東京地方裁判所 平成13年(行ウ)193号 判決 2002年7月10日
原告
株式会社 高東(X)
代表者代表取締役
蛯名隆秀
同訴訟代理人弁護士
宮原功
被告
八王子市長(Y) 黒須隆一
同訴訟代理人弁護士
坂井利夫
指定代理人
岡部正明
同
野村暁央
同
鈴木克彦
同
尾川利吉
同
髙橋政雄
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 原告は、本件事業については、本件各届出がされているところ、本件各届出は、東京都による事前審査を経た上で受理されたものであるから、実質的には、「法令の規定による許可、認可等」に当たり、本件事業は、本件規制条例3条の「法令の規定による許可、認可等に基づき行う事業」に該当すると主張する。
(2)ア そこで検討するに、本件規制条例3条が「法令の規定による許可、認可等に基づき行う事業」は同条例の適用を受けないものとしている趣旨は、同条例が、その適用事業の施行を、市長の一定の基準による許可にかからしめた上、種々の監督処分や罰則等により規制しているところ、他の法令の規定による許可、認可等に基づき行う事業については、既に行政庁の一定の基準による審査を経て、当該許可、認可等がされ、当該法令による規制を受けることになることから、重ねて本件規制条例による規制の対象とする必要はないとしたものと解される。
イ 本件各届出の根拠規定である首都圏近郊緑地保全法8条1項は、国土交通大臣が指定する近郊緑地保全区域内において、土地の形質の変更等の行為をしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、あらかじめ、都県知事にその旨を届け出なければならないと定めている。
また、東京都立自然公園条例17条1項は、普通地域内において、土地の形状を変更すること等の行為をしようとする者は、東京都知事に対し、東京都規則で定めるところにより、行為の種類、場所、施行方法及び着手予定日その他東京都規則で定める事項を届け出なければならないと定めている。
しかし、首都圏近郊緑地保全法及び東京都立自然公園条例並びにこれらの関係法規に照らしてみても、都県知事及び東京都知事が、首都圏近郊緑地保全法8条1項及び東京都立自然公園条例17条1項の各規定による各届出がされた場合、一定の審査を行った上でこれを受理するか否かを決定することを予定した規定はなく、上記の各届出の受理又は不受理の通知等に関する規定も見当たらないことからすれば、法令上、行政庁が上記の各届出に対して、一定の審査を加えて、受理・不受理等の応答をすべきことは、予定されていないものと解される。
そうであるとすれば、首都圏近郊緑地保全法8条1項及び東京都立自然公園条例17条1項に基づく本件各届出がされる前に、東京都によって本件事業の内容について事前審査が行われたとしても、これらの審査は、法令上予定されているものではなく、本件各届出の受理・不受理に法的な影響を与えるものではないというべきである。
そうすると、本件事業について、本件各届出が受理されたからといって、行政庁の一定の基準による審査が行われたということはできず、本件各届出の受理は、行政庁の一定の審査を経て行われる許可又は認可と同視することのできないものであるといわざるを得ない。
ウ 以上のことからすると、原告が主張するように、本件各届出が東京都に受理されたことが、実質的に、本件規制条例3条の「法令の規定による許可、認可等」に当たると解することは到底困難である。
したがって、本件事業が本件規制条例の適用を受けないものであるとの原告の主張は採用できない。
2 争点2について
原告は、被告は、本件各処分を行うに際し、原告の要請を無視して、現地調査をしなかったから、実質的には弁明の機会の付与を行ったとはいえないと主張する。
そこで検討するに、本件各処分は、不利益処分に当たるところ、前記「法令等の定め」のとおり、本件手続条例13条1項によれば、行政庁は、不利益処分をしようとする場合で、同項1号ないし3号に当たらないときには、意見陳述のための手続として、弁明の機会の付与の手続をとらなければならないとされているが、同条例は、弁明の機会の付与の方法として、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、同条例28条所定の各事項を書面により通知しなければならないと定めている(本件手続条例28条)ほかには、何らの手続も要求していない。
そうすると、被告が、本件各処分を行うに当たり、原告に現地調査を行うことを求められたにもかかわらず、現地調査をしなかったとしても、そのことにより、本件各処分の手続に瑕疵があるということはできず、本件各処分が違法となるものではないというべきである。
したがって、この点の原告の主張は理由がない。
3 争点3について
原告は、本件事業は土砂埋立事業ではないので、本件事業が土砂埋立事業であることを前提として行われた本件各処分は違法であると主張する。
しかしながら、本件規制条例3条によれば、同条例は、法令の規定による許可、認可等に基づき行う事業を除き、事業区域の面積が500平方メートル以上の事業及び土砂等による土地の埋立て又は盛土を行うことにより、当該埋立て又は盛土を行った土地の部分の高さが1メートル以上となる事業について適用されるものとされている。
そして、前記「前提となる事実」のとおり、本件事業は、本件各届出の際に、その事業区域の面積は9848.19平方メートル、盛土によって生ずる法高は28メートルと予定されていたものであると認められ、また、〔証拠略〕によれば、実際にも、本件事業により搬入された土砂等の量は、本件停止命令が発せられた平成13年4月18日現在において、対象面積約2490平方メートル、高さ約20メートルに達しており、本件原状回復命令が発せられた同年5月11日現在においては、対象面積約5100平方メートル、高さ約25メートルに達していたことが認められる。
そうすると、本件事業は、土砂埋立事業であるか否かにかかわらず、本件規制条例の適用を受けるというべきであり、本件各処分は、本件事業が土砂埋立事業であることを前提として行われたとしても、違法となるものではない。
したがって、この点の原告の主張は理由がない。
第4 結論
以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明 長井清明)