東京地方裁判所 平成14年(ワ)27427号 判決 2004年7月14日
原告
A
外6名
同
H
同法定代理人親権者母
H′
原告
I
外7名
原告16名訴訟代理人弁護士
村上重俊
同
外山太士
同
岩垂章
同訴訟復代理人弁護士
定近直之
被告
株式会社コアマガジン
(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役
Y1
被告
Y4
外2名
被告4名訴訟代理人弁護士
阿部裕三
主文
1 被告らは、連帯して、以下の各原告に対し、次の金員及び各金員に対する平成14年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(1) 原告Aに対し、36万円、
(2) 原告Hに対し、165万円、
(3) 原告Iに対し、69万円、
(4) 原告Jに対し、48万円、
(5) 原告Kに対し、36万円、
(6) 原告Lに対し、24万円、
(7) 原告Mに対し、24万円、
(8) 原告Nに対し、30万円、
(9) 原告Oに対し、48万円、
(10) 原告Pに対し、36万円
2 原告B、同C、同D、同E、同F及び同Gの請求並びにその余の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告B、同C、同D、同E、同F及び同Gと被告らとの間においては、被告らに生じた費用の5分の1を原告B、同C、同D、同E、同F及び同Gの負担とし、その余は各自の負担とし、その余の原告らと被告らとの間においては、その余の原告らに生じた費用の3分の1を被告らの負担とし、その余は各自の負担とする。
4 この判決の第1項及び第3項は、仮に執行することができる。
事実
第1 請求
被告らは、連帯して、各原告に対し、別紙原告請求損害額一覧の各原告の「請求金額」欄記載の金員及び各金員に対する平成14年6月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、芸能人である原告らが、後記本件雑誌(ブブカスペシャル7)の出版社、発行人、編集人又は代表取締役である被告らに対し、原告らの写真等の掲載された本件雑誌を出版、販売した被告らの行為はプライバシー権(肖像、個人情報)及びパブリシティ権を侵害すると主張して、不法行為に基づく損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 請求原因
(1) 原告ら
ア 原告A、同C、同D、同E、同F及び同Gは、後記本件雑誌が出版、販売された当時、いずれも写真集等に登場し、テレビ番組等に出演している芸能人であった。
イ 原告Bは、同当時、平成4年にミス日本グランプリとして表彰されて以来、数多くのテレビ番組、テレビコマーシャル等に出演している芸能人であった。
ウ 原告H、同I、同J、同K、同L、同M及び同Nは、同当時、いずれも人気歌唱グループ「モーニング娘。」に所属する芸能人であった。
エ 原告O及び同Pは、同当時、テレビ番組、映画等に出演している芸能人であった。
(2) 被告ら
ア 被告会社は、雑誌等の発行、出版、販売を業とする株式会社であった。
イ 被告Y2は、後記本件雑誌が出版、販売された当時、被告会社の代表取締役であった。
ウ 被告Y3は、同当時、本件雑誌の発行人であった。
エ 被告Y4は、同当時、本件雑誌の編集人であった。
(3) 本件雑誌の出版、販売
ア 被告会社は、別紙記事目録「記事の内容」欄記載の内容の記述及び写真(ビデオやテレビの静止画像である場合を含む。)から成る記事(以下「本件記事」といい、各記事は、「符号1の写真」、「符号80の記述」のように表示する。)が掲載された雑誌「ブブカスペシャル7」(以下「本件雑誌」という。)を出版し、平成14年6月15日以前に、その販売を開始した。
イ 本件記事のうち原告らの容貌等を撮影した写真が撮影された状況については、別紙記事目録「撮影状況等」欄記載のとおりである。
(4) プライバシー権侵害
ア プライバシー権
(ア) 何人もみだりに自己の容貌や姿態を撮影されず、撮影された肖像写真を公表されないという人格的利益は、法的に保護される(プライバシー権(肖像))。
(イ) 何人もみだりに私的事柄についての情報を取得されず、取得された私的事柄を公表されないという人格的利益は、法的に保護される(プライバシー権(個人情報))。
イ プライバシー権を侵害する写真及び記述
(ア) 芸能人となる前の姿を撮影した写真
a 符号2〜5の写真は、芸能人になる前の原告Aの姿を撮影した写真である。
b 符号65〜68の写真は、芸能人となる前の原告Hの姿を撮影した写真である。
c 同原告らが芸能人となる前の姿は、一般人の感受性を基準としてその公開を欲しない事柄であり、また、一般の人々に広く知られているとはいえず、同原告らは公表により精神的苦痛を被ったから、これらの写真を公表した被告らの行為は、同原告らのプライバシー権(肖像)を侵害する。
(イ) 路上を通行中等の姿を撮影した写真
a 符号13〜60及び69の写真(原告H、同I、同J、同K、同L、同M及び同N)は、私服姿で路上を通行中等の同原告らの姿を撮影した写真である。
b 私服姿で路上を通行中等の同原告らの姿は、一般人の感受性を基準としてその公開を欲しない事柄であり、また、一般の人々に広く知られているとはいえず、同原告らはこれにより精神的苦痛を被ったから、これらの写真を公表した被告らの行為は、同原告らのプライバシー権(肖像)を侵害する。
(ウ) 通学中の姿を撮影した写真
a 符号64(原告J)、70〜74(同O)及び83〜85(同P)の写真は、制服姿で通学中の同原告らの姿を撮影した写真である。
b 制服姿で通学中の同原告らの姿は、一般人の感受性を基準としてその公開を欲しない事柄であり、また、一般の人々に広く知られているとはいえず、同原告らはこれにより精神的苦痛を被ったから、これらの写真を公表した被告らの行為は、同原告らのプライバシー権(肖像)を侵害する。
(エ) 実家の所在地等に関する写真及び記述
a 符号80の写真及び記述から、同写真に撮影された駅を利用する者は、どの駅が撮影されたものかすぐに理解することができ、その駅が原告Hの実家の所在地に最も近い駅であることを知ることができる。
b 原告Hの実家の所在地は、一般の人々に広く知られているとはいえず、この事実が公表されると、同原告のファンやいわゆる「追っかけ」がその実家の所在地を突き止めて押しかける事態が生じ、同原告の平穏な私生活が脅かされることになることは明らかであるから、符号80の写真及び記述を公表した被告らの行為は、同原告のプライバシー権(個人情報)を侵害する。
c 符号81及び82の写真及び記述は、原告Pの元実家の最寄り駅を示し、同原告の元実家の外観を明らかにしている。
d 同Pの元実家の所在地及び元実家の外観は、一般の人々に広く知られているとはいえず、これが明らかになることによって、同原告の生活水準等が明らかになるから、一般人の感受性を基準としてその公開を欲しない事柄であるから、同写真及び記述を公表した被告らの行為は、同原告のプライバシー権(個人情報)を侵害する。
(5) パブリシティ権侵害
ア パブリシティ権
(ア) 固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した芸能人等の氏名、肖像等を商品に付した場合、当該商品の販売を促進する効果(以下「顧客吸引力」という。)を生ずる。この顧客吸引力には、経済的な価値があるから、これを獲得した芸能人等は、この経済的利益をパブリシティ権として排他的に支配することができる。
(イ) パブリシティ権侵害は、パブリシティ権侵害を主張する者が著名人であって、第三者が無断で当該著名人のパブリシティ価値を無断で商業的に使用した場合に成立する。
イ 著名性
前記(1)アの事実によれば、原告らは、パブリシティ権の主体となり得る著名性を有していた。
ウ 商業的使用
(ア) 当該著名人の氏名、肖像等の使用が商業的使用に当たるというためには、収支相償うことが予定されていること、すなわち、直接ないし間接に利益を出すつもりで行っていたことがあれば足りる。
(イ) 被告らは、本件雑誌を販売するために、符号1〜5の写真(原告A)、符号6及び75〜77の写真(同B)、符号7、36〜39、48〜53、65〜69、78及び79の写真(同H)、符号8の写真(同E)、符号9の写真(同C)、符号10の写真(同D)、符号11の写真(同F)、符号12の写真(同G)、符号61〜63の写真(同I)、符号64の写真(同J)、符号70〜74の写真(同O)及び符号83〜85の写真(同P)を本件雑誌に掲載したのであるから、これらの写真を収支相償うことを予定して商業的に使用したものである。
(ウ) 仮に、パブリシティ権侵害の要件として、当該著名人の氏名、肖像等を使用する目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、その使用が当該著名人の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものでなければならないと解した場合であっても、次のとおり、同要件を充たしている。
a 本件雑誌の表表紙には、右側に「アイドル激似ビデオ 春の新春スペシャル」の見出しが、左側に「モーニング娘。&浜崎あゆみ」の見出しがそれぞれ大きな活字で記載されているほか、原告H、同J、同D、同I、同E、同C、同G、同F、同O、同B及び同Pの氏名又は芸名が記載されている。
b 本件雑誌の表表紙には、原告A、同B及び同Oの顔写真並びに同Pの全身を撮影した写真が掲載され、原告A、同B、同O及び同Pの写真を含む芸能人の写真の占める割合は、3分の2を超えている。
c 本件雑誌は、総頁数112頁(表・裏の表紙を含まない。)で構成され、すべての頁に光沢紙を使用したカラーグラビアである。29頁、58頁、70〜72頁、82頁、92頁及び102頁(広告部分)並びに112頁(読者に抽選でプレゼントが当たるという内容の告知をした部分)の計9頁を除く103頁すべてに芸能人の写真が掲載されている。掲載されている写真すべてについて、どの芸能人を撮影したものであるか、又はどの芸能人に似た者を撮影したものであるかが明らかにされている。
d 芸能人の写真が掲載されている103頁のうち、活字が紙面の半分以上を占める頁は、33頁(芸能人の小学校時代の文集)、42頁〜57頁(芸能人の実家等の情報)並びに61頁、63頁、65頁、67頁及び69頁(キャラクターグッズの品評)の22頁にすぎず、残りの81頁は、芸能人の写真によって構成されている。
(6) 責任原因
ア 被告Y3及び同Y4の責任原因
被告Y3は発行人として、同Y4は編集人として、本件雑誌の出版、販売に関与したものであるから、同被告らには、原告らのプライバシー権及びパブリシティ権を侵害しないようにすべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠った過失がある。
イ 被告Y2の責任原因
(ア) 被告Y2は、芸能人の肖像写真の無断使用等の問題が生じた際、自ら被告会社の代表者として、次のとおり対処してきた。
a 平成12年11月20日、自ら立ち会い、社団法人日本音楽事業者協会(以下「日本音楽事業者協会」という。)との間で、同協会所属アーティストの氏名・肖像に関する人格権及びパブリシティ権を最大限尊重する旨の合意書を交わした。
b その後、上記合意書の更新を拒絶する旨の書面を作成して、日本音楽事業者協会あてに同書面を送付した。
c 平成13年5月2日、被告会社の出版に係る雑誌において音楽芸能家の肖像写真を無断使用したことに対し、編集長と連名の謝罪文を作成し、日本音楽事業者協会代理人あてに送付した。
d 平成16年2月26日、被告会社を債権者、日本音楽事業者協会を債務者とする仮処分事件(東京地裁平成16年(ヨ)第599号)の審尋期日に代理人と共に出頭し、被告会社が本件訴訟の第一審判決の言渡しまでの間、被告会社出版に係る雑誌において、日本音楽事業者協会所属のアーティストを取り扱わないこと等を内容とする和解を提案した。
(イ) 以上のとおり、被告Y2は、本件雑誌を出版、販売する以前から、被告会社の雑誌の編集方針を決定する権限を行使していたから、原告らのプライバシー権及びパブリシティ権を侵害しないように編集方針を決定すべき義務を有していた。
仮に具体的な編集に関与していなかったとしても、被告Y2は、上記のように芸能人との間でプライバシー侵害及びパブリシティ権侵害の有無について紛争が生じていたのであるから、本件雑誌の出版に当たり、原告らの権利侵害が生じないような編集方針を採用するよう編集人らに働きかける義務を有していた。
(ウ) ところが、被告Y2には、この注意義務を怠った過失がある。
(7) 損害
ア プライバシー権侵害による損害
(ア) 原告A、同H、同I、同J、同K、同L、同M、同N、同O及び同Pがプライバシー権侵害により受けた精神的苦痛を慰藉するための損害額を算定するに当たっては、侵害態様のほか、次の事情を考慮すべきである。
a 本件雑誌を販売したことによる粗利益は、次の計算式のとおり、8257万5000円である。
売上高 680円(本件雑誌の単価)×15万部(販売部数)=1億0200万円
粗利益 1億0200万円(売上高)−1942万5000円(印刷製本に要する費用)=8257万5000円
b(a) 符号13ないし60(原告H、同I、同J、同K、同L、同M及び同N)、符号64(原告J)、70〜74(同O)及び83〜85(同P)の写真は、「追っかけ」又は「カメラ小僧」の撮影した写真であり、被告会社は、追っかけ等から上記写真を買い受けた。
現に、被告会社は、本件雑誌の表表紙の内側の左下の角部分に、「★求む! アイドル投稿file_6.jpgBUBKA SPECIALでは、アイドル投稿ページを常設中。イベント、通学、プライベート何でもOK、投稿お待ちしてます。」等と写真の投稿の勧誘文及び連絡先を記載し、追っかけ等の撮影した芸能人等の写真を募集している。
(b) それらの写真を本件雑誌に掲載して出版、販売することにより、追っかけ等の活動を助長する結果を生じさせている。
また、追っかけ等の行為は、同原告らを単に追跡するだけにとどまらず、同原告らをつけ回し、嫌がらせをするストーカー行為にまで発展する危険性をはらんでいる。
c 符号80の写真及び記述は、原告Hの実家の所在地をある一定の範囲に特定することを可能にする内容であって、追っかけ等の行為を容易にし、同原告に対する被害発生の可能性をより現実的なものとする。
(イ) よって、原告A、同H、同I、同J、同K、同L、同M、同N、同O及び同Pが被告らのプライバシー権侵害行為によって被った損害の額は、それぞれ別紙原告請求損害額一覧の「プライバシー権」欄記載の額を下らない。
イ パブリシティ権侵害による損害
(ア) パブリシティ権侵害による損害額の立証については、権利を侵害した者の得た利益の額を損害の額と推定する著作権法114条1項等の規定を類推適用すべきである。
そして、同条項にいう「利益」とは、当該製品の売上高から製造原価を差し引いた粗利益と解すべきである。
(イ) 被告会社が本件雑誌を販売したことにより得た粗利益の額は、上記ア(ア)aのとおり、8257万5000円である。
(ウ) よって、原告A、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同J、同O及び同Pが被告らのパブリシティ権侵害行為によって被った損害の額は、それぞれ別紙原告請求損害額一覧の「パブリシティ権」欄記載の額を下らない。
ウ 弁護士費用
(ア) 原告らは、原告ら訴訟代理人らに対し、本件訴訟の提起及び追行を委任し、着手金及び成功報酬として、それぞれ別紙原告請求損害額一覧の「弁護士費用」欄記載の金額を支払うことを約束した。
(イ) 本件訴訟の規模、専門性からすると、その全額を被告らの不法行為と相当因果関係ある損害と認めるべきである。
2 請求原因に対する被告らの認否
(1) 原告ら
請求原因(1)は認める。
(2) 被告ら
同(2)は認める。
(3) 本件雑誌の出版、販売
同(3)は認める。
(4) プライバシー権侵害
ア プライバシー権
(ア) 同(4)アは認める。
(イ) 一般的な公共の場所(街頭・公園・通勤電車・駅・空港等)に市民が身を置いている場合、その容貌・姿態を撮影する行為は、それが一般人が通常とっている行動であって、その行動自体が撮影されることに心理的負担を覚えない形態でされるときは、肖像権侵害に当たらない(竹田稔「増補改訂版プライバシー侵害と民事責任」267頁)。
イ プライバシー権を侵害する写真及び記述
(ア) 芸能人となる前の姿を撮影した写真
a 同(4)イ(ア)a及びbは認め、cは否認ないし争う。
b 次の事情によれば、プライバシー権(肖像)侵害はない。
(a) 符号2〜5の写真及び符号65〜68の写真は、それぞれ原告A、同Hの写真であるとの識別が可能であって、私事性は低い。
(b) 芸能人である同原告らは、容貌が広く知られることによってその評価が高められることから、その氏名、肖像が広く社会に公表されることを希望、意欲しているものと認められ、上記写真は、一般人の感受性を基準として公開を欲しない写真であるとは認められない。
(c) 芸能人の芸能活動にとって容貌は重要なものであるから、芸能人となる前の容貌は、現在の容貌と関係があり、一般人の感受性を基準として公開を欲しない事柄であるとはいえない。
(d) 符号2〜5の写真は、原告Aが通っていた小学校の卒業アルバムから転載された写真であるところ、この卒業アルバムは、同原告の同期生及び教師等に相当部数頒布され、一般の人々にいまだ知られていないものではない。被告会社の取得の方法も、頒布を受けた同級生の一人から提供を受けたという正当なものである。
(イ) 路上等を通行中等の姿を撮影した写真
a 同(4)イ(イ)aは認め、bは否認ないし争う。
b 次の事情によれば、プライバシー権(肖像)侵害はない。
(a) 上記の写真は、原告Hらの容貌を路上等の公共の場所において撮影したものであって、私的領域へ侵入したものではないから、その私事性は低い。
(b) 芸能人である同原告らは、容貌が広く知られることによってその評価が高められることから、その氏名、肖像が広く社会に公表されることを希望、意欲しているものと認められ、上記写真は、一般人の感受性を基準として公開を欲しない写真であるとは認められない。
(c) 掲載の態様も、同原告らの人格的利益を毀損するとか、不利益を与えるものでもない。
(ウ) 通学中の姿を撮影した写真
a 同(4)イ(ウ)aは認め、bは否認ないし争う。
b 次の事情によれば、プライバシー権(肖像)侵害はない。
(a) 同原告らの在学の事実が知られている以上、その私事性は低い。
(b) 芸能人である同原告らは、容貌が広く知られることによってその評価が高められることから、その氏名、肖像が広く社会に公表されることを希望、意欲しているものと認められ、上記写真は、一般人の感受性を基準として公開を欲しない写真であるとは認められない。
(エ) 実家の所在地等に関する写真及び記述
a 同(4)イ(エ)aは否認し、bは否認ないし争う。cは認め、dは否認ないし争う。
b 符号80の写真には、最寄り駅の名称が分からないようにするため、駅ビルの名称を消す処理が施され、本件雑誌の読者が原告Hの実家を探し出すことができないように配慮されているから、符号80の写真及び記述が公表されることによって、同原告の私生活の平穏が脅かされることはない。
c 原告P及びその家族は、元実家には居住していないから、符号81及び82の写真及び記述が公表されることによって、同原告の私生活の平穏が脅かされることはない。
また、芸能人の立身出世物語は、一種の美談、成功談であり、芸能人としての評価や名声を低下させるものではない。
(5) パブリシティ権侵害
ア パブリシティ権
(ア) 同(5)アは争う。
(イ) パブリシティ権は、制定法の根拠を欠き、裁判例が認めた権利又は法益であるから、裁判例の認める範囲でのみ認め、限定的に解すべきである。
著名人は、自らが大衆の強い関心の対象となる結果として、必然的にその人格、日常生活、日々の行動等を含めた全人格的事項がマスメディアや大衆等による紹介、批判、論評等の対象となることを免れない。また、現代社会においては、著名人が著名性を獲得するに当たってはマスメディア等による紹介等が大きく与って力となっていることを否定することができない。そして、マスメディア等による著名人の紹介等は本来言論、出版、報道の自由として保障されるものである。
よって、著名人の紹介等がパブリシティ権侵害となるのは、当該著名人の氏名、肖像等を使用する目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、その使用が当該著名人の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とする場合に限られる。
そして、これまでの裁判例でパブリシティ権侵害が認められたのは、俳優の肖像を広告に使用した事例(東京地裁昭和51年6月29日判決・判例時報817号23頁)や芸能人の氏名、実演及び肖像をカレンダーという商品に掲載した事例(東京高裁平成3年9月26日判決・判例時報1400号3頁)であり、芸能人に関して出版された書籍・雑誌に関し、最終的に芸能人のパブリシティ権侵害を根拠として損害賠償請求を認めた裁判例はない。
イ 著名性
同(5)イは争う。
ウ 商業的使用
(ア) 同(5)ウ(ア)は争う。
(イ) 同(イ)は否認する。
(ウ) 同(ウ)は否認する。
a 本件雑誌は、アイドルを主とする芸能人の私服姿、制服姿及び魅力的な姿を撮影した写真並びにアイドルの趣味、出身及び日常生活等を知ることのできる写真及び情報等を掲載して紹介し、一般の人々の芸能人の全人格的事項に対する強い関心を精神的に満足させ、楽しませることを目的とする娯楽雑誌である。
b 次の事情によれば、原告Aらの写真の利用は、同原告らの顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものではない。
(a) 符号2〜5の写真は、原告Aの小学校時代の写真を紹介し、ファンの同原告に対する強い関心、娯楽心に応え、これを満足させることを目的としたものである。
現在の写真である符号1の写真を載せているのは、小学校時代の写真と比較・対照するためである。なお、符号1の写真は、撮影が許されていた同原告の写真集出版記念イベントで撮影されたものである。
(b) 符号6及び75〜77の写真は、7、8年前の原告Bの珍しい魅力的な容貌・容姿を紹介し、ファンの同原告に対する強い関心・娯楽心に応え、これを満足させることを目的としたものである。
(c) 符号7〜12の写真は、その珍しさと美しさから魅力の一つとなっている若手女性芸能人の腋の下の写真を掲載して順位を付けるという編集方法を採って、その魅力を高め、紹介したものである。
(d) 符号36〜39の写真(原告Hの制服姿)、符号48〜53の写真(同原告の黒色の上着姿)及び符号65〜69の写真(同原告の友人等との姿)は、中学校の制服姿等の同原告の珍しい写真を紹介してファンの同原告に対する強い関心、娯楽心に応え、これを満足させることを目的としたものである。
また、符号78及び79の写真は、原告Hの実家を探し出す記事に添えられた写真であって、同原告の顧客吸引力を利用したものではない。
(e) 符号61〜63の写真は、原告Iの映画撮影のために駅伝に出場するという珍しい写真を紹介して、ファンの同原告に対する強い関心・娯楽心に応え、これを満足させることを目的としたものである。
(f) 卒業式は、アイドルにとっても無事学業を終えて卒業するという特別な行事であるところ、符号64の写真は、当時すでに芸能人であった原告Jの卒業式出席当時の珍しい写真を紹介し、ファンの同原告に対する強い関心・娯楽心に応え、これを満足させることを目的としたものである。
(g) 符号70〜74の写真は、原告Oの下校時の珍しい写真を紹介し、ファンの同原告に対する強い関心・娯楽心に応え、これを満足させることを目的としたものである。
(h) 符号83〜85の写真は、原告Pの元実家を探し出す記事に添えられた3年前の写真であって、同原告の顧客吸引力を利用したものではない。
(6) 責任原因
ア 被告Y3及び同Y4の責任原因
同(6)アは否認する。
イ 被告Y2の責任原因について
(ア) 同(6)イ(ア)は認め、(イ)及び(ウ)は否認する。
(イ) 代表取締役である被告Y2は、本件雑誌を含む各雑誌の具体的な編集に関与していない。
(7) 損害
ア プライバシー権侵害による損害
(ア)a 同(7)ア(ア)a(粗利益)は否認する。
本件雑誌の販売部数は7万2410部であり、本件雑誌販売による利益は852万2956円である。
b b(a)(追っかけ等からの買入れ)は認め、(b)(追っかけの助長)は否認する。アイドルが追っかけ等の被害に遭うのは、アイドルとして人々の関心の対象となっているからであって、このような被害と被告会社の写真の買入れとの間に因果関係はない。
c c(原告Hの被害)は否認する。
(イ) 同(7)ア(イ)(損害額)は否認する。
イ パブリシティ権侵害による損害
同(7)イは否認ないし争う。
ウ 弁護士費用
同(7)ウ(ア)(訴訟委任)は不知、(イ)(相当額)は否認する。
3 被告らの抗弁
(1) 社会の正当な関心事の法理(プライバシー権侵害の主張に対して)
ア(ア) 表現の自由は、憲法上優越的な地位が与えられており、他人のプライバシーを侵害する表現であっても、①表現行為が社会の正当な関心事であって、②その表現内容、表現方法が不当なものでない場合は、当該表現行為の違法性は阻却される。
(イ) 芸能人の珍しい写真、素顔の写真、私服姿の写真、学校制服姿の写真、魅力的な写真等や趣味、出身、さらには芸能人の服装や帽子・サングラスその他の持ち物は、社会の正当な関心事である。
イ 本件において原告らがプライバシー侵害と主張する写真及び記述は、原告らのデビュー前の姿、日常生活上の姿、制服姿及び日常生活に関する情報を内容とするものであり、これらに対する大衆の関心は、社会的に正当なものとして許容される。
ウ また、原告らがプライバシー侵害を主張する写真及び記述は、いずれも適法に入手されたものであって、表現内容、表現方法が不当なものとも認められない。
(2) 包括的承諾(プライバシー権侵害の主張に対して)
ア 一般に、芸能人はテレビや映画に出演し、雑誌等の記事の対象となることを当然容認しているのであるから、一般の人々が関心を持つであろう事柄がその芸能人のプライバシーにわたる場合であっても、相当の範囲で公表されることを承諾しているものとみてよい。
イ 原告らがプライバシー権侵害を主張する写真及び記述は、私事性が強いなど通常その公表を承諾しないであろう事柄を含まないから、その公表を包括的に承諾していた範囲に含まれる。
4 抗弁に対する原告らの認否
(1) 社会の正当な関心事の法理
ア 抗弁(1)ア(要件)のうち、(ア)は認め、(イ)は否認する。
イ 同(1)イ(正当な関心事)は否認する。
社会の正当な関心事の法理は、犯罪報道等の真に社会的な価値を有する報道等を保護する考え方であって、原告らのデビュー前の姿、日常生活上の姿等を公表することに終始するのぞき見趣味的な表現を保護するものではない。
ウ 同(1)ウ(表現方法等)は否認する。
(2) 包括的承諾
ア 同(2)ア(要件)は争う。
包括的承諾という考え方は、芸能人のプライバシーをほとんど喪失させてしまう考え方であって、そのような見解が妥当でないことは明らかである。
イ 同(2)イ(包括的承諾の範囲内)は否認する。
理由
1 原告ら等
請求原因(1)(原告ら)、(2)(被告ら)及び(3)(本件雑誌の出版、販売)は、当事者間に争いがない。
2 プライバシー権侵害について
(1) プライバシー権(肖像)侵害について
ア プライバシー権(肖像)
何人もみだりに自己の容貌や姿態を撮影されず、撮影された肖像写真を公表されないという人格的利益は、プライバシー権(肖像)として法的に保護される。
イ 侵害の有無
(ア) 符号2〜5の写真は、芸能人になる前の原告Aの姿を撮影した写真であること(請求原因(4)イ(ア)a)、符号65〜68の写真は、芸能人となる前の原告Hの姿を撮影した写真であること(請求原因(4)イ(ア)b)、符号13〜60及び69の写真(原告H、同I、同J、同K、同L、同M及び同N)は、私服姿で路上を通行中等の同原告らの姿を撮影した写真であること(請求原因(4)イ(イ)a)、並びに符号64(原告J)、70〜74(同O)及び83〜85(同P)の写真は、制服姿で通学中の同原告らの姿を撮影した写真であること(請求原因(4)イ(ウ)a)は、当事者間に争いがない。
(イ) 証拠(甲11〜18)及び弁論の全趣旨によれば、これらの写真は、私生活上の事実であって、一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり、これが一般にいまだ知られておらず、かつ、その公表により同原告らが不快、不安の念を覚えたことが認められるから、これらの写真を本件雑誌に掲載し、それを出版、販売したことにより、被告Y3及び同Y4がこれらの写真を本件雑誌に掲載し、それを出版、販売した行為は、同原告らのプライバシー権(肖像)の侵害に当たる。
ウ 被告らの主張に対する判断
(ア)a 被告らは、芸能人となる前の姿を撮影した写真につき、芸能人となる前の容貌は芸能人の仕事にとって重要な現在の容貌と関係があり、一般人の感受性を基準として公開を欲しない事柄であるとはいえない旨主張する。
しかしながら、芸能人であるがゆえに、美容整形前の容貌を知られたくないことや現在までに作り上げた雰囲気に合わない昔の姿を知られたくないことが考えられるから、芸能人の仕事にとってその容貌が重要であることから、芸能人となる前の姿を撮影した写真を当該芸能人の承諾なしに雑誌等に掲載することがプライバシー権(肖像)侵害にならないと解することはできない。
b 被告らは、卒業アルバム(原告A)は、同原告の同級生及び教師等に相当部数頒布され、一般の人々にいまだ知られていないものではない旨主張する。
しかしながら、原告Aの小学校時代の容貌は、卒業アルバムが同期生等一部の者に配布されたからといって、一般の人々に知られた状態にはなかったところ、本件雑誌に掲載されることにより、同期生等の限られた範囲を超えて一般の読者に知られることになり、新たな利益侵害が生じることは明らかであるから、この点の被告らの主張は、採用することができない。
c 被告ら主張の卒業アルバムが同級生から任意に入手した等の事情も、上記認定を左右するものではない。
(イ)a 被告らは、一般的な公共の場所(街頭・空港等)に市民が身を置いている場合、その容貌・姿態を撮影する行為は、それが一般人が通常とっている行動であって、その行動自体が撮影されることに心理的負担を覚えない形態でされるときは、プライバシー権(肖像)侵害に当たらない旨主張する。
しかしながら、被告らの主張に最も合致すると考えられる羽田空港での原告Hらの姿を撮影した符号13〜23の写真であっても、例えば、年末の帰省時期における空港の人混みを流すように撮影したようなものではなく、原告Hらに焦点を当て、特定することができるように撮影したものであるから、通常一般人の常識的理解として公開を許容しているものとは、到底認められず、被告らの上記主張は採用することができない。
b 被告ら主張の私的領域に侵入して撮影したものではないことや、掲載の態様も同原告らの人格的利益を毀損するものではない等の事情も、上記認定を左右するものではない。
(ウ) 被告らは、一般に、芸能人はテレビや映画に出演し、雑誌等の記事の対象となることを当然容認しているのであるから、一般の人々が関心を持つであろう事柄がその芸能人のプライバシーにわたる場合であっても、相当の範囲で公表されることを承諾しているものとみてよいところ、原告らがプライバシー権侵害を主張する写真及び記述は、通常その公表を承諾しないであろう事柄を含まないから、その公表を包括的に承諾していた範囲に含まれる旨主張する。
確かに、芸能人等が、自らの芸能活動の面だけではなく私生活の面も大衆に公開し、それによって大衆の人気を惹起し、継続させている実態が考えられないではない。
しかしながら、そのような私生活の公開は、飽くまで当該芸能人等の承諾の下に行われているものであり、自己の人気惹起のためにマスコミを利用した以上、今度は芸能人等の同意がなくてもそのプライバシーを侵害してもよいと考えることはできない。よって、この点の被告らの主張は理由がない。
(エ) 被告らは、表現の自由は、憲法上優越的な地位が与えられており、他人のプライバシーを侵害する表現であっても、①表現行為が社会の正当な関心事であって、②その表現内容、表現方法が不当なものでない場合は、当該表現行為の違法性は阻却されるところ、芸能人の珍しい写真、私服姿の写真等や趣味、さらには芸能人の服装や帽子等の持ち物は、社会の正当な関心事であるから、そのような大衆の関心事の報道は許されるべきである旨主張する。
芸能人等がプロモーション活動やテレビ、舞台等に出演することによって、大衆の人気・関心を惹起し、惹き付けることを活動の目的としていることは、そのとおりであると考えられる。そのような芸能活動の結果、一部のファン等が当該芸能人等のテレビや舞台における仕事上の姿だけでなく、私生活についても多大な関心を持つようになることも大いに想定することができる。
しかしながら、上記のような実態から、芸能人等となった以上、それとセットでプライバシーの侵害を甘受しなければならないと考えることには、論理の飛躍があるといわなければならない。上記被告らの主張は、例えば、舞台の上の芸だけで自己の人気を獲得することを考える芸能人等の存在を一切否定するものであり、到底採用することができない。
(2) プライバシー権(個人情報)侵害について
ア プライバシー権(個人情報)
他人がみだりに個人の私的事柄についての情報を取得することを許さず、また、他人が個人の私的事柄をみだりに第三者へ公表したり、利用することを許さず、もって人格的自律ないし私生活上の平穏を維持するという利益は、プライバシー権(個人情報)として法的に保護される。
イ 原告H
(ア) 符号80の写真は、駅ビルの名前が黒く塗りつぶされており(乙1)、駅ビルからはどの駅を撮影したものか分からないが、駅前の風景や駅ビルの周りのビルの看板等はそのまま写っているから(乙1)、同駅を利用したことのある者は、どの駅が撮影されたものか容易に知ることができるものと認められる。
したがって、被告Y3及び同Y4は、符号80の写真及び記述を掲載した本件雑誌を出版、販売したことによって、原告Hの実家の最寄り駅を公表したものである。
(イ) 証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、原告Hの実家の所在地は、一般の人々に広く知られている情報ではないこと、実家の最寄り駅が判明すると、同原告のファンや追っかけが上記最寄り駅を起点として、同原告の実家(乙1の43頁)の所在地を容易に突き止めることができること、その結果、ファンらによって、同原告や家族の平穏な私生活が脅かされるおそれがあるから、最寄り駅の情報は、一般人の感性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり、その公表により同原告が不快、不安の念を覚えたことが認められる。
ウ 原告P
(ア) 符号81及び82の写真及び記述は、原告Pの元実家の最寄り駅及び同原告の元実家の外観という同原告の私的事柄を明らかにするものであること(請求原因(4)イ(エ)c)は、当事者間に争いがない。
(イ) 弁論の全趣旨によれば、同原告の元実家の最寄り駅及び元実家の外観が一般の人々に知られている情報ではないこと、これらの事柄が公開されると、それをきっかけに同原告の現在の住所を探られたり、元々の生活振りを知られることとなるため、これらの情報は、一般人の感受性を基準として他人への公開を欲しない事柄であり、その公表により同原告が不快、不安の念を覚えたことが認められる。
これに反する被告らの主張は、採用することができない。
エ まとめ
よって、符号80の写真及び記述並びに符号81及び82の写真及び記述を本件雑誌に掲載し、それを出版、販売したことにより、被告Y3及び同Y4は、原告H及び同Pのプライバシー権(個人情報)を違法に侵害したものである。
3 被告Y3、同Y4及び同Y2の責任原因について
(1) 被告Y3及び同Y4の責任原因
ア 前記1のとおり、被告Y3は発行人として、同Y4は編集人として、本件雑誌の出版、販売に関与したものである。
イ 被告Y3及び同Y4は、原告A、同H、同I、同J、同K、同L、同M、同N、同O及び同Pのプライバシー権を侵害しないようにすべき注意義務を負っていたところ、弁論の全趣旨によれば、本件雑誌の出版、販売当時、次の状況にあったことが認められるから、被告Y3及び同Y4には、少なくとも同原告らのプライバシー権侵害につき、過失があり、違法性の認識可能性にも欠けるところはなかったものと認められる。
(ア) 芸能人となる前の写真の撮影、公表が違法であることを十分了知し得る裁判例として、東京地裁平成12年2月29日判決(判例時報1715号76頁。中田英寿事件)及び同控訴審東京高裁平成12年12月25日判決(判例時報1743号130頁)があった。
(イ) 被告らが主張の根拠とする竹田稔「増補改訂版プライバシー侵害と民事責任」には、「一般的な公共の場所(街頭・公園・通勤電車・駅・空港等)に市民が身を置いている場合、公衆の容貌・姿態を撮影する行為は、それが一般人が通常取っている行動であってその行動自体が撮影されることに心理的負担を覚えない形態でなされるときは、肖像権侵害に当たらない」(267頁)との記載がある。しかし、この記載を、一般人につき、年末の帰省風景の一部として個人が撮影されたようなものではなく、承諾なく特定の個人に焦点を当てた写真の撮影、公表まで許容される旨主張していると理解することは、個人の尊重の理念に反し、到底できない。
そして、芸能人であれば、日常の私生活等について相当の範囲でそれが公表されることを包括的に承諾していると見ること(竹田・前掲211頁)については、後記(2)に説示のとおり、平成12年11月20日、被告会社と日本音楽事業者協会との間で、同協会所属アーティストの氏名・肖像に関する人格権及びパブリシティ権を最大限尊重する旨の合意書が交わされたり、平成13年5月2日、被告Y2が、被告会社の出版に係る雑誌において音楽芸能家の肖像写真を無断使用したことに対し、編集長と連名の謝罪文を作成し、日本音楽事業者協会代理人あてに送付したものであり、包括的承諾を認定する基礎が欠けていたものである(包括的承諾の範囲は、社会通念により決めていくべきところ、社会事情の変化は当然ここにいう社会通念にも影響することは、竹田・前掲211頁自体が認めているところである。)。
なお、芸能人の街頭で一人立っている写真等につき、神戸地裁尼崎支部平成9年2月12日決定(判例時報1604号127頁。宝塚事件)は、出版差止めの仮処分を却下しているが、飽くまで事前差止めを認めるほどに違法性があるか否かの観点から判断しているものであり、被保全権利がないと明言した裁判例ではない。
(ウ) 芸能人等の住所、電話番号等の掲載につき、前記神戸地裁尼崎支部平成9年2月12日決定、東京地裁平成9年6月23日判決(判例時報1618号97頁。ジャニーズ追っかけマップ事件)、東京地裁平成10年11月30日判決(判例タイムズ955号290頁。ジャニーズ追っかけマップスペシャル事件)等の一連の裁判例があったものであるから、これらの裁判例の趣旨からすれば、「ストーカーズハイ」なる企画がプライバシー権(個人情報)侵害となることを容易に知ることができた。
(2) 被告Y2の責任原因
ア 前記1のとおり、被告Y2は、本件雑誌が出版、販売された当時、被告会社の代表取締役であったものである。
イ そして、被告Y2は、芸能人の肖像写真等を雑誌に掲載した行為を巡って紛争が生じた際には、自ら被告会社の代表取締役として、次のとおり対処してきたこと(請求原因(6)イ(ア))は、当事者間に争いがない。
(ア) 平成12年11月20日、自ら立ち会い、日本音楽事業者協会との間で、同協会所属アーティストの氏名・肖像に関する人格権及びパブリシティ権を最大限尊重する旨の合意書を交わした。
(イ) その後、上記合意書の更新を拒絶する旨の書面を作成して、日本音楽事業者協会あてに同書面を送付した。
(ウ) 平成13年5月2日、被告会社の出版に係る雑誌において音楽芸能家の肖像写真を無断使用したことに対し、編集長と連名の謝罪文を作成し、日本音楽事業者協会代理人あてに送付した。
(エ) 平成16年2月26日、被告会社を債権者、日本音楽事業者協会を債務者とする仮処分事件(東京地裁平成16年(ヨ)第599号)の審尋期日に代理人と共に出頭し、被告会社が本件訴訟の第一審判決の言渡しまでの間、被告会社出版に係る雑誌において、日本音楽事業者協会所属のアーティストを取り扱わないこと等を内容とする和解を提案した。
ウ したがって、被告Y2は、本件雑誌の編集に具体的に関与していなかったとしても、本件雑誌の出版、販売以前に、芸能人の肖像等に関する人格権等の保護につき問題が生じた際、日本音楽事業者協会との間で合意書を取り交わしたり、謝罪文を送付していたものであるから、被告会社の代表取締役として、被告会社の出版する雑誌においてプライバシー権侵害が生じないように、内部的な取扱方針及びチェック態勢を定める等の方法により、同原告らのプライバシー権を侵害しないように配慮すべき義務を有していたものというべきである。
そして、弁論の全趣旨によれば、被告Y2がこれらの義務を怠ったことが認められる。
(3) まとめ
したがって、被告らは、民法709条、715条、商法261条3項、78条2項、民法44条1項、719条により、プライバシー権侵害により同原告らに生じた損害を連帯して賠償する義務がある。
4 プライバシー権侵害により原告らが被った損害について
(1) 損害
ア 考慮すべき事情
損害の額を認定するために考慮すべき事情として、前記認定した侵害態様のほか、次の事実が認められる。
(ア) 被告会社は、本件雑誌の出版、発行により、次のとおり、852万2965円の利益を得た(乙18、19、22、24)。この認定を左右するに足りる証拠はない。
a 本件雑誌の発行部数 16万1600部
b 総売上数 7万2410部
c 総売上高 3039万2528円
d 総制作費 2186万9572円
e 純利益 852万2956円
(イ)a 符号13ないし60(原告H、同I、同J、同K、同L、同M及び同N)、符号64(原告J)、70〜74(同O)及び83〜85(同P)の写真は、「追っかけ」又は「カメラ小僧」の撮影した写真であり、被告会社は、追っかけ等から上記写真を買い受けた。
現に、被告会社は、本件雑誌の表表紙の内側の左下の角部分に、「★求む! アイドル投稿file_7.jpgBUBKA SPECIALでは、アイドル投稿ページを常設中。イベント、通学、プライベート何でもOK、投稿お待ちしてます。」等と写真の投稿の勧誘文及び連絡先を記載し、追っかけ等の撮影した芸能人等の写真を募集している。
(争いのない事実)
b それらの写真を本件雑誌に掲載して出版、販売することにより、追っかけ等の活動を助長する結果を生じさせ、また、追っかけ等の行為の一部は、同原告らを単に追跡するだけにとどまらず、同原告らをつけ回し、嫌がらせをするストーカー行為にまで発展する危険性をはらんでいることは、明らかである(乙1、弁論の全趣旨)。
(ウ) 実家の所在地を知られないようにすることは、原告Hがストーカー被害を回避する上で極めて重要なことである(甲14、弁論の全趣旨)。
ただし、前記認定のとおり、符号80の写真については、駅ビルの名前を消す配慮がされたため、同写真からどの駅を撮影したものか知ることができる者は、かなり限定されている。
イ 損害額
上記原告らが被った精神的苦痛を慰藉するために相当な額は、侵害態様、公開された個人情報の性質、上記アに認定の事実等を総合考慮すると、次のとおりであると認められる。
(ア) 原告A 30万円
(イ) 原告H 150万円(肖像分120万円、個人情報分30万円)
(ウ) 原告I 60万円
(エ) 原告J 40万円
(オ) 原告K 30万円
(カ) 原告L 20万円
(キ) 原告M 20万円
(ク) 原告N 25万円
(ケ) 原告O 40万円
(コ) 原告P 30万円(肖像分10万円、個人情報分20万円)
(2) 弁護士費用
ア 弁論の全趣旨によれば、同原告らは、原告ら訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起及び追行を委任し、着手金及び成功報酬として、それぞれ別紙原告請求損害額一覧の「弁護士費用」欄記載の金額を支払うことを約束した事実が認められる。
イ 本件事案の内容、審理経過及び認容額等を考慮すると、被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、次のとおりと認められる。
(ア) 原告A 6万円
(イ) 原告H 15万円
(ウ) 原告I 9万円
(エ) 原告J 8万円
(オ) 原告K 6万円
(カ) 原告L 4万円
(キ) 原告M 4万円
(ク) 原告N 5万円
(ケ) 原告O 8万円
(コ) 原告P 6万円
(3) まとめ
よって、プライバシー権侵害による損害額は、次のとおりとなる。
ア 原告A 36万円
イ 原告H 165万円
ウ 原告I 69万円
エ 原告J 48万円
オ 原告K 36万円
カ 原告L 24万円
キ 原告M 24万円
ク 原告N 30万円
ケ 原告O 48万円
コ 原告P 36万円
5 パブリシティ権侵害について
(1) パブリシティ権
固有の名声、社会的評価、知名度等を獲得した著名人の肖像等を商品に付した場合には、当該商品の販売促進に有益な効果、すなわち顧客吸引力があることは、一般によく知られているところであり、著名人は、顧客吸引力を経済的利益ないし価値として把握し、かかる経済的価値を独占的に享受することのできるパブリシティ権と称される財産的利益を有する。
他方、芸能人等の仕事を選択した者は、芸能人等としての活動やそれに関連する事項が大衆の関心事となり、雑誌、新聞、テレビ等のマスメディアによって批判、論評、紹介等の対象となることや、そのような紹介記事等の一部として自らの写真が掲載されること自体は容認せざるを得ない立場にある。そして、そのような紹介記事等には、必然的に芸能人等の顧客吸引力が反映し、それらの影響を紹介記事等から遮断することは困難である。
以上の点を考慮すると、ある者の行為が上記パブリシティ権を侵害する不法行為を構成するか否かは、他人の氏名、肖像等を使用する目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して、上記使用が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって、判断すべきである。
これに反する原告らの主張は、採用することができない。
(2) 本件雑誌について
証拠(乙1)によれば、本件雑誌の形状、構成等として、次の事実が認められる(一部は争いがない。)。
ア 本件雑誌の形状等
(ア) 本件雑誌は、AB判サイズ(縦B5、横A4)、全116頁(表表紙及び裏表紙の表裏の合計4頁を含む。)、全頁4色オフセット印刷のカラーで構成されている。
(イ) 表表紙の上部には「ブブカ・スペシャル」という題名の記載及び「アイドルの決定的スクープ写真と超貴重写真がもう一度楽しめるおトクな総集編」という白抜きの記載がされ、右端部に「アイドル激似ビデオ 春の新春スペシャル」の見出しが、左端部に「モーニング娘。&浜崎あゆみ」の見出しがそれぞれ大きな活字で記載されているほか、中段に原告H、同J及び同Pの氏名又は芸名が、下段に原告H、同D、同I、同E、同C、同G、同F、同O、同B及び同Pの氏名又は芸名が記載されている。
(ウ) また、表表紙には、原告A、同B及び同Oの顔写真並びに同Pの全身を撮影した写真が掲載されており、原告A、同B、同O及び同Pの写真を含む芸能人の写真が表の表紙に占める面積の割合は、3分の2を超えている。
(エ) 被告会社は、本件雑誌の表表紙の内側の左下の角部分に、「★求む! アイドル投稿file_8.jpgBUBKA SPECIALでは、アイドル投稿ページを常設中。イベント、通学、プライベート何でもOK、投稿お待ちしてます。」等と写真の投稿の勧誘文及び連絡先を記載し、追っかけらの撮影した芸能人等の写真を募集している。
イ 本件雑誌の構成
(ア) 「アイドル激似ビデオ」と題するアダルトビデオ紹介記事が、2頁〜7頁に掲載されている。
(イ) 「大発掘写真館」という題名の下、芸能人の小中学校時代の写真を紹介する記事が、30頁〜33頁に掲載されている。
(ウ) 「ストーカーズハイ」という題名の下、芸能人の実家等を探し出して明らかにするという内容の記事が、42頁〜57頁に掲載されている(なお、42頁、43頁、56頁、57頁は、本件記事を含む。)。
(エ) 芸能人の写真が掲載されているカードに関する情報が、59頁〜69頁に掲載されている。
(オ) 「浜崎あゆみお宝コレクション」と題して、写真集、雑誌その他の商品に掲載されている浜崎あゆみの写真を紹介する記事が、73頁〜81頁に掲載されている。
(カ) 「本上まなみ・お宝コレクション」と題して、写真集、雑誌その他の商品に掲載されている本上まなみの写真を紹介する記事が、83頁〜91頁に掲載されている。
(キ) 「H.I.Pお宝コレクション」と題して、写真集、雑誌その他の商品に掲載されているH.I.Pの写真を紹介する記事が、93頁〜101頁に掲載されている。
(ク) 「モーニング娘。お宝コレクション2」と題して、写真集、雑誌その他の商品に掲載されているモーニング娘。の写真を紹介する記事が、103頁〜111頁に掲載されている。
(ケ) 各種の広告が、29頁、58頁、70〜72頁、82頁、92頁、102頁に掲載されている。
(コ) 読者に抽選でプレゼントが当たるという内容の告知記事が、112頁に掲載されている。
(3) 著名性について
前記請求原因(1)の事実(原告ら)によれば、パブリシティ権侵害を主張する原告らは、パブリシティ権の主体となり得る著名性を有していたものと認められる。
これに反する被告らの主張は、採用することができない。
(4) 個別記事についての判断
ア 原告A
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、次の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 本件雑誌の第1頁(表表紙の表裏の次を第1頁とする。以下同じ。)には、「初公開!ロリータ時代のA」「窓際族になりつつある巨乳アイドル 小6時代のA 修学旅行集合写真がありました」と題する記事が掲載されている。
b 同記事は、符号1〜5の写真のほか、同原告の小学校時代の身長や性格、運動、成績を紹介する文章部分から構成されており、全体として、同原告の小学校時代を紹介する記事となっている。
c 符号1の写真は、芸能人となった後に撮影された5cm×4cmの大きさの写真であり、符号2〜5の写真と対比するために掲載されたものである。
符号2〜5の写真は、小学校時代の修学旅行の写真であり、その大きさは、符号2の写真が9.9cm×11cm、符号3の写真が直径7cm、符号4の写真が8.9cm×14.2cm、符号5の写真が直径7cmである。
(イ) 以上の事実によれば、符号1〜5の写真は、全体として、スタイルの良さで人気を博している原告Aの小学校時代の体型や生活振りを紹介する記事の一部を成しているものであり、その枚数及び大きさも、その記事に必要な範囲を超えるものではないから、前記本件雑誌の構成を考慮しても、同原告の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるとまでは認められない(符号2〜5の写真の掲載がプライバシー権侵害を構成するか否かは、別問題である。)。
イ 原告B
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、以下の事実が認められる(一部は争いがない)。
a 符号6の写真(アサヒビールのイメージガール時代)は、本件雑誌の8頁のほとんど全面にわたって掲載されており、その大きさは25.6cm×19.7cmである。
同頁は、「大発掘写真館 Special」という見出しの下、符号6の写真のほか、同原告の知名度が低かった時期に撮影されたものであることを示すコメント及び文章部分により構成されており、全体として、知名度の低かったころの水着姿の同原告を紹介する記事となっている。
b 符号75の写真(アサヒビールのイメージガール時代)は、本件雑誌の38頁の下側約4分の3にわたって掲載されており、その大きさは25.6cm×18.6cmである。
同頁は、「Bの透け乳首写真を発掘!」との見出しの下、符号75の写真のほか、その内容を紹介するコメント部分から構成されている。
c 符号76及び77の写真(TBSドラマ)は、本件雑誌の39頁の上半分にわたって掲載されており、その大きさは、符号76の写真の大きさが11.7cm×15.2cmであり、符号77の写真の大きさが3.8cm×5.1cmである。
同頁上半分は、「お顔がパンパン丸のB。何とTVドラマ「毎度おジャマしまぁす」(TBS系)にチョイ役で出てたのだ」との見出しの下、符号76及び77の写真のほか、上記の見出しと同旨の説明部分から構成されている。
(イ) 芸能人の仕事を選択した者は、芸能人としての活動やそれに関連する事項が大衆の関心事となり、雑誌等によって論評等の対象となることや、そのような記事の一部として自らの写真が掲載されること自体は容認せざるを得ない立場にあるところ、以上の事実によれば、符号6及び75〜77の写真は、全体として、現在は大変な売れっ子となった原告Bの売出し中の活動歴を紹介する記事の一部となっているものであるから、前記本件雑誌の構成や符号6及び75の写真が大きいものであることを考慮しても、同原告の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるとまでは認められない。
ウ 符号7〜12の写真(腋の下)
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、以下の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 本件雑誌の9頁〜11頁には、「アイドル腋―1グランプリ」と題して、女性アイドルの腋の下の美しさを順位を付けて紹介した記事が掲載されている。
b 符号7の写真(原告H)は、上記記事の一部を成す写真であり、その大きさは15cm×7.3cmである。
c 符号8の写真(原告E)は、上記記事の一部を成す写真であり、その大きさは10.7cm×7.3cmである。
d 符号9の写真(原告C)は、上記記事の一部を成す写真であり、その大きさは17.3cm×12.5cmである。
e 符号10の写真(原告D)は、上記記事の一部を成す写真であり、その大きさは7.8cm×8.3cmである。
f 符号11の写真(原告F)は、上記記事の一部を成す写真であり、その大きさは7.2cm×5.8cmである。
g 符号12の写真(原告G)は、上記記事の一部を成す写真であり、その大きさは8.1cm×7.2cmである。
h 下位にランクされた符号10〜12の写真に付されたコメントは、年齢の割に張りがないなどと余り良いものではない。
(イ) 同原告らは、女性アイドルとして、その容貌の美しさを魅力の一つとして活動しているものであるから、容貌の一部である腋の下について論評されることや、そのような記事の一部として自らの写真が掲載されること自体は容認せざるを得ない立場にあるところ、符号7〜12の写真は、やや品位に欠ける面があるとしても、女性アイドルの腋の下の美しさについて論評する記事の一部を成しており、その枚数及び大きさも、その記事に必要な範囲を超えるものではないから、同原告の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるとまで認めることはできない。
エ 原告Hの符号36〜39の写真
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、以下の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 符号36〜39の写真は、デビュー後に通学中の原告Hの写真であり、本件雑誌の見開き2頁(16頁及び17頁)のほとんど全面にわたって掲載されている。
b 符号36の写真の大きさは25.6cm×20.9cm、符号37の写真の大きさは12.9cm×9cm、符号38の写真の大きさは12.6cm×9cm、符号39の写真の大きさは19.4cm×11.6cmである。
c 本件雑誌の16頁及び17頁は、「スクープショット H」という見出しの下、符号36〜39の写真のほか、見出し部分の下の3行の説明部分、各写真に付されたコメント部分及び17頁下の文章部分から構成されている。
コメントの一例として、符号39の写真には、「えーっ、Hちゃんに子どもがー」「うおーー赤ちゃんを抱いたHちゃん、という貴重なショット。微笑ましい一コマ。」とのコメントが付されているが、いずれも短いものである。
文章部分には、符号36〜39の写真についてのコメントのほか、シングルCDの発売等について記載されているが、文章部分の占める大きさは、1頁の15%程度である。
(イ) 以上の事実によれば、符号36〜39の写真は、原告Hの通学中の姿を紹介する記事の一部に使用する形式を採ってはいるものの、文章部分は極めて少なく、25.6cm×20.9cmの大きさの符号36の写真を中心に4枚の写真を見開き2頁のほぼ全面に掲載しているものであるから、同写真の使用の態様は、モデル料等が通常支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用に比肩すべき程度に達しているものといわざるを得ない。
したがって、符号36〜39の写真を掲載した被告Y3及び被告Y4の行為は、同原告のパブリシティ権を違法に侵害したものである。
オ 原告Hの符号48〜53の写真
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、以下の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 符号48〜53の写真は、デビュー後の正月休みに私服で路上で待ち合わせ中の原告Hを撮影した写真であり、本件雑誌の見開き2頁(20頁及び21頁)のほとんど全面にわたって掲載されている。
b 符号48の写真の大きさは25.6cm×18.6cm、符号49の写真の大きさは9.5cm×5.5cm、符号50の写真の大きさは9.6cm×11.2cm、符号51の写真の大きさは12.9cm×9.3cm、符号52の写真の大きさは9.7cm×11.2cm、符号53の写真の大きさは12.7cm×9.4cmである。
c 本件雑誌の20頁及び21頁は、「スクープショット まるで別人変装プライベート現場 H」という見出しの下、符号48〜53の写真のほか、見出し部分と同じ頁に記載された4行の説明部分、21頁中央に記載された「膝上15cm以上は必至のミニスカートで美脚ぶりがわかります」との説明部分、各写真に付されたコメント部分及び21頁下の文章部分から構成されている。
コメントの一例として、符号50の写真には、「どうしても足に目がいくね。顔が小さいから余計スタイルがよく見える。」とのコメントが付されているが、いずれも短いものである。
文章部分には、符号48〜53の写真についてのコメントのほか、映画の主演が決まったこと等について記載されているが、文章部分の占める大きさは、1頁の15%程度である。
(イ) 以上の事実によれば、符号48〜53の写真は、原告Hの私服で休暇中の姿を紹介する記事の一部に使用する形式を採ってはいるものの、文章部分は極めて少なく、25.6cm×18.6cmの大きさの符号48の写真を中心に6枚の写真を見開き2頁のほぼ全面に掲載しているものであるから、同写真の使用の態様は、モデル料等が通常支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用に比肩すべき程度に達しているものといわざるを得ない。
したがって、符号48〜53の写真を掲載した被告Y3及び被告Y4の行為は、同原告のパブリシティ権を違法に侵害したものである。
カ 原告Hの符号65〜68の写真
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、以下の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 符号65〜68の写真は、中学校1、2年のころに友人と一緒に撮影した原告Hの写真であり、本件雑誌の見開き2頁(26頁及び27頁)の全面にわたって掲載されている。
b 符号65の写真の大きさは12.6cm×20.9cm、符号66の写真の大きさは13cm×19.3cm、符号67の写真の大きさは12.6cm×20.9cm、符号68の写真の大きさは13cm×19.9cmである。
c 本件雑誌の26頁及び27頁は、「大発掘写真スペシャル Part2 モーニング娘。」の一部であり、各写真には、コメントが付され、符号67の写真には、白抜き文字による文章部分がある。
コメントの一例として、符号65の写真には、「ガングロH。ヤンキー丸出しの頃」とのコメントが付されているが、いずれも短いものである。
文章部分には、このころの原告Hの容姿のかわいさや雰囲気について記載されているが、文章部分の占める大きさは、1頁の10〜15%程度である。
(イ) 以上の事実によれば、符号65〜68の写真は、原告Hの中学校1、2年ころの姿を紹介する記事の一部に使用する形式を採ってはいるものの、文章部分は極めて少なく、12.6cm×20.9cm程度の大きさの写真4枚を見開き2頁の全面に掲載しているものであるから、同写真の使用の態様は、モデル料等が通常支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用に比肩すべき程度に達しているものといわざるを得ない。
したがって、符号65〜68の写真を掲載した被告Y3及び被告Y4の行為は、同原告のパブリシティ権を違法に侵害したものである。
キ 原告Hの符号69の写真
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、以下の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 符号69の写真は、デビュー後に通学していた中学校で教師らと一緒に撮影した原告Hの写真であり、本件雑誌の28頁の上半分に掲載されている。
b 符号69の写真の大きさは12.5cm×20.9cmであるが、多くの教師らと一緒に撮影されているため、同原告は同写真の中でさほど大きく写っているものではない。
c 符号69の写真は、「大発掘写真スペシャルPart2 モーニング娘。」の一部であり、同写真には、「デビューしたて つんく師匠に「天才的に可愛い」と言われた頃」とのコメントが付されている。
同写真上の左下には、同写真の6分の1程度の部分に、白抜き文字による文章部分があり、同写真がデビュー直後に撮影されたものであることの説明や、容姿のかわいさについて述べている。
(イ) 以上の事実によれば、符号69の写真は、デビュー直後の容姿のかわいさ等同原告の芸能活動について論評する記事の一部として、デビュー後の同原告の写真を使用しているものであり、写真の大きさも、その記事に必要な範囲を超えるものではないから、同原告の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるとまで認めることはできない。
ク 原告Hの符号78及び79の写真
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、以下の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 本件雑誌の42頁及び43頁には、「ストーカーズハイ」と題して、原告Hの実家を探し出す記事が掲載されている。
b 同記事の大部分は、文章により記載されているが、符号78及び79の写真のほか、最寄り駅、通学した中学校、商店街、実家の店構え等の写真(一部はモザイク処理)が掲載されている。
c 上記記事が原告Hの実家を探し出す記事であるため、同原告をイベント会場で撮影した符号78及び79の写真を記事の中に使用したものである。
符号78の写真の大きさは14.8cm×4.4cmである。符号79の写真の大きさは4cm×3cmであり、トリミングされた同原告の顔写真が「ニセ散歩の達人」と題する雑誌の表紙に使用されている。
(イ) 以上の事実によれば、符号78及び79の写真は、原告Hの実家を探し出すという文章が主な記事の一部として使用されたものであるから、同原告の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるとまで認めることはできない(同原告の実家を探し出す記事がプライバシー権(個人情報)侵害を構成するか否かは、別問題である。)。
ケ 原告I
(ア) 証拠(乙1、28)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 符号61〜63の写真は、いずれも原告Iが映画の撮影目的でひたちなか少女駅伝に出場した際の写真であり、上記3枚の写真が1頁(第24頁)に掲載されている。
b これらの写真には、「モーニング娘。I走る!」との見出しが付せられ、符号61の写真には、「むっちむちの太モモたぷたぷ揺らして一生懸命走った僕らのI」とのコメントが、符号62の写真には、「ゴールインして精根尽き果ててひざまずいてしまった。」とのコメントが、符号63の写真には、「座り込んで一歩も動けない状態のI。眩しいね。」とのコメントが付されている。
(イ) 以上の事実によれば、符号61〜63の写真は、映画の撮影のために駅伝大会に出場したという原告Iの芸能活動における珍しい一面を紹介する記事の一部として使用されたものであるから、原告Iの顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるとまで認めることはできない。
コ 原告J
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、次の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 符号64の写真は、デビュー後の中学校の卒業式の際に撮影された原告Jの写真であり、本件雑誌25頁の右側約6分の5にわたって掲載されており、その大きさが25.6cm×18cmである。
b 符号64の写真は、「大発掘写真スペシャルPart2 モーニング娘。」の一部であり、同写真には、「I、Hに迫る人気!売り出し中のJの超貴重セーラー服姿」とのコメントが付さている。
同写真上の下部には、1頁の8分の1程度の部分に、白抜き文字による文章部分があり、同原告の容姿や芸能人としての活動についての論評が記載されている。
(イ) 以上の事実によれば、符号64の写真は、同原告の芸能活動について論評する記事の一部として、ファンが関心を持つ出来事である卒業式の際の同原告の写真1枚を使用しているものであるから、その写真の大きさや本件雑誌の構成等を考慮しても、同原告の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるとまで認めることはできない。
サ 原告O
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、次の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 符号70〜74の写真は、デビュー後に通学中の原告Oを撮影した写真であり、本件雑誌の見開き2頁(34頁及び35頁)のほとんど全面にわたって掲載されている。
b 符号70の写真の大きさは25.6cm×20.9cm、符号71の写真の大きさは6.9cm×4.9cm、符号72の写真の大きさは19.4cm×11.2cm、符号73の写真の大きさは10.9cm×9.4cmであり、符号74の写真の大きさは13.6cm×9.4cmである。
c 本件雑誌の34頁及び35頁は、「スクープショット O」という見出しの下、符号70〜74の写真のほか、各写真に付されたコメント部分及び35頁下の文章部分から構成されている。
コメントの一例として、符号72の写真には、「遠くを見つめて、微笑んでいる。何を思い出しているんだろう。大事な約束をした事とか?」とのコメントが付されているが、いずれも短いものである。
文章部分には、符号70〜74の写真についてのコメントのほか、ドラマへの出演や映画で主演が決定した旨が記載されているが、文章部分の占める大きさは、1頁の15%程度である。
(イ) 以上の事実によれば、符号70〜74の写真は、原告Oの通学中の姿を紹介する記事の一部に使用する形式を採ってはいるものの、文章部分は極めて少なく、25.6cm×20.9cmの大きさの符号70の写真を中心に5枚の写真を見開き2頁のほぼ全面に掲載しているものであるから、同写真の使用の態様は、モデル料等が通常支払われるべき週刊誌等におけるグラビア写真としての利用に比肩すべき程度に達しているものといわざるを得ない。
したがって、符号70〜74の写真を掲載した被告Y3及び被告Y4の行為は、同原告のパブリシティ権を違法に侵害したものである。
シ 原告P
(ア) 証拠(乙1、28)によれば、次の事実が認められる(一部は争いがない。)。
a 本件雑誌の56頁及び57頁には、「ストーカーズハイ」と題して、原告Pの元実家を探し出す記事が掲載されている。
b 同記事の大部分は、文章により記載されているが、符号83〜85の写真のほか、最寄り駅、通学した小学校、中学校、高等学校、元実家の付近の路上風景、元実家の写真が掲載されている。
c 上記記事が原告Pの元実家を探し出す記事であるため、同原告を撮影した符号83〜85の写真を記事の中に使用したものである。
符号83〜85の写真は、いずれもデビュー後の同原告の通学中の姿を撮影したものであり、符号83、84の写真の大きさは5.9cm×4.2cm、符号85の写真の大きさは12cm×4.7cmである。
(イ) 以上の事実によれば、符号83〜85の写真は、原告Pの元実家を探し出すという文章が主な記事の一部として使用されたものであるから、同原告の顧客吸引力に着目し、専らその利用を目的とするものであるとまで認めることはできない(同原告の元実家を探し出す記事がプライバシー権(個人情報)侵害を構成するか否かは、別問題である。)。
(5) 被告Y3、同Y4及び同Y2の故意過失について
前記(4)のとおり、原告Hの符号36〜39、48〜53及び65〜68の写真並びに同Oの符号70〜74の写真の掲載は、同原告らのパブリシティ権を侵害するものであるが、証拠(乙26、27)及び弁論の全趣旨によれば、本件雑誌が出版された平成14年6月当時、そもそも制定法の根拠を欠くパブリシティ権を認めることができるか否か自体について議論があり、パブリシティ権侵害を認めた裁判例は、すべて芸能人の氏名や肖像を広告又はカレンダー等の商品に付して利用したというものであり(東京地裁昭和51年6月29日判決(判例時報817号23頁。マーク・レスター判決)、東京高裁平成3年9月26日判決(判例時報1400号3頁。おニャン子クラブ控訴審判決))、本件のように、芸能人の私生活を取り上げる記事の中でどの程度写真を利用するとパブリシティ権侵害となるかが正面から争われ、パブリシティ権侵害が認定された事例はなかったことが認められる(前記東京地裁平成12年2月29日判決及び東京高裁平成12年12月25日判決(中田英寿事件)、東京高裁平成10年(ネ)第673号同11年2月24日判決(キングクリムゾン控訴審判決))。
したがって、原告H及び同Oの上記写真の掲載によるパブリシティ権侵害につき、被告Y3、同Y4及び同Y2には、違法性の認識可能性がなかったものであり、有責性を欠くものといわざるを得ない。
(6) まとめ
よって、パブリシティ権侵害をいう原告A、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同J、同O及び同Pの請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
6 結論
(1) 以上のとおり、原告A、同H、同I、同J、同K、同L、同M、同N、同O及び同Pの請求は、被告らに対し、プライバシー侵害の不法行為に基づき、前記4(3)の各金額及び各金額に対する不法行為後である平成14年6月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるが、同原告らのその余の請求及びその余の原告らの請求は、理由がない。
(2) よって、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法61条、64条本文、65条1項本文、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・市川正巳、裁判官・賴 晋一、裁判官・髙嶋 卓)
別紙
原告請求損害額一覧<省略>
記事目録<省略>