東京地方裁判所 平成14年(ワ)12806号 判決 2003年3月31日
甲・丙事件原告兼乙事件被告(以下「原告」という)
日光商事株式会社
上記代表者代表取締役
門馬光直
上記訴訟代理人弁護士
羽成守
同
西島幸延
同
小泉妙子
甲・丙事件被告兼乙事件原告(以下「被告」という)
三井不動産株式会社
上記代表者代表取締役
岩沙弘道
上記訴訟代理人弁護士
菊地裕太郎
同
玉木雅浩
同
鈴木大祐
同
伊藤孝浩
同
北原潤子
同
本林健一郎
主文
1 被告は,原告に対し,金4億2281万2725円及び内金9753万2399円に対する平成13年11月1日から,内金2323万4309円に対する平成13年12月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年1月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年2月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年3月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年4月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年5月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年6月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年7月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年8月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年9月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年10月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年11月1日から,内金2323万4309円に対する平成14年12月1日から,内金2323万4309円に対する平成15年1月1日からいずれも支払済みまで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 被告の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,全事件を通じこれを8分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
(1) 甲事件
主文1項と同旨
(2) 乙事件
原告が被告に賃貸している別紙物件目録記載の建物のうち,別紙添付図面3の斜線部分及び地下駐車場を除いた部分の賃料債務は,平成13年7月1日以降月額金4305万7455円(1m2当たり月額金3812円)を超えては存在しないことを確認する。
(3) 丙事件
被告は,原告に対し,金6402万0029円及びこれに対する平成14年6月26日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告を賃貸人,被告を賃借人とする建物賃貸借契約において,(1)原告が,月額賃料を平成13年7月1日以降,6629万1764円(5869円/m2)に増額するとの合意に基づき,同日以降の賃料は前記額に増額されたとして,被告に対し,増額分を敷金で充当したため,敷金が不足したとして,不足分4億2281万2725円の支払を求め(甲事件),(2)被告が,前記増額合意は借地借家法32条1項に違反して無効であるなどとして,同日以降の月額賃料は,従前どおり4305万7455円(3812円/m2)を超えては存在しないことの確認を求め(乙事件),(3)原告が,被告に対し,賃貸借契約の対象となっていない部分を使用したり,駐車場使用料が支払われていないなどとして,不当利得,債務不履行に基づき6402万0029円の支払を求め(丙事件)た事案である。
1 争いのない事実等(証拠によって認定した事実は,文末に当該証拠を掲記する)
(1) 当事者
原告は,不動産の賃貸及び管理等を目的とする資本金2000万円の株式会社である。
被告は,不動産の取得,所有,管理,売買及びその仲介並びに住宅の建設及び販売等を目的とする資本金1344億円余の株式会社である。
(2) 賃貸借契約の締結
原告は,平成7年1月6日,被告に対し,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)について,被告がこれを他の第三者に転貸し,収益事業を営むことを目的として,以下の約定で賃貸する旨の合意をし(以下「本件賃貸借契約」という),同日,賃貸借対象部分を引き渡した(甲5)。
ア 賃貸借対象部分
(ア) 本件建物地下1階部分のうち別紙添付図面1の太線枠内。ただし,地下駐車場を除く。
(イ) 本件建物1階部分並びに外溝,植栽及び付帯設備等一切(別紙添付図面2の太線枠内)。ただし,別紙添付図面3斜線部分(以下「1階自用部分」という)及び1階平面駐車場を除く。
(ウ) 本件建物2階部分のうち別紙添付図面4茶線枠内部分
(エ) 本件建物3階ないし7階部分(別紙添付図面4茶線枠内部分)
イ 期間
平成7年1月6日から同27年1月5日までの間
ウ 賃料(以下「本件賃料合意」という)
下記の単価に賃料算出面積の合計を乗じた金額又は転貸賃料に100分の85を乗じた金額のいずれか大きい金額(消費税別,以下,賃料を表記する際は,/坪あるいは/m2という単位を使い,この数字に乗じるべき賃料算出面積である1万1295.24m2及び算出された賃料額の表記は特段の断りがない限り省略することにする。なお,賃料額が明記されている場合はこれにより,明記されていない場合は1坪を3.305m2で換算した額で表示する。)
(ア) 平成7年1月6日から同年6月30日までの間
月額 3485円/m2(1万1520円/坪)
(イ) 平成7年7月1日から同13年6月30日までの間
月額 3812円/m2(1万2600円/坪)
(ウ) 平成13年7月1日以降
月額 5869円/m2(1万9400円/坪)
エ 算出面積
1万1295.24m2(2階ないし7階の別紙添付図面4の太線枠内)
オ 遅延損害金
年18.25パーセント(日割計算)
カ 敷金
15億7446万6094円
原告は,被告に賃料不払等本件賃貸借契約に基づく債務不履行又は損害賠償債務があるときは,催告の上,敷金をその弁済に充当することができ,被告は,原告から敷金充当の通知を受けたときは,直ちに敷金不足額を補填する。
キ 駐車場の取扱い
原告は被告に対し,駐車場の運営業務を委託し,被告は転借人に駐車場を優先的に賃貸し,賃料の10パーセントを手数料として取得し,残り90パーセントを原告に対し支払う。
(3) 紛争内容
ア 被告は,平成13年7月17日付書面において,原告に対し,借地借家法32条に基づき,本件賃料合意は自動増額特約であって無効であるとして,本件賃貸借契約の月額賃料について,同月1日以降も,同年6月30日までの賃料である4305万7455円(3812円/m2,消費税別)を支払うと通知した。
原告は,平成13年7月24日,被告に対し,本件賃料合意に基づき,同年7月1日から,新賃料として,月額6629万1764円(5869円/m2,消費税別)を支払うよう求めた。しかし,被告は,これに応じず,平成13年7月以降,月額賃料として4305万7455円(3812円/m2)しか支払わなかった。
イ 原告は,平成13年9月27日,同年10月1日をもって,約定の賃料と支払済賃料の差額{(6629万1764円−4305万7455円)×1.05×3=7318万8072円,消費税を含む)}及びこれに対する同年7月ないし9月分の遅延損害金(111万0018円)合計7429万8090円(7318万8072円+111万0018円=7429万8090円)を,敷金から充当する旨通知した(甲10の1)。
また,原告は,平成13年10月15日,同月分以降の賃料についても,月額6629万1764円(5869円/m2)の支払がない場合には,各月の末日をもって不足分2323万4309円(6629万1764円−4305万7455円=2323万4309円)を敷金をもって充当すると通知した。しかし,被告は,現在に至るまで当該差額を支払っていない。
ウ このため,甲事件において,原告は,被告に対し,平成13年7月分から同14年12月分までの賃料不足額4億2281万2725円(前記7429万8090円+2323万4309円×15=4億2281万2725円)及び同13年7月分から同年10月分までの賃料不足額9753万2399円(前記7429万8090円+2323万4309円=9753万2399円)に対する同13年11月1日から,同年11月分から同14年12月分までの各月の不足額2323万4309円に対する各支払期日の翌日から各支払済みまで約定の年18.25パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めている。
2 争点
(1) 本件賃貸借契約に,借地借家法32条1項の適用があるか。
【被告の主張】
ア 本件賃貸借契約は,いわゆるサブリース契約であるところの賃貸借契約にほかならず,当然に借地借家法の適用がある。
イ 借地借家法の適用がある契約か否かを決するに当たっては,同法は,貸主による建物使用収益の許諾とその対価としての賃料に関する約定以外の要素を要求していない。本件賃貸借契約においても,原告は被告に対し,一定の期間建物を使用収益することを許し,被告は原告に対しその対価として賃料を支払っており,民法及び借地借家法の予定する建物賃貸借契約そのものである。
ウ そもそも,借地借家法は,その制定段階で,借地借家契約には様々な力関係や内容のものがあることを十分に考慮しながら,それら全てを規律する基本法として制定されたものである。原告が主張するところの経済事象上の分類に応じた法適用の区別は,借地借家法1条の明文にない要件を新たに付加するものであって,法適用・解釈の安定性を著しく害し,相当ではない。
【原告の主張】
ア 本件賃貸借契約は,一連のサブリース共同事業計画の一部を構成するものであって,民法上の典型契約としての賃貸借契約とは異なる性質を有するいわゆる事業委託的無名契約であって,このような契約には借地借家法32条1項は適用されない。
イ 借地借家法32条1項が強行法規と解されているのは,同法が社会的弱者保護の社会立法の面を有し,同項に反して賃借人に一方的に不利益を課すおそれのある約定は,同法の立法趣旨に反するからである。これを本件についてみるに,本件賃貸借契約は,原告所有の土地上に被告が建物の設計・施工を受託し,完成した建物を一括借受けして他に転貸する反面,原告には賃料支払を保証することを内容とするいわゆるサブリース共同事業計画の一環のもとに行われたものであって,長期継続性を前提に専ら収益とリスクの配分を指向したものである。しかも,被告は,設計料とは別に総合企画料などの名目で予め多額の金員を受領する形で,収益予測の誤りによるリスクを回避する措置まで講じている。被告は,当初の契約では一方的に賃貸借契約の対象範囲から除外させた本件建物1階部分について,転借人が賃借の意向を示すや,原告と転借人との間であえて安い賃料での合意をさせた上,賃借人として間に入ることを要求して,10パーセントのマージンを取得しており,このような経緯からも明らかなとおり,本件のサブリース事業計画において被告は原告に対し強大な支配力を有していたのである。
以上によれば,本件賃貸借契約が賃借人である被告に一方的に不利益を課すおそれはなく,当該契約に借地借家法32条1項は適用されない。
(2) 本件賃貸借契約に借地借家法32条1項の適用があった場合,本件賃料合意は,いわゆる自動増額特約に当たり,同項に反し無効か。また,被告の賃料減額請求は有効か。
【被告の主張】
ア 借地借家法32条1項は強行法規であり,一定期間の経過により賃料相場など経済状況等周辺事情を一切無視して予め定められた賃料増額合意,いわゆる自動増額特約は,その期間が経過したら必ず当然に増額するというものであり,同条に反して無効というべきであり,被告の同条に基づく減額請求は有効である。なぜなら,そのような定めは,賃借人と賃貸人の利益を比較した上で,借地借家法32条1項所定の条件が整ったときにのみ,形成権として当事者に一方的な賃料の増減額を認めるとした同項の趣旨に反しているからである。
また,賃料の自動増額特約に有効性が認められるとしても,それは予め定めた賃料の自動増額時に借地借家法32条1項所定の要件が整っているという当事者の合理的意思の合致を前提にするものである。したがって,その後の客観的事情の変化により,合意の前提が失われた場合には,自動増額特約は効力を失って無効となり,被告の借地借家法32条に基づく減額請求は有効となる。
イ 本件賃料合意は,以下の点に照らし,無効である。
(ア) 本件賃料合意は,時期の到来だけに着眼して賃料を順次増加させていき,その他の要素を一切考慮しておらず,自動増額特約である。
(イ) 本件賃料合意がそのまま適用されれば,本件賃貸借契約の平成13年7月1日からの賃料は,従前のそれに比べて約54パーセントも増加し,本件建物付近のビルの賃料相場が3050円/m2(1万0080円/坪)であることと比較して,その約2倍にも及ぶ結果となる。現に,被告が転貸している現行転貸料は,3025円/m2(1万円/坪)である。
本件賃貸借契約における賃料額の算出の基礎となっている賃料額は,平成2年当時の合意に基づくものであるところ,その後のいわゆるバブル経済崩壊を経て,賃料相場がバブル経済期の半額以下に至っている現在の状況下においてこれを適用することは,当時の当事者の意思とかけ離れている。また,平成6年の賃料協議当時と現在を比較しても,平成6年当時は,賃料相場は未だ1坪当たり1万円台半ばという水準を保ち,その後の賃料相場の上昇が見込まれていたものであり,現在の状況と大きくかけ離れている。したがって,現在は,本件賃料合意の前提を欠く状況に至っている。
(ウ) 被告は,本件賃貸借契約締結時から平成14年度末までの間,本件賃貸借契約において,転貸することにより累計で約20億円にも達する損失を被っている。被告は,本件賃貸借契約締結時,本件建物の請負代金を9億5000万円減額し,これによって事業のリスクを負担しているのであって,一定期間発生する逆鞘(被告が得る転貸賃料よりも,原告に支払う賃料の方が多い状態,以下単に「逆鞘」という)以外,これ以上の負担は被らないはずだった。被告が現在被っている巨額の損失は,本件賃貸借契約締結当時,当事者間では想定されていなかったことであり,本件賃料合意の前提は失われている。
(エ) 本件のサブリース事業計画は,原告がもともと計画していたものに被告が協力して開始したにすぎない。にもかかわらず,原告が現段階において事業のリスクを全く負わないという本件賃料合意は,もはや適用の余地はない。
(オ) 原告は,平成6年5月25日,被告が申し入れた新たな賃料についての協議に対し,同13年6月30日までの分については受け入れたが,それ以降の分については,平成2年及び同4年の合意で定められた賃料に固執した。そのため,本件建物工事が完成していたにもかかわらず,本件建物の転貸を開始できない状況となり,被告は,転貸開始の延期を避けるため,再協議前提でやむを得ず本件賃料合意をしたものである。このように,本件賃料合意は,強い合意形成の下で定められたものではなく,著しい不合理な結果を招来してまで機械的に適用する基盤は極めて弱いものである。これは,本件賃貸借契約書第24条に,合意書にもない調整条項が新たに設けられていることからも明らかである。
【原告の主張】
ア 本件賃料合意は自動増額特約ではなく,減額した賃料を当初の平成2年の合意に近いところまで戻すものである。同種の裁判例で問題になっている自動増額特約が,賃料がいわゆる「右肩上がり」の経済状況の中で賃料の高騰を見込んで交わされた契約であるのに対し,本件賃料合意は,いわゆるバブル経済崩壊後の経済状況下で成立したものであり,賃料が値上がりし続けることを前提にしたものでない点で,被告のいう自動増額特約とは異なる。しかも,本件賃料合意の本質は,当初の平成2年の合意のスタートについて,被告に6年間の猶予を与えるものにほかならず,被告のいう自動増額特約にも当たらない。本件賃料合意は,規定の仕方が「3年間で10パーセント増額」などとなっていないこと,調整規定がないことから,自動増額特約ではなく,確定的な賃料の合意である。
イ 本件賃料合意が,一括賃貸開始から平成13年6月30日までの6年間,当初の平成2年の合意に比して大幅に減額した内容となっているのは,本件建物の工事費用の減額とこれに伴う原告の借入金利負担軽減との交換条件であり,対価性がある。したがって,原告が平成13年6月30日までの賃料減額に応じ,実質上,本件建物工事代金減額分相当を支払った現在,被告がこれ以上の賃料減額を求める理由はない。
ウ 被告は,平成6年5月25日,当初の見込みに反して転借人が見つからないことなどを理由に,自らが作成・提案し基本合意された本件サブリース事業計画と平成4年の合意等の見直しを求めてきたが,原告は,同6年末から翌7年1月初頭にかけて,変更合意に応じ,本件賃貸借契約を成立させた。被告は,当該変更合意の時点で,いわゆるバブル経済崩壊による経済事情の変動等は既に十分考慮していた。被告がいう差損は,本件賃貸借契約締結時点で織り込み済みであり,その後に改めて考慮すべき重大な経済変動は発生しておらず,賃料相場の回復に関し,被告の単なる見込み違いがあったにすぎない。
エ 以上によれば,本件賃料合意は有効であり,被告の本件賃料合意が借地借家法32条1項に違反し無効であるという主張及び同条に基づく減額請求は理由がない。
(3) 被告が本件建物の1階及び地下部分等につき得ている転貸料は,法律上の原因がないといえるか。
【原告の主張】
本件賃貸借契約の賃料及びその最低保証額は,本件建物の2階ないし7階事務室の面積を基準に算定されており,1階(別途賃貸借契約が締結された1階自用部分(101号室)を除く)や地下については,被告がこれらを転貸し,転貸料を取得することは想定されていない。しかし,被告は,1階の102号室及び103号室,地下の101号室(B101号室)及び102号室(B102号室)の賃料の外,屋上や地下の設備など元来想定されていない賃料を転借人から独自に取得していた。
したがって,被告は,前記本件建物1階(1階自用部分を除く)及び地下部分等の転貸料を,法律上の原因に基づかず,かつ,悪意で取得し,その結果,原告は,同額の損失を被った。原告の損失額は,別表「不当利得分計算書」記載(1階平面駐車場欄を除く)のとおり,平成14年2月分までで合計4688万6504円である。
【被告の主張】
被告がマイクロソフトに転貸している部分は,本件賃貸借契約において賃貸借契約の対象となっている部分であり,原告の主張には理由がない。
被告が,原告の主張する1階102号室等から得ていた転貸料の額については認める。
(4) 1階平面駐車場の運営につき,被告に債務不履行があったか。
【原告の主張】
原告は,本件賃貸借契約において,被告に対し,1階平面駐車場の運営業務を委託する。また,被告は,転借人に対し,1階平面駐車場を優先的に賃貸し,賃料の10パーセントを事務手数料として取得し,残りの90パーセントを原告に対し支払う。なお,平成11年12月21日に原被告間で締結された「駐車場に関する覚書」によっても,被告は,原告に対し,転借人から得た駐車場賃料の90パーセントを賃料として支払うこととされている(以下,両者を併せて「本件駐車場賃料合意」という)。しかし,被告は,平成7年6月以降,転貸人に対し,1階平面駐車場を原告に無断で無償使用させてきた。これは,被告の債務不履行に当たり,原告の被った平成14年2月分までの賃料相当損害金は,駐車スペース15台分,1台当たりの賃貸料が1か月1万5000円とすると,その合計の90パーセントに当たる1713万3525円(別紙「不当利得分計算書」1階駐車場欄記載のとおり)となる。
【被告の主張】
ア マイクロソフトが,平成7年6月以降,1階平面駐車場を無償で使用していることは認める。
イ 被告は,原告に対し,転借人であるマイクロソフトに1階平面駐車場を無料で使用させることを条件に,本件建物を賃借する旨申し入れ,原告はこれを承諾した。
ウ 被告が,転借人に対し,1階平面駐車場を無償で使用させることは,債務不履行にはならない。本件駐車場賃料合意は,原被告間の本件のサブリース事業計画の一部として行われ,本件賃貸借契約に付随するものである。本件建物の転借人探しは難航し,マイクロソフトの望む駐車場の無償使用を許諾しなければ,同社が転借人となることはなく,本件サブリース事業計画は頓挫していたはずである。したがって,1階平面駐車場の無償使用は,被告の債務不履行とはならない。
第3 当裁判所の判断
1 本件サブリース事業(甲・乙事件,争点(1)及び(2))について
(1) 認定事実
前記争いのない事実等,証拠(甲3ないし5,13ないし19,21,23の1及び2,同27,28,31ないし46,49,51ないし53,54の1,乙1,3,5,6,8,11の3,証人金田一,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件サブリース事業計画策定までの経緯
(ア) 原告は,原告の工場跡地であった東京都調布市調布ヶ丘<番地略>所在の土地(以下「本件土地」という)の開発を計画し,昭和62年ころまでに本件土地上にショッピングセンター,オフィスビルを建築すること,ショッピングセンター建設を第1期計画とし,オフィスビルを第2期計画とすること,日照権等の法的規制の関係で,ショッピングセンターとオフィスビルは一棟扱いとすることなどを計画の基本に据えた。原告は,本件土地開発における建築部門の設計を株式会社日本設計(以下「日本設計」という)に依頼していた。日本設計は,昭和62年ころ,第1期計画についての工事区分表を作成していた。当該工事区分表には,第2期計画についても記載があり,建物の構造(地下1階,地上7階,ショッピングセンターと一部で接続する)と大まかな内部設計がされていた。当時の原告代表者であった門馬久直は,昭和62年ころ,被告代表者と個人的に会った際,被告に対し,当該オフィスビルの建築について協力を要請する目的で,前記工事区分表を手渡しており,結局,当該オフィスビル建築予定部分が,サブリース事業計画の対象となった。
なお,原告は,昭和63年,本件土地に前記ショッピングセンターを建築した。(甲51,乙1,5,原告代表者【1,2頁】)
(イ) 原被告間では,平成2年ころから,サブリース事業計画の話が具体化し始めた。
いわゆるサブリース事業においては,①総合事業受託方式(受託者が,ビルの転貸事業を行う目的で,委託者のサブリース事業による事業収支の採算性,ビル建築資金の借入れ,ローンの返済方法を提案するとともに,用地の確保,建物の設計,建築工事の請負,建築資金の融資の紹介などを行い,完成した建物について転貸事業を行う目的で一括して借り上げるもの),②賃貸事業受託方式(委託者が建築若しくは所有する一棟若しくは複数の建物について受託者から事業収支の採算性等の提案を受け,受託者が一括して借り上げるもの),③転貸方式(委託者が所有する建物を受託者側が転貸事業を行う目的で一括して借り上げるもので,事業収支の採算性の判断は,委託者側において行われるもの)の3つの類型に分類することができるとされている。なお,前記①ないし③の類型のうち,①が最も不動産業者の関与の度合いが大きく,委託者と受託者の共同事業性が強くなる。被告が提案したサブリース事業計画は,前記①の総合事業受託方式であった。また,最低支払賃料額の算定については,支払賃料が毎月変動するデメリットを回避し,空室の場合にも一定額の支払を保証するため,毎月一定額の賃料を支払うという,いわゆる仕切り方式が採用された。(弁論の全趣旨)
(ウ) 被告は,平成2年6月29日,原告に対し,本件土地の一部に施工者を被告として賃貸用建物を建築し,被告が当該建物を一括賃借・管理して転借人に転貸し,収益を上げることを内容とする事業計画を提案したが,その主な内容は次のとおりであった(甲3,証人金田一【3頁】,原告代表者【4ないし6頁】)。
a 賃料
被告が転借人から実際に受領した転貸料の85パーセント相当額とする。ただし,賃料は,転借人の入居率如何にかかわらず,以下の額を下回らないものとする。
① 竣工後6か月 最低賃料の定めなし。
② その後6か月 1万9200円/坪(5809円/m2)×60パーセント
②までをアロウワンス期間(営業期間)とする。
③ 竣工後2年目 1万9200円/坪(5809円/m2)
④ 竣工後3年目以降 2万0400円/坪(6172円/m2)
b 想定している転借人賃料は2万4000円/坪(7262円/m2)
c 被告は,原告から建物の建築工事,設計,管理を請け負い,建築後の建物全体の管理も一括受託する。なお,請負契約締結後に賃貸借契約を締結するものとする。
d 建物の建築費に対する原告の投資試算額は111億2688万9000円とし,このうち3億円は被告が当該事業計画全体の総合的企画・立案・コンサルタントを行う対価(総合企画料)とする。原告は,建物建築資金を被告から支払われる敷金18億7217万1000円の他,金融機関からの借入金92億5471万8000円で賄う。借入金利を年7.6パーセントとすると,原告は,30年で借入金を完済することができる。
e 建物は,平成5年3月末竣工予定とする。被告の一括賃借期間は20年とし,特段の事情のない限り,10年ごとに更新する。
(エ) 原告は,平成2年7月5日,被告との間で,前記(ウ)提案書の内容で事業計画(以下「本件サブリース事業計画」という)を行うとの合意をし(以下「本件基本合意」という),基本合意書を取り交わした。なお,このころ,原告は,他の不動産会社(物産不動産)からも,本件サブリース事業計画と同様な内容の話を持ちかけられていたが,物産不動産の提示した月額賃料保証額は1万5000円/坪(4539円/m2)程度と被告の提示額よりも低額であったため,原告は被告に事業を委託することに決めた。なお,被告は,当該賃料を算出するに当たっては,周辺の賃料相場の他,建築建物の所有者となる原告の利回りについても考慮していた。(甲4,51,証人金田一【4頁】,原告代表者【3頁】)
イ 平成4年合意までの経緯
(ア) 本件土地が所在する東京都調布市は,新宿を中心とした都心エリアに所在する企業のバックオフィスとしての需要があったが,一番の利点は,賃料が都心エリアに比べ安いというところにあった。いわゆるバブル経済崩壊が平成2年ころ発生し,東京都の地価公示価格は,住宅地,商業地のいずれについても平成3年をピークとして,それ以後,下落し続けた。本件土地が存在する調布市の準工業地の地価は,昭和63年をピークとして徐々に下落していたが,特に,平成4年から著しく下落し始めた。建物の新規賃料についても,東京圏のうち丸の内・大手町・有楽町ゾーンは,平成4年まで高値を保ったが,日本橋・八重洲・京橋ゾーン及び西新宿ゾーンにおいては,同年から既に値段の下落が始まり,都心5区(千代田区,中央区,港区,新宿区,渋谷区)の平均賃料も,平成4年から下落が始まっていた。(甲54の1,乙3【7,8頁】,11の3,弁論の全趣旨)
(イ) 原告と被告は,平成2年の本件基本合意以後,本件サブリース事業計画の具体化に向けて勉強会を開催しており,その中で,原被告は,建築ビルをコンピューターの設置を前提とした電算ビルにすることとしたが,電算ビル対応はハードスペックのものであり,建築費がかさんでしまうため,被告は,建築費の削減などのコスト調整に時間を要し,具体的な提案をするのに平成4年までかかった。(乙8,証人金田一【5頁】,弁論の全趣旨)
(ウ) 原告は,平成4年3月25日,被告との間で,本件サブリース事業計画について,概要以下の内容の合意をし(以下「平成4年合意」という),合意書を取り交わした。(甲13,証人金田一【6頁】,原告代表者【12頁】)。
a 賃貸借期間
期間は20年とし,原告又は被告から特段の申入れがない限り同一条件で更に10年間更新する。
b 賃料
被告は,原告に対し,被告が転借人から毎月実際に受領する賃料の85%相当額を当月分の賃料として支払う。ただし,賃貸借契約開始後7か月目以降の年間賃料総額は,下記算式により算出した金額を下回らない。
① 賃貸借開始後7か月目以降12か月経過時まで
1万1520円/坪(3485円/m2)×専有面積×6か月
② 賃貸借開始後2年目
1万9200円/坪(5809円/m2)×専有面積×12か月
③ 賃貸借開始後3年目以降
2万0400円/坪(6172円/m2)×専有面積×12か月
なお,専有面積とは,被告の転借人に対する転貸面積であり,1万1583.04m2とする。専有面積の一部を原告が自分で使用する場合には,当該部分は専有面積の対象外とする。
c 敷金
被告は,賃貸借契約期間中,原告に対し,被告が転借人から預託されている敷金の85パーセント相当額を敷金として預託する。ただし,被告が原告に預託する敷金総額は,下記算式により算出した金額を下回らない。
46万0800円/坪(13万9425円/m2)×専有面積
また,賃貸借開始後3年目以降で入居率100パーセントを確保できた場合,敷金総額は下記算式により算出した金額を下回らない。
48万9600円/坪(14万8139円/m2)×専有面積
d 考慮事項
原告は,昨今の賃貸オフィス市場の現状に鑑み,被告の転借人誘致に関し諸要望があった場合には,建物の建築工事費に関する被告の努力結果を参考に,原被告間で協議することを考慮するものとする。
(エ) 原告は,平成4年3月25日,被告との間で,賃貸用建物建築のため請負契約(以下「本件請負契約」という)を締結した。本件請負契約では,請負代金は,87億6530万円(消費税を含む)とされ,原告は,平成4年4月20日に19億1412万6250円,同5年5月20日には17億3951万2410円,同6年6月20日には51億1166万1340円を支払うこととされた。代金の内訳は,本体工事費79億5700万円,SC回収工事費4300万円,設計監理費3億6000万円,総合企画料1億5000万円,消費税2億5530万円であった。本件サブリース事業計画によれば,被告の総合企画料は3億円とされたが,工事費がかさんだため,被告が総合企画料を1億5000万円に減額してコスト調整をした。なお,原告は,被告の要望により,本体工事費の方に1億5000万円を含ませたと主張するが,この主張を証するに足りる客観的かつ的確な証拠はない。(甲14,21,乙8,証人金田一【6頁】)
(オ) 原告と被告は,本件基本合意から一貫して,本件建物を被告に対して一棟貸しすることを予定し,被告は,本件建物全体について,転借人を募集していた。本件建物は,2階ないし7階部分については各階につき1テナントあるいは2テナントが入居できる構造であったが,被告は,一棟貸しがリスク軽減のためには最もよい貸し方であったので,主に1棟借りる転借人を探していた。1階のミーティングロビー及びオートベンダー室並びに地下1階部分は,転借人の共用部分としてそもそも専有面積(転貸面積)には含まないとされていたが,被告は,平成4年合意後,原告に対し,1階自用部分は面積が小さいから借り手がつかないこと,建築許可の関係で,ショッピングセンターとつながっており,店舗として建築許可がされているため性質が異なることを理由に,1階全体を賃料保証の対象から外してほしいと申し出た。原告は,被告の申出を受け,1階自用部分を自ら使用することにした。そこで,原告は,本件建物竣工後の平成6年1月ころから同年6月ころまでの間,1階自用部分を事務所とすべく,拡張改造工事を行い,5397万2000円の費用を支出した。(甲23の1及び2,同27,28,46,51,52,乙8,証人金田一【11頁】,原告代表者【6,9頁】)
ウ 平成7年の本件賃貸借契約締結までの経緯
(ア) 被告は,平成4年以降,本件建物の転借人を募集していたが,同年以降の周辺賃料が大幅に下落したこともあり,転借人探しは難航した。被告は,平成6年ころから,原告に対し,担当者レベルで最低賃料額の引下交渉をしていた。本件建物は,平成6年5月30日竣工予定だったが,被告は,原告との間で,本件建物の引渡時期を2か月ほど延期した上で,賃貸借条件について交渉することにした。被告は,平成6年5月25日,原告に対し,下記のとおり書面で,最低賃料の引下げ及び敷金の保全策を採るよう申し入れた。なお,被告提案によれば,当初から被告に転貸による逆鞘が生じることが予定されていた。(甲15,31ないし33,乙8,証人金田一【7,8頁】,原告代表者【12頁】)
a 賃料
① 平成6年6月1日から6か月までの間 最低賃料なし
② 平成6年12月ないし翌年5月までの間 1万1520円/坪(3485円/m2)
③ 2年目以降 1万7000円/坪(5144円/m2)
b 敷金保全措置
敷金額は変更しないが,原告は,被告に対し,本件建物について,被担保債権額を敷金相当額,被告を第1順位とする抵当権を設定するか又はそれと同等の敷金保全措置を採る。
(イ) 原告は,被告の前記提案に対し,被告に対し,建築費の20パーセント減額及び平成14年以降の賃料を2万2600円/坪(6838円/m2)とすることを求めた。被告は,これに対し,賃貸借契約期間を10年とし,敷金の一括支払の代わりに敷金金額に年4パーセントを乗じた金額を毎年支払う案を出すなど交渉は難航した。原告は,平成6年7月11日,平成4年合意書は,現事業を取り巻く環境を考えた上で合意したものと理解するとした上で,ぎりぎりの妥協案として,2年目から6年間の賃料を被告の提案どおり1万7000円/坪(5144円/m2)とするものの,それ以降は2万0400円/坪(6172円/m2)とする案を提示したが,敷金保全措置については,返答しなかった。被告は,原告の提案に対し,協議が長期化する恐れが出てきたため,平成6年7月22日,原告に対し,本件建物の受領及び残請負代金51億1166万1340円の支払を要求した。原告がこれを拒むや,被告は,平成6年8月5日ころ,原告に対し,当初見込みの賃料の2分の1で転借人を探したがそれでも見つからなかったことを訴え,最低賃料の引下げと敷金の保全措置を講じない限り賃貸借契約を締結することはできないこと,平成6年8月19日に本件建物を引き渡すので,本件請負代金を支払ってほしいこと,同日以降の本件建物管理は原告において行ってほしいことを要求した。原告は,平成6年10月6日,被告に対し,前記請負残代金相当額の小切手を持参し,本件請負代金の支払と引き替えに,平成4年合意どおりの内容で建物賃貸借契約を締結することを求めたが,被告は,小切手の受領を拒否するなど,原被告間の交渉は紛糾し続けた。(甲16,32ないし44,乙8,証人金田一【7ないし10頁】,原告代表者【13頁】)
(ウ) 被告は,原告との賃料交渉と並行して本件建物の転借人を探し続けていたところ,平成6年11月ころ,本件建物一棟全部の転借を希望するマイクロソフトが見つかり,被告は,再度,原告との賃貸借契約締結に向けて積極的になった。(甲51,53,原告代表者【9頁】)
被告は,平成6年11月15日,原告に対し,20年間転借を希望する会社が出たことを伝え,以下の賃貸借条件で契約を締結するよう要望した(甲45)。
a 期間
平成7年1月1日から20年間,ただし,賃料の発生は平成7年4月1日からとする。
b 月額賃料
① 平成7年4月1日から同年9月30日までの間1万1520円/坪(3485円/m2)
② 平成7年10月1日から同13年9月30日までの間 1万3300円/坪(4024円/坪)
③ 平成13年10月1日以降 1万8700円/坪(5658円/m2)
c 敷金
16億3411万6608円,なお保全措置を含む。
d 賃貸面積
2階ないし7階 3416.82坪(1階当たり569.46坪)
1階 129.44坪
合計 3546.26坪
e 請負代金の減額
本件請負代金のうち,9億5000万円を値引きし,平成7年10月1日ないし同13年9月30日まで月賦で賃料より差し引く。
f その他
10年目に賃料を協議する意味は,現行賃料より2万0400円/坪(6172円/m2)にできるか否かを協議することとする。
(エ) 原告と被告は,その後も話合いを続け,平成6年12月21日,平成4年合意のうち,賃貸借条件について,以下のとおり変更する旨合意し,同日,本件請負代金を総額77億8680万円とする工事請負契約変更合意をし,合意書を取り交わした(甲17,18,51,原告代表者【14,15頁】,弁論の全趣旨)。
a 期間
平成7年1月6日から同27年1月5日まで
b 最低賃料額
① 平成7年1月6日から同年6月30日までの間3485円/m2(1万1520円/坪)
② 平成7年7月1日から同13年6月30日までの間 3812円/m2(1万2600円/坪)
③ 平成13年7月1日から平成27年1月5日までの間 5869円/m2(1万9400円/坪)
これに乗じる専有面積の値は1万1295.24m2とする。なお,平成7年7月1日以降の賃料額である3812円/m2(1万2600円/坪)という数字は,1万7000円/坪(5144円/m2)から,工事代金の9億5000万円の減額分を6年間,賃貸面積で割り,さらに,年4.5パーセントの金利軽減分も合わせて減額した数字である。
c 敷金
被告は,平成7年1月20日,原告に対し,15億7446万6094円を一括して支払い,同10年1月6日時点で入居率が100パーセントのときは,9840万4131円を追加資金として差し入れる。原告は,被告のために,敷金の保全措置を採る。
(オ) 原告は,平成7年1月6日,被告との間で,前記(エ)の変更合意に基づき,本件賃貸借契約を締結した。ここでは,1階自用部分(427.91m2),1階平面駐車場及び地下駐車場は,賃貸借契約の対象とされず,1階平面駐車場及び地下駐車場については,原告が被告に運営業務を委託するとされ,1階自用部分については,後記のとおり別途契約が結ばれた。また,本件賃貸借契約書24条で,「経済情勢・社会情勢・税制・不動産市場等の著しい変化が生じた場合には,原被告誠意を持って協議の上,本契約を変更することができるものとする」との条項(以下「本件協議条項」という)が加えられた。(甲5,51,原告代表者【36頁】)
(カ) 原告は,平成7年7月15日,被告との間で,1階自用部分について新たに賃貸借契約を締結し,被告は,これをマイクロソフトに転貸した。ただし,賃料の関係では,本件賃貸借契約に含まれないとされ,被告は,原告に対し,本件賃貸借契約により支払う最低賃料と合わせ,1階自用部分についての転借人の賃料から共益費相当額を差し引いた額の90パーセント相当額を支払うこととし,最低賃料保証は適用しなかった。(甲19,原告代表者【9頁】)
エ 平成4年以降の賃料相場の動き
東京都の地価公示価格は,平成4年以降,同7年まで急落を続け,同年以降下げ幅は小さいものの,継続的に下落傾向にある。一方,新規賃料は,丸の内・大手町・有楽町ゾーンでは,平成5年に急落後,同9年まで下落を続け,同年以降下げ止まっている。日本橋・八重洲・京橋ゾーンでは,平成4年以降,下落が続いているが,西新宿ゾーンでは,同4年から同6年にかけて下落して以降,同7年からはほぼ下げ止まっている。なお,現在,本件建物付近のビルにおける賃料相場は,月額3050円/m2(1万0080円/坪)であり,被告の現行転貸料は,3025円/m2(1万円/坪)である。(乙3【7,8頁】11の3,弁論の全趣旨)
オ 被告に生じた逆鞘について
被告は,平成13年7月までの間に,本件賃料合意により,約17億8500万円の逆鞘が生じている(乙6,弁論の全趣旨)。
カ 原告の経営状況について
原告は,本件建物の建築費用約77億円のうち,約16億円は被告からの敷金で賄い,残りの約61億円は,借入金で賄った。原告は,現在,年間2億330万円を返済している。被告が,本件賃料合意を遵守したならば,原告は,平成27年1月に前記借入金の返済が終了する。しかし,被告が確認を求める賃料額になると,原告は,同じ時点で約41億7600万円の借入れが残ることとなる。(甲49,51,原告代表者【20頁】,弁論の全趣旨)
(2) 争点(1)(借地借家法32条1項適用の有無)について
ア 本件では本件賃貸借契約に借地借家法32条1項が適用されるのか否かが問題となっている。本件賃貸借契約に借地借家法32条1項が適用されるためには,当該契約が,民法ないしは借地借家法が対象としている賃貸借契約といえなければならない。この点に関し,被告は,本件賃貸借契約は民法ないしは借地借家法の適用のある賃貸借契約であると主張し,他方,原告は,本件賃貸借契約は本件サブリース事業計画に付随した事業委託的無名契約であり,民法ないしは借地借家法の適用のない契約であると主張するので,まずこの点について検討する。
(ア) 本件賃貸借契約が民法ないしは借地借家法の適用のある賃貸借契約か否かを判断するに当たっては,本件建物の使用収益の対価として金銭の支払がされているか否かを基準とするのが相当である(最判昭和31年11月16日民集10巻11号1453頁参照)。
(イ) これを本件についてみるに,前記争いのない事実等及び認定事実によれば,①本件賃貸借契約は,原告被告間の共同事業である本件サブリース事業計画の一環として行われていること,同計画において本件建物の賃料を決定する要素として,周辺の賃料だけでなく,原告の利回りについても考慮されていたこと(認定事実ア(エ)),②本件賃料合意は,本件請負代金の減額と引き替えに合意されたこと(同ウ(エ)b),③最低賃料の算出には,賃料算出面積という独自の概念が用いられ,これは,被告が実際に他に転貸できる床面積を想定したものではないこと(同上),④被告には,本件賃貸借契約締結当初から,逆鞘が生じていたが,被告は本件賃貸借契約締結直後の平成7年1月20日までに,原告から本件請負契約の代金全額である77億円余りを支払ってもらっていることが認められ,これらの事実に照らすと,本件賃料合意は,本件サブリース事業計画の中において,原告が被告に支払うべき請負代金,その調達に要した借入金返済の観点を重視し,付近の賃料相場あるいは被告の転貸借における採算自体は度外視して定められたものであって,本件賃貸借契約の賃料が純粋に建物の使用収益の対価としての金銭の支払といえるかについて疑問がないわけではない。
(ウ) しかし,他方で,被告は,マイクロソフトに転貸借をしているとはいえ,賃借人として本件建物を使用収益し,原告との間で賃貸借契約を締結し,原告に対し一定の金銭を賃料名目で支払っていることは争いがないし,前記認定事実ア(ウ),ウ(エ)及び弁論の全趣旨によれば,①本件サブリース事業計画において,本件賃貸借契約は,本件請負契約締結後に締結されるとしていること,②本件サブリース事業計画の一環としての契約はそれぞれが独立していること,③本件の賃料は,被告が使用収益せずとも支払われ,逆に被告が使用収益しているのに支払われないという関係にはないことが認められ,そうだとすると当事者の合理的意思解釈として,本件建物の賃料が,本件建物の使用収益の対価ではなく,別の性質のものであるとまでいうことは困難というべきである。
(エ) 以上によれば,本件賃貸借契約は,民法ないしは借地借家法が対象としている契約であるといえ,借地借家法32条1項の適用があると解するのが相当であり,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
イ なお,原告は,本件において借地借家法の適用を求めている被告は巨大企業であることから,弱者保護という借地借家法の制度趣旨に照らし,本件に同法32条1項を適用するのは相当ではないと主張する。確かに,借地借家法の趣旨は弱者保護にあるが,同法は,その適用範囲に関し,何らの制限も設けていない。むしろ,本件賃貸借契約では,強力な賃料改定条項を設けているなど本件賃貸借契約の範囲内で当事者間の公平を図る規定が整備されているという事情はないことに照らすと,当事者間の公平を図るという趣旨をも持つ借地借家法を本件に適用することには一定の合理性があるというべきである。よって,この点に関する原告の主張を採用することはできない。
(3) 争点(2)(本件賃料合意は借地借家法32条1項に反し無効か否か)について
ア 本件賃料合意の有効性
(ア) 被告は,借地借家法32条1項が強行法規であることを前提に,本件賃料合意は自動増額特約であって,経済状況を無視してその期間が経過したら当然に増額するという面を有しており,同項に反して無効であると主張するので,この点について判断する。
(イ) 賃料をどのように定めるかは,基本的には当事者の合意に委ねられている。一方,借地借家法では,同法32条1項で,同項所定の諸事由がある場合には,賃料を増額しない旨の特約がある場合を除き,契約の条件にかかわらず,賃料額の増減を請求できると規定している。両者の関係につき,借地借家法32条1項は,強行法規と解されているが,その趣旨は,同項が直ちに賃料にかかる特約を無効とすることにあるのではなく,むしろ,賃料にかかる特約が,同項の適用を排除することができないことにあるにすぎない(最高裁判所昭和56年4月20日判決民集35巻3号656頁参照)。そして,借地借家法32条1項は,当事者に対し,公平の見地から,相当な額まで賃料の増減を請求することができる権利を付与するものであるが,この相当な賃料額を定めるに当たっては,同項所定の諸事由に限ることなく,請求当時の経済事情及び従来の賃貸借関係,特に当該賃貸借の成立に関する経緯その他諸般の事情を斟酌して,具体的事実関係に即し,合理的に定めることが必要である(最高裁判所昭和44年9月25日判決判例時報574号31頁参照)。それは,裁判所によって定められる場合を除き,賃料が当事者の合意によって定められたものである以上当然というべきであり,不動産鑑定評価基準においても,継続賃料の鑑定に当たっては,契約の内容及び契約締結の経緯,賃料改定の経緯を勘案すべきであるとされていることからも明らかである。
したがって,当事者間の賃料にかかる合意が,借地借家法32条1項に反して無効となるか否かは,同項所定の諸事由,賃料が増額される時点の経済事情及び従来の賃貸借関係(特に当該賃貸借の成立に関する経緯)その他諸般の事情を斟酌し,当該合意の内容が当事者間の公平を著しく害するか否かという基準で決するのが相当である。
(ウ) これを本件についてみるに,前記(1)で認定した事実によれば,次のことがいえる。すなわち,本件サブリース事業計画は,原告が被告に対して約77億の請負工事代金を支払って本件建物を建築し,この請負工事代金を本件賃貸借契約の賃料から回収し,転貸料と賃料との差額について原被告間で分配するという枠組みがその根本であり,このため,本件建物の賃料については,原告における請負工事代金の回収という観点を重視して,交渉が継続されてきた。その中で,本件基本合意で想定していた転貸料が,本件建物が竣工した平成6年当時の賃料相場からみて高額のものとなったことから,被告が,原告に対して,本件基本合意及び平成4年合意で合意されていた賃料の引き下げを要求したものの,大幅な引き下げは請負工事代金回収の支障となると判断した原告がこれに容易に応じず,交渉が長期化したが,マイクロソフトという格好の転借人が出現したことから,原被告双方で条件面での折り合いを付けて,本件賃貸借契約を締結したものである。
ところで,本件賃料合意とあわせて本件請負契約の工事代金も9億5000万円減額されているが,本件基本合意及び平成4年合意からみた場合,被告は,この請負工事代金の減額分について,本件賃料合意における当初6年間の賃料の大幅な減額により埋め合わせを受けており,被告が請負工事代金減額という負担をし,原告がそれに対する利益を得たとみることはできず,本件サブリース事業計画のうち,本件請負契約に関する原被告の利益状況については,何ら変更がなされていないというべきである。
そうすると本件での問題は,本件基本合意で想定されていた転貸賃料の収入が得られないことになった危険を誰がどのように負担するのが公平といえるかということとなる。
この点,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,現時点における本件建物周辺の新規賃料は,月額3050円/m2(1万0080円/坪)であり,本件賃料合意における平成13年7月1日以降の賃料の半額に近いこと(認定事実エ,弁論の全趣旨),転貸料が低額にとどまった結果,本件賃貸借契約開始から約6年間で被告に約17億8500万円の逆鞘による損失が生じていること(同オ)が認められる。
しかしながら,①本件基本合意における転貸料を設定したのは被告であること(認定事実ア(ウ)),②被告は,原告から本件請負契約に基づく請負代金全額を回収済みであること(同カ),③請負代金の減額分9億5000万円についても,6年間の賃料減額により実質的に回収済みであること(同ウ(エ),(オ)),④これら回収済みの請負工事代金には,総合企画料1億5000万円も含まれていること(同イ(エ),弁論の全趣旨),⑤仮に平成13年7月1日以降も最低賃料が3812円/m2(1万2600円/坪)で据え置かれた場合,原告は賃貸借開始後20年を経ても,借入金の約3分の1しか返済できず,約41億7600万円の負債を抱えたままとなること(同カ),⑥原告は,本件賃料合意において,賃貸借開始後7か月目から6年間について,実質的には1万7000円/坪(5144円/m2)の賃料で合意しており,7年目以降について,1万9400円/坪(5869円/m2)で合意しているが,これは,賃貸借契約開始後7か月目以降12か月経過時まで1万1520円/坪(3485円/m2),同2年目について1万9200円/坪(5809円/m2),同3年目以降について2万0400円/坪(6172円/m2)との本件基本合意及び平成4年合意された賃料よりも譲歩した内容であること(同ア(エ),イ(ウ),ウ(オ)),⑦本件賃料合意の平成13年7月1日以降1万9400円/坪(5869円/m2)との単価は,被告担当者も合意した内容であること(同ウ(エ)b,(オ)),⑧本件賃料合意がなされた平成7年当時,賃料相場は下落したままの状態にあったもので,被告は,不動産業者として情報収集能力に長けた大企業であることからすれば,賃料相場が回復せず,更に下落する可能性を予見できたというべきであること(争いのない事実等(1),認定事実エ,弁論の全趣旨,なお,原告が,本件賃料合意当時,平成13年7月1日以降の賃料相場が1万9400円/坪(5869円/m2)程度まで回復すると予想していたと認めるに足りる証拠はない。),⑨本件賃料合意は,原被告間の6か月間に及ぶ困難な交渉を踏まえて合意されていること(認定事実ウ(ア)ないし(オ))などの諸事実に照らすと,転貸料が低廉となっている危険について,本件賃料合意の範囲で被告が負担することとなっても,原被告間の公平を害するものとはいえないと解するのが相当である。
(エ) なお,被告は,本件賃料合意は,事業開始のためやむを得ず締結したものであり,その後の賃料協議を予定していたと主張する。確かに,証拠(乙9,12)によれば,被告が,本件賃貸借契約締結後3年ほど経過した平成10年から,原告に対し,賃料据置きのための提案をしていたことは認められるが,本件賃料合意は,原被告間の6か月間に及ぶ交渉を踏まえて合意されたものであり,その定め方からして確定的な内容といわざるを得ず,本件協議条項も,対象を賃料に限ったものでなく,いわゆる事情変更についての一般条項と解するのが相当というべきであるし(この点に関する原告代表者の供述を不自然ということはできず,証人金田一の証言は採用することができない),さらには,前記認定事実によれば,①被告は,原告の資力について,本件賃貸借契約締結の段階においても疑問を持っていたこと(認定事実ウ(ア)),②被告からも,原告に対し,平成13年7月以降の賃料につき,1万7000円/坪(5144円/m2)あるいはこれを超える額の提案がされていたこと(同ウ(ア)),(ウ))が認定できる本件においては,この点に関する前記被告の主張は採用することができない。
(オ) また,被告は,本件賃料合意は,その後の客観的事情の変化により,合意の前提が失われていると主張する。
前記(1)エで認定した事実によれば,本件賃料合意のあった平成7年1月の時点では,西新宿ゾーンの賃料は既に下落しており,ほぼ下げ止まった状態であったこと,本件建物周辺が,新宿を中心とした都心のバックオフィスとしての需要を主にしていることからも,本件賃貸借を取り巻く状況は,平成7年と現時点で本件賃料合意の前提を失わしめるような状況の変化はないと認めるのが相当である。被告は,平成7年時点では,賃料相場回復の見込みがあったと主張するが,本件建物が調布という都心から離れた場所にあることや,前記のような賃料下落の状況からすれば,当事者間に,これ以後の賃料回復が見込めるとの共通の認識があったとまで認めることは困難であるというべきであり,この判断を覆すに足りる証拠は存在しない。以上からすれば,賃料回復の見込みは,被告の主観的事情にすぎないのであって,本件賃料合意の効力に何ら影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
(カ) 以上により,本件賃料合意が,借地借家法32条1項に反し,無効であるということはできず,この点の被告の主張は採用できない。
イ なお,被告は,借地借家法32条1項をもとに減額請求をしたとも主張する(争点(2)【被告の主張】)が,前記アで検討した結果によれば,本件賃料合意による賃料は,不相当となったとはいえないというべきであり,被告の減額請求は理由がない。
(4) 小括
以上によれば,本件賃料合意に借地借家法32条1項の適用はあるものの,当該合意が同項に反して無効とはいえず,同項による減額請求も認められない本件にあっては,その余の点を判断するまでもなく,原告の敷金請求(甲事件)は理由がある。また,被告の債務不存在確認請求(乙事件)は甲事件とは訴訟物が異なり,平成13年7月1日時点で本件賃貸借契約の月額賃料が幾らであるか既判力をもって確定しておく法的利益はあり,その意味で当該訴えは適法であるが,本件賃料合意が有効な本件にあっては,理由がなく棄却を免れないというべきである。
2 不当利得等請求の当否(丙事件,争点(3),(4)について)
(1) 争点(3)(不当利得請求)について
ア 原告は,本件賃料合意における最低保証額は,本件建物の2階ないし7階の面積で算定されているから,本件建物のうちそれ以外の場所(別途賃貸借契約が締結された1階自用部分を除く)については,被告が転貸料を取得することが想定されておらず,被告が現にマイクロソフトから転貸料を得ていることには法律上の原因がなく,原告に不当利得として返還すべきであると主張するので,この点について判断する。
イ 前記争いのない事実等(2)のとおり,原告は,被告に対し,本件建物のうち,1階自用部分並びに地下及び1階平面駐車場を除外した部分を賃貸したものである。したがって,被告が原告から賃貸を受けた部分をマイクロソフトに転貸し,転貸料を得たとしても,これは本件賃貸借契約により被告に許された本件建物の使用収益にすぎず,法律上の原因のない利得であるということはできない。この点,確かに賃料単価に乗ずべき算出面積は,被告がマイクロソフトに転貸している面積の一部にすぎないが,前記争いのない事実等(2)のとおり,本件賃貸借契約においては,原告は,同アの(ア)ないし(エ)の範囲を被告に賃貸し,被告はこれを転貸し収益事業を営むとされていること及び算出面積という文言からすれば,算出面積は,最低保証料を導き出すための係数として定められていると解するのが相当である。また,証拠(甲57ないし60)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,丙事件提起前の平成11年12月時点以降,被告から,同社が算出面積部分以外にも,マイクロソフトから転貸料を取得していることを報告されながら,これについて何ら異議を述べていないことが認められる。
ウ 以上によれば,原告の不当利得返還請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がないというべきである。
(2) 争点(4)(債務不履行)について
ア 原告は,被告がマイクロソフトに対し1階平面駐車場を無償で貸与していることが,被告の債務不履行であると主張し,被告は,無償使用について原告の同意を得ていたと反論するので,これについて判断する。
イ マイクロソフトが平成7年6月以降1階平面駐車場(15台駐車可能)を無償で使用していることは当事者間に争いがない。ところで,証人金田一は,マイクロソフトの無償使用について原告から承認を得ていると証言(証人金田一【15頁】)し,原告代表者はこれを否定する供述をしている(原告代表者【18頁】)ので,いずれの供述を信用することができるのかについて検討する。
前記認定事実ウ,証拠(甲22,30,48,58ないし60,証人金田一【16頁】,原告代表者【18頁】)及び弁論の全趣旨によれば,①被告は本件建物の転借人を探すのに苦労しており,転借するに当たって,転借人であるマイクロソフトが優位な立場にいたこと,②原告は,平成7年6月以降,マイクロソフトが1階平面駐車場(15台駐車可能)を使用しているのを認識していたこと,③被告は,毎月,原告に対し,建物賃借料等支払報告書を交付し,被告がマイクロソフトから得た転貸等について報告していたこと,被告は,平成12年以降,原告に対し,マイクロソフトからの駐車場料金は「0」として報告していたところ,これに対し,原告は何らの異議も出していないこと,④丙事件が提起された平成14年6月ころまで,原告がマイクロソフトの1階平面駐車場の無償使用を問題にした形跡が見られないことが認められる。
以上の認定事実に照らすと,原告代表者の前記供述は不自然不合理であって,採用することはできず,証人金田一の証言には信憑性があるというべきである。そうだとすると,被告は,マイクロソフトに1階平面駐車場を無償で使用させることについて原告の承認を得ていたということができ,この点に関する原告の債務不履行の主張は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。
3 結論
以上検討したとおり,原告の本件賃料合意に基づく敷金請求(甲事件)については,理由があるからこれを認容し,被告の原告に対する本件賃料合意が無効等であることを前提とする債務不存在確認請求(乙事件)及び原告の被告に対する不当利得等の請求(丙事件)はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・難波孝一,裁判官・增永謙一郎,裁判官・笹川ユキコ)
別紙
物件目録<省略>
添付図面1〜4<省略>
不当利得分計算書
<省略>