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東京地方裁判所 平成14年(ワ)11410号 判決 2004年6月30日

原告

上記訴訟代理人弁護士

中西義徳

被告

ハネウェル・ターボチャージング・システムズ・

ジャパン株式会社

上記代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

大塚一郎

大塚一郎訴訟復代理人弁護士

高信桃子

主文

1  被告は、原告に対し、金776万3250円及び

①  内金13万5625円に対する平成14年1月21日から

②  内金13万5625円に対する同年2月21日から

③  内金13万5625円に対する同年3月21日から

④  内金26万0625円に対する同年4月21日から

⑤  内金26万0625円に対する同年5月21日から

⑥  内金39万6250円に対する同年6月15日から

⑦  内金26万0625円に対する同年6月21日から

⑧  内金26万0625円に対する同年7月21日から

⑨  内金26万0625円に対する同年8月21日から

⑩  内金26万0625円に対する同年9月21日から

⑪  内金26万0625円に対する同年10月21日から

⑫  内金26万0625円に対する同年11月21日から

⑬  内金52万1250円に対する同年12月7日から

⑭  内金26万0625円に対する同年12月21日から

⑮  内金34万9625円に対する同15年1月21日から

⑯  内金34万9625円に対する同年2月21日から

⑰  内金34万9625円に対する同年3月21日から

⑱  内金34万9625円に対する同年4月21日から

⑲  内金109万6250円に対する同年6月7日から

⑳  内金39万9625円に対する同年5月21日から

file_4.jpg内金39万9625円に対する同年6月21日から

file_5.jpg内金39万9625円に対する同年7月21日から

file_6.jpg内金39万9625円に対する同年8月21日から

各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告に対し、金100万円及びこれに対する平成14年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

主文同旨

第2  事案の概要

本件は、被告の従業員である原告が、被告の原告に対する降格処分及びこれに伴う減給処分は、人事権を濫用したものであり、合理性を欠く就業規則の不利益変更等に基づき行われたものであり無効であるなどと主張して、被告に対し、減給前の給与、賞与額と実際の支給額との差額の支払を求めるとともに、降格処分及び減給処分等は違法であると主張して、不法行為に基づき、これによって被った損害の賠償を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠等で認定した事実は当該証拠等を文末に掲記する)

(1) 被告は、内燃機関に関する機械器具の輸出入、製造、組立、販売及びサービス等を目的とする資本金2億4000万円の株式会社であり、アメリカ合衆国にあるアライドシグナル・ターボチャージング・システムズ社(以下「米国親会社」という)の100%出資の子会社である(甲1、乙56)。

(2) 原告は、昭和61年3月、被告に入社した。

(3) 原告は、昭和61年6月、第2営業課長に任命され、平成3年4月には営業部次長に、同10年4月には営業部長に昇進した。被告は、平成12年4月1日、原告を営業担当取締役に任命する辞令を出し、年収を1400万円(内訳、職能給月額72万5000円、職務給月額12万円、管理職給月額3万円)とした(甲3)。

(4) 被告は、平成12年9月1日、原告を営業担当取締役からOEM担当営業部長兼IAM(アフター・マーケット)担当営業部長に降格させ、同年10月1日にはIAM担当営業部長に降格させ、被告児玉工場で勤務することを命じた(甲5ないし8、10、両者を併せて、以下「本件第1次降格処分」という)。

(5) 被告は、平成13年1月1日、管理職人事制度(以下「平成13年管理職人事制度」という)を施行した。被告は、平成13年1月1日、平成13年管理職人事制度に依拠し、原告の年俸を1417万円(月次支給額88万5625円、賞与額177万1250円)とした(甲12)。

(6) 被告は、平成13年10月1日、原告をIAM担当営業部長から営業部主管(課長職)に降格させ(以下「本件第2次降格処分」という)、①プリプロ収益削減プロジェクト(プリプロとは、正規生産前の段階で、耐久テスト、性能評価などのいろいろな評価に使うため、顧客にサンプル品を提供することをいう)、②ワランティーコスト削減プロジェクト(ワランティーコストとは製品価格に占める保証コストの比率をいう)、③在庫削減プロジェクト、④P/N削減プロジェクト(P/Nとはパーツナンバーを指し、これを削減することにより被告の管理工数を減らし、顧客からの不定期な小口の注文を減らし、もって小口商品の在庫を減らすことを目的とするものである。以下、4つのプロジェクトを合わせて、「本件4プロジェクト」という)の業務に従事するよう命じた(甲13、弁論の全趣旨)。

(7) 被告は、平成14年1月1日、平成13年管理職人事制度を改訂した(以下「改訂管理職人事制度」という)。被告は、平成14年1月1日、原告を営業部主管から営業部専門職(プロジェクト担当)に任命し(なお、仕事は従前どおり本件4プロジェクトに従事)、年俸を1200万円(月次支給額75万円、賞与額150万円)に減給した(以下「本件第1次減給処分」という)。原告は、本件第1次減給処分に異議を唱えた(甲9、14、18ないし20、証人G【2頁】、弁論の全趣旨)。

(8) 被告は、平成14年4月1日、原告に対し、本件4プロジェクトの担当主管課長の任を解き、翻訳の業務を命じた(以下「本件第3次降格処分」という)。被告は、本件第3次降格処分に伴い、原告を課長職(6級)レンジの中間値に評価し、平成14年4月1日、原告の年俸を1200万円から1000万円(月次支給額62万5000円、賞与額125万円)に減給した(以下「本件第2次減給処分」という)。

(9) 原告は、平成14年12月24日、満56歳になり、改訂管理職人事制度5条に定める専門職の定年年齢に達した。そこで、被告は、平成15年1月1日、原告を試作管理課の現業職を命じた(以下「本件第4次降格処分」という)。被告は、平成15年1月1日、原告に対し、本件第4次降格処分に伴い、年収を643万2000円(月次支給額53万6000円)に減給した(以下「本件第3次減給処分」という)。(甲75ないし77)

(10)  被告は、平成15年5月2日、原告に対し、愛知陸運株式会社藤岡営業所でBPCSのインプット業務に従事することを命じ、月額給与を53万6000円から48万6000円に減給した(以下「本件第4次減給処分」という)。

2  争点及び当事者の主張の要旨

(1) 被告の原告に対する本件第1次ないし第4次降格処分は有効か(争点1)

前記争いのない事実等からも明らかなとおり、被告は、原告に対し4次にわたり降格処分をし、これに伴い減給処分をしている。そうすると、被告の原告に対する4次にわたる降格処分が人事権を濫用した無効なものであれば、これに伴う本件第1次ないし第4次減給処分も理由がなくなるということになる。この点に関し、被告は、原告に対する本件第1次ないし第4次降格処分はいずれも正当な人事権の行使であり何ら問題ないと主張し、これに対し、原告は、これらの降格処分はいずれも人事権を濫用したものであり無効であると主張する。この点に関する、当事者双方の主張の要旨は以上のとおりであるが、なお少し詳しく述べると以下のとおりである。

【被告の主張】

ア 本件第1次降格処分(営業担当取締役からIAM担当営業部長への降格)

被告が、原告に対し本件第1次降格処分をしたのは、原告が被告の代表取締役社長であったA(以下「A社長」という)の決定及び経営会議(シニア・マネジメント・カウンセル、以下「SMC会議」という)の決定、合意事項に対し非協力な態度をとったからである。原告の非協力な態度の主なものは、次の(ア)ないし(ウ)のとおりである。

(ア) SMC会議への非協力

原告は、A社長に対し、SMC会議のテレビ会議化や代理出席の容認を執拗に要求し、SMC会議を妨害した。

(イ) 必要なレポート・相談を行わない

a A社長は、原告に対し、顧客別の利益率に関するレポートを営業部門として分析を加えたうえでSMC会議に報告することを求めたが、原告は、これをしなかった。

b A社長は、原告に対し、計画実績に対するレポートを営業部門として分析を加えたうえでSMC会議に報告することを求めたが、原告は、これをしなかった。

c A社長は、原告に対し、2005年―2007年のディーゼル規制に関する情報を集め被告への影響を分析することを求めたが、原告は何らのレポートも行わなかった。

(ウ) ベスト活動推進室の実施への非協力

被告では、社内で総合マーケティングを担当する部署として、B工場長(以下「B工場長」という)を室長とするベスト活動推進室を立ち上げた。原告は、営業部門と他部門との間に強硬に壁を作ろうとし、ベスト活動推進室の活動に非協力な態度をとった。

(エ) 以上のとおり、原告は、経営の効率化及び構造改革のための被告の施策全てに非協力な態度をとり続けた。そこで、被告は、原告を経営陣の一翼を担う取締役という地位においておくことは相応しくないと判断し、営業担当取締役からIAM担当営業部長への本件第1次降格処分を行った。

イ 本件第2次降格処分(IAM担当営業部長から営業部主管(課長職)への降格)

本件第2次降格処分の理由は、第1にIAM部門の日本での販売実績が計画に比べ大幅に未達成であったこと(3億9315万円の目標に対し2億5202万円の実績しか上げられなかった)、第2に原告がIAM取引の大口顧客である株式会社エッチケーエス(以下「HKS社」という)を訪問して善後策を講ずるといった積極的な活動をせず、原告の姿勢ではIAM部門の業績回復を期待することができないと思われたこと、第3に原告の上司であるIAM部門のアジア地域ディレクターであるC(以下「C」という)に対する原告の報告・相談が不十分であったことから、被告はCから原告の更迭を求められたからである。

ウ 本件第3次降格処分(営業部主管から翻訳への降格)

被告が、原告に対し、本件4プロジェクトの担当主管課長の任を解き、翻訳への降格を決めたのは、後記(ア)ないし(エ)のとおり、本件4プロジェクトの完了時期である平成14年3月になっても、原告は目標のほとんどを十分に達成することができず、その職責を果たしているとは言い難い状態であったからである。

(ア) プリプロ収益改善プロジェクトについては、①収益率を20%とすること、②収益率20%の比率を維持するための仕組み作りをすることが目標であった。しかるに、収益率は16.3%に留まり、仕組みの開発も全くなされなかった。

(イ) ワランティーコストの削減プロジェクトについては、平成14年3月までに、①OEM・OES売上の1%以下の必達、②NDワランティーレシオ(日産ディーゼル向け保証費用分担割合)の改善が目標であった。しかるに、①OEM・OES売上の1%以下の必達については達成されたものの、原告が品質保証部長の力を借りて遂行したことを勘案すれば貢献度を低く見積もらざるをえず、②NDワランティーレシオについては期間中の改善は見られなかった。

(ウ) 在庫削減プロジェクトについては、①平成13年12月までに同年第4四半期(以下「4Q」という)の在庫削減目標の達成、②平成14年4Q在庫30%削減、同年平均で15%削減の達成が目標であった。しかるに、前記①は達成されたが、原告の関与はなく、前記②は途中で原告が仕事を放棄したため達成されなかった。

(エ) P/N削減プロジェクトについては、①注文が年20個以下のP/Nを削減すること、②削減できずに残さざるをえないP/Nについての対策が目標とされた。ところが、原告は、前記①の削減については649個まで削減すべきところを331個までしか削減できず、前記②については原告は出荷停止という方法ならとれるという趣旨の感情的反発をするのみで、被告に対し、具体的な対策について何らの報告もしなかった。

エ 本件第4次降格処分(翻訳から試作管理課への配転)

被告は、平成14年4月以降、原告に対し、事実上与えるべき業務がなくなった。そこで、被告は、やむを得ず、原告に対し、語学ができるということから翻訳の業務を与えることにした。しかし、翻訳の業務は、週に数枚程度の翻訳作業をするにすぎず、このような業務しかしない従業員に対し1000万円もの年俸を支払うのは明らかにバランスを欠いていた。そうした中、原告は、平成14年12月24日、改訂管理職人事制度に定める専門職の定年(満56歳)に達したため、これを契機に、被告は、原告に対し、試作管理課課員としての職務を命じたのである。さらに、被告は、平成15年5月2日、原告に対し、愛知陸運株式会社藤岡営業所でBPCSのインプット業務に従事することを命じた。

【原告の主張】

ア 本件第1次降格処分(営業担当取締役からIAM担当営業部長への降格)に対し

原告が営業担当取締役に任命されたのは平成12年4月1日付であるが、本件第1次降格処分がされた同年10月1日までの間、担当職務である営業の成績には何ら問題がなかった。被告は、本件第1次降格処分の理由として、A社長の社内改革に対する原告の非協力を挙げるが、そのような事実は存在しない。よって、被告の原告に対する本件第1次降格処分は人事権を濫用したものであり、無効である。

(ア) SMC会議への非協力

原告が、SMC会議のテレビ会議化や代理出席の容認を要求したことは事実であるが、これは、降格処分の理由にはならない。なぜなら、SMC会議をテレビ会議化したり、代理出席を認めることは、何らSMC会議の機能を損なうものではないからであり、これをもってSMC会議への非協力ということはできない。

(イ) 必要なレポート・相談を行わないことに対し

原告は、営業担当取締役として、その業務に精励していた。原告は、A社長の要求する資料について、作成可能なものについては作成したし、作成不可能なものについては作成することが不可能な理由を説明した。ところが、A社長は、原告において作成することが不可能なものまで繰り返し作成、提出することを要求し、これに応ずることができない原告を非協力と主張しているのである。具体的には次のとおりである。

a 顧客別の利益率に関するレポートは、Dコントローラー(財務の総責任者で経理部長の上位に位置する職責、以下「Dコントローラー」という)より「お客様別利益報告」としてSMC会議で定期報告されていた。また、その明細も毎月SMC会議の構成員に配布されていた。これらの実績は、経理部内で処理され、月次の決算結果として米国親会社に報告されていた。しかし、A社長は、それらのデータ処理に営業部が介在することは不可能であることを知っていながら、原告に対し、「お客様会議」に使用するためと称してそのデータ分析を執拗に要求し、あたかも原告が利益率レポートの提出や「お客様会議」の開催を拒否したかのように作文し、原告を非難することに利用したのである。

b 計画実績に対するレポートも、生産数量についてはB工場長より、また金額については経理部より、米国親会社へのレポートを含め定期的に報告されていた。しかし、A社長は、工場生産品に対する計画と実績に対する変動を営業部において分析できる道理がないことを承知の上で、原告に対し、執拗に営業部によるデータ分析をするように要求した。

c A社長は、原告に対し、入手する方法がない「2005年―2007年のディーゼル規制情報」の検討を強要した。

(ウ) ベスト活動推進室の実施への非協力に対し

a 原告が、ベスト活動推進室の設置について疑問を持ち、SMC会議で質問をした。被告によれば、SMC会議は御前会議ではないというのであるから、この会議の場で、ある施策に反対の意見を述べることは当然に認められた行為というべきである。原告のSMC会議での質問をもって降格処分の理由にするのであれば、SMC会議が単なる御前会議であることを自白しているに等しい。

b ベスト活動推進室は名目的な存在であり、実質的に機能していない存在であった。平成12年6月、当時工場長であったB取締役に対し、ベスト推進室室長(兼務)の辞令が出された。原告は、B工場長1人をベスト推進室に置くことに疑問があったために、SMC会議の席上で幾つかの質問をした。原告の質問内容は、社会常識を踏まえたものであり、決してベスト推進室への協力を否定するものではなかった。

イ 本件第2次降格処分(IAM担当営業部長から営業部主管(課長職)への降格)に対し

(ア) 被告は、IAM部門が業績不振であったため、平成11年12月末、IAM部門を廃止し、同時にIAM部門の拠点工場であった桶川工場をターボテクノサービス株式会社(以下「TTS社」という)に売却した。Cは、被告IAM部門の業績を改善させることは困難であることを知りながら、同部門の平成13年目標を前年比プラス24%に設定した。しかし、被告IAM部門の最大の顧客(取引の半分を超える)であるHKS社の売上不振が響き、原告は、前記目標を達成することができなかった。Cは、HKS社での被告製品の在庫が過大で平成13年目標が未達成に終わることは、同年5月のHKS社訪問時には認識していた。しかし、Cは、HKS社の携わっているハイ・パフォーマンス・ターボ市場の特殊性を理解しており、原告に対し、販売促進の圧力をかけてくることはなかった。当時、アジア全体のIAM部門の売上は中国を中心に急増しており、Cとしては、元々少額である被告の日本市場でのIAM部門の売上金額を論じる必要がなかったからである。

(イ) 被告は、Cが被告に対し原告をIAM担当営業部長から更迭するよう要求したと主張するが、そのような事実はない。E氏を被告IAM部門の担当者として採用することを決めていたA社長は、Cに対し、原告を被告のIAM部門から外すことを前提として、原告を退職させるか、または他のプロジェクトにつかせるかの二者択一を迫ったにすぎない。

(ウ) HKS本社への訪問は、CとアジアIAM担当エンジニアであるF氏が定期的に行っている。CはアジアIAM売上の責任者であるため、HKS社のような重要顧客を直接訪問し、将来のビジネス及び現状を把握するように努めている。原告も、CがHKS社を訪問する際は必ずこれに同行し、被告に対するHKS社の要望の実現に努力している。被告は、IAM部門の廃部と同時に桶川工場をTTS社に売却したため、HKS社向け出荷品のクレーム調査及び新製品のテストをTTS社に委託したり、或いは同社からテスト機具を借用する必要があった。このため、原告は、CとHKS社を定期訪問する前、TTS社に出向き、必要情報、或いは資料についての事前打ち合わせをするなどしており、HKS本社への出張回数は決して少ない回数ではなく、適切な回数である。

(エ) 被告は、当初からIAM部門の売上改善は見込めないことを承知しながら、原告にその仕事をさせたものである。

ウ 本件第3次降格処分(営業部主管から翻訳への降格)に対し

(ア) 被告は、本件第2次降格処分と同時に、原告に対し、今後の業務として本件4プロジェクトにつくよう命じた。被告は、原告の意向を聴取することなく、本件4プロジェクトの目標及び達成時期を指定した。そこで、原告は、G常務(入社時はOEM担当営業部長、その後常務、取締役社長に昇進、以下「G」、「G常務」という)に対し、社内標準評価システム(MRR)に準じることを要求したが、何ら回答を得ることはできなかった。原告は、被告の指示に従わなければ業務拒否により解雇されることが予想されたため、本件4プロジェクトの業務についた。

(イ) プリプロ収益改善プロジェクトについて

プリプロ収益は、原告の功績により約2億円の黒字が出ており、十分な貢献である。被告は20%の目標未達成と仕組み作りができていないことをマイナス評価の理由としている。しかし、20%の目標に対し16.3%を達成すれば十分と考えられる。また、プリプロ収益改善の仕組みについては、仕組みには問題はなく運用の問題であり、したがって仕組みを変える必要はないことから、原告は、被告に対し、現行システムを維持すべきであるとの報告をしている。

(ウ) ワランティーコスト削減プロジェクトについて

原告は、ワランティーコストについて6000万円のコスト削減に成功しており、何ら問題がない。

(エ) 在庫削減プロジェクトについて

在庫削減は、平成13年4Qの目標は達成している。平成14年の在庫削減30%の目標は未達であったが、この目標は、原告が担当を外れた同年10月から1年半近くを経た時点でも達成されておらず、そもそも目標値自体が達成不能な目標値であったといわざるを得ない。

(オ) P/N削減プロジェクトについて

P/Nの削減目標は649個であるところ、原告は、この内331個(51%)は達成した。更に68個(10%)は、顧客に削減の要求を出して回答待ちであった。また、OEMとの取引合意書に抵触するP/N削減は、出荷拒否以外には不可能であり、被告の設定した目標自体が元々無理な要求であった。

エ 本件第4次降格処分(翻訳から試作管理課)に対し

原告は、営業職として被告に採用されたものである。被告の狙いは、原告を事務所職場から排除することにある。被告は、原告に対し、不適当な業務を与え続け、降格、減給を繰り返し、不当に成立を図った改訂管理職人事制度を使用して、現場作業など経験のない原告を試作管理課等の現業職の地位に就け、原告に対し嫌がらせを加え続けているのである。

(2) 被告の原告に対する本件第1次ないし第4次減給処分は、就業規則の不利益変更に当たり許されないか(争点2)

仮に、被告の原告に対する本件第1次ないし第4次降格処分が有効であるとしても、当該降格処分をしたからといって当然のこととして原告の給与を減額することはできず、これを減額するためには法的な根拠が必要である。この点に関し、被告は、原告の給与を減額したのは、平成13年管理職人事制度導入以前の就業規則(以下「旧就業規則」という)に基づくものであると主張し、仮に、旧就業規則によって原告の給与を減額することができないとしても、平成13年管理職人事制度、改訂管理職人事制度により原告の給与を減額することができると主張する。これに対し、原告は、旧就業規則には給与減額の規定がなく、旧就業規則に依拠して降格に伴って原告の給与を減額することはできず、また、平成13年管理職人事制度、改訂管理職人事制度は就業規則の不利益変更に当たり、これらの規定を根拠に原告の給与を減額することはできないと主張する。原告の就業規則の不利益変更の主張に対し、被告は、平成13年管理職人事制度及び改訂管理職人事制度は就業規則を不利益に変更したものではなく、仮に不利益に変更したものであるとしても、変更の必要性、合理性があり、就業規則の変更は有効であると主張する。当事者双方の主張の要旨は以上のとおりであるが、なお少し詳しく述べると以下のとおりである。

【被告の主張】

ア 減給処分の根拠その1―旧就業規則(賃金規則6条1項)

旧就業規則である賃金規則6条1項によれば、「基本給は、各人の職務・能力・年齢・勤務経験・勤務成績などを総合勘案して月額で定める」と規定しており、被告は、本条項に基づいて、降格または査定に基づき従業員の賃金の引下げをすることができる。したがって、旧就業規則である賃金規則6条1項が存在する以上、原告が降格したことに伴う、本件第1次ないし第4次減給処分は有効である。

イ 減給の根拠その2―平成13年管理職人事制度

(ア) 平成13年管理職人事制度によれば、これまでの年功による賃金、昇進決定を改め、職位と業績による賃金決定、能力、業績、意欲の評価による昇進決定方式に移行すること、新たに管理職に専門職制を導入し、賃金が下がる場合もあること(初年度導入時は100万円を下限とする)が明記されており、平成13年管理職人事制度により、降格した原告に対し、その職位と業績により、給与の引き下げができることは明らかである。

(イ) 平成13年管理職人事制度は就業規則の不利益変更には当たらない。その根拠は次のとおりである。

a 賃金の決定主体はもともと被告にあり、何ら変更はされていない。

b 役職定年制が導入されたが、これは気力、能力等が衰えはじめた高齢従業員を能力に見合った責任の軽い職務に変更することを可能にするものであり、従業員に不利益な変更とはいえない。

c 管理職全体としては賃金が上がっており、不利益な変更ではない。

(ウ) 平成13年管理職人事制度でこれまでの就業規則を変更する必要があった。その理由は次のとおりである。

a 役職定年制(専門職への移行)

65歳定年制を維持し、かつ、管理職のポストに上限がある以上、役職定年制を導入しない限り優秀な若手技術者を管理職に登用することができず、若手を中心として被告の従業員の士気が低下するおそれがあり、これを防止する必要があった。また、顧客自体の競争が激化し、生産拠点の中国へのシフトが主流となり、被告の業界でも競争激化が予想される中、被告としては、競争に勝つために、役職定年制を導入する必要があった。

b 能力、業績中心の考課

競争の激化が予想される被告業界にあって、被告が生き残るためには、気力、能力等が衰えはじめた高齢従業員を能力に見合った責任の軽い職務に変更し、他方、気力、能力の充実した優秀な若手を責任の重い職務につけることが必要であり、その結果、職務内容に合わせて賃金を変更する必要があった。

(エ) 平成13年管理職人事制度の内容は、次のとおり合理性のあるものである。

a 管理職全体の賃金は下がっていない。

b 役職定年制により専門職になる従業員についても前職の約8割程度の賃金を支払う運用がされており、大きな不利益があるとはいえない。

c 平成13年管理職人事制度導入前には何度もSMC会議で協議を重ねており、被告は従業員に対し誠意ある対応をしている。

d 平成13年管理職人事制度は、査定者を直属の上長に変更することにより、査定の透明化を図っている。その結果、上下間の信頼関係を回復し、従業員の士気を高めるというプラス効果を生んでいる。

e 賃金を、年功重視から能力、業績重視へと変容させ、役職定年制を導入することは、多くの日本企業で行われている。

ウ 減給の根拠その3―改訂管理職人事制度

(ア) 改訂管理職人事制度4条④によれば、「等級、査定、賃金改訂は、年度で行うことを原則とするが、職務の変更、業績の計画との著しい乖離、本人の取り組み姿勢、社則・社会規範への遵守状況などを考慮し、必要と認められるときは年度内においても随時上方、下方への改訂が可能とする」と規定されている。被告が、改訂管理職人事制度4条④により降格した原告に対し、その職位と業績により、賃金の引き下げをすることができることは明らかである。

(イ) 改訂管理職人事制度は就業規則の不利益変更に当たらない。その根拠は次のとおりである。

a 平成13年管理職人事制度でも降格処分は可能であり、不利益変更はない。

b 平成13年管理職人事制度では、役職者の給与はその職務と業績によって定めるとされていたから、年度途中で役職者の職務が変更されれば、その給与が変更になるのは当然のことであり、改訂管理職人事制度4条④はその点を明確にしたにすぎない。

c 専門職定年制が導入されたことは不利益変更とはいえない。なぜなら、従業員は、専門職定年制により一般職になっても、業績重視で賃金が決定される以上、業績さえ上げれば、専門職の賃金と遜色のない賃金の支払が受けられるからである。

d 管理職全体の賃金は上がっている。

e 賞与及び退職金は本人の業績次第であり、必ずしも改訂管理職人事制度が大幅な引き下げを導くものではない。

f 原告は現業職への配転により労働強化を図るものであると主張するが、否認する。

(ウ) 改訂管理職人事制度でこれまでの就業規則を変更する必要があった。その理由は次のとおりである。

a 専門職定年制

競争の激化が予想される被告業界にあって、被告が生き残るためには、気力、能力等が衰えはじめた高齢従業員を能力に見合った責任の軽い職務に変更し、他方、気力、能力の充実した優秀な若手を責任の重い職務につけることが必要であり、その結果、職務内容に合わせて賃金を変更する必要があった。

b 降格、賃下げ

前記aと同様の理由で、職務内容に合わせて賃金を変更する必要があった。

(エ) 改訂管理職人事制度の内容は、次のとおり合理性のあるものである。

a 管理職全体の賃金は下がっていない。

b 専門職定年制により一般職になる従業員も、業績さえ上げれば前職のそれと遜色のない賃金の支払を受けることができ、大きな不利益があるとはいえない。

c 被告は、改訂管理職人事制度導入に当たっては、事前に、管理職を集めて説明をしたほか、従業員代表にも説明する等誠意ある対応をしている。

d 改訂管理職人事制度は、査定者を直属の上長に変更することにより、査定の透明化を図っている。その結果、上下間の信頼関係を回復し、従業員の士気を高めるというプラス効果を生んでいる。

e 賃金を、年功重視から能力、業績重視へと変容させ、専門職定年制を導入することは、多くの日本企業でも行われている。

【原告の主張】

ア 減給処分の根拠その1に対し

旧就業規則である賃金規則6条1項に依拠して原告を減給処分することはできない。なぜなら、①被告の原告に対する減給処分は労基法2条に違反すること、②旧就業規則には昇給条項はあるが、減給条項はないこと、③平成13年管理職人事制度が導入されるまで、被告においては賃金引き下げを受けた従業員はいなかったこと、④労使の合意で賃金を決定するとの労使慣行があったこと、⑤原告は入社に当たり被告から賃金引き下げがあるとの説明を受けていないこと、⑥賃金を引き下げることは既発生の退職金請求権を侵害することになること等に照らし、旧就業規則を根拠に、原告に対し減給処分をすることはできない。

イ 減給の根拠その2に対し

(ア) 平成13年管理職人事制度は就業規則の不利益変更に当たり、同制度を根拠に原告の賃金を引き下げることはできない。

(イ) 平成13年管理職人事制度がこれまでの就業規則を不利益に変更するものであることは、①賃金の決定主体が労使双方から使用者に変更されたこと、②役職定年制度が新設されたこと、③月次給与の大幅な引下げ(平成12年4月には月額88万5625円であったのが、同14年1月には月額75万円、同年4月には月額62万5000円に減額)、賞与、退職金の大幅な引き下げがされたことなどから明らかである。

(ウ) 平成13年管理職人事制度でこれまでの就業規則を変更する必要はなかった。

a 役職定年制について

役職定年制が必要でなかったことは、①平成13年管理職人事制度が若手登用のシステムではなく、外部からの管理職導入のための手段であったこと、②従業員の士気が下がる方法であったこと、③退職者が大量に出たこと、④被告には役職定年制を導入しなくても競争力を持っていたことなどから明らかである。

b 能力、業績中心の考課

被告は、平成13年管理職人事制度で能力、業績中心の考課導入が必要であったと主張する。しかし、①被告の賃金体系は元々年功序列の賃金体系ではなく、能力、業績中心の賃金体系であったこと、②平成13年管理職人事制度は賃金を下げる口実を設ける制度であること、③被告においては、若手登用は少なかったことから、平成13年管理職人事制度で能力、業績中心の考課を導入する必要はなかった。

(エ) 平成13年管理職人事制度による就業規則の変更には、次のとおり合理性がない。

a 被告は、管理職全体の賃金は下がっていないと主張するが、管理職全体の賃金総額は合理性の担保とはならない。

b 被告は、役職定年制により専門職になる従業員についても前職の約8割程度の賃金を支払う運用がされており、大きな不利益があるとはいえないと主張するが、制度的に8割を切ることが可能である限り、たとえ運用で救済できたとしても、制度の合理性の担保とはならない。

c 平成13年管理職人事制度導入前に当たり、SMC会議で同制度について実質的な審議はされていない。また、従業員全体の意見を反映する手続もとられていない。

d 直属の上長が査定者になることが、査定の透明化、上下間の信頼関係回復、従業員の士気向上に効果があるとはいえない。

e 他の会社が、賃金を年功重視から能力、業績重視へと変容させ、役職定年制を導入していることは、合理性の担保とはならない。

f 原告の賃金は大幅に下がっている。

ウ 減給の根拠その3に対し

(ア) 改訂管理職人事制度は就業規則の不利益変更に当たり、同制度を根拠に原告の賃金を引き下げることはできない。

(イ) 改訂管理職人事制度がこれまでの就業規則を不利益に変更するものであることは、①降格制度を新設したこと、②随時の賃金引き下げが可能となったこと、③満57歳を定年とする専門職定年制度が新設されたこと、④月次給与の大幅な引下げ(平成12年4月には月額88万5625円であったのが、同14年1月には月額75万円、同年4月には月額62万5000円、同15年1月には月額53万6000円、同年5月には48万6000円にそれぞれ減額されている)、賞与、退職金の大幅な引き下げがされたこと、⑤現業職に配転することで労働の強化を図ったことなどから明らかである。

(ウ) 改訂管理職人事制度でこれまでの就業規則を変更する必要はなかった。被告は、就業規則を変更する必要について、専門職定年制を導入する必要があったと主張するが、①被告においては従来から能力、業績中心の賃金体系が採られており、年齢で区分する必要はないこと、②優秀な若手がいれば相応の処遇をすれば足りることに照らすと、被告の専門職定年制導入の必要性の根拠は薄弱というほかない。

また、被告は、就業規則を変更する必要について、降格、賃下げの必要があったと主張するが、①被告の賃金体系は元々年功序列ではなく、能力、業績中心の考課であったこと、②改訂管理職人事制度は賃金を下げる口実を設けるための制度であることに照らすと、降格、賃金引下げのために改訂管理職人事制度を導入する必要があったとの被告の主張は根拠が薄弱である。

(エ) 改訂管理職人事制度による就業規則の変更には、次のとおり合理性がない。

a 被告は、管理職全体の賃金は下がっていないと主張するが、管理職全体の賃金総額は合理性の担保とはならない。

b 被告は、専門職定年制により一般職になる従業員についても業績さえ良ければ前職のそれと遜色のない賃金が受給でき大きな不利益があるとはいえないと主張するが、制度的に賃金が引き下げられる以上、たとえ運用で救済できたとしても、制度の合理性の担保とはならない。

c 改訂管理職人事制度導入前に当たり、SMC会議で実質的な審議はされていない。また、従業員全体の意見を反映する手続もとられていない。

d 直属の上長が査定者になることが、査定の透明化、上下間の信頼関係回復、従業員の士気向上に効果があるとはいえない。

e 他の会社が、賃金を年功重視から能力、業績重視へと変容させ、専門職定年制を導入していることは、合理性の担保とはならない。

f 原告の賃金は大幅に下がっている。

(3) 被告の原告に対する不法行為の成否(争点3)

【原告の主張】

ア 被告は、原告に対し、何らの合理的理由なく、本件第1次ないし第4次の降格処分及び減給処分を繰り返した。

イ 被告は、原告に対し、業務上の理由なく工場内への席の移動、社内失業者状態に追い込む等の嫌がらせを繰り返した。

ウ 原告は、被告の上記ア、イの行為により体調を崩し、平成13年10月から東京都立豊島病院精神科への通院を余儀なくされるなどの精神的損害を被った。原告の被った損害は100万円を下らない。

【被告の主張】

ア 被告の原告に対する本件第1次ないし第4次の降格処分及び減給処分はいずれも正当な理由があるものであり、何ら不法ではない。

イ 被告は原告に対し嫌がらせをしていない。被告が原告に対し机の移動を命じたのは本件4プロジェクトが工場関連の業務であり、工場棟で業務を行わせるのが当然であったからである。

ウ 【原告の主張】ウは不知ないし争う。

第3  当裁判所の判断

【争点1についての判断】

本件では、平成12年4月1日に営業担当取締役の辞令を受けた原告が、同年10月1日にはIAM担当営業部長に、同13年10月1日には営業部主管(課長職)に、同14年4月1日には翻訳の業務に、同15年1月1日には試作管理課の現業職(一般職)に順次降格され、給与も同13年1月1日に年俸1417万円(月次支給額88万5625円)であったものが、順次減給され、同15年5月2日には月次支給額48万6000円と約半額程度にまで減給されている。ところで、被告の原告に対する本件第1次ないし第4次降格処分は、使用者である被告の人事権の行使であるところ、人事権の行使は社会通念上著しく妥当性を欠き、人事権の濫用に当たる場合には、前記各降格処分は無効であるというべきであるところ、この点に関し、被告は人事権の濫用はないと主張し、原告は人事権を濫用したものであると主張するので、まず、最初に本件第1次ないし第4次降格処分の有効性について判断することにする。

1  本件第1次降格処分の有効性

(1) 入社後、営業担当取締役になるまでの経緯

前記争いのない事実等、証拠(甲31、32ないし34の各1ないし8、同41、68ないし72、78、81ないし84、88、89、91、94、乙2、42ないし47、115、原告、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 原告(昭和21年1月8日生まれ)は、昭和61年1月ころ、ジャパンタイムズ社の求人欄に被告が営業管理職を募集している広告を見て、応募した。原告は、被告の入社面接を受け、昭和61年3月1日、被告に入社し、第2営業課に配属された。原告の入社時の給与は年額741万2400円(月次給与48万4700円、賞与年間159万6000円、但し、年間750万円保証)であった。なお、被告が、原告に対し、入社に際し渡した文書には、「私共は、貴殿を管理職候補と考えておりますが、任命には或る一定の期間私共としても貴殿のお仕事振りを拝見し、また、ロス本社との調整が必要になります。ご提示した年額750万円(税込)は、その間の給与とご了解下さい。……なお、管理職任命の時には、貢献度、期待度その他を考えて、社長との話し合いで決定されるシステムになっております」との記載がある(甲78、81、82、88、89、原告【1、2頁】)。

イ 原告は、約3か月の試用期間を経て、昭和61年6月2日、第2営業課長に任命され、給与は年額780万円(月次給与48万7000円、賞与年2回各97万5000円)になった。原告は、その後、営業の功績を評価され、平成3年4月1日には営業部次長に昇進し、給与は年額1032万円(月次給与64万5000円、賞与年2回各129万円)になった。原告の給与は、平成4年4月には年額1054万円(月次給与65万8750円、賞与年2回各131万7500円)に、同5年4月には年額1097万6800円に、同6年4月には年額1119万5000円に、同7年4月には年額1142万円に順次上がり、同10年4月1日には営業部長に昇進した。(甲78、83、84、88、89、乙2、115、原告【1、3、7、8頁】、弁論の全趣旨)。

ウ 被告では、平成9年度、10年度と連続して赤字が続いた。被告の赤字を重く受け止めた米国親会社は、製品値上げにより対処しようと考えた。米国親会社のH社長、被告の社長代行であったIは、営業部長であった原告を顧客との値上げ交渉の総責任者に指名し、顧客との交渉に当たらせた。原告は、取引に悪影響が出ることを最小限とするため、総責任者として、顧客取扱いの優先順位、取引金額の大小、取引契約が成立して間もないトヨタ自動車、日野自動車の関係など現状を把握し、被告の窮状を訴えながら各社と複数回の交渉を重ねた。殊に、顧客の内部組織がOEM部門、OES部門と縦割りになっているため、交渉は難航したが、平成11年末までに値上げの目処が立ち、実質的には顧客との間で同年10月に遡り価格改定するとの合意が成立した。当該値上げの効果(利益改善額)は、平成12年に約6億4300万円、同13年に約3億8100万円となり、被告の業績が平成12年に黒字化するのに貢献した。原告は、当該値上交渉の業績が評価され、平成12年1月に米国親会社本社で開催されたOne On One Meetingで表彰を受け、取締役就任の内示を受け、同年4月1日には、営業担当取締役の辞令を受けた(甲31、32ないし34の各1ないし8、同68ないし72、89、91、94、乙42ないし47、原告【9、24、28、29頁】、被告代表者【2頁】、弁論の全趣旨)。

エ 原告は、被告に営業の管理職候補として昭和61年3月に中途採用され、以後平成12年4月営業担当取締役に任命されるまで、一貫して営業の仕事に従事しており、この間、被告の代表取締役は何度も代わったものの、これらの代表取締役との間では何らのトラブルもなく、営業畑で順調に昇進を続け、被告の業績向上に貢献した(甲41、89、原告【1、26、27頁】、弁論の全趣旨)。

オ 以上アないしエによれば、原告は、被告に営業職として採用されたとみるのが相当である。この点に関し、被告は、採用通知書(乙1)に「社員」と記載されていることをもって、被告は原告の職種を限定して採用していないと主張する。しかし、採用通知書(乙1)は、入社時に必要となる保険証等の提出書類の内訳を記述したものにすぎないこと、原告は中途採用であること、原告の収入額、原告の営業担当取締役になるまでの仕事内容等に照らすと、当該通知書から、職種の特定がないと判断することは困難というべきであり、他に当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

(2) 取締役解任までの経緯(本件第1次降格処分)

前記争いのない事実等、証拠(甲5ないし8、10、11、42ないし44、48ないし50、51の1及び2、同52、89ないし91、乙4ないし10、34、112、113、証人G、原告、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア A社長が、平成12年2月1日に被告の代表取締役社長に就任した。A社長は、被告代表者に就任するや、部門間に跨る課題を円滑に解決するため、開発、生産、営業、購買、品質管理、人事、経理、情報管理の部門長が毎週月曜日午前中2時間程度一堂に集まり、問題を協議するSMC会議の開催を提案し、平成12年3月6日からこれを実施した(甲90、乙4、113、原告【1頁】、被告代表者【5、35頁】)。

イ A社長主宰のもとで開かれたSMC会議は、A社長から案件が提案され、これを参加者が追認するのが常で、個人の意見など発言が許されるような雰囲気ではなかった。A社長自身も「此れは俺の会議だ」と言って憚らなかった。当時、Dコントローラーが、自己の意見をSMC会議で述べたところ、A社長はこれを全く受け入れず、SMC会議の最中「こんな書類で経営が出来るか」と怒鳴りDコントローラーの提出した書類を投げ出したことがあった。その様なことがあった後、Dコントローラーは、平成12年7月1日、経理部コントローラーから社長補佐に降格され、同年8月31日付で退職した。なお、Dコントローラーが退職する際、経理部の社員3名も一緒に退職した(甲42ないし44、50、51の1及び2、同89ないし91、乙5、原告【2頁】、弁論の全趣旨)。

ウ このようなSMC会議の在り方に疑問を持つようになった原告は、平成12年6月19日のSMC会議で、同会議のテレコン化(テレビ会議での実施)、代理出席の容認を提案したが、A社長はこれを否決した。原告は、平成12年7月4日のメールで、A社長に対し、「SMC Meetingが有用な会議であれば、半日でも1日でも拘束される事に不満は有りませんが、各項目共に、社長による責任者の割り当てと、部内の相談、或いは各部相談での処理といった結論以外ほとんど記憶が有りません、SMCの席上何も決められないなら毎週集まる意味も無いし、ビデコンで充分ではないでしょうかとの提案です。過去の議題の中で、集まる意味があった例を恐れ入りますが教えて下さい」とSMC会議のテレコン化を提案した。ちなみに、原告の提案したSMC会議のテレコン化は平成13年1月15日には実現しており、また、代理による発表も許されるようなっている(甲51の1及び2、同89、90、乙6ないし9、原告【1頁】、弁論の全趣旨)。

エ A社長は、原告に対し、「お客様会議」の検討資料とするため、顧客別の利益率に関するレポートを営業部門として分析を加えたうえでSMC会議に報告することを求めたが、原告は、平成12年6月26日のSMC会議までにこれを提出せず、その後も提出していない。

ところで、顧客別の利益率に関するレポートはDコントローラーより「お客様別利益報告」としてSMC会議で定期報告されていたし、その明細もSMC会議の構成員に毎月配布されていた。これらの実績は経理部内で処理され、月次の決算結果として米国親会社に報告されていた。また、原告の主な業務は現行プロジェクトの顧客との価格折衝、AOP(年度の販売計画)、STRAP(5か年販売計画)の営業管理部分の資料作成、12トップカスタマー報告、海外プロジェクトの国内連絡窓口業務等であり、被告会社の販売戦略に関わる商品計画、対顧客計画、販売計画、利益計画、及び生産計画はそれら資料に全て網羅されていた。したがって、原告において、A社長の要求するレポートを提出することは経理部でも出来ないものを原告に求めるものであり、不可能を強いるものと思われた。このようなことがあって、原告は、A社長の要求するレポートの提出をすることができなかった(甲48、49、89、乙9、34、原告【1、9、11頁】、被告代表者【6、7頁】、弁論の全趣旨)。

オ A社長は、原告に対し、計画実績に対するレポートを営業部門として分析を加えたうえでSMC会議に報告することを求めたが、原告はこれをしなかった。計画実績に対するレポートも生産数量についてはB工場長より、また、金額については経理部より米国親会社へのレポートを含め定期的に報告されていた。しかるに、A社長は前記顧客別の利益率に関するレポートと同様に、原告の主要な業務が前記エのとおりであり、しかも、これまで営業部において作成したこともなく、作成するのに必要なコンピューターシステムも存在せず、そのため原告において計画実績に対するレポートを提出することが困難であるにもかかわらず、当該レポートの提出を求めた(甲48、89、原告【1、10頁】)。

カ A社長は、原告に対し、2005年―2007年のディーゼル規制に関する情報を集め、被告への影響を分析することも求めた。しかし、原告は、A社長の要求する「2005年―2007年のディーゼル規制情報」を入手する方法がないため、被告への影響を分析することができなかった(甲48、89、原告【1、11、12頁】)。

キ 被告は、平成12年6月1日、当時工場長であったB取締役に、ザ・ベスト推進室室長(兼務)を命じた。ベスト推進室の役割として「①販売戦略の立案と推進によるマーケットシェアの拡大、②コストのイノベーション、③STRAPのとりまとめ、④その他全社企画のとりまとめと推進」が挙げられているが、「コストのイノベーション(刷新)」及び「STRAP」最終データの取り纏めは工場長としてB取締役が例年関与していることで特段奇異に感じることではなかったが、敢えて工場長一人をこの部門に置くことについて、原告は、A社長の真意を計りかねていた。「販売戦略の立案と推進によるマーケットシェアの拡大」については10%を越える経常利益が確保され、トヨタ自動車とのプロジェクトも順調に進捗している状況下で、顧客に接触することがない職責のB工場長が単独でどのように関与するのか理解が至らず、原告は、営業責任者としてSMC会議の席上幾つかの質問をした。すなわち、原告は、平成12年6月26日、「シェアーの拡大判断は営業に任せて欲しい」、「営業に関するものは営業にプライオリティーが欲しい」、「STRAPは(営業部の部分は)営業部で纏めさせて欲しい」と発言した。しかし、原告の当該発言は、営業担当取締役として、営業に関する事項は営業部で責任をもって行いたいというものであって、特段不自然な発言とはいえず、また、社会常識に欠けたものともいえない(甲52、乙6、8、9、弁論の全趣旨)。

ク A社長は、約31年間日産自動車株式会社(以下「日産自動車」という)に勤務し、欧州日産自動車副社長を最後に日産自動車を退職し、その後物流会社であるバンテックの常務取締役から、平成12年2月、被告の代表取締役に就任した。他方、Gも、長年日産自動車に勤務の後、自動車部品の開発製造販売会社の日本法人であるデルファイ・オートモーティブ・システムズ・ジャパンのハリソンディビジョン(以下「デルファイ社」という)でカントリーマネージャー・セールスディレクターと同社の合弁会社であるカルソニック・ハリソン株式会社の取締役とを兼ねていた。A社長は、Gと日産自動車時代から親しい間柄であるところ、被告の社長に就任後間もない平成12年4月ころから、Gに対し、被告で営業の仕事をしてみないかと入社を勧誘した。Gは、平成12年7月、デルファイ社に対し、退職する旨意思表示し、遅くとも同年8月までには、A社長に対し、被告に入社することを承諾した(甲11、乙112、113、証人G【14ないし16頁】、被告代表者【1、10頁】)。

ケ A社長は、Gの日産自動車時代の販売実績を考慮して、被告の営業責任者に据えることにした。被告では、IAM部門が業績不振であったため、平成11年12月末でIAM部門を廃止し、同時にIAM部門の拠点工場であった桶川工場をTTS社に売却したばかりであったが、Gを受け入れる必要から、急遽IAM部門を独立、復活させた。そして、被告は、平成12年9月1日、原告の取締役辞令を取り消し、これまで営業実績、経験のないJ常務取締役(技術担当)を営業の統括責任者に任命し、原告をOEM担当営業部長兼IAM担当営業部長に降格した。そして、Gが被告に入社した平成12年10月1日に、GをOEM担当営業部長に任命し、原告については、兼務を解き、IAM担当営業部長に降格した。ちなみに、被告の売上高に占めるIAM部門の売上は約5%程度にすぎない。なお、被告では、平成12年に入り、製品価格の値上げ効果もあり、黒字に転換しており、原告の担当していた営業部門の業績は堅調であり、原告の営業成績に関し、特段問題となるような点は見当たらない(甲5ないし8、10、乙10、証人G【1、17頁】、原告【4、5頁】、被告代表者【35頁】、弁論の全趣旨)。

(3) 本件第1次降格処分の有効性について

前記(1)、(2)で認定した事実を前提に、被告が原告を営業担当取締役からIAM担当営業部長に降格させた本件第1次降格処分の有効性について判断することにする。

ア  前記(1)、(2)で認定した事実によれば、①原告は昭和61年3月に被告に入社以来、一貫して営業畑で仕事をし、歴代社長とも何らのトラブルもなく、平成12年には製品値上げ交渉の功績が評価され、同年4月には営業担当取締役の辞令を受けたこと、②原告が営業担当取締役の辞令を受けてから本件第1次降格処分を受けるまでの間は僅か6か月であるところ、この期間、被告の営業成績は堅調で、原告の営業成績は特段問題となる点は見当たらないことが認められる。このような事実の認められる本件にあっては、前記6か月間に原告に特段の事情が発生していない以上、本件第1次降格処分は、人事権を濫用したものというのが相当である。

イ この点に関し、被告は、特段の事情として、原告のA社長に対する非協力を挙げるので、その成否について検討する。

(ア) 被告は、第1に、原告がSMC会議のテレビ会議化や代理出席を求めたことをもって、A社長への非協力と主張する。確かに、前記(2)ウによれば、原告がA社長に対し、SMC会議をテレビ会議化してはどうか、代理出席の容認を求めたことが認められる。しかし、SMC会議をテレビ会議化したり、代理出席を認めることは何ら会議の機能を損なうものではなく、現に平成13年1月以降には、SMC会議のテレビ会議化、代理出席が認められていること(前記(2)ウ)に照らすと、原告が、A社長に対し、SMC会議のテレビ会議化、代理出席の容認を求めたことをもって、A社長に対する非協力、ひいては本件第1次降格処分の理由とすることは相当ではなく、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

(イ) 被告は、第2に、原告がA社長に対しレポートを行わないこと、具体的には、原告が、顧客別の利益率に関するレポート、計画実績に対するレポート、「2005年―2007年のディーゼル規制」の情報を集め被告への影響を分析したレポートを提出しなかったことをもって、A社長への非協力であると主張する。確かに、前記(2)エないしカによれば、原告がA社長に対し、A社長が要求した前記各レポートを提出していないことが認められる。原告が、A社長の要求するレポートを提出しなかったのは、前記(2)エないしカで認定した事実によれば、①原告の主な業務は現行プロジェクトの顧客との価格折衝、AOP、STRAPの営業管理部分の資料作成、12トップカスタマー報告、海外プロジェクトの国内連絡窓口業務等であり、A社長の要求するレポートは原告の業務の範囲外のものであり、原告はA社長から不可能なことを求められていると考えたこと、②顧客別の利益率に関するレポートはDコントローラーより「お客様別利益報告」としてSMC会議で定期報告されていたし、その明細もSMC会議の構成員に毎月配布されていたこと、計画実績に対するレポートも生産数量についてはB工場長より、また、金額については経理部より米国親会社へのレポートを含め定期的に報告されていたこと、2005年―2007年のディーゼル規制に関するレポートは、そもそも原告において規制の情報を入手する方法がなかったからであることが認められる。以上の認定事実に、A社長が原告に対し前記のようなレポートを求めたのは、A社長がGに被告の営業の責任者として入社を勧誘していた以後のことであることをも勘案すると、A社長は、営業の責任者を原告からGに代えるために、原告において作成することが困難なことを認識しながら敢えてこのようなレポートの作成、提出を求めていたものと推認するのが相当である。

以上によれば、原告が、顧客別の利益率に関するレポート、計画実績に対するレポート、「2005年―2007年のディーゼル規制」の情報を集め被告への影響を分析したレポートをA社長に提出しなかったことをもって、本件第1次降格処分の理由にすることは相当ではなく、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

(ウ) 被告は、第3に、原告がベスト活動推進室の活動に非協力な態度をとったと主張する。前記(2)キによれば、①被告は、平成12年6月1日、当時工場長であったB取締役にザ・ベスト推進室室長(兼務)を命じたこと、②原告はB工場長一人をこの部門に置くことについてA社長の真意を計りかねたこと、すなわち、平成12年6月時点で10%を越える経常利益が確保され、トヨタ自動車とのプロジェクトも順調に進捗している状況下で、顧客に接触することがない職責のB工場長が単独でどのように関与するのか原告には疑問に思えたこと、③そこで、原告は、被告の営業担当責任者として、SMC会議の席上で、「シェアーの拡大判断は営業に任せて欲しい」、「営業に関するものは営業にプライオリティーが欲しい」、「STRAPは(営業部の部分は)営業部で纏めさせて欲しい」と発言したこと、④原告の当該発言は、営業担当取締役として、特段不自然な発言とはいえず、また、社会常識に欠けたものとも言い難いことが認められる。そうだとすると、原告のベスト活動推進室についての原告の言動を捉え、原告がベスト活動推進室の活動に非協力な態度をとったとして本件第1次降格処分の理由にすることは相当ではなく、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

ウ 小括

以上の検討結果から明らかなとおり、被告は、本件第1次降格処分について正当な理由がないのに、原告を営業担当取締役からIAM担当営業部長に降格させたというべきであり、かかる降格処分はA社長が付与されている人事権を濫用して行使したものと評価するのが相当であり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。よって、被告の原告に対する本件第1次降格処分は無効であるというべきである。

2  本件第2次降格処分の有効性

被告は、平成13年10月1日、原告をIAM担当営業部長から営業部主管(課長職)に降格させる本件第2次降格処分を行ったが、当該処分の有効性について判断することにする。

(1) 認定事実

前記争いのない事実等、前記1で認定した事実、証拠(甲5ないし8、10、15、16の1、同24、59、60、89、乙22の1及び2、原告)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 被告のIAM部門は、桶川工場を拠点に、同工場で製品の組み立てをし、不具合があればこれを分析し、顧客をサポートする活動をしていたが、同部門の売上高は、被告全体の売上高の約5%を占めるにすぎなかった。IAM部門の活動は、コストがかかりすぎていることが判明したため、被告は、平成11年12月末、IAM部門を廃止し、活動の拠点であった桶川工場をTTS社に売却した。このように、IAM部門の業績回復は望めないところ、被告は、原告を適当な部署に就けることができなかったため、平成12年9月、IAM部門を復活させ、原告をその責任者に指名した(甲5ないし8、10、24、原告【13、15頁】、弁論の全趣旨)。

イ 上記のとおり、被告のIAM部門の業績改善は困難が予想されたにもかかわらず、被告IAM部門の平成13年度売上目標はSTRAP(販売5か年計画)に従って前年度の24%増と設定された。ところで、被告IAM部門の売上は廃部決定による桶川工場売却後、売上先をHKS一社に極端に依存していたところ、HKS社が平成12年12月のボーナス商戦で失敗し、被告の商品が大量に在庫となった。被告の商品は一般顧客や量販店などに販売できない特殊な商品であることから、被告IAM部門の売上は大幅に減少し、平成13年1月から同年9月までの間の売上は目標数値3億9315万円を大幅に下回る2億5205万円余にとどまった(甲89、原告【1頁、13ないし15頁】、弁論の全趣旨)。

ウ 原告は、IAM担当営業部長になってから、TTS社には合計18回、HKS社には合計4回訪問している。このようにTTS社への訪問回数に比べHKS社への訪問回数が少ないのは、IAM部門の廃部と同時に桶川工場をTTS社に売却したため、HKS社向け出荷品のクレーム調査及び新製品のテストをTTS社に委託したり、同社からテスト機具を借用する必要があったからである。したがって、HKS社への訪問が余りにも少なくて問題であるとまではいうことはできない(甲59、60、89、原告【1、13、14頁】、弁論の全趣旨)。

エ なお、HKS社本社への訪問はCとアジアIAM担当エンジニアであるF氏が定期的に行なっており、原告も、CがHKS社を訪問する際は必ずこれに同行し、被告に対するHKS社の要望の実現に努力していた(甲89、原告【1頁】、弁論の全趣旨)。

オ 平成13年6月中に原告の代わりにGの元部下であったE氏をIAM担当として採用することを決めていたA社長は、同月29日、Cに対し、被告IAM部門の組織は大きすぎること、原告には他の仕事を更に追加して与えてもっと働いてもらうことを考えていること、原告について、「若い専任の担当者を探し、Xさん(原告)に退職勧奨を行うことのほうを望んでいるのか」返事をしてもらいたいとのメールを送信した。これに対し、Cは、平成13年7月2日、若い専任の営業担当者を望んでいると回答した(甲89、乙22の1及び2、原告【1頁】、弁論の全趣旨)。

カ 被告は、平成13年10月1日、原告に対し、IAM担当営業部長の職を解き、営業部主管(課長職)に降格させる本件第2次降格処分を行った。被告は、平成13年10月1日、IAM営業部を廃止し、IAM営業課としてGの率いる営業部の1部門に縮小し、Gの日産自動車時代の元部下であるE氏を入社させ、IAM営業課の課長に任命した。原告は、被告に対し、本件第2次降格処分に対し異議を唱え、撤回を要求した(甲15、16の1)。

(2) 本件第2次降格処分の有効性について

前記(1)で認定した事実を前提に、被告が原告をIAM担当営業部長から営業部主管(課長職)に降格させた本件第2次降格処分の有効性について判断することにする。

ア 被告は、本件第2次降格処分の理由として、第1にIAMの日本での販売実績が計画に比べ大幅に未達成であったこと、第2に原告に顧客を訪問し善後策を講ずるといった積極的な行動が見られず、原告の姿勢ではIAM部門の業績回復を期待することができないと思われたこと、第3に原告の上司であるCが被告に対し原告の更迭を求めたことを挙げる。

イ  前記(1)で認定した事実によれば、被告IAM営業部の販売実績が計画に比べ大幅に未達成であったことが認められるが、原告が顧客を訪問し善後策を講ずるとの積極的な行動が見られなかったとは言い難く、また、Cが原告の更迭を求めたのは、A社長からの質問に答える形であり、C自らの自発的、積極的な意思とは言い難い側面があることが認められる。

ウ  以上によれば、原告に認められる非は、販売実績の大幅な未達成であるところ、前記(1)で認定した事実によれば、被告のIAM部門は平成11年12月末に営業不振から廃止された部署であり、当初から業績改善が望みにくい部署であったこと、また、本件第2次降格処分は、本件第1次降格処分を前提とするものであり、いわば処分が積み重なったものであるというべきところ、前記1で検討したとおり、本件第1次降格処分は人事権を濫用した無効なものであることを併せ考慮すると、本件第2次降格処分も人事権を濫用したものということができ、無効と判断するのが相当であり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

3  本件第3次降格処分の有効性

被告は、平成14年4月1日、原告を本件4プロジェクトの担当主管課長の任を解き、翻訳の業務を命じる本件第3次降格処分を行ったが、当該処分の有効性について判断することにする。

(1) 認定事実

前記争いのない事実等、前記1で認定した事実、証拠(甲10、13、16の1ないし3、同26ないし28、38、61ないし64、89、乙11、23、24、28ないし31、証人G、原告、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 原告のIAM担当営業部長の職を解くことにしたA社長は、口頭で、原告に対し、営業部として長期に管理が必要なSTRAPとAOPの作成を部長職としてやってほしいとの業務提案をしたところ、原告はこれを了承した。ところが、G常務は、引き続き、平成13年7月6日、原告に対し、A社長の前記口頭での指示と異なり、課長として、それら業務に加え、営業が本来担当するべき業務ではない、販売管理、価格管理、プリプロなどの業務を行うよう指示した。原告は、G常務の指示内容が実現不可能な内容であったため、平成13年7月19日、G常務に対し、業務内容を担当する適切な部署を指摘した上、G常務の申出を辞退する旨回答した(甲38、乙23、原告【17ないし19頁】、弁論の全趣旨)。

イ 原告を平成13年10月1日付でIAM担当営業部長から課長職に降格させることを決めていた被告は、同年9月25日、原告に対し、本件4プロジェクトを主管課長として行うよう命じた。被告は、原告が行うべき業務を書面化し、これを原告に渡した。当該書面には、原告が担当すべき業務内容として、①プリプロ収益改善について、収益率20%、その仕組みの定着化、ルール化、平成14年3月完成、②ワランティーコストの削減について、OEM・OES売上の1.0%以下の必達、平成13年12月完了、NDワランティーレシオ(40:60)の改善、平成14年3月完了、③在庫削減プロジェクトについて、平成13年4Qの在庫目標の達成、平成14年4Q在庫30%削減、平成14年平均でマイナス15%の達成、平成14年12月完了、④P/N削減プロジェクトについて、年20個以下のP/Nを半減、残すP/Nについての対策―価格アップ、10個単位の発注等、平成14年3月完了、完了日までに実施されることが望ましいが、最低、今後のP/N半減日程、その他の条件等の合意をお客との間で取り付けることが記載されていた。被告は、原告の意見を聴取することなく当該書面を作成し、本件4プロジェクトの目標、達成時期を決めた。

原告は、これまで一貫して営業の仕事しかしておらず、在庫削減プロジェクト等達成が困難なものも含まれていたので、G常務に対し、業務内容の変更等を申し入れたが、被告はこれを受け入れなかった。原告は、被告の業務指示に従わなければ、解雇されることが予想されたため、被告の指示に従うことにした。

原告は、本件第2次降格処分について、被告に対し、異議を留めるとともに、平成13年10月8日付で、G常務に対し、「担当業務の目標は当社業績評価システム(MRR)に従って担当者自身が設定し、上司の承認を受けた上で発効され1年後にその評価がなされるシステムに成っておりますが、この度業務遂行の御提示を受けた新たな3プロジェクトは、その業務目標及び達成時期設定に当たり私自身関与する事無く目標/達成時期が設定され、社内規定が無視された状態で設定されております。これら3プロジェクトにかかわる問題は過去数年にわたり当社で未解決の問題であり、3か月単位で解決が出来るものではありません。したがって、頂きました(新)業務内容については、改めて社内規定に従い後日公正な評価がなされるよう、MRRドキュメント作成の御要求をさせて頂きます」旨送信したが、G常務からは何らの回答がないまま、原告は本件4プロジェクトの業務についた(甲13、16の1ないし3、同89、乙24、証人G【3、4頁】、原告【1頁】、弁論の全趣旨)。

ウ プリプロ収益改善プロジェクトについて

プリプロ収益は、平成10年、11年とそれぞれ1億円以上の赤字を出し、米国親会社からも大きな問題として指摘されていた。原告がプリプロ収益改善業務に関与するようになり、平成12年に初めてその赤字が解消され、その後も引き続き改善の実が上がり、同13年には黒字転換(約1億1000万円)に成功した。その結果、米国親会社から毎年改善の指摘を受けていたプリプロ収益についての改善要求はなくなり、被告の健全性が評価された。被告の設定した収益率の目標値は20%であったが、16.3%まで達成した。

また、被告は、プリプロ収益改善の仕組みの定着化、ルール化を原告に対し求めたが、原告は、仕組みには問題がなく運用の問題であると考え、現行システムを維持すべきであるとの報告をしている(甲10、28、61、62、89、乙11、乙30、証人G【6、7、20、21頁】、原告【1、6、7、29、30頁】、被告代表者【37、38頁】、弁論の全趣旨)。

エ ワランティーコスト削減プロジェクトについて

ワランティーコスト削減プロジェクトのうち、OEM・OES売上の1.0%以下の必達は達成された。ワランティーレシオは、通常の会社では10ないし20%であったが、日産ディーゼルについてはVNT新製品を最初に納入した経緯からこれまで40%を保証していた。そこで、NDワランティーレシオ(40:60)の改善をするためには、契約書覚書の変更が必須であった。原告は、覚書更新時期を利用し、被告に極めて有利な条件(保証期間をこれまでの1年から3か月に短縮)を日産ディーゼルに承認させることに成功した。覚書変更の実施が平成14年3月からなので、その効果は、同月以降に出ており、約6000万円のワランティー費用が削減になることが予想されている(甲28、63、64、89、乙29、証人G【24頁】、原告【1、7頁】)。

オ 在庫削減プロジェクトについて

在庫管理はこれまで生産管理課が行っていたが、在庫数は数千点に及び、これを減らす必要があった。在庫削減は、平成13年4Qには目標を達成した。平成14年の在庫削減30%の目標は未達成であったが、この目標は、原告が担当を外れた平成14年10月から1年半近くを経た時点でも達成されていない(甲28、89、乙28、証人G【8、28頁】、原告【1頁】)。

カ P/N削減プロジェクトについて

被告は、全ての国内エンジンメーカーと取引契約書を締結している。当該取引契約書によれば、注文が少量であっても、量産終了後13〜15年にわたり、被告において供給責任を負うという内容となっている。したがって、P/Nを削減するためには顧客の書面による同意を必要とするところ、原告はこの承認を得るための交渉を大方完了し、顧客の承認を待っている状態であった。そして、被告から示されたP/Nの削減目標は649個であったところ、原告は、この内331個(51%)は達成した。更に68個(10%)は、顧客に対し削減の要求を出して回答待ちの状態であった。(甲28、89、乙31、証人G【9、28頁】、原告【1頁】)

キ 被告の評価

(ア) 被告は、プリプロ収益改善プロジェクトについては、①収益率20%の目標に対しては未達だが達成度82%(16.3÷20)と評価し、②仕組み作りについては0%と評価した(甲26、乙26、証人G【5ないし7、18頁】)。

(イ) 被告は、ワランティーコストの削減については、①OEM・OES売上の1.0%以下の必達は達成されたが品質部長の力を借りての達成であるため達成度を60%と評価し、②NDワランティーレシオ(40:60)の改善については、期限である平成14年3月までには未達成であったため0%と評価した(甲26、乙26、証人G【7頁】)。

(ウ) 被告は、在庫削減プロジェクトについては、①平成13年12月までに同年4Qの在庫削減目標を達成したものの、これは専ら生産管理チームによるものなので原告の貢献度は0%と評価し、②平成14年の在庫削減30%の目標は未達であったので0%と評価した(甲26、乙26、証人G【8頁】)。

(エ) 被告は、P/N削減プロジェクトについては、①注文が年20個以下のP/Nを649個まで削減すべきところ331個まで削減したので貢献度51%と評価し、②削減できずに残さざるを得ないP/Nについての対策は何ら達成されていないとして0%と評価した(甲26、乙26、証人G【9頁】)。

ク 被告は、平成14年3月の本件4プロジェクトの期間満了に当たり、前記キのとおり、原告の達成度は低いと評価して本件4プロジェクトを打ち切り、原告を本件4プロジェクトの担当主管課長の職から解くことにし、原告に対し、退職してはどうかと勧奨した。原告は、被告の評価に異議を唱えるとともに、被告からの退職勧奨を拒否した。そこで、被告は、原告が語学ができることから、週数枚程度の翻訳の業務に当たるよう命じた(本件第3次降格処分)。

被告は、本件第3次降格処分に伴い、原告を課長職(6級)レンジの中間値に評価し、平成14年4月1日、原告の年俸を1200万円から1000万円(月次支給額62万5000円、賞与額125万円)に減給する旨の本件第2次減給処分をした。これに対し、原告は、被告の評価は不当であるとして、これに基づく本件第2次減給処分の撤回を求めた(甲27、28、89、証人G【11ないし13頁】、原告【1頁】)。

(2) 本件第3次降格処分の有効性について

前記(1)で認定した事実を前提に、被告が原告を本件4プロジェクト主管課長から翻訳の業務に当たらせる旨降格させた本件第3次降格処分の有効性について判断する。

ア 被告は、本件第3次降格処分の理由として、本件4プロジェクトの完了時期である平成14年3月になっても目標のほとんどを十分に達成できず、その職責を果たしているとは言い難い状態であったからであると主張する。

イ しかし、前記(1)で認定した事実によれば、①本件4プロジェクトの目標、達成時期は、被告が原告の意向を聴取することなく一方的に設定したものであること、②本件4プロジェクトの中には、これまで営業職として入社し、営業しか経験していない原告にとって未知の分野である在庫削減プロジェクト等が含まれていたこと、③本件4プロジェクトのうち、プリプロ収益改善については、原告の功績により約1億1000万円の黒字化がなされていること、④ワランティーコスト削減プロジェクトについては、OEM・OES売上の1.0%以下の必達は達成されおり、NDワランティーレシオ(40:60)の改善についても、覚書更新時期を利用し、被告に極めて有利な条件(保証期間の短縮)を日産ディーゼルに承認させることに成功しており、約6000万円の費用削減効果が見込まれていること、⑤在庫削減プロジェクトについては、平成13年4Qには目標を達成していること、同14年の在庫削減30%の目標は未達であったが、この目標は、原告が担当を外れた同年10月から1年半近くを経た時点でも達成されていないこと、⑥P/N削減プロジェクトについては、目標649個のうち少なくとも331個については達成したことが認められ、そうだとすると、被告の原告に対する本件4プロジェクトに対する貢献度の評価はいささか厳しすぎるというべきである。

ウ  前記イに加え、原告は営業職として職務が特定していること(前記1(1))及び本件第3次降格処分は、本件第1次及び第2次降格処分を前提とするものであり、いわばこれらの処分が積み重なったものであるというべきところ、前記1及び2で検討したとおり、本件第1次及び第2次降格処分はいずれも人事権を濫用した無効なものであることを併せ考慮すると、本件第3次降格処分も人事権を濫用したものということができ、無効と判断するのが相当である。そして、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

4  本件第4次降格処分の有効性

被告は、平成15年1月1日、原告を試作管理課の現業職を命じる本件第4次降格処分を行ったが、当該処分の有効性について判断することにする。

(1) 認定事実

前記争いのない事実等、証拠(甲77ないし79、88、乙76、証人G【13頁】、原告【1頁】)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

被告は、原告に対し、平成15年1月1日に試作管理課課員としての職務を命じ(本件第4次降格処分)、その職務が変更したとして給与額を年収643万2000円(月次支給額53万6000円)に減額する本件第3次減給処分を行い、同年5月2日には愛知陸運株式会社藤岡営業所でBPCSのインプット業務に従事することを命じ、当該職務の変更に伴い月次支給額を前記53万6000円から48万6000円に減額した。これらの仕事は、いずれも現業職の仕事である。

(2) 本件第4次降格処分の有効性について

前記1(1)で認定したとおり、原告は営業職として職務が特定しているところ、本件第4次降格処分による原告の職務は営業職ではなく現業職の仕事であること、本件第4次降格処分は、本件第1次ないし第3次降格処分を前提とするものであり、いわばこれらの処分が積み重なったものであるというべきところ、前記1ないし3で検討したとおり、本件第1次ないし第3次降格処分はいずれも人事権を濫用した無効なものであることを併せ考慮すると、本件第4次降格処分も人事権を濫用したものということができ、無効と判断するのが相当である。そして、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

5  賃金請求の成否

(1) 前記1ないし4で判示したとおり、被告が原告に対してした本件第1次ないし第4次降格処分は無効である。そして、本件第1次ないし第4次減給処分は、本件第1次ないし第4次降格処分に伴い行われている本件にあっては、その余の点(争点2の判断等)を判断するまでもなく、本件第1次ないし第4次降格処分が無効である以上、本件第1次ないし第4次減給処分も無効であるというべきである。そうだとすると、被告は、原告に対し、本件第1次減給処分前の給与と本件第1次ないし第4次減給処分に従って現実に支給した額との差額を支払う義務があるというべきである。

(2) そこで、被告が、原告に対し、支払わなければならない給与差額について検討することにする。

ア 平成12年当時、被告の給与システムは、年に1度決定された年俸が次のとおり支払われていた(乙21)。

(ア) 月給相当分 毎月20日限り年俸額の各16分の1

(イ) 賞与相当分 毎年6月及び12月の相応の日に各16分の2

イ 原告の本件第1次減給処分前の年俸は、平成12年4月に年俸1417万円を毎月88万5625円、賞与分177万1250円を支払うと決められていた(甲12)。

ウ しかるに、被告は、平成14年1月1日、原告に対し、本件第1次減給処分を行い、同月以降原告の年俸を1200万円に減額し、同月以降毎月の支給額を75万円に減額し、これを同月から同年3月まで支払った(前記争いのない事実等(7)、弁論の全趣旨)。前示のとおり本件第1次減給処分が無効な本件にあっては、原告は、被告に対し、平成14年1月分から同年3月分までの給与差額各13万5625円(88万5625円−75万円=13万5625円)及びこれらに対する各支払日からの遅延損害金の支払を請求する権利を有しているというべきである。すなわち、原告は、被告に対し、40万6875円及び

① 内金13万5625円に対する平成14年1月21日から

② 内金13万5625円に対する平成14年2月21日から

③ 内金13万5625円に対する平成14年3月21日から

各支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有している。

エ 被告は、平成14年4月1日、原告に対し、本件第2次減給処分を行い、同月以降原告の年俸を1000万円に減額し、同月以降毎月の支給額を62万5000円、賞与額を125万円に減額し、これを同月から同年12月まで支払った(なお、平成14年6月の賞与額は同月14日に137万5000円を、同年12月分の賞与額は同月6日に125万円を支払っている、前記争いのない事実等(8)、弁論の全趣旨)。前示のとおり本件第2次減給処分が無効な本件にあっては、原告は、被告に対し、平成14年4月分から同年12月分までの給与差額各26万0625円(88万5625円−62万5000円=26万0625円)、同年6月分の賞与差額39万6250円(177万1250円−137万5000円=39万6250円)、同年12月分の賞与差額52万1250円(177万1250円−125万円=52万1250円)及びこれらに対する各支払日からの遅延損害金の支払を請求する権利を有しているというべきである。すなわち、原告は、被告に対し、326万3125円及び

① 内金26万0625円に対する平成14年4月21日から

② 内金26万0625円に対する平成14年5月21日から

③ 内金39万6250円に対する平成14年6月15日から

④ 内金26万0625円に対する平成14年6月21日から

⑤ 内金26万0625円に対する平成14年7月21日から

⑥ 内金26万0625円に対する平成14年8月21日から

⑦ 内金26万0625円に対する平成14年9月21日から

⑧ 内金26万0625円に対する平成14年10月21日から

⑨ 内金26万0625円に対する平成14年11月21日から

⑩ 内金52万1250円に対する平成14年12月7日から

⑪ 内金26万0625円に対する平成14年12月21日から

各支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有している。

オ 被告は、平成15年1月1日、原告に対し、本件第3次減給処分を行い、同月以降原告への毎月の支給額を53万6000円に減額し、これを同月から同年4月まで支払うとともに、同年6月6日、同月分の賞与額として67万5000円を支払った(前記争いのない事実等(9)、弁論の全趣旨)。前示のとおり本件第3次減給処分が無効な本件にあっては、原告は、被告に対し、平成15年1月分から同年4月分までの給与差額各34万9625円(88万5625円−53万6000円=34万9625円)、同年6月分の賞与差額109万6250円(177万1250円−67万5000円=109万6250円)及びこれらに対する各支払日からの遅延損害金の支払を請求する権利を有しているというべきである。すなわち、原告は、被告に対し、249万4750円及び

① 内金34万9625円に対する平成15年1月21日から

② 内金34万9625円に対する平成15年2月21日から

③ 内金34万9625円に対する平成15年3月21日から

④ 内金34万9625円に対する平成15年4月21日から

⑤ 内金109万6250円に対する平成15年6月7日から

各支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有している。

カ 被告は、平成15年5月2日、原告に対し、本件第4次減給処分を行い、同月以降原告への毎月の支給額を48万6000円に減額し、これを同月から同年8月まで支払った(前記争いのない事実等(10)、弁論の全趣旨)。前示のとおり本件第4次減給処分が無効な本件にあっては、原告は、被告に対し、平成15年5月分から同年8月分までの給与差額各39万9625円(88万5625円−48万6000円=39万9625円)及びこれらに対する各支払日からの遅延損害金の支払を請求する権利を有しているというべきである。すなわち、原告は、被告に対し、159万8500円及び

① 内金39万9625円に対する平成15年5月21日から

② 内金39万9625円に対する平成15年6月21日から

③ 内金39万9625円に対する平成15年7月21日から

④ 内金39万9625円に対する平成15年8月21日から

各支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有している。

(3) 小括

以上のとおり、本件第1次ないし第4次減給処分が無効な本件にあっては、原告の賃金差額請求はすべて理由があるということになる。

【争点3についての判断】

1  続いて、被告の原告に対する不法行為の成否(争点3)について判断する。

前記【争点1についての判断】の1ないし5で判断したとおり、本件第1次ないし第4次の降格処分、減給処分は違法であり何ら合理的根拠がない。そうだとすると、被告は、本件第1次ないし第4次降格処分、減給処分により被った原告の精神的損害については、相当因果関係のある範囲内で賠償する義務を負っていると解するのが相当である。

2  ところで、前記【争点1についての判断】の1(1)、証拠(甲21の2、同78ないし80、原告【1頁】)及び弁論の全趣旨によれば、①原告は、被告の違法な降格処分、減給処分の結果、体調を崩し、平成13年10月から東京都立豊島病院精神科で投薬、カウンセリングの治療を受けることを余儀なくされていること、②原告は営業職として被告に入社したのに、平成15年1月からは試作管理課の現業職に配置され、重量物を移動する作業に従事しているところ、右膝及び腰椎を痛め同月22日から1週間の休業、安静、通院加療を余儀なくされる等の損害を被った。これら、本件に顕れた被告の原告に対する降格処分、減給処分により原告の被った損害は100万円を下らないものと認めるのが相当である。

3  以上によれば、原告は被告に対し、不法行為に基づき、100万円及びこれに対する不法行為日の後である本訴状送達の日の翌日である平成14年6月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有しているということができる。

【結論】

以上によれば、原告の被告に対する給与等の差額支払請求、不法行為に基づく損害賠償請求はいずれも理由があるのでこれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官・難波孝一)

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