東京地方裁判所 平成14年(ワ)17112号 判決 2003年1月17日
原告 X1
原告 X2
原告ら訴訟代理人弁護士 竹内義則
被告 株式会社東京三菱銀行
上記代表者代表取締役 A
被告訴訟代理人弁護士 小野孝男
同 大瀧敦子
同 大畑敦子
主文
1 被告は、原告ら各自に対し、金198万8077円及びこれに対する平成14年8月31日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文同旨
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2当事者の主張
1 請求原因
(1) 訴外Bは、被告が発行する利付金融債(ハイジャンプ)を継続的に購入し、平成14年7月11日までに購入した利付金融債の合計金額は、金785万円である。
(2) 訴外Bは、被告との間で普通預金契約を締結し、平成14年7月11日の時点における普通預金残高は、金10万2308円である。
(3) 訴外Bは、平成13年9月3日に死亡し、その相続人は、その夫である訴外C及びその子である原告ら両名の合計3名であり、原告ら両名の相続分は各4分の1である。
(4) よって、原告らは、被告に対し、上記各相続分に基づき、各自金198万8077円(その内訳は、利付金融債につき各自金196万2500円、普通預金につき各自金2万5577円)及びこれに対する訴状送達の翌日である平成14年8月31日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員の支払を求める。
2 請求原因に対する被告の認否
請求原因(1)から(3)までの事実は認め、同(4)は争う。
3 被告の主張
原告らは、上記利付金融債及び普通預金につき、法定相続分(各4分の1)に応じた具体的な権利を取得する旨主張するが、遺産分割協議成立前の遺産の共有は、民法249条以下に規定する共有とは異なり、各相続人が遺産に属する個別の財産の上に当然に法定相続分に応じた持分を有するものではなく、遺産全体について各相続人の法定相続分に応じた抽象的な権利義務を有しているにとどまると解すべきである。けだし、原告らが主張するように、遺産に属する金銭債権が、当然に分割承継されるとすれば、第三者であるその金銭債権の債務者(被告)は、一部の相続人からの法定相続分に応じた支払請求を拒むことができないことになるが、その支払後に各人の法定相続分とは異なった遺産分割協議がされた場合には、不可避的に相続人間内部の遺産争いに巻き込まれてしまうことになり、その地位は、極めて不安定となり、著しい不利益を受けることになるからである。
また、銀行の預金者が死亡して相続が開始した場合、被相続人が有した銀行に対する預金払戻請求権については、遺産分割前は、相続人全員の同意に基づいて相続人全員に一括して払い戻される取扱いが銀行実務であり、事実たる慣習である。
したがって、預金払戻し請求権等につき、相続の開始により当然に法定相続分に応じた具体的な権利を取得するとの原告らの主張は、理由がない。
なお、仮に、上記の被告の主張が採用されず、被告の原告らに対する支払義務が認められる場合において、被告が原告ら各自に対し、支払うべき金額が原告ら主張の金額(原告ら各自につき金198万8077円)であることは認める。
理由
1 争いのない事実
請求原因(1)から(3)までの事実は、当事者間において争いがない。
2 本件の争点及び当裁判所の判断
(1) 本件の争点は、共同相続人3名のうちの2名である原告らが、その持分に応じて、請求原因(1)、(2)記載の各債権(以下「本件各債権」という。)につき、払戻し等の請求をすることができるかどうかである。
(2) 相続人が数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は、法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を取得するものと解すべきであり、訴外Bに係る相続財産の一部である本件各債権についても、可分債権であるから、これと同様に解するのが相当である。
これに反する被告の主張は、採用することができない。また、被告主張の事実たる慣習が存することを認めるに足りる証拠はない。
本件のように、相続人の一部の者が、遺産分割の協議はもとより、相続財産に関する一切の話合いに応じず、預金等(可分債権)の払出しに対する協力を一切拒否しているような場合(本件が、このような場合に該当することについては、第3回口頭弁論期日における原告X1の陳述及び訴外Cからの当職及び担当書記官宛の平成14年11月11日付け書簡等の弁論の全趣旨により認められる。)には、被告主張の取扱い(遺産分割前においては、相続人全員の同意に基づいて相続人全員に一括して払い戻す取扱い)によることはできないのであって、このような場合に該当する本件においては、相続人である原告らは、上記のような見解に基づき、預金等について、その相続分に応じた払戻請求をすることができるものと解すべきである。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
(3) そして、被告の上記主張が採用されず、被告の原告らに対する支払義務が認められる場合において、被告が原告ら各自に対し、支払うべき金額が原告ら主張の金額(原告ら各自につき金198万8077円)であることは、当事者間に争いがない。
3 結論
よって、原告らの請求は、いずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋利文)