告を移収した(乙22)。

4  被告は、次のとおり、本件裁決は適法なものである旨主張している。

(1)  法の定める退去強制手続において、容疑者が法24条各号の1に該当するとの入国審査官の認定若しくは特別審理官の判定に容疑者が服したとき又は被告から異議の申出は理由がない旨の裁決の通知を受けたときには、主任審査官は、当該容疑者に対し退去強制令書を発付しなければならないのであり(法47条4項、48条8項、49条5項)、主任審査官には、上記手続において退去強制令書を発付するか否かについては全く裁量の余地がない。

(2)  これに対し、法50条1項所定の在留特別許可を与えるか否かは被告の自由裁量に委ねられていると解すべきであり、その拒否の判断に当たっては、当該外国人の個人的事情のみならず、その時々の国内の政治・経済・社会等の諸事情、外交政策、当該外国人の本国との外交関係等の諸般の事情を総合的に考慮すべきものであることから、同許可に係る裁量の範囲は極めて広範なものというべきである。

しかも、在留特別許可は、退去強制事由に該当することが明らかで本邦から退去を強制されるべき者に対し、特別に在留を認める処分であって、他の一般の行政処分と異なり、その性質は恩恵的なものである。

したがって、被告の在留特別許可の付与についての裁量権の行使が裁量権の範囲を越え又は濫用があったものとして違法であるとの評価をするには、被告がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて裁量権を行使したものと認め得るような特別の事情がある場合等極めて例外的な場合に限られているものといわなければならない。

(3)  本件において、原告は、前記前提事実(3)のとおり、覚せい剤取締法違反等の事実により実刑判決を受けていて、看過し難い悪質な法違反者である上、妻Aとの婚姻についても、平成9年6月30日に協議離婚した後、同年10月9日に再度婚姻するなど安定性があるとは認め難い。原告は、法24条4号チ及びロに規定する退去強制事由に該当し、また、原告の在留を認めるべき特段の事情があるとは認められないことからすれば、本件裁決に裁量権の逸脱又は濫用と認める余地はない。

第3判断

1  本件訴えは、法49

条1項の異議の申出に対する同条3項の被告の裁決の取消しを求めるものであるところ、同異議の申出は、以下に述べる理由により、主任審査官が退去強制令書を発付する前の段階において、退去強制手続の容疑者とされた外国人に異議を申し出る機会を与え、退去強制手続に関する被告の監督権の発動を促す途を拓いているが、その本質は、退去強制手続を担当する行政機関内の内部的決裁行為であって、行政事件訴訟法3条3項にいう「審査請求、異議申立てその他の不服申立て」には当たらないと解すべきである。したがって、被告が法49条3項に基づいて行う異議の申出が理由がない旨の裁決は、行政事件訴訟法3条3項にいう「裁決、決定その他の行為」に当たらないと解するのが相当であり、また、同裁決は、退去強制手続の容疑者とされた外国人の法的地位に何ら影響を及ぼすものではなく、行政事件訴訟法3条2項にいう処分にも当たらないものと解すべきである。

2(1)  法49条1項の異議の申出を受けた被告は、同異議の申出が理由があるかどうかを裁決して、その結果を主任審査官に通知しなければならず(法49条3項)、主任審査官は、被告から異議の申出が理由があると裁決した旨の通知を受けたときは、直ちに当該客疑者を放免しなければならない一方で(同条4項)、被告から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは、速やかに当該容疑者に対しその旨を知らせるとともに、法51条の規定による退去強制令書を発付しなければならないこととされている(同条5項)。

これらの規定によれば、法は、被告による裁決の結果は、異議の申出に理由がある場合及び理由がない場合のいずれにおいても、当該容疑者に対してではなく主任審査官に対して通知することとしている上、被告が異議の申出に理由がないと裁決した場合には、被告から通知を受けた主任審査官が当該容疑者に対してその旨を通知すべきこととなっているが、被告が異議の申出に理由があると裁決した場合には、当該容疑者に対してその旨の通知をすべきことを規定しておらず、単に主任審査官が当該容疑者を放免すべきことを定めるのみであって、被告がその名において、異議の申出をした当該客疑者に対し直接応答することは予定していない上、異議の申出に理由がある場合には間接的にすら異議の申出に対する応答をすることは予定していない。こうした法の定め方からすれば、法49条3項の裁決は、同条1項の異議の申出を契機としてされるものではあるが、その位置づけとしては、退去強制手続を担当する行政機関内の内部的決裁行為と解するのが相当であって、法49条3項の「裁決」との用語にかかわらず、行政庁への不服申立てに対する応答としての行政事件訴訟法3条3項の裁決には当たらないというべきである。

(2)  このことは、法の改正の経緯に照らしても明らかである。すなわち、法第5章の定める退去強制の手続は、法の前身である出入国管理令(昭和26年政令第319号)の制定の際に、そのさらに前身である不法入国者等退去強制手続令(昭和26年政令第33号)5条ないし19条の規定する手続を受け継いだものと考えられ、同手続令においては、入国審査官が発付した退去強制令書について地方審査会に不服の申立てをすることができ(9条)、地方審査会の判定にも不服がある場合は中央審査会に不服の申立てをすることができ(12条)、中央審査会は、不服の申立てに理由があるかどうかを判定して、その結果を出入国管理庁長官(以下「長官」という。)に報告することとされ(13条3項)、報告を受けた長官は、中央審査会の判定を承認するかどうかを速やかに決定し、その結果に基づき、事件の差戻し又は退去強制令書の発付を受けた者の即時放免若しくは退去強制を命じなければならないこととされていた(14条)もので、この長官の承認が、法49条3項の裁決に代わったものと考えられる。そして、長官の承認は、中央審査会の報告を受けて行われるものとされていて、退去強制令書の発付を受けた者が長官に対して不服を申し立てることは何ら予定されておらず、長官の承認・不承認は、退去強制手続を担当する側の内部的決裁行為にほかならない。したがって、同制度を受け継いだものと考えられる法49条3項の裁決についても、退去強制令書の発付を受けた者の異議申出を前提とする点において異なるものの、その者に対する直接の応答行為を予定していない以上、基本的には同様の性格のものと考えるのが自然な解釈ということができる。

(3)  また、上記の解釈は、法49条1項が、行政庁に対する不服申立てについての一般的な法令用語である「異議の申立て」を用いずに、「異議の申出」との用語を用いていることからも裏付けられる。すなわち、訴願法に替えて昭和37年に行政不服審査法(昭和37年法律第160号)が制定されたが、同法は、行政庁に対する不服申立てを、「異議申立て」、「審査請求」及び「再審査請求」の3種類(同法3条1項)に統一し、これに伴い、行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和37年法律第161号)は、それまで各行政法規が定めていた不服申立てのうち、行政不服審査法によることとなった行政処分に対する不服申立ては廃止するとともに、行政処分以外の行政作用に対する不服申立ては上記3種類以外の名称に改め、そうした名称の一つとして「異議の申出」を用いたことは公知の事実である。

他方、法の対象とする外国人の出入国についての処分は行政不服審査の対象からは除外されている(同法4条1項10号)とはいえ、上記のとおり行政不服審査法の制定に際して個別に不服申立手続について規定する多数の法令についても不服申立てについての法令用語の統一が図られたのに、法49条1項に関しては、従前どおり「異議の申出」との用語が用いられたまま改正がされず、法についてはその後も数次にわたって改正がされたにもかかわらず、やはり法49条1項の「異議の申出」との用語については改正がされなかった。そして、現在においては、法令用語としての「異議の申出」と「異議の申立て」は通常区別して用いられ、「異議の申出」に対しては応答義務さえないか、又は応答義務があっても、申出人に保障されているのは形式的要件の不備を理由として不当に申出を排斥されることなく何らかの実体判断を受けることだけである場合に用いられる用語であるのに対し、「異議の申立て」は、内容的にも適法な応答を受ける地位、すなわち手続上の権利ないし法的地位としての申請権ないし申立権を認める場合に用いられる用語として定着しているということができる。したがって、数次にわたる改正を経てもなお「異議の申出」の用語が用いられている法49条1項の異議の申出は、これにより、被告が退去強制手続に関する監督権を発動することを促す途を拓いているものではあるが、同異議の申出自体に対しては、被告の応答義務がないか、又は応答義務があっても、形式的要件の不備を理由として不当に申出を排斥されることなく何らかの実体判断を受けることが保障されるだけであり、申出人に手続上の権利ないし法的地位としての申請権ないし申立権が認められているものとは解されない。よって、法49条1項の異議の申出に対してされる法49条3項の「裁決」は、不服申立人にそうした手続的権利ないし地位があることを前提とする「審査請求、異議申立てその他の不服申立て」に対する行政庁の裁決、決定その他の行為には該当せず、行政事件訴訟法3条3項の裁決の取消しの訴えの対象となるということはできない。

(4)  さらに、法49条1項の異議の申出については、上記のとおり、申出人に対して法の規定により手続上の権利ないし法的地位としての申請権ないし申立権が認められているものと解することはできないのであるから、異議の申出に理由がない旨の裁決がこうした手続上の権利ないし法的地位に変動を生じさせるものということはできず、同裁決が行政事件訴訟法3条2項の「処分」に当たるということもできない。

3(1)  このように解することに対しては、退去強制手続につき容疑者たる外国人が退去強制事由の存否等を争う機会を不当に狭めるのではないかとの懸念が予想されないでもない。

しかし、退去強制事由の存否を争う容疑者たる外国人は、退去強制令書の発付を受けた際に同発付を行政処分としてその取消等を求めて争えば足りると考えられる。しかも、法24条が、同条各号の定める退去強制事由に該当する外国人については、法第5章(27条ないし55条)に規定する手続により、「本邦からの退去を強制することができる」と定め、同条が退去強制に関する実体規定として、退去強制事由に該当する外国人に対して退去を強制するか否かについてはこれを担当する行政庁に裁量があることを規定しているのは明らかであり、法第5章の手続規定においては、主任審査官の行う退去強制令書の発付が、当該外国人が退去を強制されるべきことを確定する行政拠分として規定されている(法47条4項、48条8項、49条5項)と解されることからすれば、退去強制について実体規定である法24条の認める裁量は、具体的には、退去強制に関する上記手続規定を介して主任審査官に与えられ、その結果、主任審査官には、退去強制令書を発付するか否か(効果裁量)、発付するとしていつこれを発付するか(時の裁量)につき、裁量が認められているものというべきであって、退去強制令書を発付された外国人は、退去強制令書発付処分の取消等を求める訴訟において、退去強制事由の有無に加えて、これらの主任審査官の裁量の逸脱又は濫用についても同処分の違法事由として主張し得ると解すべきであるから、前記判示の解釈により法49条3項の被告の裁決につき適法に取消訴訟を提起することができなくなるとしても、何ら外国人が退去を強制されることを争う機会を狭めるものではない。

(2)  なお、このように主任審査官に裁量権を認めることに対しては、法47条4項、48条8項及び49条5項が、いずれも「主任審査官は、・・(中略)・・退去強制令書を発付しなければならない。」と規定していることに反するのではないかとの疑問が生じないでもない。

しかしながら、退去強制手続は、原則として容疑者たる外国人の身柄を収容令書により拘束していることを前提としているため、その手続を担当する者が何の考慮もないままに手続を中断し、放置することを許さないように、法47条1項、48条6項及び49条4項において、それぞれ容疑者が退去強制事由に該当しないと認められる場合に「直ちにその者を放免しなければならない」ことを定めるとともに、法47条4項、48条8項及び49条5項においては、退去強制に向けて手続を進める場合においても、「退去強制令書を発付しなければならない」として主任審査官の義務として規定を置いたものと解され、これらの規定と法24条をあわせて解釈すれば、実体規定である法24条において退去強制につき前記効果裁量及び時の裁量を認めている以上、主任審査官において、そうした裁量の判断要素について十分考慮をしてもなお退去強制手続を進めるべきであると判断した場合には、放免又は退去に至らないまま手続を放置せず、法の定める次の手続に進む(退去強制令書を発付する)べきことを定めたものと解すべきであり、このように法の各規定をその位置づけに応じて解釈すれば、主任審査官に退去強制令書発付についての裁量を認めることは、法47条4項、48条8項及び49条5項の各規定と何ら矛盾するものではない。

(3)  また、上記2の解釈によると、異議の申出に理由がない旨の被告の裁決につき適法に取消訴訟等を提起することができなくなることから、退去強制事由に該当する者と認定された外国人に対して被告が法50条の在留特別許可をしなかった場合に、これを被告の裁量権の逸脱又は濫用であるとして争う途を不当に奪うことになるのではないかとの懸念も想定されないでもない。

確かに、これまで、法49条3項の被告の裁決を取消訴訟等の対象として認め、その違法事由として在留特別許可についての裁量の逸脱ないし濫用を主張することを認める多くの裁判例があることも事実である。

しかしながら、被告による在留特別許可については、退去強制手続の進められた当該外国人に在留特別許可の申請権を認める旨の規定は見当たらず、被告が職権により一方的かつ恩恵的に与えるものであって、当該外国人に一定の場合に在留特別許可を受けるべき権利ないし法的地位が実体的にも手続的にも保障されているものということはできないから、被告が在留特別許可をしなかったことを当該外国人が法49条3項の裁決の取消訴訟等により争うことができないとしても、当該外国人の権利ないし法的地位を侵すものではない。むしろ、在留特別許可をするか否かの判断がたまたま法49条の裁決に当たってされることとして立法されたことだけを捉えて、本来全く別個の制度である在留特別許可の判断(法50条3項は、在留特別許可が、もっぱら退去強制事由に該当するか否かを判断してされる法49条の裁決とは本来的に異なる制度であることから、在留特別許可がされた場合には、あえて、それを法49条4項の適用につき異議の申出に理由がある旨の裁決とみなす旨を定めている。)の当否を法49条3項の裁決の違法事由として主張し得ることを認めることの方が無理のある解釈というべきである。

しかも、上記(1)のとおり、主任審査官による退去強制令書発付処分について、主任審査官の裁量を認め、かつその裁量の逸脱ないし濫用を争う途が拓かれていれば、その中で、在留特別許可における裁量の逸脱ないし濫用の内容として主張されていた事項を主張することが可能となると考えられるから、実質的にみても、前記2の解釈が退去強制手続における外国人の手続的権利ないし法的地位を侵すものとはいえない。

4  なお、仮に本件裁決が行政事件訴訟法3条2項又は3項にいう取消訴訟の対象となる行為であるとしても、前記第2の3の事実関係に照らすと、被告が本件裁決に当たってその裁量権を逸脱又は濫用したとは認め難く、本件裁決は適法なものと認められる。

5  よって、本件訴えは、取消訴訟の対象とは認められない法49条3項の裁決の取消しを求めるものである点で不適法な訴えであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 村田斉志 裁判官 廣澤諭)

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