東京地方裁判所 平成14年(ワ)26928号 判決 2003年3月27日
原告
X
上記訴訟代理人弁護士
酒井正利
渡邉寛之
被告
東京日野自動車株式会社
上記代表者代表取締役
A
上記訴訟代理人弁護士
南木武輝
主文
1 被告は、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫記載の不動産についてなされた別紙登記目録≪省略≫4記載の登記の抹消登記手続をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1 争いのない事実
(1) 別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)は、もと株式会社忍商会が所有していたところ、平成一四年四月一五日売買をもって原告がその所有権全部を取得した旨の所有権移転登記手続が経由されている。
(2) 本件不動産には、別紙担保権目録≪省略≫記載の担保が設定されている。また、順位一、二番の担保権については、平成一四年四月二六日原告に譲渡され移転登記手続が経由されている。
(3) 原告は、平成一四年九月六日、本件不動産の担保権者に対し、一億二六〇〇万円で滌除する旨の通知を内容証明郵便で発し、同月九日、被告に到達したが、被告は、法定期間内に増価競売の申立てを行わなかった。
(4) 担保権者の一人である中小企業金融公庫が、競売の申立てをしたが、平成一四年一二月三日、取り下げた(≪証拠省略≫)。
(5) 原告は、平成一四年一二月五日、滌除金額一五〇〇万円を東京法務局に供託した(≪証拠省略≫)。
2 争点
(1) 原告は第三取得者たる地位を有するか。
(2) 増価競売の申立ての取り下げに、登記をなしたる他の債権者の承諾が必要か。
3 原告の主張
(1) 原告は、本件不動産を取得したことにより、本件不動産の第三取得者の地位にある。
(2) 被告は、滌除通知に対し、増価競売の申立てを行っていない。なお、増価競売の申立ての取り下げに、登記をなしたる他の債権者の承諾は不要である。
4 被告の主張
(1) 原告が本件不動産の適法な取得者であることの主張・立証は不十分である。
(2) 増価競売の申立ての取り下げに、登記をなしたる他の債権者の承諾が必要とされるところ、その承諾を得ていない。
第3争点に対する判断
1 争点1(原告は第三取得者たる地位を有するか。)について
原告が本件不動産の移転登記手続を経由していることは、当事者間に争いがない。ところで、登記簿上の所有名義人は、反証のない限り、当該不動産を所有するものと推定される(最高裁昭和三四年一月八日判決・民集一三巻一号一頁)ところ、被告は、原告への所有権移転に疑問を呈するだけで、特段の反証をしていないので、前記推定は覆されていないというべきである。したがって、原告は、第三取得者たる地位を有するというべきである。
2 争点2(増価競売の申立ての取り下げに、登記をなしたる他の債権者の承諾が必要か。)について
民法三八六条は、増価競売の請求を撤回するためには、登記をした他の担保権者の同意を得なければならないと規定している。しかしながら、増価競売の請求の失効は、増価競売の請求をしたことの証明をしなかった場合(民事執行法一八七条後段・一八五条二項)や保証の提供をしなかった場合(同法一八七条後段・一八六条二項)、さらには、費用の予納をせず手続が取り消された場合(同法一八七条後段・一四条二項)等にも生じるが、これらの場合にまで請求の失効の効果が生じるために登記をした他の担保権者の同意を要すると解することができない。そして、これらの事態は、申立債権者の意図的な懈怠によっても生じ得るものであり、他の債権者はこれを阻止し得ないのであるから、申立ての取り下げに限って同意を要するとする根拠は乏しい。また、民事執行法一八七条後段は、民法三八六条の存在にもかかわらず、増価競売の申立てが取り下げられたときには増価競売の請求が「効力を失う」と定め、申立ての取り下げにつき他の担保権者の同意を要すると規定していないから、民事執行法の解釈としては、増価競売の申立ての取り下げにこれらの者の同意は要求していないと解すべきである。したがって、この点に関する被告の主張は、採用できない。
第4結論
以上によれば、原告の請求は、理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤原俊二)