東京地方裁判所 平成14年(ワ)10518号 判決 2003年3月28日
原告
株式会社資源生物研究所
訴訟代理人弁護士
三浦和人
被告
株式会社資源水工社
訴訟代理人弁護士
勝田裕子
補佐人弁理士
稲葉昭治
同
中村誠
同
堀内美保子
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は原告に対し,金6300万円及びこれに対する平成13年5月1日以降支払済みまで年6分の割合による金員を支払え
第2事案の概要
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告は,平成元年8月24日に設立された水質汚濁等の防止に関する装置の研究,開発,販売等を目的とする会社である。
イ 被告は,昭和42年7月25日に設立された水処理用バクテリアを育成するための担体(ポリ塩化ビニリデン糸)の製作及び販売等を目的とする会社である。
(2) 原告が有する商標権
原告は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有している。
2 本件は,原告が被告に対し,原被告間の契約に基づく特許使用料の支払及び本件商標権侵害を理由とする損害の賠償を求める事案である。
3 本件の争点
(1) 特許使用料の支払
原告と被告との間に締結された契約の有無及びその内容
(2) 本件商標権侵害を理由とする損害賠償請求
ア 被告が本件商標を使用していた期間
イ 本件商標使用に関する原告の許諾の有無
ウ 本件商標権に基づく請求は権利濫用かどうか
エ 原告の損害の有無及び額
第3争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について
【原告の主張】
(1) 平成11年1月ころ,原告と被告との間において,別紙製品目録記載の各製品(以下「被告製品(1)」,「被告製品(2)」といい,両者を合わせて「被告製品」という。)について,特許使用料(被告製品(1)については,1m当たり120円,被告製品(2)については1m当たり200円)を支払う旨の合意が成立した。
(2) 被告は,別紙取引一覧表記載(35回分)の取引を行った。その合計額は,6000万円(50万m×120円/1m)及び消費税相当額300万円の合計6300万円である。
【被告の主張】
(1) 原告が主張するような特許使用料の支払について,原被告間で合意がされた事実も,特許料の支払がされた事実もない。
(2) 原告が主張する35回分の納入実績を合計したとしても,24万7300mにしかならない。
2 争点(2)について
【原告の主張】
被告は,被告製品の別紙取引一覧表記載の取引において,本件商標を使用している。
原告が被告の本件商標権侵害行為により被った損害額は6300万円を下らない。
【被告の主張】
(1) 被告は,別紙取引一覧表記載のNO.9以降の取引に関し,本件商標を使用していない。被告は,平成11年9月以降から,被告製品の製品名を従来の「バイオモジュール」から「アクリマ」に変更しており,新たなパンフレットも作成している。
(2) 別紙取引一覧表NO.8までの取引に関し,被告は,原告から購入した原材料を使用しており,原告が被告に対し,本件商標を使用することについて明示的又は黙示的に許諾していた。
(3) 本件商標権の出願日である平成3年3月13日より前に公共機関などのカタログに「バイオモジュール」という用語がいわゆる生物担体を示す用語として一般的に使用されていた(乙21,22)ことから,本件商標権には明らかな無効理由が存在し(商標法46条1項1号,3条1項1号),原告の本件商標権に基づく請求は権利濫用であり許されない。
(4) 原告の損害の主張は争う。
【原告の反論】
(1) 原告が被告に対し,本件商標の使用に関して許諾したことはない。
(2) 権利濫用の主張については争う。
第4当裁判所の判断
1 事実経過
争いのない事実並びに証拠(甲3,4の各1,2,甲7,8,甲10,11の各1,2,甲12,14,甲15の1ないし4,乙10ないし13,乙14の1ないし3,乙15の1,2,乙16,乙17ないし20,24,25,26,乙27の1,2,乙28ないし30,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(1) 昭和60年ころ,原告代表者と被告代表者は知り合い,原告代表者は被告代表者に対し,ひも状接触材の販売をすることを誘った。
被告は,上記誘いを受けて,原告代表者らと協力してひも状接触材の販売を行うこととなり,当初は,荏原インフィルコ株式会社に製品を供給し,同社が「エバラ接触材」という商品名で販売していた。
(2) その後,他社からの引合いがあったことから,被告は,昭和63年ころから「バイオモジュール」という商品名で自ら販売するようになり,平成元年8月24日に原告が設立された後は,原告からひも状接触材を買い受け,それをユニット状に加工して,「バイオモジュール」という商品名で販売していた。
(3) 被告は,販売のための商品カタログ(乙11,甲12。以下「被告カタログ」という。)を作成したが,同カタログには,「バイオモジュール」「BIOMODULE」という商品名が大きく記載されており,製造発売元として被告の名が記載されていた。被告は,同カタログ作成に当たって,ひも状接触材の技術的な事項に関しては,原告代表者が作成した資料を使用した。また,被告代表者は,原告代表者に対して,完成した上記カタログを後記営業会議のときなどに渡したことがあったが,原告代表者からは特段異議はなかった。
(4) 原告代表者は,平成2年ころ,株式会社片桐商店に対し,被告のために,ひも状接触材を梱包するためのダンボールの製作を発注し,製作費用は被告が支払った。同ダンボールには,大きく「BIO MODULE SYSTEM」と記載されており,被告の会社名及び住所,電話番号が記載されていた。以後,被告は,ひも状接触材を出荷するに当たっては,同ダンボールを使用していた。
また,原告代表者は,平成4年ころまでは,被告代表者とともに,ひも状接触材の営業活動を行っており,被告代表者のために,「バイオモジュール A」と記載された名刺を作成したこともあった。
(5) 平成3年3月13日,原告は,本件商標登録出願を行い,平成6年9月30日,本件商標権が登録された。
また,原告代表者は昭和60年に別紙特許権目録(3)及び(4)記載の各特許出願を行っていたが,原告は平成5年3月26日に同目録(1)及び(2)記載の各特許出願を行った。同目録(3)記載の特許権は平成6年3月29日に,同(4)記載の特許権は平成7年5月26日に,同目録(1)及び(2)記載の各特許権は平成13年10月19日に,それぞれ登録された。
(6) 被告は,原告に対して,必要な数量を注文し,それを原告が被告に納入するという形態で取引をしていた。原告の被告に対するひも状接触材の販売代金については,毎年1回開催される営業会議において原被告が協議して決定していた。その際,特許使用料,商標使用料について話し合われたことはなかったし,原告が被告に対して,特許使用料,商標使用料について請求したことはなかった。
(7) 平成8年8月30日に開催された営業会議の議事録には,「■決定事項農業集落排水処理施設向けひも状接触材の,今後の価格について打合せた。」,「2.国内向け等の仕様と価格 1)仕様は1530とする。2)価格は従来150.-/mを130.-/mとする。3)特別割増し率は23%とする。」と記載されている。
また,原告が被告に対して送付した平成9年7月28日付けの書簡には,「当社では貴社から,他社の類似商品による販売競争の厳しさを受けて,販売価格の値下げ(¥150円→¥130円)を行いました。」と記載されている。
さらに,原告が被告に発行した領収書には,「バイオモジュール代金」とのみ記載されている。
(8) 被告は,原告から買い受ける代金額では他社との競争に勝てないこと等から,原告との取引を打ち切って他社からひも状接触材を買い受けることとし,次の(9)の取引を最後に原告との取引を終えた。
(9) 平成11年2月2日,被告は原告に対し,農集排向けBM-1530(被告製品(1))を2万m,単価98円(消費税を含めて合計205万8000円)で注文し,同日,原告は被告に対し,注文請書を送付した。
平成11年2月22日,原告は被告に対し,請求書を送付した。同請求書には,上記注文書と同一の内容が記載されていた。
平成11年4月20日,被告は原告に対し,上記代金205万8000円を振込み送金した。
上記の注文された製品は,同年2月末までに原告から被告に納品された。
(10) 被告は,別紙取引一覧表記載の各取引を行ったが,このうち,NO.8までは,原告から買い受けたひも状接触材を使用し,NO.9(平成11年9月)以降については,原告以外の第三者から買い受けたひも状接触材を使用している。
(11) 被告は,平成11年9月に,「ACCLIMA」「アクリマ」という商品名のひも状接触材のカタログを作成し,原告以外の業者から買い受けたひも状接触材については,「ACCLIMA」「アクリマ」という商品名で販売しており,「バイオモジュール」「BIO MODULE」を使用していない。
2 争点(1)について
(1) 原告は,平成11年1月ころ,被告との間で,特許使用料(被告製品(1)については,1m当たり120円,被告製品(2)については1m当たり200円)の支払契約を締結した旨主張する。
しかしながら,上記1で認定した事実によると,原告と被告との間には,ひも状接触材についての売買契約があるのみで,特許使用料の支払契約が存したとは認められない。原告代表者も,代表者尋問において,被告との間で,特許使用料の支払契約を締結したことはないという趣旨の供述をしている。
(2) したがって,原告の被告に対する特許使用料の支払請求は理由がない。
3 争点(2)について
(1) 上記1で認定した事実,殊に上記1(3)(4)で認定した事実によると,被告が原告から買い受けたひも状接触材を販売している限りは,原告は,被告に対して,「バイオモジュール」又は「BIO MODULE」の使用を黙示的に許諾していたものと認められる。
そして,上記1で認定した事実によると,被告は,平成11年9月からは,原告から買い受けたひも状接触材を販売していないが,「ACCLIMA」「アクリマ」という商品名で販売しており,「バイオモジュール」「BIO MODULE」を使用していないものと認められる。
したがって,被告による本件商標権侵害の事実は認められない。
(2) なお,証拠(甲17,乙31の1,2)によると,愛知県知立土木事務所が作成した稗田川浄化施設に関するパンフレットには,「バイオモジュール」という言葉が使われていること,被告は,平成11年7月から8月にかけて,同浄化施設のひも状接触材を株式会社荏原製作所から受注したこと,以上の事実が認められるが,上記パンフレットは,上記認定のとおり愛知県知立土木事務所が作成したもので,被告のパンフレットではないから,そこに「バイオモジュール」という言葉が使われており,また,その施設のひも状接触材を被告が受注したものであっても,被告が「バイオモジュール」を使用したことにはならない。したがって,この事実は,被告による本件商標権侵害の事実とはいえない。
(3) よって,原告の本件商標権に基づく請求は理由がない。
4 結論
以上の次第で,原告の被告に対する本件各請求は理由がないから,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 内藤裕之 裁判官 上田洋幸)
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