東京地方裁判所 平成14年(ワ)17279号 判決 2003年2月05日
原告
国
被告
Y
主文
一 被告は、原告に対し、金四六一万円及びこれに対する平成一〇年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
(1) 本件事故の発生
ア 日時 平成八年五月九日午前三時一〇分ころ
イ 場所 静岡市有東三丁目二番四号先路上
ウ 加害車両 被告が所有し、Aが運転する小型四輪乗用自動車(横浜○○ね○○○)
エ 事故態様 被告は、Aに対し、加害車両を貸与し、自身もAと共に、Bを自宅へ送る目的で同乗していた。Aは、運転操作を誤り、加害車両を進路右路外の樹木に衝突させ、Bに、左大腿・左下腿骨骨折、腸管破裂出血性ショック、DIC、肺挫傷、左肋骨骨折、頭部外傷の傷害を負わせた。
(2) 責任原因
自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者を意味するところ、被告は、本件事故時、加害車両の所有者であり、加害車両をAに運転させてこれに同乗していたのであるから、加害車両について運行支配及び運行利益を有していたことは明らかであり、同条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。
(3) 損害
ア 後遺障害による逸失利益
Bは、後遺障害一〇級一一号と認定されたので、症状固定時二五歳、年齢別平均給与月額三〇万三一〇〇円、労働能力喪失率二七%、就労可能年数四二年として、逸失利益を算出した。
30万3100円×12月×0.27×22.293(新ホフマン係数)=2189万2706円
イ 後遺障害慰謝料 一八四万円
ウ 小計 二三七三万二七〇六円
エ 損害てん補額(法定限度額)
後遺障害による損害のてん補については、自賠法により法定限度額が定められており、後遺障害一〇級に該当する障害が存する場合、限度額は四六一万円である。
(4) 損害のてん補及び代位
被告は、加害車両につき、自賠法に基づく責任保険の被保険者及び責任共済の被共済者以外の者であった。
したがって、原告は、自賠法七二条一項に基づき、Bからの請求により、平成一〇年一一月一一日、Bに対し、政府の保障事業に係る業務受託会社である東京海上火災保険株式会社を通じて、損害のてん補として四六一万円を支払った。
その結果、原告は、自賠法七六条一項に基づき、上記てん補額を限度として、Bが被告に対して有する損害賠償請求権を取得した。
(5) よって、原告は、被告に対し、上記損害賠償請求権に基づき、四六一万円及びこれに対するてん補日の翌日以降である平成一〇年一二月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
(1) 請求原因(1)のうち、被告が、加害車両を所有していたことは認めるが、Aに対し加害車両を貸与したことは否認する。
Aが、加害車両の鍵を奪い、必死の抵抗にもかかわらず強引に加害車両に乗り込み発進しそうだったため、被告は、運転を止めさせるために加害車両に乗り込み、運転を阻止しようと試みたが、事故に至ってしまった。
(2) 同(2)は否認する。
(3) 同(3)のうち、Bに四六一万円の損害が生じたことは認める。
(4) 同(4)のうち、事故当時、自動車損害賠償責任保険が失効していたことは認める。
Bは、このことを知っていたにもかかわらず、原告から四六一万円を得、原告は、被告に何ら連絡することなくこれを支払ったものであり、被告に支払義務はない。
第三当裁判所の判断
一 証拠(甲一、二の一ないし四、三、四・五の各一・二、六、一〇、一五、一六)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因事実はすべて認められる。
二 被告は、加害車両を貸与したのではなく運行供用者ではない旨主張するので検討するに、証拠(甲三、一八、被告本人の一部)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件事故当時、パチンコ店に勤務し、加害車両を通勤のために使用していたこと、本件事故の前日、勤め帰りに加害車両を運転して飲食店に寄り、同僚のA(平成一三年に死亡)、Bらと飲酒したこと、被告は、泥酔状態のBを自宅に送っていこうとしたところ、Aが、自分が運転すると言うので、加害車両の鍵を渡し、Bが助手席に、Aが運転席に乗り込んだこと、被告は、飲食店にBの鞄を取りに戻った後、加害車両の後部座席に乗り込んだこと、その後本件事故が発生したことが認められる。
被告は、その本人尋問において、Aが、被告の手から加害車両の鍵を強引に奪い取り、Bを助手席に乗せて加害車両を発進させたので、走り出していた加害車両の助手席の方から回り込んでドアを開け、Bの座席を前に倒して後部座席に飛び乗った、運転席の後ろから窓側の方に手を入れて鍵を回し運転を阻止しようとしたなどと供述し、乙一にも同旨の記載がある。しかしながら、被告自身も酒に酔っていて明白な記憶はないとも供述していること、被告が、Bの鞄を取りに戻る時間的余裕があったことからすれば、Aが鍵を奪い取った直後に加害車両を発進させたものとは考えられないこと、走り出した車両に飛び乗って運転を阻止しようとしたというのは不自然であることなどから、被告の同供述等は採用することができない。
被告がAに加害車両の鍵を渡した経緯や、加害車両に同乗していたことからすれば、Aによる無断運転とはいえず、被告は、加害車両について運行支配及び運行利益を有していたものとみるべきであって、自賠法三条の責任を免れないといわざるを得ない。
三 なお、被告は、原告が被告に連絡なくBに支払をしたことを理由としても支払義務を否認するが、証拠(甲一九の一・二)及び弁論の全趣旨によれば、原告が事故当時の被告の住所宛に出した平成一〇年五月二一日付け照会書は、あて所に尋ね当たらないとして返送されたことが認められ、いずれにしても支払義務を否定する理由とはならない。
四 以上によれば、原告の請求は、理由があるからこれを認容する。
(裁判官 鈴木順子)