大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成14年(ワ)15973号 判決 2004年3月29日

甲事件原告

株式会社損害保険ジャパン

乙事件被告

株式会社上原工業

甲事件被告・乙事件原告

Y1

甲事件被告

ミヤコ陸運株式会社

主文

一  Y1及びミヤコ陸運は、損保ジャパンに対し、各自二四二万四八六五円及びこれに対する平成一四年八月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  上原工業は、Y1に対し、八九三万〇三六七円及びこれに対する平成一一年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  損保ジャパン及びY1のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その三を損保ジャパン及び上原工業の負担とし、その余をY1及びミヤコ陸運の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

Y1及びミヤコ陸運は、損保ジャパンに対し、各自八二六万一八二二円及びこれに対する平成一四年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

上原工業は、Y1に対し、一五〇〇万円及びこれに対する平成一一年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交差点における直進車と右折車とが衝突した交通事故において、直進車に係る保険契約に基づき、右折車の同乗者二名の損害をてん補した保険会社が、右折車の運転者及び保有者に対して求償権を行使し(甲事件)、他方、右折車の運転者が、直進車の保有者(直進車の運転者の使用者)に対して、損害賠償を求めた(乙事件)事案である。

一  前提事実(争いのない事実は証拠を掲記しない。)

(1)  次の事故が発生した(以下「本件事故」という。)

ア 日時 平成一一年七月二四日午後一〇時一五分ころ

イ 場所 神奈川県川崎市<以下省略>先(以下「本件交差点」という。)

ウ 車両一 自家用小型貨物自動車(車両番号<省略>、以下「A車」という。)

同運転者 A

エ 車両二 自家用軽貨物自動車(車両番号<省略>、以下「Y1車」という。)

同運転者 Y1

同同乗者 B・C

オ 態様 信号機による交通整理の行われている交差点において、直進中のA車と対向車線から右折中のY1車が衝突した。

(2)  責任原因

ア 上原工業、Y1及びミヤコ陸運のB・Cに対する責任

上原工業は、本件事故当時、A車の保有者として自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づく損害賠償責任を負う。

Y1は、Y1車を運転して、本件交差点内で右折するに際して、対向車線を進行してくる車両等の進行を妨害しないようにすべき注意義務があるのにこれを怠った過失があるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。

ミヤコ陸運は、Y1車の保有者であったから、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。

イ 上原工業のY1に対する責任

上原工業は、A車の保有者であったから、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。また、本件事故は、上原工業の業務遂行中に従業員であるAの前方確認義務違反等の過失によって発生したものである(証人A、弁論の全趣旨)から、上原工業は、民法七一五条に基づく損害賠償責任を負う。

(3)  損保ジャパンによる保険金の支払

損保ジャパンは、上原工業との間の自動車保険契約に基づき、遅くとも平成一四年一月三一日までに、Bに対し一五七五万三九一九円を、Cに対し九六万二九七〇円を支払った。

(4)  損害のてん補等

ア B及びCについて(調査嘱託の結果)

損保ジャパンは、ミヤコ陸運が契約する自賠責保険会社(富士火災海上保険株式会社)から、Bに関する自賠責保険金合計三四四万円の支払を受けた。

損保ジャパンは、上原工業が契約する自賠責保険会社として、Bに関する自賠責保険金合計三四四万円及びCに関する自賠責保険金四三万九〇三〇円の各支払を受けた。

イ Y1について

Y1は、損害のてん補として、損保ジャパンから、関東労災病院への直接払い分七六万二四五三円(甲一八九、一九一)のほか八〇万円の支払を受けた。

また、Y1は、平成一二年一〇月三〇日から平成一三年二月二三日までの間、心因反応ないしうつ病に基づいて労務に服することができなかったことを支給原因として、神奈川運輸業健康保険組合から合計八二万〇八〇〇円の支給を受けた(甲二〇八ないし二一一、調査嘱託の結果)。

二  争点

(1)  事故態様及び過失相殺(甲事件及び乙事件共通の争点)

ア 損保ジャパン及び上原工業の主張

Y1は、対向車線から右折して来る車両に気を取られて脇見していたため、対向車線を直進するA車に全く注意を払わず、A車の進行を妨害する態様で、漫然とY1車を右折進行させた重大な過失がある。

上原工業がY1に対して負っている損害賠償債務の金額を定めるに当たっては、少なくとも八割以上の過失相殺をすべきである。

イ Y1及びミヤコ陸運の主張

Y1は、本件交差点を信号機の青色表示に従って時速約一〇kmの速度で右折進行したところ、折から道路中央線寄りの対向第四車線を時速約一〇〇kmを超える高速度で走行していたA車が、本件交差点直前に至り、その前方に右折待機中の車両が数台停止していたことから、追突を回避するため、車線変更禁止区間であるにもかかわらず、ハンドルを左に転把して第三車線に突然進入したため、右折進行していたY1車の左側部にA車の前部を衝突させた。

Y1は、本件交差点付近の道路及び規制内容を熟知していたので、第四車線に右折待機車両が停止している状況において、A車のように同車線を高速度で走行し、かつ交差点直前に至って急制動をかけながら第二、第三車線に車線変更してくる直進車両のあり得ることまでは予測しなかった。仮にY1に過失があったとしてもわずかであり、本件事故の責任の大半は危険かつ無謀な運転をしたAが負うべきである。

(2)  損保ジャパンがY1及びミヤコ陸運に対して求償し得る額(甲事件の争点)

ア 損保ジャパンの主張

(ア) Bの損害及びその額

Bは、本件事故により、右第四・第五・第六・第七・第八肋骨骨折、右肋間神経損傷、外傷性右気胸、右血胸、背部・下肢打撲、背部・下肢挫傷、頭部打撲、左耳介挫傷、眩暈症、左耳介異物(ガラス)、頬部異物(ガラス)、鼻部異物(ガラス)の各傷害を負い、聖マリアンナ医科大学東横病院において平成一一年七月二四日から平成一三年三月一三日までの間入通院をし(うち入院は一八日間)、また、聖マリアンナ医科大学病院において同年五月二五日から同年六月一日までの間入通院した(うち入院は二日間)が、右胸部のしびれ感・疼痛・異常知覚、右背部痛、右背部の異常知覚、右背部の軽度の筋萎縮の各後遺障害が残存し、そのうち右胸部のしびれ感・疼痛及び右背部痛は「頑固な神経症状を残すもの」として、自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表(以下単に「等級表」という。)第一二級一二号に該当すると認定される後遺障害を残し、次のような損害を被った。

a 積極損害

(a) 治療関係費 九二万九八二八円

(b) 入院雑費 三万〇〇〇〇円

一日当たり一五〇〇円の二〇日分(入院治療期間)である。

(c) 通院交通費 四万〇三〇〇円

聖マリアンナ医科大学病院東横病院と聖マリアンナ医科大学病院の双方に通院した際、通院のために利用した自動車の駐車料金の合計は上記である。

(d) プール代等雑費 一万五四四〇円

Bは、筋力の回復等を目的とするリハビリテーション療法の一環として、医師の指示に基づき、水泳を行うため、川崎市営大師プール等に通った。プールの利用料金の合計は上記額である。

b 消極損害

(a) 休業損害 七一八万七七三三円

Bは、本件事故当時、ヒルマ工業に勤務して、主として解体、斫り作業に従事し、平成一〇年には四三九万四五一〇円の給与を得ていたが、本件事故による傷害のため、平成一一年七月二五日から平成一三年三月一三日までの間、全く就労することができないまま、同日をもってヒルマ工業を退職した。Bの休業損害は、次の計算式のとおり、七一八万七七三三円となる。

(計算式) 4,394,510×(1+232÷365)≒7,187,733

(b) 後遺障害逸失利益 一〇七八万二六二〇円

Bは、本件事故当時三五歳であり、本件事故に遭わなければ、同人が六七歳になる前日までの間、平均して、賃金センサス平成一一年第一巻第一表の産業計・企業規模計中卒男性労働者全年齢平均年収四八七万三八〇〇円を得た蓋然性が極めて高かった。動労能力喪失率を一四%とし、六七歳まで三二年間の逸失利益を算出すると、次の計算式のとおり、一〇七八万二六二〇円となる。

(計算式) 4,873,800×0.14×15.8026≒10,782,620

c 慰謝料

(a) 傷害慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

(b) 後遺障害慰謝料 二九〇万〇〇〇〇円

(イ) Cの損害及びその額

Cは、本件事故により、頭蓋骨骨折、脳震盪、左第四・第五趾間挫創、頸椎捻挫の傷害を負い、聖マリアンナ病院において平成一一年七月二四日から平成一二年九月一三日までの間入通院し、次のような損害を被った。

a 積極損害

(a) 治療関係費 一六万〇〇七三円

(b) 付添看護費 一二万七二〇〇円

Cは、本件事故当時六歳の児童であったので、入通院期間中、同人の母親であるDが付き添った。一日当たりの入院付添費を六五〇〇円、通院付添費を三三〇〇円として算出すると、次の計算式のとおり、一二万七二〇〇円となる。

(計算式) 6,500×15+3,300×9=127,200

(c) 入院雑費 二万二五〇〇円

一日当たり一五〇〇円の一五日分(入院治療期間)である。

(d) 通院交通費 二万三〇〇〇円

付添人交通費一万三二〇〇円及び聖マリアンナ医科大学東横病院への通院のための自動車駐車料金九八〇〇円の合計額である。

b 傷害慰謝料 一〇〇万〇〇〇〇円

(ウ) 保険代位

損保ジャパンは、上原工業との間の自動車保険契約に基づき、上原工業がB及びCに対して負担する対人賠償保険金の支払請求に応じて、被保険者たる上原工業の承諾の下に、遅くとも平成一四年一月三一日までに、Bに対し一五七五万三九一九円を、Cに対し九六万二九七〇円を支払った。

(エ) よって、損保ジャパンは、Y1及びミヤコ陸運に対し、求償権の一部である八二六万一八二二円(明示の一部請求。ただし、B分の求償金七七三万七八八二円とC分の求償金五二万三九四〇円の合計額)及びこれに対する保険金支払日の後である平成一四年二月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

イ Y1及びミヤコ陸運の主張

(ア) Bの損害及びその額について

Bが等級表第一二級一二号に該当すると認定される後遺障害を残したことは認め、その余は不知(ただし、現に損保ジャパンが支払った損害額自体はこれを受け容れる。)。

(イ) Cの損害及びその額について

いずれも不知(ただし、現に損保ジャパンが支払った損害額自体はこれを受け容れる。)。

(ウ) 保険金の支払について

認める。

(エ) 損害のてん補

ミヤコ陸運が付保する自賠責保険会社(富士火災海上保険株式会社)は、損保ジャパンに対し、Bの損害に関して、傷害分一二〇万円、後遺障害分二二四万円の合計三四四万円を支払っているので、損保ジャパンがBに対して支払った一五七五万三九一九円からY1及びミヤコ陸運が負担すべき金額を算出した上、この既払金を控除すべきである。

また、損保ジャパンは、Cに対して支払った九六万二九七〇円のうち四三万九〇三〇円を損保ジャパンの自賠責保険口から支払を受けているので、損保ジャパンがY1及びミヤコ陸運に対して求償を求め得るのは、五二万三九四〇円を限度とする。

(3)  Y1の損害及びその額(乙事件の争点)

ア Y1の主張

(ア) Y1の傷害内容、治療経過及び後遺障害

Y1は、本件事故により、左大腿骨骨折、左腕神経叢損傷、右内側々副靭帯損傷、左膝挫傷の傷害を負い、関東労災病院に平成一一年七月二四日から同年一二月一日まで及び平成一二年七月二六日から同年八月一〇日までの間入院し、平成一一年一二月九日から平成一三年一二月六日までの間通院した(実日数二五日間)が、右上肢挙上障害、右肩痛、右上肢近位の脱力感と知覚異常、左大腿部痛による正座、古座不能の後遺障害が残存し、かかる後遺障害については、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として、等級表第一二級一二号に該当すると認定された。

(イ) Y1の損害額

a 積極損害

(a) 治療費 九三万六六〇三円

(b) 入院雑費 一九万一一〇〇円

(c) 通院交通費 二万二八八〇円

(d) 物損(眼鏡代) 八万五〇〇〇円

b 消極損害

(a) 休業損害 五六五万九五八四円

Y1は、本件事故当時、ミヤコ陸運に勤務し、平均日額一万二六三三円の給与所得を得ていたが、本件事故により、平成一一年七月二四日から平成一二年二月二八日までの二一九日間、同年七月二六日から同年八月一〇日までの一六日間及び同年一〇月三〇日から平成一三年五月三〇日までの二一三日間、休業を余儀なくされた。

なお、Y1は、健康保険組合から傷病手当金として八二万〇八〇〇円の支払を受けたので、同期間中の認定休業損害額から控除することについては特段の異存はないが、同健康保険組合が支払った傷病手当金については、上原工業に求償されていないので、過失相殺後の賠償額から控除することにすると、不当に上原工業を利することになる。この事情に傷病手当金の生活保障的性質をも考慮し、同期間中の認定休業損害額から支払傷病手当金を控除した残額を他の各種損害額に加算した上過失相殺の対象とすべきである。

(b) 後遺障害逸失利益 八四六万一三三五円

Y1は、症状固定時五一歳であるから、賃金センサス平成一一年中卒男性労働者年齢別平均年収五五七万六五〇〇円を基礎とし、労働能力喪失率を一四%とし、六七歳まで一六年間の逸失利益を算出すると、上記額となる。

(計算式) 5,576,500×0.14×10.838≒8,461,335

c 慰謝料

(a) 傷害慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円

(b) 後遺障害慰謝料 二七〇万〇〇〇〇円

d 弁護士費用 一五〇万〇〇〇〇円

なお、Y1は、本件事故により、肉体的・精神的苦痛を受けただけではなく、上原工業の自動車保険の付保先である損保ジャパン担当者の不誠実極まりない対応によって、筆舌に尽くし難い苦悩を余儀なくされた。すなわち、本件事故は、Aの異常かつ危険な運転方法によって惹起されたものであり、Aもこれを自認していたのに、信号機によって交通整理の行われている交差点内における右折車対直進車の単純な衝突事故であるとして、右折車であるY1の責任を七割とする一般的な過失割合に固執し、本件事故の特殊な事情を一切捨象し、再三にわたるY1の再考要請をも顧みず、Y1とAとの接触にも介入して、これを絶ち、自らにとって不利益となる証拠の収集を妨げ続けた。かような仕打ちによって、Y1は苦境に陥り、家族や勤務先からの理解も得られず、悩み抜いた末うつ病にかかり、果ては平成一二年一〇月三〇日、首を吊って自殺を図るまでに苦悩する事態となった。幸い、直後に妻に発見され、一命はとりとめたが、その後三か月の入院加療を余儀なくされたし、Y1の自殺企画を非難する妻と離婚せざるを得なくなった。損保ジャパンは、Y1に対し、「もしミヤコ陸運様の保険を使用できない場合、今回後遺障害が認定されたことにより、Y1様が受け取ることができる賠償金を、当社からの求償金にあてることになってまいります。」などと、本来相殺することができない債権で相殺することを予告する恫喝的言辞を用い、低額示談を図るなど、その対応の非人道性には目に余るものがある。これらの諸事情は、慰謝料額や弁護士費用の相当性を判断する上で斟酌されるべきである。

また、本件訴訟が、Y1の希望に反して、結果として遅延してしまったことの大半の責任は、損保ジャパン及び上原工業代理人の主張立証準備の懈怠にあったことが明らかである。損保ジャパン及び上原工業代理人は、いずれ知れてしまうことになる自賠責保険からの受領額すら開示しなかった。本件訴訟にうかがわれる企業姿勢が改められないことによって今後もY1のような被害を引き起こしかねないことを強く憂慮し、異例ではあるが、あえて裁判所に対し、これら本件の審理に顕れた諸事情を慰謝料斟酌等、Y1の損害額に反映させ、もって猛省を迫ることを切望する。

(ウ) よって、Y1は、上原工業に対し、損害賠償として一五〇〇万円(明示の一部請求)及びこれに対する本件事故日である平成一一年七月二四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

イ 上原工業の主張

(ア) Y1の傷害内容、治療経過及び後遺障害について

Y1が、局部に頑固な神経症状を残すものとして、後遺障害等級第一二級一二号に該当すると認定される後遺障害を残したことは認め、その余は不知。

(イ) Y1の損害額について

a 積極損害

(a) 治療費について

七六万二四五三円の範囲内において認める。

(b) 入院雑費について

認める。

(c) 通院交通費について

否認する。

(d) 物損(眼鏡代)について

否認する。

b 消極損害について

(a) 休業損害について

Y1の休業一日当たりの損害が一万二六三三円であることは認める。Y1は、平成一二年八月一〇日の退院時において、日常生活動作に特段支障がない状況にあったから、就労が不能であったか、著しく困難であった期間は二三二日間である。仮に同年一〇月三〇日以降、Y1がうつ病に罹患していたとしても、本件事故との間に相当因果関係はない。

(b) 後遺障害逸失利益について

Y1が本件事故前に得ていた収入は年四六一万一〇四五円であり、これを基礎として算定すべきである。労働能力喪失率を一四%とすることは認める。喪失期間は、Y1の後遺障害の内容(右肩痛・右上肢挙上障害に関する愁訴のみが第一二級一二号に該当すると判断されたこと、この愁訴の原因たる右第五頸椎神経根障害は、Y1の素因ともいうべき軽度の経年性変化《第四・第五頸椎椎間板の軽度膨隆》に基づく神経障害が本件事故を契機として発現したと認められること、右腕神経叢損傷については平成一三年一二月四日に至って確定診断はできないとされていること、自覚症状としては、右上肢のしびれ・放散痛のみが初診時と終診時に存在するが、これも軽減していること)に照らし、どんなに長くとも八年を超えることはあり得ない。

c 慰謝料について

争う。

d 損害のてん補

上原工業は、Y1に対し、損害のてん補として、総額一五六万二四五三円(関東労災病院への七六万二四五三円を含む。)を支払った。

また、Y1は、損害のてん補として、神奈川県運輸業健康保険組合から合計八二万〇八〇〇円の支給を受けている。

d 弁護士費用について

本件事故から本訴提起まで三年二か月余りも経過したのに、Y1は、自賠法一六条一項に基づく請求権を行使していないこと、Y1代理人の所属する東京弁護士会の定める弁護士報酬規定によれば、自賠責被害者請求権を行使することによる手数料の額が、給付金額が一五〇万円を超える場合には給付金額の二%とされていることなどに照らし、上原工業が賠償すべき、本件事故と相当因果関係が認められる弁護士費用は、どんなに多くとも、本件訴訟において認容されるべきY1の損害の総額の三%以下とされるべきである。

第三判断

一  争点(事故態様及び過失相殺)について

(1)  前記認定事実に加え、関係各証拠(甲一ないし三、甲二二八の一ないし四、乙一、乙一〇、乙一一、乙一六、乙二一、乙二三ないし二六、証人A、Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故態様として、次の事実が認められる。

ア 本件交差点(通称出来野交差点)は、横浜方面から東京方面に通じる道路(通称産業道路。以下「本件道路」という。)と、田町方面から大師方面に通じる交差道路との信号機による交通整理が行われている交差点である。本件道路には、片側に四つの車両通行帯が設けられ(車両通行帯一つの幅は約三・二ないし三・三mである。)、中央部には幅約四・〇ないし四・一mの中央分離帯が設置されている。本件道路はアスファルト舗装され、平坦で路面は乾燥し、最高速度時速五〇kmの速度規制がされていた。また、横浜方面から東京方面に向かって、本件交差点の停止線から手前約八〇mの区間には、車両の進路の変更の禁止を表示する道路標示(黄色の実線)があった。

本件事故現場の状況は、おおむね別紙一(平成一一年八月二三日付け実況検分調書《甲二》添付の交通事故現場見取図)及び別紙二(平成一一年一〇月五日付け実況見分調書《甲三》添付の交通事故現場見取図)のとおりである。

イ Y1は、羽田神社の祭礼から自宅に向かうべく、Y1車を運転して、本件道路を東京方面から大師方面に向かって右折進行すべく、信号に従い、本件交差点中心の手前でいったん停止した。その際、対向車線の中央分離帯に接する車両通行帯(以下「第四通行帯」という。)にも、横浜方面から田町方面に向かって右折しようとする車両があった。Y1は、対向車線の右折車(別紙二の)に視線を投げ、対向直進車がとぎれたと判断して右折を開始した。

他方、Aは、勤務先から自宅に向かうべく、A車を運転して、横浜方面から東京方面に向かって、第四通行帯を走行していたところ、右折進行しつつあるY1車を前方約三六mに接近してようやく気づき、ハンドルを左に転把するとともに急制動をかけたが間に合わず、Y1車とA車は、別紙二の地点において衝突した。Y1は、衝突するまでA車に全く気付かなかった。

本件事故後、Y1車は別紙一の<1>(別紙二の<3>)地点、A車は別紙一の<ア>(別紙二の<4>’)地点に停止した。本件事故直後において、本件道路には、別紙一のとおり、A車によるものと認められる右側約二〇・〇m、左側一六・八mのスリップ痕が路面に印象されていた。

ウ Y1は、本件事故前、Y1が視線を投げた対向車線の右折車の後方に、さらに数台の右折待機車が停車していたと主張・供述するが、平成一一年九月二〇日に行われた実況見分においては、Y1及びAの双方が、第四通行帯上の右折車として、別紙二の地点付近の車両のみを指摘するのみであることや、別紙一にみられるA車のスリップ痕が始まる位置に照らし、Y1の上記主張・供述を認めることはできない。しかしながら、本件事故直前において、別紙二の地点付近の右折車の後部は、なお第四通行帯上にあった可能性があるから、Y1が、第四通行帯からは直進車が来ないものと推測し、同通行帯上の車両に対する注意を逸らせたことを大きく非難することはできない。

エ A車の制動初速度については、スリップ痕の状況、Y1車の停止位置等に照らし、少なくとも時速約八〇kmかそれ以上の速度であったと推認される(この点について、損保ジャパン及び上原工業は積極的な主張をしない。また、損保ジャパンは、明示の一部請求をし、本件訴訟の当初から、その算出の根拠《Aの過失割合を控除しているのか、だとすればその過失割合》について釈明を求められながら、口頭弁論の終結に至るまで、何の説明もしなかった。また、損保ジャパンは、事故原因に関する調査報告書について、写真部分しか提出しなかった。こうした訴訟態度は、弁論の全趣旨として斟酌される事情となる。)。

これに対し、Aは、本件交差点進入時におけるA車の速度が時速約六〇kmであったと証言するが、Aは、そもそも本件交差点進入前において、A車が中央分離帯に接する車両通行帯を進行していたか否かについてすら明確な記憶を有しない(しかしながら、路面に印象されたスリップ痕の最も横浜方面寄りの右側部分が、中央分離帯に接する車両通行帯内に位置していることや、平成一一年九月二〇日に行われた実況見分におけるAの指示説明に照らし、A車が、本件事故前、中央分離帯に接する車両通行帯を進行していたことは明らかであり、なぜこの点についてすら明確な証言ができないのか、理解に苦しむところである。)。Aの証言は、本件事故直前においてハンドルを左に転把したか否か、保険会社の担当者に事故状況を説明したか否かなどに関しても、極めて曖昧である。Aの証言する事故態様であれば、直進車優先の原則に照らし、Y1に大きな過失割合が認められるべきであるところ、Aは、本件事故によって負傷し、約一か月休業して治療を受けた(証人A)にもかかわらず、Y1に対し、損害賠償を求めたことはない。その他、諸般の事情に照らし、Aの上記証言は採用できない。

オ A車が本件交差点に進入する時点において、Y1車はほぼ右折を完了した状態にあったといえる。

カ Aが、Y1車を発見する以前において、前方の右折待機車との追突を避けるべくハンドルを左に転把しながら急制動の措置を講じていたとまで認めるに足りる証拠はないが、Aが、急制動の措置を講ずるとともに左にハンドルを転把したことは、少なくとも結果的に進路変更禁止の規制に反することになるし、あえてY1車が進行する方向に向かってA車を進行させたことにもなる。その回避措置は著しく不適切といわざるを得ない。

キ Y1車は定員四名のところ、本件事故当時、Y1車には大人四名と六歳の子供二名が同乗していたし、他方、A車には、水道の配管に必要な道具、材料等が積まれていたが、これらは、AとY1の過失割合を判断する上で特に考慮すべき事情とは認められない。

また、本件事故当時、A及びY1が飲酒運転をしていたことを認めるに足りる証拠もない。

(2)  以上によれば、Y1は、対向車線に右折車があったからといって、直進進行しつつあるA車を全く認識できなかったとは思われないから、Y1には、右折進行するに当たっての対向車両の進行を妨害してはならない義務に違反する過失があるといわざるを得ない。しかしながら、Aには、交差点に入ろうとし、交差点内を通行する際に、反対方向から右折しようとする車両に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない義務に違反して、制限速度を大幅に超過する速度で進行した過失があり、回避措置も著しく不適切であった。その他諸般の事情を考慮すると、本件における過失割合はAが六割、Y1が四割と解すべきである。

二  損保ジャパンがY1及びミヤコ陸運に対して求償し得る額

(1)  Bに係る求償額

ア Bの受傷内容、治療経過及び後遺障害

Bが等級表第一二級一二号に該当すると認定される後遺障害を残したことについては争いがない。これに加えて、関係各証拠(甲五ないし一四一《枝番を含む。》)及び弁論の全趣旨によれば、Bの受傷内容、治療経過及び後遺障害に係る損保ジャパンの主張がいずれも認められる。

イ Bの損害及びその額

(ア) 積極損害

a 治療関係費 九二万九八二八円

関係各証拠(甲一一の一ないし八、甲三七の一ないし四三、甲四一の一ないし一一、甲四七の一ないし八、甲六四の一ないし二三、甲六五、甲六六、甲一一七ないし一二五)及び弁論の全趣旨によって認める。

b 入院雑費 三万〇〇〇〇円

Bの入院期間は二〇日間であり(甲五、甲四二)、一日当たり一五〇〇円の主張は相当範囲である。

c 通院交通費 四万〇三〇〇円

関係各証拠(甲八四ないし一一六)及び弁論の全趣旨によって認める。

d プール代等雑費 一万五四四〇円

関係各証拠(甲七九ないし八三)及び弁論の全趣旨によって認める。

(イ) 消極損害

a 休業損害 七一八万七七三三円

関係各証拠(甲六九ないし七九)及び弁論の全趣旨によって認める。

b 後遺障害逸失利益 四七五万〇六三二円

Bの後遺障害の内容、程度、症状固定時(平成一三年三月一三日。甲六七。)の同人の年齢が三五歳であったことその他諸般の事情を斟酌すると、本件事故により、Bは、症状固定後一〇年間、一四%の労働能力を喪失したと認めるのが相当である。

Bの平成一〇年の給与収入は四三九万四五一〇円であり(甲六九)、本件事故に遭わなければ、賃金センサス平成一一年第一巻第一表の産業計・企業規模計中卒男性労働者全年齢平均年収四八七万三八〇〇円を得た蓋然性を認めるに足りる証拠はない。そこで、四三九万四五一〇円を基礎として、労働能力喪失率を一四%とし、一〇年間に対応するライプニッツ係数を用いて中間利息を控除すると、次の計算式のとおり、一〇七八万二六二〇円(小数点以下切捨て)となる。

(計算式) 4,394,510×0.14×7.7217≒4,750,632

(ウ) 慰謝料

a 傷害慰謝料 一二〇万〇〇〇〇円

Bの負った傷害の内容、治療経過その他諸般の事情を考慮すると、傷害慰謝料としては一二〇万円が相当である。

b 後遺障害慰謝料 二九〇万〇〇〇〇円

Bの後遺障害の内容、程度その他諸般の事情を考慮すると、後遺障害慰謝料は二九〇万円が相当である。

ウ Y1及びミヤコ陸運の負担すべき額

これら合計額は一七〇五万三九三三円であり、そのうちAの過失割合である六割(小数点以下を切り上げると、一〇二三万二三六〇円。)は、損保ジャパンの負担部分である。ところで、共同不法行為者間において求償権を行使するためには、自己の負担部分を超えて賠償することを要するところ(最高裁昭和六三年七月一日第二小法廷判決・民集四二巻六号四五一頁)、損保ジャパンの出捐額(一五七五万三九一九円)のうち、その負担部分を超える額は五五二万一五五九円である。

そして、ミヤコ陸運が契約する自賠責保険によっててん補されたBに関する自賠責保険金合計三四四万円を控除すると、残額は二〇八万一五五九円となる。

(2)  Cに係る求償額

ア Cの受傷内容及び治療経過

関係各証拠(甲一四三ないし一七五)及び弁論の全趣旨によれば、Cの受傷内容及び治療経過に係る損保ジャパンの主張が認められる。

イ Cの損害及びその額

(ア) 積極損害

a 治療関係費 一六万〇〇七三円

関係各証拠(甲一四五ないし一六〇、甲一六二ないし一六五、甲一六七ないし一七〇《枝番を含む。》)及び弁論の全趣旨によって認める。

b 付添看護費 一二万七二〇〇円

Cの本件事故当時の年齢(六歳)に照らし、入通院期間中の母親の付添いの必要性が認められる。一日当たりの入院付添費六五〇〇円、通院付添費三三〇〇円の主張は相当範囲である。

c 入院雑費 二万二五〇〇円

Cの入院日数は一五日間であり(甲一四三)、一日当たり一五〇〇円の主張は相当範囲である。

d 通院交通費 二万三〇〇〇円

関係証拠(甲一七一)及び弁論の全趣旨によって認める。

(イ) 傷害慰謝料 七〇万〇〇〇〇円

Cの負った傷害の内容、治療経過その他諸般の事情を考慮すると、傷害慰謝料としては七〇万円が相当である。

ウ Y1及びミヤコ陸運の負担すべき額

これら合計額は一〇三万二七七三円であるが、そのうちAの過失割合である六割(小数点以下を切り上げると六一万九六六四円。)は、損保ジャパンの負担部分である。損保ジャパンの出捐額(九六万二九七〇円)のうち、その負担部分を超える額は三四万三三〇六円である。

(3)  そうすると、損保ジャパンがY1及びミヤコ陸運に対して求償し得る額は、(1)及び(2)の合計額である二四二万四八六五円となる。

また、主観的な共同関係にない共同不法行為者間において、弁済をした日から直ちに遅滞に陥ると解するのは公平を欠くから、民法四四二条二項を準用するのは相当でなく、民法四一二条三項により、請求を受けた時から遅滞に陥ると解すべきところ、甲事件の訴状が送達された日より前に同債務につき支払の催告をしたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、損保ジャパンの遅延損害金の請求中、平成一四年二月一日からY1及びミヤコ陸運に対して甲事件の訴状が送達された同年八月二日(当裁判所に顕著)までの部分には理由がない。

三  Y1の損害及びその額

(1)  Y1の傷害内容、治療経過及び後遺障害

Y1が、局部に頑固な神経症状を残すものとして、後遺障害等級第一二級一二号に該当すると認定される後遺障害を残したことについては争いがない。

その他、これまでの認定事実に加えて、関係各証拠(甲一七六ないし二二六、乙二ないし二〇《枝番を含む。》、調査嘱託の結果、Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、Y1の傷害内容、治療経過及び後遺障害について、次の事実が認められる。

ア Y1は、本件事故により、左大腿骨骨折、左腕神経叢損傷、右内側々副靭帯損傷、左膝挫傷等の傷害を負い、関東労災病院に平成一一年七月二四日から同年一二月一日までの間入院し、その後、月数回通院した。

Y1は、平成一二年三月一日からミヤコ陸運に復職したが、抑うつ状態が強く、以前のように働ける状態ではなかった。

損保ジャパンは、本件事故におけるY1の過失割合を大きく評価していたので、Y1は、損保ジャパンに対し、A車が進路変更禁止区域であるのに中央分離帯に接する車両通行帯から進路を変更して高速で本件交差点に進入してきたことなどを訴える「異議申立書」と題する書面(乙一〇)や「交通事故示談交渉に関する要望書」(乙一一)を送付したり、同年五月一一日付けで、損保ジャパンの自認する過失割合に応じた休業損害の支払を求める旨を記載した「休業損害補償についての要望書」(乙一二)を送付したりしたが、損保ジャパンの対応は変わらなかった。

Y1は、左脚大腿骨抜針手術のため、関東労災病院に平成一二年七月二六日から同年八月一〇日までの間入院した。

Y1は、平成一二年九月一二日、交通事故を起こした。

イ Y1は、平成一二年一〇月三〇日、自殺を図り、同日から平成一三年一月二四日までの間、横浜市立大学医学部附属市民総合医療センターに入院した。入院時の病名は心因反応であった。同センターは、Y1の性格については、「お人好し、世話好き、人情に厚い、自己中心的、凝り性、責任感強い、仕事熱心、頑固、真面目」であり、現病歴について、「一九九九・七月二四日交通事故を起こした・会社の車を使用していた関係で保険を使えず、支払いの金も足りなかった・同乗者の負傷が大きく、本人の右肩の障害が残り身体的、精神的負担が大きかった・警察との交渉もはかどらなかった・二〇〇〇・二月より復帰したが思うように動けない状態が続き、上司より成績の伸び悩みを度々言われストレスな状況だった・事故の影響で支店長から課長に格下げとなり本人にとってはショックだった・糖尿病も指摘され、食事療法行っていて、体重コントロールに気を使い、網膜症で視力の低下を気にしていた・睡眠はとれるが寝汗は多かった・一〇月に入り、おしゃべりな本人が徐々に無口になりため息をつき、ふさぎ込みがちになった・九月に入り再び接触事故を起こしたのも追い討ちをかけたようで、抑うつ症状、不眠、決断力の低下がありすべての物事を妻に聞かないと実行できなくなった・一〇月三〇日、午前五時三〇分自宅階段の手すりに紐をかけ、首をつっている所を妻に発見され救急隊通報・」などと把握していた。

なお、同センターの診療録には、Y1が会社の金を使い込んだことでも悩んでいる旨の記載があるが、ミヤコ陸運は、Y1が同社の金員を横領したことを明確に否定するし(調査嘱託の結果)、同センターのE医師は、精神状態の悪化による妄想と判断している(乙二〇)。

Y1は、平成一三年二月二四日、自己都合によりミヤコ陸運を退職した。

ウ 関東労災病院のF医師による自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(乙五)によれば、Y1の症状固定日は平成一三年五月三〇日とされている。

Y1の後遺障害等級については、等級表第一二級一二号と第一四級一〇号により、併合一二級と認定された。Y1の後遺障害のうち、右肩痛・右上肢挙上障害については、頸椎に外傷性の異常所見は認められないが、軽度の経年性変化(第四・第五頸椎椎間板の軽度膨隆)が認められ、この画像所見と診療医の臨床所見・症状及び神経学的検査所見の推移等が検討された結果、訴えの症状は、右第五頸椎神経根障害によるものと捉えられ、本件事故を契機として症状が発現したことが否定できないことから、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として、等級表第一二級一二号に該当すると判断された。

エ Y1の平成一二年一〇月三〇日から症状固定時までの症状は、本件事故後の賠償に関する交渉が思うように進まなかったことが主因といえるが、Y1の性格等の心因的要因も影響していると解されるところであり、その損害の全部を上原工業に負担させることは公平の理念に照らして相当ではなく、損害賠償額を定めるに当たっては民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、その損害の拡大に寄与したY1の事情を斟酌することができるというべきである。諸般の事情を考慮すると、平成一二年一〇月三〇日から症状固定時までの損害については、その七割を限度とするのが相当である。

(2)  Y1の損害及びその額

ア 積極損害

(ア) 治療費等 九〇万九八一三円

損保ジャパンが関東労災病院に直接支払った七六万二四五三円の範囲内においては争いがない。これに加えて、関係各証拠(乙七の一ないし三五、Y1本人)によれば、Y1は、症状固定時(平成一三年五月三〇日)までの間に、関東労災病院における治療費等として一四万七三六〇円を支払ったことが認められる。Y1が不相当な診断書料を支出したことを認めるに足りる証拠はない。

(イ) 入院雑費 一九万一一〇〇円

争いがない。

(ウ) 通院交通費等 二万〇二四〇円

関係各証拠(乙八、Y1本人)によれば、Y1は、症状固定時(平成一三年五月三〇日)までの間に、関東労災病院への通院交通費等として、二万〇二四〇円を要したことが認められる。

(エ) 物損(眼鏡代) 八万五〇〇〇円

関係各証拠(乙八、九、乙二二、Y1本人)によって認める。

イ 消極損害

(ア) 休業損害 四八一万四四三六円

Y1の休業一日当たりの損害が一万二六三三円であること及びY1の平成一二年八月一〇日までの休業日数が二三二日間であることについては争いがない。同年一〇月三〇日から平成一三年五月三〇日までの二一三日間の休業については、前認定のとおり、その七割が本件事故に起因するものと解するのが相当である。そうすると、次の計算式により、休業損害は四八一万四四三六円となる。

(計算式) 12,633×(232+213×0.7)≒4,814,436

(イ) 後遺障害逸失利益 五七六万八七七八円

Y1の後遺障害の内容、程度、症状固定時(平成一三年五月三〇日。甲。)の同人の年齢が五一歳であったことその他諸般の事情を斟酌すると、本件事故により、Y1は、症状固定後一〇年間、一四%の労働能力を喪失したと認めるのが相当である(なお、Y1に認められた軽度の経年性変化を踏まえており、さらに別個に素因減額をすべきではない。)。

また、関係各証拠(乙二八の一、二、)によれば、Y1の本件事故前三年間の年収については、平成八年分が五二九万三五〇〇円、平成九年分が五三六万五五〇〇円、平成一〇年分が五三五万円であったことが認められる。他方、Y1が、本件事故に遭わなければ、症状固定後一〇年間、平均して、賃金センサス平成一一年中卒男性労働者年齢別平均年収五五七万六五〇〇円を得た蓋然性を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件事故前三年間の年収の平均値である五三三万六三三三円を基礎として、労働労能力喪失率を一四%とし、一〇年間に対応するライプニッツ係数を用いて中間利息を控除すると、次の計算式のとおり、五七六万八七七八円(小数点以下切捨て)となる。

(計算式) 5,336,333×0.14×7.7217≒5,768,778

ウ 慰謝料

(ア) 傷害慰謝料 二五〇万〇〇〇〇円

Y1の負った傷害の内容、治療経過その他諸般の事情を考慮すると、傷害慰謝料としては二五〇万円が相当である。

(イ) 後遺障害慰謝料 二九〇万〇〇〇〇円

Y1の後遺障害の内容、程度その他諸般の事情を考慮すると、後遺障害慰謝料は二九〇万円が相当である。

エ 過失相殺

上記合計は一七一八万九三六七円から、前認定のY1の過失割合四割を控除すると、残額は一〇三一万三六二〇円(小数点以下切捨て)となる。

オ 損害のてん補

上記額から、損保ジャパンによる既払額合計一五六万二四五三円及び健康保険組合からの傷病手当金八二万〇八〇〇円(なお、てん補される損害の費目は休業損害に限られるべきであるが、前記休業損害の額から四割を控除した額は上記傷病手当金の額を上回る。)の合計二三八万三二五三円を控除すると、残額は七九三万〇三六七円となる。

カ 弁護士費用 一〇〇万〇〇〇〇円

本件の事案の内容、審理の経過、認容額等にかんがみると、Y1が上原工業に賠償を求めることができる弁護士費用としての損害は一〇〇万円が相当である。

第四結論

よって、甲事件における損保ジャパンの請求は、Y1及びミヤコ陸運に対し、各自二四二万四八六五円の求償金及びこれに対する甲事件の訴状送達の日の翌日である平成一四年八月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求には理由がないからこれを棄却し、乙事件におけるY1の請求は、上原工業に対し、損害賠償として、八九三万〇三六七円及びこれに対する本件事故日である平成一一年七月二四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、上原工業に対する関係で、仮執行の免脱宣言は相当でないから付さないこととする。

(裁判官 本田晃)

(別紙1)交通事故現場見取図

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例