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東京地方裁判所 平成14年(レ)455号 判決 2003年6月12日

控訴人

X1

ほか一名

被控訴人

Y1

ほか一名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  当審において拡張した請求に基づき、原判決主文第一項を次のとおり変更する。

被控訴人Y1は、控訴人X1に対し、五万九六〇〇円及びこれに対する平成一三年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  当審におけるその余の拡張請求を棄却する。

四  控訴審における費用は、全部控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴人らの求めた裁判

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人Y1は、控訴人X1に対し、二九万八〇〇〇円及びこれに対する平成一三年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(附帯請求について当審で請求を拡張)。

三  被控訴人有限会社相模建材興業の請求をいずれも棄却する。

第二事案の概要

本件は、後記一(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)について、控訴人X1が被控訴人Y1に対し、民法七〇九条に基づき、自己の所有する自動車の修理代の支払を請求し(原審甲事件)、また、被控訴人有限会社相模建材興業(以下「被控訴人会社」という。)が、控訴人X1に対しては同法七一五条に基づき、控訴人X2に対しては同法七〇九条に基づき、自己の所有する自動車の修理代、代車料及び弁護士費用の連帯支払を請求した(原審乙事件)という事案である。

一  前提となる事実(当事者間に争いがないか、又は証拠(証拠番号は各項末に掲記した。)等により明らかに認められる。)

(1)  本件事故の発生

ア 日時 平成一三年一一月八日午前一〇時一五分ころ

イ 場所 神奈川県横須賀市佐原三―二〇―二三先路上

ウ 関係車両 控訴人X1が所有し、控訴人X2が運転する自家用普通貨物自動車(車両番号・練馬<省略>。以下「控訴人車」という。)被控訴人会社が所有し、被控訴人Y1が運転する自家用普通貨物自動車(車両番号・湘南<省略>。以下「被控訴人車」という。)

エ 態様 路肩に停止していた被控訴人車の右前部ドアに後方から走行してきた控訴人車の左前部が衝突し、両車が破損した。

(2)  控訴人らの関係

控訴人X1は、本件事故当時、控訴人X2の使用者であり、本件事故は、控訴人X2が控訴人X1の業務を執行していた際、発生した。

(3)  控訴人X1の損害額

本件事故によって破損した控訴人車の修理代は二九万八〇〇〇円である。

(4)  被控訴人会社の損害額(弁護士費用を除く。)

本件事故によって破損した被控訴人車の修理代は二三万五三八九円であり、修理期間中の代車料は一二万四五三〇円である(乙四の一・二、弁論の全趣旨)。

二  本件の主要な争点は、被控訴人Y1及び控訴人X2の過失の有無並びに両者の過失割合である。

(控訴人らの主張)

控訴人X2は、控訴人車を運転して時速約四〇kmの速度で歩道寄りの車線を走行していたところ、ハザードランプを点灯させていない被控訴人車が路肩に停止しているのを発見し、二〇ないし三〇m手前でセンターライン寄りの車線との区分線付近に進路を変更しようとした。そして、控訴人X2は、被控訴人車の右後部ドアの側方に人が立っているのを認識したので、約一mの間隔を空けて低速で被控訴人車の側方を通過しようとした。ところが、控訴人車の左前部と被控訴人車の右前部ドアが接触した。仮に被控訴人らが主張するように、被控訴人Y1が右前部ドアを半開きにして、前屈みの状態で上半身を車内に入れていたとすれば、同ドアが二〇cm程度しか開いていないということは到底あり得ないから、控訴人車が被控訴人車の側方を通過しようとした時、被控訴人車の右前部ドアが突然開いたものというべきである。したがって、本件事故は、被控訴人Y1の一方的過失によって発生したものである。

(被控訴人らの主張)

被控訴人Y1は、被控訴人車のハザードランプを点灯させて路肩一杯に寄せた上で、被控訴人車を停止させ、運転席側のドアを半開きにして、前屈みの状態で上半身を車内に入れ助手席に置いた物を探していた。このような状況で、控訴人X2は、運転しながら地図を見るなどして、前方の道路状況を十分に注視することなく、また、適宜減速したり、控訴人車と被控訴人車との間隔を十分空けるなどの安全措置を講じずに漫然進行したため、本件事故を惹起させたものであり、本件事故は、控訴人X2の一方的な過失によって発生したものである。

第三当裁判所の判断

一  控訴人X2及び被控訴人Y1の過失の有無並びに過失割合について

(1)  証拠(甲二、七ないし一一、乙一、二、五ないし九、一〇の一、一一)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の発生に至るまでの経緯は、次のとおりであると認められる(原審における控訴人X2に対する本人尋問の結果を反訳した書面(甲九、乙一一)のうち、この認定に反する部分は、その他の証拠に照らして採用することができない。)。

ア 本件事故が発生した道路は、横浜横須賀道路の佐原インターチェンジ方面と野比方面とを結ぶ、縁石により歩車道が区別された片側二車線の道路のうち、佐原インターチェンジ方面から野比方面に向かう車道(以下「本件車道」という。)である。路面はアスファルトで舗装され、平坦であり、緩やかに右にカーブしているものの、前方の見通しは良好である。二車線のいずれも幅員が約三・〇mであり、路肩は幅員が約〇・六mである。最高速度は時速五〇kmと指定されており、駐車禁止の交通規制がある。

控訴人車の全幅(ドアミラーを除く。以下同じ。)は約一・六九mである。また、被控訴人車の全幅は約一・六九mであり、被控訴人車の右前部ドアを全開した場合、車体と同ドアの後端部との間隔は約〇・九一mである(乙一〇の一参照)。

イ 被控訴人Y1は、被控訴人会社の取引先である帝国ヒューム管東部販売株式会社のAと、本件事故当日の午前一〇時ころ、本件事故現場付近で待ち合わせるため、被控訴人車を運転して本件事故現場まで赴いた。Aは既に本件事故現場に到着しており、ほぼ路肩一杯に同人が運転してきた車両が停止していた。そこで、被控訴人Y1は、同車両の後方に車両一台分ほどの間隔を空けた上、同じくほぼ路肩一杯に被控訴人車を停止させた。被控訴人Y1は、被控訴人車から降りると、被控訴人車のボンネットの上に工事の図面を広げて、Aと打合せを開始した。途中で車内に残していた資料が必要になったため、被控訴人Y1は、被控訴人車の右前部ドアを開けると、前屈みの状態で上半身を車内に入れて助手席に置いた鞄の中の物を探した。右前部ドアの開き方としては、被控訴人Y1の両太腿の裏が右前部ドアに触れるような程度であった。

ウ 控訴人X2は、横須賀市内の仕事場に行くため、控訴人車を運転して、佐原インターチェンジ出口の交差点を右折して本件車道のうち第一通行帯を走行していた。控訴人X2は、初めて行く場所であったため、手書きの地図を確認しながら運転していた。そのため、控訴人車の速度は時速約四〇kmであった。交通量は普通で、走行車両の間隔は空いていた。控訴人X2は、本件事故現場の手前約一〇〇m辺り(前方を走行中の車両にして約一〇台分の距離)で、路肩に被控訴人車が停止しており、その右後部ドアの横辺りに被控訴人Y1らしき者が立っているのを発見したが(これは、前記イのとおり、被控訴人Y1が被控訴人車の右前部ドアを開ける前の状況であったものと推察される。)、第二通行帯を走行する車両がいたため、第二通行帯への車線変更はせずに、被控訴人車との間隔を約一m空けた上で、側方を通過しようと考えた。

エ 控訴人車が、右側の前後輪が第二通行帯との区分線を越えるくらいの地点を走行して、被控訴人車の側方を通過しようとした際、控訴人車の左前部と、被控訴人車の右前部ドアとが衝突し、両車が破損した。鞄の中の物を探し始めてから少し時間が経過していたが、被控訴人Y1は、被控訴人車が前方に動く衝撃を感じたものの、負傷はしなかった。また、被控訴人車の右前部ドアは、後端部に力が加わったものであり、外側の方に向かって「く」の字に折れ曲がったが、被控訴人車から外れるには至らなかった。なお、控訴人X2には、被控訴人車の右前部ドアが開いていたか閉まっていたかについては認識がない。

(2)  前記(1)において認定した事実によれば、控訴人X2は、被控訴人車の約一〇〇m手前辺りで、本件車道の路肩に被控訴人車が停止しており、その右後部ドアの横辺りに人が立っているのを予め認識したのであるから、被控訴人車の側方を安全に通過することができるように、控訴人車の進路を右に変更して進行すべき注意義務があったものである。ところが、控訴人X2は、被控訴人車との間隔を約一m空ければ、被控訴人車の側方を安全に通過することができるものと考え、控訴人車の進路を右に変更したものの、第二通行帯を走行する車両との接触に気を取られたためか、実際には約〇・九一mに満たない間隔をもって被控訴人車の側方を通過したため、被控訴人車の右前部ドアの後端部に控訴人車の左前部を衝突させたものであるから、本件事故は、主として控訴人X2の前記注意義務違反によって発生したものといわなければならない。

もっとも、被控訴人Y1においても、被控訴人車をほぼ路肩一杯に停止させたとはいえ、これによって第一通行帯の左側三分の一強を占拠する状態を生じさせた上、右前部ドアを、全開とまではいえないにしても、上半身を車内に入れられる程度には開けて、助手席に置いた鞄の中の物を探していたことからすれば、これらの行為は、第一通行帯を走行する車両に対し、区分線を跨いで第二通行帯に進入するような走行態様を強いるものということができ、第二通行帯を走行する車両も一定程度あったことを考えると、右前部ドアが第一通行帯を走行する車両と接触する危険を誘発するものであったと評価することができる。

そこで、以上の事情を総合的に考慮するならば、控訴人X2と被控訴人Y1の過失割合は、八対二と認めるのが相当である。

(3)  ところで、控訴人らは、以上と同趣旨の原判決の説示について、<1> 控訴人X2が第二通行帯に車線を変更することが可能であったことをもって同控訴人の過失を根拠付ける一つの要素としているが、これでは、複数の車線がある道路に駐停車している車両の側方を通過する車両の運転者に対し、車線を変更すべき注意義務を課すことになりかねない、問題は、当該駐停車車両との衝突を回避することができる程度に間隔を空けるべく進路を変更すべき注意義務を尽くしたか否かであり、その場合、駐停車車両と側方通過車両との間隔等を検討する必要があるのに、原判決は、この点を検討していない、<2> 被控訴人車の右前部ドアが急に開いたため、控訴人車の左前部がこれと衝突したか否かのみを検討したかのように解されるが、最初は二〇ないし三〇cmしか開いていなかった被控訴人車の右前部ドアが何らかの弾みで大きく開いた場合をも検討すべきである、<3> 本件車道は駐車禁止の規制があるところ、被控訴人Y1は、これに違反し、被控訴人車を駐車しており、これが本件事故の発端ともいえるのにもかかわらず、この点を考慮せずに過失割合を定めている、などと論難する。

しかしながら、<1>及び<2>については、前記(1)において認定したとおり、被控訴人車の右前部ドアが全開した場合であっても、車体と右前部ドアの後端部との間隔は一mに満たないのであるから、それにもかかわらず、本件事故が発生したのは、まさに控訴人車が被控訴人車との間隔が一mにも満たないまま、その側方を通過したからにほかならず、控訴人X2は、被控訴人車の右横に人が立っているのを認識した以上、最低でも一m程度の間隔は空けてしかるべきところ、控訴人車がそのように走行していれば、本件事故は発生しなかった道理であり、控訴人X2に過失があることは明らかである(なお、付言すれば、<1>については、原判決によっても、必ずしも車線を変更すべき義務を導くことにはならないと解される。)。

また、<3>については、仮に被控訴人車の停止の態様が道路交通法二条一項一八号に規定する「駐車」に当たる場合であったとしても、控訴人X2と被控訴人Y1の過失割合は、前記(2)において説示したとおりとするのが相当であって、これを変更するには至らない。

したがって、控訴人らの主張は採用するに及ばない。

二  控訴人X1の損害額について

前記一(2)に説示した過失割合によれば、被控訴人Y1が負担すべき控訴人X1の損害額は、五万九六〇〇円となる。

三  被控訴人会社の損害額について

前記一(2)に説示した過失割合によれば、控訴人らが負担すべき被控訴人会社の損害額は、修理費及び代車料の合計三五万九九一九円の八割に相当する二八万七九三五円(円未満切捨て)となる。

四  結論

以上の次第で、控訴人X1の被控訴人Y1に対する請求を五万九六〇〇円の支払を求める限度で、また、被控訴人会社の控訴人らに対する請求を連帯して二八万七九三五円及びこれに対する本件事故の日である平成一三年一一月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ認容した原判決は相当であり、また、当審において拡張された控訴人X1の附帯請求は、五万九六〇〇円に対する本件事故の日である平成一三年一一月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当であるから、これを棄却するのが相当である。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 河邉義典 森剛 石田憲一)

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