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東京地方裁判所 平成14年(ワ)23889号 判決 2004年1月22日

原告

被告

東京都

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一八〇万七五三六円を支払え。

第二事案の概要

本件は、後記一(2)の交通事故(以下「本件事故」という。)は、原告が走行してきた道路及び交差道路に設置された信号機に対する被告の管理に瑕疵があることによるものであるとして、原告が被告に対し、国家賠償法二条一項に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  前提となる事実(いずれも各項末尾の括弧内に番号を掲記した証拠により明らかに認められる。)

(1)  本件事故現場付近の状況

本件事故現場は、別紙図面のとおり、国分寺三小東方面と恋ヶ窪六丁目方面とを結ぶ道路(都道一三四号。以下「本件道路」という。)と、小平桜橋南方面と国分寺駅方面とを結ぶ道路(市道。以下「南北道路」という。)とが、斜めに交わる交差点(通称「国分寺三小前交差点」。以下「本件交差点」という。)である。本件交差点には、別紙図面のとおり、国分寺三小東方面から恋ヶ窪六丁目方面に向かって本件道路を走行する車両の通行を規制する信号機A及び小平桜橋南方面から国分寺駅方面に向かって南北道路を走行する車両の通行を規制する信号機Bが設置されている。

本件交差点の南東側には、南北道路に並行して西武多摩湖線の鉄道が敷設されており(以下本件道路と交差する部分を「本件踏切」という。)、本件踏切の南東側には、停止線(以下「本件停止線」という。)が標示されるとともに、遮断機(以下「本件遮断機」という。)が設置されている。(乙一、五)

(2)  本件事故の発生

ア 日時 平成一四年六月一二日午前六時一〇分ころ

イ 場所 東京都国分寺市<以下省略>先の信号機により交通整理の行われている本件交差点

ウ 関係車両 原告の運転する自家用普通乗用自動車(<番号省略>。以下「原告車」という。)

Aの運転する自家用普通乗用自動車(<番号省略>。以下「A車」という。)

エ 態様 国分寺三小東方面から恋ヶ窪六丁目方面に向かって本件道路を走行してきた原告車が、信号機Aの赤色表示を看過して本件踏切を通過し、そのまま本件交差点に進入したところ、小平桜橋南方面から国分寺駅方面に向かって走行してきたA車と出合い頭に衝突し、双方の車両が損傷するとともに、A及び同乗していたBが負傷した。(甲三、四の一ないし四、五の一ないし八、八、弁論の全趣旨)

(3)  自動車保険契約の締結及び保険金の支払

原告は、本件事故当時、日新火災海上保険株式会社との間で、原告車について、自動車保険契約(PAP。以下「本件契約」という。)を締結していた。同社は、平成一四年一〇月四日、Aに対し、本件契約に基づき、Bの対人賠償保険金として一五万五一〇〇円及びAの対人賠償保険金として二万五二〇〇円(合計一八万〇三〇〇円)を支払った。(甲三)

二  争点

(1)  信号機A及び信号機Bに対する被告の管理の瑕疵の有無

(原告の主張)

国分寺三小東方面から恋ヶ窪六丁目方面に向かって本件道路を進行しようとして、本件踏切の手前で西武多摩湖線の電車が通過するのを待っている車両の運転者としては、目前の本件遮断機が開くと、本件踏切を通過し、そのまま本件交差点に進入してしまうのが人間の本能的な行動であるところ、現実には、本件遮断機が全開になっても、信号機Aは、約六秒間は赤色を表示している。本件事故は、このような本件遮断機の開閉と信号機A及び信号機Bとの不自然、不合理な関係を放置している被告の管理の瑕疵によって発生したものというべきである。

(被告の主張)

本件交差点を通過しようとする車両は、信号機A及び信号機Bに従って進行すれば、出合い頭に衝突するようなことはないから、本件事故は、原告が信号機Aの赤色表示に従わずに本件停止線を越えて本件交差点に原告車を進入させたことによって発生したものであり、信号機Aは勿論信号機Bの設置又は管理に瑕疵があったために発生したものではない。このことは、平成一三年六月一二日から本件事故日の前日である平成一四年六月一一日までの一年間に、本件事故と同様の交通事故が発生していないことからも明らかである。

(2)  損害

(原告の主張)

原告は、本件事故によって、次のとおり、合計一八〇万七五三六円の損害を被った。

ア 原告車の修理費 七五万二八八〇円

イ A車の修理費 八七万四三五六円

ウ 本件契約に基づく対人賠償保険金相当額

一八万〇三〇〇円

原告は、本件事故によって、本件契約に基づく対人賠償保険金の支払を余儀なくされたものであるところ、本件事故前と比べて保険料が割増になるから、支払われた対人賠償保険金相当額が損害というべきである。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(信号機A及び信号機Bに対する被告の管理の瑕疵の有無)について

(1)  証拠(乙一、三、四、六)によれば、信号機A及び信号機Bの表示サイクルと本件遮断機の開閉システムとの関係は、次のとおりであると認められる。

ア 信号機A(乙三においては灯器Bと表示)は、赤色点滅、黄色及び赤色をそれぞれ五四秒間、三秒間及び三一秒間(合計八八秒間)表示し、これに対応して、信号機B(乙三においては灯器Cと表示)は、赤色、青色、黄色及び赤色をそれぞれ六〇秒間、二二秒間、四秒間及び二秒間(合計八八秒間)表示することになっている。

イ 信号機Aが何色を表示していようと、信号制御機が本件遮断機を閉じる旨の信号を受信したときは、一定時間の経過の後、赤色表示の状態で本件遮断機を開く旨の信号を受信するまで待機することになる。そして、西武多摩湖線の電車が通過すると、本件遮断機が約四秒間で全開し、その時点で、本件遮断機を開く旨の信号が各信号機に伝達され、これを受信すると、信号機Bが黄色を四秒間、赤色を二秒間表示した後、信号機Aが赤色点滅の表示に変わる。

(2)  前記(1)において認定した事実によれば、確かに、国分寺三小東方面から恋ヶ窪六丁目方面に向かって本件道路を進行し、本件遮断機の手前で西武多摩湖線の電車が通過するのを待っている車両の運転者からすれば、本件遮断機が上がり始めてから上がり終わるのに約四秒間を要する上、更に信号機Aが赤色点滅に変わるのに六秒間の待機を強いられることになる。通常の踏切であれば、遮断機が上がり終わり、安全が確認されたら、車両は、踏切を通過することができるから(道路交通法三三条一項参照)、その限りで、本件遮断機が上がり終わると同時に本件踏切を通過し、本件交差点に進入したくなる運転者の心理状態は、必ずしも理解することができないわけではない。

しかしながら、証拠(甲六の二ないし五、乙二、五の写真<1>及び<2>、九)によれば、前記運転者としては、前方を注視すれば、本件踏切の向こう側に接して本件交差点が存在し、信号機Aが自己の車両の交通を規制していることを認識することは容易であるから、本件においても、本件事故当時、原告が信号機Aを認識していれば、その表示(赤色)に従って本件停止線の手前でなお停止し続けることによって、原告車を本件交差点に進入させずに済み、したがって、本件事故は発生しなかったものということができる。

(3)ア  この点について、原告は、甲六号証の一の写真を提出した上で、本件遮断機のすぐ手前で(本件停止線の先頭で)停止している車両の運転者にとっては、通過する電車に遮られて信号機Aを認識することができないと主張するかのようであるが、電車が通過してしまえば、本件遮断機が上がり終わる前に信号機Aを認識することは十分可能であるから(甲六の二・三)、主張自体失当である。

イ  また、原告は、本件遮断機が上がり終わると同時に、信号機Aが赤色点滅を表示するように(勿論、このとき、信号機Bは赤色を表示している。)調整することは可能であり、そうすべきであると主張する。

しかしながら、その場合、現在における本件遮断機が上がり終わるまでに要する時間並びに信号機A及び信号機Bの表示サイクルを前提にすると、本件遮断機が上がり始める前(約二秒前)に、信号機Bが黄色を表示する結果、南北道路の通行を遮断することになるが、信号機Aの認識容易性に照らして、そのような交通整理をする必要性があるのか疑問があること、また、本件遮断機が上がり終わってから、その旨の信号を伝達する現在のシステムの方が、本件遮断機が開く途中で故障したときに発生する不都合(東西道路及び南北道路の双方の交通を遮断してしまう不都合)を回避することができる点で優れていることなどを考慮すると、原告の主張を採用することはできない。

ウ  さらに、原告は、南北道路の交通について信号機Bを終日赤色点滅の表示にしておけばよいとも主張するが、本件遮断機が閉じているにもかかわらず、そのように南北道路を通行する車両に一時停止を義務付ける必要も理由もないから(乙八参照)、原告の主張は採用することができない。

(4)  したがって、信号機A及び信号機Bに対する被告の管理に瑕疵があったとすることはできない。

二  結論

以上の次第であるから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文 森剛 石田憲一)

(別紙)

<省略>

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