東京地方裁判所 平成14年(ワ)4249号 判決 2003年12月17日
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 被告有限会社日本エム・エム・オーは,同被告が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて,送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す,利用者のためのファイル情報のうち,ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録1ないし19の「タイトル名」欄記載の文字(漢字,ひらがな,片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字,ひらがな,片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報に係る,MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない。
2 被告らは連帯して,原告らそれぞれに対し,別紙認容金額一覧表のA欄記載の各金員,及びその内同一覧表のB欄記載の各金員に対する,被告有限会社日本エム・エム・オーについては平成14年3月26日から,被告Mについては同月21日から,各支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。
5 この判決は,原告ら勝訴部分に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1 被告有限会社日本エム・エム・オーは,別紙レコード目録1ないし19記載の各レコードにつき,自己が運営する「ファイルローグ」(File Rogue)という名称の電子ファイル交換サービスにおいて,MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない。
2 被告らは,各原告らに対し,連帯して,別紙請求金額一覧表中の「確定額」欄記載の金員,及びこれに対する被告有限会社日本エム・エム・オーについては平成14年3月26日から,被告Mについては同月21日から各支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは,各原告らに対し,連帯して,平成14年3月1日から被告有限会社日本エム・エム・オーがその運営する「ファイルローグ」(File Rogue)という名称の電子ファイル交換サービスにおいて,別紙レコード目録1ないし19記載の各レコードがMP3形式で複製された電子ファイルの送受信を停止するに至るまで,1か月当たり別紙請求金額一覧表中の「1ヶ月分」欄記載の金額の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
事案の概要及び前提となる事実は,当裁判所が本件訴訟について平成15年1月29日に言い渡した中間判決(以下「本件中間判決」という。なお,本件中間判決の本文部分を本判決に添付する。)記載のとおりである(なお,本判決における略称等の表記は,本件中間判決のとおりである。)。
1 争点
(1) 被告エム・エム・オーは,本件各レコードについて原告らの有する著作隣接権を侵害しているといえるか。
(2) 被告エム・エム・オーに対する差止請求はどの範囲で認められるか。
(3) 原告らの被告らに対する著作隣接権侵害を原因とする不法行為に基づく損害賠償請求は理由があるか。
(4) 損害額はいくらか。
2 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)及び(3)については,本件中間判決記載のとおりである。
(2) 争点(2)(被告エム・エム・オーに対する差止請求の範囲)について
(原告らの主張)
本件仮処分決定は,本件各レコードの「タイトル名」及び「実演家名」の文字の双方が表記されたファイル情報を,利用者に送信してはならないことを被告エム・エム・オーに命じた。これは,原告らの著作隣接権を侵害する行為の停止又はその予防を実現するために合理的に必要な最小限の措置を被告エム・エム・オーに命じるものであって,妥当である。
この点について,被告らは,本件各レコードの「タイトル名」及び「実演家名」の文字の双方が表記されたファイル情報であっても,本件各MP3ファイルについてのファイル情報ではない場合もあり,本件仮処分決定の主文によると,このようなファイル情報の送信も差し止めることになり,被告エム・エム・オーに対し,不作為義務を負わない義務まで負担させることになると主張する。
しかし,本件サービスにおいて送信可能化状態におかれていたMP3ファイルのほとんどすべて(少なくとも96.7パーセント)は市販のレコードの複製物を送信可能化したものであるが,被告エム・エム・オー及び送信者は,これらの電子ファイルを本件サービスにおいて送信可能化する実体法上の権利を有しない。
そして,本件仮処分決定は,「タイトル名」及び「実演家名」の二重のハードルを設けて差止対象を限定しており,本件各レコードの複製物が送信可能化されている場合であっても,「タイトル名」及び「実演家名」のの文字のいずれかが表記されていなければ,このファイル情報を差止めの対象とはしない。このように,本件仮処分決定は,むしろ控えめで確実な範囲での差止めを命じているのであって,本件仮処分決定は,侵害行為の予防のために必要な最小限の範囲の差止めを認めたものといえる。したがって,この範囲の差止めは,著作隣接権者が著作権法112条に基づき有する「侵害行為の停止請求権」又は「侵害行為の予防請求権」の行使として,当然に認められる。
(被告らの反論)
被告サーバは,利用者の共有フォルダ内に蔵置された本件各MP3ファイルを送受信の対象としていないから,被告エム・エム・オーは,いかなる内容のMP3ファイルが利用者間で送受信されているかを認識することはできない。したがって,被告エム・エム・オーに対して,本件各レコードをMP3形式で複製した電子ファイルを送受信の対象とすることを差し止める旨の判決がされても,同被告は,本件サービス全体を中止するなど,本来義務のない行為まで行わない限り,同趣旨の判決を履行することはできない。
また,たとえ,別紙レコード目録1ないし19の「タイトル名」欄記載の題名と同目録の「実演家名」欄記載の実演家名とを組み合わせた文字列がそのファイル名に使用されていたとしても,本件各レコードの複製物でないMP3ファイルについては,これを送信可能化することは,原告らの有する著作隣接権を侵害することにはならない。したがって,別紙レコード目録1ないし19の「タイトル名」欄記載の題名と同目録の「実演家名」欄記載の実演家名とを組み合わせた文字列が使用されたファイル情報すべての送信の差止めを命ずることは,実体法の義務がない行為まで,不作為義務を課する余地が生じ得るのであって,その限度では許されない。
(3) 争点(4)(損害額)について
(原告らの主張)
ア 使用料相当損害金(著作権法114条2項に基づく請求)
(ア) 1ファイル当たりの月額許諾料相当額
仮に,原告らが第三者に対して,契約により,送信可能化を許諾する場合には,ダウンロード回数を正確に確認することができ,かつ,送信された電子ファイルが第三者に再送信されたり,無制限に複製されたりすることのないようにする技術規格に基づく保護手段が施されることを条件とし,実際にダウンロードした回数に応じた許諾料の支払を受けることが前提となる。原告らは,このような条件を満たさない送信可能化に対しては,契約により許諾を与えることはない。
ところが,本件サービスにおいては,ファイルのダウンロード回数を確認することができないから,ダウンロード1回当たりの許諾料相当額を定めることができない。そこで,送信可能化されている1ファイルごとの一定期間の許諾料を基準に,許諾料相当額を推計せざるを得ない。この場合,送信可能化1ファイル当たりの月額許諾料は,以下の理由により,2000円を下らない。
a 本件サービスでは,ダウンロードされた電子ファイルのその後の利用(再送信や複製)を制限する技術的保護手段が何ら施されていない態様での電子ファイルの送受信が行われており,このような態様での送信可能化をあえて許諾するとすれば,再送信及び複製利用の無限連鎖を招来する危険性が極めて大きいことから,このような場合の仮定的な許諾料相当額は,技術的保護手段が施された態様における送信可能化に対する許諾料よりもはるかに高額に設定するのが合理的である。
このような事情を勘案した上,権利者にとって極めて高リスクである本件サービスにおける送信可能化をあえて許諾するとすれば,その許諾料相当額は,少なく見積もっても,1ファイル当たり月額2000円を下ることはない。
なお,ダウンロード回数が正確に把握することができ,かつ技術的保護手段の施された通常の送信可能化の場合,1ダウンロード当たり300円ないし350円程度の配信料で配信される場合が多い。1ファイル当たり月額2000円は,1ファイル当たり1か月に6ないし7回程度のダウンロードがされた場合の配信料に相当するものである。本件サービスにおける送信可能化に対する許諾料相当額が,通常の送信可能化に対する許諾料相当額よりも高額にならざるを得ない事情のあることを考慮すると,上記金額は,原告らが受ける金銭の額としては著しく控えめな金額である。
b(a) 本件侵害行為時における日本音楽著作権協会の使用料規程(以下「本件使用料規程」という。)の第12節の1(2)によれば,本件サービスのように,情報料がなく,広告料収入があるインタラクティブ配信をダウンロード形式で行う際の著作権使用料は,①1曲当たり,6円60銭にダウンロード回数を乗じた額であり,②これにより難いとき(すなわち,月間の総ダウンロード回数を把握し難いとき)は,同時に送信可能化する曲数10曲までにつき月額6000円とされていた。この規定の①と②とを対照すると,②月間総ダウンロード回数を把握し難い場合の月額使用料は,①ダウンロード回数に応じて計算される場合の約90.9回分に相当する金額となっている。また,広告料等収入のない場合も,月間総ダウンロード回数を把握し難い場合の月額使用料は,ダウンロード回数に応じて計算される場合の約90.9回分に相当する金額となっている。そうすると,本件サービスにおいて送信可能化されていた1ファイルごとの月間ダウンロード回数を90.9回と扱うことができる。
(b) ところで,原告らがインターネットを通じて本件各レコードの配信事業を行う場合,サーバ運営等の委託費用として販売価格(消費者が支払う金額)の20パーセント,課金手数料として6.5パーセント程度を要する。また,日本音楽著作権協会に対して支払う著作権使用料は,情報料の7.7パーセント又は7円70銭のいずれか多い額に月間の総リクエスト回数を乗じた額であり,前記のとおり,情報料が350円の場合には,その7.7パーセントが日本音楽著作権協会への著作権使用料となる。
よって,原告らが行う本件各レコードの配信事業において,1ダウンロード当たり350円の販売価格から,上記サーバ運営等の委託費用,課金手数料及び音楽著作権使用料を控除した金額,すなわち,約230円が,原告らの限界利益となる。
(c) したがって,仮に原告らが本件各レコードの送信可能化を回数無制限で許諾したとした場合,その1か月当たりの許諾料相当額は,少なくとも,1ダウンロード当たりの限界利益である約230円に,月間ダウンロード回数とみなすことができる90.9回を乗じた2万0907円を下回ることはない。そうすると,1ファイル当たり月額2000円は,極めて控えめな額であるということができる。
c(a) 前記bで主張したように,原告らが本件各レコードの有料配信サービスを行った場合には,情報料(350円)の7.7パーセントである27円を,日本音楽著作権協会に支払う必要があり,その場合の原告らの限界利益は約230円である。
したがって,原告らの利益は,少なくとも日本音楽著作権協会に対して支払われる音楽著作権使用料の約8.5倍(230円÷27円)である。
(b) 日本音楽著作権協会の使用料規程12節では,広告料等収入がある場合は,許諾料は送信可能化1ファイルにつき月額600円とされているから,原告らとしては,1ファイル当たり,その8.5倍である5100円の利益を合理的に期待できる。このように,1ファイル当たり月額2000円は,極めて控えめな金額であるということができる。
(イ) 1か月当たりの損害額
日本レコード協会は,平成13年12月24日から平成14年1月4日までのうち,毎平日(土日及び平成13年12月28日から平成14年1月4日までの期間を除いたものであり,実質計14日)の午後5時前後に,その時点で送信可能化されている電子ファイルの中から,本件各レコードのアーティスト名で検索をし,本件各レコードから複製したと思われる電子ファイルを抽出した(甲4の4)ところ,本件サービスにおいて送信可能化されていた本件各MP3ファイルの数は,別紙「ファイル数・損害賠償額一覧表」の「平成13年12月24日から平成14年1月23日(実質14日)のMP3ファイル数」欄の「楽曲ファイル数」欄記載のとおりとなった(なお,同一ファイル名かつ同一ファイルパス名で公開されているものは,複数の調査日に検索結果として現れても,1ファイルと計算した。)。
そして,上記調査の日数は実質14日であったため,上記得られた本件各MP3ファイル数を14で除して30を乗じることにより,1か月間に送信可能化された本件各MP3ファイル数を算定すると,別紙「ファイル数・損害賠償額一覧表」の「1か月分のMP3ファイル数」欄記載の数となる。
したがって,1か月当たりの使用料相当損害金の額は,上記の1か月間に送信可能化された本件各MP3ファイル数に1ファイル当たりの月額使用許諾料相当額である2000円を乗じることにより求められ,その結果は,別紙「ファイル数・損害賠償額一覧表」の「1か月分の損害賠償金額」欄記載の金額となる。
(ウ) 使用料相当損害金の合計
以上のとおり,本件サービスが開始された平成13年11月1日から平成14年2月28日までの4か月間に行われた本件各レコードに対する著作隣接権侵害行為による損害額は,別紙「ファイル数・損害賠償額一覧表」の「1か月分の損害賠償金額」欄記載の金額の4倍に相当する,別紙「ファイル数・損害賠償額一覧表」の「4か月分の損害賠償金額」欄記載の金額となる。
さらに,被告エム・エム・オーが本件サービスにおいて本件各MP3ファイルの送信可能化を停止するまでは,平成14年3月1日以降も1か月当たり,別紙「ファイル数・損害賠償額一覧表」の「1か月分の損害賠償金額」欄記載の金額の割合による損害が発生する。
イ 弁護士費用
原告らは,本件訴訟の提起を弁護士に委任せざるを得なかったところ,その弁護士費用は,上記「1か月分の損害賠償金額」欄記載の金額の28か月分(平成13年11月1日から平成14年2月28日までの損害金としての4か月分に,将来請求として12か月分,差止請求として12か月分を加算したもの)の5パーセントを下らない。したがって,各原告についての弁護士費用額は,別紙「ファイル数・損害賠償額一覧表」中の「弁護士費用」欄記載の金額となる。
ウ 過失相殺の主張に対する反論
被告らの過失相殺の主張は,以下のとおり失当である。
(ア) 被告らは,日本レコード協会が,本件サービスの性質は,専ら,MP3ファイルを無償で交換するためのサービスであると宣伝した旨主張するが,そのような事実はない。
(イ) 被告らは,MP3ファイルを送信可能化している本件サービスの利用者に対して原告らが訴訟を提起したり,警告を発していない旨主張する。しかし,原告らが本件サービスの利用者に対して,警告を発したり,訴訟提起等をしたりしなかったことが,原告らの過失相殺の理由となることはない。
(ウ) 被告らは,原告らが「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続きに従わなかった旨主張する。しかし,著作隣接権侵害の被害者である原告らが,侵害者である被告エム・エム・オーが,本件サービスをするに当たり設けた上記手続きに従わなければならない理由はない。
(エ) 被告らは,本件サービスの開始前に日本レコード協会が被告エム・エム・オーに対して要求した侵害予防措置は被告エム・エム・オーに不可能を強いるものであったと主張する。しかし,日本レコード協会は,被告エム・エム・オーが本件サービスを開始するに当たり,著作隣接権侵害を防止する措置を採るよう求めたにすぎないのであって,何ら問題とするに当たらない。被告エム・エム・オーは,自らが主体となって著作隣接権侵害を引き起こす蓋然性の極めて高いサービスを提供しようとしていたのであるから,かかる警告に対して,自らの責任において侵害防止措置を採るべきであった。
(被告らの反論)
ア 使用料相当損害金
(ア) 1ダウンロード当たりの許諾料
津田大介が開設するウェブサイト「音楽配信メモ」において,平成15年4月から平成15年5月にかけて行われたアンケート調査によれば,MP3ファイルをダウンロードするのに支払ってもよいとする金額について,300円以上と答えた者は,シングルカット曲で4パーセント,それ以外の曲は1.8パーセント,150円以下と答えた者は,シングルカット曲で68.5パーセント,シングルのカップリング曲で79.7パーセント,アルバム収録曲で77.3パーセント,100円以下と答えた者は,シングルカット曲で56.9パーセント,シングルのカップリング曲で69.2パーセント,アルバム収録曲で65パーセントであった。この結果を基にシミュレートすると,シングルカット曲では151円,その他の曲では51円という価格設定をしたときに,最も売上額が大きくなる。
米国で,アップル社が1曲当たり99セント(約115円)にて音楽配信サービスを始めたところ,サービス開始1週間で100万ダウンロードを超える程の人気を博した。米ソニー・ミュージックエンタテイメント社と米ユニバーサルミュージック・グループ社が共同設立した音楽サイト「プレスプレイ」では,1か月9.95ドル(約1152円)で,ダウンロードやストリーミングを無制限に行うことができ,1曲当たり約95セントないし約1ドル20セント支払えばCD-R等に音楽データを焼き付けることも可能とされた。「リッスン・コム」では,1か月9.95ドルで同社の提供する音楽データにアクセスでき,さらに1曲当たり99セントでCD-R等に音楽データを焼き付けることができる。米ワーナーミュージック社,米BMGエンタテイメント社,米EMIレコーデッド・ミュージック社が共同で設立した「ミュージックネット」では,1か月4.95ドル(約574円)で最大100曲までダウンロードできる。
以上を参考にして,我が国における相当な許諾料を検討すると,音楽データのダウンロード自体についてエンドユーザーが支払うべき金額は1曲当たり6円程度,CD-R等に焼き付けることまで許諾されている場合には115円程度となる。
そして,上記1ダウンロード当たり115円から,日本音楽著作権協会への支払として6.6円,サーバー運営等の委託費用として販売価格の20パーセント,課金手数料として6.5パーセント程度を控除して,適正な音楽配信サービスの限界利益を求めると約78円となる。
上記金額に,特許権侵害における許諾料相当金の算定に用いられる利益三分方式の考え方を適用すると,1ダウンロード当たりの許諾料は約26円となる。
(イ) ライセンス契約を想定した場合の許諾料
本件サービスにより利用者に本件各MP3ファイルを送受信させたことについて,原告らと被告エム・エム・オーとの間に事後的にライセンス契約が締結されたと想定した場合における仮装許諾料について検討する。
前記アンケート結果からシミュレートすると,月額801円という料金設定をした場合に売上額が極大化する。本件サービスのようなピア・ツー・ピアサービスには月額800円しか支払えないと答えたのは,全体の36.3パーセントであったから,本件サービスの月額料金を801円とした場合には,会員数4万人のうち約1万5000人が本件サービスを退会し,残りの会員数は約2万5000人となる。したがって,この場合,会員より被告エム・エム・オーが支払を受けられる金額は約2000万円となる。そして,同金額から,サーバ運営等の委託費用として販売価格の20パーセント,課金手数料として6.5パーセント程度を差し引くと1470万円となる。
原告らの調査によれば,本件サービスで送受信されている電子ファイルのうち,MP3ファイルの割合は全体の15パーセントであるから,上記金額のうち,MP3ファイルに関する部分は,220万5000円(1470万円×0.15)となる。この金額から,日本音楽著作権協会に支払うべき許諾料7.7パーセントを差し引くと197万4000円となる。
さらに,上記金額に,前記の利益三分方式の考え方を適用すると,被告エム・エム・オーから原告らに支払うべき金額は,月額98万7000円(197万4000円÷3)となり,これを日本音楽著作権協会の管理楽曲数である3万6400で除すると,被告エム・エム・オーが原告らに対して支払うべき金額は1曲当たり1か月約27円となる。
(ウ) 原告らの主張に対する反論
a 原告らは,実際に1ダウンロード当たり300円ないし350円という価格で音楽配信サービスが運営されている旨主張する。
しかし,上記価格での音楽配信サービスは,一部のレコード会社が,その権利を保有する楽曲の一部について,自社又はその子会社ないし共同出資会社において,実験的に行っているだけであり,当該レコードの電子的複製物の適正な市場価格を考慮した上で設定された金額ではない。
確かに,我が国においても,1ダウンロード当たり300円ないし350円という価格設定で正規の音楽配信サービスが運営されているが,それらのサービスを利用する者はほとんどいないのであり,上記サービスにおける価格は適正価格とはいえない。
b 原告らは,1ファイル当たり月額2000円とするのは,1か月当たり6ないし7回のダウンロードがされた場合に相当する額にすぎないから,原告らの請求は控えめな請求である旨主張する。
しかし,1曲当たり月額2000円の料金で採算が採れる音楽配信サービスは存在しない。最も成功した正規のオンライン音楽配信サービスであるiTune Music Storeですら,1曲当たりの1か月の売上は2296円であるから,この売上からレコード会社への支払として2000円を控除すると,サービスの運営を行うことができない。
c 原告らは,その主張の前提となる本件サービスにおいて送信可能化された本件各MP3ファイルの数について,平成14年2月18日付けの「『ファイルローグ』調査報告書(特定の19アーチストの楽曲の公開状況に関する調査」(甲4の4)を根拠とするが,同調査に当たり,調査員は対象となる電子ファイルをダウンロードして確認しておらず,また,ファイルサイズやハッシュ値の確認も行っていないから,ダミーファイルを含めて算出している可能性を否定できないなど,同調査結果の信頼性に疑問がある。
イ 過失相殺の主張
(ア) 本件サービスの利用者が本件各MP3ファイルを送信可能化するための手段として本件サービスを利用したことによって,原告らが損害を被った原因のいつくかは,以下のとおり,原告らに起因しているので,過失相殺として考慮すべきである。
a 原告らは,本件サービス開始時において,本件サービスの性格について,市販のレコードをmp3形式にて複製した電子ファイルを無償で交換するためのサービスであるなどと宣伝した。
b 原告らは,本件サービスを利用して本件各MP3ファイルを送信可能化している利用者に対し,訴訟を提起することはもちろん,個別に警告を発することすらしていない。
c 被告エム・エム・オーでは,本件サービスにより自己の権利を侵害する情報を流通された被害者のために,ノーティス・アンド・テイクダウン手続を用意していたが,被害者である原告らから,送受信を停止させるべき電子ファイルを特定した申請がされなかったため,上記手続が実効的に機能しなかった。
インターネット上で自己の権利を侵害する情報が流通されているときに,これを阻止することができる唯一の方法は,当該情報の流通を阻止できる者に対し,具体的に権利侵害情報が流通していることを告げて,その流通を阻止するように求めることである。特に,発信者が情報を発信してから受信者が情報を受信するまでの間に何人もその情報の内容を検閲することができないシステムにおいては,権利者側で具体的な権利侵害ファイルの存在を指摘しない限り,当該情報の流通が阻止されることは通常期待できない。したがって,本件サービスにおいて本件各MP3ファイルの送信可能化を阻止することを求めるのであれば,まず,原告らにおいて,どのファイルが原告らの著作隣接権を侵害するのかを摘示しなければならない。
d 原告らが被告エム・エム・オーに対してした要求は,被告エム・エム・オーが各利用者の共有フォルダに蔵置されている電子ファイルの内容を把握した上で,そのうち本件各レコードをmp3形式で複製した電子ファイルについて利用者間で送受信することの停止を求めるものであり,不可能なことを要求するものであった。
被告エム・エム・オーは,原告らに対して,原告の上記要求が実現不可能なものであることを告げたが,原告らは,それに対し,実効的な解決方法を提示しなかった。
(イ) したがって,被告らの行為により原告らに損害が生じたことについては,原告らにも過失が認められ,原告らの損害額を算定するに当たっては同過失を斟酌すべきである。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)及び(3)に関する裁判所の判断は,本件中間判決記載のとおりである。
2 争点(2)(被告エム・エム・オーに対する差止請求の範囲)について
(1) 請求の趣旨1項について
本件中間判決で判示したとおり,被告エム・エム・オー自らは,本件各MP3ファイルをパソコンに蔵置し,その状態でパソコンを被告サーバに接続するという物理的行為をしているわけではないが,本件サービスは,①MP3ファイルの交換に係る分野については,利用者をして,市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有すること,②本件サービスにおいて,送信者がMP3ファイル(本件各MP3ファイルを含む。)の送信可能化を行うことは被告エム・エム・オーの管理の下に行われていること,③被告エム・エム・オーも自己の営業上の利益を図って,送信者に上記行為をさせていたこと等から,被告エム・エム・オーは,本件各レコードの送信可能化を行っているものと評価することができ,したがって,原告らの有する送信可能化権の侵害の主体であると評価できる。
ところで,原告らは,請求の趣旨1項において,被告エム・エム・オーに対して,本件各レコードにつき,同被告が運営する本件サービスにおいて,MP3形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない旨を求める。しかし,上記請求の趣旨は,単に,原告らが著作隣接権を有する本件各レコードを複製した電子ファイルを送受信の対象とする行為について,その不作為を求めるものであって,法律が一般的,抽象的に禁止している行為そのものについて,その不作為を求めることと何ら変わらない結果となること,上記請求をそのまま認めると執行手続きにおける差止めの対象になるか否かの実体的な判断を執行機関にゆだねることになること等の理由から,相当といえない。
(2) 差止めの対象となる行為の特定
そこで,差止めの対象となる被告エム・エム・オーの行為をどのように特定した上で,原告らの求める差止請求を認めるのが相当かを検討する。
まず,原告らの有する送信可能化権を侵害する被告エム・エム・オーの行為を客観的に特定すべきことが必要であることはいうまでもない。しかし,本件においては,この点を厳格に求めることは,以下の理由から妥当ではない。すなわち,第1に,本件中間判決で判示したとおり,本件サービスにおいては,被告サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内の電子ファイルのみが送信可能化されており,当該パソコンが被告サーバとの接続を解消すると,上記電子ファイルは送信可能化の対象ではなくなることから,現に送信可能化されている個々の電子ファイルを差止めの対象とした場合は,その判決が確定する段階では,当該電子ファイルのほとんどすべては送信可能化が終了しており,その判決の実効性がないこと,第2に,将来送信可能化されると予想される電子ファイルを差止めの対象としようとしても,前述のように,本件サービスにおいては,本件各レコードを複製したMP3ファイルが,送信者により,時々刻々と新たに,送信可能化状態に置かれるため,当該電子ファイルを,あらかじめ厳格に特定することは,不可能であること等の事情が存在するからである。
ところで,証拠(甲4の2,16,21)及び弁論の全趣旨によれば,本件サービスの利用者(送信者)がレコードを複製したMP3ファイルにファイル名を付す場合,他の利用者(受信者)が電子ファイルの内容を認識し得るようなファイル名を付することが一般的であると認められ,そのようなファイル名としては,通常,当該レコードの「タイトル名」や「実演家名」を表示する文字を使用することが最も自然であり,また,その場合の「タイトル名」及び「実演家名」の表記方法は,当該レコードの表記方法と同一のものばかりではなく,適宜,漢字,ひらがな,片仮名及びアルファベット等で代替して表記することが推認される。
以上によれば,差止めの対象とすべき被告エム・エム・オーの行為を特定する方法としては,送信側パソコンから被告サーバに送信されたファイル情報のうち,ファイル名又はフォルダ名のいずれかに本件各レコードの「タイトル名」を表示する文字及び「実演家名」を表示する文字(漢字,ひらがな,片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のあるものについては,いずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報に関連付けて,当該ファイル情報に係るMP3ファイルの送受信行為として特定するのが,最も実効性が高い方法であるといえる。
なお,本件の差止めの対象とすべき被告エム・エム・オーの行為を上記のような方法で特定すると,利用者がファイル名を付する際に,単純に表記を誤ったり,タイトル名のみを表記したなどの場合には,本件各MP3ファイルであっても差止めの対象から除かれることになることが考えられる。しかし,証拠(甲4の2,16,21)及び弁論の全趣旨によれば,上記のような場合は極めて稀にしか生じないものと認められることに加え,被告エム・エム・オーが提供する本件サービスの性質上,他に差止めの対象とすべき本件各MP3ファイルを特定する的確な方法はないことに鑑みれば,上記の特定方法によっても原告らの保護に欠ける結果とはならないというべきである。
(3) 過大な差止めを肯認するとの被告らの反論について
上記の点に対して,被告らは,ファイル名等に本件各レコードの「タイトル名」を表示する文字及び「実演家名」を表示する文字の双方が表記されたファイル情報に係るMP3ファイルの中には,本件各MP3ファイル以外のMP3ファイルが含まれている可能性があり,そのようなMP3ファイルの送信可能化を差し止めることは,被告エム・エム・オーが差止義務を負う範囲を超えて差止めを肯認することになるから許されない旨主張する。
しかし,いやしくも,利用者は,自ら創作した音楽の電子ファイルをMP3ファイル形式にして本件サービスにより送信しようとした場合には,可能な限り,市販のレコードとの混同を避けるはずであるから,市販のレコードの「タイトル名」や「実演家名」と同一の名称を使用することはないと解するのが合理的であること,本件全証拠によるも,本件サービスにおいて,本件各レコードの「タイトル名」及び「実演家名」を表示する文字の双方を表記したMP3ファイルであって本件各MP3ファイル以外の電子ファイルが存在することを窺わせるに足りる事実は認められないこと等に鑑みれば,ファイル名等に本件各レコードの「タイトル名」及び「実演家名」を表示する文字の双方が表記されたMP3ファイルの中に本件各MP3ファイル以外の電子ファイルが含まれていることを前提とした被告らの上記主張は理由がないことになる。
3 争点(4)(損害額)について
(1) 使用料相当額の算定方法
被告エム・エム・オーが提供した本件サービスにより本件各MP3ファイルが送信可能化されたことによって原告らが被った使用料相当額は,同種のインターネットによる音楽配信サービス等において設定された著作隣接権者の受けるべき許諾料額(使用料額)等を参酌して,算定するのが相当である。
そこで,検討する。原告らは,送信可能化1ファイル当たりの月額許諾料相当額に本件サービスにおいて送信可能化された本件各MP3ファイルの総数をそれぞれ乗じることにより使用料相当の損害額を算定すべきであると主張する。本件サービスにおいて,ダウンロード数が把握されていないことからすれば,送信可能化数を基準とする算定方法には合理性が認められるというべきである。
(2) 送信可能化(1ファイル当たり)の月額使用料相当額
原告らは,本件サービスにおける送信可能化1ファイル当たりの原告らが受けるべき月額使用料相当額は2000円であると主張するので,この点について検討する。
ア 米国における音楽配信サービスにおける価格
証拠(乙17,18)及び弁論の全趣旨によれば,米国においては,インターネットによる音楽配信サービスがビジネスとして成立しており,なかでも,「iTunes Music Store」は大きな売上を上げていること,「iTunes Music Store」における利用料金は,ダウンロード1曲当たり99セントであること,他の音楽配信サービスである「RealOne Rhapsody」では,月額会費9.95ドルに加えて,ダウンロード1曲当たり79セントでCD-Rに焼き付け可能な音楽データのダウンロードができることが認められる。
イ 日本音楽著作権協会の使用料規程
(ア) 現在,大多数の音楽著作権は日本音楽著作権協会が信託を受けて管理しているところ,日本音楽著作権協会は著作権の使用料を同協会の使用料規程に準拠して決定していること,同使用料規程は,著作権等管理事業法13条及び14条に則って実施されていること,日本音楽著作権協会は,同使用料規程について同法23条に基づき利用者代表との協議に応じる義務を負い,協議が成立しないときは,文化庁長官が同法24条に基づき,同使用料規程を変更する旨の裁定をすることができるとされていること(以上は当裁判所に顕著である。)等に照らすならば,日本音楽著作権協会の使用料規程に基づく著作物使用料は,事実上,音楽著作物の利用の対価額の標準的な基準を示すものであると認められる。
(イ) 本件サービスは,本件中間判決で判示したとおり,本件サービスにおいて送信可能化された電子ファイルを受信者にダウンロードさせることを目的としたものであるから,これに対する使用料相当額を検討するに当たっては,本件使用料規程のうち,インタラクティブ配信のダウンロード形式についての使用料を規定した第12節1が,一応参酌の対象になる。
本件使用料規程第12節1においては,次のとおり規定されている(甲25)。
a 情報料がなく,広告料等収入がある場合の使用料(1(2))
① 1曲当たりの月額使用料は,6円60銭に月額の総リクエスト回数を乗じた額とする。
② 営利を目的としない法人等又は個人が利用する場合(着信メロディ再生専用データとしての利用を除く。)で,①により難いときは,同時に送信可能化する曲数10曲までにつき年額60,000円とすることができる。なお,送信可能化する日数が1年に満たない場合は,同時に送信可能化する曲数10曲までにつき月額6,000円に予め定める利用月数を乗じて得た額とすることができる。いずれの場合も同時に送信可能化する曲数が10曲を超える場合は10曲までを超えるごとに10曲までの場合の額にその額を加算した額とする。
b 情報料及び広告料等収入のいずれもない場合の使用料(1(3))
① 1曲当たりの月額使用料は,5円50銭に月額の総リクエスト回数を乗じた額とする。
② 営利を目的としない法人等が利用する場合(着信メロディ再生専用データとしての利用を除く。)で,①により難いときは,同時に送信可能化する曲数10曲までにつき年額50,000円とすることができる。なお,送信可能化する日数が1年に満たない場合は,同時に送信可能化する曲数10曲までにつき月額5,000円に予め定める利用月数を乗じて得た額とすることができる。いずれの場合も同時に送信可能化する曲数が10曲を超える場合は10曲までを超えるごとに10曲までの場合の額にその額を加算した額とする。
(ウ) 上記のとおり,情報料がない場合の日本音楽著作権協会の管理する音楽著作物の自動公衆送信1回当たりの使用料は,広告料等収入がある場合は6円60銭,広告料等収入がない場合は5円50銭であるが,自動公衆送信数を把握していないときは,送信可能化する曲数10曲までにつき,広告料等収入がある場合は月額6000円,広告料等収入がない場合は月額5000円である。このように使用料が規定されたのは,インタラクティブ配信の使用料は,情報料がない場合は,原則として自動公衆送信数に一定の金額を乗じることにより算定する方法により求めることとし,ただ,配信業者が自らの自動公衆送信数を把握していない場合は,自動公衆送信数を基準とすることができないため,やむを得ず,送信可能化された1曲が1か月に自動公衆送信される回数を予測し,これを基礎として月額使用料を算定したものであると解される。
そして,上記の自動公衆送信1回当たりの使用料と送信可能化1曲当たりの月額使用料を対比すると,送信可能化1曲当たり,1か月に約90.9回(6000円÷6円60銭。5000円÷5円50銭)自動公衆送信されることを想定したものと認められるが,このような想定回数をもとに送信可能化する曲数を基準として使用料を算定することは,自ら自動公衆送信数を把握できない利用者側の事情によるものであり,日本音楽著作権協会としても,自動公衆送信数を把握できない利用者のために特別に認めた算定方法により算定された使用料が実際にされた自動公衆送信の数を基準として算定した使用料よりも少なくなるという結果を避けなければならないというべきであるから,あながち不合理な算定方法であると解することはできない。
ウ 以上のとおり,米国における音楽配信サービスにおける1曲当たりのダウンロード利用料金が110円を下回ることはないところ,インターネットによる音楽配信サービスの市場が形成されていない我が国においても,この金額が同様のサービスに対する利用料金を推定する一応の基準額となり得ること,本件使用料規程において,自動公衆送信数を基準とすることができない場合に送信可能化された1曲が1か月に約90.9回自動公衆送信されると想定して送信可能化1曲当たりの使用料を算定する方法が特に不合理とはいえないことに照らせば,必要経費を多めに見積もったとしても,被告エム・エム・オーが本件各MP3ファイルを送信可能化した場合に原告らが受けるべき1ファイル当たりの月額使用料は,原告らの主張に係る2000円を下回ることはないというべきであるから,同額と認めるのが相当である。
(3) 送信可能化した本件各MP3ファイルの数
乙45及び弁論の全趣旨によれば,本件サービスは,平成13年11月1日から平成14年4月16日まで運営されていたことが認められるから,この期間に送信可能化された本件各MP3ファイルの数について検討する。
ア 本件サービスについて原告らが受けるべき使用料相当額を算定するに当たり,上記月額使用料に乗じるべき各月の送信可能化された本件各MP3ファイルの数は,本件サービスが運営されていた各月に同時に送信可能化されていた本件各MP3ファイルの最大数を求め,これに,同最大数を求めたときと同一の月における,異なる時に送信可能化された本件各MP3ファイルで,上記最大数を求めた際に送信可能化されていた本件各MP3ファイルと異なるレコードを複製した本件各MP3ファイルの数を加算することによって推計することが相当である。
イ そこで,まず,本件サービスにおいて同時に送信可能化された各月の本件各MP3ファイル数の最大値について検討する。
平成14年1月25日付けの「『ファイルローグ』調査報告書」(甲4の3)によれば,本件各MP3ファイルが同時に送信可能化された最大値は,次のとおりであると認められる。
(ア) 別紙レコード目録1記載のレコードを複製したMP3ファイル(12種類ある。以下「本件MP3ファイル1」という。)
平成13年12月 20ファイル
平成14年1月 30ファイル
(イ) 別紙レコード目録2記載のレコードを複製したMP3ファイル(24種類ある。以下「本件MP3ファイル2」という。)
平成13年12月 184ファイル
平成14年1月 152ファイル
(ウ) 別紙レコード目録3記載のレコードを複製したMP3ファイル(49種類ある。以下「本件MP3ファイル3」という。)
平成13年12月 355ファイル
平成14年1月 211ファイル
(エ) 別紙レコード目録4記載のレコードを複製したMP3ファイル(1種類のみ。以下「本件MP3ファイル4」という。)
平成13年12月 2ファイル
平成14年1月 2ファイル
(オ) 別紙レコード目録5記載のレコードを複製したMP3ファイル(22種類ある。以下「本件MP3ファイル5」という。)
平成13年12月 180ファイル
平成14年1月 158ファイル
(カ) 別紙レコード目録6記載のレコードを複製したMP3ファイル(68種類ある。以下「本件MP3ファイル6」という。)
平成13年12月 563ファイル
平成14年1月 605ファイル
(キ) 別紙レコード目録7記載のレコードを複製したMP3ファイル(29種類ある。以下「本件MP3ファイル7」という。)
平成13年12月 119ファイル
平成14年1月 162ファイル
(ク) 別紙レコード目録8記載のレコードを複製したMP3ファイル(2種類ある。以下「本件MP3ファイル8」という。)
平成13年12月 8ファイル
平成14年1月 10ファイル
(ケ) 別紙レコード目録9記載のレコードを複製したMP3ファイル(51種類ある。以下「本件MP3ファイル9」という。)
平成13年12月 162ファイル
平成14年1月 132ファイル
(コ) 別紙レコード目録10記載のレコードを複製したMP3ファイル(16種類ある。以下「本件MP3ファイル10」という。)
平成13年12月 38ファイル
平成14年1月 19ファイル
(サ) 別紙レコード目録11記載のレコードを複製したMP3ファイル(91種類ある。以下「本件MP3ファイル11」という。)
平成13年12月 113ファイル
平成14年1月 93ファイル
(シ) 別紙レコード目録12記載のレコードを複製したMP3ファイル(69種類ある。以下「本件MP3ファイル12」という。)
平成13年12月 277ファイル
平成14年1月 366ファイル
(ス) 別紙レコード目録13記載のレコードを複製したMP3ファイル(4種類ある。以下「本件MP3ファイル13」という。)
平成13年12月 4ファイル
平成14年1月 7ファイル
(セ) 別紙レコード目録14記載のレコードを複製したMP3ファイル(40種類ある。以下「本件MP3ファイル14」という。)
平成13年12月 387ファイル
平成14年1月 309ファイル
(ソ) 別紙レコード目録16記載のレコードを複製したMP3ファイル(108種類ある。以下「本件MP3ファイル16」という。)
平成13年12月 367ファイル
平成14年1月 298ファイル
(タ) 別紙レコード目録17記載のレコードを複製したMP3ファイル(65種類ある。以下「本件MP3ファイル17」という。)
平成13年12月 183ファイル
平成14年1月 230ファイル
(チ) 別紙レコード目録18記載のレコードを複製したMP3ファイル(19種類ある。以下「本件MP3ファイル18」という。)
平成13年12月 22ファイル
平成14年1月 20ファイル
(ツ) 別紙レコード目録19記載のレコードを複製したMP3ファイル(2種類ある。以下「本件MP3ファイル19」という。)
平成13年12月 1ファイル
平成14年1月 1ファイル
そして,平成13年11月,平成14年2月,3月,4月の同時に送信可能化された本件各MP3ファイルの最大数は,平成13年12月及び平成14年1月の最大数の平均値であると推認できるから,上記各月に同時に送信可能化された本件各MP3ファイルの最大数は,本件MP3ファイル1は25ファイル,本件MP3ファイル2は168ファイル,本件MP3ファイル3は283ファイル,本件MP3ファイル4は2ファイル,本件MP3ファイル5は169ファイル,本件MP3ファイル6は584ファイル,本件MP3ファイル7は140.5ファイル,本件MP3ファイル8は9ファイル,本件MP3ファイル9は147ファイル,本件MP3ファイル10は28.5ファイル,本件MP3ファイル11は103ファイル,本件MP3ファイル12は321.5ファイル,本件MP3ファイル13は5.5ファイル,本件MP3ファイル14は348ファイル,本件MP3ファイル16は332.5ファイル,本件MP3ファイル17は206.5ファイル,本件MP3ファイル18は21ファイル,本件MP3ファイル19は1ファイルとなる。
ところで,平成14年1月25日付けの「『ファイルローグ』調査報告書」(甲4の3)には,別紙レコード目録15記載のレコードを複製したMP3ファイル(3種類ある。以下「本件MP3ファイル15」という。)については調査対象となっていないため,その上記各月における送信可能化数されているMP3ファイルについての正確な数は分からないが,平成14年2月18日付けの「『ファイルローグ』調査報告書」(甲4の4)によれば,別紙レコード目録15記載のレコードを複製したMP3ファイル15の上記各月における同時に送信可能化された最大値は1ファイルであると認められる。
なお,被告らは,本件サービスにおいて送信可能化されているMP3ファイルの中には,ファイル名に対応したデータが入っていないダミーファイルが存在する旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
ウ 同時に送信可能化された本件各MP3ファイル数の各月の最大値は前記イで認定したとおりであるが,本件MP3ファイル15及び19を除いては,上記各月において,上記送信可能化の最大値が測定されたときと異なる時において,上記最大値が測定された際の本件各MP3ファイルと異なる本件各レコードを複製した本件各MP3ファイルが送信可能化されたことを認めるに足りる証拠はない。そして,証拠(甲4の3,4)及び弁論の全趣旨によれば,本件MP3ファイル15,19については,送信可能化の最大値が測定されたときと異なる時において,同最大値が測定された際の本件各MP3ファイルと異なる本件各レコードを複製したMP3ファイルが,順に,2ファイル,1ファイル送信可能化されたものと推認できる。
したがって,本件サービスが運営されていた各月における本件各MP3ファイルの送信可能化数は,本件MP3ファイル1ないし14,16ないし18については前記イで認定した最大数,本件MP3ファイル15については3ファイル,本件MP3ファイル19について2ファイルとなる。
(4) 使用料相当額
以上によれば,本件サービスにおける本件各MP3ファイルの送信可能化について原告らが受けるべき使用料相当額は,次のとおりとなる(なお,本件サービスが運営されていたのは,平成14年4月16日までであるから,同年4月分の使用料相当額は同月の日数に対する同運営日数の割合に応じて按分する。)。
ア 原告コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社(以下「原告1」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル1の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は20万円(25×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は7万6667円(25×2000円+25×2000円×16/30),合計27万6667円となる。
イ 原告ビクターエンタテインメント株式会社(以下「原告2」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル2の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は134万4000円(168×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は51万5200円(168×2000円+168×2000円×16/30),合計185万9200円となる。
ウ 原告キングレコード株式会社(以下「原告3」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル3の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は226万4000円(283×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は86万7867円(283×2000円+283×2000円×16/30),合計313万1867円となる。
エ 原告株式会社テイチクエンタテインメント(以下「原告4」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル4の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は1万6000円(2×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は6133円(2×2000円+2×2000円×16/30),合計2万2133円となる。
オ 原告ユニバーサルミュージック株式会社(以下「原告5」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル5の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は135万2000円(169×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は51万8267円(169×2000円+169×2000円×16/30),合計187万0267円となる。
カ 原告東芝イーエムアイ株式会社(以下「原告6」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル6の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は467万2000円(584×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は179万0933円(584×2000円+584×2000円×16/30),合計646万2933円となる。
キ 原告日本クラウン株式会社(以下「原告7」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル7の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は112万4000円(140.5×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は43万0867円(140.5×2000円+140.5×2000円×16/30),合計155万4867円となる。
ク 原告株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズ(以下「原告8」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル8の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は7万2000円(9×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は2万7600円(9×2000円+9×2000円×16/30),合計9万9600円となる。
ケ 原告株式会社エピックレコードジャパン(以下「原告9」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル9の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は117万6000円(147×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は45万0800円(147×2000円+147×2000円×16/30),合計162万6800円となる
コ 原告株式会社ポニーキャニオン(以下「原告10」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル10の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は22万8000円(28.5×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は8万7400円(28.5×2000円+28.5×2000円×16/30),合計31万5400円となる
サ 原告ワーナーエンターテイメントジャパン株式会社(以下「原告11」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル11の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は82万4000円(103×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は31万5867円(103×2000円+103×2000円×16/30),合計113万9867円となる
シ 原告株式会社フォーライフミュージックエンタテイメント(以下「原告12」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル12の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は257万2000円(321.5×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は98万5933円(321.5×2000円+321.5×2000円×16/30),合計355万7933円となる。
ス 原告株式会社バップ(以下「原告13」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル13の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は4万4000円(5.5×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は1万6867円(5.5×2000円+5.5×2000円×16/30),合計6万0867円となる。
セ 原告株式会社ビーエムジーファンハウス(以下「原告14」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル14の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は278万4000円(348×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は106万7200円(348×2000円+348×2000円×16/30),合計385万1200円となる。
ソ 原告ジェネオンエンタテインメント株式会社(以下「原告15」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル15の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は2万4000円(3×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は9200円(3×2000円+3×2000円×16/30),合計3万3200円となる。
タ 原告株式会社バーミリオンレコード(以下「原告16」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル16の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は266万円(332.5×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は101万9667円(332.5×2000円+332.5×2000円×16/30),合計367万9667円となる。
チ 原告エイベックス株式会社(以下「原告17」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル17の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は165万2000円(206.5×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は63万3267円(206.5×2000円+206.5×2000円×16/30),合計228万5267円となる。
ツ 原告株式会社プライエイド・レコーズ(以下「原告18」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル18の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は16万8000円(21×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は6万4400円(21×2000円+21×2000円×16/30),合計23万2400円となる。
テ 原告株式会社トライエム(以下「原告19」という。)に対する使用料相当額は,本件MP3ファイル19の送信可能化についての使用料として,平成13年11月ないし平成14年2月分の合計は1万6000円(2×2000円×4か月),同年3月分及び同年4月分の合計は6133円(2×2000円+2×2000円×16/30),合計2万2133円となる。
(5) 弁護士費用について
原告らが本件訴訟の提起及び追行を原告代理人らに委任したことは当裁判所に顕著であるところ,本件の使用料相当額についての認容額(合計3208万2268円),本件事案の難易度,審理の内容及び期間等本件に現れた一切の事情に照らすならば,被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては,原告1については4万2000円,原告2については27万9000円,原告3については47万円,原告4については3000円,原告5については28万1000円,原告6については96万9000円,原告7については23万3000円,原告8については1万5000円,原告9については24万4000円,原告10については4万7000円,原告11については17万1000円,原告12については53万4000円,原告13については9000円,原告14については57万8000円,原告15については5000円,原告16については55万2000円,原告17については34万3000円,原告18については3万5000円,原告19については3000円と認めるのが相当である。
(6) 過失相殺の可否について
被告らは,原告らには,本件損害の発生について以下のとおりの過失があるとして過失相殺の主張するが,以下のとおり,いずれも理由がない。
ア 被告らは,原告らが本件サービス開始時において,本件サービスを,本件各レコードをMP3形式にて複製した電子ファイルを無償で交換するためのサービスであると宣伝したと主張する。しかし,原告らが上記のような宣伝をした事実を認めるに足りる証拠はないから,被告らの上記主張は理由がない。
イ 被告らは,原告らが本件サービスを利用して本件各MP3ファイルを送信可能化等している利用者に対し,何ら警告を発していないと主張する。しかし,原告らには,本件サービスの利用者に対して,本件サービスにより本件各レコードの送信をしないよう警告する義務はないから,被告らの上記主張は失当である。
ウ 被告らは,原告らが,本件サービスによって著作権を侵害されている本件各レコードを特定して,これを被告エム・エム・オーに対して指摘しなかった点において原告らに過失があると主張する。しかし,被告エム・エム・オーは,本件中間判決で判示したとおり,自ら原告らの送信可能化権を侵害する行為を行っているのであり,被害を受けた立場の原告らが上記のような指摘をしないことをもって,過失があるとすることはできず,被告らの上記主張は理由がない。
エ 被告らは,原告らが被告エム・エム・オーに対して求めた内容は,被告エム・エム・オーが各利用者の共有フォルダに蔵置されている電子ファイルの内容を把握した上で,そのうち本件各レコードをMP3形式で複製した電子ファイルについて利用者間で送受信することを停止するというものであり,現実的な解決方法を示さなかった点において過失があると主張する。しかし,自ら本件サービスを提供して原告らの送信可能化権の侵害行為を行っている被告エム・エム・オーとしては,そのような侵害行為を避けるための解決方法を自らの責任において実施すべきであって,被害を受けた立場の原告らがその解決方法を示さなかったことをもって過失があるということはできないから,被告らの上記主張は,採用の限りではない。
(7) 以上により,原告らが被告らに対して請求することができる損害額は,(4)記載の使用料相当額と(5)記載の弁護士費用の合計額である別紙認容金額一覧表のA欄記載の金額となる。また,原告らは,上記金額の内,平成13年11月分から平成14年2月分までの損害額及び(5)記載の弁護士費用の合計額についてのみ遅延損害金を請求するので,その金額を算定すると同表B欄記載のとおりである。
4 よって,主文のとおり判決する。なお,原告らは,被告らに対して,本件各レコードがMP3形式で複製された電子ファイルの送受信を停止するに至るまでの損害をあわせて請求するが,前記のとおり,本件サービスは,平成14年4月16日に運営を停止していること及び弁論の全趣旨に照らし,将来給付に係る部分についてはその必要性を認めることはできない。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 榎戸道也 裁判官 佐野信)