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東京地方裁判所 平成14年(ワ)27702号 判決 2005年3月25日

原告 株式会社整理回収機構

上記代表者代表取締役 A

上記訴訟代理人弁護士 緒方孝則

同 海老原信彦

同 鷹取信哉

被告 株式会社鶴亀

上記代表者代表取締役 Y1

被告 Y1

被告 Y2

上記3名訴訟代理人弁護士 松村博文

同 田原緑

同 野本俊輔

同 吉葉一浩

同 上松真林

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告株式会社鶴亀(以下「被告鶴亀」という。)、被告Y1(以下「被告Y1」という。)、被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、原告に対し、連帯して、8億円及びこれに対する平成10年10月16日から支払済みまで年14%の割合による金員を支払え。

2  被告鶴亀、被告Y1、被告Y2は、原告に対し、連帯して、3億2000万円及びこれに対する平成11年9月14日から支払済みまで年14%の割合による金員を支払え。

3  被告鶴亀、被告Y1、被告Y2は、原告に対し、連帯して、3億円及びこれに対する平成11年7月15日から支払済みまで年14%の割合による金員を支払え。

4  被告鶴亀、被告Y1、被告Y2は、原告に対し、連帯して、8000万円及びこれに対する平成11年7月30日から支払済みまで年14%の割合による金員を支払え。

5  被告鶴亀、被告Y1は、原告に対し、連帯して、4億8000万円及びこれに対する平成13年1月1日から支払済みまで年14.5%の割合による金員を支払え。

6  被告鶴亀、被告Y1は、原告に対し、連帯して、2億6000万円及びこれに対する平成10年12月31日から支払済みまで年14.5%の割合による金員を支払え。

7(1)  被告鶴亀、被告Y1は、原告に対し、連帯して、3億円及びこれに対する平成12年4月1日から支払済みまで年14.5%の割合による金員を支払え。

(2)  被告Y2は、原告に対し、被告鶴亀、被告Y1と連帯して、7500万円及びこれに対する平成12年4月1日から支払済みまで年14.5%の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、株式会社東京相和銀行の被告鶴亀に対する貸付金債権及び小川信用金庫の被告鶴亀に対する貸付金債権をそれぞれ譲り受けた原告が、上記各金銭消費貸借契約に基づき被告鶴亀に対し、連帯保証契約に基づきその余の被告らに対し、それぞれ貸付金等の支払を求めたのに対し、被告らが、迂回融資であって民法93条ただし書が適用されている等の主張をして、原告の請求を争っている事案である。

1  前提となる事実(争いがない。)

(1)  東京相和銀行の被告鶴亀に対する貸付金

ア 株式会社東京相互銀行(平成元年2月1日に株式会社東京相和銀行と商号変更。以下、単に「東京相和銀行」という。)は、昭和54年11月29日、被告鶴亀との間で、相互銀行取引約定を締結した。

東京相和銀行は、昭和57年8月31日、被告鶴亀との間で、相互銀行取引約定を締結した。

東京相和銀行は、平成元年2月28日、被告鶴亀との間で、銀行取引約定を締結し、その際、被告Y1が、上記取引により被告鶴亀が負担する債務について、連帯保証した。

イ 東京相和銀行は、平成4年3月27日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、40億円を貸し付けた。上記貸付金は、平成6年7月29日、手形貸付に更改され、被告Y1が連帯保証した。その後、返済期日の変更、手形の書換え等を繰り返し、最終弁済期が平成10年10月15日と約定された。

ウ 東京相和銀行は、平成4年3月27日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、16億円を貸し付けた。これは、東京相和銀行が被告鶴亀に対し貸し付けた平成3年11月29日付けの8億円及び平成3年12月30日付けの5億円の各貸付金を借り換えた上、新たに3億円を貸し付けたものであった。上記貸付金は、平成7年3月29日、手形貸付に更改され、その後、返済期日の変更、手形の書換え等を繰り返し、最終弁済期が平成11年9月13日と約定された。

エ 東京相和銀行は、昭和61年7月28日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、15億円を貸し付けた。上記貸付金は、その後、返済期日の変更、手形の書換え等が繰り返され、平成7年7月14日に返済期日を平成8年7月12日とする旨約定されたが、その後も変更が繰り返され、最終弁済期が平成11年7月14日と約定された。

オ 東京相和銀行は、平成6年7月29日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、4億円を貸し付け、被告Y1が連帯保証した。上記貸付金は、その後、返済期日の変更等が繰り返され、最終弁済期が平成11年7月29日と約定された。

カ 東京相和銀行は、平成13年6月11日、原告に対し、上記各貸付金債権を譲渡し、その後の同月12日、鶴亀に対し、上記債権譲渡の通知をした。

(2)  小川信用金庫の被告鶴亀に対する貸付金

ア 小川信用金庫は、平成6年5月30日、被告鶴亀との間で、信用金庫取引約定を締結し、その際、被告Y1は、上記取引により被告鶴亀が負担する債務について、連帯保証した。

イ 小川信用金庫は、平成6年5月30日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、5億円を貸し付けた。上記貸付金は、その後、返済期日の変更、手形の書換等が繰り返され、最終弁済期が平成12年3月31日と約定された。

ウ 小川信用金庫は、平成6年7月12日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、5億円を貸し付けた。その後、返済期日の変更、手形の書換等が繰り返され、最終弁済期が平成12年3月31日と約定された。

エ 小川信用金庫は、平成6年11月29日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、5億円を貸し付けた。上記貸付金は、その後、返済期日の変更、手形の書換等が繰り返され、最終弁済期が平成12年3月31日と約定された。

オ 小川信用金庫は、平成7年7月28日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、13億円を貸し付けた。上記貸付金は、その後、返済期日等の変更が繰り返され、最終弁済期が平成10年12月30日と約定された。

カ 小川信用金庫は、平成8年8月19日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、弁済期平成12年12月31日の約定で24億円を貸し付け、被告Y1がこれの支払を連帯保証した。

キ 小川信用金庫は、平成13年1月9日、原告に対し、上記貸付金債権を譲渡し、その後の同月10日、被告鶴亀に対し、上記債権譲渡の通知をした。

(3)  Bの相続

ア B(以下「B」という。)は、平成6年10月13日、死亡した。法定相続人は、夫であるC(以下「C」という。)、子である被告Y1、被告Y2、D、Eであった。

イ Cは、平成12年12月14日、死亡した。法定相続人は、被告Y1、被告Y2、D、Eであった。

2  原告の主張

(1)  東京相和銀行に対する連帯保証

被告Y1、被告Y2は、昭和57年8月31日、被告鶴亀が東京相和銀行との間で相互銀行取引約定を締結した際、上記取引により被告鶴亀が負担する債務について連帯保証した。

被告Y1、被告Y2は、昭和57年11月27日、東京相和銀行との間で、被告鶴亀が相互銀行取引により負担する債務について、現在及び将来負担する一切の債務について包括的に連帯保証した。

(2)  小川信用金庫に対する連帯保証

Bは、平成6年5月30日、被告鶴亀が小川信用金庫との間で信用金庫取引約定を締結した際、上記取引により被告鶴亀が負担する債務について、手形貸付、平成6年11月30日までに取引により発生した債務、限度額15億円及びこれに付帯する利息、損害金等の範囲に限定して連帯保証した。

(3)  遅延損害金

上記1の(1)の東京相和銀行の被告鶴亀に対する貸付金の遅延損害金は、相互銀行取引約定ないし銀行取引約定により、年14%と、同(2)の小川信用金庫の被告鶴亀に対する貸付金の遅延損害金は、信用金庫取引約定により、年14.5%と約定された。

(4)  まとめ

したがって、原告に対し、

ア 被告鶴亀、被告Y1、被告Y2は、連帯して、東京相和銀行の前記1の(1)のイの貸付金の残元金39億9085万6301円のうち8億円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成10年10月16日から支払済みまで約定利率年14%の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

イ 被告鶴亀、被告Y1、被告Y2は、連帯して、東京相和銀行の前記1の(1)のウの貸付金の残元金16億円のうち3億2000万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成11年9月14日から支払済みまで約定利率年14%の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

ウ 被告鶴亀、被告Y1、被告Y2は、連帯して、東京相和銀行の前記1の(1)のエの貸付金の残元金14億8881万0174円のうち3億円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成11年7月15日から支払済みまで約定利率年14%の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

エ 被告鶴亀、被告Y1、被告Y2は、連帯して、東京相和銀行の前記1の(1)のオの貸付金の残元金4億円のうち8000万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成11年7月30日から支払済みまで約定利率年14%の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

オ 被告鶴亀、被告Y1は、連帯して、小川信用金庫の前記1の(2)のイ、ウ、エの各貸付金の残元金15億円のうち3億円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成12年4月1日から支払済みまで約定利率年14.5%の割合による遅延損害金を、被告Y2は、連帯保証人Bの債務の各4分の1を相続したことに基づき、被告鶴亀、被告Y1と連帯して、7500万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成12年4月1日から支払済みまで約定利率年14.5%の割合による遅延損害金を、各支払うべき義務がある。

カ 被告鶴亀、被告Y1は、連帯して、小川信用金庫の前記1の(2)のオの貸付金の残元金13億円のうち2億6000万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成10年12月31日から支払済みまで約定利率年14.5%の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

キ 被告鶴亀、被告Y1は、連帯して、小川信用金庫の前記1の(2)のカの貸付金の残元金24億円のうち4億8000万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成13年1月1日から支払済みまで約定利率年14.5%の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

3  被告鶴亀、被告Y1、被告Y2の主張

(1)  東京相和銀行に対する連帯保証債務について

ア 被告Y1、被告Y2が昭和57年8月31日に東京相和銀行に対し被告鶴亀の債務について連帯保証したことは、いずれも否認する。

イ 被告Y1、被告Y2の東京相和銀行に対する昭和57年11月27日付け連帯保証は包括根保証であるところ、東京相和銀行は、昭和58年ころ、包括根保証の問題点を考慮した結果、これに基づく請求をせず、個別保証契約を締結することを決定したので、上記連帯保証契約の効力は失効している。また、昭和54年11月29日付け相互銀行取引約定書、昭和57年8月31日付け相互銀行取引約定書、昭和57年11月27日付け包括保証契約書に伴って被告鶴亀に融資された金員は、上記意思決定がされた後の昭和60年4月18日に一度すべて完済され、昭和58年以降、各融資につきその都度契約書を作成し、これらの契約においては、被告Y2は連帯保証人となっていないので、被告Y2の連帯保証契約は合意解約されている。

ウ 原告が被告Y1、被告Y2に対し保証債務の履行を求めることは、上記イの事情に照らせば、権利の濫用であり、信義則に反するので許されない。

(2)  東京相和銀行の貸付金について(民法93条ただし書等)

ア 株式会社鹿島の杜カントリー倶楽部(以下「鹿島の杜カントリー」という。)は、茨城県旧a村において、鹿島の杜カントリー倶楽部と称するゴルフ場(以下「鹿島の杜ゴルフ場」という。)の開発事業に着手した。鹿島の杜カントリーは、ゴルフ場開発費等の巨額の事業資金を得るため、銀行から融資を受ける必要があったが、取引実績や担保がないため、融資を受けることが困難であった。そこで、Fら鹿島の杜カントリーの関係者らは、昭和61年ころ、東京相和銀行と取引関係のあった被告鶴亀代表者の被告Y1に対し、実質鹿島の杜カントリーが東京相和銀行から融資を受けるについて、被告鶴亀に形式的な借主になってほしいと依頼した。また、東京相和銀行も、業績拡大のため、G銀座支店長らの職員が、被告Y1に対し、返済義務を負わせない旨約して、実質鹿島の杜カントリーに融資するについて、被告鶴亀に形式的な借主になってほしいと依頼した。そこで、被告Y1は、被告鶴亀が貸付金債務を弁済する義務はないものと考えた上、東京相和銀行との取引を円滑にするため、この依頼を承諾した。

イ 東京相和銀行の被告鶴亀に対する第2の1の(1)のイ、ウ、エ、オの各貸付金は、いずれも、上記のとおり、鹿島の杜ゴルフ場開発事業には何ら関係しない被告鶴亀が形式的な借主となって、実質鹿島の杜カントリーに対し融資された迂回融資であり、この貸付金はすべて鹿島の杜カントリーが鹿島の杜ゴルフ場開発事業等のために使用し、被告鶴亀がこれを使用したり、その対価を得たことはなく、また、東京相和銀行は、鹿島の杜ゴルフ場開発事業の進展に強い関心を抱いていたが、被告鶴亀に上記貸付金返済能力がなかったにもかかわらず、被告鶴亀の事業には関心がなく、被告鶴亀に対し上記貸付金の返済を求めたこともなかった。

ウ したがって、上記各貸付金は、鹿島の杜カントリーが鹿島の杜ゴルフ場開発事業から得られるゴルフ会員権売却代金等により返済するものであって、被告鶴亀が返済することが予定されていなかったものであるから、虚偽の意思表示として民法94条により無効であり、また、上記のような迂回融資を積極的に行った東京相和銀行は、貸主としての保護に価しないのであって、同法93条ただし書の適用ないし類推適用により、被告鶴亀に対し返済を請求することができない。

エ また、上記各貸付金がいずれも迂回融資であることに鑑みれば、原告が被告鶴亀に対しこれらの返済を請求することは、権利の濫用であって許されない。

オ なお、原告は、東京相和銀行から上記各貸付金の譲渡を受けた者であるが、その際、上記の迂回融資を認識していたから、民法94条2項の第三者には当たらない。

(3)  小川信用金庫に対する連帯保証債務について

ア Bが平成6年5月30日に小川信用金庫に対し限度額15億円等の約定で連帯保証したことは否認する。Bは、当時、意思能力がなく、上記の意思表示をしていない。

イ 被告Y1は、平成6年5月30日に小川信用金庫に対し限度額15億円等の約定で連帯保証したが、これは、後記(4)と同様、民法93条ただし書の適用ないし類推適用により履行を求めることはできず、また、上記債務の履行を求めることは、権利の濫用であって許されない。

ウ 小川信用金庫に対し各連帯保証人の連帯保証債務が存在しているとしても、後記(4)のとおり債務者である被告鶴亀に対し債務の履行を請求することができないのであるから、附従性により、各連帯保証人に対し連帯保証債務の履行を求めることはできない。

(4)  小川信用金庫の貸付金について(民法93条ただし書等)

ア 日本リクレート株式会社(以下「日本リクレート」という。)は、栃木県芳賀郡益子町においてステータス益子ゴルフクラブとの名称のゴルフ場(以下「益子ゴルフ場」という。)の開発事業を行っていて、関連会社とともに小川信用金庫からその事業資金の融資を受けていたが、大口融資規制による融資限度額(同一人に対する信用与信限度額は当該信用金庫の自己資本の金額の20%とするものであり、これを超過する融資は銀行法13条、信用金庫法89条に違反する違法貸付けとなる。)を超過したため、これ以上小川信用金庫から融資を受けることが困難となった。他方、小川信用金庫は、日本リクレートやその親会社である株式会社喜創(以下「喜創」という。)などに多額の融資を行っていたので、その回収のため益子ゴルフ場開発事業を是非とも成功させる必要があった。そこで、喜創代表取締役のH(以下「H」という。)らの関係者及び小川信用金庫のI理事長以下役員らは、被告鶴亀代表者の被告Y1に対し、被告鶴亀に債務を負担させないことを約束した上、実質日本リクレートに融資するため、被告鶴亀が形式的に借主になってほしいと依頼した。そこで、被告Y1は、被告鶴亀が貸付金債務を弁済する義務はないものと考えた上で、この依頼を承諾した。

イ 小川信用金庫の被告鶴亀に対する第2の1の(2)のイ、ウ、エ、オ、カの各貸付けは、いずれも、上記のとおり、益子ゴルフ場開発事業に何ら関係しない被告鶴亀が形式的な借主となって、実質日本リクレートに貸し付けた迂回融資であり、この貸付金はすべて日本リクレートが益子ゴルフ場開発事業等のために使用し、被告鶴亀がこれを使用したり、その対価を得たことはなく、また、小川信用金庫は、益子ゴルフ場開発事業の進展に強い関心を抱いていたが、被告鶴亀に上記各貸付金の返済能力がなかったにもかかわらず、被告鶴亀の事業には関心がなく、被告鶴亀に対し上記各貸付金の返済を求めたこともなかった。

ウ したがって、上記各貸付金は、日本リクレートが益子ゴルフ場開発事業から得られるゴルフ会員権売却代金等により返済するものであって、被告鶴亀が返済することが予定されていなかったものであるから、虚偽の意思表示として民法94条により無効であり、また、上記のような脱法行為目的に迂回融資を積極的に行った小川信用金庫は、貸主としての保護に価しないのであり、同法93条ただし書の適用ないし類推適用により、被告鶴亀に対し返済を請求することができない。

エ また、上記各貸付金がいずれも脱法行為目的の迂回融資であることに鑑みれば、原告が被告鶴亀に対しこれらの返済を請求することは、権利の濫用であって許されない。

オ なお、原告は、小川信用金庫から上記各貸付金の譲渡を受けた者であるが、その際、上記の迂回融資であることを認識していたから、民法94条2項の第三者には当たらない。

4  原告の反論

民法93条ただし書等の主張について

(1)  被告鶴亀は、他の企業と共同して、鹿島の杜ゴルフ場開発事業を行っていたところ、東京相和銀行は、被告鶴亀に対し、その運転資金を融資したのである。また、与信額6億円を越える融資については、常務会(社長、副社長、専務取締役、常務取締役、融資本部長、審査部長等を構成員とする。)の審査で融資の可否を決定していたが、同審議会において、被告鶴亀に金員を貸し付けることを決めたが、返済を求めないとの決議はされていないから、民法94条にいう通謀虚偽の事実はない。

また、東京相和銀行が被告鶴亀に金員を貸し付けるについて、債務負担の表示と真意に不一致はないから、民法93条ただし書の適用や類推適用はない。

(2)  被告鶴亀は、他の企業と共同して、益子ゴルフ場開発事業を行っていたところ、小川信用金庫は、被告鶴亀に対し、その運転資金を融資したのであるから、民法94条の適用や民法93条ただし書の適用ないし類推適用の余地はない。

(3)  仮に、民法94条が適用されるとしても、原告は債権の譲受人であるから、民法94条2項に定める善意の第三者であり、被告らは原告に対し無効を主張できない。

第3当裁判所の判断

1  東京相和銀行に関する請求について

(1)  原告の貸付金債権の取得

東京相和銀行が、平成13年6月11日、原告に対し、次の各貸付金債権を譲渡し、その後の同月12日、被告鶴亀に対し、上記債権譲渡の通知をし、もって、原告がこれらの貸付金債権の債権者となったことは、前記前提となる事実で判示したとおりである。

ア 東京相和銀行が、平成4年3月27日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、40億円を貸し付け、この貸付けが、平成6年7月29日、手形貸付けに更改され、その後、返済期日の変更、手形の書換え等が繰り返され、最終弁済期が平成10年10月15日と約定された貸付金

イ 東京相和銀行が、被告鶴亀に対し貸し付けた平成3年11月29日付け8億円及び平成3年12月30日付け5億円の貸付金を借り換えた上、新たに3億円を融資するため、平成4年3月27日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、16億円を貸し付け、これが、平成7年3月29日、手形貸付けに更改され、その後返済期日の変更、手形の書換え等が繰り返され、最終弁済期が平成11年9月13日と約定された貸付金

ウ 東京相和銀行が、昭和61年7月28日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、15億円を貸し付け、その後、返済期日の変更、手形の書換え等が繰り返され、平成7年7月14日に返済期日を平成8年7月12日とする旨約定されたが、その後も変更が繰り返され、最終弁済期が平成11年7月14日と約定された貸付金

エ 東京相和銀行が、平成6年7月29日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、4億円を貸し付け、その後、返済期日等の変更が繰り返され、最終弁済期が平成11年7月29日と約定された貸付金

(2)  民法93条ただし書の適用ないし類推適用の抗弁

ア 被告鶴亀らは、東京相和銀行の被告鶴亀に対する上記貸付金は、いずれも、鹿島の杜カントリーへの迂回融資であって、被告鶴亀の返済が予定されていないなど、被告鶴亀は形式的な借主にすぎなかったから、原告は、民法93条ただし書の適用ないし類推適用により、被告鶴亀に対し上記各貸付金の返済を求めることはできないと主張するので、検討することとする。

イ 東京相和銀行が被告鶴亀に融資をした経緯

前記前提となる事実、関係証拠<省略>、弁論の全趣旨を総合すれば、東京相和銀行が被告鶴亀に融資をした経緯について、次のとおりの事実が認められる。

(ア) 東京相和銀行と被告鶴亀との金銭消費貸借取引

a 被告鶴亀は、C及びB夫婦によって、昭和25年6月5日に設立され、Bが代表取締役に就任して、割烹料理店を経営していた(乙イロニ47の1)。

被告鶴亀は、昭和54年11月29日、東京相和銀行(平成元年2月1日に東京相互銀行から東京相和銀行に商号変更)と相互銀行取引約定を締結し、代表取締役であるBが連帯保証し、以後、東京相和銀行と継続的に金銭消費貸借の取引をするようになった(甲1)。

東京相和銀行は、昭和57年8月31日、被告鶴亀との間で、相互銀行取引約定を締結し直し、代表取締役であるB、役員である被告Y1(C、B夫婦の長男)、被告Y2(同じく2男)がそれぞれ連帯保証し(甲2)、更に、同年11月27日、東京相和銀行に対し、被告鶴亀の債務を包括的に連帯保証する旨のB、被告Y1、被告Y2名義の包括保証約定書を差し入れた(甲3)。

b Bは、昭和60年2月1日、高齢となったため、被告鶴亀の代表取締役を辞任し、その代わりに、被告Y1が、被告鶴亀の代表取締役に就任した(乙ホ8)。その結果、その後の被告鶴亀の主たる業務は、不動産取引業となった。

c 東京相和銀行は、上記商号変更に伴い、平成元年2月28日、被告鶴亀との間で銀行取引約定を締結し直し、代表取締役の被告Y1が被告鶴亀の債務を連帯保証した(甲5)。

d なお、被告鶴亀は、当時、東京都中央区<省略>101番3、宅地、82.28m2を所有し、これと隣接するB所有土地と併せてその上に、昭和39年10月に新築された東京都中央区<省略>101番12、101番3、101番4所在、鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下3階付9階建事務所居宅、家屋番号<省略>101番12の2、延床面積約1800m2の建物(以下、上記被告鶴亀所有土地と併せて「鶴亀ビル」という。)を所有していた(乙4の1ないし3)。

(イ) 鹿島の杜ゴルフ場開発事業

a 鹿島総業株式会社(以下「鹿島総業」という。)は、昭和50年代から、茨城県旧a村において、鹿島の杜カントリー倶楽部と称するゴルフ場(以下「鹿島の杜ゴルフ場」という。)の開発及び運営の計画を立て、この事業に取り組んでいたが、鹿島総業だけでは資金調達が困難であった。そこで、鹿島総業は、他社に協力を要請した結果、J(以下「J」という。)が代表取締役を務める千代田開発観光株式会社(以下「千代田開発観光」という。)がこの事業に参加し、東海興業株式会社(以下「東海興業」という。)も施工業者として協力することとなり、以後、千代田開発観光が主体となって鹿島の杜ゴルフ場開発事業が進められることとなった。

b 被告Y1は、昭和41年ころ、不動産業を営むF(以下「F」という。)と知り合い、それ以降、何回か、Fとの間で不動産取引を行っていた。

Fは、その後、鹿島の杜ゴルフ場開発事業に参画した。

被告Y1は、昭和60年11月ころ、Fから、千代田開発観光の代表取締役であるJを紹介された。

Jは、被告Y1に対し、千代田開発観光の取締役に就任するよう要請した。被告Y1は、これを受けて、昭和61年3月ころ、千代田開発観光の取締役に就任した(甲58)。

ただし、被告Y1が、実際に千代田開発観光の経営に関与したり、役員会に出席したり、出資したことはなく、また、役員報酬等の対価を得ることもなく、いわば名前だけの協力であった。

c Fは、昭和61年夏ころ、被告Y1に対し、鹿島の杜ゴルフ場開発事業を推進するため、株式会社鹿島の杜カントリー倶楽部(以下「鹿島の杜カントリー」という。)を設立するので、これに出資し、役員に就任してほしいと依頼するとともに、鶴亀ビルの一部の賃借を希望した。

被告Y1は、これに応じることとし、被告鶴亀は、昭和61年8月31日、鹿島の杜カントリーに対し、鶴亀ビル8階(121.78m2)9階(38.01m2)を賃貸し、また、鹿島の杜カントリーに対し、被告Y1は900万円を出資して180株を引き受け、被告Y2は100万円を出資して20株を引き受けた。

鹿島の杜カントリーは、昭和61年7月ころ、ゴルフ場運営、管理を目的として、資本金7000万円で設立され、Fが代表取締役会長、Jが代表取締役社長に就任し、被告Y1も取締役に、被告Y2も監査役に就任した(甲59。なお、以下「F会長」、「J社長」ということもある。)。

ただし、被告Y1及び被告Y2が、鹿島の杜カントリーの経営に関与したり、役員会に出席したり、役員報酬等の対価を得たことはなく、同被告らの協力は、付き合いのため形式的に協力したといった程度のものであった。また、被告鶴亀も、後記(ウ)の迂回融資以外には、鹿島の杜ゴルフ場事業に参画したり、その事業に協力したことはなかった。

(ウ) 迂回融資の考案と被告鶴亀への協力依頼

a 鹿島の杜ゴルフ場開発事業には、用地買収資金、コース造成工事代金、建物建築代金等の多額の資金を必要とし、ゴルフ会員権販売代金が入るまでの間、その資金を融資してくれる金融機関が必要であった。

被告Y1は、昭和61年7月ころ、F会長、J社長の依頼に応じて、鹿島の杜カントリーへの融資金融機関として自己の取引金融機関である東京相和銀行銀座支店のK次長(以下「K次長」という。)を紹介した(乙イロニ86)。

東京相和銀行銀座支店は、融資拡大のため新規顧客の開拓をしていたところ、鹿島の杜ゴルフ場開発事業に着目し、現地を視察するなどした上、これに融資することを前向きに検討したが、東京相和銀行と鹿島の杜カントリーとの間には取引実績がなく、また、鹿島の杜カントリーはまだ担保に提供すべき不動産を取得していなかったため、鹿島の杜カントリーに直接多額の融資を実行できる状況にはなく、これを強行しても大蔵省の検査を通るものではなかった。

そこで、東京相和銀行のK次長、鹿島の杜カントリーのF会長、J社長らが協議した結果、取引実績のある被告鶴亀の協力を得て、被告鶴亀の名義を借用して、形式的には被告鶴亀に融資を行うが、その融資金をすべて鹿島の杜カントリーが使用する仕方で、実質的には、東京相和銀行が鹿島の杜カントリーに対し鹿島の杜ゴルフ場開発事業資金を融資するという迂回融資の方法を考え出した。

b そして、F会長、J社長が、被告Y1に対し、迷惑をかけないので鹿島の杜ゴルフ場開発事業への迂回融資のため、被告鶴亀の名義を借用させてほしい旨再三依頼したが、被告Y1はこれを承諾しなかった。

そこで、東京相和銀行銀座支店のG支店長が、昭和61年7月ころ、被告鶴亀を訪れ、被告Y1に対し、貸付金はすべて鹿島の杜カントリーが鹿島の杜ゴルフ場開発事業のため使用するが、ゴルフ会員権売却代金で確実に返済するので、被告鶴亀が返済の責任を負うことはなく、東京相和銀行も上記ゴルフ会員権の売却に協力する予定であるなどと説明して、東京相和銀行が鹿島の杜カントリーに対し上記ゴルフ場開発事業資金を迂回融資することについて、被告鶴亀が名義上の借主となってこれに協力してほしい旨依頼した。これに対し、被告Y1は、被告鶴亀が返済責任を負わないものと理解し、東京相和銀行と被告鶴亀との取引を円滑にする必要性を考慮して、この申出を承諾した。

(エ) 迂回融資の実行

a 昭和61年7月28日付け15億円の融資

東京相和銀行は、昭和61年7月28日、被告鶴亀に対し、転貸資金名目で、手形貸付けの方法により15億円を貸し付け、鶴亀ビルに15億円の2番根抵当権を設定し、被告Y1がこれに連帯保証した(甲34の1、甲35の1、乙4の2)。

この融資の内容及び手続は、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者が打ち合わせて決めたものであり、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなく、事後承諾しただけであった。なお、鶴亀ビルには、当時、既に30億円の1番抵当が設定されていて、15億円もの担保余力はなかった(乙4の1ないし4)。

上記貸付金は、東京相和銀行から同銀行の被告鶴亀の普通預金口座に入金されたが、そのまま同銀行の鹿島の杜カントリーの普通預金口座に送金され、鹿島の杜ゴルフ場開発事業等のために使用された。被告鶴亀は、貸付金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するとかの利益は、何も得なかった(乙1の1の1、2)。

その後、上記貸付金の返済時期は、東京相和銀行と被告鶴亀との間で、何回か延長され、最終弁済期が平成11年7月14日と約定されたが、この交渉も、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者がゴルフ会員権販売状況等の事情に合わせて決めたものであり、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなく、決まった内容を事後的に承諾し、その関係書面に押印しただけであった。

b 東京相和銀行の返済阻止

鹿島の杜カントリーは、平成2年7月、地鎮祭を行い、コース造成工事を開始した。そして、平成2年から、ゴルフ会員権を大々的に売り出し、東京相和銀行もこれに協力した結果、1口3000万円のゴルフ会員権を200口近く販売し、多額の資金を得ることができた。

そこで、鹿島の杜カントリーのJ社長は、平成2年4月ころ、東京相和銀行銀座支店のL支店長に対し、上記aの借入金全額を返済したいと告げたが、銀座支店の融資取扱額の減少危惧したL支店長から、返済を思いとどまるよう要請され、これを思いとどまった。その結果、鹿島の杜カントリーは、平成2年4月20日、一旦、被告鶴亀の口座に上記貸付金元金15億と利息の合計16億8478万0821円を振り込んだが、上記要請に基づき、被告鶴亀は平成2年6月25日、これを定期預金にした上、15億円を鹿島の杜カントリーに引き渡すなどして、結局、貸付金の返済はされず、被告鶴亀がこれから利得したこともなかった(乙イロニ89、90、92の1、2)。

c 平成3年11月29日付け8億円の融資

東京相和銀行は、平成3年11月29日、被告鶴亀に対し、転貸資金名目で、8億円を貸し付けた。この貸付けには、上記aの保証及び担保以外の追加担保の設定はなかった。

この融資の内容及び手続は、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者が打ち合わせて決めたものであり、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなく、決まった内容を事後承諾しただけであった。

上記貸付金は、東京相和銀行から同銀行の被告鶴亀の普通預金口座に入金されたが、そのまま同銀行の鹿島の杜カントリーの普通預金口座に送金され、鹿島の杜ゴルフ場開発事業等のため使用された。被告鶴亀は、融資金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するとかの利益は、何も得なかった(乙イロニ93、94)。

その後、上記貸付金の返済時期は、東京相和銀行と被告鶴亀との間で、何回か延長されたが、この交渉も、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者がゴルフ会員権販売状況等の事情に合わせて決めたものであり、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなく、決まった内容を事後的に承諾し、関係書面に押印しただけであった。

d 平成3年12月30日付け5億円の融資

東京相和銀行は、平成3年12月30日、被告鶴亀に対し、転貸資金名目で、5億円を貸し付けた。この貸付けには、上記aの保証及び担保以外の追加担保の設定はなかった。

この融資の内容及び手続は、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者が打ち合わせをして決めたものであり、被告鶴亀の代表者の被告Y1がこれに加わったことはなく、決まった内容を事後承諾しただけであった。

上記貸付金は、東京相和銀行から同銀行の被告鶴亀の普通預金口座に入金されたが、そのまま同銀行の鹿島の杜カントリーの普通預金口座に送金され、鹿島の杜ゴルフ場開発事業資金等のため使用された。被告鶴亀は、融資金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するとかの利益は、何も得なかった(乙イロニ93、95)。

その後、上記貸付金の返済時期は、何回か延長されたが、この交渉も、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者がゴルフ会員権販売状況等の事情に合わせて決めたものであり、被告鶴亀代表者である被告Y1がこれに加わったことはなく、決まった内容を事後的に承諾し、関係書面に押印しただけであった。

e 平成4年3月27日付け16億円の融資

東京相和銀行は、平成4年3月27日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、16億円を貸し付けた。この内訳は、上記平成3年11月29日付け8億円、平成3年12月30日付け5億円の各貸付金の借り換え資金と新たに貸し付ける3億円であった。そして、使徒を転貸資金、ゴルフ会員権募集代金の充当により返済されるとされ、上記aの保証及び担保以外の追加担保の設定はなかった(甲34の3、甲35の3)。

上記貸付金の内容及び手続は、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者が打ち合わせて決めたものであり、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなく、決まった内容を事後承諾しただけであった。

上記貸付金は、東京相和銀行から同銀行の被告鶴亀の普通預金口座に入金されたが、8億円と5億円は、上記平成3年11月29日付け8億円、平成3年12月30日付け5億の各貸付金の返済に充てられ、残りの3億円はそのまま同銀行の鹿島の杜カントリーの普通預金口座に送金され、鹿島の杜ゴルフ場開発事業等のため使用された。被告鶴亀は、融資金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するとかの利益は、何も得なかった(乙1の2の1、2)。

上記貸付金は、平成7年3月29日、手形貸付に更改され、その後返済期日等の変更を繰り返し、最終弁済期が平成11年9月13日と約定された(甲7の1、2)。この交渉も、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者がゴルフ会員権販売状況等の事情に合わせて決めたものであり、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなく、決まった内容を事後的に承諾し、関係書面に押印しただけであった。

f 平成4年3月27日付け40億円の融資

東京相和銀行は、平成4年3月27日、被告鶴亀に対し、転貸資金名目で、40億円を貸し付け、被告Y1と東海興業がこれを連帯保証した。返済原資はゴルフ会員権の売却代金とされたが、上記aの担保以外の追加担保の設定はなかった(甲34の2、甲35の2)。

上記貸付金の内容及び手続は、鹿島の杜カントリーのJ社長、F会長、東海興業のM部長と東京相和銀行銀座支店のN支店長らが打ち合わせて決めたものであり、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなかった。そして、被告Y1は、F会長から上記貸付金の承諾を求められたので、平成4年3月9日ころ、東京相和銀行銀座支店のN支店長と面談したが、同人から、被告鶴亀を通さないと鹿島の杜カントリーに融資できず、ゴルフ会員権販売収入により回収するので、被告鶴亀は心配することない旨説明を受け、これを信頼して上記融資を承諾したものであった。

上記貸付金は、東京相和銀行から同銀行の被告鶴亀の普通預金口座に入金されたが、そのまま同銀行の鹿島の杜カントリーの普通預金口座に送金され、鹿島の杜ゴルフ場開発事業資金等のため使用された。被告鶴亀は、融資金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するとかの利益は、何も得なかった(乙1の2の1、2)。

上記貸付金は、平成6年7月29日、被告鶴亀が手形を差し入れて手形貸付に更改され、平成9年11月28日、鹿島の杜カントリー、被告Y1が連帯保証した(甲9)。その後返済期日の変更等を繰り返し、最終弁済期が平成10年10月15日と約定された(甲6の1ないし3)。この交渉も、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者がゴルフ会員権販売状況等の事情に合わせて決めたものであり、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなく、決まった内容を事後的に承諾し、関係書面に押印しただけであった。

(オ) 資金流用による混乱

a 鹿島の杜ゴルフ場の封鎖等

鹿島の杜ゴルフ場開設事業について、平成5年春ころ、J社長、F会長らが資金約70億円を私的流用していたことが発覚した(乙イロニ96)。

そこで、鹿島の杜ゴルフ場開設事業に参画していた東海興業のO社長は、平成5年5月下旬ころ、被告Y1に対し、東海興業が援助するとして、J社長を鹿島の杜カントリーの代表取締役から解任し、被告Y1が代表取締役に就任して、鹿島の杜カントリーを運営してくれるよう依頼した。また、東京相和銀行銀座支店のP支店長も、鹿島の杜ゴルフ場開設事業を円滑に推進させる趣旨から、被告Y1に対し、同様の依頼をした。被告Y1は、やむを得ず、これを承諾し、平成5年6月16日開催の鹿島の杜カントリーの取締役会において、J社長が代表取締役を辞任し、被告Y1が代表取締役に就任した(甲59)。当時、鹿島の杜ゴルフ場は、大部分の工事が完了し、平成5年10月13日に仮オープンすることが予定されていた。

しかし、鹿島の杜カントリーに対し多額の工事代金債権(約99億円)を有する東海興業は、上記工事代金債権を回収するため、平成5年10月13日、鹿島の杜ゴルフ場を鉄柵で囲って封鎖し、同日の仮オープンは中止された(乙イロニ97、98)。

そして、東京相和銀行と東海興業との間で、平成5年11月ころから平成6年1月ころにかけて、封鎖解除の条件等について交渉が行われたが難航し、結局、東海興業は、ゴルフ会員権募集及び売上金管理の会社を新たに設立し、その収入で工事代金の回収を図ることを計画し、被告Y1もこれに同意した。

そこで、東海興業らが出資して鹿島の杜サービス株式会社(以下「鹿島の杜サービス」という。)が設立され、鹿島の杜カントリーと鹿島の杜サービスないしその関係会社との間で、平成6年6月10日付け合意書、同年7月26日付け業務委託契約書が取り交わされ、ゴルフ会員権の募集、その売上金の管理、現場管理、運営等の鹿島の杜ゴルフ場の主要な業務は、すべて鹿島の杜カントリーが東海興業に委託し、東海興業が鹿島の杜サービスに再委託することとなり、その結果、鹿島の杜ゴルフ場の経営は完全に鹿島の杜サービスの権限となり、その収益は鹿島の杜サービスが管理した上で東海興業への返済に充てられることとなって、鹿島の杜カントリーは、鹿島の杜ゴルフ場の経営権限のすべてを失った(乙イロニ100ないし102)。

そして、鹿島の杜ゴルフ場は、平成6年7月26日に至って、やっと仮オープンした。

b 平成6年7月29日付け4億円の融資

東京相和銀行銀座支店長Qは、平成6年7月ころ、東海興業以外の債権者の妨害により鹿島の杜ゴルフ場の仮オープンが不能となる事態を避けようと考え、各業者への返済原資とするため、被告Y1に対し、被告鶴亀名義の迂回融資を承諾してほしいと要請し、鹿島の杜ゴルフ場の収益から返済するので迷惑はかけないと説明した。被告Y1は、当初これを固辞したが、最終的には承諾した。

その結果、東京相和銀行は、平成6年7月29日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、4億円を貸し付け、被告Y1、鹿島の杜カントリーが連帯保証し、上記(エ)aの担保以外に、被告鶴亀が渋谷区に所有する土地建物を担保に供した(甲10)。その使途は鹿島の杜カントリーへの転貸資金とし、ゴルフ会員権募集代金により返済するとされた(甲34の5、甲35の4)。

上記貸付金は、東京相和銀行から同銀行の被告鶴亀口座に入金された上、そのまま同銀行の鹿島の杜カントリーの口座に送金され、鹿島の杜ゴルフ場開発事業のために使用された。被告鶴亀は、貸付金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するとかの利益は、何も得なかった(乙1の3の1、2)。

上記貸付金は、返済期日等の変更を繰り返し、最終弁済期が平成11年7月29日と約定された。

(カ) 東海興業及び東京相和銀行の経営破綻

a 鹿島の杜カントリーは、上記のとおり、鹿島の杜ゴルフ場を経営する権限を喪失していたため、平成7年2月以降、資金がストップし、日常経費もまかなえなくなり、これを被告Y1が自ら負担していた。

b しかるところ、東海興業は、平成9年7月4日、会社更生法の適用を申請し、東京地方裁判所から会社更生開始決定がされ、事実上倒産した(乙イロニ1)。

c 東海興業が倒産したため、東海興業の保証により貸し付けた上記(エ)fの40億円の貸付金の利払いが遅滞するおそれが生じた。そこで、東京相和銀行は、新たに資金を拠出して、東海興業から鹿島の杜ゴルフ場に関するすべての権利を取得する方向で問題を解決することを考え、平成10年5月ころから、東海興業の管財人らと交渉を進め、そのことを被告Y1に協力するよう要請した(乙イロニ106、107、109)。

d ところが、平成11年6月12日、東京相和銀行自身が破綻してしまい、上記交渉は破談となった。

(キ) 東京相和銀行の融資の仕組み等

a 東京相和銀行は、与信額6億円を超えるものは、支店長等に融資の決裁権原を授与しておらず、すべて、社長、副社長、専務、常務等が構成員となる審査常務会の審査により融資の可否を決定するものとし(甲56の1、2)、それ以下の金額の与信についても、それぞれの決裁権者が決められていた。

b 上記審査常務会ないし各決裁権者において、被告鶴亀への上記各融資について、鹿島の杜カントリーへの転貸資金であり、鹿島の杜ゴルフ場のゴルフ会員権売却代金により返済されるものとして審査され、許可されていた(甲35の1ないし7)。また、被告鶴亀が提供した担保は、東京相和銀行の上記各貸付金の支払を担保するに足りないものであったが、これが上記審査等において問題となった形跡はなく、また、借主とされた被告鶴亀自身の業績等に注意が払われた形跡もない。

c 東京相和銀行は、前記のように、上記貸付金の返済について、鹿島の杜ゴルフ場事業のゴルフ会員権販売代金からの返済を見込み、この事業を運営していた鹿島の杜カントリーのJ社長らと協議を続けていたが、被告鶴亀に対しては、上記貸付金の返済方法について協議を求めたことがなく、また、その返済を迫ったり、担保の処分等の現実の弁済方法を検討するよう求めたこともなかった。

ウ 民法93条ただし書の類推適用

(ア) 上記認定事実によれば、東京相和銀行の被告鶴亀に対する上記各融資の実情をまとめると、次のようなものであったものと認められる。

a 東京相和銀行銀座支店は、融資拡大のため、鹿島の杜ゴルフ場開発事業に融資したいと考えたが、事業主体の鹿島の杜カントリーに取引実績や担保がなく直接融資を実行できなかったので、上記事業の関係者らと相談し、被告鶴亀の名義を借用して、形式的には被告鶴亀に融資を行うが、その資金をすべて鹿島の杜カントリーが使用する方法で、実質的には、東京相和銀行が鹿島の杜カントリーに対し事業資金を融資するという迂回融資の仕組みを考案し、P銀座支店長が、被告鶴亀代表者の被告Y1に対し、ゴルフ会員権売却代金で確実に返済するので、被告鶴亀が返済の責任を負うことはないと説明して、被告鶴亀の協力を求め、これに対し、被告Y1は、上記仕組みを了解した上、被告鶴亀が返済責任を負わないものと理解して、この依頼に応じたものである。

b 上記イ(エ)a、c、d、e、fの各迂回融資の内容、手続、返済期限の延長等は、鹿島の杜カントリーのJ社長と東京相和銀行銀座支店の担当者らが鹿島の杜ゴルフ場のゴルフ会員権販売状況等の事情に合わせて決めたものであって、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなかった。また、上記イ(オ)bの融資は、東京相和銀行銀座支店のP支店長が、被告鶴亀に対し、直接迂回融資を承諾するよう要請したものである。そして、各貸付金は、東京相和銀行から同銀行の被告鶴亀の普通預金口座を経由してすべて鹿島の杜カントリー等に送金され、鹿島の杜ゴルフ場開発事業資金等のため使用された。被告鶴亀は、融資金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するとかの利益は何も得ていなかったし、上記迂回融資以外には、鹿島の杜ゴルフ場事業に参画したり、その事業に協力したこともなかった。

c 東京相和銀行は、上記のゴルフ会員権販売状況等には強い関心を抱いていたが、他方、借主とされていた被告鶴亀については、その業績に注意を払ったり、貸付金の返済方法について協議を求めたりしたことはなく、また、その返済を迫ったり、担保の処分等の現実の弁済方法を検討するよう求めたこともなかった。その上、被告鶴亀の提供した担保は、上記貸付金の支払を担保するに足りないものであったが、その追加を求めたこともなかった。

d 東京相和銀行銀座支店のL支店長は、鹿島の杜カントリーから貸付金15億円の返済の申出を受けながら、銀座支店の融資取扱額の減少を危惧して、返済を思いとどまるよう要請し、その結果、これが返済されないこととなったが、本訴では、原告は、上記貸付金の返済も請求している。

e 上記各貸付金が、鹿島の杜カントリーへの転貸資金であり、鹿島の杜ゴルフ場のゴルフ会員権売却代金により返済されるものであること等の事情は、審査常務会等にも明らかにされて決済が得られていたことからすると、上記迂回融資の仕組みは、銀座支店だけの認識ではなく、東京相和銀行の役員等も認識し、了解していたものとうかがわれる。

(イ) 上記の事実に照らすと、東京相和銀行は、本来は融資できない鹿島の杜カントリーに融資するため、迂回融資の仕組みを考案し、被告鶴亀にその協力を依頼したのであるから、単に被告鶴亀の借主名義を借用したにすぎず、被告鶴亀に返済を求める意思がなかったばかりか、被告鶴亀に対しても、返済を求めない旨を約していたのであり、他方、被告鶴亀も、返済義務がないものと信じてこれに協力し、それによって何らの利得も得ていないのである。そうすると、東京相和銀行が、被告鶴亀を借主とする上記(1)アないしエの各金銭消費貸借契約において、貸主としての保護を受けるに値しないことは明らかである。また、金銭消費貸借契約を締結しながら、返済を求めないという点において、東京相和銀行と被告鶴亀双方の意思が合致していることに鑑みれば、民法93条ただし書が類推適用されるものというべきである。

したがって、上記のような各貸付金債権を譲り受けた原告は、被告鶴亀に対しこれらの返還を求めることは許されないものというほかない。

(ウ) なお、①被告Y1、被告Y2が当初鹿島の杜カントリーの株主となり、取締役や監査役に就任しており、また、その後、②被告Y1が鹿島の杜カントリーの代表取締役に就任し、③被告鶴亀が鹿島の杜カントリーに鶴亀ビルの一部を賃貸していたが、①は、名目的なものであって、被告Y1や被告Y2が実際に鹿島の杜カントリーの経営に従事したことはなく、②も、被告Y1が現実に鹿島の杜ゴルフ場を運営することはならず、③は、通常の賃貸借にすぎないのであるから、上記各事実は、上記(イ)の判断を左右するものではない。

(3)  連帯保証人の責任

原告の被告鶴亀に対する上記(1)アないしエの各貸付金債権の返還請求が認められない以上、保証契約の附従性により、その連帯保証人に対する請求も許されないものというべきである。したがって、連帯保証人としての責任を負うか否かを検討するまでもなく、原告の被告Y1、被告Y2に対する請求は、いずれも理由がない。

(4)  まとめ

以上のとおり、原告の被告らに対する本訴請求のうち、東京相和銀行から譲り受けた上記上記(1)アないしエの貸付金債権の返還を求める部分の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

2  小川信用金庫に関する請求について

(1)  原告の貸付金債権の取得

小川信用金庫が、平成13年1月9日、原告に対し、次の各貸付金債権を譲渡し、その後の同月10日、被告鶴亀に対し、上記債権譲渡の通知をし、もって、原告がこれらの貸付金債権の債権者となったことは、前記前提となる事実で判示したとおりである。

ア 小川信用金庫が、平成6年5月30日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、5億円を貸し付け、その後、返済期日の変更、手形の書換等が繰り返され、最終弁済期が平成12年3月31日と約定された貸付金

イ 小川信用金庫が、平成6年7月12日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、5億円を貸し付け、その後、返済期日の変更、手形の書換等が繰り返され、最終弁済期が平成12年3月31日と約定された貸付金

ウ 小川信用金庫が、平成6年11月29日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、5億円を貸し付け、その後、返済期日の変更、手形の書換等が繰り返され、最終弁済期が平成12年3月31日と約定された貸付金

エ 小川信用金庫が、平成7年7月28日、被告鶴亀に対し、手形貸付けの方法により、13億円を貸し付け、その後返済期日等の変更が繰り返され、最終弁済期が平成10年12月30日と約定された貸付金

オ 小川信用金庫が、平成8年8月19日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、弁済期平成12年12月31日の約定で24億円を貸し付けた貸付金

(2)  民法93条ただし書の適用ないし類推適用の抗弁

ア 被告鶴亀らは、小川信用金庫の被告鶴亀に対する上記各貸付金は、いずれも、日本リクレート等への迂回融資であって、被告鶴亀は形式的な借主にすぎなかったから、原告は、民法93条ただし書の適用ないし類推適用により、被告鶴亀に対し上記各貸付金の返済を求めることはできないと主張するので、検討することとする。

イ 小川信用金庫が被告鶴亀に融資をした経緯

前記前提となる事実、関係証拠(甲54、乙10、11、14ないし16、乙イロニ8、9、57、証人H、被告Y1、被告Y2及び関係箇所に掲記の各証拠箇所)、弁論の全趣旨を総合すれば、小川信用金庫が被告鶴亀に融資をした経緯について、次のとおりの事実が認められる。

(ア) 喜創グループの益子ゴルフ場開発事業

a H(以下「H」という。)は、昭和57年9月、不動産事業を目的とする株式会社喜創(以下「喜創」という。)を設立し、代表取締役に就任した。喜創は、小川信用金庫から事業資金を借り受けて順調に事業を拡大し、株式会社泰栄、ワイ・ジェイ・ワイ株式会社(後に喜創商事に商号変更)などのグループ企業(以下「喜創グループ」という。)も形成された(乙イロニ12の1、2、乙イロニ14、15)。

ところが、喜創グループの不動産事業は、いわゆるバブルの崩壊により、平成2年以降停滞した。他方、小川信用金庫も、喜創グループに対する約14億円の貸付金債権の回収が難しくなり、平成3年5月の大蔵省の定例検査でも、この点が指摘された(乙イロニ16の1ないし7、乙イロニ17の1ないし4、乙イロニ18の1ないし5)。

b そこで、喜創グループは、新たにゴルフ場開発事業に進出して経営の打開を計ろうと企図し、平成3年ころ、日本リクレートが栃木県芳賀郡益子町において行っていた益子ゴルフ場開発事業を取得しようと考えた。当時、上記ゴルフ場開発事業は、ゴルフ場開発行為に対する行政当局との事前協議が完了し、開発行為の本申請が受理され、ゴルフ場用地の地主らの同意もほぼ取り付けられており、開発許可が下りれば、造成工事等の開発工事に着手するばかりであり、平成6年6月には開場できるものと見込まれていた(乙イロニ27、28、31の1)。

喜創は、益子ゴルフ場のゴルフ会員権販売利益で返済するとして、小川信用金庫に対し、上記ゴルフ場開発事業取得の資金を融資してくれるよう依頼した。これに対し、小川信用金庫は、喜創グループへの貸付金回収の目処が立たず苦慮していたので、上記貸付金の回収を図るため、益子ゴルフ場開発事業の成功に期待して、この依頼を承諾し、これに加え、上記ゴルフ場開発事業を支援すると表明した。

そこで、喜創は、益子ゴルフ場開発事業取得の方法として、平成3年10月31日、小川信用金庫からの融資金60億円により、日本リクレートの株式を所有する株式会社ジェービーエフから日本リクレートの全株式を代金57億円で買収した(乙イロニ22ないし24、26)。

(イ) 小川信用金庫の益子ゴルフ場開発事業への融資と回収不能の危険性

a 小川信用金庫は、益子ゴルフ場開発事業に必要な資金について、喜創及び日本リクレートに対し、それぞれ融資をするようになった。また、ゴルフ会員権販売の提携ローンを受け付け、営業エリア外でも他の信用金庫に協力を依頼し、日本リクレートの新株発行に際し、5%、400万円を出資するなどの協力もした(乙イロニ34)。それだけでなく、小川信用金庫は、平成3年11月に役員等2名を喜創の非常勤取締役として派遣し、平成5年4月からは、職員2名を部長等の常勤職員として出向させ、もって、喜創グループを自己の管理下に置いた上、上記事業を全面的に支援するようになった(乙5)。

b 益子ゴルフ場開発事業は、平成4年9月10日にゴルフ場の開発許可が得られ、同年10月にゴルフ場造成工事に着手し、ゴルフ会員権の販売が開始された(乙イロニ29、30、31の1、2)。

c ところで、小川信用金庫の喜創グループに対する融資額が年々増加した結果、平成5年12月当時、小川信用金庫の喜創グループに対する融資額は、喜創に対し約51億円、日本リクレートに対し約30億円等合計90億円を超えるに至っており、この融資残高は、既に大口融資規制(概ね、同一人に対する信用供与限度額は、信用金庫の自己資本の20%以内とするものであり、これを超える融資は信用金庫法89条、銀行法13条に違反することになるといわれていた。)の上限を超えている可能性があった(乙イロニ16の4、乙イロニ17の3、4、乙イロニ18の4、乙イロニ19の3)。

そして、大蔵省関東財務局の平成6年1月の定例検査(乙イロニ111)において、喜創グループへの融資が貸出限度額を超過しているとの指摘がされるに至って、小川信用金庫としては、喜創グループに対しこれ以上融資を行うことが困難となり、平成6年1月以降の追加融資を停止した上、同年4月ころ、このことを喜創グループの責任者であるHに伝えた。

当時、益子ゴルフ場開発事業は、造成工事が殆ど進捗しておらず、そのため、ゴルフ会員権販売もほとんど進んでいない状況であり、追加融資がなければ、喜創グループは貸付金の金利すらも支払えず、益子ゴルフ場開発事業自体が破綻してしまう危機的な状況に陥っていた。そして、上記事業が破綻した場合、小川信用金庫は約90億円の融資のほとんどが回収不能となるものと予想され、他方、完成までにまだ約100億円が必要になるものと予定されていた(甲54、乙イロニ26、31の1ないし4)。なお、喜創グループの当時の連結決算は13億円余の債務超過とされていた(乙イロニ26)。

そこで、Hは、他の金融機関に対し融資を要請し、また、事業資金を提供してくれる他の有力なパートナーを捜すなどしたが、いずれも功を奏しなかった。

(ウ) 迂回融資の考案と迂回融資の依頼

a 小川信用金庫は、巨額の貸付金の返済が回収不能になる危険性があるという危機的状況に陥り、平成6年5月17日の常勤役員会において、喜創グループに対し、資金援助を続けるか、うち切るかを検討したが、結局、益子ゴルフ場開発事業を破綻させないこととし、今後も喜創グループに全面的な資金援助を続けることを決めたが(乙イロニ57、58)、そうすることには多くの困難や危険が生じることが予想されていた。

そして、小川信用金庫は、Hと相談した上、大口融資規制を表面上隠蔽し、逃れるため、迂回融資、すなわち、第三者の名義を借用して、形式的には第三者に融資を行うが、その資金をすべて喜創グループが使用する方法で、実質的には、小川信用金庫が喜創グループに上記事業資金を融資するという迂回融資の仕組みを考え出した。その第三者は、資本的、人的に喜創グループと関係がない上、益子ゴルフ場開発事業に参加せず、また、報酬も求めないような企業であることが望ましかった。そこで、小川信用金庫は、Hに対し、このような協力先を探すよう指示した。

b 被告鶴亀は、前記1の(2)のイの(ア)で説示した会社である。すなわち、東京都中央区<省略>に本店を置く資本金1000万円の株式会社であり、本店所在地に昭和39年10月に建築された地上9階、地下3階の鶴亀ビルを所有し、被告Y1が代表取締役、被告Y2が取締役に就任していた同族会社であり、平成6年当時、不動産業を営んでいた。当時の売上は年間約2億円、利益は約4000万円程度であった(乙イロニ49の1ないし4)。

被告Y1は、Hと交遊があったところ、平成4年11月4日、Hの要請を受けて、日本リクレートの取締役に就任していた(乙21の3)。しかし、被告Y1が実際に日本リクレートの経営に関与したことはなく、いわば名前だけの協力であった。

c Hは、平成6年4月ころ、被告Y1に対し、小川信用金庫の益子ゴルフ場開発事業に対する融資が大口融資規制の限度に達しているので、被告鶴亀が形式的な借主となって、喜創グループへの迂回融資に協力してほしいと依頼し、被告Y1を小川信用金庫の幹部職員に引き合わせたりしたが、被告Y1はこれを承諾しなかった。そこで、H及び小川信用金庫の幹部職員は、形式的な借主になるだけで、実質的な借主は日本リクレートであること、被告鶴亀は債務の返済責任を負わないこと、小川信用金庫も上記内容を了解していて、貸付金の返済請求をしないこと等を述べて、後記エの15億円の迂回融資について、再度協力を求めた。

そこで、被告Y1及び被告Y2は、平成6年5月26日、小川信用金庫を訪れ、I理事長、R専務理事、S常務理事、T理事・審査部部長ら小川信用金庫の経営陣と面談したところ(乙イロニ36の5ないし9)、同人らは、被告Y1及び被告Y2に対し、被告鶴亀には絶対に迷惑をかけない旨述べて、被告鶴亀が上記迂回融資に協力してくれるよう強く求めた。

上記の結果、被告Y1は、被告鶴亀が返済責任を負うことはないものと理解し、被告鶴亀に迷惑がかからないということであるならばと述べて、小川信用金庫に対し、上記迂回融資に協力することを約束した。

d 小川信用金庫、喜創グループ、被告鶴亀らは、迂回融資を行う準備として、次のことをおこなった。

(a) 被告鶴亀に対する貸付金の使途を、被告鶴亀が販売のため日本リクレートから仕入れた益子ゴルフ場ゴルフ会員権の仕入資金とすることとし、日本リクレートと被告鶴亀との間で、同ゴルフ会員権募集業務委託契約書を取り交わした(日付を遡らせている。乙イロニ50。)。しかし、被告鶴亀は、同ゴルフ会員権販売を行う予定はなく、上記契約内容は、迂回融資を隠蔽するための全くの虚偽のものであり、後記融資でもこれが貸付金の使途とはされていない。

(b) 小川信用金庫から融資を受けるためには、小川信用金庫の営業エリア内に支店が必要であったところ、平成6年5月26日に浦和市の喜創の支店の場所に被告鶴亀の支店登記をした(乙イロニ47の1、乙イロニ62の1ないし5)。しかし、被告鶴亀が同場所を支店として利用したことはなく、これも、迂回融資を隠蔽するため形式を整えただけのものであった。

(c) 被告鶴亀は、平成6年5月30日、小川信用金庫との間で、信用金庫取引約定を締結し、被告Y1が連帯保証し(甲13)、被告鶴亀の手形貸付けについて、Bが小川信用金庫に対し15億円を限度とする内容の限定保証約定証が作成された(甲14)。しかし、Bは当時入院中で判断能力もない状態であり、被告Y2が保証人欄にBの氏名を代筆したものであるが、小川信用金庫は、上記代筆の事実を認識していたが、Bの状況を確認しようとしないばかりか、その保証意思の確認をもしようとはしなかった(乙ホ1、12)。

(d) 小川信用金庫のために、鶴亀ビルに極度額15億円の根抵当権が設定された。しかし、鶴亀ビルは、当時約20億円程度の価値があったものの、既に100億円の先順位担保権が設定され、担保余力は全くなかった(乙イロニ61、乙4の1ないし4)。したがって、これも、迂回融資を隠蔽するため形式的に設定したにすぎないものであった。

(エ) 平成6年の15億円の融資

a 上記(ウ)の経過を経て、小川信用金庫は、被告鶴亀に対し、次のとおり、合計15億円を貸し付けた。

b 小川信用金庫は、平成6年5月30日、被告鶴亀に対し、被告鶴亀振出、被告Y1手形保証の5億円の約束手形を差し入れさせて、手形貸付の方法により、5億円を貸し付けた(甲15の1、2)。この使徒は、貸金業に伴う運転資金とされ、軽井沢ゴルフ用地売却代金により元利一括返還とされた(甲19、20、37)。しかし、被告鶴亀は貸金業を営業しておらず、また、軽井沢ゴルフ場用地売却代金(乙イロニ51、52)は既に他の金融機関からの債務の返済に充てられることが決まっており、小川信用金庫に回せるものはなかった。

上記貸付金は、小川信用金庫の被告鶴亀の口座に入金となったが、そのまま、さくら銀行の被告鶴亀口座を経由して、日本リクレートないし喜創のさくら銀行の口座に送金され、益子ゴルフ場開発事業のため使用された(甲21、乙3、乙イロニ63、64)。被告鶴亀は、貸付金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するといったこともなく、結局、何の利益も得なかった。

c 小川信用金庫は、平成6年7月12日、被告鶴亀に対し、被告鶴亀振出、被告Y1手形保証の5億円の約束手形を差し入れさせて、手形貸付の方法により、5億円を貸し付けた(甲16の1、2)。この使途は、貸金業に伴う運転資金とされ、軽井沢ゴルフ用地売却代金により元利一括返還とされていた(甲19、20)。しかし、上記bのとおり、被告鶴亀は貸金業を営業しておらず、また、軽井沢ゴルフ用地売却代金は既に他の金融機関の返済に充てられることが決まっていた。

上記貸付金は、小川信用金庫の被告鶴亀の口座に入金となったが(甲22)、そのまま、さくら銀行の被告鶴亀口座を経由して、日本リクレートのさくら銀行口座に送金され、益子ゴルフ場開発事業のために使用された(乙3、乙イロニ63、64)。被告鶴亀は、貸付金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するといったこともなく、結局、何の利益も得なかった。

d 小川信用金庫は、平成6年11月29日、被告鶴亀に対し、被告鶴亀振出、被告Y1手形保証の5億円の約束手形を差し入れさせて、手形貸付の方法により、5億円を貸し付けた(甲17の1、2)。この使途は、貸金業に伴う運転資金とされ、軽井沢ゴルフ用地売却代金により元利一括返還とされていた(甲19、20、)。しかし、上記bのとおり、被告鶴亀は貸金業を営業しておらず、また、軽井沢ゴルフ用地売却代金は既に他の金融機関の返済に充てられることが決まっていた。

上記貸金は、小川信用金庫の被告鶴亀の口座に入金となったが、そのまま、さくら銀行の被告鶴亀口座を経由して、日本リクレートのさくら銀行口座に送金され、益子ゴルフ場開発事業のため使用された(乙3、乙イロニ63、64)。被告鶴亀は、貸付金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するとかいったこともなく、結局、何の利益も得なかった。

e 上記合計15億円の貸付金額、貸付時期、返済期限等の契約条件並びに入金された金員の送金手続等は、小川信用金庫の担当者とHとの間で協議されて決められ、被告Y1がこれに関与したことはなく、両者間で決まった内容について、事後に承諾しただけであった。

その後、上記各貸付金について、返済期日の延長(甲30、31)が繰り返されたが、これも小川信用金庫の担当者とHが協議して決めたことであって、被告Y1が関与したことはなく、事後に承諾した上、返済延長依頼書等の関係書類に記名押印をしただけであった(甲30、41の3、甲44の1、2)。

(オ) 小川信用金庫の日本リクレートに対する管理監督

小川信用金庫は、上記融資迂回融資をしたことに伴い、喜創に対する経理チェックを強化し、平成5年4月から始まっていた職員2名の派遣に加え、平成6年7月から更に職員1名を追加して派遣した。そして、平成6年6月15日ころから、喜創や日本リクレートは、毎月、小川信用金庫に対し、予算・実績表の報告、補助簿提出を含む収支報告、会員権販売報告、役職員全員の給料明細書を提出し、1件10万円以上の支払は派遣社員の承認を必要とすることとし、その結果、喜創グループは全面的に小川信用金庫の管理下に置かれるようになった(乙イロハ6)。

(カ) 平成7年7月28日付けの13億円の融資

a 益子ゴルフ場開設事業のゴルフ会員権の販売は、平成7年6月に至っても芳しくなく、その結果、前記15億円の貸付金の返済も遅滞し、その確実な返済計画も立てられない状況にあった。しかし、小川信用金庫は、平成7年7月25日、理事長、理事らが出席して開催された常務会において、益子ゴルフ場開発事業が今の時点でストップして完成されない場合、社会問題となることは避けられず、遠隔地のゴルフ場建設に取り組んだ小川信用金庫の責任が大きいこと、このため、ゴルフ場を完成させることを第1として資金援助する旨決定した(乙イロニ66)。

ところで、コース造成工事代金の支払期日は上記状況とは無関係に迫ってきて、同年6月に支払期日が到来する工事業者(小平興業株式会社)に対する10億円の支払ができないと、コース造成工事自体が停止する危険が出てきた(乙イロニ41)。

そこで、小川信用金庫は、日本リクレートに対し追加融資することを決めたが、被告鶴亀を経由しての迂回融資以外に融資を行う方法がなかった。そこで、Hが、平成7年6月ころ、被告Y1に対し、形式的に名前を借りるだけとして、再度迂回融資の協力を依頼し、小川信用金庫への同行を求めた。被告Y1は、同年7月21日、被告Y2を伴って、小川信用金庫を訪問し、I理事長、S常務理事、T理事・審査部部長ら小川信用金庫の経営陣と面談したところ、同人らから、前回と同じ形式で行うものであって、被告鶴亀には迷惑をかけないので、是非迂回融資に協力してほしいと懇願された。

そこで、被告Y1は、被告鶴亀が返済の責任を負うことはないものと理解し、小川信用金庫及びHに対し、上記迂回融資に協力することを約束した。

b 上記aの経過を経て、小川信用金庫は、平成7年7月28日、被告鶴亀に対し、被告鶴亀振出、被告Y1手形保証の13億円の約束手形を差し入れさせ、また、被告鶴亀所有の野尻湖畔の土地を担保提供させて、手形貸付けの方法により、13億円を貸し付けた(甲18の1、2)。そして、その返済原資はゴルフ場会員権売却代金とされた。しかし、上記野尻湖畔の土地は、平成14年11月の不動産競売で2345万2000円と評価されたものであって、到底、13億円の債務を担保するだけの価値はなく、迂回融資を隠蔽するため形式的に設定したにすぎなかった(乙イロニ68)。

上記貸付金は、小川信用金庫の被告鶴亀の口座に入金となったが、そのまま、被告鶴亀のさくら銀行口座を介して、日本リクレートの銀行口座に送金され(乙イロニ63、69の2)、益子ゴルフ場開設事業のために使用された。被告鶴亀は、貸付金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するといったこともなく、結局、何の利益も得なかった。また、上記貸付金額及び返済期限等の契約条件並びに入金された金員の送金手続等は、小川信用金庫の担当者とHとの協議で決められ、被告Y1がこれに関与したことはなく、両者間で決まった内容について、事後に承諾しただけであった。

(キ) 平成8年8月19日付け24億円の貸付け

a 小川信用金庫は、平成8年1月22日、理事長、理事らが出席した常務会において、喜創グループへの資金援助を打ち切り、益子ゴルフ場開発事業を第三者に100億円で売却して処理することを決定し、関係者との交渉を始めたが、上記価格で買い受ける企業がなく、この決定を実行することができなかった(乙イロニ71、72、73の1、2)。

他方、小川信用金庫は、平成8年4月、大蔵省関東財務局の検査を受け、ゴルフ場関連の過大な貸付金について大口融資規制違反等の問題点を指摘された(乙イロニ110)。

b 益子ゴルフ場開設事業は、平成8年7月末には、コース工事やクラブハウス建築工事がほぼ完了し、ゴルフ場を開場することが可能な段階となっていた。

しかし、コース工事代金、クラブハウス建築工事代金等20億円を超える債務が未払いで残っており、これら工事業者に代金を支払わなければ、益子ゴルフ場の引渡しを受けられず、ゴルフ場を開場することができないだけでなく、同年8月20日に工事代金支払のための手形の満期が迫っており、この支払ができないと手形の不渡りを出して喜創グループが倒産するかもしれないという切迫した状況が生じていた。その上、工事業者である小平興業株式会社は、平成8年5月1日、日本リクレートに対する工事代金債権10億万円を請求債権として、益子ゴルフ場の主要な土地に対し、仮差押え決定を得ていた(乙イロニ74、75)。

しかし、喜創グループには支払原資がなく、上記危機を回避するためには、従前同様、被告鶴亀に依頼して、小川信用金庫から迂回融資を受けるしか方法がなかった。

他方、小川信用金庫も、益子ゴルフ場開設事業のための貸付金の残額が120億円にも達しており、これの回収のためには、どうしても喜創グループの倒産を回避した上、益子ゴルフ場を早期に開場し、それによりゴルフ会員権を幅広く売却するしか方法がなく、被告鶴亀に依頼して、喜創グループに対し上記工事代金を迂回融資する以外の方法はなかった。ところが、上記大蔵省関東財務局の検査によって、従前同様の方法で迂回融資を行うことが困難となっていた。

c 小川信用金庫及び喜創グループの各関係者は、迂回融資を隠蔽する方法を検討した結果、喜創が日本リクレートの全株式を被告鶴亀に24億円で売却し、小川信用金庫がその買収資金名目で被告鶴亀に同額の金員を融資し、この貸付金を被告鶴亀から喜創に交付し、喜創が小平興業等の工事業者に対し工事代金を支払う方法が考案された(甲42、乙イロニ40)。

そこで、Hは、被告Y1に対し、上記方法による迂回融資について、形だけの株式売買であって、益子ゴルフ場の運営は従前どおり喜創が行い、被告鶴亀に迷惑をかけないとして、被告鶴亀の協力を懇願した。被告Y1は、当初難色を示したものの、検討するため、平成8年8月8日、被告Y2を同行して小川信用金庫を訪ね、I理事長、U専務理事等の小川信用金庫の経営陣と面談したが、同人らから、すべて小川信用金庫が責任を持ち、弁済を求めることはしないし、一切迷惑はかけないので、協力してほしいとの説明を受けた上、上記迂回融資に協力するよう懇願された。被告Y1は、上記株式売買や融資は名義を貸すだけの形式的なものであって、被告鶴亀が貸付金返済の責任を負うことはないものと理解し、小川信用金庫及び喜創グループに対し、上記迂回融資に協力することを約束した。

d 上記の経過を経て、被告鶴亀、喜創との間で、平成8年8月19日、日本リクレートの株式譲渡契約書が作成され、これに基づき、小川信用金庫は、平成8年8月19日、被告鶴亀に対し、証書貸付けの方法により、24億を貸し付け、被告Y1はこれを連帯保証し、また、被告鶴亀の関連会社所有の渋谷区<省略>所在のマンションに10億円の根抵当権が設定され、その使途は、ゴルフ場開発企業買収資金とされた(甲23、乙イロニ80)。

しかし、上記マンションの価値は10億円には遠く及ばず、また、喜創の所持する日本リクレートの株式はすべて小川信用金庫の担保に差し入れられている上、日本リクレート自身が債務超過のため、その価値も24億円には遠く及ばず、いずれも、迂回融資を隠蔽するための形式的なものにすぎなかった(乙イロニ80ないし82)。

上記貸付金は、小川信用金庫の被告鶴亀の口座に入金となったが、そのまま、喜創の口座には入金されず、小川信用金庫の日本リクレートの口座に送金され、前記工事代金等の支払に充てられた(乙3、乙イロニ78、79)。

また、上記貸付金額及び返済時期等の契約条件並びに入金された金員の送金手続等は、小川信用金庫の担当者とHらとの間で決められ、被告Y1がこれに関与したことはなく、両者間で決まった内容について、事後に承諾しただけであった。そして、企業買収の場合に通常行われる買受会社の内容調査(デューデリ)は行われず、被告鶴亀が当面支払に必要な額をもって譲渡代金額とされた。

e 益子ゴルフ場は、上記融資後の平成8年10月ころ仮オープン、平成9年7月ころ正式オープンしたが(乙イロニ38)、日本リクレートの実印、銀行印、権利書等はすべて従前同様喜創が保管し、ゴルフ場引渡書は小川信用金庫が保管し、被告鶴亀がこれらを所持したり、ゴルフ会員権販売や益子ゴルフ場の運営を実際にすることはなく、また、日本リクレートの代表取締役に就任した被告Y1も、代表者としての仕事に従事することはなく、益子ゴルフ場や日本リクレートの会社に赴くこともしなかった。

(ク) 被告鶴亀への要求等

a 小川信用金庫は、前記のように、上記貸付金の返済について、益子ゴルフ場事業のゴルフ会員権販売代金からの返済を見込み、この事業の遂行に小川信用金庫自身が積極的に関係し、その進捗状況に強い関心を抱いていた。しかし、被告鶴亀が提供した担保は、小川信用金庫の上記各貸付金の支払を担保するのにかなり不足するものであったが、これを問題としたり、追加担保を求めたことはなく、また、借主とされた被告鶴亀自身の業績に注意が払われた形跡もない。

b 小川信用金庫は、被告鶴亀に対して、上記貸付金の返済方法について協議を求めたことはなく、また、その返済を迫ったり、担保の処分等の現実の弁済方法を検討するよう求めたこともなかった。

(ケ) 小川信用金庫の経営破綻

小川信用金庫は、平成11年11月経営破綻し、平成13年1月9日解散した(乙7、乙イロニ11の1)。

ウ 民法93条ただし書の類推適用

(ア) 上記認定事実によれば、小川信用金庫の被告鶴亀に対する上記各融資の実情をまとめると、次のようなものであったものと認められる。

a 小川信用金庫は、喜創グループに対する多額の貸付金が回収不能となる危険を避けるため、喜創グループを管理下に置いた上、同グループが行う益子ゴルフ場開設事業を全面的に支援していたが、大口融資規制が適用される事態に至って、直接融資ができなくなったため、喜創グループ代表者のHらと相談し、喜創グループへの融資を隠蔽する方法として、被告鶴亀の名義を借用して、形式的には被告鶴亀に融資を行うが、その資金をすべて喜創グループが使用する方法で、実質的には、小川信用金庫が喜創グループに上記事業資金を融資するという迂回融資の仕組みを考案し、I理事長以下経営陣や担当職員が、被告鶴亀代表者の被告Y1に対し、被告鶴亀が返済の責任を負うことはなく、絶対に迷惑をかけないなどと説明して、被告鶴亀の協力を強く求め、これに対し、被告Y1が、上記仕組みを了解した上、被告鶴亀が返済責任を負わないものと理解して、この依頼に応じたものである。

b 上記各迂回融資の内容、手続、返済期限の延長等は、喜創グループ代表者のHと小川信用金庫の担当者らが決めたものであって、被告鶴亀代表者の被告Y1がこれに加わったことはなかった。そして、各貸付金は、小川信用金庫から同信用金庫の被告鶴亀の普通預金口座に入金されたが、そのまま日本リクレートらの預金口座に送金されて、益子ゴルフ場開設事業資金として使用され、被告鶴亀は、融資金の通過点となっただけで、その一部を使用させてもらうとか、対価を受領するとかの利益は何も得ていなかったし、上記迂回融資以外には、益子ゴルフ場開発事業に参画したり、その協力をしたこともなかった。

c 小川信用金庫は、益子ゴルフ場開発事業の進捗状況には強い関心を抱いていたが、他方、借主とされていた被告鶴亀については、その業績に注意を払ったり、貸付金の返済方法について協議を求めたりしたことがないばかりか、その返済を迫ったり、担保の処分等の現実の弁済方法を検討するよう求めたこともなかった。その上、被告鶴亀の提供した担保は、上記各貸付金の支払を担保するに足りないものであったが、その追加を求めたこともなかった。

d 喜創から被告鶴亀に日本リクレートの全株式を譲渡する手続がされたが、これも名目的なものであって、実質は、大口融資規制違反の融資を隠蔽する方法として考案されたものにすぎず、この代金に充てるとされた24億円の融資も、上記同様の喜創グループに対する迂回融資にすぎなかった。

(イ) 上記の事実に照らすと、小川信用金庫は、喜創グループに対する大口融資規制に違反する融資の事実を隠蔽するため、迂回融資の仕組みを考案し、被告鶴亀にその協力を依頼したのであるから、上記各融資は、単に被告鶴亀の借主名義を借用したものにすぎず、被告鶴亀に返済を求める意思がなかったばかりか、被告鶴亀に対しても、返済を求めない旨を約していたのであり、他方、被告鶴亀も、返済義務がないものと信じてこれに協力し、それによって何の利得も得ていないのである。

そうすると、小川信用金庫が、被告鶴亀を借主とする上記(1)アないしオの各金銭消費貸借契約において、貸主としての保護を受けるに値しないことは明らかである。また、金銭消費貸借契約を締結しながら、返済を求めないという点において、小川信用金庫と被告鶴亀双方の意思が合致しているということに鑑みれば、民法93条ただし書が類推適用されるものというべきである。

したがって、上記のような各貸付金債権を譲り受けた原告は、被告鶴亀に対しこれらの返還を求めることは許されないものというほかない。

(ウ) なお、被告Y1が日本リクレートの代表取締役に就任したり、被告鶴亀が日本リクレートの株式をすべて取得したことになっているが、これは前記のとおり名目的なものであるから、この事実は、上記(イ)の判断を左右するものではない。

(3)  連帯保証人の責任

原告の被告鶴亀に対する上記(1)アないしオ各貸付金債権の返還請求が認められない以上、保証契約の附従性により、その連帯保証人に対する請求も許されないものというべきである。したがって、連帯保証人としての責任を負うか否かを検討するまでもなく、原告の被告Y1、被告Y2に対する請求は、いずれも理由がない。

(4)  まとめ

以上のとおり、原告の被告らに対する本訴請求のうち、小川信用金庫から譲り受けた前記(1)アないしオの貸付金債権の返還を求める部分の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

3  結論

よって、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし。主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宇田川基 裁判官 渡邉弘 丹下友華)

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