東京地方裁判所 平成13年(行ウ)414号 判決 2002年9月06日
原告兼亡戊訴訟承継人
甲
原告兼亡戊訴訟承継人
乙
原告兼亡戊訴訟承継人
丙
原告兼亡戊訴訟承継人
丁
被告
国
代表者法務大臣 森山眞弓
当事者の訴訟代理人及び指定代理人は別紙のとおり
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 原告甲と被告との間において、被告が同原告に納付を求める平成12年分の所得税の延滞税19万1750円のうち、4万4025円を超える部分は存在しないことを確認する。
2 原告乙と被告との間において、被告が同原告に納付を求める平成12年分の所得税の延滞税19万1750円のうち、4万4025円を超える部分は存在しないことを確認する。
3 原告丙と被告との間において、被告が同原告に納付を求める平成12年分の所得税の延滞税19万1750円のうち、4万4025円を超える部分は存在しないことを確認する。
4 原告丁と被告との間において、被告が同原告に納付を求める平成12年分の所得税の延滞税19万1750円のうち、4万4025円を超える部分は存在しないことを確認する。
第2事案の概要
本件は、被相続人Aが平成12年11月8日に死亡したことに伴い、原告らを含む同人の共同相続人らが、家庭裁判所に対し、限定承認をする旨申述し、これが受理された後に、同人の平成12年分の所得税の修正申告を行い、これを納付したところ、塩釜税務署長が、上記共同相続人らに対し、上記所得税に係る平成13年3月9日から同年9月7日までの期間の延滞税を納付するように通知したことに対し、原告らが、上記所得税の法定納期限は同年7月27日と解すべきであるから、同月28日から同年9月7日までの期間の延滞税の納税義務しか負わないと主張して、上記所得税に係る延滞税の納税義務の一部の不存在の確認を求めている事案である。
1 法令の定め
(1) 譲渡所得に関する規定
ア 所得税法に規定する譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう。
(所得税法33条1項)
イ 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
(所得税法59条1項)
(2) 死亡した場合の所得税の確定申告及び納付に関する規定
ア 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人が年の中途において死亡した場合において、その者のその年分の所得税について所得税法120条1項(確定所得申告)の規定による申告書を提出しなければならない場合に該当するときは、その相続人は、同法125条3項の規定による申告書を提出する場合を除き、政令で定めるところにより、その相続の開始があったことを知った日の翌日から4月を経過した日の前日までに、税務署長に対し、当該所得税について同法120条1項各号に掲げる事項その他の事項を記載した申告書(以下「準確定申告書」という。)を提出しなければならない。
(所得税法125条1項)
イ 準確定申告書を提出した者は、この申告書に記載した同法120条1項3号(確定所得申告に係る所得税額)に掲げる金額があるときは、この申告書の提出期限までに、当該金額に相当する所得税を国税通則法5条に定めるところにより国に納付しなければならない。
(所得税法129条)
(3) 修正申告書を提出した場合の延滞税に関する規定
ア 納税者は、修正申告書を提出した場合において、国税通則法35条2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき国税があるときは、延滞税を納付しなければならない。
(国税通則法60条1項2号)
イ 法定納期限とは、国税通則法35条2項の規定により納付すべき国税については、その国税の額をその国税に係る期限内申告書に記載された納付すべき税額とみなして国税に関する法律の規定を適用した場合におけるその国税を納付すべき期限をいう。
(国税通則法2条8号イ)
延滞税の額は、国税の法定納期限の翌日からその国税を完納する日までの期間の日数に応じ、その未納の税額に年14・6パーセントの割合を乗じて計算した額とする。ただし、納期限までの期間又は納期限の翌日から2月を経過する日までの期間については、その未納の税額に年7・3パーセントの割合を乗じて計算した額とする。
(国税通則法60条2項)
ウ ただし、国税通則法60条2項に規定する延滞税の年7・3パーセントの割合は、同項の規定にかかわらず、各年の特例基準割合が年7・3パーセントの割合に満たない場合には、その年中においては、当該特例基準割合とする。
(租税特別措置法94条1項)
そして、特例基準割合とは、各年の前年の11月30日を経過する時における日本銀行法15条1項1号の規定により定められる商業手形の基準割引率に年4パーセントの割合を加算した割合をいう。
2 前提となる事実(各項末尾に掲記の証拠等により認められる。)
(1) A(以下「本件被相続人」という。)は、平成12年11月8日、死亡し、同人の相続が開始したが(以下「本件相続」という。)、同人の法定相続人は、原告ら及び戊(以下「本件相続人ら」という。)である。
(争いのない事実)
(2) 本件相続人らは、平成13年2月28日、仙台家庭裁判所に対し、本件相続について、民法924条の規定に基づく限定承認をする旨の申述をした。
(争いのない事実)
(3) 本件相続人らは、同年3月6日、塩釜税務署長に対し、所得税法125条に基づき、本件被相続人の平成12年分の所得税(以下「本件所得税」という。)について、所得金額508万9802円、課税される所得金額197万3000円、還付される税額10万7200円と記載した準確定申告書を提出した。
(甲7)
(4) 仙台家庭裁判所は、同月27日、前記(2)の本件相続人らの申述を受理する旨の審判をし、本件相続人らに対し、その審判を告知する(以下、本件相続についての限定承認を「本件限定承認」という。)とともに、原告甲を本件被相続人の相続財産管理人に選任する旨の審判をした。
(原告甲を相続財産管理人に選任する旨の審判につき甲2、その余につき争いのない事実)
(5) 本件相続人らは、同年9月7日、塩釜税務署長に対し、本件所得税について、総合課税の所得金額508万9802円、分離長期譲渡所得の金額1億7086万2925円、課税される所得金額は、総合課税の所得金額につき285万3000円、分離長期譲渡所得の金額につき1億7086万2000円、納付すべき税額3394万7400円と記載した修正申告書を提出した。
そして、本件相続人らは、同日、本件所得税として、上記修正申告書に記載された納付すべき税額3394万7400円と前記の準確定申告書に記載された還付される税額10万7200円の合計額3405万4600円を納付した。
(修正申告書記載の金額につき甲4、準確定申告書記載の金額につき甲7、その余につき争いのない事実)
(6) 塩釜税務署長は、同年10月19日、本件相続人ら各人に対し、本件所得税に係る延滞税として、戊につき38万3800円、原告らにつきそれぞれ9万5800円を納付するように求める旨を記載した「延滞税のお知らせ」と題する書面を送付した。
(争いのない事実)
(7) 塩釜税務署長は、同年12月20日、本件相続人らに対し、上記の延滞税の支払を求める督促状を送達した。
(弁論の全趣旨)
(8) 戊は、平成14年1月1日、死亡し、同人の相続が開始したが、同人の法定相続人は、原告らである。
(弁論の全趣旨)
3 当事者の主張
(被告の主張)
(1) 所得税の法定納期限について
ア 所得税法59条1項は、限定承認に係る相続に基因する譲渡所得(以下「みなし譲渡所得」という。)について規定しているが、同項の「その事由」という文言は、同項各号所定の事由を指すところ、同項1号は「相続(限定承認に係るものに限る。)」と規定しており、このうち「(限定承認に係るものに限る。)」との文言は「相続」の範囲を限定する修飾語にすぎないから、同項の「その事由」とは、「相続」を指すものである。
また、実質的にみても、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを精算して課税する趣旨のものである。そうすると、譲渡所得は、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に発生するものと解される。そして、相続による資産の移転は相続開始時に生じるものであり、限定承認は弁済の責任限度を画するものにすぎないことからすれば、みなし譲渡所得は、相続開始時に発生するものというべきである。
以上のことからすれば、所得税法59条1項の「その事由が生じた時」とは、相続開始時を指すものと解される。
原告らは、同項の「その事由が生じた時」は、限定承認の効力の発生の時を指すと主張するが、そのように解すると、被相続人の死亡後に資産の値上がりが生じた場合、その値上がり分も被相続人の譲渡所得として課税されるという奇妙なことになり、納税者の資産保有期間中のキャピタルゲインに課税するという譲渡所得に対する課税の本質に反することになる。
イ 所得税法120条及び125条は、被相続人が年の中途において死亡した場合において、その者のその年分の全ての所得を併せて申告するように定めているところ、上記のとおり、みなし譲渡所得は相続開始時に発生する所得であり、被相続人のその年分の所得に含まれるので、相続人は、限定承認がされて同法59条の規定が適用される場合には、みなし譲渡所得を、被相続人が生前に得た他の所得とともに、納税申告しなければならない。
そして、同法125条及び129条は、被相続人が年の中途において死亡した場合におけるその者のその年分の所得税の法定申告期限又は法定納期限は、「その相続の開始があったことを知った日の翌日から4月を経過した日の前日」であると定めている。
そうすると、みなし譲渡所得に対する所得税を含む本件所得税の法定納期限は、本件相続人らが本件被相続人の死亡により本件相続の開始を知った平成12年11月8日の翌日から4月を経過した日の前日である平成13年3月8日となる。
原告らは、みなし譲渡所得に対する所得税については、その法定納期限は、限定承認の申述受理の審判の告知の日の翌日から4月を経過した日の前日と解すべきであると主張するが、そのように解すると、同一年分の所得税に関して、みなし譲渡所得とそれ以外の所得につき、異なる法定納期限を設定することになり、所得税法120条及び125条がその年分の全ての所得を併せて確定申告するように規定していることに反する。
(2) 以上によれば、本件所得税の法定納期限は、平成13年3月8日である。
そして、本件相続人らは、同年9月7日、塩釜税務署長に対し、本件所得税について、修正申告書を提出し、本件所得税を納付した。
そうすると、本件所得税が法定納期限を徒過して納付されたことにより、国税通則法60条2項に基づき、本件所得税に係る延滞税が、本件所得税の法定納期限の翌日である同年3月9日からその完納の日である同年9月7日までの期間につき課されるから、本件相続人らは、前記「延滞税のお知らせ」に記載されたとおり、戊につき38万3800円、原告らにつきそれぞれ9万5800円の延滞税の納税義務を負うこととなる。
(原告らの主張)
(1) 所得税の法定納期限について
ア 所得税法59条1項に規定するみなし譲渡所得とは、同項の規定によって特に認められた所得概念であり、限定承認の効力が生じることにより初めて発生するものであるところ、限定承認の効力は、家庭裁判所の限定承認の申述受理の審判の告知がされることによって生ずるものである。
そうすると、みなし譲渡所得に対する所得税の課税要件は、限定承認の申述受理の審判の告知の時に成立するものであり、同項の「その事由が生じた時」とは、限定承認の申述受理の審判の告知の時を指すと解すべきである。
被告は、そのように解すると、被相続人の死亡後の資産の値上がり分も被相続人に課税されることになり、同項の趣旨に反すると主張するが、被相続人の有していた資産は、被相続人の死亡後の資産の値上がり分も含めて、全て被相続人の債務の引当てとなるので、その値上がり分は、そもそも相続人の資産としての実質を有していないというべきであるから、それが被相続人に帰属するものとして課税されても問題はない。
イ 上記のとおり、みなし譲渡所得は限定承認の申述受理の審判の告知の時に生じ、それに対する所得税の課税要件はその時に成立するものであり、その所得税の納税申告は審判の告知の後にしかできない。
そうすると、審判の告知の時期によっては、所得税法125条の規定する「その相続の開始があったことを知った日の翌日から4月を経過した日の前日」までに納税申告ができないことも十分あり得る。
特に、本件においては、本件限定承認の申述受理の審判の告知が、平成13年3月27日にされたことから、被告の主張するように、本件所得税の法定納期限が、本件相続人らが本件相続の開始があったことを知った日の翌日から4月を経過した日の前日である同月8日であるとすると、そもそもみなし譲渡所得が発生しておらず、それに対する所得税の納税義務も生じないうちから、その所得税の延滞税が発生することになってしまい、原告らにとって酷な結果となり、不合理である。
そこで、みなし譲渡所得に対する所得税の法定納期限は、所得税法125条を類推適用して、限定承認の申述受理の審判の告知がされた日の翌日から4月を経過した日の前日であると解すべきである。
そうすると、本件のみなし譲渡所得に対する所得税の法定納期限は、本件限定承認の申述受理の審判の告知がされた日である平成13年3月27日の翌日から4月を経過した日の前日である同年7月27日となる。
被告は、そのように解すると、同一年分の所得税に関して、みなし譲渡所得とそれ以外の所得につき、異なる法定納期限を設定することになり、所得税法の規定に反すると主張するが、期限内申告の後に更正等が行われたときのように、一つの国税について複数の法定納期限が成立することは、法律上予定されていることであるから、これが所得税法に反するとはいえない。
(2) したがって、本件においては、みなし譲渡所得に対する所得税に係る延滞税は、上記のみなし譲渡所得に対する所得税の法定納期限の翌日である平成13年7月28日からその完納の日である同年9月7日までの期間につき課されることになり、この延滞税の割合は年4・5パーセントであるから、本件相続人らは、戊につき8万8100円、原告らにつきそれぞれ2万2000円の延滞税の納税義務を負うことになる。
そして、戊の死亡に伴う相続により、原告らは、同人の延滞税の納税義務を相続したので、それぞれ4万4025円の延滞税の納税義務を負うことになるが、その金額を超えて納税義務を負うものではない。
4 争点
以上によれば、本件の争点は、「所得税法59条1項に規定するみなし譲渡所得に対する所得税の法定納期限はいつと解すべきであるか。」である。
第3当裁判所の判断
1 争点について
(1)ア みなし譲渡所得について定めている所得税法59条1項は、以下のとおり規定している。
「次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった揚合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 (略)」
イ そこでまず、限定承認に係る相続による資産の移転があった場合に、所得税法59条1項の規定により、被相続人の譲渡所得の金額の計算について資産の譲渡があったとみなされる時点である、同項の「その事由が生じた時」とは、いつの時点を指すものと解すべきかについて、検討する。
同項の文言をみるに、同項の「その事由」とは、同項柱書冒頭の「次に掲げる事由」を指すところ、この事由として、同項1号は「相続(限定承認に係るものに限る。)」を掲げている。そして、同項が「次に掲げる事由により(略)資産の移転があった揚合には」と規定していることからすると、「次に掲げる事由」とは、資産の移転の原因となり得る事由、すなわち、「相続」を指すものであり、限定承認を指すものではないと解される。そうすると、所得税法の文言からすれば、同項の「その事由」とは、「相続」を指すものと解するのが相当である。
また、同項は、その規定の位置及び文言から明らかであるように、譲渡所得の総収入金額の計算に関する特例規定であって、所得のないところに課税譲渡所得の存在を擬制したものではなく、同項に規定するみなし譲渡所得はあくまでも譲渡所得の一種というべきものである。そして、そもそも譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを精算して課税する趣旨のものである(最高裁昭和47年(行ツ)第4号同50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)ところ、限定承認に係る相続についてみると、その資産の移転は相続開始時に生じるものである(民法896条)から、限定承認に係る相続に基因する譲渡所得(みなし譲渡所得)に対する課税は、相続の開始の時を捉えて行われるものであると解される。そうすると、実質的にみても、譲渡所得の金額の計算について資産の譲渡があったとみなされる時点である所得税法59条1項の「その事由が生じた時」とは、相続開始時を指すものと解するのが相当である。
以上に述べた同項の文言及び譲渡所得に対する課税の趣旨からすれば、同項の「その事由が生じた時」とは、相続開始時を指すものというべきである。
これに対し、原告らは、限定承認に係る相続については、同項の「その事由が生じた時」とは、限定承認の効力発生時、すなわち、限定承認の申述受理の審判の告知の時を指すと主張する。
しかしながら、そのように解すると、相続開始後限定承認の効力発生前に当該資産が値上がりした場合には、その増加益も被相続人の譲渡所得として課税されることになり、被相続人がその死後に生じた増加益についても課税される結果となって不合理であるばかりか、資産の所有者に帰属する増加益を精算して課税するという上記の譲渡所得に対する課税の趣旨に反することにもなり、妥当でない。
したがって、この点の原告らの主張は採用できない。
ウ 前記イのように解すると、限定承認に係る相続により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、所得税法59条1項により、被相続人の譲渡所得の金額の計算については、相続開始時に資産の譲渡があったものとみなされることになる。そうすると、みなし譲渡所得の金額は、同法125条1項の「居住者が年の中途において死亡した場合」における、準確定申告書の記載事項である「その年分の総所得金額」(所得税法120条1項1号)に含まれるというべきであるから、同法125条1項の準確定申告書に記載されるべきものであると解される。
また、同項の準確定申告書に記載する「その他の事項」として、所得税法施行令263条、所得税法施行規則49条が、「二 相続人が限定承認をした場合には、その旨」と規定していることからも、所得税法及びその関係規定は、限定承認の事実と併せて、それに基因するみなし譲渡所得の金額が、同法125条の準確定申告書に記載されることを予定しているものというべきである。
このように同法59条1項のみなし譲渡所得の金額が、同法125条の準確定申告書に記載されるべきものであるとすると、その法定申告期限及びそれに対する所得税の法定納期限は、相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から4月を経過した日の前日であると解するのが相当である(所得税法125条、129条)。
(2) これに対し、原告らは、本件のように、限定承認の申述受理の審判の告知が相続開始時から4月を経過した後にされることもあるところ、みなし譲渡所得の金額については、限定承認の効力が生じない限り、納税申告できないのであるから、みなし譲渡所得に対する所得税の法定納期限を、相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から4月を経過した日の前日とすることは、納税者に酷な結果を導くことになり、不合理であると主張する。
しかしながら、国税通則法60条に規定する延滞税は、法律に特別の規定がある場合を除き、法定納期限までに本税が納付されないという事実が生じれば、納税者に正当な理由があるか否かにかかわらず、一律に課せられる性質のものであることに加え、限定承認の申述の期間は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内と定められている(民法924条、915条1項)から、相続人が、相続の開始があったことを知った日の翌日から4月を経過した日の前日までに、限定承認の申述受理の審判の告知を受けた上でみなし譲渡所得の金額を申告することが常に不可能というわけではないことからすれば、限定承認の申述受理の審判の告知が相続開始時から4月を経過した後にされた場合に、その後申告されたみなし譲渡所得に対する所得税について延滞税が課せられるとしても、やむを得ないものというべきであり、これをもって不合理であるとまではいえない。
(3) 以上によれば、所得税法59条1項に規定するみなし譲渡所得に対する所得税の法定納期限は、同法125条及び129条に基づき、相続人がその相続の開始を知った日の翌日から4月を経過した日の前日であると解するのが相当である。
2 よって、本件相続人らは、本件所得税が法定納期限を徒過して納付されたことにより、国税通則法60条1項2号、2項に基づき、本件所得税の法定納期限の翌日である平成13年3月9日からその完納の日である同年9月7日までの期間について本件所得税に係る延滞税を課されることになり、平成13年の特例基準割合が年4・5パーセントであることは当事者間に争いがないから、本件相続人らは、戊につき38万3900円、原告らにつきそれぞれ9万5800円の納税義務を負うことになったものである。
ところで、本件相続人らは、前記のとおり、本件所得税として、3405万4600円を納付したが、本件相続人らの本件所得税の納付義務は、証拠(甲4)と所得税基本通達(昭和45年直審(所)第30号)124・125-3に基づいて計算すると、合計3405万4500円(戊につき1702万7300円、原告らにつきそれぞれ425万6800円)であると認められ、この通達の規定は合理的なものであるということができるから、本件相続人らは、本件所得税につき、100円を誤納したものというべきである。そこで、この100円を本件相続人ら各人の法定相続分に従って按分し、上記の本件相続人らの延滞税の納税義務から控除することとした上、戊の死亡に件い、原告らが同人の納税義務を相続したことに基づいて原告らの納税義務の金額を計算すれば、原告らは、本件所得税に係る延滞税として、それぞれ19万1750円の納税義務を負うものであると解される。
第4結論
以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 森英明 裁判官 長井清明)
別紙
訴訟代理人・指定代理人一覧
(原告関係)
訴訟代理人弁護士 松浦正明
(被告関係)
指定代理人 茂木善樹
福島豊彦
木村定夫
小林哲彦
本間光悦