東京地方裁判所 平成13年(行ク)2号 決定 2001年1月15日
主文
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は申立人らの負担とする。
理由
第1申立ての趣旨
相手方が、平成13年1月9日以降にすることが確定している、A、B、C、D及びE(以下「本件各申請者」という。)に対し公正取引委員会平成11年(判)第4号事件(以下「本件審判事件」という。)の事件記録の閲覧謄写を許すとの各決定の執行は、本案事件の確定までしてはならない。
第2当事者の主張
申立人らの本件申立ての理由は、別紙1記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は別紙2記載のとおりである。第3 当裁判所の判断
1 本件申立てに係る本案訴訟は、相手方が本件各申請に対して事件記録の閲覧謄写に応ずる行為(以下「閲覧謄写許可処分」という。)の差止めを求めるものであるから、いわゆる無名抗告訴訟であると解される。
ところで、執行停止の申立ては、処分の取消しの訴えの提起があった場合に認められ(行政事件訴訟法25条2項)、上記の規定は、無効等確認訴訟(同法38条3項)、民衆訴訟及び機関訴訟で、処分又は裁決の取消しや無効の確認を求めるもの(同法43条1項、2項)について準用されているものの、無効等確認訴訟以外の抗告訴訟について上記の規定の準用を認める規定はない。
したがって、無名抗告訴訟を本案とする本件申立ては、仮に無名抗告訴訟自体が適法なものであるとしても、行政事件訴訟法が許容しないものであり、不適法というほかない。
2 仮に、本件申立てが上記の点を含めて不適法なものではないとしても、本件申立ては、以下のとおり、「本案について理由がないとみえるとき」に当たるというべきである。
(1) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「法」という。)69条が閲覧謄写を認めている「利害関係人」とは、当該事件の被審人のほか、法59条、60条により審判手続に参加し得る者及び当該事件の対象をなす違反行為の被害者又はこれらに準ずる地位を有する者と解されるところ、当該事件の審判対象たる行為によって損害を被る地方自治体の住民は、単に住民であるという地位においては、審判手続に参加し得る者や当該違反行為の被害者又はこれらに準ずる者のいずれにも該当しないことが明らかであるが、当該違反行為と同一性を有する事実を基礎として被審人を被告として地方自治法242条の2第1項4号後段が定める住民訴訟としての損害賠償請求訴訟を提起し現にこれが係属している場合には、当該住民は、当該地方公共団体を代位してその損害賠償請求権を行使する法的地位を付与されているのであり、当該訴訟の帰すうによって当該地方公共団体自体が損害賠償請求権を有するか否かが確定し、当該地方公共団体もその訴訟の結論に拘束されるに至るのであるから、「被害者」に準ずる法的地位を取得した者として、「利害関係人」に該当すると解するのが相当である。
しかるところ、一件記録によれば、本件各申請者は、本件審判事件の審判対象たる行為によって損害を被ることとなる地方自治体の住民であり、当該行為と同一性を有する事実を基礎として被審人を被告として地方自治法242条の2第1項4号後段が定める住民訴訟としての損害賠償請求訴訟を提起して現に係属していることが一応認められる。
(2) したがって、本件各申請者は、「利害関係人」に該当するというべきであるところ、仮に本件について閲覧謄写許可処分がなされたとしても、他に法69条に違反する事由があることについて疎明がないから、これらについては、「本案について理由がないとみえるとき」に当たるというべきである。
(3) なお、法39条は、公正取引委員会の委員長、委員及び職員等に対して、職務に関して知得した事業者の秘密を他に漏し、又は窃用してはならない旨規定しているが、法69条はこれに対する例外規定と解すべきであり、しかも同条には民事訴訟法92条のような秘密保護を義務付ける定めがないのであるから、相手方が自らの責任の下に法69条に基づいて閲覧謄写を認めることは、法39条に違反するものでないことが明らかである。
3 よって、本件申立ては、無名抗告訴訟を本案とする点で不適法であり、仮にそうでないとしても、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを却下することとし、申立費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条本文を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 谷口豊 裁判官 加藤聡)