東京地方裁判所 平成14年(ワ)11258号 判決 2003年2月03日
原告
X1
ほか二名
被告
沼南タクシー有限会社
主文
一 被告は、原告X1に対しては金四六一四万二一二四円、原告X2及び原告X3に対しては各金二三〇七万六〇六二円並びにこれらに対する平成一二年七月一九日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告X1に対しては金五〇六二万七三八〇円、原告X2及び原告X3に対しては各金二五三一万三六九〇円並びにこれらに対する平成一二年七月一九日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、後記一(1)の交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡Aの相続人である原告らが、被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実等及び証拠(証拠番号は各項の括弧内に掲記した。)により明らかに認められる事実
(1) 本件事故の発生(甲一、乙二、三、五)
ア 日時 平成一二年七月一九日午後八時一八分ころ
イ 場所 千葉県柏市東台本町五番一五号先の国道一六号線の交差点(以下「本件交差点」という。)
ウ 関係車両 被告の従業員であったBが運転する事業用普通乗用自動車(車両番号・野田○○あ○○○)(以下「加害車」という。)
亡Aが運転する自転車(以下「被害車」という。)
エ 事故態様 本件交差点を柏市桜台方面から同市戸張方面に向かって右折しようとした加害車が、本件交差点の同市戸張方面寄りに設置されている横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)上を青信号に従って走行していた被害車に衝突した。
(2) 被告の責任原因
被告は、本件事故当時、自己のために加害車を運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき、本件事故によって生じた人的損害を賠償すべき責任を負う。
(3) 治療経過(甲二、三)
亡Aは、本件事故により意識不明の重体となり、平成一二年七月一九日、東京慈恵会医科大学附属柏病院(以下「本件病院」という。)に入院したが、一度も意識を回復することなく、同月二六日午後一〇時七分ころ、脳挫傷及び急性硬膜外血腫により死亡した。
(4) 相続
本件事故当時、原告X1は亡Aの妻であり、原告X2及び原告X3はいずれも亡Aの子であり、本件事故により亡Aが取得した被告に対する損害賠償請求権のうち、二分の一を原告X1が、各四分の一を原告X2及び原告X3が、それぞれ相続した。
(5) 損害の填補
原告らは、自賠責保険から、本件事故による損害のうち三〇〇〇万円の支払を受けた。
二 争点
(1) 過失相殺の可否
(被告の主張)
ア Bは、加害車を運転して本件交差点を右折する際、本件交差点の中央で対向直進車をやり過ごすため、加害車を一旦停車させたほか、本件横断歩道の手前でも先行する車両に続いて加害車を一旦停車させ、本件横断歩道上に横断する者が全くいなくなったことを確認した上で、加害車を発車させており、本件横断歩道上の横断者の有無及びその安全確認を怠ってはいない。加害車が被害車と衝突したのはその直後であるが、Bは、衝突の直前又は衝突時まで、被害車の存在に気付いていなかった。以上の経緯からすると、被害車は、本件横断歩道を通過しかけていた加害車の右後方の本件横断歩道外から本件横断歩道に斜めに高速度で走行してきたとしか考えられない。したがって、亡Aにも過失が認められるのであり、相応の過失相殺がされるべきである。
イ また、仮に、被害車が当初から本件横断歩道上を走行していたとしても、横断歩道は、歩行者の横断の用に供するものであって、自転車が走行するための場所ではないから、亡Aは、被害車から降りて本件横断歩道を横断すべきであったのに、Bの死角となる方向から速度を出して走行してきたものと考えられ、この点でも相応の過失相殺がされてしかるべきである。
(原告らの主張)
アについて
被告の主張は、Bに対する業務上過失致死被告事件において主張されたものであるところ、同事件の判決で排斥されており、根拠のないものであることは明らかである。
イについて
仮に、亡Aが被害車を運転して本件横断歩道上を走行したことが道路交通法に違反するものであったとしても、本件事故は、Bが横断歩道上の安全確認を怠るという自動車運転者としての基本的な注意義務を怠ったことによって発生したものであって、この重大な過失に照らせば、亡Aの前記道路交通法違反をもって、過失相殺をするのが相当でないことは明らかである。
(2) 損害額
(原告らの主張)
ア 入院付添費 五万二〇〇〇円
亡Aは、重篤な症状で入院し、原告X1は、亡Aの入院中(八日間)、毎日付き添ったものであり、入院付添費は、一日当たり六五〇〇円として前記金額が相当である。
イ 入院雑費 一万二〇〇〇円
亡Aの入院中の雑費は、少なくとも一日当たり一五〇〇円として前記金額が必要であった。
ウ 葬儀費用 一七三万三二八七円
エ 逸失利益 九二一〇万七四七四円
(ア) 定年退職までの間の得べかりし収入 七一八六万五〇二一円
亡Aの平成一一年分の年収は一一五八万三二一一円であり、亡Aは、本件事故当時の四八歳から定年である六〇歳までの一二年間は、少なくとも同額の年収を得ることができたから、その間の得べかりし収入は、生活費控除率を三〇パーセントとしてライプニッツ方式により中間利息を控除すると、七一八六万五〇二一円(円未満切捨て)となる。
(イ) 退職金の差額 四四七万四六八八円
亡Aは、一二年後の定年退職時には二八六〇万三五〇〇円の退職金を得ることができたところ、実際には死亡退職金として二〇一六万五四六七円を得るにとどまったから、その差額である八四三万八〇三三円についてライプニッツ係数により求めた現価四四七万四六八八円(円未満切捨て)が本件事故による損害となる。
(ウ) 定年退職後の得べかりし収入 一五七六万七七六五円
亡Aは、定年退職後も六七歳までの七年間は、就労可能であって、大卒男子労働者六〇歳ないし六四歳の平均賃金(年収六九九万〇九〇〇円)は得ていたであろうから、その間の得べかりし収入は、生活費控除率を三〇パーセントとしてライプニッツ方式により中間利息を控除すると、一五七六万七七六五円(円未満切捨て)となる。
オ 慰謝料 三〇〇〇万〇〇〇〇円
亡Aは、一家の支柱として稼働していたところ、本件事故により重篤な傷害を負い、八日間にわたる入院中も意識を回復することなく、死亡するに至ったものであり、原告らを残した無念さは筆舌に尽くし難い。
また、被告が付保した保険会社は、一旦は示談案を提示しながら、原告ら訴訟代理人が同社と交渉しようとしたところ、Bの刑事手続が終了するまでの間は交渉することができないと主張し、Bの刑事手続が終了した後も、終了の連絡すらなく、従前の示談案を再提示するのみで、金額について交渉の余地はないと述べ、その対応は不誠実というほかない。
したがって、前記事情を勘案すれば、慰謝料としては前記金額が相当である。
カ 弁護士費用 七三五万〇〇〇〇円
(被告の主張)
エについて
(ア)について
一般企業においては、五六歳以降は給与が漸次減額される給与体系になっているのが通例であるから、定年退職までの間の逸失利益の算定に当たっては、定年に至るまでの給与体系に変化がないことの立証が必要であるというべきである。
(ウ)について
一般のサラリーマンにおいては、定年退職後の再就職は困難であり、退職後の生活財源は年金収入が中心となる者が大半である。また、仮に再就職ができたとしても、学歴の相違により収入に明白な差異が生ずる例はむしろ少数というべきである。したがって、六〇歳以降の逸失利益の算定に当たっては、学歴計男子労働者六〇歳ないし六四歳の平均賃金を基礎とすべきである。
また、生活費控除率については、六〇歳以降の扶養家族は、通常、妻一人になるはずであり、この場合、収入に占める生活費の割合は、増大するはずである。したがって、生活費控除率は、少なくとも四〇パーセントとすべきである。
第三当裁判所の判断
一 争点(1)について
(1) 証拠(乙一ないし三、五、原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件交差点付近の状況、本件事故の具体的な状況等は、次のとおりであると認められる(なお、Bに対する業務上過失致死被告事件における被告人の公判供述調書(乙五)には、後記認定事実とは異なる記載があるが、その内容は、不自然かつ不合理であって、たやすく信用することができない。)。
ア 本件交差点は、別紙図面のとおり、ほぼ北西方向(柏市柏七丁目方面)からほぼ南東方向(柏市戸張方面)に向かって延びる国道一六号線(車道の幅員は約一五・六メートル。以下「本件道路」という。)に、ほぼ東西に延びる道路(車道の幅員は約五・五メートル。以下「東西道路」という。)が交差するとともに、ほぼ南側に向かってのみ一方通行の道路が接続している、いわゆる変形五差路である。<あ>地点には東西道路を柏市桜台方面から走行してくる車両のための信号機が、また、<い>地点には本件横断歩道を南西から北東に横断する歩行者のための歩行者用信号機が、それぞれ設置されている。
本件道路及び東西道路は、いずれもアスファルトで舖装された平坦な道路である。本件事故当時の天候は晴天で、本件交差点の路面は乾燥しており、夜間ではあったが、街灯による照明があった。
なお、東西道路を本件交差点から西に向かって進むと、JR常磐線の柏駅があり、また、本件交差点からみてほぼ南東の方向に亡Aの自宅がある。
イ 亡Aは、通勤のため、天気の良い日などは、自宅と柏駅との間を自転車を利用して往復していたものであり、本件事故当時も、勤務を終えて、帰宅するため、柏駅付近から被害車を運転し、東西道路を走行して本件交差点の南西側に至った。
ウ Bは、加害車を運転して、東西道路を東に向かって走行し、本件交差点の対面信号(<あ>地点)が赤色であったことから、<1>地点で加害車を停車させた。加害車の前には同じく信号待ちをしている車両が約二台あった。Bは、本件交差点を右折して本件道路を走行しようと考えたが、地点に本件横断歩道を横断しようと信号待ちをしていた歩行者が六ないし七人いるのに気付いた。
エ Bは、前記ウの対面信号が青色になったのを確認すると、直前の車両が発車するのに続いて加害車を発車させたが、前記ウの歩行者らが本件横断歩道を横断し終わるのを待つため、徐行しながら本件交差点に進入し、<2>地点で前記歩行者らが横断し終わるのを見届けた。そして、加害車は、同じく右折しようとしていた直前の車両の後に続いて走行したが、直前の車両が本件横断歩道の手前で、停車するかしないかの速度で歩行者の横断を待った後、加速しながら本件横断歩道を通過して右折していった。
そこで、Bは、そのまま本件横断歩道を通過して右折進行しようとしたところ、被害車が折から本件横断歩道上を北東に向かって走行してきたのに気付かず、加害車が時速約二〇キロメートルの速度で<3>地点まで到達した時点で、ようやく被害車が<ア>地点にいるのを発見し、<×>地点で加害車の右前部を被害車の左側に衝突させた結果、被害車もろとも亡Aを路上に転倒させ、亡Aは、<イ>地点まで跳ね飛ばされ、他方、加害車は、<5>地点で停車した。
(2) 前記(1)で認定した事実によれば、本件事故は、Bが本件交差点を右折すべく、本件横断歩道を通過するに当たっては、本件横断歩道を横断する歩行者等の有無及びその動静を注視して加害車を衝突させないようにすべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠り、進行方向に向かって右から走行してきた被害車の存在に気付かないまま、漫然と本件横断歩道を通過しようとした過失によって発生したものというべきである。
(3) ところで、亡Aが本件交差点の南西側から具体的にどのような経路で<ア>地点に至ったのかについては、証拠上必ずしも判然とはしないけれども、加害車が本件横断歩道を通過しようとした時点で、<あ>地点の信号機も<い>地点の歩行者用信号機もいずれも青色であったことを前提にすると、道路が平坦である上、被害車が買物等のために通常利用される自転車であって(乙一、五)さほど速度が出るとは考えられないこと、亡Aは、通常は勤務先から午後九時ころに帰宅していたこと(乙五)からして、本件事故当時、家路を急がねばならない特段の事情があったとは窺えないこと、また、被害車が、本件横断歩道を通過しようとしている加害車の運転者の死角となるであろう右後方の本件横断歩道外から斜めに走行して<ア>地点に至ったとするのは、いわば自殺行為にも匹敵する走行の仕方であると考えられることなどの事情からすれば、被害車が被告の主張するような走行の仕方をしたとは認めることができないというべきである。
また、被害車が本件横断歩道上を走行していたこと自体は、確かに、道路交通法が想定していないものといわざるを得ないが、自転車が同法上の車両に当たるとはいえ、走行する自動車から保護されるべき立場にあることは歩行者と同様であること、現実の交通事情としては、自転車が歩行者とともに横断歩道上を走行していることがむしろ一般的であること(顕著な事実)からすれば、被害車が本件横断歩道上を走行していたからといって、その一事をもって直ちに過失相殺に供することは適当ではないというべきである。
したがって、結局、この点に関する被告の主張はいずれも理由がない。
二 争点(2)について
(1) 入院付添費
前記第二の一(3)のとおり、亡Aは、平成一二年七月一九日から同月二六日までの八日間、意識不明の重体で本件病院に入院していたのであり、原告X1は、本件病院の担当医師から、亡Aの容態の回復は困難である旨告げられながら、前記入院中は毎日、本件病院に赴いては亡Aに付き添っていたこと(乙五、原告X1本人)からすれば、入院付添費としては、一日当たり六五〇〇円が相当であるから、合計五万二〇〇〇円が本件事故による損害というべきである。
(2) 入院雑費
入院雑費としては、一日当たり一五〇〇円が相当であるから、亡Aの入院していた八日間について、合計一万二〇〇〇円が本件事故による損害というべきである。
(3) 葬儀費用
証拠(甲四、五の一・二、原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1が、平成一二年八月二日及び同月一〇日、亡Aの葬儀費用として合計一七三万三二八七円を支出したことが認められるが、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては一五〇万円が相当である。
(4) 逸失利益
ア 定年退職までの間の得べかりし収入
証拠(甲七、八、乙五、原告X1本人)によれば、亡Aは、昭和○年○月○日生で、本件事故当時は四八歳であったこと、亡Aは、本件事故当時、東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」という。)に勤務していたこと、NTT東日本においては、就業規則で社員の定年年齢が六〇歳であると定められていること、亡Aの平成一一年分の年収は、一一五八万三二一一円であったこと、亡Aは、本件事故当時、原告らと同居し、原告らを扶養していたことが認められる。
したがって、亡Aが定年退職までの間に得べかりし収入は、前記年収を基礎とした上で、生活費控除率を三〇パーセントとし、ライプニッツ方式により一二年間の中間利息を控除すると、下記の算式のとおり、七一八六万五〇二一円となる。
なお、一般企業においては、五〇歳代後半以降は、給与が減額される給与体系がとられている例が多いことは、当裁判所に顕著な事実であるが、これを前提にした場合であっても、亡Aは、本件事故当時、四八歳であったことからすれば、今後も一定期間は給与が増額する蓋然性すらあったことになるから、前記算定方法を採用したことが不合理であるとはいえないというべきであり、この点に関する被告の前記主張は採用することができない。
記
1158万3211×(1-0.3)×8.8632≒7186万5021(小数点以下切捨て)
イ 退職金の差額
証拠(甲九、一〇)によれば、NTT東日本においては、退職金は、原則として退職日から三〇日以内に支給されること、退職金の額は、退職日の退職手当算定基礎額に支給乗率を乗じて算定されること、退職手当算定基礎額は、平成四年三月三一日現在在職する者にあっては、同日現在の基本給等に、退職日の基本給等と平成四年三月三一日現在の基本給等の差額の九割に相当する額を加えた額とされていること、亡Aの同日現在の基本給等は三一万一三五〇円、退職日の基本給等は四九万五一〇〇円であったこと、支給乗率は、退職事由及び勤続年数によって定められており、昭和四九年四月一日に入社した亡Aが定年である六〇歳まで勤続したと仮定した場合の支給乗率は、六〇・〇となることが認められる。
したがって、亡Aが定年退職した場合に支給されたであろう退職金は、下記の算式<1>のとおり、二八六〇万三五〇〇円となり、その現価をライプニッツ係数により求めると、下記の算式<2>のとおり、一五九二万七四九九円となる。
ところで、証拠(甲一〇、原告X1本人)によれば、亡Aが死亡したことにより支給された退職金は二〇一六万五四六七円であることが認められ、前記現価を上回るから、退職金の差額は逸失利益として認めることはできないというべきである。
記
<1> {31万1350+(49万5100-31万1350)×0.9}×60.0=2860万3500
<2> 2860万3500×0.55683742≒1592万7499(小数点以下切捨て)
ウ 定年退職後の得べかりし収入
証拠(甲一〇、乙五)によれば、亡Aが大学卒業という学歴を有していたことが認められ、前記アにみたとおり、亡Aが、本件事故当時、比較的高収入を得ていたことも併せ考慮するならば、定年退職後の基礎収入としては、大卒男子労働者六〇歳ないし六四歳の平均賃金(年収六九九万〇九〇〇円)を採用するのが相当である。
また、証拠(甲一一、乙五)によれば、亡Aが定年でNTT東日本を退職したと仮定すると、その時点で、原告X2は三〇歳、原告X3は二七歳にそれぞれ達していることが認められるから、原告X2及び原告X3は、いずれも別に世帯を設けている蓋然性が高いというべきである。そうとすれば、亡Aは、原告X1と二人だけの生活を送っているということになるから、生活費控除率は四〇パーセントとするのが相当である。
したがって、亡Aが定年退職後六七歳までの就労可能期間に得べかりし収入は、前記年収を基礎とした上で、前記生活費控除率を用い、ライプニッツ方式により一九年間の中間利息から一二年間の中間利息を控除すると、下記の算式のとおり、一三五一万五二二七円となる。
記
699万0900×(1-0.4)×(12.0853-8.8632)≒1351万5227(小数点以下切捨て)
(5) 慰謝料
証拠(原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告が加害車について付保した保険会社の担当者が原告X1に対し、本件訴訟提起前に、本件事故による損害賠償金として約八〇〇〇万円を支払いたいとの提示をしたこと、原告X1は、原告ら訴訟代理人弁護士に対し、前記賠償金について相談したところ、提示額が低すぎるということで、同弁護士に対し、前記保険会社との交渉を委ねることにしたこと、そこで、同弁護士が前記保険会社の担当者と交渉をしようとしたところ、前記担当者から、Bが本件事故に関する刑事裁判で無罪を主張する関係から、刑事裁判が終了するまでの間交渉はできず、刑事裁判が終了したときに、前記保険会社から連絡するなどと伝えられたこと、ところが、Bの刑事裁判が終了したにもかかわらず、前記保険会社からは連絡がなかったこと、そのため、原告ら訴訟代理人弁護士がBの刑事裁判が終了したことを確認した上で、前記保険会社に対し、連絡をとったところ、同社からは、従前と同じ額の提示しかされず、それ以上交渉は進展しなかったため、原告らは、やむを得ず本件訴訟を提起せざるを得なかったことなどが認められるが、そうであるからといって、慰謝料を増額すべき事由があるとまでいうことはできない。
したがって、本件事故の態様、亡Aの死亡に至るまでの経緯等本件に顕れた一切の事情を総合的に考慮すると、本件事故により亡Aが被った精神的損害に対する慰謝料としては、二八〇〇万円が相当である。
(6) 小計
前記(1)ないし(5)の合計額は、一億一四九四万四二四八円となるから、前記第二の一(4)によれば、原告X1の損害額は五七四七万二一二四円、原告X2及び原告X3の損害額は各二八七三万六〇六二円となるところ、原告らは、三〇〇〇万円の損害の填補を受けている(前記第二の一(5))から、これを、二分の一の割合で原告X1の分に、各四分の一の割合で原告X2及び原告X3の分に、それぞれ填補すると、原告X1は四二四七万二一二四円の、原告X2及び原告X3は各二一二三万六〇六二円の損害賠償請求権を取得したことになる。
(7) 弁護士費用
前記(6)の認容額や訴訟の経緯等に照らすと、本件事故との間に相当因果関係のある弁護士費用としては、原告X1が三六七万円、原告X2及び原告X3が各一八四万円が相当であるというべきである。
三 結論
以上の次第で、原告らの被告に対する請求は、原告X1については四六一四万二一二四円、原告X2及び原告X3については各二三〇七万六〇六二円及びこれらに対する本件事故の日である平成一二年七月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるから、これをいずれも認容し、その余は理由がないから、これをいずれも棄却する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 森剛)
交通事故現場見取図
<省略>