大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成14年(ワ)15106号 判決 2003年1月20日

原告 X

同訴訟代理人弁護士 伯母治之

被告 国

同代表者法務大臣 森山眞弓

同指定代理人 宮田誠司

同 鉾田達人

同 岡田征克

被告 株式会社東和銀行

同代表者代表取締役 A

同訴訟代理人弁護士 野﨑竜一

主文

1  被告株式会社東和銀行は、原告に対し、121万6666円及びこれに対するこの判決の確定した日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  原告の被告株式会社東和銀行に対するその余の請求を棄却する。

3  原告の被告国に対する請求を棄却する。

4  訴訟費用は、原告に生じた費用の2分の1と被告株式会社東和銀行に生じた費用を被告株式会社東和銀行の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告国に生じた費用を原告の負担とする。

5  この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告国は、原告に対し、別表1記載の各貯金のうち、①「1/12の金額」の合計欄記載の金額、及び、②平成14年8月20日までに発生した各貯金の利息金、並びに、③上記①に対するこの判決の確定した日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被告株式会社東和銀行は、原告に対し、121万6667円及びこれに対するこの判決の確定した日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(4)  仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  被告国

ア 主文第3項と同旨

イ 訴訟費用は原告の負担とする。

ウ 仮執行の宣言は相当でないが、仮に仮執行宣言を付する場合には、担保を条件とする仮執行免脱宣言

(2)  被告株式会社東和銀行

ア 原告の被告株式会社東和銀行に対する請求を棄却する。

イ 訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  原告は、平成12年1月25日に死亡したB(以下「亡B」という。)の相続人である。原告の法定相続分は480分の40であり、その余の亡Bの相続人の法定相続分は別紙法定相続分目録記載のとおりである(ただし、C、D、E、F及びGは亡Bの相続人たる亡H(平成13年11月25日死亡)の相続人であり、これらの者の「法定相続分」とあるのは正しくは、亡Bの相続に関する亡Hの法定相続分を、同人の相続に関する上記各人の相続分に応じて按分したものである。)。

(2)  亡Bの貯金及び預金

ア 亡B名義として、被告国に対し、別紙貯金目録記載のとおり、合計520万円の貯金が存する(以下「本件貯金」という。)。

上記の各貯金は、被告国と亡Bとの間で契約が締結されたものである。

被告国は、本件貯金が定額郵便貯金であり、契約上、分割払戻しが制限されていることを理由にその支払に応じない。

しかしながら、預金債権は指名債権であるから、預金証書や通帳の所持とは関係なく預金債権者が特定されていること、対象となる債権が金銭債権であり可分であること、その債権が可分であることは、通常預金であろうが定額郵便貯金であろうが何ら変わることがないことを考えると、預金債権者が死亡し相続が開始されると同時に共同相続人に分割承継されるものというべきである。

また、遺産の分割において相続人間で紛争が生じることはよくあることだが、その場合、相続預金の払戻請求を共同相続人全員ですることは実際上困難であり、あくまでもこれを要求するとなると、相続によって取得した債権の行使が郵便局の一方的な理由で不当に妨げられることとなってしまう。

さらに、分割払戻しが認められないとすると、原告は定額郵便貯金が10年を経過し通常貯金となるたびに訴えを提起しなければならなくなり、不合理な結果となる。

イ 亡Bの名義として、被告株式会社東和銀行(以下「被告東和銀行」という。)に対し、別紙預金目録記載のとおり、合計1460万円の預金が存する(以下「本件預金」という。)。

本件預金は、被告東和銀行と亡Bとの間で契約が締結されたものである。

(3)  よって、原告は、被告国に対し、本件貯金の12分の1の支払、被告国に対する訴状送達日である平成14年8月20日までの各貯金の利息金及び各貯金に対するこの判決の確定した日の翌日から支払済みまで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告東和銀行に対し、本件預金1460万円の12分の1である121万6667円及びこれに対するこの判決の確定した日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(1)  被告国

ア 請求原因(1)は認める。

イ 請求原因(2)アのうち、亡B名義として、本件貯金が存することは認める。被告国が本件貯金につき原告の分割払戻しの請求に応じなければならないことは争う。

(ア) 原告は、預金債権は相続開始により共同相続人に当然に分割承継されるから、いずれも預金債権である定額郵便貯金についても、相続開始により共同相続人に当然に分割承継され、したがって、分割して行使できると主張する。

しかし、定額郵便貯金及び担保定額郵便貯金は共同相続人に当然に分割承継取得されるが、共同相続人が分割して行使できることになるものではない。すなわち、相続によって、本来の債権債務の内容や性質が変化するものではなく、分割払戻請求が禁止されるという定額郵便貯金の性質が相続によって変化を来すものではない。

(イ) 原告は、相続財産の分割をめぐって共同相続人間で紛争が生じることは往々にしてあるから、定額郵便貯金について共同相続人の一部からの分割請求を禁止すると、権利行使を不当に妨げる結果となって不合理であると主張する。

しかし、共同相続によって債権が当然分割され、債権者が複数となったため相続人全員からでなければ一切の払戻しが認められないという結果は、契約上の制限として当然の事理というべきであり、他の相続人の意思によってその行使上の制約を受けることは、まさにそのような特約のある債権を取得した結果にほかならないのであって、何の不合理も存しない。逆に、相続前には分割払戻しをすることが契約上許されていない定額郵便貯金が、相続という当事者の一方の事情により、相続後は分割払戻しが可能となるとすることこそ、一方的に契約上の制限の変更を許容することになって、不合理である。

(2)  被告東和銀行

ア 請求原因(1)は認める。

イ 請求原因(2)イは、亡Bの相続発生時において、原告主張の別紙預金目録記載のとおりの亡B名義預金があったという限度で認める。

被告東和銀行は、亡Bの相続発生後の平成12年2月8日に、亡Bの共同相続人であるI、J及びKから亡Bの葬儀費用に用いるといって亡Bの定期預金の払戻しを請求されたため、これに応じ、本件預金のうち、290万円の定期預金から80万円を払い出した。

理由

1  請求原因(1)及び(2)アは当事者間に争いがない。

2  被告国に対する請求について

本件貯金はいずれも定額郵便貯金であることから、定額郵便貯金の相続分に応じた分割払戻しの可否について判断する。

(1)  郵便貯金法7条1項3号によれば、定額郵便貯金は、一定の据置期間を定め、分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するものであるとされているが、この分割払戻しの禁止は、定額郵便貯金債権の行使に関して制限を付したものと解するのが相当である。定額郵便貯金は、半年複利で利子計算する(郵便貯金規則5条5項、6項)など貯金者に有利な貯金として設定されているところ、法はそのような取扱いをする反面として、多数の利用者を対象とした大量の事務処理を迅速に、かつ、画一的に処理する必要上、上記のような権利行使の面における制限を付したと解される。定額郵便貯金がこのような性質のものであるとすると、相続の一事によって、その性質が変わるものではなく、共同相続人の一人が自己の相続分に応じた預金債権の行使を制限されるのは、性質上、当然のことというべきである。

(2)  原告は、遺産の分割において相続人間で紛争が生じることはよくあることだが、その場合、相続預金の払戻請求を共同相続人全員ですることは実際上困難であり、あくまでもこれを要求するとなると、相続によって取得した債権の行使が郵便局の一方的な理由で不当に妨げられることとなってしまうと主張する。しかし、相続人が被相続人から承継取得した債権にはもともと全額でなければ払戻しができないという契約上の制限が付されていたものであり、債権者が相続によって変動したからといってその契約上の制限に変化を来すいわれはなく、共同相続によって債権が当然分割され、債権者が複雑となったため、相続人全員からでなければ一切の払戻しが認められないという結果は、同契約上の制限として当然の事理であるというべきである。

(3)  以上によれば、定額郵便貯金については、相続によって分割債権となったとしても、共同相続人はその持分割合に応じて払戻請求することはできないというべきである。

(4)  よって、定額郵便貯金についても相続持分に応じて払戻請求ができるとすることを前提とする原告の被告国に対する請求は理由がない。

3  被告東和銀行に対する請求について

亡Bの相続発生時に亡B名義で本件預金が存したことは当事者間に争いがない。

亡Bの被告東和銀行に対する本件預金に対する債権は、亡Bの死亡により、当然に各相続人に分割して帰属することとなるから、I、J及びKからの請求により、被告東和銀行が本件預金の一部の払出しを受けたとしても、原告の承諾のない以上、原告の預金債権に何ら消長を来すものではない。したがって、原告は、被告東和銀行に対し、本件預金1460万円の12分の1である121万6666円の払戻しを請求することができる(原告は121万6667円を請求しているが、1円未満の端数につき四捨五入するのではなく、切り捨てるのが相当である。)。

4  以上によれば、原告の請求は、被告東和銀行に対する分は理由があるからこれを認容し(ただし、1円部分は棄却する。)、被告国に対する分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条、64条ただし書を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 澤野芳夫)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例